冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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異端児編
厄ネタとの遭遇


 ダンジョンアタック開始から3週間。

 潤沢な事前準備を消費しながら進行を続ける俺達だったが、しかし決して順調であるとは言い難かった。

 

「ぬ……ぐぅ……ッ!!」

 

 40階層から始まる、『巨人の墓場』。

 一面の灰世界の中、まるで墓標の如く乱立する巨大石英(クォーツ)が特徴的なその領域は、数多の大型怪物が多く襲撃してくる階層なのだが……

 

「……随分と、挑みがいのある場所だッ!!」

 

 実に喜ばしいことに、俺はこの階層で苦戦を余儀なくされていた。

 深層40階層の大型級怪物ともなると、その耐久力と攻撃力は尋常のそれではない。

『残光』を数発以上も耐えるのだから相当であると言えよう。

 

 そして、そんな連中が連続して襲い掛かって来るものだから、俺としても自分のことに精一杯にならざるを得なくなってしまうのだ。

 これ以上の進行は難しいと判断した俺は、39階層の安全階層(セーフティポイント)にすぐに避難できる程度の位置に他四人を置いて経験値(エクセリア)稼ぎに興じていた。

 

「ラァッ!!」

 

激戦熱闘(スキル)】によって威力を底上げされた『残光』が、大型級の体を真っ二つに引き裂く。

 大量の灰が巻き上がり、幾らかの戦利品(ドロップアイテム)と共に巨大な魔石が落ちる。

 

「さぁ、次に…………む」

 

 既に許容量を超えて久しいリアカーの事を思い出しながら魔石を砕き、戦利品(ドロップアイテム)を焼きながら次なる怪物を探そうと飛び立とうとした俺だが、そんな俺の手元から鈍い感覚が響く。

 この三週間もの間続いた連戦に、遂に最硬精製金属(オリハルコン)が断末魔を上げたのであった。

 

「……チッ」

 

 こうなってしまった以上、流石に経験値(エクセリア)稼ぎを続けるわけにもいかない。

 一応、もう一本持ってきてはいるが、こちらはあくまでも保険。

 もう一本も折ってしまうと、エルマーが2本ともを打ち直すための2週間ほどを地上に拘束されることになってしまう。

 それは好ましくない。

 

 仕方ない。

 どうせもう魔石もこれ以上持ちきれないのだから、ここらで一旦、帰還することとしよう。

 蒼炎を吹かし、39階層の入り口付近へ。

 既にオラリオと同等かそれ以上の面積を持つ40階層では、その殆どを飛行によって短縮(ショートカット)可能となっていた。

 故に、俺はその気になれば、50階層にも楽々と飛んでいけてしまうのだろうが、しかし流石にそのようなつまらない攻略の仕方をするつもりはない。

 

「……む」

 

 そうして4人の居るであろう場所に戻ってみれば、どうやら今まさに大型級を一体相手取っている所らしい。が、もう大型級は全身傷だらけで満身創痍。

 統率の取れた動きで攪乱と攻撃を繰り出す彼女たち相手に、手も足も出ていない様子だ。

 倒れるのも時間の問題だろう……とか思っていたら、どうやら限界を迎えたらしく、体が灰に変わっていった。

 

「無事に討伐できたようで何より」

「あっ、カイ君! どうしたの、まだ出発してから3時間も経ってないよ?」

「剣が折れた。一旦地上(うえ)へ戻るぞ」

「ふゥン……これまた随分ド派手に折れたものだねぇ。直してもらうのかい? それとも買い替え?」

「直してもらう。一週間近くはまた地上だ」

「了解」

 

 そうして俺達はリアカーを引っ張って地上へ引き返してゆく。

 荷物が重い上に上り昇り道であるから行きよりは大変だったが、しかし第二級冒険者が4人もいるのだから、問題ないというものだった。

 あとは異常事態(イレギュラー)に巻き込まれなければいいのだが……何てことを考えていたのだが、それがいけなかったのだろうか。

 

 中層、20階層。

 大樹の迷宮の内部。

 その中ほどに差し掛かった辺りで、不意にグレイが口を開いた。

 

「……団長」

「何だ」

「妙な連中がいる」

「何が奇妙だ?」

「階層と実力が見合ってない気がする。一人はLv5で、……周囲を狂乱状態に陥れる呪詛(カース)を持ってる。そいつらが……一匹の怪物を甚振ってる。拘束用の道具もあるみたい」

 

 相変わらず頭おかしい性能のグレイの能力に溜息を吐きながら情報を整理する。

 妙に強い連中が、一匹の怪物を囲って、甚振ってる。

 しかも拘束具まで用意してる、と。

 

「……怪物趣味ってやつか?」

「えぇ……? 何だいソレ」

「文字通り、怪物に性的嗜好を感じる変わり者だ。まぁ、女性体を持つ怪物もいるからな」

 

 見た目は死ぬほど醜悪だが、という言葉は呑み込んでおく。

 

「……しかし、怪物の捕縛か。……調教(テイム)ではないのか?」

 

 調教(テイム)

 怪物の魔石に魔力を流し込むことで、怪物を従わせることが出来る、そういう技術だ。

 ただし当然ながら、それが出来る人物はそう多くはない。

 そもそも高難易度な上にリターンも少なく、怪物を味方にすることに生理的嫌悪を覚える人間が大多数だから、まず調教(テイム)を覚えようとする人物が少ない。

 しかし、決していないわけではない。

 だから念のためにと聞いてみるが……

 

「そういう様子は見られないけど……」

「ならば、闇派閥(イヴィルス)の可能性が高いな」

 

 そう判断する。

 仮にそうでなかったとしても、怪物を捕らえ、運び出そうとする輩がロクな連中であるわけもないが……現状はまだグレーである以上、問答無用で殺すわけにもいかない。

 

「お前らはここで待っていろ。俺がやる」

「大丈夫そう? 相手はLv5もいるけど」

「狂乱の呪詛(カース)持ちがいるのだろう。俺が狂乱したら目も当てられない事態になる。お前達は離れていろ」

「わかった」

 

 アーディ達が離れたことを確認すると、俺は予備の剣を抜き放ち、蒼炎を吹かして上空へ移動。

 そしてグレイに教わった方向へ移動すると、確かに数人の輩が一匹の怪物を囲み、拘束具を填めているようだった。

 だが。その怪物が、妙だった。

 

 それはハーピィだった。この階層では出現しないはずの怪物だ。

 しかも、何というか……妙に人間らしい。

 更に言えば、先程怪物は醜悪な見た目ばかりと言ったばかりなのに、顔が良い。

 その翼と耳さえ隠せば、人間の美人と言っても通用するレベルだ。

 挙句の果てに───

 

「いやっ、やめろ……やめて……ッ!!」

「……人の言葉、だと……?」

 

 明らかな異常事態(イレギュラー)

 人の言葉をしゃべる怪物など、一体何の冗談だというのか。

 そして、そんな怪物を嬉々として捕えようとするコイツ等はいったい何者なのか。

 探る必要がある。

 

「ッ!!」

 

 そう判断した俺は、連中に向けて一気に加速。

 怪物を拘束していた連中をぶっ飛ばして、着地する。

 

「ッ、誰だテメェ!」

「いや待て、コイツ、【煌く蒼(シリウス)】だ!!」

 

 俺を認識した連中が顔を青くして、後ずさる。

 これで、コイツ等が何か後ろ暗いことを抱えていることは確実だな。

 

「ッ、た、助けて!」

 

 後ろに居たハーピィがピーチクとそんなことを言ってきた。

 どうやら俺を味方だと認識したらしい。

 正直、不快ではある。

 

「それを決めるのは話を聞いてからだ。生かすか殺すかは後で決める」

 

 怪物は殺す。

 そうしなければならない存在だと俺は認識している。

 少なくとも、今のところは。

 だから事が済めばコイツも殺す。

 コイツが例外となるか否かは、まだわからない。

 

「……【煌く蒼(シリウス)】……オイオイ、いいのかよ。天下の英雄サマが、怪物退治を真面目にやってた俺らをこんな目に遭わせちまってよぉ?」

「色々と説明をして貰わねばならないんでな。……あぁ、そうだ。俺はお前の呪詛(カース)の存在は把握している。妙なことをすれば……まぁ、分かっていると思うが」

「ケッ、おいおい、この人数相手に戦えると思ってんのか? 後ろのソイツを守りながらよぉ?」

「守れなくても問題はない。どうせ怪物だ」

 

 そう、この場において、俺が守るべきものは存在しない。

 彼らが俺に攻撃を仕掛けた瞬間、俺は全力を以てコイツ等を叩き潰せば良いのだ。

 そしてそこに、怪物の安否は含まれない。

 

「……………………」

「……………………」

 

 沈黙が訪れる。

 周囲の連中も、ゴーグルの男も動かない。

 そして俺も、向こうが何か行動をするまで、動くつもりはなかった。

 

「…………取引だ」

「ふむ? 取り合えず、条件を言ってみろ」

「俺は……俺らは、今すぐここから引き上げよう。俺達はこの場所には足を踏み入れなかったし、何も見なかった、聞かなかった。その代わり、アンタは少なくとも今この場で俺達に危害は加えないし、俺達のことは見なかった。それでいいか?」

「それでは足りん。コレについての情報を言え。それで応じてやる」

 

 俺がそう言えば、ゴーグルの男は手に持った槍に力を籠める。

 が、俺が剣先に蒼炎を灯してやれば、すぐに観念したように槍を地面に突き刺し、両手を挙げた。

 

「残念ながら、俺達もそいつらについて詳しいことは知らねー。ただ、金になるってだけ言っておいてやる。……これでいいかよ?」

 

 ……欲しかった情報は得られなかったが……まぁ、妥協はできる。

 

「…………何処へでも行け」

 

 俺が蒼炎を納め、剣を肩に担げば、連中は蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行った。

 

「さて」

「ッ」

 

 俺が振り向けば、半ば拘束されて身動きの取れないハーピィが体を震わせる。

 さて、どうするか。

 正直、面倒事だという事は明白でこの上ないが……

 

「お前にも聞かなきゃならんことがある。……暫く、付き合ってもらうぞ」

 

 取り合えずパーティの所に戻って……尋問して、地上に連れ出し、ギルドへ報告。

 それから……どうするか。最悪フィンとシャクティ……アリーゼ辺りも巻き込んで協議しよう。

 少なくとも殺すかどうかは、まだ決めるべきではない。




Topic:カイはその気になれば今すぐにでも『穢れた精霊』のところまで飛んでいけたりする。
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