ターニャのキヴォトス奮闘記   作:ハルコンネン

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8/15時点で日間総合8位、日間二次創作5位という高評価をいただき非常に困惑しております。
嬉しいし光栄ではあるのですけれど……。
とりあえず愛読、応援していただき誠にありがとうございます。


十二、トリニティ

 トリニティ総合学園。

 キヴォトスにおいてゲヘナ学園と並ぶ二大マンモス校の一校であり、広い敷地内にはキヴォトス最大の図書館や美術館、音楽堂など文化的な施設の数々。白と青を基調とした爽やかな建物、緑の芝生という色彩もまた優雅さを感じさせ、建物の中に入らずとも見事に整えられた庭園やバロック建築の聖堂などの情景は訪れた人の目を楽しませてくれるでしょう。

 ただ問題があるとすればゲヘナ生を見るトリニティ生の目つきと表情がやけに険しく感じられることでしょうか。おかげで両校の歴史には疎い私ですら長年にわたる確執とやらをひしひしと実感できています。

 そんなトリニティ自治区の街並みの一角からこんにちは、ターニャ・デグレチャフです。

 現在私は条約の調整に当たるゲヘナ生が事務所兼宿泊所として借り上げているトリニティ自治区内のホテル住まい。そして今はトリニティの生徒会であるティーパーティーとの会談予定の日時を迎えて本部へ向かっている真っ最中。

 先日マコト議長から出向を命じられて自分としては関わる気の無かったエデン条約絡みの業務に強制的に介入させられ、トリニティ総合学園についての情報が足りないままどうにか落としどころの調整ができそうな案件はどれかを懸命に探す日々。

 相手のスタンスや妥協できる点、歴史的背景を知らずに行う交渉は無謀そのもの。下手に機嫌を損ねさせ交渉が失敗しては元も子もありません。

 そのためにも今までの交渉記録だけでなく創立以来のゲヘナとの関係性、歴代生徒会の政策、現生徒会の方針など様々なことを調べる日々を過ごしていました。

 しかし目下の問題点は解決しないままこうして会談する日を迎えてしまっています。

 

「……マコト議長はああ言っていたが、本当に何が目的だ? 表には出せないことがあったのか、敵対している相手の始まりの地だからこそ塗り替えたいのか、まさか本当に見た目だけで希望したということはあるまいな」

 

 マコト議長直々にエデン条約の調印会場にするよう指定された通功の古聖堂、そこを選んだ理由をトリニティ側にどう説明するかが未だに答えを出せていない。

 休戦の客車のような負の歴史があるかと思えば出てくる情報はかつてトリニティ総合学園が創設されたきっかけとなる会議が開かれた、今は使われていない廃墟状態、地下には広大なカタコンベがある、というものだけ。少なくともゲヘナにとってマイナスのイメージを持つとは思えず、これならば安心して指定できると安堵する反面どうして指定するのかを説明できない。

 こんなことになるなら最初からマコト議長に聞いておけばよかった、などと思っても後の祭り。否応無く今持っている手札のみで勝負をするしかない。

 これで交渉の全責任はマコト議長から全権を託された私の双肩にかかっているのだからたまったものではない。まったくもって頭が痛い──。

 そしてそんなことを考えながら歩いているうちに、私は目的の場所へと到着する。

 トリニティの名物である巨大な噴水がある広場から少し南。少し古びたその建物の入り口に立つ黒の長髪、黒い翼、黒いセーラー服という特徴的な姿の人物は聞いていた通り。

 間違いない、ここが指定されたBasis schola(ベーシス・スコラ)

 

「ゲヘナの方っすか? 正義実現委員会の仲正イチカっす。よろしくっす!」

「万魔殿のターニャ・デグレチャフです。こちらこそよろしくお願いします」

 

 ニコニコと笑みを浮かべ右手を出してくる姿は実に友好的。先輩方から正義実現委員会には相当のゲヘナ嫌いがいるためあまり関わらないようにとの注意喚起がされていたが、彼女からはゲヘナとトリニティ間の険悪な関係といったものは一切感じられない。

 会談を控えたトップの護衛にしてはずいぶん緊張感が無いように見えるが、よく見ればいつでも銃を抜けるようにしているのが分かる。なるほど、過度に緊張させず好印象を与える護衛というのはこういった場では重宝するだろう。

 

「ちなみにこの建物の名前は生徒たちの拠点って意味で昔は救護騎士団の本部として使われていたらしいっすよ。普段は使っていない建物なんで埃っぽいかもしれないっすけどそこは目をつぶってもらえると助かるっす」

「おや、てっきり条約締結に向けて事務所でも置かれているのかと思ったのですが。今回の会談のためにわざわざ掃除をされたのですか?」

「いや~……、あんまり大きな声じゃ言えないっすけどティーパーティーの人間がゲヘナの生徒と会うことに反対する人も多いんすよ、特にウチの先輩とか。という訳でちょっと見えにくいようにさせてもらってるっす」

 

 ……まったく、実に大したおもてなしだ! 学校のトップが決めた方針に対する勢力を警戒して自治区どころか自校の敷地内で隠れるように行動しての会談場所の設定とは!

 まるでクーデターでも起こされる体制派のような振る舞いだが、これが音に聞いたトリニティの派閥争いの一つなのだろうか。

 そんなイチカの解説に顔をしかめながら建物の中へ足を踏み入れれば、そこにあるのは掃除こそ行き届いているものの誰もいない静寂に包まれた廊下。

 警備や働いている生徒はいるかと思ったがそうでもないらしい。会談のため関係者以外シャットアウトしたのだろうが、華やかな装飾の施された壮麗な建物に誰もいないという情景は妙に不気味な印象を覚える。

 そんな廊下を進んだ先で、何の変哲も無い扉の前でイチカはピタリと立ち止まる。プレートも何も無い地味な扉、しかしこここそが確かに今回の目的地。

 

「ナギサ様、ゲヘナの客人をお連れしたっすよー」

「どうぞ、入ってください」

「失礼いたします。ターニャ・デグレチャフ、入室します」

 

 中から聞こえてきた許可に従い静かに扉を開けて中へ。そして純白の制服に身を包んだ、白い翼とプラチナブロンドの髪色をした生徒と相まみえる。

 ――彼女がトリニティのトップ、桐藤ナギサ。

 

「あなたとは初めまして、ですね。まずは自己紹介を。トリニティ総合学園、ティーパーティーのホストを務めております桐藤ナギサと申します」

「ゲヘナ学園、万魔殿のターニャ・デグレチャフです」

 

 そして私が挨拶をしている後ろではイチカが中に入らず外から静かに扉を閉める。

 必然的に一対一という状況になるが、変わらず優雅にカップを傾け紅茶を飲む姿は圧倒的優位を持つ立場だからこその自信か。

 いや、見えないだけで窓の外には護衛の狙撃手がいるのだろう。

 室内には立派なテーブルや椅子が置かれ、またテーブルクロスの上に置かれたケーキスタンドやポット、カトラリーといった小物は私でも分かるほどに高級感のある代物。

 ──ああ、これは何も知らない人間が相手であれば相当のプレッシャーだろう。

 ご丁寧に質素な建物へ案内し、自分だけ豪華な道具に囲まれリラックス。場の空気を自分が支配するには十分と言える。

 だがこちらは参謀本部の戦務参謀次長、作戦参謀次長、人事局人事課長という面々と渡り合った歴戦の人間だ。この程度に臆するはずも無し。

 

「どうぞ掛けてください。お飲み物は紅茶しかありませんが構いませんか?」

「はい、ありがたく頂戴いたします」

 

 ナギサに促され椅子へ掛ける。

 目の前ではティーカップへ琥珀色の液体が注がれ、そこからは芳醇な香りが立ち昇る。私が重度のコーヒー党であろうとこの紅茶は美味しいのだろうと確信させてくれる光景。

 ……連合王国の連中が砂漠に持ち込むほどこだわったのも今なら理解できるな。

 

「先に連絡した通り、今回はエデン条約の調印式を行う会場についてお願いをしに参りました」

 

 とはいえいつまでも相手のペースに呑まれている訳にはいかない。気持ちを切り替え本来の目的へと話を振る。

 

「私の記憶違いでなければトリニティ自治区内での締結をご希望とか。私は万魔殿の計画しているマコトタワーとやらで開催したいと言ってくると思っていましたが、あのゲヘナにしてはずいぶん面白い冗談を言われるのですね」

「冗談と思われるかもしれませんがマコト議長たっての強い要望でして。いかがでしょうか」

「通功の古聖堂は歴史こそありますが今では朽ち果てた廃墟です。何が目的ですか?」

「マコト議長の言葉を借りるなら多くの困難を乗り越えて成される記念すべき条約には大きく権威のある歴史的な建物こそ相応しいと。これを意訳すればアピールポイントとしてただ大きいだけでは敬意を持たれる荘厳さと歴史に欠け不利、ならばせめてトリニティ内に自身の功績と歴史を刻むのに利用したいと考えているようです」

「……ゲヘナなら、と納得してしまうのも困りますね」

 

 おそらくは虚偽の理由だろうがそれを言う以外に選択肢は無い。そしてそれを如何に事実のように相手に信じさせるか。

 そのために必要なのがゲヘナに対する私自身の正当な評価と両校間の因縁の歴史。

 ゲヘナ自治区内の建物ではトリニティ自治区には劣ると正直に認め、それでもトリニティに一矢報いたいためにトリニティにとって歴史的な建物を利用していると誘導する。

 客観的に見た事実だからこそ否定できず、この険悪な関係だからこそ相手の学校を利用したいと思っていることに信憑性が出る。

 

「トリニティ始まりの地にさらにゲヘナの手柄を歴史に残させろ、と?」

「正直に言えばその通りです。ですがかつて複数の学校が手を取り合う会議が開かれた場所で再びトリニティとゲヘナという別の学校同士が手を取り合う、これは伝統を大切にする御校にとっても良い話では?」

 

 私の言葉にナギサは黙って静かにティーカップを傾ける。

 先ほどから散々口にしている歴史。それを尊重しつつその歴史を踏襲することで体面は保たれ、むしろさらに箔を付けられる。これなら反対派は抑えられるだろう。

 

「……現在の通功の古聖堂はほぼ完全な廃墟です。そこを使うというならば大幅な改修工事が必要になりますが」

 

 ──乗った!

 ナギサはもし通功の古聖堂を使うならの前提で条件を出した。言い換えればこれはその条件さえ呑めば使うことを認めても良いということ。

 ならばこちらがするべきは即座に返答し、相手が心配している問題点を潰し退路を断つ。

 

「問題ありません。資金は全額こちらで提供いたします」

「はい? ゲヘナ側が全額、ですか?」

「はい、マコト議長より調印場所を通功の古聖堂にできるなら相応の譲歩を認めると。資金の提供や建設会社の手配もこちらで対応可能です」

 

 余程意外だったのか、ティーカップを持った手が受け皿へ戻る途中で止まっている。

 まあ無理もない、これだけ対立の歴史があり相手を煽るような交渉をしながら突然これほど下手に出てくるとどうして予想できるだろう。

 

「……会場を通功の古聖堂にできるなら相応の譲歩をすると仰いましたが、では例えばトリニティが一方的にETO(エデン条約機構)の本部と装備を決めると言っても?」

「はい」

「人事権をこちらが握ると言っても?」

「可能な限り公平になるよう配慮をしていただけるのならば」

「それほどまでにゲヘナは本気なのですか……。ですがそう簡単には信じられませんね。これではトリニティだけが圧倒的に有利、ゲヘナにとっての利益はほぼ無いはずです」

 

 ナギサの疑問は当然だ。新規の取引やM&Aに最も重要なのは情報と信用。実際にそうだとしてもトリニティ側にのみ美味しい話、絶対に損はさせませんなどと言うのは詐欺師の言動。

 しかし他に切れる手札は無いし今さら引き下がることもできない。私ができるのはナギサがこのまま条件を呑んでくれることを祈るだけ。

 そしてティーカップをそっと置くと同時に、ナギサはふっと微笑を浮かべ──。

 

「ティーパーティーのホストとしてこの話を鵜呑みにすることはできません。どうしてもと言うのでしたら──そうですね、ゲヘナにとっては少々無茶なお願いを聞いていただくことにしましょうか。誠実な態度と行動で示していただければこちらも信用できるかと」

 

 ……無茶なお願い? 態度と行動?

 何だか無性に嫌な予感がする。まるで民間人ごとアレーヌ市を焼くか隠密に連邦領空へ侵入すると聞かされた時のような、ろくでもない面倒事に巻き込まれそうだというあの予感が。

 

「どうしてもそれが条件と言うのならば呑まざるを得ませんが……。せめて小官の職権が及ぶ範囲に限らせていただけますか?」

「それならご心配無く、少々トリニティの掃除を手伝っていただければ助かるというだけの話ですから。それにこの奉仕活動はゲヘナの方にも喜んでいただけると思いますよ?」

 

 せめてもの抵抗として自分の権限が及ばないことはできないと拒否するが、返ってきたのは単に掃除を手伝ってほしいという言葉。一見簡単な条件にも思えないことはない。

 ──だがこれはなかなか、いや非常に意地が悪い。

 トリニティ生に囲まれて草むしりかドブ浚いでもさせようという魂胆か、それは私ならともかく他のゲヘナ生がすんなり受け入れるとは到底思えない屈辱感な案だ。過激派が反抗すれば最悪戦争へ発展する可能性すらある。

 戦争を避けるための条約を巡って戦争になるとは冗談にしても笑えない。これはどう調整するか頭が痛いぞ……。

 

「了解いたしました、派遣する人数や期間、掃除する場所はどのように?」

 

 とはいえマンモス校のゲヘナならば穏健派の十人や百人程度はいるだろう。この難題も解決法は現実的なもの、この条件さえ折り合えば私の任務完了も目前。あと少しの辛抱だ。

 そう安堵する私の前でナギサは落ち着いた動作でそっとケーキスタンドからロールケーキを皿へ移しながら口を開く。

 至って自然に、平然と。

 

「人数はお任せします、時期と場所はこちらで指定を。掃除の対象は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですね」

 

 ──は?

 

 

 

 

 

 

「トリニティめ、何の冗談だこれは!」

 

 自分以外に誰もいないホテルの一室で、ターニャは吼えていた。

 今日の日中にトリニティのトップである桐藤ナギサと行った会談で確かにマコトから命じられた調印式典を行う会場の指定は無事遂行することができた。

 しかし代わりに要求された条件を考えればどう見ても成功のメリットよりも万が一の際のリスクの方が大きいと言わざるを得ない。

 ターニャもトリニティの全生徒が一枚岩ではなくある程度不満を持つ者がいるのは当然だと認識していた。だが不満を言うどころか妨害工作に出る勢力があり、さらにそれを実力で排除しろとの要請、しかもゲヘナの手でとなれば想定外もいいところ。

 

「両校間でトラブルが起きた際に共同で対処に当たるため? くそったれ、トラブルをトラブルと認識できなくすればいくらでも介入し放題というわけか!」

 

 両校トップの合意があり事前に通達をすればそれは正当な武力行使。最低限の被害は想定できるし想定外の被害が出ればそれは対処しなかったのが悪いと責任転嫁ができてしまう。

 何が優雅で善良な生徒が多いお嬢様学校だ、そんなのは見た目だけで中身は参謀本部のお偉方も顔負けの腹黒さではないか。

 調印前でこれならば果たして装備や人事権まで売り渡した後の運用がどうなるか。想像しただけでも虫唾が走る。

 

「――命じられた任務は達成、とはいえさすがにこれはマコト議長にどう報告するか」

 

 いくら調印式典の会場を決めてもらうとはいえ、この件がもし明るみに出れば交渉失敗どころか戦争にまでつながりかねない。交渉の全権を任されているといってもこれはさすがにターニャの手に余る。

 故にターニャは調印する本人に向けてのメッセージアプリを起動する。まずは調整に成功したという結論、そして引き換えに面倒な条件を押し付けられたので相談したい──。

 そうメッセージを送った次の瞬間、ターニャの手に持つ携帯電話からけたたましく着信音が鳴り始める。

 その画面に表示された名前は当然メッセージの送り先、羽沼マコト。

 

「……ターニャ・デグレチャフであります」

「キキキッ、当日でいきなりトリニティの連中と合意を取り付けてくるとはなかなか上手く行ったようだな? しかもトリニティの流儀もしっかり経験してきたと見える」

 

 開口一番、まるでトリニティ側が面倒を押し付けてくると分かっていたような口ぶりでずいぶんと楽しそうな様子のマコトの声にターニャは渋面を作る。

 ある程度無茶を言ってくると予想していたのか、だがそれならそれであらかじめ言ってくれれば良かったものをと思わずにはいられない。

 嬉々としてトリニティにどんな無茶ぶりをされたのかと訊いてくるマコトにため息をつきながらターニャはナギサから秘密裏に依頼された案件について話し──。

 

「キキキッ、如何にもティーパーティーの連中が考えそうなことだ! 自分たちの手は汚さず責任はゲヘナに押し付け、トリニティの生徒を手に掛けたという事実を脅迫のカードにする。おまけに反対派を除外し条約を成立させるためと正当化もバッチリ。敵ながら悪くない、キキキッ」

「それでどう対応いたしますか。この案を呑めばゲヘナが相当不利になるのは明らかですが」

「呑むに決まっているだろう! 重要なのは会場を古聖堂にすること、それができれば紙の上での立場など興味は無い! そんなもの無視すれば済む!」

 

 その言葉にターニャも思わず絶句した。

 条約というものは締結し、遵守するからこそ重要なのだ。簡単に反故にして構わないのならば今まで苦労してまとめてきた先輩方やターニャの苦労は何だったのかという話になってしまう。大体そんな簡単に破棄してしまっては締結する意味自体が無い。

 何の意味も無い空手形の平和条約、そんな代物にターニャが置ける信用度など独ソ不可侵条約か日ソ中立条約と同等程度。とてもではないがミュンヘン会談の共同宣言を記した紙を自慢げに振りかざして凱旋するチェンバレンのような道化にはなりたくないというのに──。

 だがそこでターニャは自分が今何を考えていたのかに気付く。いや、気付いてしまう。

 何故自分は独ソ不可侵条約と日ソ中立条約、チェンバレンを引き合いに出して考えた? つまりそれらを彷彿とさせる要素があるということか?

 そしてその違和感の正体を突き止めた瞬間、ターニャは思わず小さく呻く。

 認めたくない、杞憂だと笑い飛ばしたい。

 しかしマコトがこの条約の価値を異常に低く見積もっている状況はターニャの知る前世の歴史とあまりにも似通っていた。中立を、国際協調を求めるための条約を投げ捨てた先に待っていたのは独裁国家による侵略。

 さらにあくまで締結だけが目的であり破棄を前提とした仮初のものと想定すれば、マコトが通功の古聖堂にこれほどまでにこだわる理由もトリニティ始まりの地を終焉の地にもしたいのだと想像できてしまう。

 コンピエーニュの森の食堂車にこだわったドイツ軍も真っ青の陰湿さではないか!

 

「……マコト議長、一応お尋ねしますが今後のトリニティとの付き合いはどのように?」

「キキキッ、貴様なら分かっているだろう? ティーパーティーの腹黒連中も大層な正義とやらを掲げる正義実現委員会も何を考えているか分からんシスターフッドも全て信用できん。今後はどうこき使ってやるか実に楽しみだ! キキキッ!」

 

 しかしターニャの儚い期待も虚しく、返ってきたのは友好を否定する言葉。マコトは間違いなく平和条約などというものを守る気はさらさら無い。

 もちろんまだターニャが状況から推測しただけの妄想であり根拠は無い。しかしターニャの知る歴史とあまりに符合し過ぎている状況は警戒の度を上げるには十分すぎる。

 本人に聞くか? いや、開戦計画を隠しているなら馬鹿正直に話すはずも無い。

 ターニャとしては平和で穏やかな日々こそが求めるもの。それと真っ向から反対すると分かっていてどうして戦争に向かって突っ込んでいかなければならないのか。この上司は信用できるまともな人間だと思っていたのに!

 しかも巻き込まれる当のターニャの立場が悪すぎる。トップのマコトは当然としても、このままでは交渉を任されただけの自分が東郷茂徳やリッベントロップと同じく開戦の引き金を引いた戦犯にされてしまう可能性すらある。学校間で法があるかどうかも何一つ知らないのだ。

 正当防衛だった帝国なら考えずに済んだ問題だったのだがなぁ、などと半ば現実逃避をしながらターニャはこの先で待ち受けている苦労に思いを馳せる。どうにかして戦犯指定を回避しつつマコトの方針に従いこの世界でも戦争をしなければならないという運命──。

 実に最悪極まる。

 

「了解、いたしました……」

 

 暗い表情で通話を切ったターニャは周囲に誰もいないことを確認し、そして力なく傍らにあった椅子へと腰掛ける。

 その口から漏れるのは不条理に対する怨嗟の呻き声。

 

「どうしてこうなった……」




割と本気で補習授業部のテストを温泉開発部に妨害させた件、砲弾を運んだり場所を温泉開発部に教えたりしたのが誰なのか気になっています。
機密案件だからってナギサが直接は無いだろうとターニャぶち込んだら個人的に納得できる展開になりました。
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