冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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臨時講師

「……正気か?」

 

 心の底から漏れ出た意見であった。

 俺が講師など、勤まるわけがないと思うのだが。

 どちらかと言えば感覚派というか、やって覚えろ、盗んで覚えろを地で征く人間だぞ、俺は。

 アーディに対して俺がやったことを知らんのか。

 ……知るわけがないな。普通に考えて。

 

「一応、言い分は聞いておこう。何故俺を講師になどしようとする?」

「理由は勿論、幾つかあります」

「幾つもあるのか……」

 

 意外も意外というか、そんなわけがねぇだろというか。

 まぁ、言い分は聞くと言ってしまった以上は、ちゃんと聞くが。

 

「まず第一に、貴方が実力者であるという事を、学区のほとんどの生徒が把握していることが一つ。舐められない、というのは、教師の大事な要素の一つです」

「ふむ、納得はできる」

 

 自分より格下であろう人間に教わる気には、なれないというものだ。

 俺とて、そこらのLv1に剣技を教わる気にはならん。

 その点で言えば、Lv7にして学区どころか現時点における世界最強とすら言えるだろうレオン相手に、手加減ありとは言え互角近い戦いを演じた俺が舐められるか、と問われればまぁそうではないだろう。

 

「第二に、貴方がこの船の教師にはない、非常に独特な視点を持っている事」

「ふむ? 否定はしないが……それがどうして講師の話につながる?」

「新たな視点というものは、思考の幅を大きく広げることに直結する。戦術と同じだとも。君だって、初めて空を飛んだ時、残光を習得したとき、戦い方の幅が今までの比ではない程に広くなった自覚はあるだろう?」

「まぁ、それはそうか」

 

 言われてみれば、その通りである。

 こういうものの考え方もある、と知ることが出来れば、思考の幅が広がるのは事実だろう。

 俺にとっては、それこそレオンが挙げたような戦術の話もそうであるし、他の例を挙げるのならばアーディの言う正義の在り方を聞いた時もそうであった。

 であるならば、俺のような気狂いの思考も……まぁ、何かの参考にはなるのだろうか。

 

「そして第三に、貴方が本気の本気で黒竜討伐を目指している事」

「そうだな。俺は本気で黒竜討伐を目指している……が、その上でやはりそれも解せん。何故それが講師の話につながる」

「ここに関しては私の神としての打算的な所も非常に大きく含まれるのですがね」

 

 そう前置いて、バルドル神は口を開く。

 

「黒竜の討伐は神々にとっても、一刻も早く成し遂げねばならない事項です。正直なところを話しますと、あの二柱の失敗は我々にとっても想定外でしてね。このようにして我々が学区を設立し、生徒を育てているのも、ある意味で対黒竜を意識したものでもあるわけです」

「そこはまぁ、納得できるが。それで?」

「しかし、全ての生徒たちが対黒竜を意識しているかと問われれば、それは決してそうではない。それ自体はいいのです。彼らは彼らのやりたいようにやれば、それでよい。そうするべきであるのです」

 

 ですが、と。

 バルドル神は言葉を続けた。

 

「現状は、好ましくありません。非常に、そう、非常にです。二柱の失敗は大きな失望と絶望を産みました。貴方の語った先の大抗争も、そうした悲観的な思考が呼び込んだものでしょう。英雄の都は失墜し、『戦技学科』への入学希望者は激減しました」

「そこに俺という一石を投じたい……とでも?」

「この学区を預かる神として、取るべきでない手法ではあるのですがね。しかし、貴方という劇薬にはそれが出来てしまうほどの力がある。貴方の在り方は世界にとって、致命の毒にも、奇跡の薬にもなり得てしまう……そうなった理由の半分は、ヘルメスのようですが」

 

 バルドル神の表情が陰る。

 しかし、それもほんの一瞬だ。

 

「……御託を並べるのもこの辺にしておきましょうか。貴方には率直に伝える方がいいでしょう。カイ・グレイルよ、次代の英雄候補よ、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……………………そりゃあまた、願ったり叶ったりだな」

 

 それはテスカトリポカからも預かっている、今回の『学区』訪問の目的の一つだ。

『学区』側の許可が出てくれるのなら、そりゃあまた有り難いが……

 

「しかし、そんな事をしていいのか?」

「当然、よくありません」

「じゃあダメじゃねぇか」

「要するに、露骨にやりすぎないようにやればいい、という事だ」

 

 レオンが補足する。

 

「お前はお前で、どうなんだ。レオン。こういうルール違反について、何も思わないわけではないだろう」

「まぁ確かに、教師として意見を述べるのなら、掟破りはあまり好ましくない。が……俺個人として意見を述べるのなら……君のような英雄の器が、下らない理由で成長を妨げられるのは、実に我慢ならない」

「む」

 

 成程……見抜かれていたか。

 

「彼女の気質を考えるのなら、彼女が眷属にしたい人材は非常に限られます。そのような派閥が、極めて短い期間で登り詰めたのならば、何が起こるかは自明というものでしょう」

「……人手に困っているのは、事実だな」

 

 だからこそ、テスカトリポカは彼女好みの戦士でない事を顧みず、俺のためにアーディを加入させたわけだからな。

 まぁ、それも当初だけで今となってはすっかり彼女のお気に入りになってしまったらしいが。

 

「出来るだけ早急に、出来るだけ使い物になる仲間が、出来るだけ大量に欲しい」

「だろう? 折角いいと言っているんだ。俺としては、むしろそうしてくれる方がいいとすら思っている」

「対黒竜を意識した組織が、規則のためにその支援が出来なかったとなれば、本末転倒というやつですからね。それで、どうです?」

 

 ふぅ……む、まぁ、確かに渡りに船ではあるのだが……

 本当に大丈夫なのだろうか?

 なんか乗せられている気がしないでもないし、それにこの事が他の神などに知られたら、面倒な事になる気がするのだが……うぅむ……

 

 ……いや。

 

 そんな事は、どうでもいい事だな。

 俺にとって最重要事項はあくまでも、黒竜を殺す事だ。

 そのために目下必要になっているのが、味方というだけ。

 であるのならば、その絶好の機会を逃すわけにもいくまい。

 もし仮に、この先で何かこの選択が邪魔になる時があるとして────

 

 その時は、その時に()()()()()()をするだけだ。

 

「……結論は出た。臨時講師の話、是非とも受けさせていただきたい。……が、その前に色々とすべき事もある。レオンとの勝負ですっかり忘れていたが、まずはギルドへの返事を持ち帰らねばならないし、ウチの主神への通達も……」

「ああ、その辺に関しては問題ありませんよ」

「……ん? どういう事だ?」

「貴方が寝ている間に寄港した時、ギルドへの返事のついでに貴方が臨時講師を務める旨を書いて送っておきましたから。急ぎと伝えてありますので、明日か明後日にもなれば向こうに着いているでしょう」

「………………」

 

 なんか平然とした顔でとんでもねぇ事言いやがったなこの神。

 一体どういうことだこの野郎と視線をレオンに向けてみれば、コイツもコイツで曖昧に微笑むだけである。

 

「目論見通りに臨時講師を引き受けると言った手前、寧ろ有難いまであるが……一応聞いておこう。俺が引き受けないって言ったらどうするつもりだった」

「まぁ、どうせ受けるだろうと踏んでいましたし……どうせ受けなかったところで、貴方の場合すぐにオラリオへ戻って、虚偽と伝える事ができるでしょう?」

 

 ……成程。

 まぁ、うん。実に合理的であるとは言える。

 事実、こうして俺も面倒な事をせずに済むわけだからな。

 だが……それにしても、それにしてもと言うものはあって然るべきだろうに。

 

 そして、わかった。今の一幕で、完全に理解した。

 

「……やはり、ヘルメスの友神はヘルメスの友神、と言うことか……」

「おや、言ってくれますね。まぁ事実ですが」

 

 はっはっは、と。バルドル神が笑う。

 ……俺、ちゃんと臨時講師が出来るのだろうか。

 柄でもない事は分かっているが、なんか不安になって来た。




Topic:アーディは褒めて伸ばすタイプ、テスカトリポカはとにかく実践させるタイプ、エルマーは見て覚えさせるタイプ、フィンは1から10まできっちり教えるタイプ、オッタルは完全放置。
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