楽園関連なので察してね
この世に記憶を持って生まれ出たこと。それはとてつもない幸運であり幸福であるはずだ。
しかし私が生まれて数年で知ったこと。起こった出来事は大体不幸だった。
まず第一に、両親の口から出てきた単語だ。誰か聞いてるなら聞いてほしい。
「どうか《
祭壇っぽい場所で祈りを捧げる褐色肌の父や母を見て、その単語を聞いて私の頭はフリーズする。あっ……ってな感じで。
最初はただの宗教的な、それこそ中東のどこかで生まれたんだろうとしか思っていなかった。両親を含めて周りの人間は皆褐色だったし、周囲の環境は荒野だったり砂だったりで乾燥してる上に暑かったし。
私や母の髪色が白色であったのも、まあそういうこともあるだろうと流した。なんか全部日本語に聞こえるのもこういう境遇のお約束だと思って一旦流した。この時点で変な世界に輪廻転生でもしてるんじゃと疑いは持ったけど、それもとりあえず一旦は頭の片隅に追いやった。
だけど《
私には聞き覚えがあった。《翼の女神》──これは《空の女神》の別称であると。
そして《空の女神》が何かと言うとこのゼムリア大陸における1番有名な唯一神みたいなものだ。
土着の宗教がどうかは知らないけど、地域が違っても名前を変えて信仰されている女神である。
そしてそんな《空の女神》がいるゼムリア大陸に生まれたってことは、もう疑いの余地もないのだ。
──私は厄ネタだらけの《軌跡シリーズ》の世界に転生してしまった。
その事実を理解する。理解した瞬間、頭を抱えそうになった。抱えなかったのは赤ん坊なので物理的に難しいし不自然だったからで、そうじゃなきゃ膝も突いていただろう。
異世界に転生という一部の人間にとっての夢、ロマンみたいな境遇に陥ったことはいいがそれがゼムリア大陸というのが何とも言えない。
いやまあ七耀石による導力魔法やらがありながらも技術の発展によって前世と変わらない生活が送れる可能性があるのは数多あるファンタジー作品の中では恵まれていると言えるだろう。
だがその時代はなんというか激動なのだ。どこかの鉄血宰相の言葉を借りるならまさしく激動で、本当に色々起きる。
女神が地上に残した《七の至宝》やら異界の悪魔やら胡散臭い秘密結社やらのせいで本当に色々起きる。
なんだったらそのうち世界滅亡の可能性まであるという有り様だ。最終的にどうなるかは知らんけど。
なので私的には正直、あまり嬉しくはない。転生したことは嬉しいが、私はぶっちゃけ臆病なので物騒な組織が乱立していて物騒な事件が毎年のように起こるような世界なんてまっぴらごめんなのだ。私が生まれたのは七耀歴1184年だからもろに直撃世代だし。本当にやめてほしい。
……が、私はそこでふと思い至る。
確かに将来的に色々大事件が起きて世界滅亡の危機に陥りそうなのは問題だが……私には影響がないのでは?
というのも私は中東人だ。生まれたのもゼムリア大陸の中東部であり、カルバード共和国の中東部にあたるサルバッド周辺やエルザイム市国やヴァリス市国よりも更に田舎の部族出身。ぶっちゃけ原典において全然語られていない未知の部分である。
原典が始まる大陸西部……リベール王国やクロスベル、エレボニア帝国などがある一帯からはかなり距離があり、そこで起きる事件の影響も少ないと思われる。
カルバード共和国はまだ近いほうだが、それでもまだ遠い。少なくとも数ある事件の発生地でもないのだ。
もっとも語られてないだけで凄惨な事件があったりする可能性は0じゃないが、それでも安心出来る。《塩の杭》とかいう訳の分からん災害に襲われて滅ぶノーザンブリアとか《黒》の影響でとにかく争いの火種ばかり起きる呪い塗れのエレボニア帝国に比べたら何百倍もマシである。大陸東部みたいに砂漠化してるわけでもないし(元々砂漠だし)クロスベルみたいに大国の緩衝地で経済的には恵まれても治安とか立ち位置が終わってる国でもない。
まあ中東地域って聞くと不安だし、遊撃士協会の本部があるレマン自治州とかがある大陸北側の方が安全かもしれないが、西側に比べれば遥かにマシである。25年後くらいは不安だけど、それまでは平和に暮らせる可能性が比較的高いのだ。
そう! 中東地域こそゼムリア大陸における安全地帯! 平和を愛する私にとっての黄金郷だったのだ!
「すまぬ……アーヤ……不甲斐なき父を許してくれ……」
──と、そう思っていた時期が私にもありました。
目の端に涙を浮かべながら私を武装商人に渡した父の声を聞いて、5歳になった私は理解した──売られたわ、と。
そして今更ながら思う。舐めてたわ、と。ゼムリア大陸中東部もまた平和ではないのだと。
というのもこの中東地域ではエルザイム市国とヴァリス市国が覇権争いをしていて、その影響下にある小国や都市国家やら企業やら集落やらがその2国の代理戦争として常に争っている。なので平和もクソもない。猟兵が多い地域っていう時点で気づくべきだった。なんか誰だったか、中東地域出身で七耀鉱石資源が豊富で故郷が争いに巻き込まれた云々って話もあったような気がするし、争いの火種は幾つも転がってるし、なんなら常に争っているのが中東地域辺境の事情である。
そして肝心の私の生まれ故郷だが、部族単位で猟兵をやっているわけでもなければ資源に恵まれた地域というわけでもない。本当にただの田舎であり、それだけに生活は貧しかった。なんでも以前までは乾燥地帯でも育てられる作物や家畜を出荷して生計を立てていたらしいが、それも2国間の小競り合い──猟兵同士の争いに巻き込まれて失ってしまったとかで一気に貧しくなってしまった。
そして驚くなかれ。家は10人兄妹だ。なんだったら20人くらい家族がいる。父母祖父祖母その家族や兄弟なども含めた大家族。
そんな中で私は末っ子であり、まだ働くことも難しい年齢の可愛い盛り──ではなく、役立たずである。
なのでまあ武装商人にそれなりの値段で売りさばき、それを作物の種や新しい家畜を買うための資金にするという父の判断は理解出来なくもない。……貯金してなかったのかとかそもそもそんなに子供作るなよとかどこかに伝手とかないの? とか言いたいことは沢山あるけどともかく理解はした。
だけど売られた方はたまったものではない。せっかく安全な……でもなかったが、中東地域で生まれて原典から離れられると思ってたのに……。
武装商人の荷馬車に縛られた上で運ばれる私はため息をつきながら──しかし更に思った。
まだ希望を捨てるのは早い。もしかしたら運ばれた先や売られた先で何か光明を見つけるかもしれないのだ。
何しろ私は前世の記憶持ち。なので神童だ。大人になったら凡人だとしても今の時点では紛れもなく天才児である。体力こそ年相応だが、知識はある。労働力としてはそこそこ使えるようになる自信はあった。
なので私は荷馬車が到着し、武装商人らのアジト──倉庫らしき場所にたどり着いても泣き喚くようなことはせず、しっかりと笑顔でアピールしておくことにした。残飯のような食事を渡される時もしっかりとお礼を言い、大人顔負けの礼儀作法で知性を強調。優秀な良い子を演じて少しでも良いところに売られるように努力した。
そんな涙ぐましい努力を続けることしばらく。その甲斐あってか、私は身なりが良く品のある飼い主に買われることになった。礼服を着たとても優しそうな人だった。教会の人かなと思ったけどさすがに違うか。多分、奴隷とか買わないだろうし。
でもまあ使用人として働くくらいなら十分許容範囲だ。このまま武装商人に使われて鉱山奴隷になったり、猟兵に買われて少年兵になったりするよりは全然マシ。
なので主になった相手には笑顔で元気よく挨拶だ。「なんでもします!」とちゃんと決意表明もしておく。飼い主も笑顔で頷いてくれた。好感触だ。「良い娘だね」と頭も撫でられた。これは期待出来る。
そうして私は主に連れられて導力飛行船に乗って南の島に。そして綺麗な屋敷で可愛いお洋服を着ることになり──
「さあ。今日からここが君の家だ」
「これから君は、ここを訪れるお客様の相手をしてもらうよ」
「何、心配はいらない。お客様に求められるままに動けばいい。ああ、礼儀にだけは気をつけてね」
「何か言われたら『はい、よろこんで』。何を言われても命令されても『はい、よろこんで』と言って応じるだけでいい。それだけで皆喜んでくれる。わかったかな?」
「……はい、よろこんで!」
「うん。いい笑顔だ。これならきっとお客様も喜んでくれる。──ではがんばってね」
──と、そうして私を運んできた司祭様は笑顔で手を振って去っていった。
私もまたそれに手を振り、満面の営業スマイルでお見送り。扉が閉まるまでしっかりと。
そして扉がしまって数秒後。私は笑顔を崩した。膝を突き、天に──《
──なんでよりにもよって《D∴G教団》で、しかも《楽園》なんだ! 《
そう。この私──アーヤ・サイードが売られた先はあの悪名高い《D∴G教団》。
それも未成熟な子供を被検体にし、売春させる最悪のロッジ──《楽園》であった。
黒岩です。気分転換に前々から投稿したいと思ってた軌跡で温めてたネタを投稿。
他の投稿作品が溜まってるので頻度は高くないかもしれませんがよろしくねって。とはいえ最初の方は早めに投稿します。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。