Guardian's Sword   作:常磐

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強くなるために

 

 

―――現在―――

 

 

 

「…これが、僕がムラサメを得た経緯です」

 

 

デンメルングの遺跡調査を終えた夜。

ユーノは来客用に張られたテントの中でシグナムと話していた。

話題はもちろん、ユーノの所持しているアームドデバイス・ムラサメについてだった。

 

 

「古代のアームドデバイスか…」

 

「調べたところ、古代ベルカ史の初期に造られたようです」

 

 

テントの床に胡坐をかいているユーノは待機状態のムラサメを起動させる。

納刀状態の刀となったムラサメを手に取り、ユーノは鞘の一部を指さした。

そこは、怪物との戦闘中に開いていたインテークのカバー部分だ。

 

 

「この鞘には周囲の魔力素を自動的に吸収して、刀身に圧縮する機能があります…これ、何かに似ていると思いませんか?」

 

「…カートリッジシステムか」

 

 

問い掛けに、特に悩む様子もなく答えたシグナムに、ユーノは正解と告げた。

圧縮魔力によって攻撃を強化するという点は、ムラサメの鞘もカートリッジシステムも共通している。

双方の最大の違いは、ムラサメが戦闘中に魔力素の吸収・圧縮を行うのに対して、カートリッジシステムは予め魔力が圧縮された弾丸を使用することだった。

 

 

「ムラサメには鞘の魔力圧縮が完了するまで抜刀出来ないため、数分間武器を封じられるという致命的な欠点があります」

 

「その欠点を踏まえて、瞬時に圧縮魔力による魔法強化が出来るカートリッジシステムが開発されたということか」

 

「ええ。加えて、ムラサメには変形機能も備わっています。言うなればムラサメは、シグナムさんたちが使っている古代ベルカ製アームドデバイスのプロトタイプなんです」

 

 

武器を模した形状や、ベルカ式魔法の特徴である圧縮魔力による強化機能。

確かにムラサメは、アームドデバイスの基礎と呼べる物だ。

夜天の書の守護騎士であるシグナムには古代ベルカ時代の記憶はないが、自身の相棒であるレヴァンティンの先祖のようなデバイスを目の前にすると、感動的な気分になった。

 

ひとまずムラサメに関しては理解できた。

しかし、シグナムにはもっと重大な謎があった。

 

 

「ユーノ…何故、ムラサメのことを黙っていた?あれだけの剣術、一体どこで身につけた?」

 

 

遺跡の最奥で遭遇した怪物の群れ。

多勢に無勢な状況だったがユーノはムラサメを操り全ての怪物を撃破した。

あれだけの力を持ちながら何故それを隠していたのか。

シグナムの問いに、ユーノは静かに答える。

 

 

「族長からムラサメを託された時、僕はムラサメを使うつもりは全くありませんでした」

 

「何?」

 

「刀にしても戦闘にしても僕は素人でしたし、ムラサメには非殺傷設定がありませんから、下手に使って誰かを傷つけるのが怖かったんです」

 

 

ユーノは海鳴で起きた戦闘でも、仲間同士の訓練でもムラサメを使わなかった。

ムラサメの切れ味は凄まじく、さらに圧縮魔力によって放たれる斬撃『斬雨(キリサメ)』は強固な結界さえ容易く斬り裂くほどの威力を誇る。

人間相手に使えば、例えバリアジャケットを纏っていたとしても、ジャケットごと相手の体を両断してしまうだろう。

そんな危険な物を安易に使えるわけがない。

 

しかしある時を境に、ユーノの心に変化が訪れる。

 

 

「なのは、フェイト、はやて…彼女たちは、過去の事件で大切なものを失って…あるいは、失いかけました」

 

 

フェイトはPT事件で、自身の母親であるプレシアを救えなかった。

はやては、新たな家族になるはずだったリインフォースを失った。

そして三年前、なのはは謎の敵の襲撃を受け、生死の境を彷徨った。

 

 

大切な友人である彼女たちが悲しみ、苦しむ姿を見て、ユーノは思った。

自分にもっと力があれば、違う結果になったのではないか、と。

 

 

「滅茶苦茶な考えだってことは分かってました…でも、居ても立っても居られなかったんです。彼女たちのために、何か出来ることがあったはずなんだって…」

 

 

例え戦う力を持っていたとしても、それだけでプレシアやリインフォースを救えたかと問われれば、答えはNOだ。

なのはが重傷を負った原因は、襲撃以前になのはが無茶を重ねて疲労していたため。

ユーノがなのはを魔法の世界に引き込んだのが原因と言えばそうかもしれないが、それはなのはとフェイトを始めとする仲間たちの絆の全てを否定することになる。

 

過去に起きたことはどうあっても変えられない。

ならばせめて、これからも前線で戦うであろう仲間たちをもっと近くで支えられるように、力が欲しい。

その思いが、ユーノにムラサメを握らせた。

 

強くなるために、ユーノは考えつく限りのことをしてきた。

無限書庫の蔵書の中から剣術に関する資料を集め、頭にありったけの知識を叩き込んだ。

肉体のトレーニングに加え、ミッドチルダで人のいない区画に結界を張り、無限書庫で得た知識を実践しながら独自の戦闘訓練を積んだ。

魔法に関しては新たに攻撃魔法を習得するのではなく、自分の得意とするサポート系の魔法を戦闘に応用することで、扱いやすい攻撃手段を編み出した。

結界魔導師である自分には、自ら前線に出て敵陣に切り込むような戦い方は適さない。

自分が刀を使うとしたら、仲間の攻撃を回避し接近して来た敵に対処する時だろう。

そうして実際に自分が戦うあらゆる状況や敵を想定しながら、ユーノは自分に適した防御主体の戦法を作り上げていった。

 

強くなりたい。仲間たちと肩を並べて戦えるようになりたい。

ただそれだけを思い、ユーノは我武者羅に自分を鍛え続けていった。

しかし――

 

 

「ある時、思ったんです…僕が強くなって、何か意味があるのかなって」

 

「…それは、何故だ?」

 

 

これまで話していた自分の過去を否定するかのようなユーノの言葉に、シグナムは少し動揺した。

語るユーノの表情からは、ひどいやるせなさが感じ取られたのだ。

 

 

「なのはたちが模擬戦をする時、何度か僕が結界を張ってましたよね」

 

「ああ。お前のおかげで、私たちは心置きなく全力を出せる。お前には感謝しているよ」

 

「…そうですね。皆、僕の結界の中で全力全開で戦ってました。それこそ、訓練室を破壊しかねない勢いで」

 

「皆がユーノの結界を信頼している証拠だ」

 

「それは、とても嬉しいんですけど…僕は皆に内緒で鍛え続けて、自分の強さにある程度自信をつけたつもりでした。でも、皆の全力を見て思ったんです。僕は皆と肩を並べられるほど強くはなれないだろうって」

 

 

語っている内に、ユーノは次第に顔を俯かせていった。

 

 

「今まで司書としてサポートに徹していた僕が、今更自分を鍛えたところで皆に追いつけるわけがない。同じ場所に立てるわけがない。そう考えると、なんだか必死になってる自分がバカみたいに思えてきて…情けないですよね。勝手に自分を追い詰めて、勝手に訓練して、勝手に諦めるんですから」

 

 

自嘲するように、歪な笑みを浮かべるユーノ。

それに対して、シグナムは眉間にしわを寄せ、唇を強く噛みしめていた。

怒りや悔しさが入り混じったような表情だ。

シグナムは自分を落ち着かせるように一呼吸してから、言葉を発した。

 

 

「腹立たしいな」

 

「…そうですよね。僕も、こんな自分が情けなくて…」

 

「違う。私自身のことだ」

 

「え?」

 

 

意外な発言に思わず素で反応したユーノ。

てっきり自分に対して怒っていると思っていたのに。

 

 

「私が結界を頼む度、ユーノは苦しんでいたんだろう?将でありながら仲間の心中を察することが出来なかった自分が腹立たしくて仕方がないのだ!」

 

「そ、そんな…僕が勝手に落ち込んでただけで…」

 

「ならば、私が自分に腹を立てるのも私の勝手だ。違うか?」

 

「そ、そうですけど…」

 

 

思いもよらない展開になって、戸惑い始めるユーノ。

シグナムはそんな彼の様子に一瞬微笑を浮かべたが、すぐに真剣な表情に切り替えて言った。

 

 

「諦めるのは早いぞユーノ。お前はまだ14歳だ。今後の訓練次第でもっと強くなれる」

 

「…でも僕の力は皆には及びません。それなら、これまで通り無限書庫で…」

 

 

ユーノが無限書庫で調べた情報は、様々な事件の解決に貢献している。

前線に出るよりも、無限書庫から後方支援を行う方がユーノの能力を十全に発揮できるだろう。

 

 

「確かにお前の能力は戦闘向けではない。だがそれでも、より強くなりたいと思うことは何も間違ってはいないぞ」

 

「…そうでしょうか?」

 

「そうだとも。私もそうなのだからな」

 

「…シグナムさんも?」

 

「当然だ。私は今の自分の強さに満足などしていない。主はやてを守り、仲間たちと共に戦い、テスタロッサと決着をつける。そのための精進を怠ったことはない」

 

 

騎士としては既に完成していると言えるシグナムでさえ、更に強くなろうとしている。

ユーノは常に上を目指す彼女の姿勢に驚嘆すると同時に羨ましく思えた。

自分も彼女のように強くありたい。

諦めずに強くなりたいと。

 

 

「ユーノ。今までお前が鍛え上げてきた力が、今日お前の身を怪物たちから守ったのだ。お前がしてきたことは決して無駄ではない」

 

「…なら、僕はどうすればもっと強くなれますか?」

 

 

ユーノの問いを受けて、シグナムは昨晩デミオから言われたことを思い出した。

ユーノは他人に頼ることが苦手である、と。

そんなユーノが、今シグナムを頼って問い掛けてきている。

それを嬉しく思いながら、シグナムは答える。

 

 

「簡単なことだ。お前は今まで、たった一人で訓練をしていたろう。だが一人で出来ることなど、たかが知れている。もっと誰かを頼れ」

 

「誰かを…」

 

「いるだろう?少なくとも一人、お前の目の前にな」

 

 

シグナムは微笑みながら、待機状態のレヴァンティンを取り出した。

 

 

「私とお前では戦い方も求められる能力も違う。だが共に訓練していけば、多少は為になることがあるはずだ」

 

「いいんですか?」

 

「共に鍛錬することでお前がどこまで強くなれるのか、興味がある。それに、鍛錬は一人でしていてもつまらんだろう?」

 

 

言われて、ユーノは思い出した。

最近まで一人で淡々と行っていたトレーニングが、シグナムと一緒にやり始めてから楽しいものになっていたことを。

そして今度は、戦闘訓練にも付き合ってくれるという。

例え強くなれたとしても、ユーノはまだ無限書庫を辞めるわけにはいかない。

資料検索の他、未整理区画の調査や新任司書の育成など、ユーノが為すべきことは山のようにある。

だから、戦闘訓練はほとんどユーノの我が儘のようなものだ。

それでもシグナムは、ユーノの成長を見るために彼に付き合うつもりだ。

それがとても嬉しくて、ユーノは笑みを浮かべて言った。

 

 

「師匠って呼んでもいいですか?」

 

「…やめておけ。私は師なんて柄ではないからな」

 

 

テントの中、二人の笑い声が響いた。

 





師弟というよりは修行仲間といった感じですね。
ユーノは師匠と呼ぶ気満々ですが。






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