TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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緋の不幸

 

 ──アーヤ教官とは以前の所属からの付き合いです。

 

 彼女の正体は結社《身喰らう蛇》の最高位のエージェントである執行者。その関係からかつて私が貸与されていた貴族連合。ひいては私の製造元である《黒の工房》と関係があり、それから任務に同行することがありました。

 

 その時の印象としては──お気楽なのに凄腕の暗殺者、という事前の情報と変わりない……いえ、それを大きく上回るということ。

 

 事前に知識として共有されていた情報。そして情報局のデータベースに載っていた情報からアーヤ・サイードは大陸最強の暗殺者とされていました。それだけに最初に顔を合わせた際は「このようなお気楽な人が本当に……?」と疑念を感じましたが、その疑念は彼女の動きを見てすぐに払拭されました。

 まず足音が聞こえませんし、気配の消し方も凄まじい練度です。普段の気配も強者特有のものを全く感じませんし、それどころかその場にいながら人の視界から消えるほどのありえない技術を持っています。

 刃物の扱いに糸や針。あの《ゾルフシャマール》と呼ばれる武装の力もそれを扱うアーヤ教官の力も情報局の戦力分析の通りかそれ以上。それでいて謎の異能を持ち、ありえない耐久力と生命力を持っています。内戦時も正規軍の最新式動力戦車の主砲や貴族連合の機甲兵に斬られても喚き叫ぶだけで大して効いた様子はありませんでした。総じて伝説になるのも納得しかありません。

 そんなアーヤ教官との任務は、任務外の振る舞いを除けば楽ではありましたし、私がトールズ士官学院第Ⅱ分校に入ったのと全く同じタイミングでトールズ第Ⅱ分校の教官になったのも偶然ではないでしょうが、彼女の本業は芸術方面……オートクチュールの職人らしいので何も問題はないと──

 

「はい。それじゃアルティナちゃん。今の歌ってみて!」

 

「……はい。すぅ……~~♫」

 

「あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃあ~!」

 

「うるさいですね……」

 

 ──授業中、私を指名して歌わせた後に訳の分からない合いの手を入れてくるアーヤ教官に小声でそう呟きます。……やっぱり変わっていませんか。

 というのもアーヤ教官は以前から私の前では意味不明な言葉を使ってきます。内戦中に一時的に一緒に行動した時もアーヤ教官は謎の歌を口ずさみながら時折その意味不明な言葉で敵だった正規軍に攻撃していました。こんな風に──

 

「こらー! 容赦なく砲撃してくるな―! こっちもぴょんぴょんカノン砲(十三工房製152ミリリジュ砲)撃つぞー!」

 

「言いなさい(腹パン)」

 

「え? 私たちが誰かって? 私たちは……えーと……ぴょんぴょん党だよ! アルティナちゃん! ぴょんぴょんカノン砲撃って!」

 

 ……と、真面目に考えるだけ無駄な謎の言動をしていました。これでしっかりと敵対者を撃退し、任務はこなしていたのですから正規軍からしたらかなり質が悪い敵だったかと。

 味方からすれば多少言動で混乱させられることはあれどかなり仕事ができる人であるのですが……とはいえ事ある毎に私に絡んでぴょんぴょん言ってきたり服を着させようとしてくるのはやめてほしいですが。

 今日も部活動決めで水泳部に入ることを決め、ベーカリーカフェで栄養補給をしようとしているところにひょっこりと現れては「アルティナちゃんやっほー! 今日もかわいいね! VMでもやる? 負けたら私の仕立てた服を着てぴょんぴょんしてもらうってのはどうかな?」と私にはなんの得もない賭けを挑んできたりして呆れました。ちなみに《VM》は帝国やその周辺国で流行っているカードゲームでアーヤ教官も開発者とは知り合いらしく同じく開発に携わっていて普及活動を熱心に行っています。私や他の生徒もスターターセットを貰いました。

 なので賭けはともかく、勝負……アーヤ教官が言うには決闘するのは問題ないのですが──

 

「よーし、決闘──」

 

「──あらアーヤ教官。こんなところで奇遇ですね。午後から教官陣は何か用事があるって聞いていたけどもう終わったのかしら? レンを放置して別の生徒を随分と構っているんですね?」

 

「べ、別にそんなに構ってないよー? 放置もしてないし……」

 

「そうかしら。そうかもしれないですね。なら話は変わりますけどレンもVMを始めたので勝負してくれます? 勝った方が負けた方に好きなことを命令できる……そんな賭けはどうでしょうか?」

 

「学生が賭け事はよくないよっ! それじゃあ私はもう用事があるから行くね! アルティナちゃんにレンもまた明日ー!」

 

 ──その場にⅨ組主計科の生徒……レン・サイードが現れるとアーヤ教官は少し焦った様子で逃げるように店から出ていきました。それをレン・サイード……レンさんはくすりと笑って見送ります。

 

「あら……教官にちょっと聞きたいことがあったのだけれど……逃げられてしまったわ」

 

「……どうやら複雑な事情があるようですね」

 

「ふふ、まあそうね。だけど心配してくれなくても大丈夫よ。もう少ししたら慣れて普通に接してくると思うわ」

 

「……? 慣れる、ですか。それは一体……」

 

「経験則のようなものよ。アーヤと……いえ、アーヤ教官と過ごした、ね」

 

「……なんとなく、わかるような気がします」

 

「ええ。だからすぐにレンのことも……

 

「……レンさん?」

 

「! ごめんなさい、邪魔したわね。レンは用事があるからもう行くわ。また明日、学院で会いましょう」

 

 そう言ってレンさんも店を出ていってしまいます。先ほど見せた苦笑いと真剣な顔つきを見る限り、やはり事情が入り組んでいるようです。

 彼女の情報も情報局のデータベースから入手しています。結社の執行者No.ⅩⅤ《殲滅天使》。

 既に結社を抜けたということですが、アーヤ教官とは何らかの確執を抱えているのかもしれません。そこに軽々しく踏み込むことは躊躇われますが……ただ外部から見知った限りだと、入学式の後で少し話をしたようですし、同じ姓を名乗っていることから確執と言うよりはすれ違い。あるいはレンさんかアーヤ教官のどちらかに譲れない何かがあるのか……。

 私はその事情について考察してみますが、考えても答えは出ません。なので思考を取り止め、再び栄養補給を行います。

 トールズ第Ⅱ分校での生活が始まって2週間ほどですが、想定以上に体力の消耗が激しいので定期的に糖分摂取による体力回復を行うのが合理的な判断です。

 なのでゆっくりとパンケーキを口に運ぶことにしました。──ちなみに次の日の授業の機甲兵教練ではレンさんが言った通り、アーヤ教官のレンさんに対する対応は昨日よりは動じない、ちょっと明るくていつも以上にうるさいだけの通常のものになっていましたが、それが良いことなのか悪いことなのか、私には判断がつきませんでした。

 

 

 

 

 

 ──おはようございまーす……トールズ第Ⅱ士官学院芸術科教官のアーヤ・サイード特務大尉でーす……はぁ……困ったなぁ……まさかレンが入学してくるなんて……すっごい困った……気まずいというか、向こうがなんか知らないけど怒ってるみたいだったからどう接したらいいか分からなくて困った……。

 

 ただ不思議なことに入学式が終わった後にちょっと話はしたけどその後からはレンの方も最初の時の圧を感じなくなったというか、普通に接してくるから逆に怖いんだよね。何で普通になったんだろう。Ⅶ組の入学試験が終わった後にこんな感じで会話しただけなんだけど──

 

「それにしてもレンがトールズに入学するなんてねー……あ、それとティータちゃんもいるみたいだし……」

 

「ティータやエステル、ヨシュアたちとも相談してね。レンもティータもちょうど進学先を探していたところだったから。帝国に来た方が色々と都合が良いでしょ?」

 

「あー……なるほどねー。んー……まあ分校とはいえトールズは名門だからね。授業のレベルはかなり高いだろうからティータちゃんにレンも退屈はしない、かな? うん、良い進学先だと思うよ?」

 

「レンもそう思ってるわ。……ただ他にも思惑はあるのだけど……そっちについてはアーヤは気にならないのかしら?」

 

「え? ああ、うん。まあ──()()()()()()? レンは何も気にせず学生生活を楽しむと良いんじゃない? これから色々あるとは思うけど関わらない方がいいと思うしさ」

 

「っ……それは……」

 

「あー……でも関わらざるを得なくなったりもするかもしれないけど……その時はその時で安全第一で。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……そう……ならアーヤはこれから、この帝国で何が起きるか知っているの?」

 

「そんな詳細には知らないけど大変なことになりそうってくらいかな。だからレンもティータちゃんも気を付けてね。──それじゃまた明日学校でね! トールズ入学おめでと~」

 

 と、私は背を向けてその場を後にした。まあすぐにティータちゃんにロリコンアガットとも出会ったんで軽く挨拶はしたけどね。ただレンとその場に居続けるのは気まずいし、気にならないのかとか言われたけどそこは聞かないことにした。だって……なんて言われるか怖いし……いつの間にかサイード姓になってることとかなんでトールズを選んだのかとか気になるっちゃ気になるけど前者は怖いし、後者は普通にティータちゃんと同じような理由だろうから聞かなくてもいいかなって……それにレンはレンでもう裏から足を洗ったんだから普通に学生生活を楽しんでもらいたい。その場所がトールズ第Ⅱってのがアレだけど……ま、まあドンパチがあるとはいえ青春はちゃんとできるし! トールズじゃなくてもどうせ閃Ⅳに入ったら関わることにはなるし! 問題ない! 強いて言うなら黎の軌跡の時期にはアラミスに留学するのとかどうするんだろうとか思わないこともないけど、そこはまあ気にしないでおこう。気にしてもしょうがないしね。

 

 ってことでレンとの衝撃的な再会を終えて私はトールズ第Ⅱ分校の教官生活を始めた。その日々はレンとの気まずさを除けばかなり楽しい。

 

 トールズ第Ⅱ分校はトールズ本校と比べて軍事色が強い──と言っても以前のトールズであって今のトールズは第Ⅱ分校以上に軍事色が強くなってるけど……それでも以前のトールズと比べて教科が実戦寄りになってるから芸術科目のコマは少なめだ。最初の予定だと週に1回しかなかったくらいだし。でも専門の教官を雇うのだからそれだと勿体ないし、せめて週に2回にしてって私が直接オズボーン宰相に直訴したところ毎週2回は無理だったけど隔週毎に2回、つまり月に6回は授業が出来ることになった! やったぜ! なので記念すべき初授業は音楽の授業をやった。……え? 服飾じゃないのかって? いや、確かに私の専門は服飾だけどさ。それが一般的に芸術科目の中で一番必要かって言われると微妙なところだし……そのうち教えるつもりではあるけど先に音楽とか絵画とかそっちの方が帝国の人には必要かなって。なので先に音楽の授業だ。私が演奏して生徒に歌わせて、次に好きな楽器を選ばせて演奏させてみた。まずは音楽の楽しさを教えないとね。芸術科目は興味がないと身に付かないってのが私の持論だ。なのでまずは少しでも興味を持たせるところから。少しでも楽しいって思ってもらえれば次からの習熟度が全然変わってくるからね! 当然プロを目指す授業の場合は全然違ってくる。それこそここ1、2年で私の弟子になりたいっていうデザイナーの卵がちょくちょくやってきたり才能がありそうな子をスカウトしてまとめて教えてるけどそこではかなり厳しいからね。私もたまに見に行く時はちゃんとプロとしてアドバイスしてる。それでも優しい方だとは思うけどね! 多分! 

 

 それと週に1回や2回しか授業がないってのは控えめに言って穀潰しでしかないので他の授業も手伝うことになった。家庭科はトワちゃんと一緒に受け持つ予定だし、導力技術に関してもそこそこ出来る。まあシュミットおじいちゃんとか財団の人。ティータちゃんみたいなプロレベルの人たちと比べるとお粗末だけどこれでも導力ゲーム開発やってるし、昔っから博士の実験を手伝ったりしてきたし、そもそもIT系は前世知識で他とはスタートラインが違うぜ! なので普通の人よりは全然できる。そのことを言ったらランディ兄は「マジかよ……てっきり座学の方はお粗末なもんかと……」って小声で驚いてた。聞こえたから「へへーん。ランディ兄より私の方が全然頭良いもんね~!」って煽っといた。すると頭を抱えてショックを受けながらも苦笑いをして謝ってきた。やっぱサラちゃんとは違うね。サラちゃんならここでムキになって何故か物理勝負になってゴリラの如く校庭で暴れ回った結果ハインリヒ教頭に怒られるまでがセットなのに……。

 

 そしてそれ以外だと……ミハイル教官が担当する数学とか物理学は難しいからやだ。トワちゃんが担当する政治経済関連は……ま、まあ多少なら……私社長だけど会社の経営とか細かい部分は秘書のセラちゃんとか他の社員に任せてるし……あ、でもランディ兄が担当してる軍事学はわかるよ! 三十六計逃げるに如かず! 城を攻める時は3倍の兵力で! 釣り野伏せ! 薩摩式首刈り戦術! とりあえず奇襲だ! ……え、機動防御? なんだっけそれ。逃げながら防御するってこと? あーそれね。得意得意。私って背中から撃たれても全然効かないからね。……違う? …………まあほら、アラミスは軍事学校じゃなかったから……初歩レベルなら一応アラミスでも習ったからわかるよ? 成績真ん中ちょっと下くらいだったけど……。

 あ、で、でもリィンくんが担当する歴史学はそこそこできるよ! ゼムリア大陸の歴史は普通に気になったから結構自分から調べて勉強したからね! 後思い出したけど国際政治とか文化とかは実際に色んな国に行ってるから割と得意! 共和国や中東方面は任せろー! ……え? それじゃあ政治体系やその変遷について教えてほしいって? それはちょっと……私その国に住んでたわけじゃないし……。

 

 で、でもあれだ! 実戦技術と機甲兵教練はめちゃくちゃできる! これはマジだよ! 実戦技術は本校でも一昨年教えてたし、機甲兵の操縦は貴族連合の協力の一環で結構乗ってたからね! これは本当に自信ある! 最後の方の訓練だとクロウくんとも結構良い勝負してたんだから! 機体はドラッケンでもシュピーゲルでもヘクトルでもケストレルでもどれでもいいよ! 強いて言うならシュピーゲルとケストレルが得意かな! 出力とか機動力が高めの機体の方が動きやすくて楽しい……じゃなかった。私には合ってるんだよね! なんならヴァリマールくんにも乗ってみたいけど騎神は起動者以外にしか乗れないってのが残念だよね。専用機はやっぱりロマンだと思う。私も機体を真っ赤に染めてアーヤ専用ケストレルとか作ってもらおうかな……勝手に色染めたら駄目かな? ちょっと今度シュミットおじいちゃんに聞いてみようかな……私も赤い彗星とか水星の魔女とか呼ばれてみたいし……。

 

 ──と、そういうわけで私の担当授業は週に1、2回程度の芸術科目に家庭科と導力端末。それに主に実戦技術や機甲兵教練の手伝いって感じだ。基本座学は1つも任せられなかった……けどこれでも十分働いてるし楽しいからヨシ! 

 

 それに生徒たちもみんないい子ばかりだ! まだ全員としっかり話せたわけじゃないけどそれでもいい子だってわかるくらいには! 能力的にもⅧ組は身体能力に秀でてるタイプの子が多くて将来有望だし、Ⅸ組も情報処理と後方支援に向いてる子が多くて将来有望! レンとかミュゼちゃんみたいな飛び抜けて優秀な子もいるしね! 

 それとⅦ組に関しても当然将来有望だ! クルトくんは素っ気なくてユウナちゃんは戸惑い気味でアルティナちゃんは心をぴょんぴょんしてくれないけどみんないい子だね! それぞれ「この人が本当に父が言っていた……?」とか「サイードってあのサイードだよね? ファッションデザイナーの……」とか「うるさいですね……」ってこっそり私のことを話してた。その中でクルトくんの発言は若干無視できないものがあったけど深く考えると怖いので聞かなかったことにした。

 

 後はリーヴスもいい町だ。久し振りにお世話になってるカプア特急便のジョゼットちゃんと会ったり、教会に務めてる本校卒業生で実は聖杯騎士団の従騎士のロジーヌちゃんやラジオ局で務めてる同じく卒業生のムンクくんとか色んな人がいたし挨拶した。ブティック《ラパン》っていう個人経営の服飾店にも入ってみたけど結構良かったね。ただ店主から感激されてサイン求められたけど。ファッション業界だとよくあることなので問題ない。それと交換屋《ナインヴァリ》に入ったらそこの店主のジンゴちゃんっていうロリから顔を見られるなりいきなり対戦車砲を向けられて「《切り裂き魔》かー……お前のことは母ちゃんから特に気をつけろって言われてるぞー。用件はなんだー?」ってなんか解せない評価をもらった。確かクロスベルにある店の店主がお母さんなんだよね。そんな闇の武器商人みたいな人から特に気をつけろって……私そんなに危ない人じゃないと思うんですけど! 確かに武器商人や武装商人の類は昔結構殺ってきたけど……それは戦場の話でしかもたちが悪い相手だけだからそんなに警戒しなくていいって! だから戦車砲なんて物騒なもの向けないで! ほら、ケルベロスも唸ってる! なんとなく寄ってみただけだから! そもそも私が戦闘で使う鋼糸とか針とか毒とか裏の商人とか使わないし! 全部オジサンに調達してもらったり庭園の下部組織にそういうものの調達先があるからそれをもらうし、そもそも最近は全部十三工房に卸してもらってるし! 毒の調合もオジサンから直接輸送してもらってるし! 普通の品物に偽装してね! だからここでの用事は何もないよ! なので害意はないことを説明するとなんとか対戦車砲は下ろしてもらった。ふぅー危ない危ない。あのサイズの砲弾は当たったらかなり痛いし服も汚れるから下ろしてくれてよかった……ジンゴちゃん中々怖いロリだね。でも今度VMで遊ぼうねってスターターセットを渡して約束しておいた。武器商人だからか割り切りがいいね。

 

 そうそう、その《VM》も昨年から発売開始して徐々に流行り始めてるんだよね。私も以前開発者と知り合いになってカードのデザインとか効果とかこの先の展望とか色々盛り上がったから私も自分のデッキとスターターセットを持って時折町の子供とか知り合った大人とかに渡してる。ゼムリア大陸はカードゲームは子供が遊ぶものみたいな固定概念がないから広めやすい。結構色んな人がやってくれるし、それこそ子供から大人。おじいちゃんおばあちゃんまで色んな人がやってくれて楽しい。お陰様で実は今年の初め頃に帝国で初の公式大会も行ったし、私はそこでチャンピオンになって《VMキング》の称号を得た。まあ私が関わって開発者に色々吹き込んじゃったせいか、ゲームのルールが若干エキスパート仕様というかコン◯イ染みてる気もするけど……ま、まあマズくなったらそのうちルール改定も起きるだろうし、ゲーム自体の流行りはすごくて売上もすごくて得してる人が多いからいいよね? なので今日も私の専用カード! 相棒の《レッド・ドラゴン》と《ブルー・ドラゴン》を用いた高火力デッキで町の子供たちを粉砕! 玉砕! 大喝采! キングのデュエルは常にエンターテインメントでなければならない! ガッチャ! 楽しいデュエルだったね! キングはいつも挑戦を受け付けてるよ! リィンくんも《VMキング》目指して頑張ってね! いつの日か私が《VMキング》であることを知って驚きそうだし、強くなって私の前に現れる日が楽しみだ! 

 

 そんなこんなで2週間程経ってトールズ士官学院初の自由行動日。その前日にはオーレリアさんから部活動を決めるよう生徒にお達しがあったのでみんな悩んだり相談しあったりして部活動を決めていた。うんうん、微笑ましいね。私も生徒の相談を結構受けたよ。主にレンとかミュゼちゃんから。

 

「貴方もアーヤ教官と以前から知り合いみたいね。一体どこで知り合ったのかしら?」

 

「ふふ、()()()()()()少し縁がありまして。そこで少々アーヤ教官に傷を付けられてしまったんです」

 

「ああ、なるほどね。貴方もレンと同じ……ある意味、アーヤ教官の被害者、ということね」

 

「そういうことです。なのでレンさんとは仲良くなれると私は思っていますよ」

 

「そうね。レンの方も貴方に親近感が湧いたわ。お近づきの印に他のことについても教えてほしいものだけれど……」

 

「部活のことでしたら私は茶道部を立ち上げようと思っていますよ。良ければレンさんも一緒にどうですか?」

 

「そうね。誘ってくれるのは嬉しいけれど、他に気になっている部活があるから遠慮させてもらうわ」

 

「そうでしたか。それは残念です。でしたら他の話についてはいずれ機会がありましたらお答えさせていただきますね? ()()()()

 

「ええ、その時はよろしくお願いするわ。()()()

 

「ふふ……」

 

「ふふふ……」

 

「ふー……ふー……はぁ、お茶が美味しいなぁ……」

 

 ──と、こんな感じで。はぁ……お茶が美味しい。レンとミュゼちゃんの会話はとても優雅だなー。すっごい含みがあって互いに探り合ってるのはわかるんだけど互いにどういう思惑があるかは良くわからないし考えたくないや。傷をつけたとか被害者って何? 私何もしてないと思うんだけど……何かの隠喩かなぁ……? だとしても何か分からないし、なんとなくこの会話に口出しするのは危険な気がするからやめておこう。はーお茶美味し。

 

 あ、ちなみにレンは軽音部に入るらしい。意外だね。なんでも「運動系の部活に入るのは躊躇いがあるし、チェスもちょっとね。出来れば答えのないそれこそ趣味になるようなものがいいわ。ティータのいる料理研究会も考えたのだけど部活でもティータと一緒というのもどうかと思うし、それら以外だと文芸部か茶道部か軽音部。その中だと軽音部が一番試行錯誤できてやりがいがありそうね。──誰かさんも学生時代はバンドを組んではしゃいでいたことだし」と、ちゃんと考えた上で部活を決めたらしい。うん、すごい良いことなんだけど最後に私のことを示唆してくるのはどういう意図があるんだろう。読めなくて怖い……。

 

 まあでもレンが自分で決めて選んだ部活ならそれでいいと思う。レンにはちゃんと学生生活を楽しんでほしいからね。私なんかに惑わされないで自分の幸せを追いかけてほしい。友人いっぱい作って青春するんだ! 

 

 ──と、更にそんな感じで部活動決めがあり、自由行動日には私も教官の1人として午後のブリーフィングに参加しないといけないし、その後にはなぜかオズボーン宰相にも呼ばれてるのでルーレ方面にも向かわないといけない。なんでルーレ方面……? 帝都じゃないの? と疑問に思うけど多分オズボーン宰相が忙しいからそっちに出張に行ってるんだと思う。なので仕方ない。さっさとブリーフィングに参加してお仕事終わらせるぞー! 

 

「……………………」

 

「こ、これって……」

 

「……なるほどー……」

 

「ハッ……予想の斜め上かよ。──いや斜め下か」

 

「フフ、これぞ《捨て駒》の正しい使い方と言えるだろう」

 

 ──ってことでブリーフィングの時間になると戦略会議室に各教官陣と情報局からやってきたレクターにミリアムちゃんがやってきてちょっとした感動の再会(私もミリアムちゃんと全力でハグしあった)がありつつ会議が始まって計画書をみんなで確認したんだけど……うん、すごい空気が死んだ。

 

「立案はどちらの組織だ? ミハイル主任、アランドール少佐?」

 

「……情報局ですがTMPも協力しています」

 

「まあ、はっきり言ってしまえばギリアス・オズボーン宰相閣下。そしてクロスベル総督、ルーファス・アルバレア閣下の意向を受けてのものですね」

 

「で、ですが、この計画書は無茶苦茶すぎます! 『帝国西側で、不穏な動きアリ。不審な抗争を行う複数の猟兵団、そして《結社・身喰らう蛇》──新設されしトールズ第Ⅱ分校をもって各地で対処に当たらせるべし』……! 入学したばかりの生徒たちを場合によっては“実戦”に投入する──こんなの完全に“生贄の羊(スケープ・ゴート)”じゃないですか!?」

 

 ──と、計画書を読んだトワちゃんのそんな訴えかける声が会議室に響く。

 内容としては今トワちゃんが言った通りで第Ⅱの生徒を教官陣たちと一緒に警戒に当たらせて場合によっては対処する。なんだったらそいつらとドンパチするぜ! っていう悪魔の計画書だ。トワちゃんの言う通り、結構酷い。

 でもその後のミハイル教官の説明でも言ってるように、これが《第Ⅱ分校》の存在意義の1つなんだよね。帝国軍の本体というか、鉄道憲兵隊や情報局とかそういうリソースは大体帝国東部で使われてる。東には宿敵のカルバード共和国があって、そこと帝国は今すっごい仲が悪い。今も全然ちょっとした小競り合いという名の撃ち合いがたまにあったり、諜報員がバチバチに相手の国に侵入してそれを互いに防ごうとして諜報戦を繰り広げてるし、なんならノルドでも結構ヤバい戦闘があったって報告で聞いた。その戦闘でガイウスくんが危なくなってそれを聖杯騎士団の第八位《吼天獅子》グンター・バルクホルンが庇って亡くなったらしい。

 まあ実は亡くなってないんだけど……でもそれについては今は置いておこう。その人はその人で後に生きてることが判明して色々あるんだけど今回の話では重要じゃないし。

 とにかく東側を警戒しまくってるので西側の警戒レベルが低くなってて穴になってる。帝国にも穴はあるんだよなぁ……ってことでそれならその穴を新設した第Ⅱ分校に埋めさせよう! ってのが今回の計画。そして閃の軌跡Ⅲの主なストーリーなわけだ。

 

「1年半前の帝国の内戦と、ノーザンブリアでの北方戦役──クロスベル動乱や、リベールの異変でも暗躍していた謎の結社《身喰らう蛇》。時にそれと連動し、時に対立もする、戦争のプロたる10近い猟兵団……情報局の分析じゃ、既に帝国本土でそれぞれが動き始めてる可能性が高い──必要なんだよ。それなりの“抑止力”ってのが」

 

 レクターがそんな感じで教官たちに説得の言葉を送ってきてたので心の中だけでネタバレするけど、ほぼ全部事実だね。結社はとっくに動いてるし、猟兵団も結社傘下の強化猟兵だけじゃなくシャーリィちゃん率いる《赤い星座》の連隊が動いてるし、《黒の工房》に操られてる《西風の旅団》もいれば、《ニーズヘッグ》とか《北の猟兵》の残党とか結構大きな猟兵団がいっぱい動いてる。なのですっごい火薬庫ではある。まあ最終的に大体全部同じ勢力として連合を組んじゃうわけだけど……とはいえこの時点だと対立しまくっててヤバそうに見えるよねー。

 

「……無論、我々とて戦闘が起きることが確実な地に生徒たちを送り込むわけではない。あくまで体裁は“演習”──万が一のため機甲兵などの最新装備なども用意したわけだ。更には──第Ⅱ分校専用となる演習用の装甲列車も完成した」

 

「演習用の装甲列車……!?」

 

「そこまですんのかよ……!?」

 

「さすがに太っ腹すぎない!?」

 

「ま、そのあたりは別の意向と予算によるモンでな。更には《灰色の騎士》にクロスベルきっての戦術家、《紅い翼》を率いた才媛までもいる。加えて──現役の結社の《執行者》もいるからな。さっきから黙っちゃいるが、一応差し障りのない程度で意見を言ってくれてもいいんだぜ?」

 

 あ、レクターから話振られた。どうしよ……気まずかったからすまし顔で黙ってたのに……確かにさっきからみんな気になってるのか、結社の話が出る度に私の方に視線や意識がチラチラと来てたけど……。

 まあでも差し障りがない程度にってことだし、一応私のスタンスもちゃんと伝えつつ教えておこう。

 

「うーん……守秘義務なんかもあるから言えないこともあるんだけど……まあ、概ね当たってるかな」

 

「っ……!」

 

「やっぱり……」

 

「そいつは……結社は少なくとも動いてるって意味でいいのか?」

 

「私の知ってる限りだとそうかな。戦闘になるかどうかは実験の内容とこっちの対応と流れ次第だと思うけどね。だから確実じゃないし、私も生徒に危険が及ばないように気をつけはするけど……気を引き締めておいた方がいいかなー」

 

「……具体的な戦力の数などは把握しているのか?」

 

「それはちょっと……《蛇の使徒》がどれくらい派遣するのかとか《執行者》がどれだけ応じるのかにもよるから正確な数は言えないけど……」

 

 なんかミハイル教官からも質問されたんで言葉を選びながら答える。気を使うから質問はやめてほしいけど今回は色んな勢力に属してるせいでこうなることは分かりきってた。なので頑張って答えないと……えーと、なんて風に言おうかな……。

 

「ただ戦力について1つだけ言えることがあるとするなら──結社の主目的は《オルフェウス最終計画》を滞りなく進めること。そのために《蛇の使徒》は全力で計画の進行のために必要なあらゆることをやってくるし、そのために戦力が必要なら当然その必要分の戦力を出してくる」

 

「《オルフェウス最終計画》……ですか……」

 

「それで今回の帝国での計画は《幻焔計画》。でもその計画は今、ギリアス・オズボーン宰相に取られちゃってるから、その奪還のために結社は確実に動いてくる。だから取り返せないような戦力で済ますわけはないよね? ってのが一応現役執行者としての素直な見解かなー」

 

「っ……そんな……」

 

「……なるほど……」

 

「チッ……その計画の詳細ってのも気にはなるが……それ以上は知らねぇんだよな?」

 

「《使徒》たちがどういう方針で動こうとしてるかはまだ知らないかな。ただ動いては来るだろうし、なんなら向こうもこっちが対応してくるのを見越して動くかもしれないから注意した方いいね」

 

「アーヤには結社側の内情も少ないが卸してもらってる。それも踏まえて生徒たちが生き延びられるよう、せいぜい頑張ってくれってことだ」

 

「──話は分かった。なかなか興味深い内容だ」

 

 ……と、そこまで話したところでレクターやオーレリア分校長がまとめに入ってくれる。はぁ~……よかった。なんとか乗り切った。私としてもこっちの味方をしたいんだけどそればっかりじゃいられない複雑な事情が入り乱れてるので何を話していいかの取捨選択が大変だった……でもこれくらいなら大丈夫なはず。結社が計画を進めてることは割と裏じゃ常識だし、戦力についても暗に結構出してくるから気を付けてって言えたし。

 実際帝国方面だけでも使徒が3人は関わってきて、執行者もマクバーンにシャーリィと私で3人。鉄機隊も出てくるし、神機も出してグロリアスもこっち方面だから普通に戦力は結構出てくる。そもそもリアンヌママとマクバーンがいる時点でお釣りが出るレベルだし……。

 問題はそこにオズボーン陣営……今目の前にいるレクターも含めた《鉄血の子供達》や《黒の工房》や操られてる人たちも含めて全員が敵に回るってことかな……それがヤバいんだよね。そいつら全員が世界を終わらせる《黄昏》を引き起こして七の騎神による《相克》を進め、最終的に焔の至宝《アークルージュ》と大地の至宝《ロストゼウム》が合体した鋼の至宝《巨イナル一》を再錬成し、その呪いの精神体であるイシュメルガが《鋼》になって人の隷属を行うっていうとんでもない計画が進行してる。それがヤバすぎるんだよねー……。

 まあ人の隷属云々はあくまでもイシュメルガとその下僕の《黒のアルベリヒ》の計画であってオズボーン宰相はその計画に乗りながら実は《黒》も消滅させようとしてるし、結社に関しては至宝の行く末を見届けられればどうでもいいっぽいから結末はどっちでもいいと結構最終目的があやふやな連合だけど、それでも《黄昏》を引き起こして《相克》がしたいのは同じ。なので協力してしまうわけだ。はー絶望すぎる。物語としては知ってても本当にクリア出来るんだろうかって若干不安になるくらいには。

 

 だけど私としても世界は終わってほしくないし、そもそもリアンヌママには死んでほしくないし、リィンくんも死んでほしくないし、クロウくんやミリアムちゃんには生き返ってほしいからなんとか出来る限りは頑張らないといけないんだよねー……なぜ私みたいな小物がそんな大事を手伝わう羽目になってるのかとか色々とツッコミたいけど、なってしまったものは仕方ない。割り切って頑張ろう。まずは閃の軌跡Ⅲ! まだ対立してる組織の間に立ってなんとか犠牲が出ないように立ち回ろう! 出来ればトールズ第Ⅱに協力する方向で! そのためにミュゼちゃんとかとも協力するし、レーヴェとも通じ合ってるからね! 後ヴィータ姉さんも! まあヴァイスラント決起軍の目的は大戦争でオズボーンとか呪いを止めることだから犠牲が大きすぎてヤバいけど良い人組であることには違いない! リアリストってだけで! 

 

「実習地は南部サザーラント州、旧都セントアーク近辺となります。日程は4月21日、金曜の夜──専用列車《デアフリンガー号》にて現地に向けて出発してもらいます」

 

 ──そうしてオーレリアさんからのありがたい常在戦場、世の礎たれという言葉をもらい、レクターから行き先と日程と乗り物の通達があってブリーフィングは終わり。はー、空気が重かった。ああいう空気苦手だから終わって良かった。さーて、ちょっとだけ町を見て回ってから移動しよっと。オズボーン宰相からの連絡だからね。明日の朝までかかりそうだけどなんとか頑張ろう。なんたってあの人は良い人だし、目的も愛する人や国を守りたいだけだからね。ちょっと仕事はキツいけど言う事を聞いてればどうにかなる──

 

「──久し振りだな、アーヤ・サイード。今宵は我ら《黒の工房》の実験に付き合ってくれて感謝する」

 

「…………えーっと、オズボーン宰相? これでいいんですよね?」

 

「案ずるな。ただの調整だ。何も心配はいらない。()()()目的を達するのにこれは必要なことなのだ。そうだろう──《黒のアルベリヒ》よ」

 

「ええ、閣下。閣下もアーヤ・サイードを連れて来て頂き感謝します。──それではアーヤ。準備はいいかね?」

 

「……あっ、はーい、よろこんでー」

 

「なに、心配することはない。君の頑丈さなら耐えきれるだろうし、失敗したところでさして影響はない。成功すれば、より良い成果を献上できるというだけのことだ」

 

 ……………………で、なぜか私は《黒の工房》の本拠地で、オズボーン宰相に見守られながら《黒のアルベリヒ》の実験を受ける羽目になってるわけだけど……ほ、本当に大丈夫なんだよね? 言葉で確認出来ないから自然に確認を取ったけど分からない。オズボーン宰相もこれでいいって言ってるし、大丈夫だよね? 最終的には全部上手くいくように立ち回ってるわけだし。イシュメルガの意図で動いてるわけじゃないよね? まあ表面的にはイシュメルガの意図で動いてるんだろうけどその人外染みた無敵の頭脳でイシュメルガを嵌める逆転の罠を仕掛けてるんだよね? なんか久し振りに人体実験受けるんだけど? 大丈夫だと信じてあばばばばば。なんか変な感覚流れてきた。ちょ、ちょっとー!? 初めての感覚でなんか怖いんですけどー!? これ本当に大丈夫なの!? というか何してるの!? そもそも何のための実験なの!? 私何されてるの!? いやまあ耐えられるし目的が全部救うことなら良いけどさ! 教えられないのも分かるけどやっぱ私的には痛いし怖いから教えてほしいんですけど! というか《黒のアルベリヒ》の変態野郎! 私の身体をいじくるなんてやっぱりお前も教団の同類か! 人造人間とはいえ沢山の子供たちを犠牲にしてミリアムちゃんやアルティナちゃんも使い捨てようとしてるし! 全部終わる時には消滅させてや──「調整は終了だ」──あ、もう終わったの? 早くない? マジで何したの? 本当にピッチリスーツにして私の身体に霊的に干渉しただけじゃないよね? というか霊的な存在からの霊的な干渉ってもはや痴漢だしレ◯プも同然では? くそう、やっぱり許せないぞ、黒の怨霊め……肉体はアリサのお父さんとはいえ許すまじ……いつか地獄の断頭台決めてやる……。

 

「調子は如何かね?」

 

「はぁ、別に変わりはないですけど……」

 

「よろしい。ではこちらに来て、これを起動してみてくれたまえ」

 

「起動? 起動って何を起動……………………へ?

 

 私は《黒のアルベリヒ》の言われるがままに移動して魔法陣みたいな場所に鎮座していた()()()()()()()()()()()()面食らう。

 久し振りに、かなり驚いた。え? 本当にこれを? 私が? できらぁ! ──いや、できないよ? 本当にやるの? 

 

「いや、これって……」

 

「とにかく試してみたまえ。私の計算だとそれは既に君の奇蹟とも称される血液によって侵食されている。選別を行う思考システムにも影響があるゆえ、おそらくは起動できるはずだ」

 

「はぁ……まあ試すだけなら」

 

 どうせ無理だけど、と心の中だけで言う。だって無理でしょ。他ならともかく、この騎神は明確に起動者が決まってて──「お前、は……? 私の……起動者か……?」……………………………………………………え? 

 

「ククク……ハハハ……! ハハハハハハ……!!」

 

 そこで結果を見たアルベリヒは唐突に高笑いを行った。耐えきれないって感じで。感極まったんだろうね。主に良い成果を出せて……いや、え? どういうこと? これ何のドッキリ? 嘘だよね? 

 

「ククク……! どうですか我が主よ!? 実験は成功です! 主が見込んだ通りアーヤ・サイードの血液を取り込んだ《緋の騎神》はアルノール家との契約という制約すら乗り越え!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「フフ、やはりか」

 

 ──え、いや、やはりか、じゃなくて。嘘でしょ? なんで私が──《緋の騎神》テスタ=ロッサの起動者(ライザー)になってるの? これってアルノールの血を、それも本流じゃないと起動者になれないんでしょ? カイエン公も無理だったしさ。それで起動者はセドリックくんっていうオリビエの弟でアルフィン皇女の双子の弟になるはずで……。

 

「ええ、これで想定とは少し異なりますが、より大きな力を得ることが叶うかと……」

 

「??」

 

「しかし本来予定していた起動者……いえ、現在も霊的な結びつきのある元起動者の方は如何しますか? お望みならば強制的に繋がりを切除し、元の衰弱状態に戻すことも可能ですが──それでは面倒なのでしょう?」

 

「ああ。今はまだ皇子殿下にも利用価値がある。完全にアーヤに馴染むまでは繋がりを保持し、踊ってもらうとしよう」

 

「クク……畏まりました。では皇子殿下には仮初の起動者として今暫くは力に酔わせておきましょう。尤も、完全に《黄昏》が成った暁には繋がりを切除したところで隷属から逃れることはおおよそ叶いませんが……その方が利用できるというものでしょう」

 

「ああ。皇子殿下には伝える必要はない。いずれ自ずと知ることになるだろう。代わりといってはなんだが──」

 

「──ではそのように致しましょう」

 

 え? 何? セドリックくん起動者解雇されるの? え、可哀想じゃない? 確かにこの後のセドリックくんってすっごい残念な感じになっちゃうけどさ。……いや、でもどうなんだろう。起動者にならない方がむしろ幸せになる可能性も……まあなんか目の前で黒幕2人が不穏な会話してるからそうはならなそうだけど──「さて、アーヤよ」──はいぃぃ! なんでしょう!? 

 

「えっと、閣下? これは……」

 

「フフ、既に気づいているだろう。お前は《紅き終焉の魔王》の元となった《緋の騎神》テスタ=ロッサの起動者に選ばれたのだ。その役目については、自然と理解できるだろう」

 

「は、はぁ。なるほど。それじゃ私は──「起動者よ。私は……どうなっている?」──うわぁ!? びっくりしたぁ! 急に喋るなぁー!」

 

「どうやら思考システムも復活しているようだね。力と呪いに関しては()()()()()()()()()()()()()()……アーヤ・サイードであればそれも問題なく扱えるでしょう」

 

「え? 力と呪いが強化? 怖いんですけど……」

 

「喜ぶといい、《血染の裁縫師》殿。君は今、この《緋の騎神》という絶大な力を手に入れたのだ。故に時が来るまでは精々研鑽に務めるといい。やるべきことは()()()()()()()()()()()()()

 

「今暫くはトールズ第Ⅱ分校で。結社《身喰らう蛇》で。その牙を研ぎ澄ましながら役目を全うするといい。また何か頼み事があれば連絡させてもらう」

 

「は、はぁ……じゃあもう帰っていいんですか?」

 

「騎神はきちんと持って帰りたまえよ。他と同じように姿を隠す機能もある。普段はそれを用いて存在を隠すことをおすすめするがね」

 

「あっはい……わかりました。それじゃ上がりますね。お疲れ様でーす……」

 

 私は後ろをちらちらと見ながら小走りで緋の騎神に近づく。ふー……今日のバイトは疲れたなー。早く帰って風呂にでも入って深夜ラジオでも聞きながらゆっくりと趣味の服作りでもしようかなー。なーんて……言えるわけないよー!! うわああああああああん!!? ななななんで!? 《緋の騎神》テスタ=ロッサ!? 《七の騎神》の1つ!? アルノール家にしか起動できないはずの騎神がなんで私に!? なんか私の血が影響してるとか色々言ってたけどどういうこと!? もしかして煌魔城でカイエン公がなぜか持ってたAS薬っぽいあれのせい!? だとしても私が乗れるの意味不明だけどね! 起動者の試練どうした!? いつの間にクリアしたの!? しかもテスタ=ロッサって汚染されてて喋れないんじゃなかったっけ!? なんか普通に自我取り戻してない!? 色々すごいことになってるんだけど!? うわーん!! 

 

 私は内心で喚きながらこれをどうするべきか頭を悩ませる。こ、これを手に入れたってことは私も《相克》に参加するってこと? え、普通に嫌なんだけど……どうしたらいい? 今からでも返せないかな? 無理だよね。後ろで黒幕フェイスしてる2人が見てるし。ど、どうしよう……とりあえず持って帰るしかないか……小声でテスタ=ロッサに話しかけてみようかな……。

 

「えーっと……テスタ=ロッサ?」

 

「──何用だ、《起動者》よ。もう口を開いても構わないのか?」

 

 ………………その言葉を聞いて身体がピクッと動いてしまう。

 

「ふむ……未だ事態は完全には飲み込めぬが……どうやら我が身を蝕んでいた暗黒竜の呪いは貴殿の内にある力によって変異……いや、混ざりあったことで塗り替えられたようだな。それにより我が意識も長き呪縛から解放されたようだ。同時に調停者アルノール家の者に力を貸すという我が役目に沿った起動者ではなく貴殿が選ばれたこと……それについては複雑な思いはあるが……暗黒竜の呪いからの解放は貴殿の力がなければ不可能だっただろう。重ねて感謝する、起動者よ」

 

「……………………」

 

「……? どうした我が起動者よ。貴殿の名前はなんと言う? ……それと貴殿を見ていると、何やら散々何かをされたかのような憤りを思い出すのだが……もしや私が呪いに汚染されている間に貴殿が私に何か──」

 

 あっ、まずいまずい。それについては思い出させない方向でいこう。と、とりあえずだ。ちょっとその、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──

 

「と、とにかく理解はしたよ。私が起動者ってことでいいんだよね?」

 

「……ああ。どうやら契約の仕方は特殊なものだったようだが……こうなっては否応もないだろう。呪いからの解放という恩義もある。アルノールの末裔ではないようだが……私自身の意思でも貴殿を起動者とすることに異存はない」

 

「……………………そ、それじゃ私のことはアーヤ。アーヤ・サイードって名前ね」

 

「アーヤ、か。うむ、記憶した。ではアーヤよ──」

 

「あ、でも起動者って呼んでくれてもいいよ! むしろそう呼んでくれた方が嬉し──なんか相応しいし!」

 

「……了解した。我が起動者よ」

 

「そ、それでいいよ! それじゃあまずは──」

 

「うむ。ではこれからのことを──」

 

 そうして私は緋の騎神テスタ=ロッサに乗り込んだ。そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は……()()()

 

「うわああああああああああああい!! 私の専用機! 私の専用機だ──!! 嬉しいぃー!! テンションあっがるぅー!!」

 

「……うむ。起動者よ。高揚するのも良いだろう。操縦が上手いのも良いのだが……まずは落ち着いてこれからのことを──」

 

「イェイイェイ! 実はずっと専用機ほしかったんだよねー! 騎神もちょっとアレだけどロマンだよね! ふっふー! 緋の騎神ゲットー! やったー! ばんざーい! ばんざーい!」

 

「……………………であれば落ち着いてからでもよいが……」

 

「話なら後でいっぱいしようね! 自我のある専用機と友情を育むぞー! うおおおー! 私が最強! 私が最強! 私が……騎神だ!!」

 

「いや、貴殿は起動者であって騎神は私なのだが……」

 

「とにかくさいっこー! いえーい! 空飛ぶの気持ちいいー!」

 

 ──私は過去最高のテンションで空を飛んだ。もちろん《緋の騎神》テスタ=ロッサに乗って。

 

 でも一応ちゃんとステルス状態でね。それが気持ち良すぎてやばいー! 起動者って呼ばれるのテンション上がるー! 機甲兵に初めて乗った時も感動してテンション爆上がりだったけど騎神はもっとあっがるー! ロマンだよね! 専用機! しかもまさかあの騎神に乗れるなんて夢にも思わなかったよ! 後のことを考えるとヤバそうだけど今はまだ少年心とそこから来る嬉しさが勝つー! このまま世界中の紛争地に出没して戦争を終わらせてやるー! 無理だけどー! それができるって思えるくらいにはテンションあっがるー! 《千の武器を持つ魔人》だぞー! かっこいいぞー! アルベリヒとオズボーン閣下ありがとー! アルベリヒはいずれ消滅させてやるけどー! 今だけは大感謝ー! 

 

 そして私はその日、《緋の騎神》テスタ=ロッサの起動者になり、空を飛んで爆速でリーヴスに帰る──前に人気のない場所で徹夜でテスタ=ロッサの試運転をして楽しんでからリーヴスに帰った。しかも今日は初の機甲兵教練の日だ! 量産機で生徒たちを鍛える日だ! ふっふっふっ……ま、専用機持ちの私がいっちょ揉んでやりますよ。専用機持ちの私がね。ふふふ……見るかい? 私のテスタ=ロッサを……。いや、見せたら駄目だけど見せたーい! 自慢したーい! このテンションが上がってる内にー! わーい! とりあえず機甲兵教練と週末の特別演習頑張るぞー! おー! これからよろしくね! テスタ=ロッサ!




今回はここまで。黒のイシュメルガのオリチャー(ルート指示:ギリアス・オズボーン)が発動してます。きっとより強い《鋼》になれるんやろなぁ……。
次回はハーメルでハチャメチャです。お楽しみに。

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