ターニャのキヴォトス奮闘記   作:ハルコンネン

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マダム去りし後のアリウスを描く過ぎ去りし刻のオラトリオ編、楽しみですね~!


二十四、休暇

 休暇とは実に素晴らしいものです。

 普段の業務や時間を気にすることなく自由に過ごすことができる。学生や社会人なら誰もがその解放感を十全に理解し、待ち望んでいることでしょう。

 そして私はその価値と重要性について一般の方以上に、身を以ってよく知っています。

 帝国軍にいた頃は休めたとしても前線を離れることはできず陣地で寝るかとっておきのコーヒーを淹れる程度、そしてやっと取れた貴重な休暇も敵の攻撃や自軍の作戦の都合で延期、最悪は消滅することがしばしば。

 それを思えばこうして安全な後方で文明的な行動ができると確信できることはまさに至福。このささやかな時間が非常に尊く感じられます。

 どうも皆様ご機嫌よう、ターニャ・デグレチャフです。

 現在の時刻は午後一時。私はゲヘナの大通りからやや外れた場所にあるレストランで遅めの昼食を食べている真っ最中。

 ちなみにメニューは牛すね肉の煮込みザワークラウト添え、黒パンとなっています。

 

「……平穏、安息、美食。後方とは斯くあるべしだな」

 

 口元を拭いたナプキンをそっとテーブルに置き、コーヒーカップを傾けながら私はこの日何度目になるか分からない呟きを漏らす。

 敵の攻撃で休暇が切り上げになることも警報に煩わされることも無く創意工夫に満ちた代用品ではない本物を食べられる、これこそまさに私の求めていた光景そのもの。

 前線では新鮮さや味付けなど二の次、輸送効率こそが最重要視されていた。具体的には腐りかけのジャガイモだろうと味の無い乾燥パスタだろうと積めるならとにかく積んで送る脳筋仕様。

 まあ国家総力戦という体制下、底なし沼のように弾薬や医薬品を次々と飲み込んでいく戦場ともなればそれも当然ではあるだろう。

 しかしここは平穏に満ちた文明圏。物資の制約など一切無く、贅沢をしたところで非国民と非難されることも無い。

 結果として満足できる食事を求めて街へ繰り出したのは当然の帰結であり、柔らかく煮込まれた牛すね肉を口にした瞬間の感想はまさに至福。

 これこそこれまでの労働に対する正当な対価というものだ。

 

「――超過勤務の分の手当と休み。やはり持つべきは有能で部下思いの上司に限る」

 

 参謀本部も給与だけはくれたが満足な休暇からは程遠かった。記憶に残っている緊張から完全に解放された休みなど軍大学に通っていた時と共和国が停戦すると発表し戦闘が小康状態となった時くらい。そしてその貴重な休みも結果的には短時間で終わり過酷な戦場へ逆戻りする羽目になったのは苦い思い出。

 それを思えば手当だけでなくきちんと一週間のまとまった休暇をくれる上司は最高と言う以外に無いだろう。この一面だけを見るならばゼートゥーア閣下、ルーデルドルフ閣下より信頼できるとすら断言できる。

 もっともキヴォトスという場所柄銃撃戦や爆破テロなどと完全に無縁でいられるとの保証が無いのが難点だが、それでも帝国軍にいた頃と比べれば雲泥の差。

 突発的な銃撃戦や爆破テロなどに巻き込まれるリスクはあれど正規軍の機甲師団や爆撃機相手に突っ込まされる心配は不要。不良やテロリストの対処は専門部隊である風紀委員会に丸投げすればいい。

 明確な役割分担による効率化も万々歳だ。

 

「見たか存在X、私は私の望む平穏な日々と安定した地位を手に入れたぞ」

 

 以前と比べても格段に平穏な予定に思わずそんな勝利宣言も口をついて出るというもの。

 上司からの信任に応え大仕事を無事勤め上げたことを考えれば昇給や正規の出世ルートへの復帰も夢ではない。

 唯一の懸念はナギサ会長が計画している掃除への協力とやらだが、それでも国家規模の総力戦に放り込まれるよりは遥かにマシなはず。リスクも許容可能な範囲に収まるだろう。

 状況は確実に私が思い描く理想像に近付いている。

 

「労働環境も生活環境も改善し存在Xの思惑も打ち破る、まさに我が世の春だ」

 

 そんな晴れやかな充実感と共に私は手早く会計を済ませて店を出る。

 ――さて、この後はどうするか。

 このまま寮に帰っても構わないが二時前というのはさすがに早すぎる。せっかくの休みだ、時間は是非とも有意義に使いたい。

 大通りを歩きながら何が良いかを考え込み、やがて思いついたのは図書館へ行って過去の新聞を読んで情勢の把握に努めること。

 私はゲヘナの日常から長期間離れており業務上必要な情報ならともかくそれ以外の時事ニュースや経済情報などに触れる機会はまったくと言っていいほど無かった。最新の情勢に沿った合理的、生産的な判断をするのであればそういった情報を得て見識をアップデートしておくことは積極的にしておきたい。

 うむ、これにしよう。

 そう決断した私は腹ごなしも兼ねて図書館のある方角に向けて歩き始め――。

 

「……ん?」

 

 ふと目に入ったとある店舗の看板に記憶を刺激されて足が止まる。

 そこに記された名はルワゾー・ブッレ。

 ゲヘナでも名の知られた洋菓子店であり利用したことの無い私もそこのケーキは美味しいという噂はよく耳にする。しかしその店の何が引っ掛かったのか。

 少しばかり記憶を探り、そして思い出したのはアリウスでの一幕。

 菓子折りを送ると伝えた際ヒヨリから直々にリクエストされたのがここのケーキだったはず。

 

「ふむ、せっかくなら寄ってみるか」

 

 脳裏に浮かぶのはトリニティから無償でアリウスへと届けられたスイーツと紅茶。

 トリニティでは有名だというカフェ・ミルフィーユとやらのスイーツはアリウスの生徒たち全員へ振る舞われ、歓呼の声と共に迎えられていた。

 そしてゲヘナがトリニティと同様アリウスと協力関係を結ぶ以上、同じように全員分のスイーツを差し入れすることで関係の対等化を図るべきというのも明らか。

 一方が手厚い支援をしてくれたのにもう一方は何もしなかった、あるいは比べると著しく見劣りする内容だった、そしてこれが欲しいと言われておきながらそれ以外を渡すというのは容易に信頼関係を崩壊させかねないのだから。

 

「いらっしゃいませ、ルワゾー・ブッレです!」

 

 だからこそ食後のデザートにもちょうどいいと軽い気持ちで入店してみたのだが。

 

「……高いな」

 

 並んでいる品はいずれも高額だった。具体的には千円より安いものが皆無。

 これをアリウスの全員分となると明らかに当初の予算をオーバーしてしまう。

 ふむ、これは困った。

 

「予算の追加を頼む……いや、会計係がそう簡単に通してくれるとは考え難い。マコト議長の直轄案件だと説明できれば通るだろうが詳細な説明をするのも憚られる」

 

 現実的に考えるのであれば別の店舗で予算内に収まるよう買うべきだ。しかしアリウス生直々にリクエストされたこと、トリニティの送ったカフェ・ミルフィーユと同格程度の物である必要性を考えた場合はここで買うことが最善となってしまう。

 とはいえ使い道も聞かずに追加予算を通す無能な会計などいるわけが無く、またトリニティ内部で計画中のクーデターに関わる相手への報酬ですなどと言明できるわけも無い。

 そしてさらに付け加えるのであれば、謝罪が必要になったならともかく礼として送る菓子折り代を増やしてくれる心優しき会計というのもまたいるはずが無い。

 まさか足りない分は私がポケットマネーから補填しなければならないのか?

 くそっ、頭が痛い。

 

「お客様、何かお探しですか?」

「――いえ、少し見ていただけですので大丈夫です」

 

 そんなことを考えるのに夢中になっていたのだろう、小柄な赤いツインテールの髪をした店員に声をかけられ我に返る。

 いかんな、今はまだそうなると確定したわけではない。このような案件ならマコト議長の権限で予算を通すことは十分考えられる。あまり悲観的に考えすぎないことが肝心だ。

 そう自分に言い聞かせつつ、とりあえず日持ちがする干菓子の棚を見て回る。

 予算が無事増額されればそれで良し、されなかったなら自身の財布への影響が最小限で済みそうなものを選んでおかなければ。

 そんな時だった。

 

「――電話?」

 

 唐突に鞄の中から聞こえてくるメロディ。それは言うまでもなく誰かが私に電話をかけてきたということ。

 それ自体は何の問題も無い、ごくありふれた日常の一部だ。

 ただしそれは画面に表示されていた発信者の名前が我が親愛なる上司でなければの話。

 上司が平日の昼間、休暇中の人間に電話をかけてくるなど嫌な予感しかしないではないか!

 できることなら全力で気付かなかった振りをしていたい、しかし他の客や店員からの視線を向けられてしまっている今これを放置し続けるのもよろしくない。

 故に嫌々、本当に仕方なく私は店の外へ出て電話に出る。

 

「……ターニャ・デグレチャフであります」

「昨日ぶりだな、ターニャ・デグレチャフ! 休暇は楽しんでいるか?」

 

 そうにこやかに尋ねてくるマコト議長。これが休暇明けの出勤時に言われるのであれば気遣いや冗談と思っただろうが、今聞かされると壮大なフラグにしか思えない。

 

「はい、おかげさまで久し振りに文明の味を堪能させていただいております」

「それは良いことだ。ところで今いるのはゲヘナ自治区内か?」

「……はい、先日お邪魔した相手校への贈答用を探しにルワゾー・ブッレに来ておりますが」

 

 咄嗟にただ遊んでいるのではなく業務と関連したことをしていますとアピール。しかし嫌な予感が治まる気配は一切無い。

 何故居場所を訊く? まるですぐ出頭できる場所にいるかの確認のようではないか。まさかとは思うが――。

 そして残念なことにその予感と予想は正しく、直後に告げられたのは最悪極まりない一言。

 

「それは良かった。悪いが休暇は取り消しだ、二時間以内に議事堂まで出頭しろ」

 

 ……ああくそったれ。どうして、どうしてこうなるのだ!?

 

 

 

 

 

 

「アコちゃん、緊急の用件って何? また美食研究会か温泉開発部が何かやらかした?」

「またうちの生徒が身代金目的でトリニティの生徒を誘拐する事件でも?」

 

 ゲヘナ学園、風紀委員会本部。その中にある一室で銀鏡イオリと火宮チナツは正面の椅子に座る苦虫を噛み潰したような表情の天雨アコを怪訝そうに見つめていた。

 今の時刻は午後五時。授業もほぼ終わり生徒も大半が下校し始めている時間帯。

 もっともゲヘナという環境柄トラブルが起きやすいのはこれからであり、イオリたちにとってはまさに気を引き締めるタイミング。

 だからこそそこへ突如として緊急の用件があると呼び出され、いざ行ってみれば明らかに不機嫌そうな仏頂面のアコが待っているという光景には揃ってため息をつくしかない。

 どう見ても何か面倒事が発生したのは明らかなのだから。

 果たして何があったのか。あり得そうな事例を挙げつつ様子を見ていれば、やがてアコはため息と共に小さいながらもはっきりとした声で一つの事実を告げる。

 

「明日出動しますので準備をお願いします」

 

 出動が決まった?

 予想外にシンプルな回答に思わず顔を見合わせるイオリとチナツ。

 しかし落ち着いて考えるとそのシンプル極まりない内容にもどこか違和感がある。

 

「事件への緊急出動じゃなくて前もっての出動? 何かイベントでもあったっけ?」

「いえ、警備や交通整理が必要になるような話は特に聞いていませんね。また万魔殿の無茶ぶりか何かでしょうか」

 

 基本的に風紀委員の仕事は何か起きてからの事後対応。警備や交通整理など事前に準備を必要とする仕事も稀にあるがそれも普通は余裕を持って通知されるもの。

 それがこのように急にねじ込まれる。普通に考えるのであれば予定があったことを万魔殿が秘密にしており前日になって急遽警備シフトの作成を命じてきたか。

 困ったことに風紀委員を毛嫌いしているマコトならその程度のことは()()やるだろうという負の信頼だけは十分にある。

 だからこそイオリは何の疑いも無く今回もそうだろうと思い込み――。

 

「ふーん……。まあいいや、それで人数と時間、場所は?」

「できれば一個大隊、擲弾兵も一個中隊は欲しいですね。場所はアビドス、八時には装備を整えた状態で集合をお願いします」

「――はあっ!?」

 

 そして次の瞬間にはその予想外過ぎる内容に思わず絶句した。

 どう考えても警備や交通整理といったものではない、擲弾兵も動員するなど明らかに交戦を前提とした内容。しかも大隊規模の動員に加えて場所はゲヘナ外。

 唐突にそんなことを告げられても訳が分からない。

 

「ちょっと待て!? そんな規模、普通に緊急出動レベルだぞ!?」

「緊急性の高い事態であればすぐにでも動くべきでは? 委員全員に非常呼集を――」

 

 思わずイオリは悲鳴を上げ、チナツは若干混乱しながらも出動の手続きをしようと慌てて鞄から携帯電話を取り出しかける。

 しかしそれを制止したのは眉間に深いシワを寄せたアコだった。

 

「勘違いしないように言っておきますがこれは緊急性の高いものではありません。ただ失敗は絶対に許されないので万全の準備を整えてほしいというだけです」

「いや、それで今言った戦力を動かすってどれだけ面倒な案件なのさ」

「……万魔殿が持って来た政治的な案件と言えば分かりますか?」

「――うわぁ」

 

 そしてアコの言葉を聞いたイオリとチナツは揃ってアコと同様の渋面になる。

 万魔殿絡み、それを聞いて好意的に思える風紀委員は皆無。

 どんな細かい点に対しても管理不足や職務怠慢と難癖をつけ予算を減らしたり唐突に大量の仕事を押し付けてきたりといった横暴の数々は風紀委員なら誰もが知っているもの。あまりにもひどい場合はヒナが直接議事堂へ乗り込んで撤回させたりもするが、基本的には非常に気を遣う割に得るものがまったく無い。

 しかしどんなに嫌な相手であろうと万魔殿が風紀委員会への命令権、予算の編成権を有する上位組織であることは事実。故にこれを拒否することは不可能。

 だからこそイオリは聞きたくないなぁと表情と態度で示しながらも渋々その続きを促した。

 

「それで? その肝心の内容は?」

「便利屋68がアビドスにいるとの情報が入りました。その確保が今回の第一目標となります」

 

 ――便利屋68、その名前を聞いてそれまで困惑するばかりだったチナツにもわずかながら得心が行った。

 それはキヴォトス各地で神出鬼没に活動する不良集団の名前。

 たった四人ながら風紀委員の部隊を相手に戦闘を継続できる戦闘能力、ヒナが来ればあっという間に姿をくらませる状況判断能力は時に温泉開発部や美食研究会以上の厄介さ。イオリ自身も爆弾で吹き飛ばされた挙句逃げられるという屈辱は何度も味わった。

 なるほど、そんな相手の居場所が確実に分かっているなら動きたくなるしこれだけの兵力を動員するのも理解はできる。

 しかし。

 

「……それを万魔殿が?」

 

 その内容をすぐに吞み込めるかと聞かれれば否。

 問題を起こす不良生徒の対処は風紀委員としてはごく普通の、何の変哲も無い活動内容。しかしそれをマコトが命じたというのが理解できない。

 風紀委員会を目の敵にしているマコトが真っ当な治安維持を命じるなど明らかな異常事態。普段ならヒナの権威を貶めるために業務と関係の無いことを散々押し付けてくるというのに。

 さらに引っ掛かったポイントはもう一つある。

 

「行政官、先ほど第一目標と言いましたが他にも別の目的があるのですか?」

「ええ、現在アビドスにはシャーレの先生が出張で訪れているそうです。その方をトリニティよりも先に確保、条約へ関わらないよう調印式が終わるまでゲヘナで身柄を保護するようにと。正直に言えば便利屋の方は部隊を動かす口実ですね」

 

 もしや万魔殿は何か別のことを企んでいるのではないか。そうチナツが問いかけてみればアコは素直に首肯し命令の内容を打ち明けた。

 そしてそれを聞いたチナツはマコトの思惑を正確に察して思わずうめき声を漏らす。

 かつてチナツは先生に同行し戦闘の指揮能力、サンクトゥムタワーの制御権を復旧させる電子戦能力を直接目の当たりにした。

 だからこそマコトがその身柄を押さえたいと思うのも理解できるし、同時にあらゆる規約や罰則に縛られない超法規的機関であるシャーレに下手に動かれたくないというのも理解できる。

 とはいえそれを実行するには無視できないリスクが存在していた。

 

「でもそんな人数で他学園の自治区に踏み込んだら戦争と受け取られるんじゃ?」

「それも心配ありません。アビドスの自治区は現在校舎のみで便利屋が潜伏している市街地は企業の私有地、さらに再開発予定地区のため住民も全員退去済だとか。むしろ先生に気付いてもらえるかどうかの方が問題ですが……。さすがに戦闘になれば誰かしら様子を見に来るでしょう」

 

 他校の自治区へ大部隊が越境し戦闘行為を起こす、それはその学園に対する挑発や自治権の侵害と受け取られる行為であり、それはいくらアビドスが衰退していようと変わらない。

 そんなイオリの懸念はもっともでありチナツも最初に話を聞いた時から気にはなっていた。

 だからこそその点はどうなっているのかイオリとアコの会話に耳をすませていれば、告げられたのは問題無いという一言。

 説明の仕方からしてマコトに言われた情報をそのまま言っているのだろうが、まさか現地の土地所有者や周辺住民の確認まで済ませてあるとは。

 思わずその情報収集能力と手際の良さに感心してしまう。

 

「でもアコちゃん、それなら委員長が戻ってからの方がいいんじゃ? 委員長がいれば本気だって向こうも分かるだろうし便利屋の確保も早く済むだろうし」

「いえ、どうやって知ったかは分かりませんがシャーレに関する報告書が今日ティーパーティーに提出されたそうです。つまりトリニティが動くのも時間の問題、先に動くには委員長を待っている時間的猶予はありません」

 

 しかしアコにとってはそんな感心をする余裕など無かった。

 イオリの言う通りヒナがいれば良かったのだが残念ながら彼女は現在不在。そして万魔殿が土地の所有者を調べ上げ風紀委員が合法的に動ける口実を用意するといった不気味なほど手厚い準備を整えているということは言い換えればそれだけ余裕が無いことの証左。

 だからこそイオリとチナツはアコが心底嫌そうに発した言葉を険しい顔で受け止める。

 

「それとこの件には万魔殿の()()が入るそうです。そのことを念頭に、細心の注意を払って臨んでください。いいですね?」

 

 

 

 

 

 

 空は青く爽やかに晴れ渡り、風も無く気温も快適。行楽シーズンであればまさに絶好の外出日和と言える好天。

 その空を見上げながら思うのはどうしてこうなったのかという苛立ち。本来であれば昨日同様に外食や買い物といった平和で文化的な時間を過ごしていたはずなのに。

 しかしいくら嫌と思おうが命じられたからには従わなければならないのが組織人。

 故にターニャは渋々ながら早朝の風紀委員会本部を訪れていた。

 

「おはようございます。失礼ですが今出発準備中の部隊の責任者の方を呼んでいただいても?」

「はい……?」

 

 何故ここに万魔殿の人間がいるのか、そんな困惑の視線を浴びながら待つこと数分。やがて怪訝そうな顔で現れたアコはターニャを見た途端に分かりやすく渋面となった。

 

「誰かと思えばターニャさんでしたか。それで今日は何の用ですか?」

「万魔殿より監査として派遣されてまいりました。本日はよろしくお願いします」

 

 そう礼儀正しく頭を下げるがアコの不愉快そうな表情は変わらない、その事実にターニャは内心で盛大にため息を漏らす。

 しかし現状を考えればそれも致し方無いだろう。何しろ上位組織の人間が監査に来たと言われて嬉しい人間などいないのだから。

 そしてそんな現状を嘆きたいのは監査をする側のターニャとしても同じこと。

 昨日マコトに呼び出された先で告げられたのは風紀委員へ出動を命じたこととその出動に同行し適切に行動できているか監査を行えというものだった。

 なるほど、確かに他学園の自治区付近まで出かけるうえ主目的が要人の保護ともなれば普段以上に交戦規定(ROE)が順守されているかなどを気にするのも当然だろう。

 またシャーレの責任者と接触し保護しろというのであればその組織や当人について多少なりとも知っている人間を交渉役にするのも頷ける話ではある。

 しかしだからといって、まさかやっと取得できた休みを取り上げた挙句戦場に向かわせるという参謀本部と同じ決定を下されるとはどうして予想できただろうか。

 

「あなたが監査役ですか……。まあいいでしょう、こちらこそよろしくお願いします」

 

 そしてアコに案内されてビルの裏手にある広場へ向かえば、そこでは十台以上の大型バスが並び生徒たちが装備の確認や点呼など慌ただしく駆け回る光景が広がっている。

 帝国軍にいた頃は自分もよく行っていたそれを見てターニャは思わずため息をこぼす。

 まったく、安定した後方で出世したいと思っているだけなのにどうしてこういつも面倒事に巻き込まれるのだろうか――。

 そんなやるせない思いを胸に仕舞いながら、ターニャは気合いを入れんと小さく呟いた。

 

「さて、ではせめて給料分の働きはするとしましょう」




最初はまともな休みをあげる予定でしたが、よく考えたら休みを没収されて戦場に放り込まれる方がターニャらしいなぁと。
あとアコがティーパーティーにヒフミが報告書出したの知ってた件とか土地の権利者を調べてた件は確実にマコト絡みだと思ってます。
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