冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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人語を話す怪物

 20階層の正規道順(ルート)から離れた場所にある、木の洞のような広間(ルーム)

 その中央に跪くハーピィを囲み、俺達は立っていた。

 

「あ、あの、わ、私は……私たちは、あなたたちに危害を加えるつもりはありません……! どうか、見逃してください……!」

 

 流暢な共通語(コイネー)で命乞いをする怪物(ハーピィ)に、メンバーの表情は芳しくない。

 アーディは何とも複雑そうに眉を歪め、タキオンは不快感を隠そうともせず、グレイは敵意の籠った目を向けるのみ。

 兜で表情の見えないレザーも、即座に首を切り落とせるよう、剣に手をかけていた。 

 彼らが即座にこの怪物を殺さないのは、俺が殺さないよう言い含めているから。

 もし俺が殺せと言えば、彼らはその瞬間にこの怪物を殺すだろう。

 

「それで? これは一体何の冗談だい?」

「冗談だったら良かったんだがな。残念ながら何も冗談ではない。この怪物は人の言葉を解し、話す事さえもできる。更に言えば、知性と理性さえ持ち合わせるらしい。信じ難いことにな」

「危険だよ。即刻殺すべきだ」

「既に魔石をかなりの量食べているみたい。潜在能力(ポテンシャル)はLv4に近い……これ以上力をつける前に、殺した方が良いと思う」

「……ごめん、カイ君。流石に、これは……」

「お前らが言わんとすることは理解しているつもりだ。知性のある怪物など、危険極まりない」

 

 怪物は魔石を食らう事で強くなる。

 それも、我々人間のように神の血(イコル)経験値(エクセリア)も必要なく、ただ魔石を食らうだけで、幾らでも強くなれる。際限なくだ。

 だから、たとえ1階層に出現する最弱の怪物(ゴブリン)でさえ、深層域の魔物や階層主の魔石を食らい続ければ、それこそ第一級冒険者にも匹敵するだけの力を得ることが出来る。

 

 だからつまり、知性のある怪物とはつまり、『あらゆる条件を無視して、とんでもない速度で際限なく強くなれる冒険者』と同等であると言っていい。

 しかも闇派閥(イヴィルス)なんかとは比べ物にならない程質が悪い、という枕詞もつく。

 こういう例え方は少々嫌だが、人間に対する害意を持った俺が解き放たれるようなものだ。討伐されるまでにどれだけの被害が出るかなど、想像もつかない。

 

 それにもしかしたら、人間に扮して地上に出てくる可能性さえある。

 流石に三大冒険者依頼(クエスト)級の被害を及ぼすわけではないにせよ、水面下から人類を殺す害悪になる可能性も、決して否定できないわけだ。

 普通に考えれば、即刻殺処分するのが適当だろう。

 

 しかし、その上で。

 

「まだ殺さない。殺すべきではない。少なくとも今は。俺がそう判断した」

「何故だい!? 怪物は人類の敵、そうだろう!? 知性と理性を持ち、人語を話す怪物など、何をしでかすか分かったものではない!!」

「だからこそだ。……なぁ、お前」

 

 俺が怪物に話しかければ、怪物は再び体を震わせ、青い瞳を揺らしながら俺を見た。

 

「俺の質問に答えろ。正直に、そして正確にだ」

「は、はい、わかりました……」

「お前のような人語を解する連中は、お前だけではない。そうだな?」

「えっ…………は、はい。私の他にも……居ます」

「だろうな。種族は」

「え、えぇと、ガーゴイルに、リザードマンに……」

「わかった、もういい」

 

 あのゴーグルの男は、別にこの怪物に拘る様子を見せなかったし、他にこれと同類のような怪物を売り飛ばしたと取れるような発言もしていた。

 だから、このような怪物は、決して一匹ではないと推測できる。

 そして、このように当人からも証言を得ることが出来た。

 

「何をしていたのかは大体想像がつく。大方、この辺りの階層にねぐらのようなものがあり、そいつらのために魔石を回収しようとしていたところ、連中に捕捉された、といったところだろう」

「はい、その通りです……」

「はぁ…………本当に面倒なことになった」

 

 俺は溜息が漏れ出ることを抑えることが出来なかった。

 

「つまり……これのような怪物は、多くの階層で自然発生する上に、明確な共生関係を築くことが出来る……?」

「少なくとも、怪物同士であるのなら、だがな」

 

 人間と同じようにできるかと問われれば、まぁ無理だろう。

 ほぼ確実に。

 

「……一度、地上に戻る。コレを連れてだ」

「いいの? カイ君?」

「よくはない。だが、必要性はある。今回の一件で、『やらなければならない事』と『憂慮すべき事』が一気に増えた。コイツはその証明になってもらう必要がある。……帰ったら本拠地(ホーム)に有力派閥の団長と主神を集めて話をするぞ。俺はフィンに声をかけて来る。アーディ、お前はガネーシャとシャクティ、それと【アストレア・ファミリア】に話を付けてきてくれ」

「うん、わかった」

 

 テスカトリポカにも話をしなければならんな……はぁ、大変だ。

 

「それはいいけど……それで、それはどうやって地上に持ち出すつもり?」

「リアカーに乗せる。袋はまだ余りがあったろう。それを被せて乗せろ。溢れた荷物の一つは俺が手持ちで運ぶ」

「了解」

「……そういうわけだ。お前には地上に来てもらう。当然、少しでも変なことをしようとすれば、その時点でお前は殺す。いいな?」

「は、はい……わかりました……」

 

 そうして、俺達は怪物を乗せ、地上に帰還することになった。

 幸いなことに、リアカーに乗せられた袋の一つを怪しまれることは無く、俺達は極めて平常通りに換金を済ませ、本拠地(ホーム)へ帰還を果たした。

 

「タキオン。食堂を会議場に用意(セット)しろ。『学区』の会議室のような形が望ましい」

「わかったとも」

「レザー、お前はアレの監視。グレイは本拠地(ホーム)近辺の監視だ。侵入者を発見次第、俺に合図しろ」

「了解」

 

 グレイに火炎石を改造した、信号弾とでも呼ぶべきものを手渡す。

 そして、そのままテスカトリポカの神室に足を運ぶ。

 

「テスカトリポカ。帰還して早々にすまんが、緊急事態だ」

「あァ? 一体何が起きたって?」

「聞くよりも見た方が早い」

 

 テスカトリポカを部屋から連れ出し、拘束しておいたハーピィの下へ。

 

「……え、えっと……あの……」

 

 椅子に縛り付けられているハーピィは、両翼と両足は固定されていたが、猿轡の類は噛まされておらず、口は自由に動く。

 喋ることを見せつけるためだった。

 

「どう見る?」

 

 テスカトリポカは人の言葉を話す怪物に目を見開き、驚愕を露わにしていた。

 流石のテスカトリポカも、これには驚くほか無いようだった。

 

「…………ハーピィの仮装(コスプレ)しやがッたガキが縛られてる……ってわけじゃァ、なさそうだな。さてはとんでもねェ厄ネタを拾いやがッたな?」

「その通りだ。今から信頼できる派閥の連中を集めて協議を行う。いざとなったら、魅了の出番になるかも知れん。アンタも出ろ」

「あァ、いいぜ」

「頼んだ」

 

 そう言ってテスカトリポカと別れ、外に出る。

 真っ先に向かうは【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)、『黄昏の館』だ。

 取り合えずフィンには話を付ける必要がある。

 これは確実だ。

 何せ闇派閥(イヴィルス)にも関係することだ。

 アイツは、確実にこの件を把握しておく必要がある。

 

 同様に、【ガネーシャ・ファミリア】と、【アストレア・ファミリア】もだ。

 正直、【アストレア・ファミリア】の方は、「モンスターと共生しましょう!」とか言い出しそうな気がしなくも無いがするから呼ぶのは気が進まないが、彼女たちの影響力が必要になる場合もあるだろう。

 それに、後々になってから暴走されても面倒だ。初めから話を付けておかなければ。

 

 それと……

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………気は、進まんが」

 

 あの神にも、話を付ける必要がありそうだ。

 本当に気は進まんが。

 こういうことに関して、あの神は役に立つ。

 あの羽根つき帽子の神は、こういう時にこそ役に立つのだ。




Topic:カイは【フレイヤ・ファミリア】には「知らせるだけリスクが増える」と判断した。
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