エスコート・エッチマン   作:むくつけき

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第二話 初仕事②

 

 そう意気込んでいたのだが。

 

「――保健体育の時間です」

 

 変質者のエントリーだ!

 

 路地裏から突如白衣を着た男が俺たちの目の前へと飛び出てくる。

 ふわりと舞った白衣の下からは、一瞬、奴の汚らしいナニかが顔を覗かせた。

 裸に白衣。

 コモンレアと言ったところか……!

 

「うわ、うわぁ!? な、なに、おじさん、あれ何!?」

「変態です」

「変態ではない! 健全な保健体育の知識の育成に熱意を注ぐ、私は人呼んで『保健室の妖精』!」

 

 ここいらは人通りのない場所だから、襲撃があるとするならこのあたりだろうと予想していたが、その通りだったな。

 護衛がいたとしてもこいつらの欲望に理性が打ち勝つことはないようだ。

 終わってるよこの世界。

 

 ビシッ! と音が聞こえてきそうなほど鋭く指を突き出してくる変態。

 問答無用でぶん殴ってもいいんだが、下手に騒ぎを起こせば警察組織(CPD)に目を付けられる可能性がある。

 

 ――逆に通報してCPDに来てもらうべきだって?

 取締(意味深)とか取調(意味深)されて終わりだよ。

 腐ってるんだ、ここ。

 

 まあ、セクハラが売りのゲームの世界である以上、初っ端から本番行為を迫ってくることはない。

 目に入るだけでココのような小さい子にとっては毒なんだがな……!

 

「問題です」

 

 何か始まった。

 

「男性が女性を支配するときに使うことで有名なこちらの――」

「見るんじゃねえ!」

「わっ!?」

 

 こいつさらっと汚ねえものを見せつけてきやがった!

 ココがそれを見てしまわないよう、俺のコートの下に隠す。

 クライアントに乱暴してごめんね!

 でも悪漢に乱暴されるよりはマシだろ!

 

「――こちらの人間の器官ですが、正しい呼び方は次の4つのうちどれ!? なお間違えた場合はお仕置きとして私と保健体育の実習をしてもらいます」

「健全でも何でもねえじゃん……」

「①男性器 ②ペニス ③おしべ ④陰茎……さあ、どれ!?」

 

 カウントダウンが始まる。 

 それを聞いてココが何かを考え始めた。

 

「ぜ、全部正解じゃん……難しいよお」

 

 少なくともおしべは正解じゃねえよ。

 あとまともに答えようとしているんじゃありません。

 モノを見ないで質問の意図を理解しているあたり、本当にこの世界じゃ男が女を支配するで有名なのだろうか。

 有名なんだろうな。

 もう分かんねえよ。

 

「分からない!? 分からないかなあ、大事な大事な学校で習う知識なのに、イケナイ子もいたもんだぁ! 親御さんにはさぞかし高いお金を払ってもらってるだろうにねえ!!」

 

 じりじりと寄ってくる。

 俺は中指を立てながら答えてやった。

 

「――答えは⑤のおちんぽ様だろうが!!」

「な、なに――ッ!?」

 

 驚愕のあまり、変態の変態が萎びた。

 どういう原理?

 まあいい。

 保健体育の妖精とやらのアイデンティティなんざ、こうしてぶっ壊しちまえばもう手は出せない。

 

「消えろ。義務教育なんだよ」

「くっ、上流階級であることにあぐらをかいているような不躾なガキに現実の恐ろしさを分からせてやろうってのに――ッ!! こんなの間違ってやがる――ッ!!」

 

 何かをほざきながら変態は消えていった。

 間違ってはいねえだろう。

 いや間違ってるわ。

 何がおちんぽ様だよ。

 義務教育でも何でもねえよ。

 適当なことを口にしちまったじゃねえか。

 

「お、おじさんおじさん……」

「おっと……すみません、ココさん。もう大丈夫ですよ」

 

 窮屈そうにしていたココを開放する。

 きょろきょろとあたりを見渡し、変態がいなくなったことを確かめると大きなため息を吐いた。

 

「ありがとうございます、おじさん……」

「それが仕事ですから。寮長さんの言っていたこと、これでお分かりになりましたか?」

「この都市怖い」

 

 そうだね。

 

「……でもおじさん、よく分かったね~? あんな質問、私だけしかいなかったらって思うとゾッとしちゃうよ~」

「ああいう変態の目的は自分の欲求を満たすことにありますから。理不尽な質問を投げかけたり、課題を課したりして、弄ぶんですよ、人を」

 

 それで困惑しながらも「私が悪いのかな……」みたいに思わせて行為に及ぶのが原作の定番だったというか。

 なし崩し的にというのがコンセプトの一つではあったからな。

 竿役のセクハラはそういうアプローチで主人公に飛んでくる、ってわけ。

 まともに対処しようとすれば痛い目を見ることになるだろう。

 それなんてクソゲー?

『ぐちゃどろはぁはぁサイバーパンク』ね。

 クソだこの世界は。

 

「頼りになるじゃん、エッチマン!」

「……さあ、行きましょうか。目的地まではもう少しですから」

「はーい!」

 

 しかしまあ、そんな悪意から健気な少女を守り通す。

 金稼ぎが理由の大半だったが、そう考えると、案外やりがいのある仕事なのかもしれないな。

 

 

◇◇

 

 

 思った以上に時間がかかった。

 立て続けに変態共が躍り出てきたのだ。

 体育倉庫の妖精、進路指導室の妖精、図書館、理科室、音楽室エトセトラ……。

 今日の竿役は学校シリーズだったな。

 

「今日は本当にありがとうございました、おじさん!」

「もういいのですか?」

「うん! お母さん、お薬飲んで寝ちゃったから! 無理させたくないもん!」

 

 ココの実家はこの都市では珍しく一軒家だった。

 年季の入った建物。その造りはどこか前世で見てきた家々と被るところがある。

 この辺りの地区『ジパングタウン』が日本風の建物ばかりだからそう感じるのだろうか。

 

 クライアントのプライベートなのでわざわざ母親の顔を見に行くことはしなかったが、声だけ聞く感じ、関係は良好なようだ。

 家から出てきたココの朗らかな笑みに当てられて、俺もちょっとばかし良い気分になった。

 

「顔を見られてよかったなあ。いつもお薬は郵送で送って、メッセージでのやり取りだけで、寂しかったから……」

 

 きっとそれが一番なんだろう。

 こうして治安の悪い場所を通って悪意に晒されるよりは、安全な場所に居続けるのが。

 

「でも、一回会ったら、また寂しくなっちゃった」

 

 なぜならば、この世界の女性は外に出るだけで大きなリスクを背負うことになるから。

 変態はどこにでも潜み、悲劇はどこからでも生まれる。

 安全地帯があるというだけ、ココは恵まれているだろう。

 だから、こうして危険な外に出てまでも、家族に会いに行くことは控えるべきだったのだ。

 

 ――だが今は違う!

 

「ならまたご利用ください、ココさん。なんなら割引券もプレゼントしちゃいましょう」

「ホント!? いいの!? ――やったぁ! おじさんかっこいい! エッチマン最高ー! 口コミ書いちゃう! ☆五つ!」

 

 ガキが……そういうの一番うれしい!

 

 まだまだ駆け出しで実績もないが、生の感想があれば、俺を雇うか迷っていた人たちの良い判断材料になってくれるだろう。

 

「また依頼するときはあのホームページからじゃないとダメー?」

「基本的にあそこからしか受け付けてないですからね」

「あれ使いづらいからイヤー」

 

 何だって!?

 俺が前世で培った知識をフル活用して96時間かけて作ったサイトが使いづらいだって!?

 ココはあっけらかんとした様子のまま、こめかみを二回ほど叩くと、

 

『こっち使ってもいい?』

 

 そんな文言のメッセージが視界端に表示される。

 今の動作はあれだ、前世で言うLI〇Eの交換みたいな。

 世間一般的に使われるSNSだ。学友と撮ったのか、可愛らしい写真がプロフィール画像になっている。

 

『だめ?』

 

 ……特別扱いも良くない、良くないが。

 俺の初めてのクライアントで、今後リピーター客になってくれるかもしれない有望株……!

 

『全然いいですよ!』

 

 俺はビジネスを理解した。

 

 ま、まあ、これも営業と言えなくはないか。

 友達たちにも俺のことを教えたりもしてくれるかもしれない。

 そう考えよう。

 

「うっわ、おじさんのプロ画おじさんくさーい」

「そ、そうですか? こう、良い感じの路地で気に入ってて……」

「ダサいのは良くない。私と写真撮ろうよーほら入って肩寄せてハリー!」

「何何何何」

 

 ぐいっと腰を引き寄せられて、無理やり腰を折らされる。

 そうして彼女と背が並び、さらに顔を寄せてきた! 首に回された手が俺の顔の前でピースサインを作る。

 彼女は右手に持ったスマホのカメラに笑いかけ、

 

「はいチーズ~」

 

 シャッターが切られる。

 

「ほいほいデコってデコってー、完成! 送信! 使ってー、ねっ?」

「スピード感がすごい」

 

 速攻で彼女なりに盛られまくった写真が送られてきた。

 ココの完璧な笑顔と対照的に、俺の顔は引きつっていた。

 これを使うの?

 使えという圧。

 クライアントは絶対ですわ。

 使います。

 

「はいかわい~!」

 

 かわいいかな……かわいいかも……。

 しかしこれが現役のアカデミー生。ギャルというものなのだろうか。

 この距離感の無さは普段の彼女らしさの表れだろう。

 

 ……もしかして俺、威厳が無いのか?

 護衛としては致命的なのでは?

 

「……帰りましょうか!」

「はーい!」

 

 考えないことにした。

 この世界にはそういうのが通用しないだけ。

 俺は俺に出来ることをやればいいのだ。

 

 そうしてココの通うアカデミーへと帰る道すがら。

 

「私は野球部の妖精!」

 

 また変態共と出会う。

 これはあれか。

 放課後シリーズか。

 

 とりあえず消えろ。

 俺は慣れたように変態共を捌いていくのであった。

 

 

 




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