冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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怪物協議

 日が沈んで暫く、月がようやく頂点に達したかという頃合い。

【テスカトリポカ・ファミリア】の本拠地(ホーム)に招待された派閥が揃った。

 集まったメンツは、フィンとロキ。シャクティとガネーシャ。アリーゼと輝夜、アストレア。そしてアスフィとヘルメス。

 

 都市を代表する有名派閥、その中でも特に信用できる派閥の主神と団長を集めた形だ。

 また、この場に居る面子の他にも数名の団員が護衛として周囲に展開している。

 盗聴の対策は、ほぼ完璧と言って差し支えなかった。

 

「で? 久しぶりに会ったと思ったら、緊急事態とだけ言って帰っちゃうもんだから、気になりすぎて夜の予定を全部キャンセルして来たわけだけど……これは一体、どんな騒ぎなのかな、カイ君?」

「君のことだ。本当に緊急事態なのだろうけど……そんなに秘匿性が高いのかい?」

「私たちも呼んでるあたり、都市に関する問題なのよね?」

 

 真っ先に口を開くのは、ヘルメスだ。

 他の面々も、ヘルメスに同意を示し、俺の発言を待つ。

 事実、俺は彼らを呼び出すために、緊急事態であるという事だけを伝えていたし、アーディにもそうするよう言い含めていた。

 彼らは今、この建物にどんな爆弾が眠っているかなど、知る由も無かった。

 

「俺が説明するよりも見た方が早い。……アーディ」

「はいはーい」

 

 俺が合図を出せば、アーディが奥から椅子ごと縛り付けられたハーピィを運んでくる。

 

「なんや、何が来ると思ったら、随分なべっぴんさんやないか。その娘がどうかしたん?」

「いいえ、神ロキ、あれは───」

「ハーピィ……怪物だ」

「はぁ!?」

 

 俄かに場の空気が張り詰める。

 当然だ。地下に封じられているべき怪物が、地上に居る。

 人間ならば不快感と共に警戒心を覚えて然るべきである。

 神の力(アルカナム)を封じ、並の人間と同等の力しか持たない神であっても、それは同様だ。

 

「驚くのは、まだ早いぞ。……おい、自己紹介だ」

「え、ええと……シーファと申します……種族はハーピィで……その……モンスター、です」

 

 俺が促し、怪物が応える。

 たったそれだけの、3秒にさえ届かない短いやり取り。

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 その行為のもたらす衝撃は、正に想像を絶するものだった。

 当然だ。人は人、怪物は怪物……その絶対的な区分における判断基準の一つが、完全にひっくり返されたのだから。

 

「オイオイオイオイオイオイ……一応聞いておくが、調教(テイム)したわけじゃあないよな? そう喋るよう訓練されたとか……」

「違う。こいつ確固たる意志を持って話している。何ならこの場で会話してくれてもいい」

「これも迷宮のもたらす異常事態(イレギュラー)の一種……なのかしら」

「何という、ガネーシャだ……!!」

 

 もはやこの場に、俺の言った『緊急事態』の意味を理解できていない者はいない。

 誰もが驚愕を露わにし、ある者は目を見開いて怪物を凝視し、またある者は目を細めて怪物を細かに観察する。

 

「今から行いたいのは、コイツの周りで起きている諸問題についての報告。それから、その対策についての協議だ。そのために、知恵と力を貸して欲しい」

「その場で殺すと判断できないだけの『何か』があった。そう捉えても?」

「構わん」

「ギルドへの報告は?」

「していない。ロイマンが我が身惜しさに『無かったこと』にする可能性や、無用な混乱を招く情報が不用意に拡散される可能性を危惧した。ギルドもこの件に巻き込むか……その辺りまで含めて、協議したい」

「成程……わかった。君の慎重な判断に感謝しよう」

 

 人語を解し、話せる怪物の存在など、下手に知られれば大混乱が起こる。

 ただでさえオラリオ復興と闇派閥(イヴィルス)残党への対処で手一杯な今の時期だ。

 闇派閥(イヴィルス)の残党に付け入る隙を与えかねない混乱は、防がねばならない。

 

「さて、では先ず、分かっていることを伝える。とは言ってもそこまで多くは無いが」

 

 そうして俺が伝えたことは、以下の通り。

 第一に、この怪物が唯一の例ではない事。

 第二に、この怪物のような個体は、どの階層でも出現する可能性がある事。

 第三に、20階層近くに、このような怪物たちの集まるねぐらがある事。

 最後に、闇派閥(イヴィルス)ないしそれに近しい派閥がこれらの怪物の存在を我々よりも先に認知し、資金源として確保、都市外へ売却している可能性が高い事。

 これらの四点だ。

 あのゴーグルの男との取引では、俺はあの男と会わなかったことになっていなければならないはずだが……まぁ、考慮してやる理由はない。

 

闇派閥(イヴィルス)の資金源……それは本当かい? 情報源は?」

「怪物を捕獲しようとしていた連中だ。一人はLv5だった。妙なゴーグルをした野郎だが……第一級冒険者だというのにどうも知らん。誰か知らないか」

 

 俺がそう言えば、ヘルメスが突然椅子からずり落ちた。

 

「…………………………………………成程ね」

「何か心当たりがあるの、ヘルメス?」

「あぁ。恐らく、【イケロス・ファミリア】のディックス・ペルディクスだ」

「……イケロスか」

「詳細を教えてくれ」

 

 俺が説明を要求すれば、闇派閥(イヴィルス)との関連が疑われるが、現状では確定的ではない、グレーな派閥である、とのことだった。

 

「ウチの団員が調査を入れても尻尾を出さなかった連中だよ。……だからこそ言えることもあるが……彼らが迷宮外に持ち出しているものは、極めて一般的な魔石と戦利品(ドロップアイテム)だけだ。怪物何て持ち出してはいない。当然、調教(テイム)の報告もない」

「………………ふむ?」

 

 チラリ、と視線をアスフィの方へ向けてみれば、不安げな表情を浮かべつつも、彼女は確固たる意志と確信で以て頷いた。

 となると、連中が怪物の類を一匹たりとも迷宮の外に持ち出していない事は確定、か。

 

「……改めて確認するが、【煌く蒼(シリウス)】。お前が会ったのは【暴蛮者(ヘイザー)】ディックス・ペルディクスで間違いないのだろうな?」

「知らん」

「いや、知らんって……」

「実際、名前など聞かなかったからな。だが少なくとも、ヘルメスと状況証拠は奴がそうだと語っている」

「となると……怪物の搬出経路が気になるね」

 

 その通りだ。

 怪物の体躯は大きいものから小さいものまで様々だ。

 小さい怪物だけならともかく、大型の怪物を外に運び出すのならそれに見合った規格の入れ物……檻でも箱でも、運び出される怪物を隠すに足るだけの『何か』が必要になる。

 しかし、【ヘルメス・ファミリア】はそのようなもの確認していない。

 

「……おい、お前」

「は、はい!?」

 

 いきなり水を向けられたハーピィが、ビクリと体を震わせた。

 

「今までに、お前の仲間の中で、連中に攫われた怪物は居るか」

「は、はい……あ、アイツらはずっと私たちのことをつけ狙っていて……! 今までにも、な、何人もの、仲間たちが……!」

「聞かれたことだけに答えろ。そして数詞に『人』を使うな」

「ッ、す、すみません……」

 

 自分でも思っている以上に怒りの感情を孕んだ声色が漏れ、ハーピィは俯いた。

 怪物の癖に自らを人のように扱うとか言う烏滸がましい真似に腹が立ってしまったとは言え……いかんな。気が立ち過ぎている。

 

「カイ……」

 

 アリーゼがいつになくか細い声で俺の名を呼んだ。

 この怪物を可哀そうと思う気持ちと、怪物は怪物であるという事実の狭間で揺れているのだろう。

 彼女はそういう人物だ。そう思ってしまうのも、仕方がないだろう。

 だが、それとこれとは話が別だった。

 

「種族と時期を」

「わ、私が把握している限りだと、2ヵ月ほど前にオークの子が……最近になって、小竜(インファント・ドラゴン)が……」

 

 そのタイミングで俺はチラリとヘルメスの方を見るが、ヘルメスは首を横に振る。アスフィも同様だ。

 つまり、少なくとも【ヘルメス・ファミリア】はそれらが運び出されている光景を目撃していない、と。

 

「……流石に、小竜(インファント・ドラゴン)程の体躯の怪物が運び出されるのを見落とすわけがない。……体の大きい怪物は売りに出さないのか、或いはまだ運び出されていないのか……」

「後者だとすれば、迷宮の未発見領域か、正規ルートから外れたどこかに『倉庫』のようなものがあるのかも知れないね」

「調べてみるか?」

「いいや、発見は難しいと思うぜ。そうだろ、アスフィ?」

「はい。未発見領域は発見が極めて困難であることが殆どです。彼らを尾行しようにも、まず気付かれる上……消されると考えるべきでしょう。リスクがあまりにも高すぎます」

「ふむ」

 

 確かに、それもそうだ。

 あの男はまず間違いなく俺を殺すつもりだった。

 それをしなかったのは、単に俺に敵わないとあの男自身が判断したからだ。

 そうでなければ、問答無用で消しにかかるだろう。

 

「…………成程、そのための人数か」

「人数、って言うと?」

「俺が見た限りだと、連中は30人ほどで固まって行動していた。俺のパーティメンバーは、それを『階層と実力が見合っていない』と表現していたが、アレが対怪物ではなく、対冒険者であるのなら、納得もできる」

「ンー……絶対に気付かれるね、それは」

 

 弱い冒険者が尾行すれば殺される。

 俺のような強い冒険者が尾行すれば、連中は何気なく探索を続けているように演出する、か。

 

「人数を増やせばどうだ。一人でも生きて帰って来れれば……」

「いや、奴は狂乱の呪詛(カース)を持つ。多人数は望ましくない」

「…………………………………………本当に厄介だな」

 

 シャクティが呟いた通りだ。

 現状、打つ手がほぼ無いと言って良かった。

 強硬手段にさえ出難いのだから、厄介極まりないと言っていいだろう。

 

「テスカトリポカ様の魅了なら、何とかなったりしないのかい?」

「してもいいが……どォするよ?」

 

 テスカトリポカが俺を見た。

 確かに、テスカトリポカが魅了の権能を行使すれば、全てが終わるだろう。

 だからこそ、俺も彼女をこの場に同席させた。

 この場に並んだ誰かが……それこそ神が、怪物を殺しに動こうとしたとき、俺はテスカトリポカに動いてもらうつもりだった。

 しかし……

 

「まだ、その段階ではないな」

 

 魅了は最後の手段であるべきだ。

 そうでなければならない。

 

「この場合、どうするべきだ。フィン」

「打てる策を打つしかない。都市外に出る荷物に対して検品を行おう」

「では、それは【ガネーシャ・ファミリア】が受け持つ」

「俺がウラノスへ直接話を付けてみよう! そうすれば知られることも、もみ消されることも無いはずだ!」

「任せた」

 

 あの連中に対して出来ることと言えば、今はそのくらいか。

 となると、次は……

 

「コレの扱いだな」

 

 人の言葉を話す怪物。

 生かすべきか、殺すべきか。

 保護するべきか、殲滅するべきか。

 それを、今から決める。

 

「私は、生かして保護するべきと思うわ」

 

 真っ先にそう言ったのは、やはりと言うべきか、アリーゼだった。

 

「少なくとも彼女は、他の怪物とは違う。理的で、知的で……何より、仲間想いよ! もしかしたら人間(わたしたち)と共生できるかもしれないわ。今は無理かもしれないけれど、時間をかければ……」

「共生はともかく、生かしておくべきだとは俺も思う」

「ふむ、どうしてかな?」

「敵に回すと厄介だからだ」

 

 知性を持った怪物……それも、迷宮内で自然発生し、異種間でもコミュニケーションを取る事が可能で、協調も十分にできる。互いに協力し合って魔石を集め、互いの強化を行うことも出来る。

 もしかすれば、第一級、第二級冒険者並みの力を持った怪物どもが、互いに連携を取り合いながら冒険者を殺す網を迷宮内に張ることになるかも知れない……そういう可能性だって考えられる。

 そうなっては、面倒だ。

 

「そ、そんなことはしません!」

「お前はそうかも知れん。だが、他の連中がそうであるとも限らんだろう。あのディックスとやらに散々やられているのだろう? 人間という種族全体を憎んでいる輩だっているはずだ」

「それ、は……」

 

 ハーピィが沈黙する。

 それが答えだった。

 

「だから完全に敵対するより、保護という名の飼い殺しにすべきだ……とは、思う」

「それは良いが、誰がそれをするつもりだい? バレた時のリスクは、尋常のそれじゃないよ」

「だろうな」

 

 怪物は人類の敵だ。

 そんなのを保護していると知られれば、そいつも人類の敵であると認識されても、何らおかしくはない。

 むしろ、そう思われる事こそが健全でさえある。

 だから、その策を取る場合は───

 

「誰かがトカゲの尻尾となる覚悟がいる。……そしてそれは、決して俺達であるべきではない」

 

 大抗争の英雄。勇者。都市の憲兵。正義の使徒。都市の耳。

 泥を被るには、あまりにも俺達は有名過ぎた。

 

「最悪、迷宮都市そのものの信用を失墜させかねない。ただでさえ信用がほぼ無いのが今のオラリオだ。これ以上の信用の喪失を招けば、二大神が失敗したあの時以上の『地獄』が出来るよ」

「ッ……」

 

 アリーゼはアストレア神を見るが、アストレア神は首を横に振る。

 自らの立場というものを、良く分かっているのだろう。

【アストレア・ファミリア】は正義の徒。それが人類の敵だったと知られれば、巻き起こる疑心暗鬼は尋常のそれではないはずだ。当然、それによって起こる様々な被害も。

 派閥でさえ受け止めきれない巨大すぎるリスクを前に、アリーゼも口を閉ざさざるを得なかった。

 

「保護は愚策。かと言って、保護せずに放置していても、いたずらに闇派閥(イヴィルス)の戦力を増強させる事態に発展しかねん上、怪物たちも勢力を強め続けるかもしれない……っちゅーとこやな」

「生かすも殺すもリスクか。面倒な話を持ち込んでくれたものだな、【煌く蒼(シリウス)】」

「持ち込みたくて持ち込んだわけでもない」

 

 ハッキリ言って、人語を解する怪物の存在は俺たちにとってあまりも厄介だ。

 どうにか対処しなくてはならないのだろうが、どの対処法を取っても大きな問題の発生が予想されるからだ。

 

「どうにかして、怪物の存在に、忌避感を持たないようにはできないだろうか!! そうすれば、みんなハッピー!!」

「それが出来ればいいんだけどねぇ。ちなみにガネーシャ。参考までに言っておくが、怪物による死者数は未だに年間で数百件近いぞ」

「ぬぬぅ……!!」

 

 怪物に対する忌避感を無くす。

 言うは易し、行うは難し。

 人の心はそう簡単に動かない。

 実際にこうして被害まで出ているのだから、特に。

 

「………………………………………………………………」

 

 ガネーシャの発案を最後に、沈黙が訪れる。

 誰も、現実的な案を出せずにいた。

 

「取り合えず、実際に会ってみたら?」

「む?」

 

 その沈黙を破ったのは、控えていたアーディだった。

 

「実際にとは……どういうことだ?」

「他にもいるんでしょ、シーファちゃん? みたいな怪物って。ね?」

「あ、は、はい……」

「だったら、まずはその子たちと会ってから考えようよ。実際はどうかもわからないのに、推測ばっかりで話すよりは、ずっといいと思わない?」

「む」

 

 それは………………そうだ。

 ド正論である。信じられないくらいのド正論だ。

 頭をぶん殴られたような気分になる。

 他の面々も、同じような表情をしていた。

 

 俺は何か反論が無いかと心の奥を探るが……これはもう駄目だな。

 もう俺は納得してしまった。となれば、もうその案を採用するしかない。

 

「……俺達を、お前の仲間たちの所へ案内することは、可能か」

「え? あぁ……はい、できます、けど…………」

「お前にもその仲間にも、決して危害を加えないことを約束しよう。一度、この目で見て、話して、その上で判断がしたい」

「………………わかりました。案内します」

 

 幾らかの思考の末、ハーピィは頷いた。

 

「では早速出るぞ。メンバーはウチのメンバーと……」

「僕は行こう。この目で確かめたい」

「アスフィ、行け」

「分かりました。では私も同行します」

「私は……すまないが、残らせてもらう。ガネーシャと共にやるべきことが出来たのでな」

「では、【テスカトリポカ・ファミリア】、フィン、アスフィ、アリーゼ、輝夜で行く。早速出るぞ」

 

 そうして、俺達は月夜の中、再びダンジョンに潜るのだった。




Topic:ダンまちの怪物を知れば知るほど、原作ベル君はマジで異常だと分かる。
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