『我々ギルドは……正確に言えば、私とウラノスは、
「成程な。実に面白い話だ」
『彼らは大きな戦力になる。リドやグロスはLv4に匹敵するだけの能力を持ち、レイやシーファは空を飛べる。シルバーバックやオークは力持ちだ。より多くの荷物を運ぶことも可能になるだろう。そしてあまり公にしたくはない情報だが、
「そうだな」
飛行能力の無法さは、俺が一番よく理解しているつもりだ。
そして、
つまり、『味方の
他にも有用な素材を提供してくれる
だが……
「わからんな、フェルズ。今のお前の発言だと、俺達が連中を奴隷のように扱う事を容認しているように聞こえる。そいつらが死んでしまって構わないとでも?」
『それは違うぞ。君は我々の共犯者となり、全面的に
「お? あ、あぁ、まぁ、そりゃあ、それなら、今までやってきたこととあんまり変わらねぇし……いいんじゃねぇの?」
突然水を向けられたリドが、しどろもどろになりつつも答える。
それに鋭く反応するのは、隣に佇んでいたグロスだ。
「ソウ易々ト決メルナ、リド! 先程ノ会話ヲモウ忘レタカ! 連中ハ信用デキン!」
「で、でもよぉ、シーファを助けてくれたのは事実だぜ? それに、さっきの話も、そりゃあ内容はひどかったかもしれねぇけど、元を辿りゃァ、オレっち達を人類と共存させようとちゃんと考えてくれたわけで、悪い連中だとは思えねぇ」
「ソレガ甘イト言ッテイルノダ! 一度手綱ヲ握ラレテシマエバ、抜ケ出スノハ困難ダ! ソウナッテシマエバ煮ルモ焼クモ人間ノ自由ニナル! 先程モ言ッテイタダロウ! 生殺与奪ヲ人間側ニ委ネロト! ソレガ連中ノ狙イナノダ!」
「流石にそんなことにはならねぇだろ!? フェルズだっているんだぞ!?」
「フェルズトテ人間側ニハ変ワリナイ!」
リドとグロスが言い合いを始める。
それを他の
巨大な違和感、とでも言うべきものだった。
「……ヤツは自分が何を言っているのか理解しているのか?」
奴隷扱いはダメだが、迷宮探索には協力する。
殺すのはダメだが、戦力として運用することは許容する。
言っていることが矛盾している。
探索に協力してもらう……とは一言に言っても、協力の方法は様々だが。
戦力として運用する場合や、その他の目的で同行してもらう場合、危険な迷宮内を歩くことになるので、当然ながら死の危険性は増す。
特に戦力として同行する場合、戦闘に参加する以上は、死のリスクも増す。
これらの危険性を理解しながら、迷宮探索に協力する、と言うのであれば。
その道中で死んでしまっても仕方がない、と承諾しているものと捉えられる。
仮にそんなつもりは無かったとしても、普通に考えればそうなってしまうのだ。
迷宮探索において、派閥間で協力体制を組むことが少ないのは、その辺りが理由だった。
仮に協力関係を組むにしても、死んでしまった場合を考慮して、責任の所在や賠償の有無と条件などを揃えるのが常だ。
にも関わらず、フェルズは俺達に
仮にこれが、
しかし、フェルズは明らかに
これは明らかにおかしいと言わざるを得ない。
「話にもならんな」
「そうだね。でも、だからこそ、気になる」
「……何?」
それまで沈黙を保っていたフィンが、低い声でそう言った。
「まだ確信を得れているわけじゃないから、今のところこれは僕の所感でしかないんだけどね。多分だけど向こうは、この場を流したいんじゃないかな」
「流す……か」
まぁ、確かに。
俺としてはこの提案を受ける理由は無い。
俺達が得られるものは非常に少なく、
となれば俺達はこの案を突っぱねるのが自然な流れだが……
「……そこまで狙っているのか? 俺にはアイツがそこまで頭が回るとは思えんのだが」
「そこがそもそもおかしいんだ。ウラノスの腹心が、その程度のわけが無い。表のことはロイマンが取り仕切っている以上、恐らく彼は
「ぬ」
まぁ、言われてみればそんな気もするが……
「……そもそも、その情報が嘘である可能性は?」
「低いだろうね。調べれば……それこそ、ガネーシャに確認を取れば一瞬で看破される嘘を吐く理由がない。多分だけど、
「私もそう思うわ」
突然俺達の会話に割り込んでくるのは、やたら大人しくしていたアリーゼだった。
いつもの天真爛漫な表情も今は鋭く、極めて冷徹に思考を動かしているらしかった。
「だって、行動がチグハグすぎるんですもの。こーゆー事態になってしまったのなら普通、カイの考えたみたいに、滅ぼすか、徹底的に管理して隠すか、さもなきゃ護衛を固めるべきじゃない?
「でも、やっている様子は見られない、と。こういう案件が真っ先に割り振られそうな【ヘルメス・ファミリア】の新団長様も、御存知なかったようでございますしねぇ。……で? 実際のところいかがです?」
「…………少なくとも、私は知りませんでした。シャクティと神ガネーシャも知らなかったようですし……知っていてヘルメス様だけですが……」
「つまり、ギルドが我々以外の冒険者に『共犯者』の打診をしている可能性は限りなく低い。そう考えるといよいよ、わけのわからない事になる。となると……」
「…………俺達の知らない情報の中に、あらゆる前提を覆す『鍵』があるという事だろうな」
そしてそれを知るためには、フェルズと会話をした方が良さそうだ。
というか、向こうもそれを狙っているのだろう。
この場を流して一度俺達を地上に戻し、そのタイミングで接触するつもりなのだ。
であれば、さっさとこんな茶番、終わらせてしまおう。
「言い争っているところ済まない、少しいいだろうか」
「え? あ、あぁ……」
「……」
「このまま結論が出るまで対話を行いたいところだったが、こちらにも少々事情があってな。急に来たものだから、時間がない。話を一時中断し、一旦地上に帰りたいと思う」
「デアレバサッサト───」
「帰りたいところだが、そうなるとお前達が逃げてしまう可能性も考えられる。そこで、互いに人質を取り合う事を提案しよう」
「「「「「「!!」」」」」」
先程から会話をしていて気付いたことだが。
コイツ等はシーファを含め、仲間意識が異様に強い。
それを利用させてもらう。
「こちらからはアーディを出そう。……いいな?」
「うん、大丈夫だよ」
「そして、そちらからも一体、人質として出してもらいたい。今のお前たちの面子を考えると……そうだな、そこの
「レイ、と申しマス」
「ではレイを所望する。それ以外だと、隠すのに苦労するだろうからな」
「…………!」
正直、ここで選ぶのなら、シーファでもいい。
だが、既に『死んだもの』と仮定されていたシーファより、中々に古株そうで尚且つ人に近いレイの方が、有効だろう。
その予測が正しかったことを証明するように、俺が告げた瞬間、リドとグロスの表情が変わった。
『……リド、君はどう思う』
「…………レイ」
「リド、私は大丈夫でス。彼らハあの者達とは違ウ。そうでショウ?」
レイが俺達を見る。
もはや人のそれとしか見えない顔が、こちらからもよく見えた。
「分かった。……それじゃあ、オレっち達も人質を出す」
「馬鹿ナ! 考エ直───」
「グロス!!」
リドが一喝した。
Lv4並みの怪物の放つそれは、
ぐわん、ぐわんと空間が揺れる。
「お前の心配は正しい。オレっちだって心配だ。でもよ、助けられたのもやっぱり事実なんだぜ?」
「ソレハ……」
「一回だ。シーファを助けてくれた分の一回、オレっちはアイツらを信じてみたい。もしこれでダメだったら……次は無い」
「…………ワカッタ」
「……そう言う事だ。くれぐれもレイを頼む」
「いいだろう」
その形はどうあれ。
人間と怪物、決して交わる事のないはずの二つの存在による取引は、確かにここに成立した。
Topic:異端児編をここでやる理由は『ギルドと共犯者になる→ヤバめの案件を振られるようになる→冒険が出来る』ってだけ。