―――地球 海鳴市―――
住宅街の中にある一軒の家。
それは管理局に勤める魔導騎士の少女、八神はやてとその家族であるヴォルケンリッターの自宅である。
時刻は既に夕食時。
八神家では久々に家族全員で食卓を囲んでいた。
「こうしてみんなで晩御飯食べるのも久しぶりやね~」
「いつも何人か欠けちまうもんなぁ」
家長であるはやてが嬉しそうに言うのにヴィータがハンバーグを食べながら答える。
全員所属が違うため、中々全員集合とはいかないのである。
「ねぇ…なんでみんな私の作ったおかず食べてくれないの?」
「見るからに危険だからだ」
「…ぐすん」
「げ、元気出してくださいシャマル!」
シグナムの辛辣な一言に涙ぐむシャマルと、彼女を励ますリインフォースⅡ。
実際、シャマルの料理の腕はあまりよろしくない。
もとよりうっかり屋なところがあり、焦がしたり調味料を間違えたりなどは日常茶飯事であった。
そんな家族の団欒を眺めているのは、食卓の傍にいる子犬フォームのザフィーラである。
人の姿にも変われるが八神家が自分以外女性であること、海鳴市で生活する上では狼形態よりも目立たないかつ燃費がいいという理由から普段は子犬の姿で過ごしている。
主や仲間の守護騎士たちの仲睦まじい様子を見ながら、はやての手作り犬ごはんを食べている。
「そういえばシグナム。今日はフェイトちゃんと模擬戦やったんやろ?どうやった?」
シグナムの昼間の予定を思い出したはやてが尋ねた。
シグナムとフェイトは闇の書事件で対決してからずっとライバル関係が続いており、今回も久しぶりに模擬戦が出来ると二人共楽しみにしていたのだが――
「いえ、テスタロッサが緊急の呼び出しを受けたため出来ませんでした」
「ありゃ、そうなん?」
「ええ。今日は訓練室にいた他の局員と模擬戦した後、スクライアとトレーニングしていました」
「へぇ。ユーノも大変だなぁ付き合わされて」
「…いや、むしろ私がスクライアに付き合ったのだが」
「「「「え?」」」」
シグナムの言葉に驚きの声を上げる八神家一同(ザフィーラを除く)。
司書であるユーノが自主的に体を鍛えていることが意外だったらしい。
「無限書庫の無重力空間にいると体が弱るらしく、定期的に鍛えているそうです」
「そうやったんか。ユーノ君ってインドアな印象やったけど、実はムキムキだったりするん?」
「細身ではありましたが、確かに鍛えられていました。今後が楽しみです」
シグナムの説明に納得したはやての問いに、シグナムは期待に満ちた表情で答えた。
そんな彼女の様子を、ヴィータは珍しい物を見た風に眺める。
「ん?なんだヴィータ」
「いや、お前がそこまでユーノに入れ込むのが意外でさ」
「そうか?お前がスクライアを落とせなかったと聞いた時から、多少の興味はあったぞ。お前こそ気にならんのか?」
「そりゃ、悔しかったかって言われりゃそうだけど。あたしは誰かさんほどバトルジャンキーじゃねぇしな」
「私はそこまで戦闘好きというわけではないぞ!」
「「「「え?」」」」
「え?」
「「「「「………………」」」」」
(…平和だな)
しばしの静寂の中、食事を終えたザフィーラは内心そう呟いた。
―――ユーノの自室―――
「はぁっくしょん!?」
既に夕食を終え、読書を楽しんでいたユーノは唐突にくしゃみをしていた。
「ぐすっ…誰か噂してるのかな、なんてね」
鼻をすすりながら一人呟くユーノ。
そういえば何故くしゃみすると誰かに噂されているということになるのだろう。
大したことではないが妙に気になった疑問について調べようと席を立ったところで、ユーノの携帯電話が着信音を鳴らす。
机の上にある携帯を手に取って開くと、メールが一件届いていた。
送信者の名前を確認したユーノは、懐かしむような表情でメールを開いた。
―――数日後 時空管理局本局―――
予定が空いていたため、その日もシグナムはユーノのトレーニングに付き合っていた。
合流した時からユーノはどこか上機嫌であったため理由を尋ねると――
「先日、友人からメールが来たんですよ」
「友人…なのはたちとは別のか?」
「ええ。アレックス・スクライアといって、その名の通り僕と同じスクライア族なんです」
アレックス・スクライア。
ユーノよりも四つ年上で、遺跡調査の際は彼とよく行動を共にしていた。
ユーノが無限書庫に勤め始めてからも、時折連絡を取っていた相手である。
「近いうちに新しく発見された遺跡の調査をする予定らしくて、たまには帰って来て一緒にやろうって誘ってくれたんですよ」
スクライア族は古代遺跡の発掘、調査を生業とした流浪の部族である。
かつて海鳴に散らばったジュエルシードも、ユーノが現場指揮をとって発掘したロストロギアである。
「それで、スクライアは参加するのか?」
「ええ。里帰りも出来ますし、有給のいい使いどころですしね」
「ふむ…」
少々考え込むシグナム。
ちなみに現在、彼女はトレーニングウェアを着てアドミナルベンチというトレーニングマシンで腹筋運動中である。
体を倒すたびにトレーニングウェアを膨らませている彼女の胸が強調され、思春期真っ盛りなユーノは顔を真っ赤にしながら必死に視線を逸らしている。
そんな彼に気づいているのかいないのか、シグナムはしばし考えた後に言った。
「スクライア…良ければ、私も同行していいか?」
「え!?」
意外すぎる申し出に驚くユーノ。
シグナムは特に遺跡好きだとか、宝探しに興味があるというわけではない。
むしろ、シグナムの興味の対象はユーノの方だ。
ユーノが所属している無限書庫は、膨大な蔵書を整理し切れずろくに機能していなかった。
そのためユーノは各部署からの情報検索依頼に加え、書庫内の整理・探索作業を行っており、仲間内でもかなり忙しい方だ。
そのため時折プライベートで仲間が集まる機会があってもユーノが参加できないことが多く、またシグナムの所属が航空武装隊であるため無限書庫に依頼をする機会がほとんどない。
以上の理由からユーノとシグナムが会う機会というのは割と少なく、シグナムはユーノのことをあまり知らない。
最近トレーニングを共にするようになってからシグナムのユーノに対する興味が徐々に強まっており、今回の申し出もユーノが遺跡でどのような仕事をするのか気になったのが理由である。
「構いませんけど、いいんですか?遺跡といっても何も見つからないかもしれませよ?」
「構わんさ。私が見たいのはスクライアの方だからな」
「はい!?」
誤解を招きかねない発言であった。
―――さらに数日後―――
そろって有給を申請したユーノとシグナムは、管理世界『デンメルング』を訪れていた。
現在は調査対象の遺跡の近くにあるスクライア族の野営地を目指して、森林の中を歩いている。
「無限書庫で軽く調べたんですが、この世界ではミッド式ともベルカ式とも違う魔法体系があったそうです。ただ、千年以上前の大きな争いがきっかけで完全に途絶えてしまったそうです」
「今回調査する遺跡に、その謎が隠されているということか?」
「調べてみないことには分かりませんが、可能性はありますよ」
道中で事前情報を交えて遺跡のことを話すユーノはとても楽しそうだった。
14歳にしては大人びている彼が子供のように笑う姿を見て、シグナムは微笑ましい気分になる。
「楽しそうだな」
「はは、そうですね。久しぶりにみんなとも会えますし」
指摘され、照れながら答えるユーノ。
そうして話しながら進むうちに、二人は森林を抜けて広大な草原に出た。
視界の向こうにはいくつものテントが張られている。
スクライア族の野営地に到着したのだ。
二人が草原を歩いていると、野営地の方から一人の青年が現れる。
高い身長と青い髪が特徴的なその青年こそ、ユーノの友人であるアレックスだ。
彼の姿を確認したユーノが、手を振りながら声をかける。
「おーい、アレックス!帰って来たよ!」
「おうユーノ!久しぶりじゃ…」
アレックスもユーノに応えるように手を振り返していたが、突然言葉が途切れ、完全に動作を止めてしまった。
「あれ?どうしたのアレックス?」
訳が分からずユーノが尋ねるが、アレックスは完全に固まっている。
より正確に言えば、ユーノの隣を歩くシグナムの姿を見て、固まっていた。
何事かとユーノとシグナムが顔を見合わせていると、アレックスは唐突に二人に向かって駆け出した。
それは旧友を迎えるというよりは、獲物を狙う獣のような獰猛な走りだった。
ますます訳の分からなくなるユーノだったが、急接近して来たアレックスはユーノの正面で跳び上がり――
「死ぃねやぁああああああ!!」
「危なぁあああ!?」
全力全開、殺意に満ちたドロップキックをぶちかます。
身の危険を感じていたユーノはその場を飛び退いて、間一髪で回避した。
しかし、アレックスはユーノに安息の時間を与えなかった。
着地した直後に体勢を立て直し、すかさずユーノに最接近して胸倉をつかむ。
「ユーノてめぇ…『友人も連れて行くから』とか言っておいて、女を見せびらかしに来るとは上等じゃねぇか自慢かコノヤロウ!」
「お、女って…シグナムさんとはそういう関係じゃ…」
「うるせぇ!何だあの絶世の美女は!?顔よし!スタイルよし!完璧じゃねぇかコノヤロウ!!管理局の仕事が忙しいとか言ってたくせに、あんな美人の年上彼女作るヒマがあったってのか!?」
「だ、だから違うって!シグナムさんは本当にただの友人で、たまに一緒にトレーニングしたり…」
「そのトレーニングってのは体を鍛える方かそれとも男女が夜にやる方か後者だったらまだ大人の階段上るにゃ早いんじゃねぇかコノヤロウ!!」
「その発想は無理矢理すぎない!?」
もはや是が非でもユーノをぶん殴らないと気が済まないと言った風に暴走するアレックスと、それを必死に押さえ込むユーノ。
そんな二人の姿を見ながら、しかしシグナムは別のことを考えていた。
(私が…スクライアの女…?)
ただ二人で並んで歩いて来ただけだというのに、第三者から見るとそう思われるのだろうか。
そう考えると、なんだか妙に顔が熱くなってくる。
だが、ここで自分まで混乱していては収拾がつかない。
シグナムはゆっくり深呼吸して落ち着き、未だユーノに組み付いているアレックスに声をかける。
「あー、その、いいだろうか」
「だからお前にゃまだ…え?なんすか?」
「スクラ…ユーノの言う通り、私は彼の友人だ。あなたの考えているような関係ではない」
シグナムはユーノのことをいつも通りスクライアと呼ぼうとしたが、アレックスもスクライアで紛らわしいのでファーストネームで呼ぶことにした。
彼女の説明を聞いて、アレックスは徐々に落ち着いていった。
「…マジですか?」
「ああ、そうだろうユーノ?」
「え、ええ…」
最終確認をするアレックス。
ユーノは突然シグナムからの呼び方が変わって少々戸惑いながらもしっかりと肯定する。
「おいおいどうした?アレックスの叫び声が聞こえたが…」
そこに、野営地の方から新たな人物が現れてた。
外見年齢は三十代後半、顎に立派なヒゲを蓄えた男だった。
その男を見たユーノが言った。
「族長!お久しぶりです」
「おおユーノ!着いていたか。で、なんでアレックスに組み付かれてるんだ?感動の再会にしては乱暴では…」
族長と呼ばれた男性は疑問に思ったが、シグナムの姿を見て確信する。
「…ああ、なるほど。ユーノと彼女が恋人関係だと勘違いして暴走したってところか」
「うぐ…」
「全く、メールには友人と書かれてあったんだろうが」
ばつが悪そうな顔をしたアレックスに呆れつつ、族長はシグナムに歩み寄る。
「すいませんな。うちの若いもんが見苦しいところを見せてしまいまして」
「いえ、そんなことは…」
ない、と言いたかったが流石のシグナムも言いよどんでしまう。
族長は握手を求めるように右手を差し出しながら、笑顔で言った。
「私はスクライア族の長を務めている、デミオ・スクライア。ようこそ、スクライア族へ」
歓迎の言葉を受けて、シグナムは族長の手を握り返すのだった。
原作だとスクライア族に関して全然情報がないので
二次創作ではオリキャラを出さざるを得ないんですよね。
それはともかく、次回はいよいよユーノが戦います。