冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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英雄の一撃

 正直なところ、『英雄の一撃(ミスティリオ)』……もとい『残光』とやらの撃つ形については、大体ではあるが察しがついていた。

 それはレオンの撃つ『残光』を既に二度見たというのも大きいが、それ以上に大きいのは俺の父親の剣技であった。

 

 俺が父親から叩き込まれた剣技は二種類。

 対人を想定した剣と、対怪物を想定した剣である。

 

 当然だが、対人戦と対怪物戦では勝手が大きく異なる。

 特に四足歩行の怪物や、階層主のような超巨大な怪物には、対人の剣では対処が難しい。

 駆け出しの冒険者が調子に乗って深い階層に潜って死ぬ、というのはこの辺の理由も大きい。

 フロッグシューターやキラーアントのような怪物が、ゴブリンやコボルトと同じような対処法で何とかなるわけがない、という話だ。

 とはいえ、ミノタウロスやスパルトイのような対人剣が有効な怪物もいる。

 故に大体の上級冒険者は、半ば無意識のうちに対怪物用の剣技と対人用の剣技を切り替えて使っているわけだ。

 

 その点【剣聖(ソードマスター)】なんていう聞くからに剣一本でのし上がっていそうな二つ名を拝命したウチの父親は、そこを意識的に切り替えて使っていたらしい。

 明確に使い分けて叩き込まれていたから、そこに関しては間違いない。

 

 さて、俺の父親の剣で不可解だったのが、妙に大振りの技を技に絡めて使っている点であった。

 基本的に対怪物であろうが対人であろうが、徹底的に己のペースを貫きつつ、どのタイミング、どの位置からの攻撃であっても確実に防御からの反撃、反転攻勢を隙間なし(シームレス)に行うことを至上とする父親の剣で、である。

 そして、その比率はほぼ同じ。

 

 巨体を持つ怪物相手にはともかく、対人戦では明確な隙を晒すことになるだろう、と。

 ここ半年以上、意図的にその比率を下げて使っていた俺だったが、仮にアレが『残光』を用いるためのものだったのならば、俺は『残光』を撃つための形だけは理解しているということになる。

 

  ……が、肝心の撃ち方がわからん。

 極蒼の火砲(バルムンク)はあくまでも圧縮した魔力の蒼炎を撃ち出す砲撃であって、斬撃ではない。

 

 強化魔法、あるいはそれに類するスキル。

 それこそが『残光』使用の条件であるとレオンは言った。

 であるのなら、スキルか魔法を用いるのが正攻法なのだろうが───

 

「では、まずは一発目だ」

 

 どうやら向こうはこちらの準備を待ってはくれそうにない。

 というより、準備云々よりも、何度も見て、受けて、打ち負かされて覚えろ、と。

 そういう事なのだろう。

 

「らぁっ!」

 

 迫りくる獅子色の光を迎え撃つ。

 今出せる全力で以て、光を両断しつつその先にいる男までも真っ二つにしてやろうと気概を持って振り下ろした斬撃は……当然と言わんばかりに競り負けた。

 どうやらただ力んで振り下ろすだけではダメらしい。

 まぁ、そりゃあそうだという話か。

 

「……!」

 

 しかし、競り負けたというのにも関わらずに、ダメージがほとんどない。

 俺が威力の粗方を相殺できたというのもなくはないのだろうが……真の理由は恐らくだがレオンが十分に手加減しているからだ。

 地上から、この距離で。アレ以下の威力であるはずがない。

 

「防いだな。凄まじい【力】だ。だが……」

「言われなくてもわかっている。さっさと次を撃て」

 

 今の発見……『残光』が()()()()()()()であると知れたことは、非常に大きい。

 力の入れ方か、振り下ろし方か、はたまた別の何かか……自分の匙加減次第でどうにでもなる要素が含まれている、ということだ。

 

 …………が、それがわかったところで、という話だ。

 2発目、3発目、4発目。

 二桁を超えて久しい回数俺の体を光が通過しても、どうにも撃てる気配がない。

 レオン曰く、『残光』を撃つための条件自体は既に揃っているという。

 それに、『英雄の一撃(ミスティリオ)』の記述も併せて考えれば、むしろ撃てない方がおかしい。

 となれば、それは俺が『残光』を撃つために必要な何かを自覚できていないという事だ。

 

 そして、それが何であるかは把握できている。

 あの斬撃の『正体』だ。

 あの質量をもった飛ぶ斬撃の正体さえ理解できれば───

 

「アレ、レオン先生の『城切り』だろ?」

「何であれを何度も何度も受けておいて立ってられるんだよ、【煌く蒼(シリウス)】……」

 

 施行に集中している最中だというのに、生徒たちの呟きがいやに大きく聞こえてくる。

 

「これが、第一級冒険者同士の戦い……?」

「いや、違う………………あれは、『授業』だ…………」

 

 成程、授業か。言いえて妙だ。

 確かにアイツは教師で、俺は子供。そしてアイツの目的は技の伝授……うん、授業だな。

 どっからどう考えても授業だ。

 

 …………そう考えると、なんかムカついてきたな。

 

 授業。授業という事はつまり、アイツが上で、俺が下だという事だ。

 そんな有様で、アイツの競争相手(ライバル)とか、そんなこと言えるわけがない。

 早急に。早急にアイツと同じステージにまで飛び上がる必要がある。

 

 …………次の一撃、()()()()()()()()か。

 

 そう考えた俺は、露出している頭部を全力で防御しつつ、獅子色の光に身を委ねた。

 蒼流星(ブルーミーティア)が悲鳴を上げ、蒼銀の燐光をまき散らす。

 超硬金属(アダマンタイト)を鍛えて作られた、エルマー渾身の作だ。

 この程度では、壊れない。

 そして俺も、この程度では死なない。

 

「何をッ!?」

 

 レオンが驚いた声を上げる。

 生徒たちの方は、何が起きたのか理解できていない様子だ。

 

「…………ふぅ」

 

 全身が痛い。

 が、アルフィアの魔法を耐えた時と比べれば、蚊に刺された時とまるで変わらない。

 つまり、死には未だ遥か程遠い。

 

「…………どうした。なにかあったのか」

「いや、何かつかめる気がしてな」

「だとしても、事前に言っておいてくれないか? 心臓に悪い」

「すまん。ただ、便利な『激戦熱闘(スキル)』があってな。お前の手加減もあり、耐えれるとは確信していた」

 

 既に戦いという名の授業が始まって二十分以上。

 このスキルが十全に効果を発揮するために必要な時間は、とっくに過ぎていた。

 

「さて」

 

 やはり、受けてみたのは正解だったらしい。

 今のでどんな感じかは大体理解した。

 言語化が非常に難しいが要するに、アレはレオンの言う通り、本質的には斬撃なのだ。

 

 距離を殺す。成程、理解してみれば実に的確な表現だ。

 アレは斬撃を飛ばそうとして飛ばしているわけではなく、ただ斬っているだけ。

 手加減ができる? 当然だ、斬撃に手加減を加えるなど、俺でもできる。

 

 まぁつまり、だ。

『残光』という技の正体は即ち、()()()()()

 体に能力値(アビリティ)の上昇が付与されるように、特定の攻撃に補正が与えられるように。

 斬撃を放つ人間や武器でなく、斬撃という現象そのものを強化する。それが『残光』の正体。

 それが分かれば…………もう、こっちのモンだ。

 

「レオン」

「……何だ?」

「授業はもう結構だ。これからは…………俺の『実験』に付き合ってくれ」

「それ自体は構わないが……いきなり実験と言われてもな。私はどうすればいい?」

「簡単な話だ。撃ち合うぞ」

「ッ!」

 

 剣を振り上げる。

 

「まずは、慣らしからだ」

 

 轟。

 蒼の閃光が一直線に飛翔する。

 

「まさか、本当にアレで習得したのか!」

 

 切り返すは獅子色。

 蒼のそれよりも鋭く、強いそれは蒼の光を容易く両断し、続く三条の蒼に切り刻まれる。

 

「ッ!! 素 晴 ら し い ッ ! ! !」

 

 獅子色と蒼の光が生まれ、弾け、また生まれ……演習場は、眩い光に包まれる。

『残光』の撃ち合い。

 剣士同士の一騎打ちとは思えぬ遠距離攻撃の応酬が飛び交う。

 それぞれ一筋の光が丘を斬れるだけの威力を秘めた必殺の一撃だというにも関わらず、幾重にも放たれる光が完全に演習場を埋めつくしていた。

 

 いい。とてもいい。

 まさかここまで使いやすい技だったとは。

 これはいけない。実にいけない。

 ちょっとばかり、強くなりすぎてしまう。

 …………が、まぁ、いいか。

 今は、やれるところまでやってみたい気分だ

 

「次だッ!」

 

 瞬間。蒼の光が膨れ上がる。

 炎を纏ったのだ。悉くを焼き尽くす蒼の炎を。

 

「~~~~ッ、君はどこまで! 俺を喜ばせてくれる!?」

 

 バキン。光の戦斧が破砕する。

 

四の試剣(ファイロン)! 五の試剣(セメレート)! 六の試剣(アルオーン)! 七の試剣(メルヴェトーレ)!」

 

 光の盾、光の槍、光の鉄槌、光の鎌……

 それらを自ら差し出すようにして、レオンは自らの魔法の位階を高めてゆく。

 

『うーん☆ ……ちょっとアオハルすぎるかなー、これ。よし、みんな! 避難!!』

「マズいマズいマズい!! 逃げろ逃げろ逃げろ! これ以上はダメだ!」

「演習場がぶっ飛ぶぞ! 退散! たいさーん!!」

 

 

 当然、演習場を巡る結界は非常に強力なものだ。

 生徒はおろか教員が放つ魔法にも微動だにせず、レオンの『残光』にも耐えられる。

 …………ただし、本気でなければ。

 破られる確信はない。が、破られないという保証もない。

 だからこそ、神と教員たちは動いた。

 背後で教員たちが誘導し、顔を青くした生徒たちが演習場の外へ流れてゆく。

 

「…………すごい…………」

「アレが、オラリオの…………!!」

 

 しかしそんな中で、二色の極光の輝きに魅入られ、動けなくなる者もいた。

 教員や級友たちはそんな彼ら彼女らを引きずってでも演習場から逃がそうとするが、当然ながらそれでも全員を移動させることが間に合うわけではない。

 そんな幸運な者たちが、この『実験』の終焉を見届けることができた。

 

八の試剣(ザルドー)準備(セット)! さぁ、行くぞカイ。これで最後だ!」

英雄の一撃(ミスティリオ)起動(トリガー)

 

 完全に、習得した。

 自信をもってそう言える。

 次に知るべきは当然、現時点での最高火力。

 

「【爆ぜよ】ッ……【消し飛ばせ(バルムンク)】ぅぅぅぅぅぅううううッ!!!」

 

 放たれるは断空の蒼炎斬(ヘルデン・シュラッグ)

 カイ・グレイルの現在全てを注ぎ込んだ、英雄資格の証明。

 それは空を裂き、焼きながら騎士の放った獅子色の光と衝突し───

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通に競り負けた。

 

「まぁ、流石にな。今の君に負けていては、色々とマズすぎる。いろんな意味で」

「うーむ、行けると思ったんだが」

 

 と、レオンが剝いてくれているリンゴを一つ、口に運ぶ。

 

「だがまぁ、やっぱりデカいのは純粋なステイタスだよなぁ」

「そうだろうなぁ」

 

 片やLv7、片やLv5。いくら補正があろうと、強化があろうと、魔法(チート)があろうと、才能があろうと、託されたスキルがあろうと。

 流石に11ある試剣の2/3を攻略した『残光』には、敵わなかったらしい。

 

 ちなみに現在は船上の医務室だ。

 あのあと三日間ほど眠っていたらしい。

 ……まぁ、馬鹿みたいに精神力(マインド)ぶち込んだからな、アレ。

 あの『英雄の一撃(ミスティリオ)』、連発はどうやらできなさそうだ。

 

「後は君の場合、体格だな。ステイタスと直接的な関係もあるにはあるが、それ以上に基礎的な体が出来上がっているかそうでないかはかなり大きい。ご尊父の血を受け継いでいるのなら、そこまで心配はなさそうだが…………」

「ここ半年で10C(セルチ)伸びた」

「…………本当に心配なさそうだ」

 

 テスカトリポカの料理、毒入りではあるが栄養満点だからな。

 アレ食って育てば誰でもそうなると思う。

 

「起きたと聞きました。具合は大丈夫ですか?」

 

 と、扉を開けてバルドル神が入って来る。

 

「あぁ、まぁ。いざとなれば戦えば回復する」

「そんなわけがないだろう……怪我人は大人しく治療に専念すべきだぞ」

「そういうスキルだ」

「……つくづく冒険者として理想的だな、君は」

 

 レオンが至極真っ当な正論を言っているが、お前の常識が俺の常識だと思うな(理不尽)

 まぁ実際、戦えば骨折だろうが何だろうが治るってのは、本当にありがたい。

 足が折れたまま歩くのは本当に辛いのだ。

 

「…………まぁ、何はともあれ。何事もなかったようで安心しました」

「それで? 単に俺を心配しに来ただけか?」

「いえ?」

 

 だろうな。

 

「……じゃあ、用件は」

「これは提案なのですが…………短期の臨時講師をやってみるつもりはありませんか?」

「………………………………は?」




Topic:正直、カイがアルフィアに勝てたのはアルフィア側に明確な時間制限があり、向こうが自爆したからというのが大きかったりする。

FANBOXに『カイとフィンとオッタルが一緒に飯食う話』を投稿しました。
読みたければぜひこちらからどうぞ。
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