「歩きながら話そうか」
レオンからの提案を受け入れ、俺達は並び立って中央の巨塔、『
するとただ普通に歩いているつもりなのだが、周囲の生徒たちは顔を青ざめさせてしまった。
……いかんな、ついつい殺気が漏れてしまう。反省しなくては。
と、自分の未熟さを反省しつつ、ふと隣を見てみれば。
「…………」
どうやらウズウズしてたまらないのは向こうも同じらしい。
辛うじて表面には出さず、時々教鞭に手が伸びそうになるのを抑えている程度に留めているのは、教師としての矜持か、あるいは騎士としての意地か。
まぁ、どちらでもいい。
どんな形になろうが、少なくともこの旅の目的は果たせそうだ。
「どうだ、【
「……どう、と聞かれてもな。『すごい』、『でかい』とかのありきたりな感想しか出んぞ」
「ははっ、いきなり聞かれても困るか。まだ来て数分程度しか経っていないしな」
「そうだな」
その他に思わないことがないでもないが。
「…………そういえば、ちゃんと自己紹介をしていなかったな」
「まぁ、そうだったな」
「レオン・ヴァーデンベルクだ。ここで教師をやっている」
「カイ・グレイル。オラリオの冒険者だ。お前と会えるのを楽しみにしていた」
「ああ……『俺』もだ」
見物していた生徒たちがより一層顔を青白くして、体を縮こまらせる。
しかしそれでも退散しようとしないのは、単に恐怖で動けないだけなのか、それとも変な野次馬根性か。
……まぁ、俺が言うのも何だが、両方とも美形ではあるからな。この構図が絵にはなっている自信がある。俺は未だ幼さの残る発展途上だが。
「……俺のことは、知っているらしい」
「ああ、君はここでも有名だ。何てったって、前代未聞の超速
「いや、問題ない。流石にここでは、新しい外の情報は入らないだろう」
「そうだな。世界中の知識や情報を満遍なく、高度な水準で保有する『学区』だが……船という性質上、そこだけはどうしてもな」
俺のような飛行能力者が他にも多数いたり、或いは海上でも問題なく情報をやり取りできる機構でもあれば、その弱点もすぐに消えてなくなるのだろうが。
しかしまぁ、無理な話だろう。
「……それで。オラリオの現状については把握しているか」
「いいや、サッパリだ。つい数日ほど前まで寄港した港で、何やら大変らしいという噂を聞きつけ、こうして急遽計画と航路を変更。オラリオに向かっているわけだが……」
「
「何だって……? それは本当か?」
俺の言葉に、レオンが目を見開いて驚きを表す。
周辺に生徒の影はない。そのあたりはちゃんと見計らってこの話を口にした。
「いったい何が起きた? オッタルや……フィン達もいただろう」
「そのあたりは後で詳しく話すが……Lv7が2枚、来襲した。ついでにLv5枚が3枚だ」
「後者は……【
「そうだ。良く分かるな。流石は教師か」
「……前者は」
「そこは後で話す。どうせバルドル神にも聞かせるのだろう。二度手間は嫌いだ」
そう言って、俺は歩く速度を高める。
周囲に気を使いながら話すのも、面倒なのだ。
そうして歩き続けて数分ほど。
『
「初めましてですね、カイ・グレイル。まさかこのような場所で、貴方と会うことになろうとは思ってもいませんでした」
「あぁ、俺も想定外だったが……幸運でもあった。貴重な機会だ。是非とも有効に活用させていただく」
「それはこちらとしても同じ事です。よろしくお願いします」
バルドル神は、何とも線の細い神であった。
何なら
俺の知っている男神の中ではトップクラス……というか、一番細い。
その美貌も相まって、女神と見間違う人物も決して少なくはないだろう。
……が。なんて言うのだろうか……こう言ってしまうとかなり、いや滅茶苦茶失礼になってしまう気がするのだが……
「気を悪くしたら申し訳ないが……ヘルメスの知り合いか?」
「おや、ヘルメスとは交流が?」
「一応、俺が初めて会った神……という事になる。かつて俺と父が外界の情報を仕入れていたのは、専らヘルメスからだった」
母が死んだと言う情報も、ヘルメスからもたらされたものだ。
それ以外は、本当に閉じられた土地だったからな、あそこは。
「成程……となると、やはり君のご両親は……」
「まぁ、想像の通りだろう。両者とも第一級冒険者で、母に至っては
「そうか……やはり……」
あの様子では、方々で恨みを買っていそうだったからな。
妥当な判断だったと言えるだろう。
……ギルドには黙っていたっぽいが。
「まぁ、俺の両親について色々と思う事はあるだろうが……まずは俺の仕事を果たさせて貰うとしよう。これがギルド長ロイマンからの書状だ。確認してくれ」
「はい、確かに受け取りました。早速、拝見させていただきます」
バルドル神が机の上に書状を広げる。
トネリコを素材とした、上等な机だ。
「……ふむ、成程。把握しました」
「早いな」
「えぇ、まぁ、伊達に長生きはしてませんよ。……それで内容としましては、復興のための建材も人手も足りないから、各港に寄港してかき集めて来い、というものですね」
「できるか」
「勿論です。レオン、悪いのですが最寄りの港へ寄港するよう『
「了解しました。
と、そう言って部屋を出たレオンは、本当に数十秒もしないうちに帰って来た。
まぁ、Lv7だしな。そのくらいはできて当然か。
何なら行きには持っていなかったはずの剣までちゃっかり装備している辺り、完全にやる気である。非常にありがたい事だ。
「すみません、遅くなりました。……それで、話はどこまで?」
「どこまでも進んでいないぞ。何なら話すらしていない」
「彼と会う事をずっと楽しみにしていた事は知っています。私も神ではありますが、流石にそこまで意地悪ではありませんよ、レオン」
「そうですか……」
やはり表情にこそ出さないが、内心でほうと安堵している事が見て取れる。
この人アレだな? さては結構分かりやすいな?
いや、この場合
「さて……それでは、どこから話していただきましょうか」
「では、まずはオラリオで起きた事について、俺が覚えている限り説明させていただこう」
「そうですね。それでお願いします」
バルドル神に促され、まず俺が説明するのはオラリオの被害状況。
先程レオンに伝えたものに、より詳細な情報を付け加えたものだ。
「……成程。それは確かに、足りなくなるでしょうね。色々と」
「その通りだ。彼らも出来る限りの復興は自力で行なっているが……公共設備となると、どうしても専用の技師が必要らしくてな。冒険者達も動けないのが多すぎて……魔石の供給が追いついていない。とにかく人手が足りん」
「そのようですね。……ただ解せないのは、それだけの被害が出た理由ですね。オラリオは冒険者の都、かの【
「色々と理由はあるが……デカいのはLv7が2枚、Lv5が3枚出た事だろう」
「というと?」
「ディース姉妹に加え、【
「「!」」
バルドル神とレオンが目を見開き、驚きを露わにする。
仕方のない事だろう。何せ、三大
彼と彼女が最前線で活躍していた時期にオラリオにいたらしい彼らにしてみれば、聞き捨てならない話だろう。
「……そうですか。あの二人が……」
「あの二人も
そうなる、というのは、後続のための踏み台になる、という事だろう。
という事は……
「他の【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の生き残りは……」
「あぁ。そうなるな。……【
「そうか……」
古き英雄は、次代の糧へ。
成程、やはり彼らは冒険者というものを、よく理解していたらしい。
「では俺も白状しよう。【静寂】は俺が食った」
「「!」」
「【暴食】はオッタルが食い、ヤツはLv7になった」
「オッタルが……そうか、彼も、この高みへ至ったか……」
「俺もステイタスさえ上がればすぐにでもLv6へ上がれる。Lv7もそう遠くはない」
「それは……素晴らしい事ですね。また
バルドル神が目を閉じ、しみじみと言う。
「あぁ。そして、ここからが俺の本題なのだが……どうにもあの二人は、俺に英雄になってほしいらしくてな。色々と大したモンを遺して逝きやがったわけだが……残念な事に今の俺では未だに足りんものが多すぎてな」
そこで、と。
剣を抜き放ち、その切先をレオンに向ける。
「行きがけの駄賃だ。
レオンの口角が、獰猛に吊り上がった。
Topic:学区は対リヴァイアサンを想定して作られているので、Lv7が全力戦闘しても平気。な、ハズ。