冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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『望み』

 思っていたよりも、強い。

 それが、アーディの戦いを見ていた俺の感想である。

 

「ふっ……はっ!」

 

 動きは俊敏。敵の動きを防御するのではなく、基本的には回避。そして攻撃は悉く相手の急所、ないし腱。俺と同じく【敏捷】、【器用】型の動きだが、対人型に特化した動きに見られるのは彼女が【ガネーシャ・ファミリア】として怪物より人と戦う機会が多かったからだろう。

 そして、その実力は少なくとも複数体のミノタウロスに囲まれても問題なく対処出来る程度。

 Lv3中位から上位、と言ったところだろうか。

 

「よいしょ……っと!」

「ブモオオオォ………」

 

 剣が背後からミノタウロスの心臓(魔石)を貫き、断末魔を上げながら怪物は灰と化す。

 

「はい勝ち!」

「見事だ。義肢の調子も良好なようだな。これならば心置きなく深層に潜れる」

 

 いくつか落ちていた魔石を踏み砕き、先へ。

 現在の階層は既に16。この調子であればあと数十分も歩けば18階層まで辿り着くだろう。

 と、そこで。俺はずっと気になっていた事を聞くことにした。

 

「アーディ」

「どうしたの?」

「何故、お前は俺達の派閥に入ることにした?」

 

 足を止め、振り返る。

 アーディはきょとんとした顔で立っていた。

 

「えっと……テスカトリポカ様に誘われたからだけど……」

「そうではない。もう遅いとわかってはいるが、この際はっきり言ってしまう。お前は【テスカトリポカ・ファミリア】ではなく、【ガネーシャ・ファミリア】に居るべきだった」

 

 少なくとも、俺は心の底からそう思っている。

 それはそもそも【ガネーシャ・ファミリア】がオラリオの中でもトップクラスに優良な派閥であるというのもあるが、やはりその在り方が最も彼女に合っているのは【ガネーシャ・ファミリア】なのだ。

 

 人助けがしたい。みんなを幸せにしたい。誰もが笑っていられる世界にしたい。

 そんな彼女の望みを叶えるのに最も適しているのはやはり【ガネーシャ・ファミリア】であり、それは決して【テスカトリポカ・ファミリア】ではないのだ。

 

 勿論、彼女の存在が有り難くないわけではない。

 彼女の存在が【テスカトリポカ・ファミリア】の……ひいては俺の助けとなってくれるのは、火を見るよりも明らかだろう。

 しかしそれでも俺はこう言おう。

 

「お前は決して、【テスカトリポカ・ファミリア】に居るべきではない」

 

 この派閥で得られるものなど、戦士としての誉れ程度のものだ。

 そしてそれは、アーディの理想に最も不要であり、最も早急に排除されるべきものに違いなかった。

 

「もしお前がただ俺への恩義を返すためだけにこの派閥に居るのなら……悪い事は言わん。今すぐ地上に戻り、【ガネーシャ・ファミリア】の活動に従事しろ。テスカトリポカには俺から話をつけておく」

 

 何度でも言うが、アーディ・ヴァルマは【テスカトリポカ・ファミリア】に居るべきではないのだ。

 例え一度改宗(コンバージョン)し、しばらく【ガネーシャ・ファミリア】には戻れないとしても、【ガネーシャ・ファミリア】として都市の平和に貢献していた方が、きっと彼女にためになる。

 

「うーん……」

 

 そう思っての俺の言葉に、ポリポリと困ったようにアーディは頰を掻く。

 

「どうして私がテスカトリポカ様の話に乗ることに決めたのか、って話だよね」

「ああ、そうだ」

「……多分、優しさで言ってくれてるんだよね?」

「…………どっちだっていいだろう、そんな事は」

 

 出来る限り厳しく、冷たく言い放ったつもりであったと言うにも関わらず、そう言ってのける彼女に何だか心を透かされた気分になり、実に居た堪れない気分になる。

 ……アリーゼもたまにこういうところがあるが、こういうのは、少しだけ苦手だ。

 

「えっと、ありがとうね。私の事を考えてくれて。でも大丈夫、これは私が自分でちゃんと考えて決めた事だから」

「……なら、その理由を詳しく聞かせて欲しいところだな」

「うん、いいよ。でも、ずっと止まってるわけにもいかないし、進みながら話そっか」

 

 小さく頷き、再び前を向いて進み始める。

 

「……確かに、君への恩返しっていうところもあるよ。君のおかげで私は助かった。それは瓦礫の山の中から助け出してくれたこともそうだし……火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)の装備を呼びかけてくれたこともそう」

 

 ……確かに。

 彼女の命を救ったのは俺であるが、第一に彼女を自決装置の爆炎から守護したのはあの火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)であり、その装備を冒険者に求めるよう言ったのは確かに俺だ。

 となれば、俺は彼女の命を二度救った事になる。

 だが。

 

「だからどうした。ただそれだけだ。お前が普段からしていた事と何ら変わりはない」

「ううん、そんな事はないよ。君のおかげで助かったのは、きっと私だけじゃない。火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)に護られた人もそうだし……君の蒼炎(ほのお)に助けられた人もそう。何万人もの人が、きっと君に救われた」

「…………そうか」

 

 否定はしない。

 そんな事はないと謙遜してもいいが、その謙遜は俺以上に民衆の守護に尽力し、しかしそれでも多くを守る事ができなかった者達への侮辱にも繋がりかねないからだ。

 

「それでね? それで……ええと、憧れちゃったの」

「……何に」

「君に」

「…………」

 

 あまりの衝撃発言に、ピタリと足を止める。

 そしてゆっくりと後ろを振り返り、指をさして一言。

 

「……ショタコン?」

「違うよ!?」

 

 神々の言葉で『年端もいかない少年に興奮を覚える異常者』を意味する単語である。

 神々の間だけでなく我々人間の間でもかなり普遍的(メジャー)な性癖らしく、フィンなどの小人族(パルゥム)の事を『合法ショタ』として狙う連中も居るのだとか。

 尚、『オネショタ』との関連性は今のところ不明である。

 

 とまぁ、そんな具合に不名誉極まりない称号を戴く輩であるのかと問いかけてみれば、慌てた様子でアーディは否定する。

 

「えっと、憧れたって言うのはその、物語の英雄に抱く感じと言うか……ほら、『アルゴノゥト』とか、読んだ事ない!?」

「……まぁ、一通り読んだ事はあるが……」

 

 ヘルメスが無駄に大量に英雄譚を置いていったからな。

 共通語(コイネー)の習得の一環として、そういった話を読んでいた事はある。

 

「じゃあ、その……アルゴノゥトの活躍を見て、自分もこうなりたいな〜とか、思ったりしなかった?」

「いや? むしろ俺はコイツのようにはなりたくないと思ったが」

「えぇ!?」

 

 まぁ、うん。確かに恩恵も持たない身でミノタウロスに勝ったのは見事の一言に尽きる。

 だがその後普通に死んだっぽいのがいただけない。

 俺は冒険に打ち勝ち続けなければならないのだ。

 

「あー……えっと、その、うん。そうだね、そうかも……でも、ほら、ミノタウロスを倒したことは尊敬できるんでしょ?」

「それはそうだな。俺もあのような冒険をしたいものだ」

「だからそれと一緒で、私もたくさん人を助ける事ができた君を見て、私もそうなりたいなって思ったの」

「……ほう?」

 

 俺のように……か。

 

「……それはいいが、お前は暴力(こんなもの)、あまり好きではないだろう」

「うん、確かに無い方がいいのは確かだけど、そう上手くはいかないことも私はわかってる。強い力が人々を守るのを、私はちゃんと知ってる」

 

 ……それは、そうだろう。

 彼女はLv3だ。それはつまり最低でも二回、冒険を達成していると言うことでもある。

 そして元が【ガネーシャ・ファミリア】ともなれば。

 最終的に武力で、暴力で以て平和を維持する事が求められる派閥ならば。

 民衆を守護しているのが『巨大な暴力』であると、嫌でも理解させられるのだろう。

 

「君の剣と蒼炎(ほのお)なら、守りたい人を守れる。人々に希望を与えられる。私は、そんな君の『力』に憧れたの」

「……つまり、お前は『強くなりたい』からテスカトリポカの誘いに乗った、と?」

「うん」

 

 アーディは躊躇いなく頷く。

 

「そう、か……」

 

 納得は、できる。

 現状、最も『強くなる』事に主点を置いているのは我が派閥だ。

 そして今回の件を受けて、『守る』ためには『力』が必要だと彼女が感じたのならば、強くなるために彼女がこの派閥への入団を自ら希望しても、おかしい事ではない。

 

「……だが、それだけでは決め手になり得ない」

 

 強くなりたい。その願いは大いに結構。

 しかし、単に強くなるのであれば、それは地上だけでも十分なのだ。

『格上の冒険者』にボコボコにしてもらうだけで、一定以上の経験値(エクセリア)は手に入れられる。

 そして【ガネーシャ・ファミリア】にはシャクティを始めとした格上の冒険者がゴロゴロ居る。

 となれば、別に強くなりたいだけなら【テスカトリポカ・ファミリア】に入る必要は無いはずなのだ。

 

「彼女達も忙しいだろうが、頼み込めば少しくらいは時間を作ってくれると思うが」

「うん、私がお願いすれば、きっとそれをするだけの時間を作ってくれる」

「ならば────」

「でも、それだけじゃダメなの」

 

 アーディが俺の言葉を遮る。

 

「強くなりたいっていうのは確かにそうなんだけど。一番の理由は、今までの私じゃダメだって、変わらなくちゃいけないって思ったからなの」

「……今までのお前で、十分だと思うが」

「ううん、それじゃダメ。私が向こう見ずで無鉄砲だったから、みんなに迷惑をかけちゃった」

 

 アーディが義手をさする。

 

「お姉ちゃんにも、ガネーシャ様にも、【アストレア・ファミリア】のみんなにも……そして、君にも」

「迷惑など感じていない。それに、お前の行動は立派なものだったのだろうと思うが。そこがお前の良いところではないのか」

「……私も、そう思いたい。今までの私の行動は、どれも意味のあるものだったって。……でも、やっぱり思っちゃったの。今までの私じゃ、本物の悪意にはどうしようもないって」

 

 ……まぁ、一理ある。

 アーディは悪意への無知故にあのような被害を受けてしまった。

 それと、あの時。アーディは震えながら、悪意への強い恐怖を俺に訴えた。

 だからこそ、彼女はそれを克服しようとしているのだ。

 悍ましく、醜悪な事この上ない、人の悪意を。

 

「……だから、【テスカトリポカ・ファミリア】に……いや、()()()()()()、か」

「そうなる、のかな」

 

 強くなり、同時に悪意に対する知識を授ける。

【ガネーシャ・ファミリア】でも、出来ない事はないのだろう。

 だが、どちらもより高度な水準で行えるのが何処であるかと聞かれれば、間違いなく俺のところだ。

 アーディがそう望むのなら、俺は迷いなくアーディを叩きのめせる。俺は迷いなくアーディを死地に送り込める。俺は迷いなくアーディに悪意の限りをぶつける事ができる。

『強くなる事』と『人の悪意を学ぶ事』を最大効率で同時並行させるのなら、そのどちらに対しても躊躇いのない俺、か。

 

「……まぁ、いい。わかった。そういう事にしよう」

 

 理論的に考えて納得出来てしまった以上、俺はこれ以上この話を続けられない。

 俺個人としてはまだ彼女は【ガネーシャ・ファミリア】にいるべきだと思えてならないが、しかしアーディが望み、テスカトリポカがそれをよしとし、ガネーシャがそれを認めたのなら、俺はこれ以上口を挟むべきではないだろう。

 

「まぁ、それだけってわけじゃないけど」

 

 と、再び俺が進み始めようとしたところで、アーディはそんな事を言ってきた。

 

「……それは何だ?」

「えっとねー……こっちの方は説明が難しくて……」

「……?」

「うーんと、君が……」

 

 俺がか。

 

「寂しそうに見えた?」

 

 俺がか?

 

「うーん、違うよね……なんて言い表せばいいんだろう。寂しいってわけじゃないんだよね。苦しそう……っていうわけでもないし、悲しそう……ってわけでもなくて……辛そう? も違うか」

「……要領を得んな」

「うん、よくわかんないや! とにかく、君を放って置けないって思ったのも理由の一つってだけ!」

「……………………………まぁ、いい」

 

 先程までの重苦しい雰囲気は、もう無かった。

 もう難しい事を考えるのは、やめにする事にした。

 (シャクティ)やらエルフ(リュー)とかは、その都度考える事にしよう。うん。




Topic:カイ・グレイルの強み→有言実行できる
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