冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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全身鎧(フルアーマー)

 37階層。真の死線(トゥルー・デッドライン)

 その広間(ルーム)の一室。壁を傷つけ、一先ずの安全が確保されたその空間で、俺とアーディは休憩をしていた。

 

「……」

 

 この深層に降りてから三日。この三日間、俺たちはひたすら闘技場(コロシアム)に籠っていた。

 理由は単純、剣の消費を抑えるためだ。

乱斬連打(スキル)』の都合上、俺の剣は戦闘が終了すれば折れるが、逆説的に言えば戦闘が終了さえしなければ剣は折れない。

 故にこそ戦闘の途切れない闘技場(コロシアム)は、連戦による疲労などの影響が少ないどころか逆に強化にさえなる俺にとって、うってつけの領域と言えた。

 

 しかし、アーディにとってはそうでない。

 俺の魔改造(荒療治)によってある程度戦えるようになっていて、危ない場面も俺が出来る限りフォローはするものの、アーディにとって闘技場(コロシアム)の環境はあまりにも過酷。

 数時間おきにこうした休憩を挟まなければならず、そしてその度に剣の残りは無くなっていった。

 ……まぁ、俺もいくら『激戦熱闘(スキル)』があって疲労を感じないとは言え、飯は食わなければならない以上、アーディが居なくとも休憩はとっていたのだろうが。

 

 何はともあれ、そんな具合で休憩を取る度に剣は消費されてゆく。

 先日購入した剣3本は既に消費され、残りの剣はエルマーの打った最後の3振りのみ。

 つまり、次の休憩で俺達は一旦地上へ戻り、補給を行う事になる。

 

 まぁ少なくとも稼ぎは一千万ヴァリスを超えていると思うので、借金はこれで返済出来ることだろうし、エルマーの試作品も完成していることだろう。

 はてさて、一体どんな仕上がりになっているのだろうか。今から既に楽しみである。

 

「ところで、ちょっと気になったんだけど」

「ん?」

 

 と、そんな思いを胸に、アーディと見張りを交代して仮眠に入ろうとすると、何やらアーディが俺に注目していた。

 

「……何だ。何か気になる事でもあったか」

「うん、えっと、本当に今更なんだけど……カイくんってさ、何で鎧なの?」

「本当に今更だな」

 

 約一ヶ月前に会った時から、ずっと全身鎧(フルアーマー)だぞ、俺は。

 まぁ諸々の事情を考えて、兜だけは着けていないが。

 

「最初に会った時からずっとそれだったから、あんまり気にならなかったんだけど……でも正直なところさ、()()()()()()? それ」

「……まぁ、言わんとすることは理解できるがな」

 

 まず、大前提として。

 このオラリオの冒険者の大半は、全身鎧(フルアーマー)を好まない。

 大半の冒険者がダンジョンアタックにあたって戦闘衣(バトル・クロス)のみを着用し、その中で一部の冒険者が軽防具(ライトアーマー)や部分鎧を着用するのみ。

 全身鎧(フルアーマー)を着用する者は、それこそ周囲から好奇の視線を向けられてしまう程には少ない。

 

 しかし当然、それには理由がある。

 というのも、理論を突き詰めていくと、『冒険者が全身鎧(フルアーマー)を装着するのは、非効率極まりない』という結論に落ち着いてしまうのだ。

 

 その結論に辿り着くための全身鎧(フルアーマー)が抱える問題点は以下の通り。

『金額』、『防御力』、『機動力』、『体力』、『ダンジョン』、そして『冒険者』である。

 

 まず『金額』であるが、これは『防御力』とも併せて語るべきだろう。

 そもそもの話、『何故人間は鎧を着るのか?』となればそれは単純、外からの攻撃から身を守るためである。

 となれば当然、冒険者達が鎧を着るのも攻撃から身を守るためであるが、ではその攻撃をして来る相手は誰かとなれば、それはもちろん怪物共になる。

 

 実に当然な話だが、怪物達の膂力は人間のそれとは比べ物にならない。

 名前に小の入っている小竜(インファント・ドラゴン)ですら、並の人間より遥かに大きいわけで。それが階層主ともなると、比べるのも烏滸がましい程のサイズさがあり……当然、その巨体に見合った質量と攻撃力を備えるわけである。

 

 このような怪物共の攻撃に、鎧が耐えられるわけもない。

 アルミラージの攻撃ですら鉄の鎧に簡単に穴が開くのだ。

 小竜(インファント・ドラゴン)の爪牙なんて受けようものなら、鉄の鎧であれば紙のように引き裂かれ、貫かれるであろう。

 

 となれば、そんな状況に対抗するためには、鎧の強度を上げなければならないわけだが。

 当然、それには相応の金がかかる。

 良い素材、良い鍛冶師、良いデザイン。これらを揃えようとすれば、それこそ眩暈のするような額の金が飛ぶ。

 武器に比べて、圧倒的に手間も材料もかかるのだから、当然と言えば当然である。

 俺の今着ている蒼流星(ブルーミーティア)も、特殊武装(スペリオルズ)である事を加味したとしても同じ最硬金属(アダマンタイト)製の武器に比べれば圧倒的に高価だ。

 

 そして、並の冒険者にそんな高価な物を買うだけの余裕は無いし……仮にあったとしても、買うことはないだろう。

 

 例を挙げてみよう。

 安全のために全身鎧を欲しがる冒険者が居て、しかしそれを買うだけの余裕がなかったとする。

 だから彼は危険を承知で深い階層に潜って、より多くの稼ぎと経験値(エクセリア)を得て、欲しかった鎧が買えるだけの余裕を持つ事ができた。

 しかし悲しい事に。その鎧は既にその冒険者が現在探索している階層には相応しく無くなっていて、安全を手に入れるには更に高価な鎧を手に入れる必要があった。

 

 ……とまぁ、つまりこう言う事である。

 冒険者が鎧を欲しがったところで、その階層に適切な全身鎧はまず買えないのだ。

 

 次に、『機動力』と『体力』。

 まぁこれらは読んで字の如くである。

 

 全身鎧を着れば、当然動きは鈍重になる。

 まぁ、俺やザルドのように、ある程度まで位階を上げれば鎧の重量など完全に無視できるわけであるが、低級冒険者にはそうも言えない。

 

 ダンジョン内を移動するにも、怪物と戦うにも、より多くの時間と必要以上の体力を消耗する事になるし、休憩するにも重い鎧を着けたままではまともに休息が取れない。

 横になろうにも金属の鎧が邪魔で邪魔で仕方が無い。

 結果、全身鎧が死ぬほど探索の足を引っ張る事になる。

 

 ……まぁ、慣れるかレベルを上げれば全然平気になる話なのだが、それはそれ。

 

 3つ目に『ダンジョン』だ。

 ダンジョンは非常に広大であり、内部には様々な環境が広がっているわけである。

 その中には洞窟のような場所もあれば、密林のような場所、18階層のような幻想的な場所もあるわけだが、その中には当然、全身鎧が適さない環境が多分に含まれる。

 

 例えば中層の『大樹の迷宮』では、全身鎧を着けて罠にかかるとまず対処できなくて死ぬ。

 落とし穴なんかは最悪だ。上がれなくて死ぬ。

 下層の『水の迷都(みやこ)』では、全身鎧を着けて落ちればまず上がれなくて死ぬし、鎧の材質によっては湿気で錆びる。

 同じく下層の『砂漠の迷園(サンド・ランド)』では鎧が熱くなりすぎて死ぬ。またそうでなくとも流砂に足を取られれば抜け出す手段を用意していない限り死ぬ。

 

 ……とまぁ、これらの環境的作用に対して圧倒的に無力なのが全身鎧(フルアーマー)なのである。

 だからこそ、これらの階層に降りて来ることが出来るような冒険者達ほど環境の変化に対応しやすい戦闘衣(バトル・クロス)や部分鎧を用いるわけだ。

 

 ちなみに上記の環境的作用であるが、それもやはり俺やザルドのような、位階の高い冒険者なら普通に無視できる。俺の場合は蒼炎もあるので尚更だ。

 

 で、最後に『冒険者』であるが……

 ぶっちゃけると、一定以上の位階にまで達した冒険者は【耐久(まもり)】の方が鎧より堅いし、普通に敵の攻撃を避けれちゃうので、無駄に出費だけ嵩む全身鎧(フルアーマー)とか要らないのである。

 フィンやオッタルが軽装なのも、つまりはそう言うことだ。

 

 その辺の話で言えば、特に【イシュタル・ファミリア】の誇る戦闘娼婦(バーベラ)なんかはその最たるものと言えるだろう。

 ほぼ裸同然の格好で戦っておきながら、それで防御力が不足しない程に、冒険者の【耐久】のステイタスは凄まじい。

 肌についた傷やその痕も、冒険者の治癒力なら水薬(ポーション)やら治癒魔法やらを使用すれば綺麗さっぱり消えて無くなってしまうというのも、軽装化に拍車をかけていると言える。

 

 そんなわけで、これらの話を総括すると、『全身鎧(フルアーマー)は一定の活躍を示しそうではあるが、低級冒険者には手が届かないくせに上級冒険者にとっては無用の長物で、費用対効果が悪いし、着けてるとダンジョンに殺されるしと、ダンジョン探索に不向きな代物』と言う事になる。

 つまりは、『邪魔』と言う事だ。

 

 だからこそ、アーディは俺に聞いたのだろう。

 何で鎧なの? と。

 その疑問は、冒険者として至極真っ当なものである。

 

「……だが、俺にとって全身鎧(フルアーマー)は必要な物なのだ」

「何か理由があるの?」

「そりゃあな」

 

 でも無ければ、全身鎧(フルアーマー)の非効率さを理解しながらも着用を続けたりはしない。

 

全身鎧(フルアーマー)が無ければ、俺は父親に一万回は殺されていた」

「へー…………え?」

 

 そう、そうだ。

 俺は全身鎧(フルアーマー)を着込んでいたからこそ、生きていられた。

 

全身鎧(フルアーマー)を上手く使えば、脚の骨が折れても歩ける。全身鎧(フルアーマー)を着ていれば、肩や腕の骨が折れても盾として使える。全身鎧(フルアーマー)を支えにすれば、立って警戒を保ったまま眠れる」

 

 それができなければ、俺の首は無くなっていたし、四肢も無くなっていた。

 それが出来たから、俺は生きてこのオラリオに居る。

 それをやり切ったから、父親は俺に願いを託した。

 

「要するに、全身鎧(フルアーマー)は俺の生きるために必要な道具なわけだ。だから俺は今でもこうして全身鎧(フルアーマー)を着込んでいるし、今後も着る事になるだろう」

 

 そういうわけだ、と。

 話を切って、俺は眠りに就く。

 座って眠りに就ける事の、何と幸福な事だろう。




Topic:カイをこの状態にまで軌道修正できたヘルメスはマジで褒められて良い。尚それ以外。
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