冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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船上の闘争

 オラリオの冒険者の実力を知るいい機会です、折角ですから盛大にやってしまいましょう。

 そんなバルドル神の提案により、俺たちの試合は全校に公開され、この船で一番大きく頑丈な演習場で執り行われることとなった。

 

「レオン先生! 頑張ってください!」

「野蛮なオラリオの冒険者なんか、コテンパンにしちゃいましょう!」

「身の程っていうのを教えてやりましょうよ!」

 

 演習場には結界が張られ、その奥に生徒たちが詰めている。

 凄まじい数だ。オラリオにもある闘技場には劣るが、それでも数千人は余裕で収容できるであろう観客席が完全に埋まっている。

 

 犇めく生徒たちは、誰もがレオンの勝利を疑わない。

 しかしそれも当然の話だろう。

 少なくとも数週間前まで、現役のLv7はレオンが唯一であるとされていたし。

 何より連中はオラリオを知らない。

 

 知識の殿堂にして世界最強のLv7たるレオンを有する『学区』こそが優れているのであって、野蛮な有象無象の跋扈するオラリオ()()()、敵ではない、と。

 彼らの主張はそんなところだ。

 無論、そうではない生徒も多数在籍しているらしいが、しかし全体としてそのような傾向があることは明らかであった。

 

「随分と舐められたものだな、オラリオも。……まぁ、仕方のない部分があるというのは、俺も確かに認めるところではあるが」

 

 特にここ十数年は色々とゴタゴタし過ぎて、進歩どころか後退さえしてたからな、オラリオ。

 黒竜に敗北したことで巨大戦力を失って、闇派閥(イヴィルス)の台頭を許し、迷走を続けた今のオラリオに対する大きな『失望』も、そこに拍車をかけているのだろう。

 あとは……選民思想的なところもなくはないのだろうか。

 聞くところによれば、『学区』は入学に際して試験を行うらしいし……自分たちは狭き門を潜り抜けた選ばれし人間であって、誰でもなれるような冒険者とは違う、とか思っている生徒も、まぁいないというわけではなさそうだ。

 

「すまんな、レオン。生徒の前で恥をかかせる結果になってしまうやも知れん」

「ははっ、謝るにはまだ早い。私とて、図らずともオラリオ代表になってしまった君のことを、必要以上に可哀そうな目に遭わせてしまうかも知れない」

 

 そう語るレオンは、きっちりと鎧を着こんだフル装備だ。

 

「……私怨は幾ら程度入っている?」

「全くない……などとは、口が裂けても言えないな。あの二人に、『俺』は一度も勝てなかった……そして今、『俺』は君の姿にあの二人を重ねてしまっている」

「そうか」

 

 俺の両親が活躍していたのは二大派閥の全盛期。

 対人戦が最も盛んだった時期だ。

 Lv7に至るだけの才能を持った彼が、強者として名を轟かせていた俺の両親と戦っていない道理はない。

 

「一応確認しておくが、君の両親は【天姫(てんき)】に【剣聖(ソードマスター)】で合っているな?」

「ああ。そうだ」

「理不尽そのものだったよ。御父堂もそうだったが、特に御母堂は」

「ザルドとアルフィアも似たようなことを言っていたな。確か、天の覇者だったか?」

「ああ。あの『空爆』には、多くの者が為す術なく沈められたものだ。だが……決して無敵ではなかった」

「だろうな」

 

 母は黒竜に叩き潰されて死んだという。

 つまりは、その程度だったということだ。

 

「そして、お前には俺が飛翔したところで、対処する術がある」

「否定はしない。詳しく説明するつもりもないがね」

 

 先行暴露(ネタバレ)は嫌いな部類だろ? と。

 茶目っ気を滲ませながらレオンが言う。

 実際、その通りであった。

 

『ヤッホー! みんなぁー! 青春してるぅーーー!?』

「「「いえぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええ!!!」」」

 

 と、俺とレオンが向き合っていると、なんともやかましい音声が響いてきた。

 四方八方から大歓声が響いている中で、一体どこから声がするんだと周囲を見渡してみれば、何やらキラキラしてる金髪の女神が何かを握りしめてバッチリとポーズをキメていた。

 

「……彼女は?」

「女神イズン様だ。生徒たちから人気も高い」

「それはわかるが」

 

 神々の言うところの『可愛い系』とやらに分類されるであろう美貌は下界の人間たちを魅了するには十分すぎるし、彼女本人の気質も、神々の言うところの『陽キャ』であろう。

 むしろ人気が出ない方がおかしいというものだ。

 

『いつだって身も心も若々しく! レオン先生とカイ君の勇姿を見届けながら、今日もみんなでレッツアオハル☆』

「「「アオハルぅーーーーーーーーッ!」」」

 

 …………アレだな。

 なんか神々のノリを見てる気分になる。

 いやまぁ実際神々のノリなんだけども。

 なんだアオハルて。まるで意味が分からんぞ。

 

『それじゃあみんな! もう知ってると思うけど、今日はなんとオラリオからの特別(スペシャル)ゲスト! 【煌く蒼(シリウス)】こと、カイ・グレイル君が来てくれましたー!!』

「「「いえぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええ!!」」」

『本当なら冒険者の立ち入りは禁止なんだけどぉ! 今回は特別にアオハル許可、ってことで! レオン先生にも協力してもらって、皆さんには第一級冒険者同士の戦いを見てもらいまーす!』

「「「いえぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええ!!」」」

 

 ……勉強、ねぇ。

 見たところ、大体の生徒がLv1か2程度のようだが……目で追えるだろうか。

 

『お二人ともー! 準備はいいー!?』

「む」

 

 と、急に水を向けられて俺は反応に困ってしまうが。

 レオンの方は流石といった感じで拳を高々と突き上げ、呼びかけに応えていた。

 大歓声が演習場に響き渡る。

 

『カイ君の方はー!?』

 

 仕方がないので、俺も片手を突き上げる。

 先程のものよりは小さいものの、こちらもまた歓声が鳴った。

 …………なんかやりづらいな、これ。

 

『それじゃあみんな! 3、2、1、ゴーで試合を始めるよー! せーの!』

 

  …………そういう感じか。

 いいだろう。わかりやすい分には、歓迎だ。

 

「「「『3!』」」」

 

 剣を抜き放ち、構える。

 

「「「『2!』」」」

 

 息を吐き、腰を落とす。

 

「「「『1!』」」」

 

 真正面で構えるレオンを見据え、蒼炎を滾らせる。

 

「「「『ゴーッ!!』」」」

 

 爆発。そして、加速。

 レオンへと急接近し、そのまま剣を叩きつける。

 無論、そんなものが通るはずもない。

 易々と防御されるが……当然、そんなものは織り込み済みだ。

 

「【爆ぜよ】ッ!!」

 

 蒼炎のゼロ距離爆破。

 自分には影響がないという俺の蒼炎の特性を利用した、対近距離用に開発した攻撃技だ。

 ただ、いくつか弱点があるとすれば────俺の視界が塞がってしまう事と、明確な攻略方法がある、という点だ。

 だから俺は初見殺し的な使い方で仕掛けたつもりだったが……

 

「いい攻撃だ、だが甘いッ」

「ぐっ!」

 

 初見で対応してきやがったッ!

 爆炎の中から飛び出てきた剣を防ぐが、こちらに一切の反撃の隙をも与えないと言わんばかりに連続して繰り出される。

 が、対応はできなくもない。

 

「ほう!」

「舐めるなァ!」

 

 耳障りな金属音が連続して響く。

 ほんの瞬きの間に数十の剣閃が輝き、それと同じ分だけ俺の【力】は増大する。

 が、この程度では到底足りそうもない。

 

「【爆ぜよ】ッ!」

 

 再び爆破。しかし今度は先程のそれとは違い攻撃目的ではなく、互いを反対方向へ吹き飛ばすためのものだ。

 強制仕切り直し(リセット)、とでも呼ぶべき技だ。

 

「……流石はLv7。簡単には通用してくれないらしい」

「Lv5なのにここまでやれることに、驚きを隠せないよ。【静寂】を食らったというのも、嘘ではなさそうだ」

 

 演習場の外周をなぞるように地面スレスレを飛びつつ、牽制として蒼炎矢(ファイアボルト)を放つ。

 ……レオンでさえも追撃できなかったところを見るに、やはり強制仕切り直し(リセット)は対人戦においてとことん有用そうだ。

 

「お、おい……見えたかよ……?」

「正直、全然見えない……爆発があったってことくらいしか……」

「レオン先生は相変わらずだが………【煌く蒼(シリウス)】も大概バケモンじゃねーか……!」

「レオン先生! 頑張って!」

 

 ……さて、どう崩したものか。

 悠然と構えるレオンに蒼炎矢(ファイアボルト)を撃ち込みながら、思案する。

 純粋な剣技では、まず無理。今の俺では【器用】も【力】も足りなさすぎる。

 かと言って、空から攻めるのは下策だろう。

 母に辛酸をなめさせられたであろうアイツが、対空技を開発していないわけがない。

 空に飛ぶのは、『激戦熱闘(スキル)』が発動してからだ。

 となれば……まずは時間稼ぎか……? いや、それでは…………

 

「ッ!」

 

 突如として距離を殺してきたレオンからの攻撃をすんでのところで防ぐ。

 間髪入れずに繰り出されるのは容赦ない脚撃(キック)だ。

 俺はそれを鎧で以て衝撃を逃がし、懐へ潜り込んで、剣の柄を整った顔面に叩きつける。

 レオンの対応はあくまで迅速。

 不可避であると結論付けると、俺の攻撃がより強い勢いと威力を持つ前に額で受け、空いた左手で俺の胴体へと肝打ち(レバーブロー)を食らわせる。

 

「ぐぅッ!?」

 

 鎧越しだというにも関わらず、凄まじい衝撃が俺を襲う。

 俺は咄嗟に炎を噴かせ、後方へと飛ぶことで影響を抑えようとするが、それでも衝撃を完全に殺しきることはできず、特有の苦痛が全身へと巡ってゆく。

 思わず膝を突いてしまいそうになるが、気合で耐えた。

 

「……やってくれる……!」

「そっちこそ。想像以上だ」

 

 絹を裂くような悲鳴が観客席から響いた。

 レオンの額から、ほんのわずかではあるが血が流れているからだ。

 

「こっちとしては、完全に『剣技』を潰すつもりで動いているハズなんだが……本当にすごいな。よほどしっかりと御父堂から教えられたようだ」

「ああ、寝ている状態からも使えるように叩き込まれた……! 俺の朝はいつも、振り下ろされる真剣から始まるものだったからな……!」

 

 俺が咄嗟の防御に優れているのは、常に父が俺を殺しに来たからだ。

 刃と首の間に剣一本入るだけの隙間さえあれば、俺はどんな状態からでもそれを防げる。

 そうでなければ、俺はもう死んでいた。

 

「成程……よし。わかった。生徒の手前、少々『自重』するつもりだったが……その必要はどうやらなさそうだ」

 

 突然、レオンが剣を収める。

 一体何事だと、俺が警戒心を強めれば───

 

「【轟け残光。すなわち雄たる十二席】」

「ッ!」

 

 魔法。そう理解した俺は咄嗟に駆け出し、その完成を防ぐべく蒼炎の弾丸を放つが、しかし短文詠唱の完成の方が早い。

 

「【ブレイブ・オブ・ラウンド】」

 

 レオンの両手の中に、光る片手剣が出現する。

 

「さぁ、本番といこう」

 

 




Topic:『覇竜の大壊剣』に竜種判定を持たせてもよかったが、それだと普通にLv7対Lv7.5くらいになってつまらないからやめた。
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