冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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深層探索

 深層。37階層より始まるそこはギルドの定める真の死線(トゥルー・デッドライン)

 適正Lvは4であるが、それも能力値(アビリティ)はD以上。

 更にはたとえLv5以上であっても単独(ソロ)での探索は極めて危険とされ、複数人でのパーティが前提である。

 

 ……ただ、実際のところ、俺から言わせて貰えば、ただ深層を探索するだけならばこれだけの戦力は必要ない。

 Lv4であるという時点で、油断さえしなければこの階層の怪物には囲まれても勝てる。

 だが、しかし何故ギルドがここまでの戦力を要求しているのかと言えば、それは『心の余裕』を作るためだろう。

 

 この階層から、迷宮の雰囲気が()()()

 36階層以前のそれとは比べ物にならないほど、重いのだ。

 本能的恐怖と言えばいいのだろうか、人が人である以上、絶対的に感じるような恐怖。

 それをもたらす重圧が、この階層以降には充満しているのだ。

 

 心の余裕が無ければ、たとえ十分な実力があろうと張り詰めすぎて自滅する。

 単独(ソロ)での探索が危険とされるのは、この重圧が原因だろう。

 故に『心の余裕』を、『頼れる仲間』という心の拠り所を用意する必要があったのだ。

 

 まぁ、その辺は既にLv4の段階で37階層を単独(ソロ)でほぼ踏破している俺にとってはもう全く関係のない話ではあるのだが……しかし。

 

「ひぇぇ……また来ちゃったよぅ……正直もう二度と来たくなかったのに……」

 

 アーディにとってはそうでは無かったらしい。

 先程までは気丈に振舞っていたというのに、この階層へと下っていく途中から怖気付き、最終的にこんな風になってしまった。

 それ程までにこの階層が恐ろしいという事だろう。

 まぁ、かくいう俺も、恐怖を感じずにはいられないが。

 

「か、カイ君カイ君、もっと蒼炎(ほのお)強くして、明るくしてぇ……」

「揺するな揺するな……元よりそうするつもりだ」

 

 アーディの要望に応え、蒼炎(ほのお)をより強くする。

 実際、この階層が『怖い』理由として重圧の他にこの不気味な暗さも挙げられるだろう。

 それ以前の階層が水晶などの影響によってかなり明るかった分、尚更だ。

 

「うぅ……ご、ごめんねカイ君……こ、こんなのじゃダメだよね……! 私も、頑張らなくちゃ……!」

 

 と、アーディが俺から離れ、気合を新たにした瞬間。

 遠くの方から、怪物の鳴き声が響いて来た。

 

「きゃああっ!?」

「……」

 

 アーディが情けない悲鳴を上げて俺に抱きつく。

 あまりにも早すぎる。先程の気合いは何だったのだろうか。

 

「……か、カイくぅん……怖いよぉ……も、もうちょっと上の階層にしない……? ほら、竜女(ヴィーヴル)の宝玉とか、取れれば一発だよ……?」

「……まぁ竜女(ヴィーヴル)の宝玉が取れれば一発というのは確かだが……」

 

 綺麗に取れれば約1億ヴァリス。

 現在の目標金額だ。

 そう考えると前に【ロキ・ファミリア】に献上するつもりだった物が元の本拠地(ホーム)と一緒に粉砕されてしまったのは本当に痛かった。

 アレさえあればここまで金に苦労する事もなかっただろうに。

 一応前と同じやり方でやればまた綺麗な宝玉は入手できそうだが……

 

「……それでも賭けの要素が強すぎるし、この階層に慣れなければならないのも確かだろう。行くぞ、アーディ。いざとなれば俺が何とかするから、お前も戦え」

「う、うぅう……わ、わかったよぅ……」

 

 すっかりと怯え切ってしまったアーディを引き連れ、遭遇(エンカウント)を求めて37階層を突き進んでゆく。

 フィンからもらった地図(マップ)を頼りに数分間迷宮を練り歩き、ようやく一体の怪物が現れた。

 

『カタカタカタカタ…………』

 

 羊の骸骨に黒い皮を被せたような、不気味な骸骨(スケルトン)系怪物。

『スカル・シープ』である。

 

「う、うわぁあ……」

「よし行けアーディ。敵は一体しかいない。好機(チャンス)だ」

「え、えぇ……!?」

 

 無理だよ、と。

 怯え、揺れる瞳が俺に訴えかける。

 だが、そんな事は無いと俺は断言しよう。

 ただでさえ高いアーディの能力値(アビリティ)に加え、更には俺の蒼炎(ほのお)の影響で『スカル・シープ』は最大の強みである暗闇への隠蔽(カモフラージュ)が使えない。

 完全にこちらに有利な環境。勝てないわけがない。

 

「お前ならいける。俺を信じろ」

「う、うぅ……!」

 

 俺に押され、おっかなびっくり剣を抜いて『スカル・シープ』に相対するアーディ。

 未だに剣先が震えていたが、しかし剣を構えた瞬間その震えはおさまった。

 いくら恐怖に支配されていようと、冒険者としての所作は体が覚えているのだ。

 

「い、行くよ……ッ!?」

『!!』

 

 そうして『スカル・シープ』との戦闘が始まったわけであるが……

 何の面白みもなく普通にアーディの圧勝であった。

『スカル・シープ』の攻撃は容易くアーディに避けられ、逆にアーディの攻撃を『スカル・シープ』は避けられない。

 数度の一方的な攻防の果て、アーディの剣閃をまともに喰らい、魔石を残して『スカル・シープ』が灰と化す。

 

「あ、あれ? 意外と呆気ない……」

「まぁ、明るいしな」

 

『スカル・シープ』の一番の強みである暗闇への隠蔽(カモフラージュ)が消え、常に丸見えの状態だったのだから、当然だろう。

 数多くの冒険者を屠ってきたとされる『骨の杭突(パイル)』だって、死角でもなんでもない場所から見えている状態で放たれても何も怖くない。

 アーディには悪いが、圧勝して当然の勝負だったのだ、これは。

 

「……何だか自信が出てきたかも」

 

 しかし、アーディにとってこの戦いは大きな意味があったようだ。

 実際、勝利経験が一つでもあるのなら、その敵に対する恐怖心は薄まるというもの。

 それが楽勝であったのならば、尚更だ。

 

「その意気だ。次行くぞ」

「う、うん……!」

 

 魔石を回収し、少なくとも先ほどよりはスムーズに37階層を歩く。

 

「……じ、自信がついたのは良いけど、まだ慣れないなぁ……」

「そういうものだろう。しばらくはそのままでいい。Lv4にでもなった頃にはすっかり慣れ切っているはずだ」

「カイ君の方はどうしてそんなに慣れてるの……?」

「今までこんなのより圧倒的に恐ろしい連中と戦ってたからだろう」

 

 アレン(Lv5)とかオッタル(元Lv6)とかザルド(Lv7)とかアルフィア(Lv7)とか。

 まぁ、それとこれとは色々な部分で話が違うのだろうが……

 何にせよ、より強い恐怖が俺の恐怖を抑えつけているのは確かだ。

 

「うーん……相変わらず凄いなぁ……私もカイ君と戦ったら少しはマシになるのかなぁ……」

「安心しろ。新しい本拠地(ホーム)が出来たら嫌と言うほど叩きのめしてやる」

「……喜ぶところ、だよね?」

「ああ」

 

 逆にこれを喜ばずして何を喜ぶと言うのか。

 命の危機がほぼ無い状態で経験値稼ぎ(レベリング)が出来るんだぞ。最高だろう。

 

「わ、わーい……」

「………………」

 

 ぎこちないが……まぁいい。

 

「っと」

「あ」

 

 37階層に幾つもある階段の一つを上り切ったその先に現れたのは、人骨。

 当然ながら、ただの人骨であるわけもない。人骨にしてはあまりにも歪で、悍ましく……そしてそれは、動いていた。

 即ち、怪物(モンスター)

 

 骨の天然武器(ネイチャーウエポン)を携えたその骸骨(スケルトン)は、希少種(レアモンスター)を除けば37階層において最強の白兵戦能力を持ち、推定Lvは3後半とされるが、時として真っ向からLv4をも破る、『スパルトイ』に相違ない。

 それが、一気に5体。

 

「……流石にお前には荷が重いな」

「う、うん……カイ君が全部倒してくれていいんだよ?」

「1体まで減らしてやろう」

「全部倒してくれてもいいんだけどな!?」

 

 そんなこと許すわけがないだろうに。

 強くなりたいのであれば、変わりたいのであれば冒険をしなくては。

 人型だし、実力的にも丁度いい相手だろうよ。

 

「ふんっ!」

『!?』

 

 蒼炎(ほのお)の加速と共に放たれた俺の一刀に、最も手前に居たスパルトイは反応すら許されずその頭蓋を粉砕される。

 が、流石は37階層最上位の白兵戦能力保持者。

 2体目の撃破までは許さず、きっちりと手にした天然武器(ネイチャーウエポン)で防いで来る。

 

 が、それがどうしたと言う話である。

 

『!!?』

 

 剣を持っていない左手で放たれた蒼炎矢(ファイアボルト)が、剣に意識を向けていた『スパルトイ』の頭蓋を吹き飛ばす。

 そしてそのまま俺に攻撃を仕掛けようとしていた他の『スパルトイ』にも蒼炎矢(ファイアボルト)を連射。

 3体目、4体目を処理。これで残り1体だ。

 

「さぁ、出番だぞアーディ!」

「早すぎっ!? わ、わかったようっ!?」

 

 バックステップでアーディの後ろまで下がると、アーディは剣を構えて『スパルトイ』に突貫してゆく。

 今回は先程の『スカル・シープ』とは違い、いい勝負だ。

 互角と言ってもいい。

 

「っ!」

『!!』

「……ふむ」

 

 一進一退の攻防が続く。

 見たところ、あの『スパルトイ』は【力】と【耐久】に振った戦士型。

 そしてその中でも剣だけではなく盾もフルに使う、長期戦型らしい。

 

 アーディは軽い身のこなしで攻撃を避け、『スパルトイ』は盾と剣で攻撃を凌ぐ。

 今の所、互いに相手の攻撃は一度もまともに喰らっていない。

 しかしどちらかが一撃でも喰らわせたその瞬間、勝負は決するだろう。

 

「くっ!」

『!』

 

 そして、恐らくそれはアーディの方だ。

 大きいのはやはり体力の差。

 そもそも相手が疲れ知らずのモンスターである事は元より、彼女はここ数日間まともに動いておらず体力が低下している。

 更には慣れない義肢もそうだ。あれが文字通り足を引っ張り、思い通りの動きをさせてくれず、体力の消耗は増すばかり。

 アーディが勝つには、この状況を打開する一手が必要になる。

 

「……ふむ」

 

 やはり丁度いい相手だったらしい。

 丁度いい冒険の相手だ。

 さぁ、どうするアーディ、ここからどうやって勝つ────?

 

「!」

「ほう!」

 

 瞬間、アーディは剣を初めて()()()

 自らの剣で、ではない。

 そう、不壊属性(デュランダル)と化した新たな義手(うで)で、だ。

 

『!?』

 

 意図していない硬度に、『スパルトイ』の剣が弾かれる。

 そしてそこへ、予め準備していた突きを『スパルトイ』の無防備な頭蓋へと繰り出した。

 

『!!!!』

 

 剣が貫通する。

『スパルトイ』の体から力が抜け、そして即座に灰と化した。

 足元に、ごろりと魔石が転がる。

 

「……ハァッ……ハァッ……やった!」

「ああ。素晴らしいな。よく機転を利かせた」

「ずっとやろうと思ってたんだよね、これ! ……ちょっと付け根が痛いけど」

「む」

 

 アーディが服の上から義手の付け根であろう部分をさする。

 それもそうだ。

 義手は不壊属性(デュランダル)でも、体は不壊属性(デュランダル)ではない。

 どうやら衝撃がそのまま生身の体に来たようだ。

 

「ならば、あまり力の強い相手には使えんな。いい教訓になった」

「うん、そうだね……っと、はぁあ……何だかドッと疲れちゃった」

「まだまだ終わらんぞ。だがまぁ、そうだな。怪物どもはしばらくは俺が相手してやる」

「ホントに!?」

「しばらくは、な。回復したらまた相手してもらう」

 

 何をどう間違っても絶対に甘やかすような真似はしてやらんからな。

【テスカトリポカ・ファミリア】の一員になり、自ら強くなりたいと願った以上、本気の本気で鍛え上げてやる。

 テスカトリポカも怖いが、俺も別方向に怖いと言うことをその身に刻みつけてやる。




Topic:現時点での金策の最高効率は『竜の壺』の周回。
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