「大変申し訳ありませんでした」
「良い。更木剣八と相打ちになったのだ、お前にしてはよくやった方だ。」
「…ありがたいです」
ハッシュさんに褒められた。けど、ねぇ…。大した喜びにはならない。いや、すんごい嬉しいんだけどね。あの日、あの時。私は、過去を忘れて眠れた。敵陣の中だというのに。戦争の真っ最中だと言うのに。あんな化け物とはもう2度と戦いたくないと思うと同時に、もう一度戦って、そのまま倒れるように眠りたいという気持ちもある。怖いもの見たさというものでもあれば、ただの欲でもある。
「…」
「もう良い。下がれ」
陛下に言われて下がる。陛下に呼ばれたのに、ほとんど陛下と話していない。なんなら、近々お前に大きい仕事任せるからなとまで言われた。ハッシュさんに。一体なんであの人はああも陛下のイエスマンなんだろうね。私にはわかんないや。…まさか、爛れた昼ドラ以上の関係…!?
「用件はなんだった?」
ふと目を上げる。なんだ、もうバンビーズの部屋だった。用件らしき用件…更木剣八と共倒れ素晴らしい!褒美に仕事あげる!感謝しろ(ガチトーン)が用件かな。
「それはまた」
「でも不思議ね〜」
「ん?」
「完聖体を使った上で卍解も奪ってなくて、敵陣で寝て、なのに仕事任されるんだ〜って」
「バンビちゃん、やっぱ陛下からの情報読まないよね〜」
「はぁ?何よ、その情報に答えあるわけ?」
「ありますね〜。今回リーベさんと戦ったのは更木剣八…卍解なしで特記戦力に選ばれてる化け物ですぅ」
「げっ、なにそれ」
「私ら5人集まっても勝てねえよ」
「鍛えれば?」
なんて言っても、何も返ってこない。みんな鍛える気ないっぽいね。少し悲しい。でもまあ、私は眠れることがわかったんだし、良いかな。次の侵攻で更木剣八の前に出ようかな。いや、それは流石に死ぬかな、じゃあ、せめて隊長の前に出たいな。更木剣八ほどじゃなくても、眠れそうだし。
「…あ、そうそう」
「なんだ?」
「ハッシュさん、少しの間いないって」
「へー」
「だから?」
「お年玉もらってなーい」
「…長ったらしい説教がなくなるじゃん」
「だからって暴れようとは思わないわよ」
それもそうか、と息を吐いて寝室へ向かう。ハッシュさんに頼めば、もう少し質の良いベッドくらい用意してくれるのかな。まあ今はいないから考えるだけ無駄だけど。自慢じゃないけど、
「…やっぱ、眠れないかぁ」
それから数日が経って。ハッシュさんが帰ってきた。それと同時に陛下からとある宣言が出るらしい。なんだろうか。また侵攻するのかな。私はとりあえずハッシュさんにもっと寝心地の良いベッドをもらいたいわけだけど。まあ戦争ってなったら厳しいよねぇ。うーん…陛下、頼むから今すぐ戦争じゃー!ってしないで…三日くらい待って!
「わ、みんな揃ってるなぁ」
「うるさいっての」
「蹴らないでよ…」
と、騒いでいれば陛下が来た。私はいまいちハッシュさんの言ってる言葉が理解できなかったけど、周りの動きに合わせて陛下に敬礼をする。そこから長ったらしい陛下の喋りを聞いて、要約すると(まあそこまで長くなかったけど)死神どもをそろそろガチで殺しにかかります!ってことらしい。それに加えてまた一つお話が。
「なんで新人が陛下と同じ壇上へ…?」
「石田雨竜。この世に生き残った最後の滅却師だ。私は、この者を我が後継者に指名する。」
石田雨竜。聞いた覚えはある。彼の二代前がここにいたこと。不出来な最終形態である
「異論は認めん。懸念もいらん。この者の力はここにいる全員が、その身をもって知ることになるだろう。以上だ」
それだけ言ってお開きとなった…わけもなく。陛下は去らない。そこにみんなが動揺するものだから、私もちゃっかり動揺しとく。
「リーベ・クラング」
「はい!?」
「お前を今、この場よりこの者の補佐に任命する。これにて解散とする」
え、懸念も何も必要ないって、言ってたのに?もしかして私は良いように使われてる?ハッシュから言われてた大きな役目ってこのことだったの?え、今からってことは今から石田雨竜について行けば良いの?でも私壇上には登れないし…私は本当になんで選ばれたの?
「…なんで私?」
「さぁ?更木剣八と共倒れしたからじゃないのー?」
「ムカつく!」
「リーベ、お前石田雨竜の首取ってこい」
「嫌だよ!」
「なんであんなもんを後継者として認めなきゃいけねえんだよ!」
「暴れすぎだトサカ」
「あぁ!?」
「…石田雨竜が迎えに来たのなら楽なんだけどな、行かなきゃだめだよねぇ」
「お前何受け入れてんだよ!」
「知らないよ。起きたことは受け入れて動かなきゃ。じゃ、バンビちゃん。石田雨竜の性格によるけど、バンビーズ抜けるから。よろしく!」
バンビちゃんの動揺の声や、キャンディちゃんの怒号が聞こえるけど無視。私だって嫌だ。だって星十字騎士団の中で唯一の女集団なんだから。道中に見つけたハッシュさんに石田雨竜の場所を聞き、駆け寄り、追いついて、隣を歩く。どれだけ強いのか知らないけど、私が補佐になるのだから、特記戦力相手には少し不安が残るのかな?
「どうも。石田雨竜の補佐役、リーベ・クラングです」
「石田雨竜だ。」
「補佐役なので、これからほとんどの時間付き添いますよ」
「…本当かい?」
「本当です。で、聞きたいんですけど」
「何でも聞いてくれ。その代わり僕が着いてきてほしくない時間を言う」
「現世の音楽ってどんなのがあるんですか?」
リーベ・クラング
名前の通り、音を愛します。