冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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賢者の提案

『我々ギルドは……正確に言えば、私とウラノスは、異端児(ゼノス)の存在が迷宮攻略、ひいては黒竜討伐の大きな助けになると確信している。協力関係を結ぶことは、決して不利益にはならないと、ウラノスの名の下に保証してもいい』

「成程な。実に面白い話だ」

『彼らは大きな戦力になる。リドやグロスはLv4に匹敵するだけの能力を持ち、レイやシーファは空を飛べる。シルバーバックやオークは力持ちだ。より多くの荷物を運ぶことも可能になるだろう。そしてあまり公にしたくはない情報だが、人魚(マーメイド)の異端児(ゼノス)さえ居る。これらの意味が分からない君ではないはずだ』

「そうだな」

 

 飛行能力の無法さは、俺が一番よく理解しているつもりだ。

 そして、人魚(マーメイド)の生き血は万能薬(エリクサー)にも匹敵する……あるいはそれ以上の治癒力を誇る。

 つまり、『味方の人魚(マーメイド)が居る』という状況がもたらす力は、信じられない程に強い。

 他にも有用な素材を提供してくれる異端児(ゼノス)が居るかもしれないと考えれば、確かに彼らと協力関係を結ぶという選択肢がもたらす利益は大きいだろう。

 だが……

 

「わからんな、フェルズ。今のお前の発言だと、俺達が連中を奴隷のように扱う事を容認しているように聞こえる。そいつらが死んでしまって構わないとでも?」

『それは違うぞ。君は我々の共犯者となり、全面的に異端児(ゼノス)の……彼らの望む形での人類との共存を支援する立場となる。いたずらに彼らを死なせることは許されない。無論、彼らの人間と手を取り合いたいと言う願いも尊重しなければならない。その代わり、異端児(ゼノス)も君たちの迷宮探索に貢献する……当然、ギルドからも相応の支援を出そう。それでいいな、リド?』

「お? あ、あぁ、まぁ、そりゃあ、それなら、今までやってきたこととあんまり変わらねぇし……いいんじゃねぇの?」

 

 突然水を向けられたリドが、しどろもどろになりつつも答える。

 それに鋭く反応するのは、隣に佇んでいたグロスだ。

 

「ソウ易々ト決メルナ、リド! 先程ノ会話ヲモウ忘レタカ! 連中ハ信用デキン!」

「で、でもよぉ、シーファを助けてくれたのは事実だぜ? それに、さっきの話も、そりゃあ内容はひどかったかもしれねぇけど、元を辿りゃァ、オレっち達を人類と共存させようとちゃんと考えてくれたわけで、悪い連中だとは思えねぇ」

「ソレガ甘イト言ッテイルノダ! 一度手綱ヲ握ラレテシマエバ、抜ケ出スノハ困難ダ! ソウナッテシマエバ煮ルモ焼クモ人間ノ自由ニナル! 先程モ言ッテイタダロウ! 生殺与奪ヲ人間側ニ委ネロト! ソレガ連中ノ狙イナノダ!」

「流石にそんなことにはならねぇだろ!? フェルズだっているんだぞ!?」

「フェルズトテ人間側ニハ変ワリナイ!」

 

 リドとグロスが言い合いを始める。

 それを他の異端児(ゼノス)達が不安げに見つめる中で、俺が感じたのは。

 巨大な違和感、とでも言うべきものだった。

 

「……ヤツは自分が何を言っているのか理解しているのか?」

 

 奴隷扱いはダメだが、迷宮探索には協力する。

 殺すのはダメだが、戦力として運用することは許容する。

 言っていることが矛盾している。

 

 探索に協力してもらう……とは一言に言っても、協力の方法は様々だが。

 戦力として運用する場合や、その他の目的で同行してもらう場合、危険な迷宮内を歩くことになるので、当然ながら死の危険性は増す。

 特に戦力として同行する場合、戦闘に参加する以上は、死のリスクも増す。

 

 これらの危険性を理解しながら、迷宮探索に協力する、と言うのであれば。

 その道中で死んでしまっても仕方がない、と承諾しているものと捉えられる。

 仮にそんなつもりは無かったとしても、普通に考えればそうなってしまうのだ。

 

 迷宮探索において、派閥間で協力体制を組むことが少ないのは、その辺りが理由だった。

 仮に協力関係を組むにしても、死んでしまった場合を考慮して、責任の所在や賠償の有無と条件などを揃えるのが常だ。

 

 にも関わらず、フェルズは俺達に異端児(ゼノス)を死なせてはならないと言う。

 仮にこれが、人魚(マーメイド)の生き血を定期的に卸すだとか、そう言う話なら、まだ納得できた。

 しかし、フェルズは明らかに異端児(ゼノス)を戦力、ないし探索に同行するメンバーとして計上していた。

 これは明らかにおかしいと言わざるを得ない。

 

「話にもならんな」

「そうだね。でも、だからこそ、気になる」

「……何?」

 

 それまで沈黙を保っていたフィンが、低い声でそう言った。

 

「まだ確信を得れているわけじゃないから、今のところこれは僕の所感でしかないんだけどね。多分だけど向こうは、この場を流したいんじゃないかな」

「流す……か」

 

 まぁ、確かに。

 俺としてはこの提案を受ける理由は無い。

 俺達が得られるものは非常に少なく、異端児(ゼノス)は野放しのまま、リスクは俺達が一方的に背負う……流石にそんなことは認めたくない。

 となれば俺達はこの案を突っぱねるのが自然な流れだが……

 

「……そこまで狙っているのか? 俺にはアイツがそこまで頭が回るとは思えんのだが」

「そこがそもそもおかしいんだ。ウラノスの腹心が、その程度のわけが無い。表のことはロイマンが取り仕切っている以上、恐らく彼は裏方(フィクサー)って事になるんだろうが……そんな彼があのような拙い交渉しかできないとは考えにくいんだ」

「ぬ」

 

 まぁ、言われてみればそんな気もするが……

 

「……そもそも、その情報が嘘である可能性は?」

「低いだろうね。調べれば……それこそ、ガネーシャに確認を取れば一瞬で看破される嘘を吐く理由がない。多分だけど、何(・)か(・)事(・)情(・)が(・)あ(・)る(・)んじゃないかな」

「私もそう思うわ」

 

 突然俺達の会話に割り込んでくるのは、やたら大人しくしていたアリーゼだった。

 いつもの天真爛漫な表情も今は鋭く、極めて冷徹に思考を動かしているらしかった。

 

「だって、行動がチグハグすぎるんですもの。こーゆー事態になってしまったのなら普通、カイの考えたみたいに、滅ぼすか、徹底的に管理して隠すか、さもなきゃ護衛を固めるべきじゃない? 都市神(ウラノス)様の神意もあるのなら、それこそギルドの全権を行使できるわけなんだし。大事に思うのなら、そうすべきだと思うの」

「でも、やっている様子は見られない、と。こういう案件が真っ先に割り振られそうな【ヘルメス・ファミリア】の新団長様も、御存知なかったようでございますしねぇ。……で? 実際のところいかがです?」

「…………少なくとも、私は知りませんでした。シャクティと神ガネーシャも知らなかったようですし……知っていてヘルメス様だけですが……」

「つまり、ギルドが我々以外の冒険者に『共犯者』の打診をしている可能性は限りなく低い。そう考えるといよいよ、わけのわからない事になる。となると……」

「…………俺達の知らない情報の中に、あらゆる前提を覆す『鍵』があるという事だろうな」

 

 そしてそれを知るためには、フェルズと会話をした方が良さそうだ。

 というか、向こうもそれを狙っているのだろう。

 この場を流して一度俺達を地上に戻し、そのタイミングで接触するつもりなのだ。

 であれば、さっさとこんな茶番、終わらせてしまおう。

 

「言い争っているところ済まない、少しいいだろうか」

「え? あ、あぁ……」

「……」

「このまま結論が出るまで対話を行いたいところだったが、こちらにも少々事情があってな。急に来たものだから、時間がない。話を一時中断し、一旦地上に帰りたいと思う」

「デアレバサッサト───」

「帰りたいところだが、そうなるとお前達が逃げてしまう可能性も考えられる。そこで、互いに人質を取り合う事を提案しよう」

「「「「「「!!」」」」」」

 

 先程から会話をしていて気付いたことだが。

 コイツ等はシーファを含め、仲間意識が異様に強い。

 それを利用させてもらう。

 

「こちらからはアーディを出そう。……いいな?」

「うん、大丈夫だよ」

「そして、そちらからも一体、人質として出してもらいたい。今のお前たちの面子を考えると……そうだな、そこの歌人鳥(セイレーン)」

「レイ、と申しマス」

「ではレイを所望する。それ以外だと、隠すのに苦労するだろうからな」

「…………!」

 

 正直、ここで選ぶのなら、シーファでもいい。

 だが、既に『死んだもの』と仮定されていたシーファより、中々に古株そうで尚且つ人に近いレイの方が、有効だろう。

 その予測が正しかったことを証明するように、俺が告げた瞬間、リドとグロスの表情が変わった。

 

『……リド、君はどう思う』

「…………レイ」

「リド、私は大丈夫でス。彼らハあの者達とは違ウ。そうでショウ?」

 

 レイが俺達を見る。

 もはや人のそれとしか見えない顔が、こちらからもよく見えた。

 

「分かった。……それじゃあ、オレっち達も人質を出す」

「馬鹿ナ! 考エ直───」

「グロス!!」

 

 リドが一喝した。

 Lv4並みの怪物の放つそれは、咆哮(ハウル)の如き音圧を持っていた。

 ぐわん、ぐわんと空間が揺れる。

 

「お前の心配は正しい。オレっちだって心配だ。でもよ、助けられたのもやっぱり事実なんだぜ?」

「ソレハ……」

「一回だ。シーファを助けてくれた分の一回、オレっちはアイツらを信じてみたい。もしこれでダメだったら……次は無い」

「…………ワカッタ」

「……そう言う事だ。くれぐれもレイを頼む」

「いいだろう」

 

 その形はどうあれ。

 人間と怪物、決して交わる事のないはずの二つの存在による取引は、確かにここに成立した。




Topic:異端児編をここでやる理由は『ギルドと共犯者になる→ヤバめの案件を振られるようになる→冒険が出来る』ってだけ。
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