何だかいつの間にかとんでもないことになりやがった。
講堂一杯に詰めかけた生徒たちを見て、そんなことを思う。
臨時講師を引き受けたあの後。
バルドル神が俺にまず最初に要求したのは、大規模な講演であった。
やって欲しいと言われたのは、件の大抗争とオラリオの現状についての説明と、オラリオ復興への協力の呼びかけ、俺がオラリオに着くまでの1週間で担当することになる授業の宣伝の三点。
そして、やっていいと言われたのが、【テスカトリポカ・ファミリア】への勧誘である。
まぁ、これだけ人数がいるのだから、一人二人くらいは入ってくれてもいいだろう。
そんな思いで、俺は壇上へと昇ってゆく。
にわかに、生徒たちが騒がしくなった。
「……定刻になった。これより講演を始める」
しかし俺が一言そう言えば、講堂中がシンと一瞬にして静まり返る。
誰も彼もが口を結び、視線を寄越し、耳を傾け、俺の言葉を一言も漏らすまいとしているのが見て取れる。
これが文字通り、教育の賜物というやつなのだろうか。
少なくとも、オラリオの野蛮人どもには真似できない事ではあるだろう。
まぁ、フィンやヘディンならば冒険者相手にもできそうなものだが。
「まずは自己紹介から入ろう。【テスカトリポカ・ファミリア】所属、【
人前で話すという行為は、慣れない。
が、バベルで指揮をとった時に比べれば、圧倒的に楽だ。
「既に港の一つには寄港しているという事で、把握している者もいるかも知れないが、今から二週間ほど前まで、オラリオは未曽有の危機に瀕していた。その被害はあまりにも大きく、復興は思うように進んでいない。今回俺が『学区』に書状を運び、協力を要請したのは、もはやオラリオのみでは復興が遅れすぎると判断したからに他ならない」
実際、俺が出発するタイミングでようやく『オラリオ再興計画』がまともに実行に移せる形になったって段階だったからな。
「それを念頭に置いた上で、俺は今からオラリオに何が起きたかを話す。少々ショッキングな話だが、これはお前たちに知らせると同時に
と、そう前置きして俺が伝えるのは、レオンとバルドル神にも語ったオラリオの惨状。
当然、9柱の送還も、人間爆弾の話も、街中を疑心暗鬼に陥れた連中の策略も、【暴食】と【静寂】の猛威も、熟練の冒険者たちの犠牲に至るまで、悉く。
勿論俺の経験していない事や、俺が気絶していた時のことまでは仔細に話すことはできなかったが、しかし半分ほどの生徒たちは俺の話を受け、顔を青くしていた。
「……さて、これで大抗争についての話は終わるが、質問はあるか」
俺がそう問いかければ、生徒たちの手がババッと持ち上がる。
……成程、これが学区というものらしい。
『火炎石の爆弾に対し、
「無かった場合の事例を確認できていないため、分からん。が、確実に威力の減衰と熱からの保護に役立ったことは間違いないらしい」
『罠の可能性を考慮していたのならば、最初から住民を避難させればよかったのではないでしょうか!』
「どこに敵の耳と目があるか分からない、故に知らせるのは最小限、というのが俺とフィンの出した結論だった。一般市民に紛れられては、見ただけでは見分けがつかん」
『聞いた限り甚大な被害のようですが、それでも被害は最小限に抑えることが出来た、という風に認識されていらっしゃるのでしょうか!』
「できる限り抑えたつもりだが、何とも言えん。ただやはり、火炎石による自爆特攻が実行されるであろうことを把握できていたことは大きかったと思う」
……いつまで続くんだこの質問の嵐は。
永遠に手が上がり続けるぞ。何なら下がっていた奴すらしばらくしてから上がっているぞ。
これでは永遠に終わらないではないか。
しまったな、時間制限を設けておくべきだったか。
『オラリオは、今回の一件について、世界に対しどうやって誠意を示すつもりなのでしょうか!』
「……ん?」
と、俺が質問の海に溺れかけていると、何だかよくわからん質問が飛んできた。
「……質問の意図が分からんな。つまりどういうことだ」
『話を聞く限りやはり今回の件は、
……何言ってんだコイツ。
いや、まぁ、理解は出来る。
つまりその
そういうことだろう。
「成程、まぁ、そうだな。お前の考えはある意味では正しいと思う。二柱の失敗とそれによる現状の悪化は確かな事実だ。かの二柱が君臨し、迷宮を擁し、他のどの地域よりもランクアップが容易で、そして今回の件の引き金を測らずとも引くことになったオラリオが責任を取るべきというお前の論は、確かだ」
その上で、と。
俺は質問者を見据え、言葉を続ける。
「逆に聞くが、お前は俺たちに、どういう形で責任を取って欲しい?」
『いやその、それは……』
「考えつかないか。では他、思いついた者は?」
そう聞くと、生徒たちは互いに顔を見合わせ、何やらボソボソと話し合う。
耳を澄ませば幾らか聞こえてくるのはやはりというべきか、黒竜討伐だの、地上で繁殖した怪物退治のための冒険者派遣だとか、そういう話ばかりだ。
「……今聞こえてきた話を聞く限り、お前たちは世界各地での怪物退治、
まぁ、普通に考えればそうなるのだろう。だが。
「俺の勘違いであってくれると嬉しいのだが……随分とまぁ、『他人事』だな?」
『……!』
「怪物、
そういう存在として、この世に存在する害だ。
だからそれらは悉く駆除されねばならない。
だが、それは冒険者だけの仕事か?
冒険者だけが対処しなくてはならない事態か?
「参考までに教えておくが、俺はオラリオにきて約半年でこの領域にまで至った。お前たちの尊敬してやまないレオンと戦いを演じ、奴の技を盗んだ。約半年で、だ」
まぁ、実際は血筋だとか教育だとか色々あるんだろうが、ここはあえて割愛する。
「
そう煽って周囲を見渡せば、生徒たちは何とも言えない顔だ。
俺の言っていることに反感を感じていそうな顔もあれば、納得しているような顔、怪訝な顔をしている生徒までいる。
「……話がそれたな。それで、オラリオが責任を取る手段だったか。それが怪物と
『……!?』
ざわり、と。生徒たちが動揺する。
つい先程まで『お前らがやれ』みたいなことを言っていた男が、まさかそんなことを言い出すとは思わなかったのだろう。
「黒竜を殺すのは俺だ。だからそのついでに怪物も
だが、と。
俺は
どうやらこの
早い話、魅了の権能に近い代物だ。下位互換も下位互換だがな。
「俺の派閥は今、問題を抱えている。圧倒的な人数不足だ。戦闘員も、サポーターも、魔導士も、
シンと静まり返った講堂に、俺の声が反響する。
生徒たちはまるで何かに取り憑かれたように、俺の言葉へ耳を傾けた。
「意志ある者は【テスカトリポカ・ファミリア】の門戸を叩け。強くなる意思のある者、役に立つ意思のある者、死を恐れぬ者、黒竜を討つ意思のある者、戦士として果てる覚悟のある者を、俺は歓迎しよう。当然、無能はその限りではない。最低限の実力は要求するが、意思あるものであるならば、この学び舎の環境があるならば、その程度の壁は容易く超えられると俺は確信している」
熱に浮かされたような雰囲気が、場を支配する。
「そして諸君らに知らせることがある。これよりオラリオに到着するまでの一週間弱、俺が『剣術』、『格闘術』、『魔法術』、『総合戦闘』の授業、その特別枠の面倒を見る。全学科の生徒が応募可能だ。意思、実力、共に自信のある者は応募するといい。また当然だが、戦闘以外にも自らの技能が『役に立つ』と自信を持つ者も歓迎する。以上で講演は終了だ」
そう言って俺がマントを翻し、壇を降りる。
しばらくしてから、万雷の拍手が背後で鳴った。
「手ごたえは十分だな」
さて、使える奴が見つかればいいんだが。
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