Guardian's Sword   作:常磐

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前回の続きとなります


その名はムラサメ

 

 

自身の目の前に次々と現れる怪物たちの姿を見つつ、ユーノはある仮説を立てた。

かつてこの地下空間でも、壁画の戦士たちと怪物との戦いがあったのだろう。

先ほど感知された魔力は、その戦いの末にこの場に封印された物の持っていた魔力の残滓なのだ。

 

 

「まさか、千年以上も残り続けていたとはねっ!」

 

 

怪物群のうち、襲いかかってきた一体の攻撃をユーノはその場から飛び退いて避けた。

距離を置き、ユーノは怪物群に向けて魔法陣を展開する。

 

 

「チェーンバインド!」

 

 

魔法陣から伸びる魔力の鎖が、怪物群を拘束する。

だが、直後に地面から新たに現れた同型の怪物が右手に握った禍々しい形状の剣で鎖を断ち切ってしまった。

ユーノは解放された怪物たちの攻撃をシールドで防ぐも、結界に囲まれたこの狭い空間では飛行魔法で飛びまわることもできず、数で攻めてくる怪物たちに徐々に押され始めていた。

 

 

「ユーノ!くっ…!」

 

 

結界の外にいるシグナムは何とか結界を破壊してユーノに加勢しようとするが、結界は先程よりも更に強固になっており、レヴァンティンが容易く弾かれてしまう。

そうこうしているうちに、ユーノはついに怪物群に包囲されてしまった。

焦るシグナムに対して、ユーノは――

 

 

「…仕方ない、使うか」

 

 

冷静にそう言って、腰のポーチからある物を取り出した。

黒い表面に金色の文様が入った、楕円形のディスク。

それを正面に掲げ、ユーノはその名を呼んだ。

 

 

「行くよ…ムラサメ!」

 

 

ユーノの声に応えるように、ディスクが光を放ち、宙に舞う。

 

 

「まさか、待機状態のデバイス…!?」

 

 

その様子を見ていたシグナムがディスクの正体を悟った時だ。

ディスクの中央に空いている細い穴から放たれる光のラインが、ディスクの両面側に別々の輪郭を描き出した。

一方は柄、もう一方は反りのある刀身の形となって、光が集まりそれぞれのパーツを実体化させ、ディスクはそのまま鍔となった。

そして、刀身の周囲にいくつものパーツが出現し、刀身を包むように集まって接続され、刀を納める鞘となった。

 

デバイスが形作られるのと同時進行して、ユーノのバリアジャケットも変化していた。

先程まで纏っていたマントが魔力の粒子に分解され、陣羽織を彷彿とさせるロングコートに再構築された。

更に両腕両足に魔力を集め、籠手や脛当といった防具が追加される。

 

バリアジャケットを再構成したユーノが、完成された刀型デバイス――ムラサメが納められた鞘を左手で掴み、左腰に提げる。

そのタイミングで、剣を持つ怪物の一体がユーノに斬りかかってきた。

ユーノが刀を抜く前に仕留めようとしたのだろう。

しかし、ユーノはバックステップによって怪物の斬撃を回避する。

剣が空振りし、体勢を崩した怪物に向けて、ユーノは素早くムラサメの柄を右手で握り――

 

 

「はぁっ!!」

 

 

抜刀と同時に、怪物の体を両断した。

斬り裂かれた怪物は、不気味な断末魔を上げながら消滅した。

一瞬の出来事に周囲の怪物たちが怯む中、ユーノはムラサメを構えながら静かに言い放つ。

 

 

「さて、次は誰かな?」

 

 

挑発的な表情で言われ、怪物たちは剣を手にユーノに斬りかかる。

ユーノは突撃してくる怪物たちの斬撃を時に回避し、時にシールドや籠手で弾くことで防ぎ、ムラサメで反撃する。

 

その様子をシグナムは呆然と見ていた。

ユーノがアームドデバイスを所有していたこともそうだが、多数の敵を相手に近接戦闘を繰り広げていることにも驚きだった。

後方支援を得意とするユーノが刀で戦うことを意外に思うシグナムだったが、ユーノの戦闘を観察しているうちにあることに気づく。

 

ユーノは自分から敵に攻撃を仕掛けようとはしない。

敵にわざと先制攻撃させてそれを防ぎ、隙の生まれた敵にカウンターを仕掛ける。

しかも反撃の手段はムラサメによる斬撃だけではない。

時には左の掌に小さなシールドを作り、向かって来た敵の顔面に掌打を叩き込んでいる。

優れた防御力を誇るシールドは、攻撃に使えば強力な打撃武器と化すのである。

 

確実なカウンターを狙い、時にシールドを攻撃に応用する戦闘スタイルは、防御に秀でたユーノらしい戦法と言える。

 

 

(しかし、どこでこんな戦い方を…?)

 

 

それがシグナムにとって最大の疑問だった。

闇の書事件にしてもその後の模擬戦にしても、ユーノがこのような戦法を見せたことは今までに一度もなかった。

そもそもデバイスは必要ないと言ったのは、他ならぬユーノ自身だというのに。

 

 

(なぜ黙っていた…ユーノ)

 

 

シグナムがそう思う間に、ユーノはついに最後の怪物と対峙していた。

怪物が振り下ろした剣を左腕の籠手で防ぎ、その腹をムラサメで貫いた。

怪物はムラサメを引き抜かれると、そのまま地面に崩れ落ち消滅する。

ユーノは周囲を警戒するが、新たな怪物が現れる様子は見られない。

 

 

「終わったのか?」

 

「…いえ、まだのようです」

 

 

シグナムの問いに返しながら、ユーノは結界の中心を注視していた。

結界内部に広がっていた魔力が集中し、新たな怪物を形作っていたのだ。

全身が黒色の装甲に包まれ、身長が三メートルはあろうかという巨人の姿をしている。

その胸や肩からは魔力結晶が突き出ており、そこから発せられている魔力が周囲の結界へと流れている。

 

 

「どうやらあの魔力結晶が結界の核ようですね」

 

「ならばヤツを倒せば…」

 

「とはいえ、かなり硬そうですね。なら…」

 

「?ユーノ、何を…!?」

 

 

ユーノは突然ムラサメを鞘に納めてしまった。

結界越しでも強大な魔力を感じる相手を前になぜ納刀するのか、シグナムの疑問を無視して巨人が動き出す。

 

 

≪ヴオオオオオオオ!!≫

 

 

巨人はその巨大な腕をユーノに向かって振り下ろすが、ユーノは横に跳び退くことでそれを回避する。

すかさずチェーンバインドを展開してその腕を拘束したが、巨人は力任せに鎖を引きちぎってしまう。

巨人の攻撃は続くが、ユーノはムラサメを納めたまま防御や回避に専念している。

 

先ほどまでとは打って変わって防戦一方となっていることをもどかしく思っていたシグナムだったが、ユーノが左手に持っているムラサメの鞘から強い魔力を感じた。

注意して見れば、ムラサメを納めている鞘の装甲の一部がスライドしており、内部にあったインテークのような機構が露出していた。

鞘はそこから周囲の魔力を吸収・蓄積しているらしい。

 

 

≪ヴオオオ!!≫

 

 

しかし、未だユーノを仕留められない巨人は、両拳に魔力を集中させて一気に振り下ろした。

回避しても魔力の余波を受けると予測したユーノは全力のラウンドシールドを展開して巨人の拳を受け止める。

 

 

「くぅ…!!」

 

「ユーノ!!」

 

 

想像以上に強い衝撃を何とか防いだユーノだったが、巨人はそのままユーノをシールドごと押しつぶそうと、腕に更なる力を込める。

苦悶に満ちた表情でそれに耐えるユーノに、思わずシグナムは声を上げる。

こうなれば力尽くでも結界を破壊しようと、シグナムはレヴァンティンの鞘を取り出し――

 

 

「シグナムさん!ボーゲンフォルムはダメです!」

 

「何故だ!シュツルムファルケンならば…」

 

「威力が大きすぎます!遺跡が崩落するかもしれません!」

 

 

シュツルムファルケンはレヴァンティンの弓形態・ボーゲンフォルムによって放たれるシグナム最強の魔法である。

結界を破壊する効果を有するが着弾時に大規模な爆発が発生するため、その衝撃が周囲にある支柱を破壊すれば、間違いなく天井が崩落してユーノたちを潰すだろう。

 

 

「では、どうすれば…」

 

「大丈夫ですよ。反撃の準備が整いましたから」

 

 

ユーノに言われ、シグナムは気づいた。

先ほどまで開いていたムラサメの鞘のカバー部分が元の位置に戻り、インテークを再び隠していた。

鞘の内部には、尋常ならざる量の魔力が内包されている。

 

苦悶の表情から一変、不敵な笑みを浮かべたユーノはラウンドシールドを展開したまま右手で印を結び、詠唱を始める。

 

 

「妙なる響き、光となれ。見えざる力にて、我に仇なす者を縛れ!」

 

 

詠唱の直後、巨人の体を球状の結界が包んだ。

ユーノは右手を巨人に向け、その魔法名を叫ぶ。

 

 

「封縛結界!!」

 

 

その瞬間、結界に包まれた巨人の体がまるで磔にされたかのように動きを止めた。

結界内に不可視の力場が発生し、巨人を封じ込めているのだ。

 

巨人を捕らえたユーノは、すかさず左腰にあるムラサメの柄を握り、抜刀の体勢をとる。

 

 

「…『斬雨(キリサメ)』!!」

 

 

裂帛の気合と共に高速で抜き放たれた刀身には、鞘が吸収していた大量の魔力が圧縮されていた。

鞘によって封じ込められていた魔力は抜刀によって解放され、刀身部から一気に噴射される。

魔力の噴流は、高圧水流によって鋼鉄すら切断するウォーターカッターのように、巨人の体を封縛結界ごと斬り裂いた。

 

巨人が真っ二つになる瞬間を見たシグナムは、もう一つの事象に気づいた。

ユーノを閉じ込めている結界の、巨人の背後側の壁が大きく切断されていたのだ。

つまり、先ほどの魔力噴流による斬撃はレヴァンティンすら弾いた結界を巨人諸共斬ったということだ。

驚異的な威力とリーチを兼ね備えた一撃に、シグナムは言葉をなくした。

 

 

核となる魔力結晶を破壊され、巨人の体は塵となって崩壊し、結界も消滅した。

 

ユーノはムラサメの刀身に雫のように残っていた魔力の残滓を刀を振るうことで飛ばし、ムラサメを鞘に納める。

シグナムはユーノに歩み寄った。

 

 

「…今度こそ、終わりか?」

 

「ええ。さっきまでの魔力は感じられません。完全に消えたようです」

 

「そうか…ユーノ、その刀は一体…?」

 

 

ユーノの左手に握られたムラサメを見ながら、シグナムは問う。

 

 

「…この刀の名は『ムラサメ』。本当なら、もう使うつもりはなかったんですがね…」

 

 

自嘲するように笑いながら、ユーノは答えた。

 

 




ユーノが纏った陣羽織のイメージとしては、『侍戦隊シンケンジャー』の
スーパーシンケンジャーの陣羽織が一番近いです。
襟をなくして、肩鎧を少し小さくしたような感じですね(分かりづら!)


次回はユーノがムラサメを手に入れる経緯など。
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