冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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主神の裁定

 金髪金眼の幼女、アイズ・ヴァレンシュタイン。

【ロキ・ファミリア】所属、レベル2で、俺の一代前の世界記録保持者(レコードホルダー)。称号は【剣姫】。

 重度の戦闘狂で、【戦姫】や【人形姫】の渾名で闇派閥(イヴィルス)からはおろか、同業者(冒険者)からすら恐怖の対象とされ、忌避される幼女。

 また、神ロキ最高のお気に入りであり、【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ、【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ、【重傑(エルガルム)】ガレス・ランドロックの『ロキ・ファミリア三首領』の寵児でもある…………

 

 …………さて、本当にどうしたものか。

 ロキとの面識こそ無いとは言え、三首領────特にフィン────とは個人的な交流がある。

 連中がアイズを可愛がって育てているのは知っているし、アイズの強くなりたいと言う望みに手を焼いている事もよく知っている。 

 アイズと歳が近く、それでいてアイズ以上の速度でランクアップした俺を、アイズの教育に利用できないかと、連中がテスカトリポカを訪ねて来たからだ。

 

 ……だからこそ、判断に困る。

 彼女の強くなりたいと言う望みは、俺としては応援したいところだ。

 ここで強くなる方法とやらを俺の知る限り伝えてやる事も、やぶさかでは無い。

 多分、テスカトリポカもそれを望んでいるだろう。

 

 だが、三首領とロキは間違いなくそれを望んでいない。

 俺は俺がそうなりたいから『冒険』をするのであり、テスカトリポカも俺にそうあって欲しいと思っているからこそ『冒険』を続けられるのだ。

 それに対して、コイツはそれを望まれていない。

 三首領も、そしてロキも、コイツに『冒険』を望んでいない。

 特にリヴェリアなんかが顕著だ。間違ってもコイツが『冒険』をしないようにと、苦労している様を街やダンジョンでも度々見かける。

 

「………………ぬぅ………………」

 

 本当に困る。

 テスカトリポカの眷属として冒険の手解きをしてやるべきか、アイツらの……曲がりなりにも友人として追い返してやるべきか。

 二律背反と言うやつだ。どちらを選ぼうと、どちらかを裏切る結果になる。

 そうなるのであれば、俺が優先するべきは、果たしてどちらなのであろうか。

 

「……オイ、何ウチの前で騒いでやがる……」

 

 と、そんな風に葛藤していれば、テスカトリポカが眠たげに目をこすりながら出てきた。

 どうやらベッドから起きてそのまま来たらしく、全裸で。

 

「服を着ろ」

 

 その輝くような肌が目に映った瞬間、半ば条件反射でその言葉が飛び出た。

 

「あぁん? 何だ? 不敬か? アッチじゃあこれが正装なんだが?」

「何度も言っているだろう。ここは下界だ。服を着ろ。それか家に戻れ。アンタ自分が『美』を司ってる自覚はあるのか」

 

 こんなんだが、テスカトリポカは『美』を司る美神である。

 美神の裸体とは即ち、下界の者達にとってあまりにも過剰すぎる『美』の暴力。

 常人が見れば、たちまち昇天してしまうだろう。

 勿論のこと、文字通りの意味でだ。

 だから早急にテスカトリポカに服を着せるか家の中に押し戻す必要がある。

 

「おうおうおうおうおう不敬だぞオイ。オレが自分の司ってるモン忘れるわけがねぇだろうがよ。ってかそもそもテメーが家の前で騒ぎ立てなきゃわざわざ出てきたり……あァ?」

 

 どうやらそこでアイズに気付いたらしい。

 話を途中で切ったテスカトリポカが、その金色の瞳をアイズに向ける。

 そしてジロジロと無遠慮にアイズの体を上から下まで、舐め回すように観察し始めた。

 彼女が話を聞くに値するか、その価値を測っているのだろう。

 いやそんなの後でいいので早く服を着て欲しい。

 

「……何しに来た?」

 

 どうやら査定の結果は合格だったようだ。

 

「……強くなる方法を、聞きに来た」

「ほう? 成程なァ……」

 

 興味深そうに、顎に手を当てて考え始めるテスカトリポカ。

 その表情は何とも楽しげであり、そして実に悪い顔をしている。

 正直俺としては何でもいいのでさっさと服を着て欲しい。

 

「連れて行ってやれ、カイ」

 

 流石にこれ以上はまずいと家の中に服を取りに行こうとすると、テスカトリポカはそんな事を俺に言った。

 連れて行けとは、言うまでもなくダンジョンへ、と言う事だろう。

 

「……それはどうなんだ。テスカトリポカ」

「教えてやる必要なんてねぇ、見せて覚えさせろ。その過程でもしソイツが死んだとしても、その時はその時だ。ソイツが勝手について行って勝手に死んだ。そう言う事になる」

「それでいい。連れて行って」

 

 テスカトリポカの提案に即座に乗ったアイズの瞳が、早くしろと言わんばかりにこちらを射抜く。

 

「……しかしな、テスカトリポカ。俺と連中には……深くはないが、決して浅くもない関係があるだろう。いわゆる『義理』と言うものがあるはずだ」

「じゃあダンジョンにいる間、オマエがソイツを守れ。それで『義理』とやらを押し通せる」

「なぁ、テ─────」

「口答えするな」

 

 俺の言葉を遮って、テスカトリポカは神威を叩きつけそう言った。

 思わず膝を折ってしまいそうになるのをぐっと堪え、テスカトリポカを見上げる。

 俺を見下すその表情に、昨日のような可愛げは無い。

 戦士の神として、試練の神としての『テスカトリポカ』がそこに居た。

 

「オレがやれと言ったんだ。オマエはそれに従うしかない。行け。そしてやれ。いつも通りの冒険を、そこのクソガキを連れてやって来い。でなければオマエの恩恵を封印する」

「…………わかった。やってくる」

 

 恩恵(ステイタス)の封印。即ち力の喪失。神からの破門。

 それを引き合いに出されてしまえば、彼女の眷属である俺は大人しく頭を垂れるしかない。

 

「それで良い。さ、行って来い」

「ああ…………ついて来い、アイズ」

「うん」

 

 神々に見つからないよう裏道を歩きながら、アイズを引き連れてバベルへと向かう。

 中央広場(セントラルパーク)を足早に駆け抜け、ギルドに一歩を踏み込んだあたりで、ふとある事が気になった。

 

「……そう言えばなんだが、フィン達はどうした」

 

 振り向いてそう聞けば、アイズの目が右へ左へと泳ぎまくる。

 ……コイツ、前々から思っていたが無表情に見えて思った以上に感情豊かだな。

 

「……………………行っていいって、言ってたヨ」

 

 そして嘘がバレバレすぎる。

 神から見た我々の嘘はこのように映っているのだろうか。

 テスカトリポカ曰く、見破ると言うより、直感で察知しているような感覚であるらしいが。

 

 ……しかし反応からそうだろうなとは思っていたが、やはり無許可か。

 嗚呼、本当に面倒臭い。

 無事に帰したところでフィンに詰られるか……最悪殺されるまであるのではないか?

 しかし、だからと言って今から許可をとりに行くのは間違いなく愚策。

 間違いなくアイズはリヴェリアあたりに連行され、俺は命令の達成が不可能になる。

 

「二日はかかる。受付に言伝か手紙でも頼んでおけ」

「……うん」

 

 弱々しく頷いたアイズが受付へ向かったのを確認し、俺は迷宮に続く螺旋階段に並ぶ冒険者達の列の最後尾に着いた。

 ゆったりと深淵の底へ底へと降りて行く冒険者の流れに乗ってしばらく待っていれば、アイズが黄金の髪を揺らしながら俺の隣へとやって来る。

 その瞬間、ざわり、と。周囲の冒険者達が反応を示す。

 

「【剣姫】に、【火種(フォンカ)】……じゃねぇ、【蒼き猛火(アズール)】……!?」

「えぇ……? どう言う組み合わせなんだ……?」

「【ロキ・ファミリア】に【テスカトリポカ・ファミリア】……? 仲がいいなんて聞いた事もないが……」

「二人とも見た目はいいから、すごく絵にはなるけど……」

「な、何が起こってるんだ……!?」

 

 やはり、困惑の色が強いな。

 俺とてこの組み合わせには疑問しか無いので、当然と言えば当然だが。

 しかし、些か迂闊だったな。目立ち過ぎた。

 俺が先行して、後からダンジョン内でアイズと合流するべきだったか。

 

「…………ねぇ」

「何だ」

 

 そんな風に軽く後悔していると、不意にアイズが話しかけて来た。

 

「どこに行くの?」

「下層、あわよくば深層」

 

 即答する。

 周囲の冒険者達がギョッと目を剥いた。

 アイズも流石にここまでは想定していなかったのか、面食らったような顔をしている。

 

「危ない、よ?」

「だから行く。だからこそ意味がある」

 

 俺は冒険者なのだ。

 危ない場所に自ら飛び込み、冒険する。

 それが俺のやるべき事であり、俺が強くなるための一番手っ取り早い近道だ。

 

「……怒られないの?」

「テスカトリポカは俺にそうあれと望んでいる。そして俺もそうありたいと望んでいる。怒られる謂れはない」

「………………羨ましい」

「方針が違う、としか言いようが無いな」

「私も【テスカトリポカ・ファミリア】に入れば強くなれるの?」

「何とも言えん。が、俺は【ロキ・ファミリア】に残る事をお勧めする」

「どうして?」

「……愛があるから、か?」

「………………どうして愛があると良いの?」

「……難しいな」

 

 そう言われてみれば、そうだ。

 何故『愛』は良いものであると言われているのだろうか。

 父はその答えを知っていたようであったが、良くわからん。

 

「……まぁ、とにかくお前は【ロキ・ファミリア】に居た方がいい。きっとそうだ」

「…………うん」

 

 とまぁ、こんな風に話をしていると、ようやくダンジョンへの入り口が見えて来た。

 

「……行くぞ。足手纏いには……なってもいいが、無茶はするな」

「うん、わかってる」

 

 さて、冒険だ。

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