TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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緋の騎神で戦う不幸

 ──長い夢を見ていたかのようだった。

 

 目覚めた時、私は自らの状況を正確に理解できなかった。

 目の前にいたのは悪しき気配を漂わせる男が1人。同じく懐かしさを感じる呪い染みた何かを宿した男が1人。

 そして我が起動者となったであろう褐色肌の少女であった。

 

 そう──私の名はテスタ=ロッサ。

 

 緋の騎神と呼ばれる鋼。かつては調停者アルノール家の者に力を貸してきた騎神の1つ。

 ……だが目の前にいた少女はアルノールの者ではなかった。

 それどころか帝国人ですらない。おそらくは異国の、ノルドの民の祖先に近い場所から来た者であろうと。それが私が正気でない間に起動者となった。目が覚めてしばらくして私はその事実を把握する。

 

 しかし不可解だった。思い出してみてもおかしい。

 私は緋の騎神テスタ=ロッサ。その起動者の選定には、調停者アルノールの者を必ず選んできた。

 如何に私がかの暗黒竜の戦いで呪われ、正気を失っていたとしても思考フレームが消えたわけではない。起動者の選別においてアルノール家の者を選ぶという条件は変わっていなかった筈だ。

 だがその条件を満たさない者が起動者に選ばれた。その理由はすぐにわかった。

 我が身に降り掛かった暗黒竜の呪い。それが、目の前のアーヤ・サイードの身に秘める力によって変異し、私とリンクしている。

 暗黒竜の呪いは既に別の何かと混ざり合い、その繋がりを断ち切られていた。同時に、私に降り掛かっていたアーヤ・サイードの力が私の力を高めている。

 その繋がりが私を暗黒竜の呪いと魔王となっていた意識から解放し、アーヤ・サイードを起動者に選ぶことになったのだろう。契約に当たっては導き手……おそらくはあの悪しき者が担ったのであろうが……本来であれば私がアルノール家以外の者を起動者に選ぶことはなかったはずだ。

 

 だがそれでも私はそのアーヤ・サイードを起動者として選んだ。呪いから解放してもらった恩もある。代わりに別の力を宿してしまったことは思うところもあるが……それも許容範囲だろう。私の、騎神という本質が変わったわけではない。

 故にアーヤ・サイードを我が起動者と認め、私は帝国の空へと翔けた。……正気のままこうして飛ぶのは何時振りであろうか。それもこれも新たな起動者のおかげだろう。少々、変なところもあるものの──

 

「うおおおおお!! できたー!! 超級覇王電影弾!! 回転がちょっと足りない気がするけどこれで十分だよね! インパクトだけは十分だし一発芸としては使えそう! フィギュアスケートで回転のコツ理解しといて良かったー!」

 

 ……いや、少々どころではないかもしれん。私の新たな起動者は、かなり変な人間であった。

 

 あれから4日程が経ったが、アーヤはそれから毎日のように夜中になると住んでいる場所を抜け出してこのように私の操縦技術を高めようと研鑽に努めている。それは私にとっても喜ばしいことではあるのだが……それを一睡もせずに4日連続で続けているのと、時折戯れと言うべきか、何かの必殺技の練習に明け暮れるのはどう評価して良いものか……。

 

「よーし! 次は真面目な必殺技の練習もしようか! テスタ=ロッサ! 私のいつもの得物出して!」

 

「……了解した」

 

 ……とはいえ我が起動者、アーヤはよくやっている──いや、むしろかなり優れた起動者だろう。

 アーヤと出会って僅か数日ではあるが、アーヤには優れた能力が3つ存在することがわかった。

 1つは『裁縫技術』。この数日で戦闘訓練だけでなくアーヤの話を幾つも聞いたが、どうやら彼女の本職は服飾の職人であるという。

 日中はトールズ第Ⅱ分校という場所。ドライケルス大帝というアルノール家の者が220年ほど前に設立したという学び舎の分校に勤務し、若者を教え導いているという。うむ、それは立派な行いだと私は思った。

 だがどういう訳なのか、アーヤはオートクチュールの職人であり、結社と呼ばれる犯罪組織の執行者というものであり、暗殺者でもあり、帝国に雇われた軍人でもあり、最近は導力げーむやらすけーとりんくやら飲食店を経営したりと色々と行っているという。……意味が分からぬ。なぜそれだけの仕事を兼任しているのか。それとも今の世の常識がこうなのか? 今代のアルノール家は一体どういう治世を布いているのだろうか……。

 今の帝国の在り方がやや気になりはしたものの、しかしそれでもアーヤの精力さ、体力は常軌を逸していると言えるだろう。それだけの役目を果たしながら本業も毎日のように行っている。一度見せてもらったが、確かに見事な手並みであった。速度も正確性も芸術性も全てが完璧であった。

 

 そしてその裁縫技術は2つ目の優れた能力──『暗殺』においても有用なのであろう。

 アーヤは強い。暗殺者としてはもちろんのこと、生身の戦闘技術においてかなりの強さを持っているのを感じる。アーヤ自身は「これくらい普通だよ~」と言っていたが、さすがに過小評価が過ぎるであろう。私の記憶に微かにある歴代の起動者の中でも最も強い起動者だ。

 とはいえ上には上がいるのも事実であろうが……それでも暗殺においてアーヤの右に並ぶ者がいるとは考えにくい。気配の消し方。身のこなし。暗器の扱い。全てが達人といえる。

 それに加えてアーヤには身に秘めた力がある。その尋常ではない硬さ。霊的な干渉すら弾いてしまうその異能は私も全ては理解できぬが、起動者として繋がったことで僅かではあるが得心がいった。呪いが効かぬ理由も、私が新たな力を獲得した理由も、アーヤの力があるからこそであると。

 

 異能や霊的な干渉はアーヤには殆ど効果がなく、直接刃を交える戦闘においては暗殺者として鍛えられたその強さを遺憾なく発揮し、敵を排除する。……アーヤと敵対する者はさぞやりにくいであろうな。正面からの戦闘も不得手ではなく、奇襲や不意打ちを極めている暗殺者と言うのがこれほどとは。アーヤが善良であって良かったと言えるだろう。

 

 そしてその生身での強さは3つ目の優れた能力にも通じる。アーヤの騎神の『操縦技術』は、歴代起動者と比べてもかなりの才能を感じさせた。

 そもそも我ら騎神を動かすに当たって必要なのは騎神と同調する精度と、生身における身のこなし。そして、判断力だ。

 現代においては我ら騎神を模した機甲兵なる機体が量産されているとアーヤから聞いたが、それらの機体は幾つもの物理的な操作が必要な物だという。

 操縦者とある程度同調し、操縦を補佐する機能も備わっていると聞くが……それでも我ら程ではないだろう。

 騎神の操縦は起動者が騎神と完全に同調した上で行う。つまるところ私がアーヤの意思に合わせ、動きを完全に再現するのだ。

 無論慣らしは必要であり、研鑽を積めば積むほどに動きは優れたものになっていくが……それはほぼ誤差と言っていいだろう。アーヤのように無茶な動きを繰り返すのでなければ騎神は起動者の動きをその意思や癖を汲み取って完全に再現してみせる。先ほどのアーヤの動きですら誤差程度の違いしか生み出さなかった。……尤もその誤差が技を再現するに当たって必要なことと理解し、完全に再現するには少しばかり時間を要したが……それでもすぐに再現は叶った。

 先ほども挙げたようにアーヤの生身の暗殺技術とその身のこなしは達人と言っていいものだ。それゆえ私はアーヤの奇襲や不意打ち、そして相手の急所や弱点、死角を正確に狙い撃つその戦闘スタイルに完全に適応した。

 私の武器を作り出す能力もアーヤとは相性が良い。アーヤの得物は変形機構があり、剣にも双剣にもなり得る巨大な鋏。そして針と糸である。

 故に私はアーヤの意思に沿ってその武器を再現して生み出した。アーヤの使う《ゾルフシャマール》の名が冠された《外》の武器に似た紅く巨大な鋏。

 その名は魔鋏サーシェス。なぜこの名を浮かんだかは私にも分からない。おそらくアーヤの意思と私の思考フレームが同調し、自然とその名を冠したものであろう。他にも魔針アリーと魔糸アルを新たに作り出し、アーヤの戦闘スタイルを完全に再現した。

 アーヤは幼い頃から様々な得物を試してきたため、私の作り出す武器の数々を扱うのも苦労しなかった。さすがにその熟練度の差はあるが不足はない。それらを用い、アーヤは攻撃の気配を消し、素早い動きで相手に接近し、的確に急所を狙い撃つ。私の起動者であったアルノール家の者が扱う騎士剣術のような正道のものではないため、私にとっても新鮮な気持ちであった。

 

 そして、それゆえに強い。私の武器を生み出す力とアーヤの暗殺技術の相性が極めて良いからだろう。アーヤの判断力も的確だ。どこか臆病な部分を持ち合わせているがゆえに、戦いにおけるアーヤの判断にはおおよそ間違いはないのであろう。

 加えてアーヤの力を浴びたことによる力の増幅もある。かつて()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()使()()()()、器用かつ面妖な技を幾つか獲得した。そのため今の私の力は他の騎神と比べてもかなりの強さを持つであろう。未だ記憶は幾つか抜け落ちたままではあるが……いずれ時が来ればある程度は思い出すであろうという予感はある。それほど気に揉むことではない。

 

「ねえテスタ=ロッサ! 騎神ってお腹空かないの? 夜食作るけどいらない? ミートソーススパゲティなんだけど」

 

「騎神に食事は不要だ。……それとそのトマトを見ると何やら……ヒトで言うところの頭痛のようなものを感じるのだが……起動者よ。何か心当たりはないか?」

 

「や、やっぱペペロンチーノにしとこっかなー。トマトはまた別の日に使おーっと……」

 

 ……そしてアーヤを見ていると魔王であった時に何か無茶苦茶にされたような気がするのだが……まあ、多くは問うまい。元はと言えば私が魔王に成り下がってしまったのが原因だ。私にとって一生の不覚と言うべき事柄だろう。むしろ責められるべきは私の方だ。

 

 むしろアーヤには感謝しかない。私に降り掛かった呪いを解放してくれたのだ。起動者としても申し分ない。

 その生い立ちは筆舌に尽くし難い程に不幸なものであったようだが……それゆえに裏に生きることになり、それでもなお懸命に生きている。暗殺者であるという事実も些末な事であろう。人の世の全てを正道で治めることは叶わない。ともすれば私が力を貸してきた歴代の起動者、この地の王であったアルノール家の者達は暗殺者よりもよっぽど罪深い判断を行ってきたこともある。

 そして何であれ、我ら騎神は起動者と共に往くのみ。アーヤの意思と判断に全てを委ねることが今の私が為すべき使命だ。

 その起動者が好ましい者であったのは女神の導きだろう。強いて悩みがあるとすれば……

 

『はぁ~~~……ぺっ。オラ新入り。食事だってよ。焼きそばパンとフルーツ牛乳買ってこいよ』

 

「……………………」

 

 ──アーヤの側にいる人形、《エクス=マキナ》なる者に何やら目の敵にされていることだ。

 

 アーヤが私の起動者になったことで何やら思うところがある様なのだが……それからほぼ毎日このように睨まれ、不遜な態度を取られ、所謂、パシリというものを強要されている。

 

『返事はどうした新入りィ!?』

 

「……起動者無しでもある程度の自立行動も起動者が命じれば不可能ではないとはいえ、起動者無しでそれだけの精密な動作、そして街での買い物を行うのは様々な理由から不可能と判断する。そも今の時間は店は全て閉まっているのではないか?」

 

『はぁ~~~? そんなの私には関係ありませんけど~~~? まあ私は食事も必要ないとはいえ形だけは出来ますし? 見た目も人間に近いから買い物も出来ますし? ただ強くてデカいだけの騎神様にはそんなことできませんよねェ~~~?』

 

「確かに私には不可能だが……」

 

 それを理解しているのであればそれほど対抗心を燃やす必要はないと思うのだが……しかしここで口答えをしても火に油を注ぐ、というものだろう。返答は程々に、気が済むのを待つのが良いと私は判断する。そうして時間が経てば──

 

『大体後からやってきたくせにこの私を差し置いてマスターに気に入られるなんて許せんよなァ~~~? 本当なら私の更なるアップデートと追加兵装によって《エクス=マキナ》から《デウス=エクス=マキナ》って専用魔煌機兵になる筈だったってのによォ~~~……それをぽっと出の騎神が──』

 

「──よーし、完成! アーヤちゃん特製山の幸贅沢盛りペペロンチーノ! HPとEPも全開だ!」

 

『食器の用意は出来ていますマスター』

 

「……………………」

 

 ……うむ。いつ見ても見事な取り繕いであるな。

 それと機械の身でこれほどの個性を獲得しているとは……技術の進歩にも目覚ましいものがある。私の調整を行ったであろうかの者たちは明らかな悪しき気配を漂わせてはいたが……それでも技術は確かなものだ。

 

「待たせてごめんね~。テスタ=ロッサにマキナは仲良くお話でもしてたの?」

 

『はい。勿論仲良しでしたよ。そうですよね?』

 

 ……マキナの視線には「てめぇ、チクったらどうなるかわかってんだろうな?」という意が言外に読み取れた。

 別に告げ口を行っても良いのだが、不和は私も望むところではない。それに差して気になることをされた訳でもないため、その言葉に頷いておく。

 

「……うむ。特に問題はない」

 

「そっかそっか。やっぱ相性が良いんだね! 私としても人形に巨大な人型兵器が並んでるとテンションあがるし、これからも仲良くね!」

 

『了解しました』

 

「承知した」

 

 我々の言葉に満足したアーヤはそのまま美味しそうにパスタを食べ始めた。

 そしてそれを私は時折投げかけられる言葉に応えながら見守る。マキナなる人形も同じであったが……ふむ。やはりこうして感じ取ってもマキナにはアーヤと同調しているがゆえに害意を感じない。

 かの悪しき工房の者達が作り上げた……いや、改造したものと聞いてはいたが、既にその呪いは私と同じく降り掛かっているように見えて()()()()()()()()()()()()()()()

 つまり、縛られることなく自由に行動することができる。このマキナも、私も、アーヤも。

 私も全てを思い出したわけではないが、アーヤの力とあの場にいたおかげである程度は思い出した。──かの《鉄血宰相》なる人物が駆る騎神……あの《黒》こそが多くの悲劇を招いた理由の1つであるのだと。

 そしてかの《黒の工房》の人間はおそらくは《黒》の傀儡であろう。《黒》の目的のために動いている。故に私とアーヤを結びつけた。

 アーヤもまたそれを知っている。だが、無自覚に呪いを跳ね除けている。そして《黒》の陣営はそのことにおそらく気づいていない。

 アーヤと繋がる私でさえ、それに気づいたのはつい先日のこと。外部から見た時に呪いの力が強まって見えているのも理解した。実際は呪いは既に効力を発揮しておらず、得たものはアーヤの中にある力のみ。……もっとも、それを“呪い”と解釈することも()()()()()()()()()()()()()()()()()……本質は違う。その力の性質故に、おそらく《黒》の者達は誤解しているのやもしれぬ。

 あるいは誤解しているのは力だけであったとしても、《黒》がアーヤの力を取り込むことができるかどうかは……良くて半々、と言ったところか。私も全てを思い出した訳ではない。あるいは全てを得ることが出来たのであればアーヤの方が分が悪いのかも知れぬ。《黒》は今の私以上にアーヤの力がどういうものなのか理解しているだろう。それも正確なところは分からぬが……。

 

 ……だがいずれにせよやるべきことは変わらないか。助言はしてもどうすべきか決めるのは起動者──すなわちアーヤの意思に依るものだ。

 とはいえ《相克》に挑む必要があるのは変わらないが……その過程に関してはどう戦おうが自由だ。

 

「ご馳走様でした! さーて、それじゃ次は何しよっかなー。テスタ=ロッサに乗ったままアイドルダンスとか踊ってみよっかな。どう思う?」

 

「……あいどるだんすというのがどういうものかは知らぬが……まあ好きにすると良い。起動者たる貴殿の意思に私は従おう」

 

「さっすがー! テスタ=ロッサは話がわかるね! それじゃミュージックスタート! 曲の選別は任せたよマキナ!」

 

『了解しましたマスター。それではまず『可愛くてごめん』でいきましょう』

 

「オッケー! 私の振り付けを見せてやる!」

 

「……あまり無茶な動きをすると周囲の木々を倒してしまうぞ」

 

「そこは気をつけるからへーきへーき! よーし、やるぞー!」

 

 ……とはいえこのような過程は私も《黒》も想像し得なかっただろう。

 人から見ればアーヤのこの言動は常識外れであり、おかしなもの。あるいは狂ったようなものであるように見えるだろうが……いや、私もおかしいものではあると思っているが、それでも悪くは思っていない。本来、ヒトの営みの中で行われる物事はこのような下らない平和的なものが望ましいからだ。

 

 かつて私と共に暗黒竜に挑んだヘクトルもまた、世がそうあるように願っていた。

 

 私が何故調停者アルノールの一族を起動者として選ぶようになったのかは思い出せない。

 だが、その役目に私が敬意を払っていることは確かであった。

 

 ──そしてまた、同じようにヒトを救おうと密かに動いている者が私の起動者となった。

 

 であれば力を貸さない理由はない。起動者に従うというシステムだけではなく、私の思考フレームもまたそう判断した。

 アーヤはどうやら闇側に在りながら他者を助けることを主としているらしいが、ならば私もそれに倣おう。

 問題はない。私はかつて《紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァーミリオン)》でもあった《緋の騎神》テスタ=ロッサ。

 我が起動者が望むのであれば正義であれ悪もであれ、あらゆる障害を取り除く一助となるのみだ。

 

 

 

 

 

 ──どうも。《緋の騎神》テスタ=ロッサの起動者、アーヤ・サイードです。ふっふっふ……《緋》の起動者です……ふっふっふ、見るかい? 私のテスタ=ロッサを……ふぅ……なんかテンションがおかしい気がするけどもう4日くらいほぼ寝てないから仕方ないよね! 

 

 自由行動日に《黒の工房》に向かってそこで《緋の騎神》テスタ=ロッサと契約したわけだけどそれから私はひたすらにテスタ=ロッサを動かすことに夢中になった。勿論昼間はトールズ第Ⅱ分校の教官として働いてるから夜になってからね。ちゃんと次の日の機甲兵教練でも生徒を鍛えた。

 

「はい! いいよいいよー! 筋いいねゼシカちゃん! でも操作遅いよ! まだ自分の反応と機甲兵の操作のズレがあるね! でも仕方ない! これから頑張ろう! フレディくんも動きいいけどもっと思い切りよく動いてもいいよ! それこそ虫の如く! 蝶のように舞い蜂のように刺す! ……え? そんな動きができるのかって? 全然できるよ! それじゃ私がお手本見せてあげるね! はい、ジャーンプ! ──そして刺す! ほらできたでしょ? なんか駆動系にめちゃくちゃ負荷がかかった気がするけどそれもしょうがないよね! 整備の練習にもなるし!」

 

「しょうがないではないわ! この阿呆!」

 

 ──とまあこんな感じでね。最初の機甲兵教練なんで割と優しく、最初は1限目に操作とか基本設計とか武装の説明をして2限から4限は実際に機甲兵に乗って基本操作のテスト。筋が良い人から簡単に模擬戦をやって終わりって感じだった。生徒たちの中だと筋が良かったのはユウナちゃんにアッシュくん。後はレンが上手かったかな。他も結構良かった。苦手な人はこれから上手くなろうね! 

 

 そしてその日の業務が終わってご飯を食べて、軽く生徒たちを見回り、その日の服の納品を終わらせてからステルス状態のテスタ=ロッサに乗って人気のない森の奥とかで練習しまくった。それが楽しくて楽しくて。もういつまでも夢中で動かせる感じなんだよね。やっぱり機甲兵と騎神は違う。機甲兵だとさすがに機動に限界があったりするけど騎神は私の動きを完璧に再現してくれる! すごい! 強い! 多少の誤差も動かしてればすぐになくなる! 高性能だ! 

 

 しかも訓練しててわかったんだけどテスタ=ロッサって結構能力が便利だった。武器を作り出す能力で私の得物の鋏もちゃんと作り出してくれたし、糸や針も大丈夫だった! やっぱりすごいぞ! おかげで騎神に乗った状態でも違和感はあんまりない。むしろ騎神に守られてるから普段とは安心感が段違いだ。なんなら騎神に乗ってた方が思い切り良く戦える気がする。私のクラフトも問題なく使えたし、大型の魔獣とも試しに戦ってみたけど余裕だった! というかめっちゃ便利なんだよね! なんか強化されたせいか色々と強くなってるみたいでさ。テスタ=ロッサはこう言ってた。

 

「貴殿の力によって私は従来持っていた機能だけではなく、魔王であった頃の力も一部扱えるようになったようだ」

 

「えっ、魔王の力!? すごい! かっこいい! 具体的にはどんなことができるの!?」

 

「うむ。純粋な力は勿論のこと、紅い影を操り、起動者である貴殿に話しかけることができる。そうすれば貴殿が見聞きしたものを私も見聞きすることが叶うだろう」

 

「どこでもテスタ=ロッサだ! 助かる! 他には他には!?」

 

「この帝国の地に限り、霊脈を活性化させてかの煌魔城顕現時と似たような状況を一時的に作り出すことができる」

 

「ん? それって……どうなるの?」

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。おそらくはある程度操ることもできるはずだ」

 

「……えっ。強くない? すごい! さすがは元魔王様! めちゃくちゃ便利じゃん!」

 

「ああ。だが、あまり多用することはおすすめしない。そもそも数体の魔煌兵を召喚するよりも私を直接駆って戦う方が強いだろう」

 

「それはそうだろうけどロマンではあるよね! 魔煌兵は怖かったけど操れるならいざって時も助かるし!」

 

「うむ。いざという時は力になるであろうな。元より貴殿のやることに異を唱えるつもりはない。好きにするといい」

 

「そう? でもなんかあったら全然言ってくれていいからね! 騎神と起動者とはいえもう友達みたいなもんだし、無礼講でレッツゴー!」

 

「…………そうか。では、善処するとしよう」

 

「うんうん! コミュニケーションは大事だからね!」

 

 ──と、こんな次第だ。なんでも私の血を取り込んだ結果、色々できるようになったらしい。めっちゃ便利! イシュメルガの精神体みたいな感じで紅い影を使って私の側に控えるみたいなこともできる! 他の人には見えない! 便利! でも触手みたいな感じは気持ち悪いのでミニテスタ=ロッサって感じでデフォルメした感じで控えてもらうことにした。いつでも相談役みたいな感じでいい! 

 それと魔煌兵召喚ともあるけどまだ使ってないし、()()()()()()()()そっちはまだ企業秘密だ。いざって時はそれを使って……ふふ……格好良く、こう……みんなを助けるとか! かっこよく登場できたらいいよね! 想像するだけでもワクワクする! 

 

 なので訓練も楽しい。それにテスタ=ロッサとおしゃべりするのも楽しいんだよね。記憶は全部は取り戻せてないらしいけどそれでもヴァリマールくんと比べると結構憶えてるというか思い出したっぽくて色んな昔の話をしてくれる。それこそこれから特別演習で帝国南部サザーラント州の《白亜の旧都》セントアークに向かうことを告げると──

 

「セントアークか。懐かしいな」

 

「行ったことあるの?」

 

「うむ。私のかつての起動者、ヘクトルⅠ世の治世の時代はかのセントアークが帝国の都であった。今の都であるヘイムダルの地は暗黒竜に支配されていたからな」

 

「あっ、それ聞いたことあるある! 歴史で勉強した! そういえばテスタ=ロッサが暗黒竜を倒したんだったね!」

 

「ああ。……だが倒したというには些か始末が悪かったと言えよう。確かに私とヘクトルは暗黒竜の脅威を封じることに成功したが、代わりに今度は私が暗黒竜の返り血を浴び、呪われてしまった。そうして私は魔王となり、幾度となくこのエレボニアに住む多くの人々を苦しめた」

 

「あー……でもそれはほら、しょうがなくない?」

 

「暗黒竜の返り血を浴びてしまったことは痛恨の極みだ。それさえなければ、獅子戦役であのオルトロスに魔王として使われることも、カイエン公……クロワールに利用されることも──」

 

「ストップストップ! 暗い話はなしなし! 興味深いけど! 暗黒竜倒してくれただけみんな感謝してると思うから気にしなくていいと思うよ! それよりもそのヘクトルって人の話聞きたい!」

 

「……うむ。気遣い感謝する。──それでヘクトルの話であったか」

 

「うん教えて! 帝国でも有名だし興味ある! 今も機甲兵の名前にも使われてるんだよ? すごくない?」

 

「それは確かにな。かつて騎神を駆っていた男の名が、後世では騎神を模した兵器の名を冠しているとは。ヘクトルが知れば大笑いしていたであろうな」

 

「へぇ~。器が大きかったんだ」

 

「少なくとも私が見てきたアルノールの一族の中では傑物であった。私を初めて見た時も導き手であった魔女の長が止めるのも聞かずに直ぐ様私に乗り込み──」

 

 ……という感じで色々と話をした。まあ他の騎神と違って呪いに侵されてた期間の方が長いから思い出は多い方じゃなかったけどその分ヘクトルⅠ世の話はいっぱい聞けたね。それと一緒にいた《緋のローゼリア》って魔女の眷属の長の話も。まさかの知り合いだった。いや、そりゃそうか。うーん……ちょっと会わせて会話させたらどうなるのか気になる。でも教えるわけにはいかないしなぁ……そもそもどうやって会うのって話だし。

 というか教えられないのは魔女に限った話じゃないんだよね。あんまり考えないようにしてたけど結社とかにも教えてないし。ヴァイスラント決起軍側にも教えてない。ヴィータ姉さんやレーヴェも知らないし、リアンヌママとかも知らない。だって、教えたら何を言われるかわからなくて怖いし……そもそもアルベリヒとかいう変態怨霊が秘匿するように言ってたし……隠れて誰かに告げるにしてもレーヴェくらいかな。もし会えたら相談してもいいかもしれない。

 

 そういうことで私とテスタ=ロッサは大体いつも2人──いや、マキナも入れたら3人だけどマキナの方は他の仕事を任せたりしてるから2人の時も多いかな。なのでいっぱいお話したし、私のことも色々話した。騎神だから問題なく色々話せるね! 口も堅いし、というか他に話し相手いないし、それこそ相談相手にピッタリだ! 

 

 ──とまあ中々に楽しい時間を毎日過ごせてたんだけどね。それでも忙しくて悩ましい時間がやって来た。それが4月21日の金曜日。その日の夜に、ついにトールズ第Ⅱ分校の最初の特別演習。サザーラント州への特別演習の日がやって来た。

 

 生徒たちは特別車両であるデアフリンガー号に乗り込んでサザーラント州に向かう。各種装備や物資、機甲兵も忘れないようにね! おやつは300ミラまでだよ! 

 

 教官陣もオーレリア分校長とシュミットおじいちゃん以外は全員出動だ! ──まあ私はちょっと特殊なんですけどね。担任じゃないし、そもそも仕事を頼まれてるしで。演習には向かうけど、第Ⅱの教官として向かうわけじゃない。悩ましいところではあるんだけどね……今回は一応は結社側だ。表向きには。

 

「やっほー。デュバリィちゃん久し振りー」

 

「来ましたか。随分と遅い到着ですわね。待ち合わせ時間をどれだけ過ぎたと思ってますの?」

 

「ごめんごめん。ちょっと時間に余裕があると思って裁縫してたら遅くなっちゃった。──シャーリィちゃんも久し振り! 元気してたー?」

 

「アーヤ姉まで来たんだ。確か第Ⅱの教官してるって話じゃなかったっけ。こっちに付いちゃっていいんだ?」

 

「ん~……そこは本当に悩ましいんだけどね。ただまあ懸念事項もあるわけで……どっちにしろ相手にするのは私の場合は《黒の工房》の人たちだし、自由に動ける立場にいた方がいいかなーってね」

 

「なるほどねー。でもシャーリィたちが生徒相手に遊んじゃっていいの? 結構深く味見しちゃうかもよ?」

 

「まあ大丈夫じゃないかな。もしヤバかったらその時はその時で対応するし」

 

「へえ……? 結構自信あるんだ。それはまた興味が出てきちゃうなぁ……」

 

「あ、だからといって本気で殺しにいっちゃ駄目だからね!」

 

「はいはーい。わかってるよ。こっちのうるさい騎士さんもいることだしね」

 

「だ、誰がうるさい騎士ですか! 大体貴女たちナンバー持ちが好き勝手するから、わたくしが一々同行する羽目に……!」

 

「シャーリィちゃん《VM》やろー」

 

「いいけど手加減してよ? シャーリィはアーヤ姉ほど強くないんだからさ」

 

「わかってるって。──それじゃ私のターン! ドロー!」

 

「って、聞きなさいな!! 何をVMなんてやってますの!!」

 

「だってせっかくの休憩時間だし……」

 

「カードゲームは駄目か。──それじゃ別の方法で愉しんじゃおうかな♪」

 

「な……!? ──きゃああっ! ちょ、何を──あうんっ!?」

 

「うーん、小ぶりに見せかけてベルお嬢さんくらいはあるよね~。お仲間の2人やアーヤ姉に比べたら控えめかもしれないけどこれはこれで好きだなぁ♡」

 

「ちょ、ちょっと……! シャレになってないですわよ!? いい加減に──いやああッ!!?」

 

「──あはは、良い感触だったよ」

 

「はあはあ……この娘……あまりにフリーダム過ぎますわ……ううっ……お母様……マスタぁぁぁああっ……!」

 

「さあヒナドリクイーンがまずは駆け出した! 続く2番はヒナドリスカーレット! 更に後方にヒナドリテイオー! ヒナドリキセキ、ヒナドリペガサス! シャーリィちゃんはどれに賭ける!?」

 

「うーん、全部同じに見えるんだけどなぁ」

 

「って何をやってますの!? 友人が困っているのだから助けなさいな! 貴女は毎度ながら本当にフリーダムにも程がありますわよ!?」

 

「あぁん。せっかく近くに雛鳥が巣から落ちてたから巣に帰す前にレースしてたのに……」

 

「落ちすぎですわ!? 親鳥は何をしてますの!?」

 

 ──と、そういうわけでこの地に来てる結社メンバーの内の2人。毎度お馴染み鉄機隊筆頭隊士のデュバリィちゃんと執行者No.ⅩⅦ《紅の戦鬼》シャーリィちゃんと合流してちょっとだけ会話した。今日も3人は仲良し。シャーリィちゃんは背が伸びて大きくなったね! 相変わらず物騒だけど最近は割と前よりは良い子になってきてるから多分大丈夫だと思う! ……多分ね。

 まあでも言ったように、私が頼まれてるのは結社の実験の成功と《黒の工房》の相手とトールズ第Ⅱ分校の生徒を守ることだ。……相変わらず頼まれてることが多いなぁ……。

 ただとりあえず安心安全に実験を終わらせてしまえばいい。余計なことは誰にもさせない感じで。そこまで競合してないからマシな方だ。以前の貴族派と革新派の無茶振り合戦に比べたら全然マシ。

 ただ1つ嫌なのは、実験場所がハーメル村ってこと。サザーラント州は帝国南部で南側にはリベール王国があるから当然国境があるわけで、つまりハーメル村があるのはこのサザーラント州なんだよねぇ……はぁーあ。制作者鬼じゃない? ハーメル村の事件は闇深いのに何度も擦ってくるなんて……これじゃプレイヤーがまた悲しい気持ちになっちゃう! 

 

 ──まあ、いるかどうか分からないプレイヤーなんてものはどうでもいいとしてもだ。レーヴェ大好きな私としてはあまりハーメル村であれこれして欲しくないんだよね。普通に可哀想。レーヴェも怒っちゃうよ。それに私が加担してると思われたくない。いやほんとに。なんならそれが一番嫌かもしれない! 

 

 なのでどうにかこう……上手いことできないか考え中だ。とりあえずシャーリィちゃんとデュバリィちゃんとは一旦別れて様子見しながら考える。今頃リィンくん率いるⅦ組はセントアーク市内で特務活動を行ってることだろう。それからパルムにも行くだろうし、確か襲撃とかもあるんだっけ? それは見守るとして……それからここに来てる旧Ⅶ組と合流してハーメルに向かうとかそんな感じの流れだった気がする。違ったらごめん。この辺の話ってうろ覚えなんだよね。

 

 だから実験をやるならさっさとやって終わらせてほしい。できれば私が関わらない形で。それとちゃんと第Ⅱの生徒は守りたい。後は《黒の工房》に雇われてる《西風の旅団》を穏便に撃退する。……まあそんなやる気もないとは思うけどね。でも相手が相手なだけに怖い。だって相手は復活した《猟兵王》ルトガー・クラウゼルだよ? フィーちゃんの育ての親で大陸最強の猟兵団の1つ《西風》の旅団長だ。今でも憶えてる。私のことぼっこぼこにして罠に嵌めて捕まえてきた。ある程度戦えるようになってから捕まったのは初めてのことだったからかなり狼狽えたんだよね……そのルトガーさんが《紫の騎神》ゼクトールの起動者になってやって来てるとか怖すぎる……ルトガーさん自体はそこまで悪い人じゃないけど油断ならないし何してくるか読めないから怖いんだよなぁ……そういう意味じゃちょっとオジサンに近い。まああくまで猟兵としての怖さではあるけど。

 

 というかいっそ余計なことせずにじっとしてようかなとも思うけど……それはそれでただのサボりだから良くないし……どうしよう……明日までにどうするか考えないと……最低でも《西風》を襲撃して戦う素振りは見せないといけないし……かといってテスタ=ロッサは出せない。出したら「お前なんでそんなの持ってるの?」ってなるし……うわああああん!! どうすればいいんだー!? 

 

「……ってことなんだけどテスタ=ロッサは何か良い案ある?」

 

「……成程。こなすべき仕事については理解した。問題なのはその《猟兵王》とやらの襲撃……それをこなす自信がないのだな?」

 

「あの人めっちゃ勘良いし、抜け目ない人だから怖いんだよねー……それに部下のゼノとレオニダスもいるし……そっちも普通に強いんだよなー……」

 

「ふむ。理解した。であれば仲間に助力を乞うのはどうだろうか?」

 

「助力……助力ねー。デュバリィちゃんとシャーリィちゃんに手伝ってもらって……ああでもそのタイミングだと生徒たちに見られちゃうし……後が面倒くさい……できれば良い感じに立ち回って言い訳するためにも事前に西風の人たち相手にちょっとだけ戦ってすぐに戻れれば……それと優先度は低いけど実験もちゃんと成功させて……」

 

「……誰か頼れる者はいないのか? 人を雇うなども手だろう」

 

「うーん……部下もいるっちゃいるけど遠いし……それ以外だとちょっと……《西風》と戦えて口が硬くて理解があって私に優しくて深くは聞いてこないそんな人なんて──」

 

 テスタ=ロッサからの助言を聞いてもなお無理だと私は苦悩し続ける。そうして考えていたのだが……そんな時、ふと思いつく。しかも2人程思いついた。

 でもなぁ……1人は私としても是非一緒に協力して戦いたいし良い手かもしれないけど逆にちょっと悪い気がするし……かといってもう1人は近くに来ているかも分からない上にちょっと怖いし、経費が嵩みそうで……。

 でも雇うというか協力してもらうってのは良い手なんだよね。考えてみれば今まで1人でなんとかしようとしてたけど相手が相手でなおかつ信頼出来る人であれば協力するのも悪くない。

 

「…………そうだね」

 

「何か思いついたのか?」

 

「うん。ちょっと声かけてみようかな。一応2人に。どっちか1人でも来てくれれば御の字ってことで」

 

 私はマキナを呼び出して連絡を取ることにする。明日までに間に合うかなー。でもダメ元でやるだけいいよね。まずありえないけど2人とも来てくれたらもはや私なんていらないかもだし……そう考えたら結構良い手かも! 私って意外と頭脳派だし、やっぱ人を上手く使ってこそだよね! 私って社長だし! ってことで秘匿回線を使って連絡だ! もしこれで間に合わなかったり来てくれなかったら私1人で挑むことになるけどその時はその時で覚悟決めて上手くやればいいし! 楽できるかもしれないぞー! うおー! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そうして連絡を取り、事情を説明し、一方で交渉を行った次の日。

 

「っ……ずるいでほんま……! なんちゅう強さや……!」

 

「……音に聞こえし修羅の剣。それに()()()宿()()()()()()()()()……!」

 

 ──七耀暦1206年。4月23日。

 

 ハーメル廃道外れの森の中で、《西風の旅団》の連隊長である《罠使い》ゼノと《破壊獣》レオニダスの鋭い視線がこちらを射抜く。

 両者共に得物を構え、どこか不利を察している様子でありながら油断はせず戦意も衰えてない。そんな2人の間に立つ人も同じだ。

 

「ハハハ……! まいったぜ……! ちょいと挨拶代わりに来ただけのつもりだったんだが……まさかここでお前さんらとかち合うなんてな……!」

 

「……軽い気持ちでこの地を脅かしに来た、か。雇われの猟兵とはいえ、そのつもりであれば容赦はしない。ここは俺の──()()()()()()

 

 その相手──私の今回の標的の《猟兵王》ルトガー・クラウゼルは不敵な笑みを浮かべてこっちを見てる。それに応じたのは超絶かっこいい私の好きピ、《剣帝》レーヴェだ。

 結社と黒の工房がハーメルでドンパチしようとしてることを通信でチクったらレーヴェの方もその予感を感じ取っていたようで近くまで来ていたので合流して協力してくれることになった。さすレーヴェ。すごく頼りになる。

 だけどこっちにはもう1人頼りになる人がいた。それが私の左隣にいるもう1人の筋骨隆々とした赤毛の男性。

 

「俺としても運良く受けられた仕事でとんでもない大物と遭遇してしまうとは予想だにしなかったぞ。──まさか兄貴と相打ちになった筈の貴様が生きてここにいるとはな。一体どういう訳だ?」

 

「くく、《赤の戦鬼(オーガ・ロッソ)》……いや、今は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? お前さんが気になるのも当然だろうが、ちょっとばかし事情が複雑でな。悪いが答えは保留にさせてくれ」

 

 互いに武器を構えながら言葉を交わし合う。そのルトガーさんと同じく愉しそうな笑みで向かい合うのはまさかの《闘神》。現《赤い星座》の団長のシグムント・オルランドさんだ。

 昨日、ダメ元で以前に貰った連絡先に直接連絡したところ、近くまでシャーリィちゃんの控えるガレスさんら連隊を近くまで送ったところらしく、その上次に受ける予定の仕事がキャンセルになってしまったとかで空きがあった──なので私のポケットマネーで雇ってみたら普通に来てくれた。本当に雇えてびっくり。ちょっと怖いまである。でも頼もしい。てか宿敵の《西風の旅団》の、それも死んだはずのルトガーさんを見てすっごい興味がありそうだった。

 

「……保留、か。気になるところではあるが貴様がそう言うのであればたとえ死んでも()()口を割りはしないだろうな」

 

「ああ。だからついでに諦めてくれると助かるんだが……()()()()()()()()()()()()()()()

 

「当然だ。今の俺はこいつの私兵。雇い主の意向であれば主義や主張は関係ない。それが俺たち猟兵という生き物だろう?」

 

「くく……そうだな。つっても今のお前さんからは依頼主の意向なんかなくても牙を剥いてきそうな気迫を感じるぜ。──おまけにそっちの兄ちゃんも見逃してくれなさそうだしよ」

 

「……かつての《闘神》バルデル・オルランドと相打ちになって死んだ筈の《猟兵王》ルトガー・クラウゼル。貴様がどういう理由で生きて雇われているのかは知らないが、理由が何であれこの地を脅かす者を見逃す道理はない」

 

「ってこたぁ俺たちは《剣帝》に《闘神》。おまけに成長した伝説の暗殺者《血染の裁縫師》まで相手にしなきゃならねぇってことか。こいつは困った状況だな。どうするよ? ゼノ、レオ。なんか良い手ねぇか?」

 

「いやいや、無茶やろ……! さすがに不利やし良い手なんか浮かばへんて!」

 

「やれと命じらればやるが……どうする? 団長」

 

「さてなぁ……嬢ちゃんらが引き下がってくれねぇんならこっちもやるしかねぇが……」

 

 そうしてルトガーさんは不利を感じ取って頭を掻く。──あれ? もしかしてなんか良い感じに諦めてくれる? ルトガーさんとシグムントさんとレーヴェがそれぞれ一対一で戦うなら全然やるだろうけど3対3でこっちの方が戦力上だもんね? 私は最弱だけどさ。

 まあ諦めてくれるならそれはそれで良い。ここまで来て勝っちゃう危険性も感じたけど、まあ、ルトガーさんは不死者だし、他の2人はフィーちゃんのために生かしておけばなんとか──

 

「──雇い主からは止められちゃいるが、こっちにも事情があるんでな。悪いが()()()()使()()()()()突破させてもらうぜ?」

 

「え?」

 

「この気配は……」

 

「む……!」

 

 そうしてルトガーさんは得物を仕舞って手を伸ばし、それを呼び出した。

 

「──来な、ゼクトール」

 

「!!」

 

 ──途端に高まる霊力反応。

 空間が歪み、突如として目の前に現れるは紫色の機体。

 つまりそれは《紫の騎神》ゼクトールだ。起動者であるルトガー・クラウゼルが操る騎神の内の1つ。それにルトガーさんが乗り込んでしまい……。

 

「さて……どうするよ? せっかくだ、生身でも俺を止めてみるか?」

 

「機甲兵……ではないな。話に聞く騎神というものか」

 

「紫の騎神だと……? 一体どうなっている……?」

 

「そいつも今はノーコメントだ。──それじゃちょっとばかしやり合うとするか」

 

 そうして先ほどまでルトガーさんが持っていたバスターグレイブと同じような武装をゼクトールが取り出す。……え? 生身で騎神と? ってか騎神で生身に襲いかかってくるの? え? え? え? そ……それは駄目なんじゃないかな……だってほら、ゲームシステム的に……そりゃ魔煌兵や神機と生身で戦うことはあるけどさ。それもなんか勝てそう感があるからやるのであって……普通は空気読んでやめとくところじゃない? 大人気ないよ? 確かにレーヴェとシグムントさん2人にプラスアルファ要素の私がいればなんか微妙に勝負になりそう感はあるけどだとしても不利だしさ。向こうは《西風》の2人も残ってるし。騎神と生身の人間の戦いなんて本気出したい病のマクバーンくらいしかやりたがらないよ? そもそも成立しないだろうし。幾ら私でもあんな馬鹿でかい武器で殴られたら死にかねないし……。

 

 あ、でもルトガーさんなんだかんだ良い人だし、手加減してくれたり……それにレーヴェとシグムントさんも強いから私のこと守ってくれたり──

 

「それじゃまずはお前さんの成長から見せてもらうぜ……! “トールハンマー”!!」

 

 ──うわああああああああ!!? き、騎神のクラフトを生身の人間に打つなああああああ!!? こわいいいいいい!! 死ぬー!? 来てー!! テスタ=ロッサー!! 

 

「なっ……!?」

 

「こいつは……!」

 

「アーヤ……! まさか、お前まで……!?」

 

「驚いたな……聞いてなかったぜ……お前さんが──《緋の騎神》の起動者だったなんてな……!」

 

「……………………」

 

 …………はい。ということで、バレました。幸いなことに事情をある程度知る裏側の人間だけだけど、私が《緋の騎神》テスタ=ロッサの起動者であることが。

 

 私は頭を抱える。どうしよう……困ったなぁ……でもああしないとめちゃくちゃ痛い目に遭ってただろうし……仕方ないよね……でもこれでルトガーさんも引き下がって──うわああああああ!!? 斬り掛かってくるなー!!? まだ《相克》じゃないでしょーが!! このアホー! 雇い主に怒られろー! え? やり合ったら面白そうだと思って? 少しだけ? こ……この馬鹿やろー!! これだから猟兵って人はー!! 確かにちょっと騎神戦やってみたかったしなんか騎神に乗ったおかげで危ない目に遭う確率が減ったから段々ワクワクしてきてる自分がいるけどー! 本当にやる気!? 言っとくけどやるならたとえ《猟兵王》だろうと手加減しないからね! 私とテスタ=ロッサの強さを思い知れー! うおおおおおおおおおおお!!!




ということで今回はここまで。生身じゃない騎神に乗った状態だといつもより好戦的になるアーヤちゃんでした。シグムントさんとレーヴェも《緋》の陣営で参戦です。
次回はなんやかんやでハーメルで実験が成功して騎神戦が始まって神機が爆発してハーメルで盆踊りしてレンがツッコミを入れてレーヴェとアッシュが意味深でアーヤちゃんが叫びます。お楽しみに。

感想、評価、良ければよろしくお願いします。
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