ターニャのキヴォトス奮闘記   作:ハルコンネン

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二、行動開始

 どうも皆さまご機嫌よう、ターニャ・フォン・デグレチャフです。

 本日の天気は雲量二、気温は約二十度、暖かく気持ちの良い晴天。ただ所によっては一部銃弾が降るかもしれないのが惜しいところ。

 目覚まし時計代わりに銃声と爆発音が響き渡り火薬の香り立ち込める素敵な朝を迎えています。

 

「……くそったれ」

 

 つい口から呪詛が出てしまうことについては勘弁願いたい。それを抑えるのを諦めてしまうほどに、存在Xに連れてこられたこの世界は最悪そのものだった。

 外を出歩くのは十代後半の人間の少女たち、服を着た二足歩行の犬や猫などの動物たち、そして服を着たロボット。犬や猫が言葉を話しコミュニケーションが取れるのはファンタジーで済むが、自我を持ったロボットが社会活動を行っているのは一体どう理解すればいいのだ?

 そして世界観以上に気になるのはとにかく治安が悪すぎるという点。

 消費期限切れの痛んだ食材を使ったなどという理由で目の前の食堂が木っ端微塵に吹き飛ぶ様を見せつけられた時にはあまりのひどさに現実逃避をしてしまった。

 この世界の保健所の衛生指導は実に直接的、暴力的らしい。

 

「どうしてこうなった……」

 

 下手に風景や技術が懐かしき平成時代の日本、東京に似ていると安堵してみれば実態は崩壊直後のソビエトやユーゴ以下。

 自動販売機やコンビニでは銃弾や手榴弾が当たり前に販売され、不良集団が当たり前のように銃火器で通行人や商店を襲い、高校生くらいの少女たちが戦車や戦闘ヘリを乗り回す。

 国際法と軍紀に則り血みどろの戦争をしていた頃の方がまだ人間らしい文明的行為だったというのはあんまりではないだろうか?

 そして一番驚いたのは生身の身体に銃弾や爆撃を食らおうと軽い出血や卒倒で済む人間とは思えない化け物染みた少女たちの耐久性。

 きちんとコンクリートにめり込む威力のライフル弾が頭部に命中して痛いで済む光景ははっきり言って異常の一言に尽きる。

 

「……存在Xめ、箱庭などと言っていたがこの在り方は歪にも程があるぞ」

 

 私が求めるものは一に安定、二に平穏。

 常に死と隣り合わせの前線で大活躍をするよりも砲弾の飛んでこない後方の司令部で書類仕事に押し潰される方が圧倒的にマシ。

 しかしこのスナック感覚で銃弾をプレゼントし合う世界における身分などの社会的な保障が一切存在しない私が安定した職に就けるだろうか?

 そしてここで注意しなければならないのは金銭も常識も、この世界に関わるものが一切無いことである。

 

 一、金銭や食料の確保手段が無い。

 二、この世界での一般常識が無い。

 三、住む場所が無い。

 四、仕事が無い。

 

 どこからどう見ても住所不定無職、挙動不審のホームレスまっしぐら。

 これは早急にどうにかしたい。

 

「……あの野盗まがいの連中を吹き飛ばして聞き出すか?」

 

 住む場所が無いのは砲火の中だろうと塹壕や砂漠で寝られたのだから大した問題では無い。

 食料が無いのも補給が途絶えたと仮定すれば数日は問題無し。最悪はその辺で暴れている適当なヘルメット野盗集団の財布を拝借しよう。

 そして今最も重要なものはやはり情報。

 ライン戦線の塹壕にお邪魔して共和国軍のお友達とシャベルを使って「お話」をしたように丁寧な会話をしてみればきっと親切に教えてくれるだろう。

 そうと決まれば迅速な行動が吉。

 

 ここで悲劇だったのは戦場で国際法の裏をかきながら長く過ごしたことで倫理観が欠如していたこと、民間人へ銃撃や略奪といった行為をする相手に対して遠慮するつもりが一切無かったこと。

 結果として、かつて帝国軍士官学校において誰からも恐れられたデグレチャフ一号生が降臨することとなったのである。

 

 

 

 

 

 

 それはただ偶然そこにいたことで起きた悲劇だった。

 路上で縛られて叫んでいる運転手を尻目に宅配のトラックの荷台から荷物をどんどん運び出そうとしているヘルメットを被った集団、そんないかにも怪しい光景が招いた惨劇。

 

「これ結構重いぞ。品名は……家電だ。持って行こう」

「こっちはアクセサリーに衣服、これもブラックマーケットで売れるね」

「なぁPCパーツの雑誌って必要か?」

「やめてー! きちんと届けないと私怒られるから勝手に開封しないでー!」

 

 次々と荷物を開封しそれを売却した利益を想像しながら笑い合うヘルメット団。

 そんなヘルメット団の蛮行に誰も口出しできない中、不意に声をかけてくる小柄な影が一つ。

 

「そこの野盗崩れ諸君、唐突にこんなことを聞いて申し訳ないがここではそうやって略奪をするのが正しいマナーだったりするのかね?」

 

 声のした方へ振り返ってみればそこにいたのは十代前半と思わしき金髪碧眼の少女。

 濃緑の軍服に身を包み直立不動で微動だにしない姿勢に一瞬どこかの治安組織かと警戒するが手に銃を持っていないのを見て大した脅威にはならなそうだと安堵。

 ただ気になるのは()()()()()()()ことくらいか。

 

「なんだ知らないのか? キヴォトスじゃ当たり前だぜ?」

「そうそう、皆やってるしヘルメット団のマナーみたいなもんよ」

「ふざけんじゃないわよ! この悪党! 犯罪者集団! 捕まって矯正局送りになれ!」

「……そこで縛られている被害者はそう言っておられるが?」

 

 しかしそんなターニャの問いにヘルメット団たちは銃口を向けてわざとらしくコッキングをして見せながら無防備で出しゃばりな子供を嘲笑う。

 

「いいんだよ! それとも何か文句でもあるってのか?」

「うちらのやることにケチつけるならどうなるか分かってるだろうね?」

「はぁ……」

 

 数十匹の苦虫をまとめて嚙み潰したような渋い顔で盛大にため息をつき、ターニャは無言のまま右手を眼前のヘルメット団員へ伸ばす。

 何も持っていないそれを何ら警戒することなく眺めていた団員。しかしその手が自らの腹部にそっと触れた瞬間にこれまで経験したことのないような激しい痛みが身を貫いた。

 

「ぎゃああぁぁっっ!!?」

「神経系に痛みを誤認させる干渉術式だ。後遺症も何も残らないから心配しなくていい」

「な、何だ!? お前! 仲間に何してやがる!」

 

 見た目は中等部そこらの背丈のガキがただ触れているだけ。そのはずなのにこの状況は何だ?

 そんな団員達は混乱と怯えで一瞬固まり、そして次にした判断はよく分からないがとにかく撃てというもの。

 目の前の「何か」を異常な脅威と認識し、明確な害意を持って引き金を引く。手にしていた銃はその機能と役割を十全に果たして銃弾を吐き出した。

 放たれた弾丸はまっすぐに少女へと向かい──。

 

「何をしているか? 略奪行為を働く犯罪者への対処など決まり切っているだろう」

 

 その小さな体は痛みで硬直している団員の体の裏側へと隠れ、銃弾は盾代わりとなった団員へと降り注ぐ。

 銃弾が当たっても現地民に問題無いのは確認済み。しかし連中は自分たちの仲間を撃ってしまうのを見過ごせなかったようだ。一拍置いて銃撃が止んだのを確認しターニャは完全に気絶した団員が持っていた銃を奪って飛び出す。

 固まっていた一番近くの団員には弾倉内の全弾をばら撒き、やっと動き始めた次の団員には空になった弾倉を顔面へ投げつけ怯んだ隙に腕を握りしめれば再び響き渡る苦悶の絶叫。そのまま再び銃を奪い次の目標の腹部と顎へ銃床を叩き込む。

 その一連の流れはまるで妖精が踊っていると言ってもいい洗練された滑らかなものだった。

 

「貴様らのような不穏分子は徹底的に摘み取らなければならない。それを放置しているのは怠慢であり無能そのもの」

「私は無能を一切の区別なく許容しない。人様に迷惑をかけるな、犯罪を犯すなという一般常識を理解できる頭脳が無い間抜けは等しく排除されるべきだ」

「ああヘルメットで見えなかったのだがもしやその中に脳みそは入っていないのか? すまない、私の確認不足だった。その頑丈な体も調べたいし一度解体してみようかと思うのだがどうだ?」

 

 無表情で淡々と語りながら銃弾を撃ち込み、銃床で殴り。さらに合間合間で体を軽く撫でているだけにしか見えないのにその度に異常な悲鳴が上がっていく。

 その様子は団員たちの戦闘意欲を急激に削いでいき、やがて周囲には地面で悶絶する団員たちと恐怖で身震いしながら投降する団員たちという光景へとつながっていく。

 

「ふむ、殺傷はできずとも防殻を常時展開している魔導師と思えば十分対処できるな」

「あ、たっ、助けてっ」

「ん?……ああすまない、まずは民間人を助けるのが先決だったな。安心していい、あなたの脅威はすべて排除を──」

 

「あ、悪魔っ! あんたの方が異常よ! 誰か助けてーっ!」

 

 

 

 ──今後、戦闘中に余計なことは言うまいと固く心に誓うターニャであった。




ファーストコンタクト、達成!
なお解体どうこう言わなければまだ大丈夫だった模様。
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