続きはあまり間をおかずに投稿します。
スクライア族野営地の中央では、ユーノの帰還祝いとシグナムの歓迎を兼ねた夕食会が行われていた。
既に日は沈み、キャンプファイアの明かりが周囲を照らしている。
ユーノはアレックスを中心とした男連中に囲まれているが、そのうちの何人かはすでに泥酔しており完全に飲み会のノリである。
一方で、シグナムは女性たちと談笑していた。話題はもっぱら管理局でのユーノのことである。
「ふーん。じゃあ、ユーノ君って結構忙しいのね」
「ええ。無限書庫の資料があれば捜査は円滑に進みますから。特にロストロギアに関する情報は貴重です」
「でも司書の体制は万全じゃないんですよね?まずそれを整えるべきなのでは…」
「検索魔法をうまく活用できる人間が少ないっていうのが痛いわね」
ユーノの現状を聞かされた女性陣は、主に彼の職場である無限書庫の環境の悪さに対して不満を漏らしていた。
彼女らにとってユーノは弟や息子のような存在だ。
そんな彼が九歳の時に部族を飛び出して以来厳しい職場環境に身を置いているとなれば、心配にもなるだろう。
(これが、ユーノの家族か)
それが女性陣を見たシグナムの感想だった。
ユーノには生みの親がいないと以前聞いたことがあったが、彼を心配している家族は確かにいるのである。
そうして話しているうちに、族長のデミオがシグナムに歩み寄って来た。
「楽しんでますかな?」
「ええ、とても」
「それはなにより。遺跡調査は明日ですし、今夜はゆっくり休んでください」
「ありがとうございます。しかし、よろしいんですか?私が調査に参加しても」
「構いませんとも。聞けばあなたは優れた騎士だそうで。遺跡では時折、トラップとして傀儡兵が現れる場合もありますからな。戦力が多いに越したことはない」
デミオの言葉を聞いて、シグナムは安心した。
遺跡調査をするユーノの姿を見に来たとはいえ、シグナムは古代遺跡に関しては全くの素人である。
そんな自分が現場にいても役立たずなのではないかとも思っていたが、有事の際に力になれるのならば望むところである。
と、これまで朗らかに話していたデミオの表情が急に引き締まった。
それを見て、おのずとシグナムも気を引き締めて彼の話を聞く。
「つい先ほど本人にも聞きましたが、ユーノはかなり厳しい仕事をしているようですな」
「…ええ」
「ユーノは昔から周りのことを第一に考える優しい子です。しかし我慢しがちというか、自分の辛さを周りに隠そうとするんですよ。小さいころから大人に混じって行動して来たからでしょうな…まだまだ子供だというのに、自分は泣き言を言ってはいけないと、そう考えているのでしょう」
「それは…」
シグナムにも思い当たるところはある。
ユーノが無限書庫で激務に励んでいるのも、検索魔法を最も上手く扱えるのがユーノ自身であるからこそ、書庫のあらゆる業務において彼が先頭に立って行動しているからだ。
子供の身ではかなりの苦労だろうに、彼は仲間の前では気丈に振る舞っている。
自分たちが模擬戦の際に結界を頼めば、貴重な空き時間であっても喜んで引き受けてくれる。
それが嬉しくもあり、同時に申し訳なくもあった。
シグナムがそう考えていると、デミオは真剣な表情のまま、頭を下げて言った。
「よければこれからも、ユーノのことを見ていてもらえませんか?そして、あの子が辛そうにしていたら、支えてあげてほしい。あの子は、他人に頼るのは苦手ですからな」
「…無論です。彼は私の…友ですから」
デミオからの申し出に、シグナムは笑顔で答えた。
対してデミオは晴れやかな表情で、感謝の言葉を返すのだった。
「しっかし本当に美人だなぁシグナムさん。本当に友達か?それで満足かお前は?」
「しつこいなアレックスも…」
「あ、そういやユーノ。お前、管理局に友人って何人いる?」
「え?付き合いの長い友人なら、なのはにフェイト、アルフ、悪友だけどクロノ。あとは、はやてにシグナムさん、ヴィータにシャマルさんと…」
「…待て。今挙げた中で男はどんだけいる?」
「クロノだけだけど?」
「女ばっかじゃねぇかコノヤロウ!!」
「どこに怒ってるのさ!?」
シグナムとデミオが真面目に話す中、男性陣の方ではそんなやり取りがあったそうな。
―――翌日―――
ユーノとシグナムは調査チームと共に、今回の調査の拠点となるベースキャンプにて調査直前の会議を行っていた。
拠点には三角屋根のパイプテントが設置されており、その下の大きなテーブルには遺跡の全体像を描いた概略図が広げられている。
今回のリーダーであるアレックスは調査チームの面々がテーブルの周りに着いたことを確認し、声を上げる。
「ようし、会議始めるぞ。今回調査する遺跡は建造物の構造や配置からして、恐らく古代の都市だったものだ。で、遺跡の状態を見るに推定でも千年以上前の物…分かるか?この遺跡を調べりゃ、長らく謎とされてきたこの世界独自の魔法文明に関して分かるかもしれねぇってことだ」
アレックスの言葉を受けて、チームの面々はおお、と声を上げる。
シグナムが隣に立つユーノをチラリと見ると、声こそ上げていないが明らかにワクワクしている。
古代の謎が解けるとなれば、遺跡調査を生業とするスクライア族が期待に胸を躍らせるのも当然だ。
「まぁ気持ちは分かるが落ち着けって。で、今回は久々に帰って来たユーノの他に、特別ゲストが一人!古代ベルカ式の騎士、シグナムさんだ!ヘイ拍手!」
アレックスの異様なテンションに引っ張られるように調査チームがシグナムに拍手を送る。
管理局の武装隊とは明らかに異なるノリに内心戸惑うシグナムであった。
紹介の後、調査を始めるにあたり班分けが行われた。
リーダーとして拠点に待機し、各班に指示するアレックスを除く調査チームのメンバーは地上の探索を行うために三つの班に分けられた。
そして、ユーノとシグナムは―――
「ユーノとシグナムさんには第四班として、地下の調査をやってもらいたいんだ」
「地下?」
「概略図で言や…ここだな」
アレックスはテーブル上の概略図の最北端、拠点側から見て遺跡の最奥地点を指さした。
「事前にサーチャーを使って簡単な探索をしてたんだが、ここに地下に通じる入口が見つかってな。ただ地下の構造までは把握し切れなかったし、トラップの可能性があるから大人数で入るのはリスクがでかい。まず二人に入ってもらって、必要に応じて他の班を送り込むプランだ。行けるか?」
「…いいの?一番おいしそうなところ任せてさ」
「帰還祝いに譲ってやってんだよ。ありがたく受け取れ」
そんな会話の後に、ユーノとアレックスはニヤリと不敵に笑う。
性格こそ違うが似た者同士なのかもしれない。
「シグナムさんもいいですか?」
「ああ。もとよりこちらは素人だ。そちらの判断に従おう」
「おっし!じゃあ張り切って行くぜ!」
アレックスの言葉によって会議の終了が告げられ、いよいよ遺跡調査が始まった。
三つの班はそれぞれの担当エリアに向かい、ユーノとシグナムは地下への入口に向かって遺跡の中を進んでいく。
広大な遺跡の中には住居と思しき建造物が点在しており、道端には小さな石像が置かれていた。
地球における地蔵のような石像だったが、どことなく河童に見える。
当時の住人たちが祀っていたものだろうか、とユーノは頭の中で考察しながら歩いていた。
そうして遺跡を見回しながら進んでいると、遺跡の最奥にある一際大きな建造物の前に到着した。
建造物の正面側はほぼ倒壊しており、ガレキの山の向こうにはアレックスから聞いていた地下への入口が見える。
『こちら第四班、例の建造物の前に到着した。これから内部に向かうよ』
『こちらベースキャンプ、了解だ。気ぃ付けていけよ』
「行きますよ、シグナムさん」
「ああ、頼りにしているぞユーノ」
念話で現状をアレックスに伝え、ユーノはシグナムと一緒に入口へと入っていった。
ユーノはサーチャーを使って地下の内部構造を捜索したがトラップの類は確認されなかった。
今は周りに魔力の光球を浮かせて照明にしながら通路を進んでいる。
しばらく進んでいると、ユーノは通路の壁にいくつも描かれている壁画を発見した。
壁画には、怪物の群れが大勢の人々を襲う様子や、龍を従えた戦士が怪物と戦う様子が描かれていた。
「恐らくこの世界には強大な魔力を持った生命体がいて、この遺跡の住人たちと敵対していたんでしょう」
「この戦士、剣を持っているように見えるな」
「ええ。魔法体系としては、古代ベルカに近いものだったのかもしれませんね」
ユーノとシグナムは壁画の内容から、かつてこの遺跡で起きた出来事を考察していた。
別の壁画には人に近い姿のものや巨大な虫のようなもの、植物のようなものなど様々な姿の怪物が戦士たちに倒されていく様子が描かれている。
そして通路の奥には、一際大きな壁画があった。
空を覆い尽くさんばかりに巨大な翼を生やした魔物に、三人の戦士が三体の龍と共に立ち向かっていく様子。
そして三体の龍が武器を手放した戦士たちの下を離れ、天へと昇っていく様子が描かれている。
「この龍が戦士たちに力を貸していたと仮定すれば、この戦士たち…当時の魔導師たちはこの戦いで魔力を失ったのかもしれません」
「それが、この世界の魔法体系が途絶えた理由ということか」
「おそらくですが…この先に進めば、もっと分かるかもしれませんね」
そう言ってユーノは、通路の更に奥へと進んでいく。
ほどなくして、二人は広い空間に出た。
床から天井までは数十メートルの高さがあり、巨大な支柱が等間隔に並んでいる。
「ここが地下の最奥か?結局、トラップの類はなかったな」
「そうですね。ロストロギアが保管されていたり、王族の墓だった場合にはセキュリティとしてトラップが仕掛けてある場合もあるんですが…」
トラップがないということは、ここにはロストロギアなどの守られるべきものがないということなのだろうか。
しかしこれだけ手の込んだ遺跡に何もないとは考えにくい。
そもそも、この地下の空間は何のために作られたものなのか。
様々な疑問に思考を巡らせながら、ユーノは地下空間に探索魔法を走らせる。
「…ん?」
すると、地下空間の奥の方にわずかな魔力の気配を感じ取った。
奥へ向かったものの、魔力を感知した場所には一見して何も見当たらなかった。
「ここで何かが封印された…?その時の残滓がまだ…」
ユーノは床に手を付き、その場に残っている魔力の正体を探るべく探知魔法を展開する。
しかし、ここで異変が起きた。
その場に残っていた微弱な魔力が、まるでユーノの魔力に反応したかのように気配を強めたのだ。
「ユーノ!」
やや離れた位置にいたシグナムもその気配を感じ取り、急ぎユーノの傍に向かおうと飛び出す。
しかし魔力は瞬く間に広がり、半径十メートルほどの結界となってユーノを内部に閉じ込めてしまった。
「ユーノ、無事か!?」
「ええ。しかし迂闊でした。まさか探知魔法に反応してここまで増幅されるなんて」
「待っていろ。この程度の結界など!」
シグナムはレヴァンティンを抜き、結界を破壊しようと振り下ろす。
結界破壊の術式を付加されたレヴァンティンの刀身は結界を容易く切り裂いたが、瞬く間に修復されてしまった。
「おそらく結界を作り出している核があるんですよ。それを破壊しないと」
「ちぃ、最後になってこんなトラップが…」
「…いえ。おそらくこれは遺跡のトラップなんかじゃありませんよ」
ユーノは先ほど地下空間を探索した際に、結界魔法の術式が仕掛けられていないことは確認していた。
つまりこの結界は、遺跡を作った人間が意図的に仕掛けたトラップではない。
「では一体…!?」
シグナムの疑問の声は、途中で止まってしまった。
結界内部の地面を覆う魔力の中から、突然数本の腕が生えてきたのだ。
更にその下から、まるでゾンビが墓の下から這い上がってくるかのように本体が現れる。
人に近い体型をしているそれは、しかし全身が暗い紫色に染まっており、頭部にある大きな単眼が不気味にユーノを睨んでいる。
その姿は怪物、あるいは魔物といった呼び方がふさわしいものだった。
「どうやらこれが、壁画に描かれていた怪物のようですね」