冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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賢者/愚者

『先ずはシーファを助け、また彼らに危害を加えず会話を試みようとしてくれたことに感謝したい。だがその上で、君の案は些か賛成しかねる。それではまるで奴隷や家畜のようだ。共生しているとは言えないのではないだろうか』

「そうだ。だが、必要な措置ではあるだろう。もし本当に怪物が地上を目指し、人類との共生を願うのならば、怪物たちに先ず必要なのは、言語を喋れるか否かでは無く、人々と同じ社会性を持つか否かでも無い。怪物を受け入れる下地だ」

 

 俺は何も彼らが永遠に奴隷のように生きるべきだとは考えない。

 彼らが望むのが、我々と同等の立場であることなど、とっくに理解している。

 その上で、今は無理だと言っているのだ。

 

「人間と怪物の確執は長く続きすぎた。多くの悲劇が怪物の手によって生まれ、多くの人々が怪物に殺された。人間にとって怪物とは忌むべき悪だ。それを乗り越えたいと望むのなら、生半可な手段を選んでいる場合ではないと思うが」

『無論、理解しているとも。その上で、過激だと言っているのだ。もっと穏便な方法を、我々ギルドは考えている。だから私は君にそれを代案として示そう』

「……では、詳しく教えてもらおうか」

 

 俺が続きを促すと、フェルズとやらが提唱し始めたのは、『怪物祭(モンスターフィリア)』なる催し物についてだった。

 何でも、【ガネーシャ・ファミリア】や【アストレア・ファミリア】などの力を借り、地上で上級冒険者が怪物を調教(テイム)する姿を多くの人間に見せつけることで、怪物への恐怖心を薄れさせ、怪物を受け入れる下地を作るという案だった。

 

「成程、悪くない」

 

 俺はかなり感心した。

 確かにその祭りは怪物が下で人間が上という意識を人々に植え付けるには十分だろうし、何よりオラリオの興行にもなる。

 一石二鳥を狙えるという点で言えば、素晴らしい案であると思えた。

 だがやはり、穴はある。

 

「もしも失敗し、怪物が脱走でもすれば大惨事になるし……何より、通常の怪物と異端児(ゼノス)とではあまりに事情が違い過ぎる。どのように段階を踏んで言語を喋る怪物を受け入れさせるつもりだ?」

『第一段階で人々を怪物に慣れさせ、第二段階で街で怪物を試験的に運用する。第三段階で街に怪物がいることを常態化させ、最終的に異端児(ゼノス)が居ても何らおかしくない状況を作り上げる』

「ふむ、まぁ妥当か。では重ねて質問しよう。事故はどのように防ぐ?」

『事故?』

「お前の出した計画は、当然だが、その途中で怪物が人間を攻撃するなどの事件が起きないことを前提としている。街を歩くのが調教(テイム)された怪物だったとしても、人類の天敵としての能力を失う事はあるまい。ちょっとしたことで大怪我に繋がる事故が起きる可能性があるわけだが……それはどう対策するつもりだ? ……いや、これだけではないな。民衆や冒険者が怪物を攻撃し、それによって怪物が暴走する可能性だって考えられないか?」

 

 怪物を仇に持ち、恨み心頭である者は、冒険者に限らず大勢いるが。

 俺がそう付け足せば、フェルズはしばらく黙り込んだ。

 

『何も今この段階で怪物を街に放つわけではない。数年、数十年、数百年という年月をかけ、ゆっくりと浸透させてゆけばいい』

「希望的観測が過ぎるなフェルズとやら。それだけの年月をかけて、彼らの存在を隠し通せるとでも? 状況が一方的によくなり続けるとでも? 俺はそうは思わないがな」

 

 確かに、怪物祭(モンスターフィリア)を続け、フェルズの思い通りに事が運べば、数十年後や数百年後には異端児(ゼノス)を受け入れられるだけの下地が整うかも知れない。

 

 だが、異常事態(イレギュラー)はえてして起こるものだ。

 異端児(ゼノス)は偶発的に出現する怪物。

 たまたまこの怪物を発見した派閥が、俺達のように地上に連れ帰り、その結果大々的に知られることになる、なんて事態が数十年もずっと起き続けないとは思えない。

 闇派閥(イヴィルス)が卸した先で発覚する可能性だってある。

 ギルドからの任務の最中に見つかる可能性も無くはない。

 異端児(ゼノス)の暴走だってあるだろう。地上に強烈な憧憬を抱いているのにも関わらず長い年月閉じ込められるならば、我慢が出来なくなる個体が出るかもしれない。

 要するに、今はまだ大勢に見つかっていないだけで、発見されるのは時間の問題でしかないのだ。

 

 それに、だ。どうにもフェルズは時間さえかければ怪物への心証が確実に良い方に動くと思っているらしいが、俺に言わせてもらえばそんなわけがない。

 怪物による被害は未だ少なくないのだ。

 二大派閥の黒竜討伐失敗から発生するようになった『訪竜問題』だってある。

 怪物に対する憎悪は増すばかりだ。

 怪物祭(モンスターフィリア)が上手く行っても、それを上回るだけの何かが起こる可能性だって、決して少なくない。

 長い年月をかけるのなら猶更だ。

 

「お前はどうやらその辺りが理解できていないらしい。いいか? 異端児(ゼノス)を取り巻く問題は、きちんと管理していれば思い通りに進むものではなく、もはや爆発まで秒読み段階に入った爆弾だ。そもそも我々による異端児(ゼノス)の発見とて、お前が想定していなかった異常事態(イレギュラー)だろうが。俺達が俺達だったから良かったものの、そうでなければどうなっていたか」

 

 もしかすれば、何事も無く終わった可能性も無くは無いだろうが……

 最悪の事態に発展していた可能性だって、皆無ではない。

 

「いいかフェルズとやら。俺はこの件を早急に解決したい。可及的速やかに解決案をまとめ、実行してもらいたい。そしてその理由はそこの連中のためでもオラリオのためでも無ければ、貴様らギルドのためでもない。俺がスムーズに迷宮攻略を進めるためだ」

 

 ついでに、我が友人たちの名誉のためもある、と付け足しておく。

 もしもフェルズの案が通れば、俺達は共犯者となる事を余儀なくされる。

 そうなれば、様々な陰謀が俺たちを取り巻くことになるだろう。

 そしてそれが不本意な形で公となった時、より大きなダメージを負うのは【勇者(ブレイバー)】と【アストレア・ファミリア】の印象だ。

 特にフィンの方は不味い。こんなことのために彼の人生を棒に振らせるわけにはいかない。

 

 そして何より。

 異端児(ゼノス)やそれを取り巻く人や神の陰謀が、俺の冒険を妨げる。

 そんなことが起こってはならない。

 俺は冒険を続けなければならないのだから。

 故に、不安の芽は早めに摘んでおきたいのだ。

 

「奴隷で結構だろう。いつ爆発するかも分からない爆弾のまま、密漁者共に怯えて長い年月を生きるよりは、どうせ起きる混乱を出来るだけ小さい形に先倒しする方法を考える方がマシだと思うが」

 

 俺の提案を拒否したいのなら、相応の案を引っ張り出して来い。

 俺がそう言うと、魔道具(マジックアイテム)は沈黙する。

 実に気まずい静寂が、隠れ里を襲った。

 

『………………………………では、君に新たな提案をしよう。カイ・グレイル』

「ふむ、聞こう」

『異端児(ゼノス)を、君の迷宮攻略に役立ててみるつもりはないか?』

「……ほう?」

 

 どうやら、面白い話が聞けそうだ。




Topic:ここで主人公が懸念したことが大体全部起きたのが原作ルート。ベル君がベル君じゃなかったら確実に終わってた。
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