冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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授業と内定

 さて、そんなわけで俺の授業がスタートしたわけであるが。

 どんな様子で進ませているのかと言えば、まぁ、剣術と格闘術は普通に実践である。

 

「戦え、全力でな。目の前の敵を殺すつもりで打ち、死なないように避けて防げ」

『ハイッ!!』

 

 まどろっこしいことは好きではない。

 教えることは最低限。何をすべきか、何をすべきでないかだけ。

 どれだけ口で説明したところで、結局は実際にできるかできないかが全てなのだから。

 

 だというのに。何やら聞くところによれば、学区で受けられる戦闘系の授業は基本的に剣の振り方だの、怪物の弱点を突く練習だの、そういうことばっかりで、ランクアップが可能な機会は『戦技学科』の生徒が行う、地上での野外調査(フィールドワーク)戦闘任務(バトルボランティア)くらいしか無いそうではないか。

 こんなに良い環境が揃っているというのに、それは実に勿体ない。

 

「さァさァ頑張れ薬学科。いい検体がいっぱい来るぞ。思う存分回復薬を試すいい機会だぞ」

『ハイッ!』

「お前らもだ治癒師(ヒーラー)組。魔法を撃って撃って撃ちまくれ。その分だけ魔力は上がる」

『ハイッ!』

 

 戦闘組はひたすら打ち合い。

 調合組はひたすら製薬。

 治癒師(ヒーラー)組はひたすら回復。

 多分これが一番効率がいい。

 一体どこの戦いの野(フォールクヴァング)だという様相ではあるが、実際これが一番効率がいいんだから仕方がない。

 実際、このやり方で授業を始めて既に三日が経つが、もう既に数名の生徒がランクアップを体験したらしい。

 やはり実戦……! 実戦こそが最高効率……!!

 

「さて、そろそろ10戦終わった頃合いか? では過半数以上勝った生徒は俺のところへ来い。試してやる」

『ハイッ! ……ぐわぁあぁぁぁあああああッ!!?』

 

 そしてこのように、生徒間の勝負だけで調子に乗らせないことも重要だ。

 俺にぶちのめされる経験で以て、上には上がいることを思い知らせると共に、不足しているであろう【耐久】の経験値(エクセリア)をくれてやる。

 

「では本日の授業はここまでだ。各自、ステイタスの更新を忘れないように」

『有難うございましたァーッ!!』

 

 そして次が魔法学。

 まぁ勿論、ひたすらに撃って撃って撃ちまくるだけだが。

 

「詠唱に慣れろ。とにかく慣れろ。ついでに並行詠唱も身に着けろ。それができるのと出来ないのとでは天と地ほどの差があるぞ。特に冒険者志望はな」

 

 まずは詠唱時間をとにかく短くする。

 噛んで魔力爆発(イグニス・ファトゥス)を起こそうと、やっぱりいる製薬組と治癒師(ヒーラー)組に任せれば何とかなる。

 一応、魔法耐性の高い装備もさせているので、受け身さえ取れれば死ぬことはまずない。

 精神疲弊(マインドダウン)もポーションでどうにかなる。

 

 そして詠唱時間を十分に縮められたのなら、次は走りながらの詠唱。

 それが出来たなら、障害物走をしながら詠唱。

 更にそれが出来たなら、教師たちが襲い掛かってくる中での詠唱だ。

 この授業内容で、既に二桁の生徒たちが並行詠唱を体得しているのだから、効果は保証できる。

 最初の方は理論がどーでの、危険性がどーだのと五月蠅かったが、こうして結果を出せばだれも文句を言わなくなった。

 

 出来ることなら近接戦闘の技術も仕込みたかったが、未だに教師による攻撃を避けながらの詠唱に突破者が出ていないので、期間的に難しいだろう。

 

 で、最後。

 他の授業よりも少し遅れてスタートさせた総合戦闘の授業であるが、この授業こそが俺の本命だった。

 この授業の中で、良い成績を納めた人間を俺は本格的に勧誘するつもりなのだ。

 そして、気になる授業内容であるが───

 

「鬼ごっこだ」

『…………はい?』

「鬼ごっこだ、と言っている」

 

 生徒たちが怪訝な顔をするが、まぁ仕方ないという話だ。

 他の授業があんな感じな分、こっちもそういう類だとでも思っていたのだろう。

 まぁ、実質的には似たようなものなのだが、しかしこれは『総合戦闘』だ。あらゆる分野を総合した、最も実戦をよく想定した授業なのだ。

 であるなら、特定の技能を伸ばすよりも、より実践的で、役に立つことをやるべきだろう。

 

「さて、まず最初に質問しよう。そこのお前、強くなるうえで最も大事なことは、何だ?」

「え、あ、冒険をすること、偉業を達成することです!」

「ふむ、半分正解と言える。が、半分間違いとも言える。何が欠けているか、分かったものはいるか」

 

 と、俺がそう問いかければ、恐る恐るといった感じに手が上がる。

 

「えと、その……生きて、帰らなくちゃいけない?」

「素晴らしい。まさにその通り。当たり前のことだと思うかもしれないが、それが最も重要なことだ。死ねばそこで終わりだ。偉業を成し遂げても、生きて帰らねば意味がない。満身創痍で帰還する途中、怪物に食われて死にましたなど、笑えん」

 

 そこで、と。俺は控えていたレオン含む教師陣を呼び出し、俺の横に並べる。

 

「お前らは怪物犇めく迷宮から生還する術を身につけねばならない。故に、鬼ごっこだ。開始地点はこの場所。目的地は神殿塔(ブレイザブリク)。鬼は俺とレオン含む教師陣。…………何でもアリだ。どんな手を使ってでも我々を出し抜き、神殿塔(ブレイザブリク)に辿り着け。では、これより開始する。我々の動き始めは10秒後。制限時間はそれから10分だ。まぁ、精々頑張れ」

 

 そう言ってパンと手を叩く。

 すると、真っ先に3名の生徒が群れを抜け、走り出した。

 深緑色の髪の生徒、制服の上にか兜を被った生徒、馬人(マーレン)の少女だ。

 それから数拍ほど遅れて、他の生徒たちも蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。

 

「……さっきの3人、優秀だな」

「ああ。特にグレイ……緑色の髪の子は特に優秀だぞ」

「ふむ」

 

 言われてみれば、確かに剣術と格闘術の授業の時、いつもいつも最後に俺にかかって来る生徒の中に入っていた気がする。

 確か、もうLv3なのだったか? これは素晴らしい。獲る価値がある。

 

 あとは、あの馬人(マーレン)の少女も見たことがあるな。

 狂気的な目で狂気的な薬を調合していた輩だ。

 処方された奴は体が黄緑色に発光していたが、効果は確かだったらしい。

 アイツも、要評価だな。

 

 制服の上から兜を被った少年は……剣術の授業には居た気がする。確か。

 まぁ何にせよ、面白い人材ではあるかも知れん。

 彼も要観察だろう。

 

「レオン。引き抜いても文句言うなよ」

「彼女がそこだと決めたのなら、私に文句は無いとも」

 

 よし、許可は得た。

 では彼女達がどのように動くのか、是非とも見物させてもらおう。

 

「さて、それでは我々もスタートだ。遠慮はいらん。容赦なく捕らえろ」

『了解』

 

 大体が第二級冒険者、一部が第一級冒険者にも匹敵するだけの実力を備えた教師陣が、生徒たちを絶望のどん底に叩き落すべく一斉に動き出す。

 その様を見届け俺は炎を噴かし、上空へ。

 そして目的地である神殿塔(ブレイザブリク)と移動して───

 

「いやはや楽な仕事だったねぇ! どうだい【煌く蒼(シリウス)】君! 馬人(マーレン)の足の速さは!」

「ウッソだろお前」

 

 もう既にゴールしているヤベー奴を発見した。

 

「私はLv2の馬人(マーレン)だよ? 30秒ほどもあればこの程度、簡単にたどり着けるとも! 馬人(マーレン)の力を舐めないで欲しいねぇ!」

「いや、別に舐めているつもりなどなかったのだが……」

 

 馬人(マーレン)。走ることにしか興味が無いと言われている種族。

 世界各地でひたすらに競争を繰り返していて、それを利用した神々が競馬だか何だかという賭博を催しては大儲けしているとか、そういう話を聞いたことがある。

 

「えーと、それで? お前、黄緑色に発光する薬を作ってたヤツだよな? ここにいるって事はウチの派閥に興味があるんだろうが……ウチの派閥に入って、何がしたいんだ?」

「ン? そりゃあ色々だねぇ薬作ったり魔道具を作ったり、でもまぁ最大の目標はランクアップさ。何せ私の目標は、速度の限界を超えることだからねぇ」

「……速度の限界、ねぇ?」

馬人(マーレン)の脚の持つ可能性だよ! 他の連中はただ走る事しか興味が無いみたいだけどねぇ! 薬、魔道具、神の恩恵(ファルナ)! ありとあらゆる手段を用いれば、もっともっと速くなれるはず! 私はその果てを見たいのさ!」

 

 どうせランクアップは必須なのだろう?

 と、問いかけられたので、俺は頷くほかなかった。

 

「……まぁ、お前の意思と実力は理解した。俺からはほぼ内定、とだけ言っておこう」

「それは実に僥倖。楽しみにしておくよ」

 

 実際、これなら内定を出してもいい、どころかむしろ出すべきだろう。

 そういった明確な目標があり、協力してくれる分にはありがたい。

 特にランクアップが目的なら一番合ってるのはウチか【フレイヤ・ファミリア】だが、【フレイヤ・ファミリア】は【フレイヤ・ファミリア】なので、鞍替えされるということも無いはずだ。

 それにこれだけの速度をLv2の時点から保有しているのなら、実力面でも文句は無い。

 ダンジョンへ連れて行けば勝手にランクアップしてくれることだろう。

 

「では、俺は他の連中の様子を見てくる」

 

 と、そう告げて、学園層(アカデミック・レイヤー)上をぐるりと回ってみれば、どうやら既にかなりの数の生徒が捕まったらしい。

 まぁ、教師陣はLv4とかLv5も余裕でいるわけだからな。

 あとは追われたら絶対に逃げられない男ことレオンとか。

 頭を使わなければ、Lv1、Lv2の生徒では太刀打ちできない。

 

「……む」

 

 上手くやっている生徒がいないかと探ししつつ、屋根を飛び越えようとする不届きな輩がいたら搔っ攫ってやろうと上空を旋回していると、件の緑髪の生徒……グレイ、とか言ったか、を発見した。どうやら生き残っていたらしい。

 ステイタス任せに走り回っているわけではなさそうだが、さて、一体どんな手段を用いて教師陣を搔い潜っているのか、と観察してみる。

 

「……へぇ?」

 

 すると実に興味深いことが分かった。

 何やら彼女、どうやら視界が広い、というよりは上空から俯瞰して場が見えているらしい。

 死角にいるはずの教師までもしっかりと察知して、その度に建物内に避難して回避している。

 素晴らしい。実に素晴らしい。

 レオンまでも回避できているのだから本物だ。

 

 だからこそ、試したい。

 

「すごい能力だな。そういうスキルか」

「…………!」

 

 ゴール直前で、彼女の目の前に降り立つ。

 彼女はここに至るまで、一度も教師陣に遭遇せずに辿り着いた。

 戦闘力も保証されているのだから、もはやこの時点で、俺は彼女に内定を出してもいい。

 だが、仮にこういう場面に陥った時、彼女がどうするのかも、知っておきたい。

 

「さて、ここを乗り越えればお前は晴れて成功なわけだが……」

「……そうすれば、【テスカトリポカ・ファミリア】に入団できる?」

「その通りだ。さて、どうする?」

 

 俺は今、彼女の目の前の道を塞ぐように立っている。

 そして、半端な特攻を選択するようなら、それは絶対に通さないつもりだ。

 

 俺が想定している最高の選択肢は、逃走だ。

 俺に背を向けて逃げ出し、他所からのゴールを目指すか、俺が過ぎ去るのを待つか。

 もしくは、俺の想定を上回る何かで以て、俺を出し抜くか。

 さぁ、どんな手を選ぶ…………?

 

「……ッ!」

「───ふむ」

 

 剣を投げて逃げ、近くの建物へと突っ込んだ。

 建物内で俺を撒くつもりか、と俺は推測し、上空へ移動。

 彼女が出てきたところを捕らえるつもりで待機していると───

 

「……マジか!」

 

 建物内に居たのであろう大勢の生徒を引き連れ、飛び出して来やがった。

 よく見れば、生徒の群れの真ん中あたりに彼女の姿が見える。

 そして生徒連中を引き連れたまま、彼女はゴールした。

 

 いやはや成程、これは盲点だった。

 カモフラージュという点は元より、授業を取っていない生徒には手を出せない、という臨時講師としての立場を盾に取って来るとは。

 素晴らしい、実に素晴らしい。これはもう内定だ。

 絶対に彼女は獲る。

 もう決めた。

 

 神殿塔(ブレイザブリク)の前で胴上げされている彼女を尻目に、俺は再び上空の旋回を開始する。

 あと気になるのはあの兜の生徒。

 捕まった生徒たちの顔ぶれを見るにまだ捕まっていないようだが……さて、彼はどうなったのだろうか?

 

 と、その後たっぷり十分ほどかけて俺は教師陣と学園層(アカデミック・レイヤー)を捜索するが、しかし制限時間になっても兜の生徒は見つからない。

 隠れて出てこないだけなのか、それとも何か事故に遭ったのか、と。

 我々がいよいよ心配になっていると───

 

「…………何か問題があったか」

 

 出てきた。普通に。神殿塔(ブレイザブリク)から。

 

「……どうやって移動した?」

「船の外縁から、居住層(ライブ・レイヤー)に降りた」

「…………成程」

 

 目から鱗であった。

 その突破法は全く想定していなかったぞ。

 面白いな、コイツ。

 

「……【テスカトリポカ・ファミリア】に興味はあるか?」

「ある」

「名前は?」

「レザー・ラウンドエッジ」

「Lvは?」

「3」

「そうか」

 

 よし、採用。

 

 何はともあれ、これでとりあえず三人は確保だ。

 テスカトリポカにいい報告ができそうである。




Topic:オリキャラ紹介

グレイ・ジェラルト(元ネタ:ベレス/ファイアーエムブレム)
 遠近両用かつ指揮官適正持ち、教育者としても運用可能とか言う有能。しかも強い。
 適任過ぎて採用しない理由が無かった。ベレトじゃない理由? 筆者の好み。

レザー・ラウンドエッジ(元ネタ:ゴブリンスレイヤー/ゴブリンスレイヤー)
 狂気持ちで、今ある手札を最大限活用できる。切り札の使い時を間違えない。場をそろえて格上殺しもできる。探索の面だけで言えばラウルの上位互換みたいな性能してる有能。
 徹底的に不確定要素を消しにかかる戦い方はテスカトリポカ好みでは無いが、自衛もできる有能サポーターとして採用。

タキオン・アルヴェスタ(元ネタ:アグネスタキオン/ウマ娘)
「薬剤師をお求めかい!? だったら私を出すしかないねぇ!」と筆者の脳内に現れた。
 獣人・狂気・逃げ足といい感じの要素を兼ね備えていたので拒む理由が無かった。
 その後に現れたヒロ・シノサワが「私もできる、よ」とか言い出したがダンジョンだと普通に死にそうで、留守番させようにも出番がなくなりそうだから却下した。
   
Q.なんでオリキャラなん? クロスオーバーでよくね?
A.あくまで元ネタのあるオリキャラってことにした方が書きやすいし設定もしやすいから。
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