──どうもー。アーヤ・サイードです。性別は女性。実は元男です。でも色々あってもう完全に性自認は女の子です。でも恋愛的には女の子もイケます。彼女が2人います。好きなタイプは品のある美少女とイケメン。彼氏はいないけどレーヴェと付き合いたい。たまーにちん○ん欲しくなるけど最近は我慢できてます。やっぱ咥えるならレーヴェのち○ちんじゃないとね。私って一途だなぁ。
でも今はそんなこと言ってる場合じゃないんだよね……。なんてたって今は──
「グオオオオッ!」
「ガウウウウ!!」
「うわーん! なんで私のこと狙ってくるのー!?」
──四方八方から襲いかかってくるノーザンブリアの人々。主に《北の猟兵》の方々。
そう、今私がいるノーザンブリアは絶賛バイオハザード中です。主にオジサンの新作のせいで……。
BC兵器でも特に厄介なB。私でも使いたくないそれをあっさりと使ってノーザンブリアの人々のほぼ全てを感染させちゃったオジサンは私にアジトまでやって来るように言って消えてしまった。
なので私は速攻でハリアスク市内に向かってそこにいたリィンくんとアルティナちゃん。それにサラちゃんに声を掛けて協力してもらうことに。
更にレーヴェとクルーガーちゃんもいたので協力してと泣きついて協力してもらうことにした。市内は人形兵器と感染したノーザンブリア人の人々で地獄絵図。しかもなぜか感染した人々は私を狙ってくる。私が触れば解除できるかと思ったけどできなかったし、どうやら感染時点で私と接触してる必要があるらしい。意味分かんないけど。でもとりあえず市内をどうにかする必要がある。足止めも必要だし、なんか市内でブルブランや強化猟兵まで私を狙ってきたし。
「ということで囮役はもちろん私以外が行く。具体的にはこのギルバートに私の強化薬を服用させて敵陣に放り込んで……」
「で、できるわけないだろぉ!? というかそんなことされたら死ぬ! や、やめてくださいお願いします!! 薬呑ませるとか人道的じゃない!」
「? 強化猟兵ならいつもやってることじゃん。仕方ないなぁ……それなら私の分け身でギルバートを人質に取って強化猟兵を下がらせて、その隙に私の薬をこの爆弾と一緒に辺りにばらまいて……」
「そ、それもご勘弁ください!」
「AS強化薬は《破戒》のオジサンが作った。それに合った戦術もね。自分の体以外でやるのは初めて……初めてでもないや……とにかく、こうやるのだ!」
「ぎゃー!?」
「何やらあの人にだけ妙に厳しいですわね」
「以前リベールで色々あってな。さて、俺たちは早急にアジトに向かうぞ」
ということで市内の人形兵器はリィンくんとアルティナちゃん。襲ってきたブルブランはサラちゃん。強化猟兵は途中で捕まえた強化猟兵連隊の隊長のギルバートくんにAS薬と見せかけた普通の飴玉を無理やり食べさせて突っ込ませた。ちゃんと戦ったら後で解除してあげると言ってね。
まあ市内に強化猟兵と《北の猟兵》と人形兵器しかいないならこっちも分け身にBC兵器持たせて特攻させて一網打尽にするとか、ちょっと自分も苦しいけど私自身がBC兵器起動させて特攻して一網打尽にするとか色々方法があるけど、市内には民間人もいっぱいいるし関係ない人を巻き込む可能性があるからさすがにやらない。それに一応強化猟兵も味方と言えば味方だし……今はオジサンの命令で敵対してるけどね。いや、私の方が敵対してるが正しいか。
まあそれはともかくだ。これで市内の方は問題なし。なのでレーヴェの指示に従って私とレーヴェとクルーガーちゃんは一緒に結社のアジトへゴーゴー! なんで2人がやって来てるかは分かんないけど事情を説明したら快く協力してくれた! さすがは私の親友と私の彼氏(予定)! 最強トリオで結社のアジトにダイナミックエントリーだ!
ちなみにアジトは人形兵器工場の方じゃなくて別のところにあるオジサンのセーフハウスの1つだね。北の森の中にあるオジサンのラボの1つでもある。
場所は私も知ってるので、道中レーヴェの横顔に見惚れないようにしながら向かえば……。
「──止まりなさい」
「止まらない! 通してデュバリィちゃん! アイネスちゃんにエンネアちゃんも!」
「ちょっ!? いきなり突っ込んでくるんじゃありませんわ! 普通、こういう時は警戒して1度は立ち止まるものでしょう!?」
「だって時間ないんだもん!」
「鉄機隊か。《鋼の聖女》直属のお前たちが《破戒》に従っているその事情は気になるが……悪いがアーヤの言う通り時間がない。ここは押し通らせてもらうぞ」
「ええ、悪いが容赦は致しませんわ」
「《剣帝》に《告死戦域》……まさかアーヤ以外に執行者が2人も加わるとはな。だが、相手にとって不足はない……!」
「正直荷が重いけれどこれも命令。やるしかないわね……! デュバリィ! アーヤとじゃれてないで早く陣を組むわよ!」
「分かってますわ! ああもう! こっちは色々考えていたのに、そんな余裕もありませんわね! ──《星洸陣》!!」
アジトの入口でデュバリィちゃんたち鉄機隊が待ち構えていたので私は速攻で切りかかる。早く通して貰わないと困るからね! 3対3で同数だけどこっちにはクルーガーちゃんと、後はなんたってレーヴェがいるから押し通ってやる!! ──げっ! 《星洸陣》発動された! これ厄介なんだよね! 連携が馬鹿強くなる! 鉄機隊が結社最強の戦闘部隊って言われる所以の本気の技だ!
「どうやらかなり腕を上げたようだな。以前、稽古を行った時とはまるで手応えが異なる」
「当然ですわ! 大いなるマスターの名に懸けて……いつまでも負けっぱなしではいられないんですのよ!」
「ふっ、その対象はどうやら俺ではないようだが……いいだろう。受け止めてやる。お前たちのこれまでの研鑽を見せてみるがいい」
「鉄機隊の皆様方には敵いませんが、こちらも連携させてもらいますわ」
「戦術リンクON! ──まあなくても私たちならどっちにも合わせられるけどないよりはあったほうがいいよね!」
「っ……そのようだな……!」
「連携の鋭さが増したわね……!」
デュバリィちゃんたちが星洸陣で連携で私たちの行く手を阻もうとする中、こっちはこっちでARCUSによる戦術リンク機能で対応する。言ったように私はクルーガーちゃんの動きは互いに理解してるし、レーヴェとも合わせるのに慣れてるから問題ない。最初から絆レベル3か4くらいありそうな感じだ!
……だからまあ私とリンクするよりもレーヴェとクルーガーちゃんがリンクした方が戦術として上手くいくんだよね……ぐぬぬ……合わせるのが上手いばっかりに……。
まあでもレーヴェとクルーガーちゃんのおかげで何とかデュバリィちゃんたちを突破できた。前々からわかってはいたけどデュバリィちゃんもかなり強くなってるよねー。というか3人ともある程度戦ったら負けを普通に認めて通してくれたし、やっぱオジサンの企みに加担するのは乗り気じゃないんだね。そりゃあそう。リアンヌママの命令じゃなきゃ手伝わないよね。
だからあっさりとラボの奥に。最奥に辿り着いた。そこで待っていたのは当然──
「……わかってはいたことですが……やはり、貴方たちですか」
「見つけたよオジサン!」
「クク──よーう、アーヤ。それにレーヴェにクルーガーも。まさかお前たちまで来てるなんてなぁ」
「あらまあ……! ほんに久し振りやねぇ。レーヴェはんもそうやけど、まさかクルーガーと会えるやなんて。お姉さん嬉しいわぁ」
「……お久しぶりです。ハーウッド様。ルクレツィア様」
ラボの奥にある広い部屋で私たちを待ち構えていたオジサンとレティ姉さん! 2人は私と一緒に来たレーヴェと、特にクルーガーちゃんを見て嬉しそうにする。いや、本当に。嬉しいにも色々あるからアレだけど、オジサンはこの状況も含めて愉しんでるみたいだし、レティ姉さんは可愛がってたクルーガーちゃんと久し振りに会えて普通に嬉しそうだ。
「まさかの結社に鞍替えした《月光木馬團》のメンバーが揃い踏みだな。いや~懐かしいぜ。特にクルーガーはお前がラインフォルト家のメイドになっちまってからは顔を合わせる機会がなかったからなぁ」
「ええ、そうですね。できればこのような形で顔を合わせるのは遠慮したいところでしたが……」
「そうは言うが、お前はこうでもしねぇと俺たちの前に顔を出さねぇだろ? 寂しかったし心配したんだぜ? てっきり結社を辞めちまうんじゃねぇかってな。ほんとオジサン、心配で心配で」
「……お戯れを。わたくしがいなくとも何も変わらなかったでしょう」
「確かになぁ。旦さんはクルーガーがおらんくなってもいつも通り……それどころか年々やんちゃに磨きがかかっとるからねぇ。信用できひんのも無理ないわ」
「オジサンだからね。あ、でも私とレティ姉さんは普通に寂しがってたよ! オジサンとは違って心からね!」
「おいおい……君たち酷すぎない?」
──何故か和やかな会話になってる! 元《月光木馬團》メンバーの同窓会って感じだ!
まあ私としても変な安心感というか懐かしさを感じないでもないんだけどね。メルキオルも含めてよくこのメンバーでつるんでたからさ。このまま思い出話で幾らでも話せそう。
「──元々同じ暗殺組織のメンバーだった者同士。積もる話もあるだろうが……そろそろ本題に入らせてもらおう」
「なんならお前さんも仲間に加わってもいいんだぜ? それこそ俺たち最後の公演で愉しくやり合った仲だしなぁ。ここで思い出話に花を咲かせるってのも一興じゃねぇか?」
「そういえばレーヴェも来てたんだっけ。懐かしいなぁ……あの時はマクバーンに燃やされて……ぶるぶる……今思い出しても怖い……」
「遠慮させてもらう。それと……そろそろ出てきたらどうだ?」
「──フフ、やはり気づかれてしまうか」
そうだ! 思い出話で盛り上がってる場合じゃない! 早くオジサンから抗体を貰わないと!
レーヴェのおかげで話が早く進む! しかも物陰に隠れていたもう1人にも声を掛けてくれた! よかったー、いつ切り出そうか迷ってたんだよね。で、隠れてるもう1人は誰なんだろうと思ってたら……あれ?
「うわ、誰かと思ったらシメオンじゃん!」
「! まさか貴方までいらっしゃるとは……」
「久し振りだクルーガー。それと我が友よ。4年ぶりかな? 《福音計画》の前に仕事で一緒になって以来だったか。どうやらあの時よりも更に高みへ至ったようだね?」
「……お前の方は相変わらずのようだな」
「まあ私の方は君と違って特に目的や強い意思はないのでね。相変わらず仕事に借り出される日々を送っているよ」
「それで今回は《破戒》に借り出されたというわけか。
うわーシメオンだー。相変わらず胡散臭い空気と声してるねー。ってかシメオンだとは思わなかった……気配は分かったけどさすがに人物までは判別出来ないからね。
で、シメオンのことだから頼まれるがままに仕事を受けてきたんだろうね。シメオンは使徒からの仕事をほとんど断らないし、変なところでお人好しだから。ちょっとヴァンに似てるんだよね。なんとなく。どこがと言われても上手く答えられないけどさ。レーヴェとはなんだかんだで仕事が一緒になることがあって普通に人付き合いしてる印象。友達かどうかは微妙なところだけどね。シメオンが勝手に言ってるだけかもしれない──が、それはそれとしてレーヴェを止めるためにってどういうことだろう? ちょっとよく分からないから素直に聞いてみよう。
「え? レーヴェを止めるためにってどういうこと? 教えてシメオン! 新しい幻獣の情報と交換で!」
「……ふぅ、それを教えることができたら苦労はないんだがね。悪いがアーヤ、交渉はハーウッドさんに行ってくれ」
「えー……それじゃあ教えてよオジサン。道で拾った枯れ枝と岩塩の塊あげるからさ」
「──ま、言っちまえば数合わせだな。お前とレーヴェ。それにクルーガーがいたんじゃあっさり抗体を取り戻せちまってつまんねぇだろ?」
「え……意外……教えてくれた……枯れ枝で自由工作でもするの? それとあんまり塩分摂りすぎない方がいいんじゃない? オジサンも結構いい歳なんだからさ」
「──つまり、貴方がたを倒すこと。それが抗体を手に入れる条件だと?」
あ、クルーガーちゃんが勝手に話を進めた! いやまあいいんだけど! 確かに遊んでる暇ないし! おらー早く抗体寄越せー! ……って、倒すって……やっぱそういう感じ……?
「ご明察。俺の新作の抗体が欲しけりゃ──アーヤ。俺たちから力付くで手に入れてみな」
「え?」
「堪忍なぁ、アーヤ。今日はちょっと本気でやるように旦さんに言われとるんよ」
「私の力じゃレーヴェや君たちに及ぶべくもないが、できる限りはやらせてもらうとしよう」
そう言ってレティ姉さんは空間から《外の理》製の武器の《ダスクグレイブ》を取り出し、シメオンは相変わらずよく分からない紫の想片を生み出して構えた。
しかもその2人の間に、オジサンも前に進み出てきて。
「ノーザンブリア旅行の最後のレクリエーションだ。シメオンにレティ。それと
──って、うわあああああああん!! やっぱりお約束だー!? しかもレティ姉さんにシメオンが相手とかキツいキツい! しかもオジサンも戦うの!? 私何気にオジサンと戦うの初めてなんですけど! ムリムリムリ! 怖い怖い! 変な毒とかウイルスとか使われそうで嫌!
「お前が乗り越えれば抗体が手に入ってノーザンブリアの人は助かる。だが乗り越えられねぇならノーザンブリアは滅ぶ。どうだ、わかりやすいだろ?」
「オジサンのクソ野郎ー! こうなったら日頃の恨みを…………ん?」
──あれ? よく考えたらこれって……合法的にオジサンをぼこれる良い機会では?
普段はやっぱり上司だし一応世話になってる身だし怖いしで仕返しするとか以ての外だけど……オジサンから戦っていいって言ってるんだから……ここで私が死なない程度にボコしても問題はないってことで…………………………。
「──よし、やろう! さあクルーガーちゃん! レーヴェ! 一緒にオジサンをボコそう! 主にオジサンを!」
「急にやる気を出しましたね」
「…………(元よりやる気はあっただろうが……より本気を出させたか。ならやはり《破戒》の目的は……)」
「でもシメオンとレティ姉さんは2人が相手してね!!」
「堪忍なぁ。どちらかと言えばウチがアーヤ担当なんよ」
「うわーん!? ちょっとレティ姉さんやめてー! 堪忍してー!」
「そしてすぐに引き返してきましたね……」
「……まあいい。やるぞ、アーヤ。──シメオン。どういうつもりかは知らないが、俺は容赦はしない。やるなら覚悟することだ」
「…………やれやれ。君がそう言うなら私も
「クク──そんじゃレッツ・パーリィ&ショータイム! 蛇の使徒に執行者だらけのチーム戦だ。各々その名に恥じないくらいに盛り上がっていこうぜェ!!」
──うおおおおおおおお!! なにがパーティじゃー! そういうのはディスコでやってろー! オジサンくたばれー!! 長年の仕返しじゃー!! ──あ、でもレティ姉さんはやめて。こっち来ないでくださいお願いします。……というか冷静に私の1番基本の師匠相手にするのキツすぎー!! 全部手の内バレてるしー! うわあああああん!! 助けてー!! レーヴェー!! クルーガーちゃーん!!
──アーヤは最初っから色々とおかしな子やったなぁ。
最初の出会いはもう10年以上前……大体13年くらい前になるやろか。
ある日突然、旦さんが子供を連れ帰って来てなぁ。これから《月光木馬團》で面倒を見るって言ってウチに紹介してきたんよ。
歴史ある暗殺組織にいきなり子供を入れるやなんて旦さんらしいと言えばらしいけど、《月光木馬團》はそんなに優しいところちゃうんよ。掟は厳しいし、上下関係にも厳しい。ウチは実力で言えば團でも1番やったと思うけど序列はそこまでやったしなぁ。團を率いる3人の親方には逆らえへんし、逆らう気もなかった。実力が上やからそこまで悪い扱いはされへんしな。
やけど他の下っ端はそういうわけにもいかん。上から割り当てられた仕事は断ることはできへんし、それで死んだらそれまで。痕跡を消すために死体まで消されるし、名前なんて当然与えられへん。仕事によって名前は変えるのが基本やったし、呼ばれるのは基本《号》とか渾名やったしなぁ。クルーガーが引き継いだ《告死戦域》とクルーガーって号がそれやね。まあクルーガーはまだ恵まれた方やったけども。他の子供なんてもっと悲惨な目に遭ったりもしてたしねぇ。
やけどアーヤも中々やったんよ。そもそも最初に出会った時からめちゃくちゃ礼儀正しかったし、元気で明るい子供やったわ。
でもそれで経歴はウチら以上。あの教団の売春宿で育ってきたって言うんやからさすがに不憫でなぁ。ウチも旦さんに言われたし、面倒を見ることにしたんよ。
ただ最初はそれこそ素人で全然見込みもなくて「ああ、これそのうち死ぬなぁ」って思ったわ。
取り柄と言えば妙に元気で明るいことだけやったし、そのうち仕事を任されても上手くやれる様にはとても見えんかったんよ。
まあそもそも子供が仕事を任されることもそんなにないんやけど……ただそこは旦さんが仕事を割り振ってなぁ。旦さんは團でも親方らに次ぐ序列4番目やったし、そもそもアーヤも旦さんに拾われた身やらか断ろうにも断れへん。だから最初の仕事でもう帰って来ることはないやろなぁ……って、そう思ってたんやけどね。普通に帰ってきはったからびっくりしたわ。
一応旦さんがフォローはしたそうやけどそれでも無事に帰ってきたのは意外やったねぇ。そもそも何故か旦さんの毒を食らっても風邪っぽい症状が出るだけなのが異常やったし。ウチが最初に訓練で見た時はちょっと騒がしいおかしい子供って感じで本気で切ったら死にそうやったけど、2回目からはもうなんか耐性が出来て手加減でちょっと切っただけじゃ全然切れへんようになったからほんとおかしかったわ。笑えるって意味じゃなくて本当におかしな子って意味で。
鋼糸の訓練でクルーガーと稽古を始めてからもすぐに糸がほとんど効かんくなってクルーガーも途中から本気を出してたんよ。あの時のクルーガーの得体の知れないものを見るような表情は今でも忘れられへんなぁ。
他の團員からも気味の悪いおかしな子供って感じで敬遠されとったけど旦さんとウチにクルーガー。それとメルキオルは結構一緒に過ごしとったね。
まあクルーガーがどう思ってたか、実際のところはウチには分からへんけど。ウチは普通に可愛い子として仲良くしとったんよ。
最初は教団に色々されて壊れてしもうたんかと思ったけど接してる内にそういうわけでもないみたいやったしなぁ。相当酷い扱いされたはずやのに普通のちょっとおかしい子供って感じで全然闇が見えへんし、ウチのことも結構慕ってくれたから刃物の扱いや幻惑の術も含めて色々仕込んであげたんよ。
ただアーヤに殺しの才能は、
ただアーヤは死ぬような状況を、
アーヤの才能が花開いたんはどう考えても無茶過ぎる日常のおかげ。まあそれでできるようになるんなら才能があるってことかも知れへんけど普通ならまず間違いなく死んでるような積み重ねをして花開いたものを才能って呼んでええんやろか? 仕事に行けば毎回死にかけるし、仕事がなくても運悪く死にかけるし、そもそも常日頃から旦さんの毒の実験に付き合わされとるし、メルキオルからは刺されるし、ウチやクルーガーとは暇さえあれば訓練しとったしなぁ。
そもそも最初の頃は全然寝とらんかったし。それくらいずっと訓練しとったし、暇な時は服を仕立てたり、何かしらの趣味の時間にしとった。寝ないで平気なん? って聞いたら「寝たいですけどちゃんと訓練しないと永眠する気がしますし……」って答えた。……それなら趣味の時間削ったらええんと違う? って聞いたら「ずっと仕事だけとかストレスがヤバいじゃないですか!」って答えた。
それを聞いて、アーヤは本当にめちゃくちゃ努力家の
異能とか経歴とかは明らかにヤバいし、それを鑑みたら普通なことがそもそも異常なんやけど、だとしてもアーヤが普通の感性を持ってることに違いはないんよ。
……まあおかしい子ではあるけどそれも異常かって言われると当てはまらへんしね。ウチも正直、アーヤを理解できてるかって言われると微妙なところやしなぁ。いざとなれば殺せるってだけなら異常とは言えへんけどそこに普段のアーヤの性格とか色んなものを加味するとおかしく見える。死地でもどんなに辛いことがあっても普段通り振る舞えるのは完全に慣れきっとるようにも思えるけど実際アーヤがどう思っとるかは未知数。ウチらみたいな闇の住人でも理解できない。
闇が見えるようで見えない。一瞬見えたと思ったら次の瞬間にはやっぱり違うと錯覚する。砂漠の蜃気楼か幻かなにかを見るように、あるはずの闇を見ようとして虚像を見る。やけどその虚像が本物のような気もしてる──と、ウチも上手く言葉には出来へんけど、言うなればそんな感じやろか。旦さんはその中にある異能も含めてアーヤのことを割と理解しとるみたいやけど全然教えてくれへんしなぁ。
ただありのままの事実として言うならアーヤは酷く不幸な目に遭って強く元気に育った子。
その中にはマクバーンみたいな《外の理》と他の何かが混ざりあった異能があって、それの効果としてアーヤは異常に硬くて回復力もあって毒や薬品、あり得ない事象や古代遺物にも耐性を持つ他、その血は色々と特殊な性質を持っとる。
ウチら《月光木馬團》に育てられて刃物の扱いも鋼糸と針の扱いも毒の扱いも習得して今では立派な──いや、
そう今、ウチが割と本気でやっとるように。
「ひいっ!? レティ姉さん手加減してー! 手加減してはいるだろうけどー! キツいキツいキツいー! 死ぬー! 死んじゃうー! うわーん!」
そう言いながらアーヤはウチに向かってがむしゃらに《ゾルフシャマール》を振るってくる。ウチも同じ盟主はんから貰った《ダスクグレイブ》で捌いていくけど、正直アーヤが言うほど手加減はしてないんよ。
確かに全開ではやってへんけど、制限の中では正真正銘の本気でやっとるんやけどねぇ……ただ純粋な切り合い。素の能力だけの殺し合いの中だともうアーヤはウチとほぼ並んどる。
だからむしろ死にそうなのはこっちなんやけどなぁ……アーヤの方はオンオフがなくて素で硬いから多少切っただけじゃ死なへんけどこっちは一気に持ってかれる可能性がある。
まあさすがに本気で死ぬと思ったら全開を出させてもらうけど、それまでは旦さんに止められとるし、ほんまもどかしいわぁ……! アーヤの方は未だにウチのことを殺しの技を教えた先生として実力を遥か上に見積もっとるから全力でやってくるし……この状態だとかなり良い勝負──というか普通に不利やから本気でやらせてほしいんやけどねぇ。
──
「フフ……まさかあのアーヤがこんなに成長するなんてなぁ……! お姉さん、感無量やわぁ……!」
「ひっ!? あ、ありがとうございます! で、でもあんまり本気でやらないでレティ姉さん! 可愛い妹分を殺すようなことしないよね!?」
そう、アーヤはウチの可愛い妹分。それは合っとるけど……。
「そうやねぇ……だからこそ愉しいんよ……!」
「ぎゃー!? レティ姉さんのヤバいところ出ちゃったー! いやー!? 普段のレティ姉さんは好きだけどこの時はちょっと怖いー! 死んじゃうー!?」
「今のアーヤなら死なへんやろし、制限内やけど久し振りに本気でやらせてもらおかなぁ……!」
「お手柔らかにしてください! お願いします!」
「アーヤも本気でウチを殺るつもりで来てええんよ? ほら、遠慮せんと──!」
本気でアーヤに向かって《ダスクグレイブ》を振るう。相変わらず「ぎゃー!?」とか大袈裟に叫んどるけど実際は大して効いてないのはわかっとるんよ?
アーヤを本気で殺そうとするならこっちもかなり痛いのを直撃させる必要があるんやけど今のアーヤは昔と違って普通に強くて中々攻撃に当たってくれへんからちょっと工夫する必要があるんよ。──こんな風に体勢を崩してから指先からウチの十八番を飛ばしたりしてな。
「あっ! 黄金蝶! ずるい!」
「ウチの代名詞、十八番やし、堪忍なぁ。──それより、こっちの方がもっと危ないから気をつけた方がええよ?」
「!? ううぇっ!? ま、まさか……!?」
ウチはアーヤの手の内はほぼ大体知っとるけどアーヤもウチの手の内はほぼ大体知ってる。
だからウチが何をしようとしたか分かったんやろねぇ。目眩ましで背後に回ってからの《ダスクグレイブ》の斬撃。次元すら切り裂く一撃を喰らえば、幾らアーヤでも無傷とはいかんからなぁ。
「──
「いやー!? 開かれちゃうー!?」
タイミング的に防ぐことも躱すことも出来へんし、これで試合終了やろか?
まあそれでも死なへんやろけど、アーヤにしては久し振りにそれなりに大怪我するかもなぁ。旦さんの目論見が外れるのはちょっとあれやけど向こうで戦っとるレーヴェやクルーガーがどうにかする可能性も全然あるからウチもそっちに混ざりに──
「──危っ……ないっ!」
「っ……! これは……血死蝶……!」
──そう思ってアーヤを切り裂いた直後、そのアーヤから出てきた血が蝶の形を取ってウチの視界を防ぐ。
ウチが教えた目眩ましの技。アーヤがアレンジしたそれを出されてウチは隙を作ってしまう。しかも今切ったの、直前に分け身と入れ替えたみたいやね。それにウチの蝶まで仕込むなんてやりはるなぁ。
「レティ姉さん失礼しまーす!!」
そしてウチに、正確にはウチの《ダスクグレイブ》を狙って斬撃を繰り出すアーヤにウチは対応……まあしようと思えばできへんこともないんやけど……。
──ま、でもここまでにしとこか。旦さんからは異能も含めた全開でやることは止められとるし、アーヤの方も最後にはウチを殺そうとはせんにしても途中までは本気やったし。
「──ふふ、ようやったなぁ。アーヤ」
「あ、あれ……? もしかして……私の勝ち……?」
「まあ武器が落とされたからなぁ。決着ってことでええんとちゃう?」
「や…………やったー! 本気じゃないとはいえレティ姉さんから1本取れたー!」
「へえ……?」
「……やったか」
「……! ──ふふ、やっぱり、さすがですわね」
シメオンにレーヴェ。それとクルーガーもウチらの決着を見て驚いとるし喜んどるみたいやなぁ。
まあレーヴェとクルーガーもウチと一緒で昔からアーヤの師匠みたいなものやから成長が見れて嬉しいんやろなぁ。シメオンは師匠とは違うけど普通に仲はええしねぇ。
──まあそもそもウチが知る限り、アーヤのことを本気で嫌いな人なんて見たことないんやけども。
「やったー! レティ姉さん本気出さないでくれてありがとー! 大好きー!」
ウチから1本を取ったアーヤは礼を言って抱きついてくる。
アーヤは昔っからほんに甘えん坊やねぇ。身体は大きくなっても性格は全然変わらへんから本当にいつまでも子供みたいに見えたりするんよねぇ。
まあウチの胸に顔を埋めて擦り付けとるし、下心もあるのは確かやけど。そういうところもアーヤの愛嬌と言うか可愛いところの1つなんよ。
「うふふ、まだ油断せん方がええんとちゃう? 旦さんもまだ残っとるよ?」
「あ、そうだった! ──おらー! オジサン覚悟しろー! 私にはオジサンの毒は効かないからなー! クルーガーちゃんは止められても私は止められないぞー!」
ウチがそう言うとアーヤはパッとウチから離れて武器をまた取り出して旦さんの方へ向かっていった。それを見送りながら思う。──やっぱアーヤはええなぁ。ええ子やし、見てて退屈せぇへんし、見た目も振る舞いも可愛いし。
──それだけに旦さんがどういうつもりなんかは気がかりやけど……旦さんもアーヤで悪巧みはしてもアーヤに関しては悪いようにせえへん……と思うけどどうやろか?
結局アーヤのことをウチもよく分かってない上、旦さんも読めへん人やからなぁ……ただなんだかんだ1番アーヤの存在を面白がっとるのが旦さんやから、それだけに良い意味でも悪い意味で信用できる。それが旦さんの厄介なところなんよ。
──アーヤ・サイードです! 結社《身喰らう蛇》の執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》で《庭園の主》で《切り裂き魔》とも呼ばれてます! たった今、レティ姉さんから一本取った! 快挙! 号外! アーヤ、レティ姉さんに勝つ! 今までに1回も一本取ったことなかったのに! すごいぞアーヤ強いぞアーヤ! ちょっとだけ自信出たかも!
まあただレティ姉さんも本気じゃないからいけただけとも言える。本気のレティ姉さんは異能とか《ダスクグレイブ》も色々あってもっと強いからね。私の方が強いとかそんなことは全くないからそこんとこは勘違いしないように!
ただ大変ではあった。本当に。そもそもレティ姉さんとほぼタイマンみたいな感じかと思えば、そんなこともない。オジサンが途中で邪魔してきたり(BC兵器は効かないけどそれはそれとして鬱陶しい。なんか新作の煙幕みたいな白いガスを撒き散らして私を爆発させてきて鬱陶しかった)、シメオンが普通に能力が厄介だから面倒だったり(なんかいつもより強く感じたけど気の所為かな?)、そんな感じなので途中からクルーガーちゃんがオジサンを止めてくれたり、レーヴェがシメオンと互角の戦いを始めたり(互角ってどういうことなんだろう。もしかしてシメオンって結構強い?)、そうして私もなんとかレティ姉さんとの一対一に持ち込んだのでなんとかなった。
なので後はシメオンとオジサンだけ──
「っ……と。さすがにキツいな。もう少し手加減してくれないかね?」
「降りるならばそう言え。だが続けるのなら……
「…………フフ……ああ、わかった。わかったとも。向こうも決着が着いたようだし、私の負けを認めよう。
「……………………」
……あれ? 決着ついた? ──やったー! なんかよく分からないけどレーヴェの勝ちー! レーヴェの方が強いー!
……でもなんか変だったなぁ……もしかしてシメオン、なんか隠してる? まあ確かに結社内の噂だとシメオンって執行者の中だと人間じゃない上にかなり強くて最強クラスなんじゃないかって聞いたことあるけどそんな訳ないよね。前にシメオンに直接聞いたら「私が最強? ハハハ、そんなわけないだろう?」って否定してたし。胡散臭いけどなんだかんだシメオンとは一緒に行動することも多かったから一応信じてる。……でもレーヴェの方はなんか言いたげなのが気になる……というかレーヴェと普通に戦ってるのもすごかったけど、戦うだけなら私やヨシュアくんでもできるわけだし……。
結論、シメオンはやっぱり胡散臭い。もし本当にレーヴェ並に強いとしたら……ううっ、ちょっと怖くなってきた……思い返してみればシメオンっていつも余裕そうなんだよね……執行者でも上の方だとは思ってたけど最強クラスだとしたらちょっとヤバい……けど一応味方だから今後からはもっと無茶振りしよう。教会の人に追われた時とかよく私に無茶振りしてきたけど今度からはこっちが無茶振り仕返してやる! お前が強いのもう知ってるんだぞー! お前なんかヴァンに似てるし、もしかしてヴァンと一緒で魔王を抱えてたりするんじゃないだろうなー!? もしくは魔王そのものだったりして……。
「? どうかしたかね、アーヤ。私の顔をじっと見たりして」
「な、なんでもない! ──それより後はオジサン! 決着つけるよ!」
ヤバい! シメオンに見られた! や、やっぱやめよう! 謎考察! 原作知識あるとこういうところで変なメタ読み発動しちゃうから良くないよね! 実際のところよくわかんないわけだし、考え始めると怖いから考えないようにするのがいいってことでQED!
「クク……ああ、オジサンたちの負けだ」
「──って、こら────!!? まだ全然ボコってないのに簡単に負けを認めるなー!?」
と、私が《ゾルフシャマール》片手にオジサンに向かって行こうとしたらオジサンが葉巻を蒸して余裕そうに負けを認めた。まだ殴ってないのに! 1回ぐらい殴ってみたかったのに! 1回だけでも殴れればスッキリすると思うんだよね! 私的に!
「って言われてもなぁ……もうオジサンに勝ち目ないだろ? レティにシメオンまで負けを認めちまったし。オジサン1人で3人を相手にしろってか?」
「ボス戦みたいな演出しといて途中で勝手に戦闘やめるなー! 体力バー切れるまで殴らせて!」
「最近お前が友人と協力して出した導力ゲーム……確か、ロールプレイングゲームだったか。それじゃあるまいし、そんなことしたら死んじまうだろ? それに諦める時は潔く降参する方がボスとしては良い感じに格を保てるんじゃねぇか?」
「そうだけど! そうだけど! 納得行かないー!」
くっそー! オジサン殴れない! 幾ら私でも無抵抗の人間は殴れない! 幾らオジサンでも! オジサンだからこそ! ぐぬぬ……! オジサンに攻撃してダメージボイスを口から出させてみたかった……というか! なんで先日発売したばかりの導力ゲームのことも知ってるんだ! オジサンのアホー!
「……それよりも早く抗体とやらを出してもらおうか」
「そうだそうだー! 早くしろオジサンのアホー!」
「──ああ、それなら
「は?」
──は? 何言ってるの? ばらまいたって……え? いつの間に?
「……えっ、じゃあもう治ってるの?」
「ああ。今頃、正気を失ってた連中もピンピンしてるだろうなぁ。効果の中には強化だけじゃなく治癒もあるって言っただろ? 仮に怪我をした奴がいてもその怪我すら治ってるだろうぜ」
「ど、どうやってばらまいたの? というかあの新作は何! 説明して!」
「だから非接触感染のウイルスだって言ったろ? ちょっと
「便利じゃないっ! いや、便利だけど!」
ぐっ、釈然としない……! このオジサン、相当デカいことやらかしてるのに終わらせる時はスパッと終わらせるから本当に厄介なんだよね……ぐぬぬ……企み阻止したのに全然効いてない……わかってたけど……。
「……それでお前は、その新作の実験も兼ねてアーヤの成長を確かめることが出来たというわけか」
「! へえ……?」
「あらまあ。さすがにレーヴェはんは鋭いなぁ」
──と、私がなんかぐぬぬってしてたらレーヴェがなんか正解っぽい回答を口に出してくれた! くれたけど…………え?
「つまり……どういうことだってばよ?」
「ツッコミませんよ。──つまり、貴方がたはアーヤさんの試験のために呼ばれたということですか」
「ああ。レーヴェやあるいは他の協力者が来るかもしれないと言われてね。私や鉄機隊はそのためにハーウッドさんに呼び出されたのさ」
「ウチの方は最初からアーヤの試験官役やったけどなぁ。それと、カンパネルラやブルブランは元々他の役目でやって来ただけやから関係はなかったんやけど……旦さんが上手いこと両方の企みを合体させてなぁ」
「クク……ま、概ねその通りだ。アーヤの成長を確かめがてら、実験を済ませつつ、
「??」
…………え?
つまり……本当に、遊びだったってこと? 私と遊ぶため? え? いや、実験がメインでしょ?
「あ、遊ぶ? 私と? 実験を兼ねて?」
「ああ。お前にも最初に言ったろ? これはただの旅行だってな。いや~久し振りの家族旅行でオジサン、張り切っちゃったぜ♪」
「な、な……」
「お前も愉しめただろ? キャンプにスケートにかくれんぼ。最後はオジサンと
「…………すぅ~……はぁ~~~~~~……」
私はオジサンの悪びれない──いや、ある意味でめちゃくちゃ悪びれた表情を見て思考をまとめる。
そして呼吸を整えた。深呼吸。軽く吸って、深く吐く。腹式呼吸。それを行ってから私は声を出した。大声で。
「楽しめるかああああああああああああっ!!!」
「これにて一件落着。それじゃ帰るとしようぜ。後始末も終わったし、せっかくだから二次会でもするか?」
「するかーっ!! オジサンのアホー!!」
──そうして私のノーザンブリア出張及び旅行は終わった……レーヴェとクルーガーちゃんとリィンくんとサラちゃんとアルティナちゃんにはちゃんと礼を言ってね……他は特に特筆すべきことはない……まあなんか後からオジサンから「そういえば再来月は誕生日だったな。プレゼントを用意したから受け取りな。モルジア諸島の一等地。そこにある別荘だ」って連絡が来たけど……そ、そんなことで許さないんだからね! そもそも今の私のブームは常夏の島よりも常冬の土地なんだから!
──全てが終わった後、私は旅に出た。
英雄の孫として《マスターグラーク》に担ぎ上げられ、その後にグラークが死んで、ローガンが市内を占拠して、帝国が攻めてきて、ローガンを説得して、人形兵器の暴走と北の猟兵やノーザンブリアの人々が突然豹変して、それを止めるためにあのリィン・シュバルツァーに協力してもらった。
私は1人で人形兵器工場に向かい、元凶のジェイナ・ストームをタラちゃんと一緒に倒した──けど最後は不可解なものだった。
ジェイナは追い詰められるととある薬を飲んだ。それを飲んで私たちに襲いかかろうとしたところで、ジェイナは胸を押さえて突然苦しみだした。「こ、これは……まさか……わ、私まで……謀るなんて……」と、最期にそう言い残して。
その言葉から私は他に黒幕が、それこそ結社という連中の関与を疑ったが、リィンの話によれば結社の連中は既にノーザンブリアから出ていったらしい。
それを阻止したのはリィンの恩師の1人であり、あのサラ・バレスタインの同僚でもあったというあの《血染の裁縫師》だったと……そう聞いた。その時にあの女が、どういう経緯を経て《北の猟兵》を襲ったのかも。その黒幕が《マスターグラーク》であったことも。
私はそれを聞いて自分の怒りが、恨みをぶつけるべき相手が違っていたことに気付いた。……元より故郷で皆に会ってからは自分の中で少し考えも変わり始めていたけど……。
──ただ、どういうわけなのか。その話を聞いてもなお、私の中では何か別の感情が湧き上がっていた。
怒りとは違う。憎しみでも恨みでもない。
爆発するような、燃え上がるような感情じゃない。どこかやるせない、モヤモヤとした、煮えきらない。
いや、それらとも違う気がする。そんな答えの出ない何かを抱えながら、私は解体された《北の猟兵》から自然と離れ、ノーザンブリアから世界を見て回るために旅を始める。
──だがその道中。ノーザンブリアから出る前に、私は1つの村に通りがかった。
なぜか付いてきたイヴァーノとタックが「一旦そこで休んでこうぜ!」「旅をするにも備えが必要だしな!」と勝手に言い出したから私も仕方なくそこに寄った。別にこの2人と旅をしようと思っていたわけじゃないけど……まあそれはいい。邪魔になったら別れればいいし。
そういうわけで私は村に立ち寄った。そうして村を見て回る。
「──そうそう。そんな感じで手を動かしてー」
「ん……?」
──だけどそんな時。私はふと何やら聞き覚えのある声を耳にした。
私はそれが気になって声の方へ歩く。この時はまだ分からなかった。
ゆっくりと声の方へ近づくと、そこは村の離れにある広場だった。大きな池が広がるその場所。何かを思い出すその場所。
そこで私は……またしても見慣れない肌の色を見た。
「こんな感じー?」
「お、いいねいいねー! 綺麗に出来てるじゃーん! マフラー作りの才能あり!」
「えへへ、やったー」
──見覚えのある褐色の肌の女が、幼い少女の作ったマフラーを見て少女を褒めていた。
私はそれを見て反射的に声を上げようとして、すぐにやめた。その光景が、私の心をその場に縫い留めた。
「なあなあ、姉ちゃんの方が上手いんだから普通に作ってくれよー! その方が絶対いいじゃん!」
「私が作ると全部同じような感じになってつまんないでしょー? それに、自分で縫えるようになった方が楽だよ? 布と糸さえあれば自分の好きなデザインでも自由自在! 頑張ればマフラーだけじゃなくて服とかも作れるし、他の人にもプレゼントしてあげられるしねー。友達とか兄弟。お父さんお母さんにプレゼントしたいでしょー?」
「う……それは……」
「はいはーい! やりたいやりたーい!」
「私も作ってみたーい!」
「よーし! それじゃ教えちゃおっかなー? ついでに上手くできたらお姉さんからプレゼントもあるかもよー?」
「プレゼント!? ほんと!?」
「やるやる! プレゼントほしいー!」
──大勢の子供が、その褐色の肌の女の周りに集まっていた。
木製の椅子とテーブル。その周りに村の子供たちがいる。
褐色の女は子供たちに裁縫を教えていた。大量の布と糸を机の上に並べ、物心ついたばかりの子供から上は13歳、14歳くらい。日曜学校に通う歳くらいの子供が集まっている。
褐色の女は膝に7歳くらいの子供を抱えながら周りの子供たちの面倒を見ていた。
「おねーちゃん、わたし、おにごっこしたい」
「いいよ! それじゃ私が鬼ね! はい、やりたい人逃げてー。いーち、にーい……」
「マフラー作りはどうしたんだよ!? お前がやるつったんだろ!?」
「ふっふっふ、甘いね。私くらいになるとマフラー作りを教えながら鬼ごっこくらいできるんだよ」
「そんなわけ──「それじゃ本体の私はマフラー作り担当ね」「分け身1は鬼ごっこの鬼するね」「分け身2は料理をします」「分け身3は今のうちにプレゼントを運ぼうかな」──って、えええええええええっ!? ふ、ふ、増えた!? 嘘だろ!? どうなってんだ!?」
「おねえちゃん分身できるんだー! すごーい!」
「大人になれば皆できるよ」
「分け身もそう思います」
「早く私も大人になって分身したーい」
「したいねー」
「ねー」
「って、んなわけねぇだろ!? 騙されるなよ!! というかマジでどうなってんだよ!?」
──見覚えのある褐色の女は“分け身”を使って大勢の子供たちの面倒を見ていた。その中でも年長の子供はかなり動揺してた。
私はその様子から目が離せなかった。
「おースケート上手だねー上手いねー。将来スケートで食べていかない?」
「え……? そんなことできるの?」
「ふっふっふ、できるよ。私イズ大富豪だからね。そのうちノーザンブリアとか共和国とか色んなところにスケートリンク作るから日曜学校卒業したら私のところに来るといいよ。もしくは卒業前でもいいけどね!」
「…………そ、それじゃあ頑張ってみようかな……」
──私はしばらく、隠れてその光景を遠くから眺め続ける。
「はい集合~! 一旦休憩ね! 豚汁作ったから一緒に食べるよー!」
「わーい! ご飯だー!」
「すごーい! こんなにいっぱい!」
「おっきい鍋ー!」
──私はそこに近づくことができなかった。
「ひ~ふ~み~……よしよし、全員分あるね! それじゃ次はプレゼント用意したから並んで~」
「プレゼント……!」
「箱がいっぱいだ……」
「ありがとーおねーちゃん!」
──だからそこにある子供たちの笑顔を見続けた。
「あ、ちょっとちょっと! 君にはこれを渡しとくね!」
「え……? これは……?」
「私の名刺。もうすぐ日曜学校卒業する歳でしょ? さっきみた感じ才能ありそうだし、もしその気があるなら卒業してから私の会社で雇ってあげるから来るといいよ! もちろん両親や近しい人に相談してからね!」
「あ……」
──どれくらい、それを見ていただろう。
私は子供たちが集まって、そして解散するまで。それをただずっと見ていた。
自分がどんな表情をしているのかも分からないまま。
「ばいばーい!」
「ばいばーい。またね~」
「ありがとうお姉ちゃん!」
「ありがとー!」
「また遊びに来てねー!」
──やがて日が夕焼けに染まり、子供たちが荷物を持って家へと帰る。
その褐色の女もまた子供のような笑顔で子供たちに手を振って別れを告げていた。
背を向けて何気なく歩き出すその女の背中。それを見て、ようやく私は動き出す。
「待って」
「? 何? 初めての顔だね! やっほやっほー! ちょっと大きいけどこの村の子供?」
「……!」
私はその女に声をかける。
驚くことに向こうは私のことを憶えていなかった。
だけど好都合だったかもしれない。私は、少し間をおいてから聞きたいことを問いかける。
「そう。最近首都から帰ってきた。……初めて見たけどいつもこんなことをしてるの?」
「いつもではないけどたまにねー。でもこの村に来たのは初めてだよ。──多分ね」
「……多分?」
「あー……まあ、ほら、やっぱ人と会いすぎてると憶えられない時もあるというか……ま、まあ大体は憶えてるけどね! 最近は物を送ったりしてセットにして記憶にするようにしてるし!」
バツが悪そうにそう言う褐色の女の言葉を聞いて私は思い出す。
この褐色の女が、ノーザンブリアに多額の支援をしていること。
それとは別に、この女が個人でやっていること。ノーザンブリアでの目撃例。《北の猟兵》が、自分の故郷の村に帰った時に見たこと。それを私は旅立つ前にマーティンから教えてもらっていたことを。
「……なんで?」
「え?」
「なんでそういうことするのかって聞いた」
私は思わず、自然とそう問いかける。
自分の中にあるその感情に従って。
そうすれば女はきょとんとした顔で。
「なんでって言われてもなー。これはたまたま通りがかっただけだし……」
「え……?」
「通りがかった村に子供がいたから相手しただけってこと。それでせっかくだからお裁縫教えてお腹空いてるみたいだからご飯食べさせて楽しそうだったから一緒に遊んでついでに将来のためにスカウトしてみた!」
──なにそれ。
つまり施しを与えようと思って来たわけじゃない。偶然、そこに村があって子供がいたから。だから子供に優しくしただけだと。
裏ではちゃんと支援してるくせに。
「……子供が好きってこと?」
「まあ、好きかな?
──その言葉の節々に感じるのは、
別に使命感を持ってやってるわけじゃない。この女は、どこまでも軽かった。能天気で馬鹿っぽい。真剣味が足りなく見える。
でも、だからこそ……そう──
「──だから、か……」
「? 何? 急にどうしたの?」
──だからこそ、
私よりも。《北の猟兵》よりも。ノーザンブリアの人々よりも。使命感を持って動いている誰よりも。
この女の方が。何の縁もない。むしろノーザンブリア人によって故郷を滅ぼされたこの女の方が。少なからずノーザンブリアの人に、私みたいに怒りを向けられたこの女の方が。日常の特筆すべき事柄じゃない。ただの一コマとして行っているこの女の方が。
──ずっとずっと……ノーザンブリアの人を救ってる。
だから私は全部理解してもモヤモヤした。悔しかったんだ。感謝や申し訳無さよりも何よりも、私が何も出来ていないことが恥ずかしく、小さく感じた。
《北の猟兵》の上層部じゃない。そのことを知っていた人達がなぜこの女を捕まえようとしなかったのか。その理由が今なら分かる。私の感じた感情とは違うだろうけど。
ただこういう人間だから。だからきっと、この女は捕まらない。嫌いになれないんだって。
「……名前」
「え?」
「あんたの名前。聞いた気もするけど、教えて……ほしい」
「ああ、名前ね。私の名前は──アーヤ・サイードだよ!」
──そう。アーヤ・サイード。
それがこの馬鹿で能天気で明るい……そして恐ろしく強くて闇のある、裏の人間の名前。
私はそれを聞いて、再び歩き出す。
「──わかった。ありがとう、アーヤ」
「え? うん。何がありがとうなのか分からないけど……って、そっちの名前は? どこ行くの? ちょっとー? おーい!」
背後から緊張感なく声を掛けてくるアーヤを無視して、私は村の外へと歩みを進める。
私にはまだまだできることがあるはず。
ノーザンブリアのために。そしてノーザンブリア以外のためにも。私は自分のやりたいことを見つけ出す。胸を張って故郷に帰るために、ただひたすら前に進──「おーい! 名前教えてよー! あ、もしかしてノーザンブリア出る? この先って帝国だよね? 私もちょうど帝国に用事あるんだよね~。良ければ次の村か街まで一緒に行かない? 豚汁余ってるんだけど食べる?」──本当にうるさいな。ついてくるな。いいからどっか行って。なんなら私が逃げる。
──その後、私はひたすらに追いかけてくるアーヤを撒くために幾つもの村と街を行き来する軌跡を辿った。結局アーヤの方が用事があるっていなくなるまで撒くことが出来なかった……。
──どうも、アーヤ・サイードです。突然ですが七耀暦1205年の暮れ。もう少しでファッションショーや年末。年明けの私の22歳の誕生日が控える中、帝都ヘイムダルで言われた新たな無茶振りをお聞きください。
「──北方戦役におけるノーザンブリア全域での事態の収拾、ご苦労だったなアーヤ・サイード
「…………あっ、はーい、よろこんでー」
…………ふぅ……やれやれ。まーたこの流れですか。いい加減慣れたよ。私だっていつまでも動揺して大騒ぎするばかりじゃないんだからね。
だけど心が叫びたがってるから言っておこう。さん、はい──うわあああああああああああああん!! だからなんで私ー!!? 役割過多だって! また教師生活だー! しかもなんか地味に昇進してるしー! それは地味に嬉しいけどー! でもやることが多すぎるって言ってるでしょうがー! うわーん!! 私の『行き着く先』がわからないよー!! これだから帝国は嫌なんだー!! というかもうすぐ《巨イナル黄昏》だー! 嫌だー! 私の閃の軌跡Ⅲ始まりまーす!!
今回はここまで。これでようやく折り返しかな。次回からは閃の軌跡Ⅲ編。そしてここからは後半戦です。ゼムリア大陸にとってもアーヤちゃんにとっても色々と大変なことがいっぱいあります。Ⅲなので鉄血側とヴァイスラント決起軍と結社側で三重スパイしないとね。ということで次回からもアーヤちゃんの不幸な軌跡をご期待ください。今回のノーザンブリア編のEDはオジサンとアーヤちゃんが恋のディスコクイーンを踊る感じでお願いします(存在しない電波的記憶)。
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