冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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新たな家と家族

 約一週間の船旅を終え、『学区』がオラリオへ……正確には、オラリオから3K(キルロ)ほど離れた港街メレンへ、神々や住民達に歓迎されながら、大量の物資や技師たちと共に到着した。

 それと同時に教師としての任期を満了した俺も、内定を出すことが出来た三人と共にメレンに降り立った。

 本音を言うならもうちょっと欲しかったところだが……まぁ、うん。この三人に比べてしまうとどうにも見劣りしてしまい……結果として、この三人を連れて行くという事に決めた。

 

 ちなみに神バルドルにその旨を伝えると、「あ、それなら三人に卒業認定出しときますね」と言って、本当にその日のうちに卒業証書を三人に手渡していたし、恩恵を改宗(コンバージョン)待ちの状態にも変えていた。

 俺としてはそれで有難いのだが、本当にそれでいいのか『学区』と思わずにはいられない光景であった。

 

「はーッ! これが迷宮都市オラリオの港口、メレンかぁ! いやはや、随分と栄えているものだねぇ! 私の故郷とは大違いだよ!」

「……グレイ。あれが逸れないように見張っておいてくれ」

「わかった。……タキオン、そんなにはしゃぐと危ないよ」

「…………」

 

 目を輝かせてあっちこっちに目移りしまくるタキオン、極めて冷静沈着なグレイ。冷静沈着を通り越してもはや人形かなと思ってしまうレベルのレザー。

 目下最大の不安は彼と彼女らがテスカトリポカと相対したときにどうなるか、というものであるが……まぁ、いざという時は俺がどうにかすればいいという話だ。

 そういう時のための契約でもあったわけだからな。

 だから今考えるべきは、何といっても迷宮攻略についてである。

 

「あ、居た居た。カイくーん!」

「む、アーディか」

 

 俺がそうして今後のことについて思案していれば、遠くからやって来たのは実に一週間ぶりになるアーディであった。

 ブンブンと手を振りながら、笑顔でこちらへと走って来る。

 ……が、しかし、この感じは……

 

「まさか、ランクアップしたか」

「うんっ! これで晴れてLv4! 私、もっと強くなったよ!」

 

 走り方にぎこちなさを覚えたので聞いてみれば、やはりそうであった。

 それは素晴らしい吉報だ。

 まぁ、コロシアムであれだけの大立ち回りを見せていたのだから、そりゃあランクアップしてもおかしくないという話だろう。

 何にせよ、これは本当に吉報だ。

 Lv4になるのなら、新たに加入した3人と戦わせてもいいかも知れない。

 

「おやおやおやおやァ? よもやそちらの方は【象神の詩(ヴィヤーサ)】アーディ・ヴァルマ嬢ではないかな? 今さっきのランクアップの話は本当かい? そして彼とはいったいどんな関係なのか、興味があるねぇ?」

 

 走って来たらしいタキオンが、至近距離からその狂気的な瞳でアーディを覗き込む。

 少し遅れて風が吹き、彼女の白衣がはためいた。

 

「うん、そうだよ! 【ガネーシャ・ファミリア】団長の妹で、今は【テスカトリポカ・ファミリア】所属Lv4の、アーディだよっ! それであなたは?」

 

 タキオンを真正面から見つめ返し、変わらずの天真爛漫な笑みを浮かべるアーディ。

 明らかにヤベー奴がいきなり現れようと変わらず対応できるところに、俺は戦慄を覚えずにはいられないが、しかし当のタキオンはそんな事まったく気にしないらしい。

 

「私はタキオン・アルヴェスタ。目的あって【テスカトリポカ・ファミリア】の世話になることになった者だよ。どうぞよろしく」

「へぇ、そうなんだ!」

 

 アーディが視線で俺に事実確認を求めるので、俺は頷きで以て肯定を示した。

 

「他にも二人いる。まず俺の後ろに居るのがレザー・ラウンドエッジ。それと……」

「タキオン、いきなり走り出したら……あれ?」

「そっちのグレイ・ジェラルトだ。タキオンはLv2、二人はLv3の即戦力だぞ」

「わっ、すごい! よろしくね三人とも! ウチに来てくれてすっごく嬉しいよ!」

 

 三人それぞれと握手を交わすアーディであったが、しかしグレイは何が起きているのか、いかんせんよく理解できていないようであるし、レザーも相変わらずである。

 

「それで、アーディ。わざわざここまで出迎えか?」

 

 ギルドは冒険者の都市外流出にはとことん神経質になるものである。

 そして今の時期は、冒険者も人手不足があまりにも深刻だ。

 ギルド長直々の命令で都市外に発った俺はともかく、Lv4冒険者たるアーディが都市外に出るには面倒な手続きが必要であっただろうことは想像に難くない。

 にもかかわらず、アーディはオラリオの入り口ではなく、ここにいた。

 であるなら、相応の理由がありそうなものだと考え、俺は質問したのだった。

 そして、それは正解であった。

 

「あぁ、そうそう! カイ君に伝えておかなきゃいけないことがあって───完成したよっ! 私たちの新しい本拠地(ホーム)!」

「…………ほう?」

 

 

 ■

 

 

 アーディに連れられて帰ってきたオラリオ。

 その大通りの一つに面する立地、周囲で大工たちが作業を進める中に、その建物はあった。

 高い壁と大きな門によって外界と隔絶された、一辺30~40M(メドル)程のその領域は、どこぞの戦いの野(フォールクヴァング)を思わせるような雰囲気を醸し出していた。

 まぁ実際のところ、俺が目指したのはアレなので、当然と言えば当然の話ではあるのだが。

 

「ひゃー……これまたすっごいのが出てきたねぇ」

「流石は第一級冒険者の本拠地(ホーム)……というところなんだろうか」

「…………」

 

 と、三人が驚いている横で俺が疑問に思ったのは、なんでこんなに完成が早いんだ、という一点に尽きた。

 俺がオラリオを発って十日程度。周囲が未だ基礎工事を進めているような段階であるにも関わらず、しかしこの巨大な建造物は完璧に完成しているらしい。

 早くて二か月後に完成という話はどこにすっ飛んでいったのだろうか。

 

「ウチの本拠地(ホーム)、基本的に木造だから他の建物と比べて楽だったんだって。色々と。あと無駄に土地だけデカいから最初にやっておいた方がやりやすいとか、木造だから資材が手に入りやすいとか」

 

 そんな俺の内心を見透かしたかのように、アーディはそう説明する。

 

「まぁ確かに土地代に結構費やして建造物自体はケチったが」

「ケチったの?」

「大抗争で貯金ごと元の本拠地(ホーム)がぶっ飛んでな。オラリオの復興計画がまとまる前に土地だけでも確保したいと急ぎで一億ほど稼ぎ、買った。土地さえ確保しておけば、どうとでもなると思ったのでな」

 

 俺の言葉を聞き、ちょっと不安げなグレイにそう説明する。

 土地さえ確保しておいて、建物は必要に応じて改築すりゃいいやと結論付け、土台部分以外はほぼ完全に木造で、って注文(オーダー)したのがウチの本拠地(ホーム)である。

 基本的に石造り、ないしレンガ造りが主流であるオラリオの建造物の中で言えば、確かに作りやすい方であろう。

 木材に関しても、オラリオの外に出ればすぐに森である。幾らでも確保可能だ。

 そう考えると、ほぼ完全に木製であることに加え建物は小さく庭ばかりデカいウチの本拠地(ホーム)は、さぞかし楽な仕事であったことだろう。

 

「ちなみに参考までに聞いておきたいんだが、お二人はどうやってそれだけの金額を稼いだのかな?」

「37階層のコロシアムっていう、怪物が無限に湧き続けるところで戦利品(ドロップアイテム)集めだよ。タキオンにはまだ難しいかもだけど、二人にはもう少ししたらやってもらうかもね」

「まずは迷宮の戦い方を知るところからだがな」

 

 いくらLv3とは言え、迷宮素人をいきなり深層域になど連れて行くものかよ。

 早速死なれたり、精神を壊されたりしても面倒だ。

 

「そんなことより、まずはテスカトリポカだ。アーディ、彼女は今どこにいる」

「テスカトリポカ様なら中に居るよ。案内するね」

 

 と、アーディに連れられ、俺たちは門の中へ。

 門をくぐるとまず目の前に広がるのは広大な庭。

 深層域の広間(ルーム)の何倍か広いその空間は、第一級冒険者同士が暴れるにしては少々心もとなかったが、第二級冒険者同士による全力戦闘程度なら許容できるだろう。

 そして視線を左にやれば、庭の一角を占領するように建てられた、2階建ての立派な木造建築が視界に映り込む。

 

「ふぅン? ケチったという割には立派じゃあないか」

居住区(ライブ・レイヤー)の学生寮よりは小さいけど……20人は余裕で収容できそう」

 

 二人がそう言うように、あの建造物は俺が想像していたそれより何倍も巨大で、確かに10人単位で居住できそうな規模である。

 

「……図面では見ていたが、実際に建てられると違って見えるものだな」

「ね。私も感動しちゃった」

 

 中に入ってみれば、驚きはさらに加速する。

 何ともまぁ立派な大広間に、設備の揃った厨房、風呂、複数の収納部屋、10を超える個室と。

 冒険者にとって役に立つ設備が大方揃っていた。

 やはり図面では見ていたものだが……実際に見ると、どうも立派に感じてしまう。

 

「ここを私の研究室(ラボ)とする!!」

 

 とかタキオンが大興奮したような調剤室や医務室まで備えていたのだから凄まじい。

 

「改築の予定もあるはずなんだが……」

「まぁまぁ、設備が揃ってる分にはいいじゃん」

「まぁ……そうか」

 

 そうして、最後に向かうのが、屋上。

 階段を上がり、扉を開けると、三角屋根の一角を切り開いたような、3M(メドル)四方ほどの空間があり───

 

「よォ、随分とまぁ遅かったじゃァねぇかよ」

 

 その中心に据えられた椅子に、彼女は座っていた。

 

「「───」」

 

 太陽を受けて輝く彼女の美貌と金色の髪に、元生徒三人は圧倒されているようだ。

 ……いや、正確には二人、か。

 レザーだけはどうにも、彼女の姿を見ても何とも思っていないらしい。

 まぁ、俺にそう見えるだけかも知れんが。

 

「色々と急に予定が入った。それだけの話だ。が、帰りが遅くなったことは謝ろう。詫びと言っては何だが、有望な新人を三人ほど、連れてきた」

「へェ? そりゃあいい」

 

 テスカトリポカが立ち上がり、品定めをするように三人を見る。

 審査の結果は……まぁ、どちらでも構うまい。

 

「オレはテスカトリポカ。多くを司る全能の神であり、太陽の主だ。オマエ等の名は?」

「レザー・ラウンドエッジ」

 

 美神の問に、レザーがまず最初に答える。

 すると、それに意識を取り戻したのか、残る二人もあわてて自己紹介を始めた。

 

「タキオン・アルヴェスタだ。目的あって派閥入りを望んでいる。ぜひ寛大な処遇を願いたい」

「グレイ・ジェラルト。私にも目的があって来た」

「ほォ。ま、いーんじゃねーの? 使い物にゃなるんだろ?」

「俺が見極めた。問題は無い」

 

 事実、この三人は『学区』の中でも特に使()()()()()()三人だ。

 その点は間違いない。俺が見ていないというだけで、他にも居たかもしれないが。

 ウチで死なずにやっていけるのは、きっとこの三人だ。

 

「じゃ、オレから言うこたァ特にねェ。早速恩恵を刻んでやる。こっちへ来な」

「ステイタス用紙は残しておいておいてくれよ。俺も見る」

「わーッてるよ」

 

 と、三人を連れてテスカトリポカは去ってゆく。

 

「ふぅ……さて、俺も色々あって疲れた。適当な部屋を一つ貰うぞ」

「あ、カイ君の部屋はテスカトリポカ様の部屋の隣ね?」

「はぁ…………わかった。お前も今日は早めに休め。明日は庭の調子を確かめるぞ」

「あはは、お手柔らかにね?」

 

 そりゃあ、手加減はするとも。

 限界はきちんと見極めるつもりだ。




Topic:【悲報】ゴブスレ、自分から全く喋らない。
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