冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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道中。

 冒険者とは、実に逞しいものである。

 俺は目の前に広がる光景を目にして、そう思わざるにいられなかった。

 

「……出来てるね、リヴィラ」

「…………そうらしい」

 

 つい二日前、『大最悪』の影響によって、18階層は完全に焼き払われた。

 当然、聳え立つ大樹も、その根本に広がるリヴィラの町もだ。

 しかし、もう既にリヴィラが出来上がっている。

 

 大樹が復活していたり、灼熱の地獄のような様相を呈していた18階層が元通り緑に包まれていたりと、まぁそこは良い。迷宮の自動修復機能があの後すぐに復活させたのだろう。

 しかしもう既にリヴィラがほぼ完成している事に関しては全く納得出来ない。

 迷宮探索が解禁されたのはつい一日前である。そこから18階層までの移動やら資材の確保やら建築やら……色々あるはずだろうに。

 いくらリヴィラの町が何度も破壊され、作り直されて来たという歴史を持っているとは言え、この速度はあまりにも異常と言えるだろう。

 

「一体何が連中をここまで突き動かすのだ……」

 

 とは言うものの、俺は知っていた。

 何がここまで冒険者達を突き動かし、この一瞬の間にリヴィラを完成させたのかを。

 

 ……『それ』の事となれば、人が変わる者達がいた。

 闇の如く飲み込むような欲望と、万物を溶かし尽くすような熱で以て、己の命さえ投げ出し、人々は『それ』を追い求め続けた。

 無理を通し、道理を捻じ曲げ……ありとあらゆる手段でもって、『それ』を求めた。

 

 時として人間性すらも犠牲にして『それ』を求める者達の『果てしない欲求』に、人々は恐れ慄いた。

 そしてその『果てしない欲求』が自らを含む全ての者達に遍く備わっていると気付いた時、人々は畏れと戒めの意を持って、名を与えた。

 そう、その欲求の名こそ……

 

「…………『金銭欲』か」

 

 (ヴァリス)の概念が生み出した、最も悍ましく、最も度し難く、最も醜く……しかし、決して逃れることの出来ない呪縛。

『オラリオの冒険者』であるのなら、たとえ誰であろうと、絶対に、逃れる事は出来ないのだ。

 そう、今の俺たちの探索の目的が、『金稼ぎ』であるように。

 

 彼らと俺達は、根本的に同じなのである。

 俺たちが怪物の討伐という手段で以て『欲求』を満たそうとしているのに対し、彼らは同じ冒険への商売という形で『欲求』を満たしている。それだけの違いだ。

 

「まぁ、それが何だという話であるが」

 

 店を構え、今か今かと(カモ)を待つ冒険者諸君には金を落としてやれなくて申し訳ないが、今回はリヴィラに何の用もない。

 普通にスルーして大樹の迷宮に潜らせてもらおう。

 背嚢(バックパック)を背負い直し、遠くに聳える大樹の方へ。

 

「相変わらず、ここ(18階層)ってすっごく綺麗だよねぇ……」

「……そうだな」

 

 同意を返す。

 事実、俺もこの階層の景色は好きだ。

 輝く水晶と白く無機質な壁、そして瑞々しい自然の調和は、何とも壮大で漠然とした美と、得体の知れない安堵を人々に感じさせる。

迷宮の楽園(アンダーリゾート)』とはよく言ったものだろう。

 

「カイ君は、将来はこういう所に住んでみたいなとか、考えた事ある?」

「……無いな。そもそも、黒竜を倒した後の事は考えたこともない」

 

 アストレア神の質問を受けてようやくその事に気付いたはいいものの、その後が忙しすぎて考える余裕が一切無かった。

 というか今の質問で思い出すまで完全に忘れていた。

 

「だがまぁ、それが迷宮の外の、本当に長閑な場所ならば、俺がそこに腰を落ち着ける事はないだろう。俺が安寧を求める事はないだろうからな」

 

 俺はテスカトリポカの眷属であり、戦士だ。

 ともなれば死に場所は戦場になるだろう。それまでは戦いに明け暮れる日々だ。

 安らぎを得るのは、死んだ後でいい。

 

「そっかぁ……テスカトリポカ様のこと、大好きなんだね」

「……………………………………認めたくはないがな」

 

 いや本当に。認めたくはない。

 何が悲しくてあんな駄女神なんぞにとか思ったりもする。

 だが心も体も正直なのだから認めざるを得ない。

 

「お前もあの神には気をつけろ。気がついたら『持っていかれる』ぞ」

「自分の主神をそんな怪物みたいに言わないでもいいんじゃないかな?」

「そんな生易しいものではない。テスカトリポカに限った話ではないぞ。美の女神は怪物なんて比較にならない、もっと恐ろしい『何か』だ」

 

 神フレイヤと言い、テスカトリポカと言い……美の女神は本当の本当に恐ろしいのだ。

 あの一晩だけで、どれだけの心的外傷(トラウマ)を植え付けられたことか……

 この分だと神イシュタルも同類に違いあるまい。

 絶対に歓楽街には近寄ってやるものか。

 

「えー? でもテスカトリポカ様、すっごい優しかったよ? 確かにカイ君を襲ったのは事実かもしれないけど、それはただ下界の事をよくわからなかったからじゃないかな?」

「……否定はしない。お前が見ているのは確かにあの神の本質の一つだし、テスカトリポカはまだ下界に疎い。……だがテスカトリポカは幾つもの本質を併せ持つ。お前が眷属になった以上、あの神も容赦はしないだろう……気に入られているのなら、尚更だ」 

 

 女同士だからとか、そんなのはあの神にとって一切関係ない。

 あの神の判断基準はただ一つ、『自分が気に入っているか、そうでないか』でしかない。

 俺の見る限り、あの神は既にアーディを獲物と定めているようだ。

 警戒を怠れば、すぐにでも喰われて『おしまい』に……俺と同類になるだろう。

 

「私がちゃんとテスカトリポカ様にはお話したし、もう大丈夫だと思うけどなぁ?」

 

 思案顔を浮かべるアーディが、そんな事をほざく。

 お話と言うのは、あの時テスカトリポカにした説教の事を言っているのだろうが……あんなものでテスカトリポカが変わるわけなかろう。

 

「……どうなっても知らんぞ」

 

 ……しっかり伝える事は伝え、警告もした。

 これを無視してアーディがいつか【ガネーシャ・ファミリア】に戻るつもりだったのが、テスカトリポカのせいで戻れなくなってしまったとしても、俺は一切の責任を負わない。

 俺の同類と化し、そしてテスカトリポカの恐ろしさを噛み締めるがいいさ。

 

「って言うか、そう言えばカイ君ってフレイヤ様とも知り合いなんだよね?」

「……ここは迷宮だからいいが、地上でアレの話はするなよ。どこから捕捉されるかわからん」

「カイ君にとってフレイヤ様って一体何なの……?」

 

 性欲邪神。 

 色欲の化身。

 理不尽の権化。

 

「……もうそもそも美神の話をやめないか? 話していて怖気と寒気が止まらん」

「ええ……? えっとじゃあ……あ、新しい本拠地(ホーム)はどんなのがいい?」

「成程、いい話題だ」

 

 これならば俺の心的外傷(トラウマ)を刺激されることもないだろう。

 流石はアーディ。的確に良い話題を選んでくれる。

 

「そうだな……建物自体は小さくても良いが、広い庭が欲しい。理想は『戦いの野(フォールクヴァング)』だ……とは言え、そこまで大きく無くともいいが」

 

 オッタルの【ヒルディス・ヴィーニ】を問題なく放てるレベルであるのなら何の文句もない。

 大体3〜40M(メドル)四方くらいだろうか?

 

「そんなに広い庭を使ってどうするの? やっぱり訓練?」

「ああ。その通りだ」

 

 今後団員が増えるとして、団員を鍛えるために最も効率的なのはなのは格上との()()()()()()戦闘だ。

 全力であるのだから、出し惜しみなどあり得ない。

 魔法も、スキルも、あらゆる全てを用いて戦わなければ意味がない。

 であるのなら、全力で魔法を使っても問題ないだけの空間が必要だ。

 

「その点『戦いの野(フォールクヴァング)』は本当に素晴らしい。あれ程までに冒険者同士の戦闘に適した本拠地(ホーム)はあそこ程度のものだ」

「えと、『戦いの野(フォールクヴァング)』って【フレイヤ・ファミリア】の……だよね? カイ君ってフレイヤ様のこと嫌いなんじゃあ……」

「フレイヤのことが嫌いなだけであって【フレイヤ・ファミリア】が嫌いなわけではないぞ」

 

 オッタルはなんかいつの間にか仲良くなった感じがあるし、何よりヘディンを筆頭として、あそこの派閥のエルフはある程度話が通じるのがいい。

 どこぞの【ロキ・ファミリア】とは大違いだ。

 

「まぁそこは別にいいだろう。そんな事よりお前は新しい本拠地(ホーム)に何が欲しい?」

「私? 私はね、お風呂!」

「オフロ?」

 

 何だったかそれは。

 いや覚えていたはずなのだが、ド忘れしている。

 

「浴槽っていうのにお湯を張って、その中に入るの。すっごく気持ちいいんだよ!」

「……ああ、思い出した。『星屑の庭』にあったやつだ」

「入ったことあるんだ?」

「無理やり入れられただけだ」

 

 出来ればもう二度と使いたくない。

 いやまぁ確かに気持ちいいし使うのはいいのだが、別の匂いになってテスカトリポカが不機嫌になるからだ。

 

「しかし、どうやって作るんだ?」

「えっと……ちょっと大掛かりな魔石製品とかを使って、自分でお湯を沸かすの。大きさは……バベルの昇降板(エレベーター)くらい?」

「ふむ……成程な。テスカトリポカが気にいるか分からんが、まぁアーディが個人的に使う分でも全然問題はないだろう。具体的にはどのくらいかかりそうだ?」

「え? 何百万ヴァリスとかあれば全然足りると思うけど……」

「なら庭と合わせて1億もあれば足りるか」

 

 実際には数千万程度なのだろうが、金の余裕はあるに越した事はない。

 

「深層に二日三日も潜って背嚢(バックパック)を満杯にすれば今回の探索だけでも2、3千万ヴァリスにはなるな。戦利品(ドロップアイテム)だけに絞れば5千万も見えるだろうが……」

「さ、流石に初回だし、そこまではやらなくていいんじゃないかな……?」

「……であれば、普通に魔石も集めよう」

「そういう事じゃないんだけどなー……まぁ、うん。そっか。これが普通になるんだもんね。頑張らなくちゃ」

 

 何やらアーディも決意を新たにすることが出来たようだ。

 さて、気合を入れて行こう。

 




Topic:一方その頃、神々は死屍累々の惨憺たる有様であったが、そのおかげで【ヘルメス・ファミリア】は実に120時間ぶりの睡眠を取ることが出来ていた。
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