深夜に決行された異色のパーティによるダンジョン攻略は、静かに、しかし速やかに進行し、数時間と経たせることなく20階層へ降り立った。
ハーピィの話によれば、この階層が目的の階層であるというが……
「どこだ?」
「あ、はい。
「ふむ」
どの階層でも変わらず濃緑の
故にその近辺は怪物が多く非常に危険であるので、普通の冒険者は近寄らないのが鉄則だった。
が、この階層かつこの過剰戦力パーティが挑むのなら全く問題は無い。
むしろやりすぎて他の冒険者たちが被害を受けないように遠慮する必要さえあるだろう。
「この地図で言うと?」
「えーっと、これが多分アレだから……ここですね」
大きな翼の先で、指差すように地図上の点を示す。
現在、件のハーピィ……シーファは既に拘束から解放されていた。
無論、怪物であるとバレるわけにもいかないので、大きめのローブをすっぽりと纏わせており、その結果として自慢の翼を窮屈そうに畳ませることになってはいるが、それ以外は全くの自由である。
無論、何か妙な真似をした瞬間に首を刎ね落とす準備はしっかりとしているが……
「貴方たちも
「あ、まぁ、そういう時もあります。あんまりおいしくはないですけど、飢えはしのげますから……」
「そうなんだ……アレって人間が舐めても大丈夫な感じだったりする?」
「えぇ? わ、わかりませんが、やめておいたほうがよろしいかと……」
……約二名ほど、既にスッカリと絆されている連中はどうしたものだろうか。
まぁ……うん。それが彼女たちの良いところなのだから、今更俺が特に何を言う理由も無いが。
下手な真似だけはしないで欲しいところである。
「こっちだね」
「ああ」
「あの、あの二人は……」
「もうどうしようもありませんので、放置しといてくださいな」
「グレイ君にレザー君。怪物はもう良いから周囲の人間にだけ警戒しておいてくれたまえ。こんなのを周囲に見られては、事だ」
「了解」
「……」
学区三人組が有能で助かるな、と。
そんなことを思いながら怪物どもを粉砕しつつ歩き続ければ、目的地に辿り着いた。
20階層に広がる『大樹の迷宮』と
「……あの
「ふむ?」
グレイが指差した先に在るのは、ただの
幾つもの
「
爆撃すれば、確かにその奥に下へと続く通路の入り口が姿を見せた。
……が、それもわずかな時間のみ。
数十秒と時間をかけず、
いくら再生する迷宮内の構造物とは言えど、その速度は異常の一言。
「間違いなくこれよね」
「そうだろうね。実際どうなんだい?」
シーファを見れば、彼女はコクコクと首を縦に振った。
どうやらこの先で間違いないらしい。
再び
「では、お前が先行しろ。向こうにいきなり攻撃されては、敵わん」
「わかりました。付いてきてください」
薄暗い斜路を、俺の蒼炎で照らしながら進んでいく。
斜路の最奥には、泉があった。
奥行き、幅、深さ、それぞれ5
「……成程?」
泉を覗きながら、呟く。
透明度の高い澄んだ水中は、俺の蒼炎で明るく照らされていて───奥に続く横穴を、ハッキリと映し出していた。
「普通にやっていれば、絶対に見つからなかっただろうな、こんなもの」
「えぇ……これを自力で探し出せ、と言われなくて幸運でした」
これがグレイだったならば……いや、グレイでも難しいだろう。
何せダンジョンは広大だ。ヒント無しに見つけられるものではない。
その点で言えば、このハーピィはやはり生かしておいて正解だった。
「どれ。先ずは行ってみるか」
「うん。そうだね」
ドボンと音を立て、水中へ。
鎧の中に水が浸入し、衣服を濡らして、えも言えぬ不快感を伴った冷たさを俺の肌に伝える。
俺はほんの一瞬、蒼炎の出力を全開にしてこの水を吹き飛ばしてやろうかと考えたが、流石にこんな場所でそんなことをやってしまえば他の冒険者たちが茹で上がる。
仕方がないので、そのまま水の中でも輝きを損なわない蒼炎の光で以て横穴を照らしながら進み、その先にあった出口から顔を出せば、そこは鍾乳洞のような黒い領域だった。
少なくとも、俺の知識の中には存在しない領域だ。
地図を確認しても、それらしき記載は一切ない。
「間違いなく未開拓領域だな」
「らしいね。流石にここを地図に載せるわけにはいかなそうだが」
蒼炎を広げ、メンバーの衣服から水分を飛ばしながら、呟く。
未開拓領域。
それは迷宮都市オラリオが築かれ、1000年以上もの間探索されたにも関わらず、未だ誰しもが辿り着いたことのない領域。
どの地図にも記されず、誰の記憶にもその領域の情報はない。
正真正銘の未開の地であり……つまり、危険な場所という事であった。
が。
「便利ねこの炎。私の魔法でも再現できないかしら」
「やめといたほうがええと思いますよ。服ごと燃えて大惨事になる未来しか見えません」
「カイ君の魔法が何でもアリってだけだからね」
女子陣は死ぬほど暢気であった。
俺の蒼炎を掬っては、キャッキャと騒いでいる。
まぁ、Lv5が二枚もいるパーティが、幾ら未到達領域とは言え後れを取るとは思えないのは確かであるが。
とは言え警戒は怠るべきでは無かろうに。
「……まぁいい。シーファ、先導を頼む」
「わかりました……」
シーファを先頭に、暗く細い通路を進む。
皆、自然と無言のままに彼女の後を追従した。
先程まで弛緩していると思われた空気は既に完璧に緊張し、あらゆる異変を見逃すまいと目を光らせている。
こういったスイッチのオンオフの切り替えも、彼女たちの強さなのだろう。
「……いる。この先、怪物たちが、20体くらい待ち構えてる」
そして視界の先に、通路の終わりが見え始めたころ、不意にグレイが口を開いた。
どうやら向こうはこちらの存在を既に把握し、戦闘態勢を整えているようだった。
その報告に不味いと思ったのか、シーファが冷や汗を流しながら、道を塞ぐように翼を広げた。
「同胞たちです。……私です! ハーピィのシーファです! ただいま到着しました!」
シーファがよく通る声で名乗りを挙げれば、向こう側が俄かに騒がしくなるのが分かる。
無事だったのか、だとか。後ろに誰を連れてきている、だとか。
そんな声が次々と飛んできた。勿論それらは流暢な
俺は目配せして、事情を伝えるように要求すると、彼女はこくんと頷く。
「彼らは敵ではありません! 彼らは我々との対話を望んでここに来られました!」
「騙されているのではないのか!」
「違います! 彼らは私をあの連中から助けてくれました! 彼らがここに来たのは、我々の存在を知るためです、そのために少なくとも今回は同胞たちを決して傷つけないと約束してくれました!」
彼女がそう声高に主張する。
すると再び向こうが俄かに騒がしくなる。
どうやら口論のようなことをしているらしい。
「追い返されたらどうする?」
「その時は素直に引き返す。無論、その場合は排除の方向に舵を切ることになるが。……それでいいな、アーディ?」
「普通に入れてくれると思うよ?」
アーディがあっけらかんとそう言う。
そして彼女の予言が的中したのは、その約1分後このことだった。
「オカエリナサイ、シーファ。ソシテ歓迎シマス、冒険者ノ方々」
代表して俺達を迎えるのは金翼の
シーファと同じく人間のそれと同等……あるいはそれよりも優れた容姿を持つ彼女に連れられて空間内部に移動する。
「……これは……」
蒼炎で照らすまでも無く、魔石灯によって明るく保たれた空間を埋めるのは、冒険者の如き武装を携えた怪物たち。
当然、
正面には、年季の入った鱗を揃える
コイツがこの怪物たちの長なのだろうか。
と、そう思っていると、その傍らに控えていた
「オマエ達ガシーファヲ助ケタ事ハ、聞イタ。『
石の怪物はそう言うと、恭しく頭を下げた。
しかし、その目は俺達をつぶさに観察し、一挙手一投足を見逃すまいと煌めいている。
……本当に、どこまでも人間臭い連中だ。
「礼は要らん。結果的にそうなっただけだ。そして真の意味で助けるかどうかは、今から決める」
「カイ君。その言い方だと誤解を招いちゃうよ。ごめんね、皆。今日は皆とお話に来たんだ」
「話、カ」
警戒を解くことなく、
「そう、お話し。まずは、君たちのことを聞かせて欲しいな」
ここから先は、彼女の面目躍如か。
そう思った俺はその場に立ったまま腕を組み、アーディに主導権を明け渡すのだった。
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