TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

106 / 138
クロスベルの誇りが失われる不幸

 ──僕が最初に抱いたアーヤ教官への印象は、本当にこの人が……? というものだった。

 

 というのも僕はこのトールズ士官学院第Ⅱ分校へ入学する以前からこのアーヤ・サイードという人のことを知っていた。僕の父であるマテウス・ヴァンダールや兄のミュラー・ヴァンダール。その2人から話に聞いていたからだ。

 そしてその話によれば、どちらもアーヤ教官に遅れを取ったという。

 兄はリベールで。父はバルフレイム宮で。もっとも兄の方は複数人で戦ったことがあるというだけでそこまで深く関わったわけではないようだったし、父の方も話したことはなく一対一で戦って逃げられたというだけのことだ。

 そう、たったそれだけのことだというのに、僕が尊敬する2人からの評価はかなり高かった。

 曰く、「もし奴に奇襲を仕掛けられることがあれば俺自身の命を使ってもオリビエの奴を守り切ることは難しいかもしれん」と兄は言い、父は「道を定めていなかったのであればヴァンダールの門下へ入るよう誘っていたかもしれん」と、してやられた敵であるにも関わらずそう言っていた。

 その評価や口ぶりから、おそらくその人物は人格的に悪い人ではないのだろうと自分なりに分析した。ただ政争の結果、父はオズボーン宰相や貴族派に雇われたアーヤ教官によって襲撃され、それが一因ともなり皇族守護職を追いやられただけなのだと。

 ……正直、それを聞いても僕は納得できなかったが、父や兄が納得している以上、どうすることもできない。複雑な思いを抱えつつも、同時に疑ってもいた。本当に父相手に奇襲を成功させるほどの暗殺者など存在するのかと。

 そして仮に存在するのであればそれが人格に問題なく、誰もがその人物を認めているというのは、一体どういうことなのかと。聞いた話によれば暗殺者といっても事情のある人物らしく、悪人ではないということだ。その証拠と言うべきか、帝国軍情報局にも所属している列記とした軍人でもあるし、トールズ本校の教官も務めていた。信用がない人物にはそれだけの任を与えることはない。

 だから僕は最初、トールズ第Ⅱ分校の教官として出向しているアーヤ教官を認識し、その強さと人格とやらを見極めてみることにした。

 もっともあの有名な《灰色の騎士》。僕が所属することになったⅦ組特務科の担任教官、リィン・シュバルツァーの方が興味としては上ではあるものの、実力という意味ではリィン教官よりもアーヤ教官の方が上手だろう。そういう意味じゃやはりアーヤ教官の方も注目に値すると──

 

「──でさーミントちゃん。私的にはホーミングミサイルとか宙を浮かぶビット兵器とかファンネル? もいいと思うんだよね。無骨なかっこよさで言うならパイルバンカーとかもいいけどさ」

 

「あー確かに良さそう! せっかくだしちょっと試してみたいかも!」

 

「見てみたい見てみたい! ほら、こっちのドラッケンに装備してみようよ!」

 

「オッケー! って、うわー!? 火が出ちゃった!? みずみずー!」

 

「私に任せて! ──あ、これ油だった。あっぶなー……こっちが水だね!」

 

「なんで油があるの?」

 

「天ぷらしようと思ってね! 具もちゃんと持ってきたよ! 天ぷら粉も!」

 

「えー! いいねー! それじゃ私はエビフライで!」

 

「オッケー! それじゃ調理開始! ミントちゃん、そっちの天ぷら粉持ってきて!」

 

「りょーかい! ──って、うわー!? 天ぷら粉溢しちゃった!? けほっ、けほっ! ごめーん!」

 

「大丈夫大丈夫! 天ぷら粉ならまだまだあるから! けほっ。うわー思ったより天ぷら粉撒き散っちゃったね。それじゃ、火を点けて……あれ? 点かない?」

 

「けほっ、どうするのー?」

 

「仕方ない。マキナに搭載してる火炎放射器を使おう」

 

「あっ、私もう1回天ぷら粉持ってくるね! ──って、うわー!? また溢しちゃったー!!」

 

「へーきへーき! それじゃあ着火して──」

 

「──やめんかこの馬鹿共!! どんどん被害の規模が大きくなろうとしているではないか!?」

 

 ──ある日の格納庫ではアーヤ教官と最近機甲兵の整備員として赴任したトールズ本校卒業生のミントさんが2人してシュミット博士に怒られていた。本校にいた頃から気が合うらしいが……あまり付き合いが長くない僕でもわかる。この2人はどちらもかなりのトラブルメーカーだ。そのため混ぜたらとんでもない化学反応を起こして爆発しそうになる。今ももう少しで物理的に爆発しそうだった……。

 

 はぁ……肝を冷やしてしまったが、アーヤ教官はこういうちょっとおかしな言動が多い。なので見ているとこっちも何からツッコミを入れたものか迷うことが多々あるが……それでも優秀なのは間違いない。授業ではなんだかんだで僕たちに為になることを教えてくれる。機甲兵教練でも機甲兵の操縦に長けているし、実戦技術でも隠密の心得を教えてくれた。元々リィン教官たちに実戦技術を教えていたこともあって教え方も上手だと思う。導力技術もそれなりに造詣が深く、女子の話では選択授業の調理実習でも頼りになるらしい。僕も普通にお世話になってしまっている。最初は警戒していたが、毎日のように元気すぎるほど明るくフレンドリーに話しかけてくるため必要以上に警戒するのはなんだか馬鹿らしく感じてしまった。リィン教官やユウナにアルティナ。他の生徒や学院関係者も信頼しているようだし、やはり父や兄の見立ては正しかったのかもしれない。

 

 ……まあいずれ機会があればそのことも質問してみよう。おそらく気まずくはあるとは思うけどアーヤ教官であればちゃんと答えてくれる気がする。

 

 ──そしてアーヤ教官だけじゃなく他の教官陣や生徒の人となりもある程度理解し、トールズのハードなスケジュールにもようやく慣れてきたそんな頃。5月の自由行動日とその次の日の機甲兵教練で、僕はあの方に……セドリック殿下と久し振りに再会することになった。

 

「やあクルト、久しぶりだね」

 

「でもまさか、君が第Ⅱ分校なんかに入ってしまうなんてね」

 

「丁度いい、君もリィンさんと共に本校に移ってくるといい。そして望み通り、僕の護衛を務めながら切磋琢磨して欲しい──政府の決定ごとき僕の一存でどうとでも出来るからね」

 

 かつて僕が将来の守護役として側にいたセドリック・ライゼ・アルノール殿下は、すっかり変わってしまっていた。

 いや、しまっていた、というのは失礼かもしれないが……それくらい僕にとっては衝撃的な出来事だった。それこそ夢でも見ているのかと疑ってしまうくらいには。

 以前の殿下は言動の端々に優しさが感じられて……皇族の1人としての力不足を感じながらも尊敬する兄上を見習って素直に邁進しようとする……そんな尊敬できる御方だった。

 そして今は……すっかり見違えた。弱々しかった肉体は平均的な帝国男児と遜色ないほどに鍛えられているし背も伸びた。性格も……自信が目立つような性格になっていて、僕はその変わりように面食らってしまったくらいだ。

 

 ──そしてその殿下は5月の自由行動日にリィン教官を本校へ移るように誘い、次の日の機甲兵教練にはその答えを聞きに来たと言いながら他の本校生徒2人と共に僕たち分校生徒との模擬戦を挑んできた。

 

 その言動はやはり強引に思えるもので……やはり少し戸惑いながらも僕は機甲兵に乗り込んで同じⅦ組のユウナやⅧ組のアッシュと共に本校生徒との模擬戦を行い……そして何とか勝利を収めた。

 

「……さすが腐ってもヴァンダールといった所か」

 

「……っ…………」

 

「クルト。今日は負けを認めておこう。だが、入学して2ヶ月で僕はここまで強くなった。剣もろくに使えなかった僕がね。──君も成長しているだろうが2ヶ月後にはどうだろう?」

 

「そ、それは……」

 

 模擬戦に敗北した殿下は僕にそう言って、あくまで自信を覗かせながら機甲兵から降りる。

 

「──負けは負けですから今日は大人しく退散しましょう。クロスベルでの演習の準備を邪魔するつもりもありません」

 

 そうして殿下は僕たちにとって初耳の情報を口にした。やはり自信に満ちた表情で──

 

「ですが僕は──ん?」

 

「こらー! 待てジオンー! 缶詰返せー!」

 

「キー!」

 

 ──だがそんな時、校舎の方から聞き覚えのありすぎる声と見覚えのある姿が2つ見えた。

 

 空を飛ぶのは最近、アーヤ教官が飼い始めたイヌワシの……確か名前はジオンだったか。

 そしてそのジオンをアーヤ教官が何やら少し怒りながら追いかけている。確かアーヤ教官は先日、どこか別の仕事があって出張に行っていたらしく、今日の機甲兵教練は欠席していたはずだが……帰ってきたのか。

 僕は……いや、僕以外も突然走ってくるアーヤ教官に注目する──が、そこで僕たちは一斉に気づいた。分校生徒は。以前、全く同じ体験をしていたために。

 

「こ、これは……!」

 

「もしかしてあの鷲が持ってるのって……」

 

「ま、前にもアーヤ教官が持ってきてた……」

 

「あれ、ですね……」

 

「で、殿下! 今すぐ鼻を──」

 

「ん? 何だと言うんだいクルト。確かあれは昨日の会議にもいた情報局の……ふ、何やら騒いでるようだけどただ雇われているだけの外国人の彼女には興味がなくてね。それよりも僕は──うわっ!?」」

 

 僕は咄嗟に殿下に注意を呼びかけるも──少し遅かった。運悪くイヌワシのジオンが持ってきた缶詰が、殿下の顔に、それも中身と一緒に降りかかってしまう。

 

「くっ……一体なんなんだ、これ、は……うっ……!」

 

 そして殿下は顔にかかった何かの身と汁を感じ、そしてすぐに──

 

「おっ──おええええっっ……!!?」

 

 ──その臭いに思いっきりえづいた。

 

 僕たちは皆一斉に鼻を抑えながら少し離れる。

 

「で、殿下!?」

 

「な……んなんだ……この、臭いは……?」

 

「ごめんごめん! うちのジオンがごめんねー? まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「な……なん、だ……それ、は……」

 

「ジュライ市国の名産品だね。いわゆるニシンの塩漬け。結構塩辛いけど美味しいよ! せっかくだから食べてみる?」

 

「これが……食べ物……? そんな、の……」

 

 ──そうして殿下は自分に降りかかったそのシュールストレミングの悪臭に耐えられず、その場に倒れてしまった。で、殿下……。

 

「あれ? 倒れちゃった? ……そんなにヤバいかな、この匂い。割とマシな方だとは思うんだけど……」

 

「はは……慣れていない人には苦しいと思いますよ、アーヤ教官。一度水や蒸留酒で洗ってからサンドイッチにして食べるのが食べやすくておすすめです」

 

「フハハ! オレとしてはこの臭みが良いと思うのだがな! アーヤ教官! 後でオレも頂いていいだろうか!」

 

「いいよー。それじゃみんな機甲兵教練頑張ってねー! 途中参加するのもなんだし、私は昼食でも作ってるからさ! ──ほら行くよージオン!」

 

「キー!」

 

 ……そしてその殿下に降りかかったシュールストレミングの身と缶詰をトングでパックに入れて回収し、アーヤ教官はジオンと共に校舎の方へ帰っていった。ジュライ市国出身であるⅨ組のスタークや料理研究会に所属しているゲテモノ──……珍味好きのフレディなどは鼻を押さえることもなく普通にしていた。

 

「ぼ……ぼく、は……あきらめ……ませ、ん……よ……リィン、きょう、か……うっ……」

 

「で、殿下ー!? お、お気を確かに!」

 

「くっ……なんと無礼な……! 覚えてなさい! トールズ第Ⅱ分校!」

 

 いや……僕たちは関係ないと思うんだが……。

 気を失ってしまった殿下を本校生徒のフリッツとエイダが介抱しながら去っていく。僕としても少し心配だが……まあ大丈夫だろう。

 

「フッ……少々驚いたがこれもひとえに常在戦場。サイードがこの分校にいる以上、どんなアクシデントが起こっても冷静に対処するよう努めるがいい」

 

「な、何を冷静にまとめているんですか分校長! ──こ、こら待てアーヤ大尉! 殿下にあの劇物をぶつけて気絶させるなど何をやっている!? そ、それと本校生徒の件で鉄道憲兵隊にも連絡を入れねば……!」

 

 ……分校長は平然としているし、ミハイル教官はまたアーヤ教官を追いかけながらどこかに通信を入れるなどして苦労していた。

 

「2ヶ月……たったそれだけであれだけの剣技を……最後は、その、少し不憫だったが……」

 

「あはは、そうだね……でもそれより、クロスベルでの演習って言ってたけど、一体どういうこと……?」

 

「クク……皇太子か。なかなかイカれてるじゃねぇか。……まあそれより何倍もイカれてんのがこっちにはいたワケだが……」

 

「アーヤらしいわね……」

 

「ええ、実に()()()()()()

 

 僕やユウナ、アッシュはそれぞれこの出来事についての所感を述べ、授業は次第に落ち着きを取り戻していく。Ⅸ組に所属しているレン・サイード……アーヤ教官の関係者と思われる生徒と同じくⅨ組のミュゼが何やらわかりきった様子だったが、僕にも少しだがわかってきた気がする。

 アーヤ教官はとんでもないトラブルメーカーであり、良くも悪くもその場の空気を変えてしまう力を持った人なのだと。

 

 

 

 

 

 ──どうも、ギザギザハートのアーヤ・サイードです。最近《緋の騎神》テスタ=ロッサの起動者になりました。ついでにハーメル村から帰る時に見つけたイヌワシが私に懐いてきたのでジオンという名前をつけて飼うことにしました。名前の由来はクローゼちゃんの飼っていたシロハヤブサのジークから。ジークと来たらジオンかなって。久し振りにアニメが見たい。ジオン軍好きなんだよね。ジオン軍が主役の新作アニメとか出ないかなぁ……いやまあ出るわけないし出ても見れないんだけどね。

 

 ま、それはともかくとしてトールズ第Ⅱ分校の教官として赴任して1か月が過ぎた。生徒たちともすっかり打ち解けたし、教官陣も結構良い感じだ。私もよくトワちゃんとご飯食べに行ったりしてるし、最近分校に赴任した臨時整備員のミントちゃんとは私が本校の教官だった時から仲良しだったので仲良くしてる。今度はリィンくんやランディ兄も誘ってみようかな。せっかく同じ職場にいるんだから仲良くするのに越したことはないよね。

 

 そして授業の方も良い感じだ。ようやく私お得意の裁縫の授業もやったし、男女別選択授業ではトワちゃんと一緒に料理を女子に教えた。私って料理得意だからね! 今でも新しく出す飲食店のメニュー作りは欠かしてない。アラミスに通っていた頃から仲の良い友達に料理が上手な子がいたから私がいない間はその子にメニュー作りから飲食店関連の業務の責任者を任せちゃってるけどね。でもその子の次に料理が上手なのは私だから教えるのは全然問題なかった。女子のみんなもお喋りしながらお菓子作りを頑張ってていいね! きゃっきゃうふふで姦しい。せっかくだから私も混ざった。私のタイプは男だとレーヴェかなー。女の子だとシズナちゃんかクローゼちゃん辺りが好みかも。──あ、でも知らない人を言ってもしょうがないし、分校関係者で言うなら男性だと……うーん……リィンくん、かな? ド安定だよね。顔で言うならクルトくんやスタークくん、後はランディ兄とかも悪くないけどね。女の子だとユウナちゃんとかミュゼちゃんとかゼシカちゃん、マヤちゃんとか良い感じだし、ティータちゃんにレンもすっかり美少女になってていいと思う。それにトワちゃんとかアルティナちゃんもちっちゃくて可愛いよね。……いやまあみんな可愛いんだけどね。分校の容姿偏差値めっちゃ高いと思う。ちなみに裁縫の授業では1人すっごい才能を感じる生徒がいたんで卒業後の進路に私の会社に来ないか勧誘しておいた。誰かと言うとユウナちゃんだね。デザインセンスはまだ分からないけど裁縫はかなり上手だったんで磨けば光ると思う。だから卒業後はぜひサイード社へ! 新規デザイナーにパタンナーも裁縫師も募集中! 後から独立するのも全然応援するよ! 

 

 ……とまあそういうわけで表の仕事は極めて順調だ。導力ゲームの方も最近ようやくハードを開発して発売までこぎつけたからね。まだ共和国国内だけの限定販売だけど。博士と私の友達が連絡を取りながら頑張って開発した。そしたらなんかス◯ッチみたいなのが出来上がった。いや……確かに液晶端末に繋げられて持ち運びも可能な携帯導力端末にするならあの形が合理的になるのかもしれないけどさ……さすがにびっくりした。博士も十三工房も優秀すぎない? 

 もしかして十三工房の1つに任◯堂があるんじゃないかって思うくらいにはス◯ッチだったけど私としては導力ゲームが発展してくれるならなんでもいいからゴーサインは出しておいた。その関係で私の友達から「ウチの会社だけじゃ手に負えないからアーヤちゃんの会社に合流させてもらっていいかな……?」って言われたんでそれもオッケーしておいた。なんか子会社になったっぽいけどその辺りは秘書のセラちゃんとかそういうのに詳しい他の社員に任せてるのでよくわからない。まあ儲かってみんなハッピーになるならなんでもいいよね! 

 

 ってことで話が少しズレたけど表の仕事は順調なので……問題は裏の方だ。結社に黒の工房にヴァイスラント決起軍。それぞれの手駒として良い感じに立ち回らないといけないし、なんか起動者だとバレたり怪しまれてたり小言を言われたりと中々に頭が痛い。うぅん、どうしてこんなことに……。

 

 ただ目下問題だったのはテスタ=ロッサのことだね。この間テスタ=ロッサとそのことについても話した。

 

「整備かー……でもどうしよう。誰か任せられる人いるかなー」

 

「《黒の工房》に任せるわけにはいかないのか?」

 

「えー……なんか変なところ弄り回されそうでやだ。テスタ=ロッサも嫌でしょ?」

 

「……まあ人格面で《工匠》とするのに不安があるのは確かではあるが」

 

「でしょ? かといって博士はなぁ……連鎖的に結社にもバレちゃうし……同じ理由でシュミットおじいちゃんも無理だし……私の友達に導力技術に明るい子もいるけどそっちはソフト面の方が得意で騎神弄れるほどハードは得意じゃないし、そもそも今は忙しいだろうしなぁ……」

 

「ふむ……であればやはり《黒の工房》に任せる他ないのではないか? 人格面で問題はあっても技術的には問題あるまい」

 

「そうなっちゃうかぁ……はぁ……どっかに技術的にも人格的にも信頼できる人いないかなー……」

 

 と、私はテスタ=ロッサの整備とかその辺りのことを任せられる技術者について悩んでいた。《黒の工房》……というかあの精神的痴漢常習犯のアルベリヒには任せたくないんだよね。何か変なことされそうだしさ。私の相棒のテスタ=ロッサをアレに預けるのは不安しかない。

 かといって博士に明かすのもアレだし、他に任せられる人があんまり思い当たらない。表の人はあんまり関わらせたくないし……。

 

 と、そんな風に悩んでいたら……ふと私はぴこんと閃く。頭に電球マークが浮かぶ感じで。

 

「──思いついた!」

 

「ほう。誰か適任者がいるのか?」

 

「うん! ちょうどいい人がね! よーし、そうと決まれば向かうよテスタ=ロッサ!」

 

「うむ。どこへ向かうのだ?」

 

「──()()()()()()()()()()!」

 

 そうして私は直ぐ様テスタ=ロッサで飛び立った。今までは導力飛行船とか大陸横断鉄道とか結社の小型飛空艇とか使って移動してたけどテスタ=ロッサがいればいつでも好きな時に、しかもめちゃくちゃ速く移動できるから便利だよね! 

 

 ──ただ場所がどこだったか……とりあえず、私は色んな伝手を使って居場所を特定し、そしてやがてその人物の元に辿り着いた。

 

「着いた! ここがテスタ=ロッサの《工匠(マイスター)》候補のハウスだね!」

 

「ふむ……ここに……中々立派な屋敷だな」

 

「住む場所や国が変わってもセンスは変わってないね! それじゃ中に入ろっか」

 

 私はテスタ=ロッサから一度降りてその屋敷の門をノックする。

 

「おじいちゃーん! ()()()()()()()()()()! 開けてー! アーヤが来たよー! 久し振りー! 元気だったー!?」

 

「…………返事がないようだが……」

 

 テスタ=ロッサの言うように返事が返ってこない。

 だから私はもう少し強めにノックをすることにする。声も大きめに。

 

「ヨルグおじいちゃーん!! 私だよー!! アーヤ・サイードだよー!! ちょっと頼みがあるから開けてー!!」

 

「…………やはり返事がないな。もしや留守なのではないか?」

 

 テスタ=ロッサの言うように確かに返事が返ってこない。

 だから私は更に強くノックをすることにした。《ゾルフシャマール》を取り出してそれを使って。

 

「ヨルグおじいちゃーん!! ここにいるのはわかってるよー!! 博士の厚かましさに嫌気が差してクロスベルからここにお引越ししたんでしょー!? 良い屋敷だねー!! もしかして十三工房から抜けるのー!? 抜けてもいいけど開けてー!! 私個人の用事だからー!!」

 

「…………うむ……そこまでやって返事がないのであればやはりいないのではないか? ここは日を改めるなどして──」

 

 テスタ=ロッサの言う通り、何故か返事がない。

 だから私は更に強くノックをすることにした。《緋の騎神》テスタ=ロッサに乗り込み、その巨大な鉄の拳で硬く閉ざされた鋼の門を思い切り叩く。

 

「──ヨルグおじいちゃーん!!! ヨルグ・ローゼンベルクー!!! あーけーてー!!! これ私の相棒!! 《緋の騎神》テスタ=ロッサー!!! すごいでしょー!!! 強いんだよー!!! あーけーてー!!! というかもう勝手に中に入ってていいー!!? お腹空いたー!!!」

 

「……たとえ居てもこれでは出てこないのではないか?」

 

「うーん、おかしいなぁ……よーし、それじゃ次は()()()()()()()()()()()──」

 

「──やめんかこの馬鹿もん!! 居留守を使っているのがわからんのか!!? わしの新たな工房を破壊する気か!!?」

 

「あ、いた。やっほー。久し振りヨルグおじいちゃん。……あれ? なんでそんなに汗掻いてるの? もしかしてお風呂上がり?」

 

「お前さんがその騎神とやらで門を破壊する勢いで叩くからだ!!」

 

 ──そうしてノックをし続けていたらやっと出てきてくれた。私が知ってる技術者で信頼できる人。十三工房の1つローゼンベルク工房の工房長を務める稀代の人形師ヨルグ・ローゼンベルクだ。相変わらず元気そうだね。よーし、さっそくテスタ=ロッサの《工匠》になってくれるようお願いしよう! 

 

「ごめんごめん。それでお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

 

「…………この流れでわしが頷くと思うのか?」

 

「え? だって友達でしょ? ──あ、そういえばマキナも連れてきてるよ!」

 

「お久しぶりです私の生みの親ヨルグ氏ー!」

 

「こんな人形は知らん」

 

「えー!? マキナですよマキナ! このローゼンベルク工房の最高傑作である私のことをお忘れですか!? 我が創造主よ!」

 

「確かに生み出したのはわしだが既にノバルティスや《黒の工房》に散々改造されて儂の人形とは呼べなくなっているだろう」

 

「ガーン! そんな! こんなにも立派に成長したというのに!」

 

「あー……やっぱそこら辺の事情とか知ってるんだ。それについては勝手にされちゃったこととはいえごめんねー?」

 

「ふん、当然だ。距離は取っているとはいえ今でも一応わしは十三工房の一角を預かっている身。それくらいの調べはつく」

 

 おー、さすがはヨルグおじいちゃん。あくまで傘下みたいなもんだから結社のことにそこまで詳しいわけじゃないとはいえさすがに十三工房に関連することは色々知ってるらしい。

 

「とはいえ……《黒の工房》め。まさかこれほどの隠し玉を持っておったとはな」

 

「──お初にお目にかかる。私は《緋の騎神》テスタ=ロッサ。《七の騎神》が一にしてかつてはアルノール家に力を貸していた。今はこちらのアーヤ・サイードを我が起動者としている。良ければ見知り置き願おう」

 

「……ふむ。これが騎神か……なるほど。ゼムリアストーンによって生成されたフレームに高度な疑似人格システム。魔導を使ったと思われる細工も随所に感じるな」

 

「む……初見でそこまで見抜いてしまうとは……我が起動者の言う通り、極めて優れた技術者であるようだ」

 

「うむ……少なくともそちらの娘や改造された人形よりは礼儀が出来ているようだな」

 

「なっ……し、失礼な! こ、こんなでかさと強さだけが取り柄のぽっと出に私が劣るわけがないでしょう! 訂正を求めます!」

 

「私はやろうと思えば出来るけどね。──こんにちはお客様。今日は如何致しましょうか? はい、よろこんで──こんな感じでね。ふふん。せっかくだし今日はお淑やかお上品お優雅な3(オー)アーヤちゃんでいこうかな?」

 

「……ふん、今更取り繕う必要はない。それより用件があるならさっさと伝えるがいい」

 

 テスタ=ロッサと比べて礼儀がなってないと言われたので昔学んだ礼儀作法通りに優雅に一礼して出来るところを見せて自慢気に胸を張ってみたんだけどヨルグおじいちゃんは眉間に皺を寄せてさっさと用件を言えって言ってきた。なのでお願いしよう。

 

「このテスタ=ロッサの整備をしてくれる人がいなくてさ。ヨルグおじいちゃんやってくれない?」

 

「……なぜわしに頼む?」

 

「技術があって信頼できて裏の事情も知ってる人ってヨルグおじいちゃんくらいかなーって。それに一応騎神も人形ではあるし興味あるかなーって」

 

「……確かに興味がないと言えば嘘にはなるが、それでもわしよりも適任者はいるはずだ。それこそ《黒の工房》に頼まないのはどういう訳だ?」

 

「だって変なもの仕込まれそうだし……向こうの工房長がヤバすぎて信用できないんだよねー……だからテスタ=ロッサのためにもお願いできないかな? お金は言い値でいいからさ」

 

「ふむ……」

 

 私がそう頼むとヨルグおじいちゃんはその白いもじゃもじゃの髭を撫でて考え込んだ。お、結構感触いい? 

 

「……いいだろう」

 

「ほんと!? やったー! ありがとうヨルグおじいちゃん!」

 

「礼を言う必要はない。あくまでわし自身の興味のため。それと……散々わしの作った人形を勝手に改造した《黒の工房》への意趣返しも兼ねてこの《緋の騎神》の整備を行ってやろう」

 

「それでもありがとう! やったね、テスタ=ロッサ!」

 

「うむ──感謝申し上げるヨルグ翁」

 

「……ふむ。では早速少し見てみるとしよう。時間の方は問題な──」

 

「あ、それなんだけど私、明日もトールズで授業があるからさ。このまま連れてくから向こうで見てくれない?」

 

「何だと──ぬおおっ!?」

 

 私は再びテスタ=ロッサに乗り込み、ヨルグおじいちゃんを両手でそっと持ち上げて空へと駆け上がる。そして一気に加速して急いでリーヴスに戻ることにした。

 

「な、何をする馬鹿もん! ぬおおおおっ!?」

 

「向こうに最低限の設備はあるからそれを今日は忍び込んでこっそり借りさせてもらおう! その次は向こうに拠点を作るかして──あっ! そういえば前のローゼンベルク工房があるじゃん! あそこ使おうよ! 私も今月クロスベル行くしさ! ちょうどいいじゃん!」

 

「か、勝手に決めるでない!! ぬ、おおっ……!」

 

「……すまぬ……我が《工匠(マイスター)》よ……アーヤはここ最近忙しく、ほぼ眠っておらぬ故いつもよりも突飛な行動に磨きがかかっておってな……」

 

「ぬおおおっ!! せ、せめて中に入れんかー!!?」

 

「《工匠(マイスター)》ゲットだぜー!」

 

 ──ってことでテスタ=ロッサを整備してくれる《工匠(マイスター)》としてヨルグ・ローゼンベルクおじいちゃんを確保した。さすが私! 私って友達多いからね。顔も広いし、こうしてちゃんと頼めば十三工房を預かる技術者の1人くらい簡単に確保できるってわけ。

 

 なのでその日は急いでリーヴスに戻り、トールズ第Ⅱ分校の格納庫を夜中にこっそり忍び込んで借りさせてもらうことにした。シュミット博士はおじいちゃんだしいつもより深く眠ってもらうよう予め睡眠薬を盛っておいたし、第Ⅱ分校の事務員に就任したハイアームズ家の執事のセレスタンさんは気配に気づきそうな気がしたんで()()()()()()()()()()()()()()()()。ちゃんと違和感を持たれないように一時的に記憶を混濁させる薬も嗅がせておこう。──ヨシ! これで完璧だね! ヨルグおじいちゃんもなんだかんだテスタ=ロッサの整備はしてくれたし、クロスベルにある以前のローゼンベルク工房にもちゃんと送り届けておいた。今後整備する時は向こうに行けばいいね! そんなに遠くないし良いと思う。アイゼンガルド連邦にある《黒の工房》の本拠地に行くよりは近いし! なんだったら騎神の機能の1つである転移機能、《精霊の道》を使えばすぐに着くしね! 整備の問題はこれで解決だ! 

 

 そして次は私が雇ったレーヴェとシグムントさんのことだけど……こっちも引き続き雇うことにした。

 まあレーヴェは雇ったというか協力してもらってるだけでそもそも私もレーヴェもヴァイスラント決起軍に雇われてるわけだからなんともな感じだけど、シグムントさんに関しては完全に私の私兵なので高い金を払って色々と協力してもらうことにした。だって強くて頼りになるし……最初は怖い人だと思ったけどちゃんと関わってみると戦闘狂なところ以外は割と人格者というか、なんならシャーリィちゃんとかヴァルターみたいな結社の戦闘狂組と比べても落ち着いてるから全然接しやすいんだよね。

 なのでとりあえず帝国にあるサイード社の支店……主に帝国におけるサイード社の本拠地である海都オルディス支店に待機してもらうことにした。いや、なんで帝都じゃないのって思うかもしれないけど最初に支店を出したのがここだったんで帝国での本拠地もここになったんだよね。だって最初に帝国に来た時の協力者が貴族連合というか四大名門でラマール州の統括者、海都オルディスを治めるカイエン公だったので……お得意様が多かったこともあっておっきい支店を建てた。帝都支店も良いんだけどね。ただ工場とかもラマール州にあるし、私の別荘もオルディスにあるし、なんなら今となってはヴァイスラント決起軍の主宰がミュゼちゃんことミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンなのでオルディスにいる方が私にとってもレーヴェにとっても都合がいい。なのでそれに合わせた形だ。

 

「──ふむ、中々に悪くない屋敷だ」

 

「全然使ってないんで好きに使ってください。一応地下もあるんでそこで戦闘訓練なんかもできるようになってるのでー」

 

「それは良いことを聞いた。なら早速使わせてもらうとしよう。相手は──付き合ってくれるな?」

 

「えっ? ──あっ、はい……暇な時であれば……」

 

「なに、無理やり付き合わせるつもりはない。それに他にも面白い相手が幾らかいるからな──《剣帝》レオンハルト。貴様もせっかくだ。この俺とどちらが強いか──試してみるのも一興だとは思わんか?」

 

「……遠慮させてもらおう。俺の剣はお前のような血に飢えた獣を喜ばせるためにあるわけではない」

 

「フッ、つれないな。まあいい、生身での死合いは諦めるとしよう。だが例の兵器の訓練……それならば付き合ってくれるな?」

 

「ああ。俺にとっても必要なことだ。それならば問題ない」

 

「あっ、それならもう納品されてるっぽいし見に行こう! 私も見てみたいし!」

 

 ──そして海岸沿いにある私の別荘を案内した後はまたちょっと移動。猟兵がキャンプを張るのに使えそうな広場に向かい、そこに隠しておいたシグムントさんへの報酬とレーヴェへのプレゼントを渡す。

 

「ほう……! これが……!」

 

「はい! 先日ラインフォルト社から納品されたヘクトルⅡ型! ()()()()()()()()()()()()()()! ちゃんと《赤い星座》のシンボルも付けておきましたよ!」

 

 そうしてシグムントさんに渡すのは報酬として提示されていた機甲兵。重量級のヘクトルⅡ型のシグムントさんモデル! 言うなればシグムント専用ヘクトルⅡ型ってところかな! 赤く染まった機体と《赤い星座》のマークがかっこいいね! 猟兵として最新の武装が欲しかったシグムントさんにはピッタリな最新兵器! めっちゃ高かったけど普通に払えるくらいには私ってお金持ちになってたんだと改めて思った。もう一体の機体も含めてね。

 

「それでこっちはレーヴェへのプレゼント! レーヴェ専用シュピーゲルSだよ!

 

「ああ、わざわざ用意してもらってすまないな。感謝する」

 

「あはは……これくらい全然だって。レーヴェには世話になってるから……」

 

 その機体は言ったように、レーヴェ専用シュピーゲルS。レーヴェが乗るための機甲兵だ。こっちは銀色の装甲になっている。うーん、かっこいい……! レーヴェにピッタリの機体だ……! レーヴェに真っ直ぐにお礼を言われて照れるけど喜んでくれたなら良かった! 

 まあ今後のことを考えたらこれくらいはあっていいし、レーヴェとしても雇われているとはいえ個人で動くには機甲兵の一体くらい必要ってことでこれも私が用意した。まあこっちはミュゼちゃんにもお願いして用意してもらったものでもあるんだけどね。ミュゼちゃんからはレーヴェが乗る予定のものなら用意するって言ってくれたけど私がプレゼントしたかったから格安だけどちゃんと買い取った。レーヴェのためなら何億ミラでも注ぎ込める! 

 

「アーヤ。あの騎神の件だが……」

 

「あっ……いやー、あれはそのぉ……またなんか押し付けられちゃったというか……あ、でも私的には気に入ってるし、私なりに考えがあってのことだから心配しなくていいよ!」

 

「…………まあそうだろうな。だが何かあったらまた相談するといい。俺にできることであれば力になろう」

 

「う、うん。わかった」

 

 とかなんとかテンション上がったり照れたりしてるとレーヴェから騎神の件について質問されたけどそこは心配しなくていいって伝えておいた。でも力になってくれるって言う辺りやっぱレーヴェってイケメンだよね。スパダリ感がすごい。はぁ……癒やされる。とりあえず今日はもう帰らないとだけど次来る時はオルディスでお出かけとかしたいよね。

 

 ──と、4月下旬から5月の中旬辺りのイベントはこんな感じだ。それと分校にセドリック・ライゼ・アルノールこと新しい《鉄血の子供たち》の1人でこの国の皇太子殿下でもあらせられるセドリック殿下が来てた。前にチラッと見た時と比べて確かに成長してたけどその成長が呪いの影響というかオズボーン閣下や痴漢常習犯アルベリヒや呪いに侵されてたテスタ=ロッサの影響ですんごい自信家で尊大な性格になってた。まあ子供だし、やんちゃな時期は誰にでもあるよね。私も若いけど若さを感じる。──ただテスタ=ロッサはかなり気になってるみたいだった。念話でちょっと話したんだよね。

 

(あれが今代のアルノールの血を継ぐ者の1人か……)

 

(やっぱ気になる?)

 

(うむ……どうやらごく最近まで霊的に繋がっていたようだが……現在は断たれてしまっているようだ)

 

(あー……それはなんというかごめんね?)

 

(謝る必要はない。どの道、あのままこの者を……いや、貴殿以外を起動者にしていれば取り返しのつかないことになっていただろう。それを思えばむしろこれで良かったと言える)

 

(そうなんだ。やっぱり呪いがあるからかな?)

 

(それもあるがどちらかと言えば貴殿の力の影響だ。おそらく貴殿以外では耐えきれぬであろう。呪いの影響で起動者は不死と化すため、おそらくは生き地獄を味わう羽目になっていたであろうな)

 

(えぇ……なにそれこわ~……まさか私まで変な影響受けてないよね?)

 

(以前にも言ったが貴殿はおそらく問題ないだろう。私も全てを理解出来ているわけではない故、確実なことは言えぬが……)

 

(まあそれならいいけどさー)

 

(うむ。……しかしそうか。あの者が本来、私の起動者になる筈だった者か……)

 

 ……とまあこんな感じでちょっと話したけどやっぱテスタ=ロッサは人格者だね。騎神って大体そうだけどさ。ヴァリマールもそうだったし、貴族連合と協力してた時オルディーネとも話したことあるけど普通に良い騎神だった。多分イシュメルガ以外は全員良い子だと思う。

 

 ──まあそれはともかくだ。遂に5月の特別演習の日程と行き先が決まった。

 

 その行き先はなんとクロスベル州だ。自治州ではない。現在はクロスベル総督府。つまりは総督のルーファス・アルバレアが治めている列記とした帝国領だ。

 なのでクロスベル出身でクロスベル軍警学校出身のユウナちゃんとか特務支援課のランディ兄とかは里帰りだね。複雑そうで心中お察しするけど私としては楽しみだ。クロスベルってなんだかんだ楽しいんだよね。金融都市で色々と整ってる上に共和国と近いから私が出してる店も多い。

 なので今回は私も表向きにも特別演習に参加するんだよね。仕事は殆どないけど。やることと言えば何か不測の事態が起きた時に生徒たちを守ることとか、クロスベルにいる不穏分子を監視して何かしようとした時に連絡してほしいとかそんな程度だね。

 ちなみに不穏分子の中にはミシュラムで軟禁してるロイドくんたち特務支援課関係者も含まれてる。指名手配犯だからね、ロイドくんは。とはいえ逮捕すると市民感情が悪化するからとかで穏便に軟禁することにしたらしい。それに地味に私も関わっちゃったけど正直複雑な気分だね。仕事を頼んできたのがルーファスってのは嫌だけどかといって拒否るほどでもないしさ。なんかうろ覚えの記憶だとロイドくんたちをミシュラム方面で軟禁してるって話が出た時にすごいみんな引いてた気がするんだけど私的にはそこまで……いやまあどうなんだろうね? 私だったら一応レジスタンスをやってる身だしむしろ穏便だなってなる気もするけど……あ、でもキーアちゃん軟禁は良くないね。なんたって子供だし。元《零の御子》とはいえただ連れ回されてるだけのキーアちゃんとかアリオスの娘のシズクちゃんは普通に解放してあげてもいいんじゃないかな? いや、保護者が捕まってるんだからどうするのって話なんだけどね。でもなんだったら私が持ってる家使ってもいいんだけど……提案してみてもいいけどあのルーファスのことだし無理だろうなぁ……。

 

 ……ま、仕方ないね。やっぱり前考えた通りしょうがないことだからせめて退屈しないようにまた新しい導力ゲーム届けてついでに美味しいご飯でも差し入れよう。そのうち解放されると思うからそれまでの我慢だよー。

 

 ──ってことで! 遂にやってきました魔都クロスベル! 予めテスタ=ロッサをローゼンベルク工房に預けてからまた分校に帰ってデアフリンガー号でやってきたぜ! 相変わらずの近代的な街並み! リーヴスに比べると人が多い! まあ帝都ヘイムダルや共和国の首都イーディスに比べると少ないけどそれでもかなりの都会だからね! シティボーイな私にはこの街の空気は性に合ってる。

 

 もっとも嫌な思い出もあるけどそれはもう水に流した。なので軽く細々とした仕事をやることに。なんでも今のクロスベルには各地で幻獣が出現してるらしいからね。私も何体か倒して欲しいって言われた。しかも単独で。……いや、何体も1人で倒すとか人のことなんだと思ってるんだろう? せめてもう少し人手がほしい。きっちり出現場所も特定してるんだから()()()()()()()()()()()()()()()非効率も良いところだろう。

 

 でもあのルーファスに言ったところでどうにもならなそうなので仕方なく1人で倒しに行くことに。その前に市内にある私の会社の飲食店、東方料理屋《ジパング》に顔を出して偶然来てた私のアラミス時代からの友達で今は飲食店の開発主任にして総料理長のアデーレちゃんって子と軽くお喋りして打ち合わせしてついでにご飯も食べさせてもらった。お通しで出してきたところてんが今日は美味しかったね。そしてキーアちゃんたちに届けるようのご飯も作ってもらってから出発。とりあえずウルスラ間道方面を適当に回ろうかな。そしてその次にミシュラムに行こう。包囲してるって話だったけどまあなんとかなるでしょ。いざとなったらテスタ=ロッサで突破すればいいしね。

 

 そして幻獣を3体ほど倒してエルム湖の景色を堪能しながら移動することしばらく。なんか浜に特務活動中のリィンくんたち新Ⅶ組とクルーガーちゃんがいた! おお! もう合流してたんだ! いいねー私も久し振りにアリサちゃんとかマキアスくんとかエマちゃんと会いたい。

 まあでも今日の夜にオルキスタワーで行われる晩餐会では会えるだろうし、急ぐ必要はない。それより向こうはまだ私に気づいてないし、せっかくだ。いたずらしよう。ふっふっふ……こっそりとクルーガーちゃんに背後から忍び寄って……脇腹を掴んでやる! 

 

「正直……改めて驚きました──内戦で旧Ⅶ組を手伝ってくれた時の実力。あれはまだ片鱗に過ぎなかったんですね?」

 

「ふふ……それでも全力のサラ様には及びませんが。所詮は“暗殺術”──正道の武術や、実戦で極められた戦技とは比べるべくもありません。もっとも、()()()()()()()()()その限りでもありませんが──」

 

「──クルーガーちゃーん!」

 

「──ひゃっ!?」

 

「なっ……アーヤ教官!?」

 

 私はしっかりと姿が見えないように隠形で近づいて背後からクルーガーちゃんの脇腹をむぎゅっと掴む。ふふん、さすが私だ。油断してるとはいえクルーガーちゃんに気づかれないくらいには隠れるのは成長したかもしれないね。

 

「あはは! いえーい! いたずら大成功ー! ひゃっ! だって! クルーガーちゃんかわいいー! それにウエストのサイズもしっかり維持して──いたたたたた!!? いたーい!!?」

 

「──何をやっているんですか? わたくしの背後になど忍び寄ってまでやることがいたずらとは……こうして痛めつけられるのをご所望と解釈しましたが……何か言い分は?」

 

「いたたたた! こ、これはクルーガーちゃんの新必殺技……“オルキスタワーブリッジ”……! クルーガーちゃん……腕を上げたね……! 痛い痛い痛い!」

 

「貴方の方もそれは同じようですが……精神面の方はあまり変わっていませんね。とりあえず、後1分ほどこの体勢のままでいさせて貰いますわ」

 

「やめてー! こんなの拷問だよ拷問! ちょっと脇腹掴んだだけじゃん! 許してー!」

 

「……なんというか……2人は以前からのお知り合いで?」

 

「俺も詳しくは知らないが……一応昔からの友人みたいだ」

 

「そ、そうなんですね。うーん……確かに仲が良さそうに見えないこともないような……」

 

「遠慮のないやり取りであることは確かですね……」

 

「って、そこの新Ⅶ組にリィンくん! 話してないで助けてよー! いたーい!」

 

 そうして私はクルーガーちゃんに久し振りの関節技をきっちり一分間喰らい、それからようやく下ろしてもらった……。

 

「ふぅ……まったく、どれだけ強くなっても成長しませんね」

 

「ぶーぶー。これでも成長してるんだけどー。さっきも幻獣倒してきたし、これからもまた色々あるんだから」

 

「幻獣、ですか。──リィン様」

 

「ええ。アーヤ教官、幻獣を倒してきたのなら……その場に──」

 

「あ、もしかしてプレロマ草のこと? 確かにあったよー紅いのがね」

 

「! やはり……!」

 

「あの紅い草はやっぱりプレロマ草なんですか!?」

 

「独立国の時は蒼いものだったようでしたが……」

 

「アーヤ教官、何か知っているんですか?」

 

「あー……まあ何か知ってると言えば知ってないこともないけど……」

 

 ヤバい。なんか幻獣のことを話したら流れで紅いプレロマ草のことを質問されてしまった。なんて答えるのがいいのやら……教団のあれこれなんて今更話してもなー。暗い話になるのも嫌だし……とりあえず概要だけ教えとこうかな。

 

「1つ言えるのは何か異変が起こる兆候ってことかな?」

 

「異変の兆候……ですか」

 

「そ。プレロマ草自体が七耀脈の影響を受ける特殊な花みたいだからね。霊的な影響を鋭敏に感じ取って空間を歪め、そこから何らかの異物を召喚したり上位属性が発現したりする──私が聞いた話だとそんなところかな?」

 

「……なるほど」

 

「なら幻獣が出現するのはプレロマ草とやらの影響ってこと……?」

 

「いや、アーヤ教官の話が正しいならむしろ七耀脈の影響と言うべきだろうな」

 

 おー、さすがはリィンくん。内戦やら色々な経験を乗り越えてきてるだけあって理解が早いね。そうそう、プレロマ草も確かにヤバい草ではあるけどその根本の原因はプレロマ草を咲かせる別の要因にある。

 独立国の時は零の至宝というかキーアちゃんが原因みたいなものだったけど今回は帝国の“呪い”が原因だからね。それを教えるわけにもいかないんでこの辺りにしておこう。良い感じに誤魔化してあっちで見てるマクバーンに話しかけて仕事に戻ろう。

 

「──ま、とにかく私は仕事に戻るから調査頑張ってね。私も何かわかったら出来るかぎり教えるようにするからさ」

 

「……ええ、わかりました」

 

 よしよし、リィンくんはちゃんと行かせてくれたね。もっとも事情をあんまり知らないクルトくんとかユウナちゃんとかは私の知識がどこから来てるのかで訝しんでるみたいだったけどさすがに教えるのはまだ早いよね? どうせすぐ知ることにはなるんだろうけどさ。

 

 ってことでバイクで帰っていくリィンくんたちを見送る。バイクいいなー。私も欲しい。確か共和国でもレノ社が開発してるって話だし、知り合いに言って買わせてもらおうかな。転移術とかテスタ=ロッサはあるけどこういう街道のちょっとした移動の時は車よりは便利だし。少なくとも大陸西側だとね。

 さて、リィンくんたちも行ったしマクバーンに話しかけよーっと。

 

「──やっほーマクバーン。久し振りー」

 

「やっぱりお前さんは気付いたか。相変わらず気配に関しては隠れるのも見つけるのも化け物染みてんな。暗殺術に関しちゃ《漆黒》の小僧や《黄金蝶》すらとっくに超えてんじゃねぇか?」

 

「うーん、確かに自信はあるけどどうかなぁ。それに隠密とか奇襲はともかく気配察知は《八葉》関係者の方がヤバいと思うけどね」

 

「つっても灰の小僧は気づいてなかったみたいだがな。クルーガーの奴も悪くはねぇんだが……」

 

「リィンくんはこれからもっともっと強くなる有望株だよ! それにクルーガーちゃんに関しては強さよりも大事なものがあるだろうから仕方ないんじゃないかなーって」

 

「お前さんがそう言うならそうなんだろうな。まあいい、今は“標的”探しの方に集中しておくか。──お前さんの方はどうだ? 見つけたか?」

 

「今のところは見てないかな。まあこっちも見つけたら教えるね」

 

「ああ。めんどくせぇ実験はアイツに任せるとして……俺やお前さんは仮面どもの相手を愉しむとしようぜ。もっとも動いてくれなきゃ面白みも何もなさそうだがな」

 

「いや私は別にそういう楽しみはいらないんですけど……なんだったらマクバーン1人でやってくれていいよ? 私いらないよね?」

 

「見つけんのはお前さんの方が得意だろうが。そう言うんならさっさと見つけ出してくれ」

 

「善処しまーす。それじゃあねー」

 

 ──そんないつもの執行者同士の世間話。最後は軽く別れる。高台から跳躍して今度はミシュラム方面に向かって走っていくことにした。

 それにしても……毎度のことながらマクバーンが来てるとか普通に過剰戦力も良いところだよね。誰かと組ませる必要ないでしょ。それなのに結構組んで仕事すること多いんだよね……幾らある程度燃えても大丈夫だからって酷くない? もしかしたら燃えて死んじゃうかもしれないってのにさ! 

 でも今回は別にいい。どっちにしろ来なきゃいけなかったし。というか今回はマクバーンと一緒に組んで戦うことはなさそうだしね。今回のお仕事にトールズとか帝国側と戦う仕事は含まれてないし、頼まれてるのは《黒の工房》の相手だけ。そして《黒の工房》側の速く成仏してほしい怨霊No.1のアルベリヒは相変わらずなんか曖昧な指示しか出してこないから多分自由にしていいと思う。「起動者としての役目を果たすがいい」としか言わないからね。仕事の内容くらい言われずとも察しろって感じの態度を常にしてるのでもうよくわかんない。上司にしたくない霊体ランキングでも1位かもしれない。

 

 そういうことなんで私の今回の立場はトールズ&結社のハーフ&ハーフだ。はっきりとした敵は黒の工房側だけ。今までと比べると随分楽だ。

 ……まあかといって《黒の工房》と完全に敵対するわけにもいかないというか、やっちゃうわけにもいかないんだけどね。そもそも不死者だらけなんでやれないけどさ。

 

 さて、とりあえずミシュラムに着いた。私は予め用意していた変装をする。ふふふ、その変装用衣装は何かと言うと──なんと! ミシュラムワンダーランドのマスコット! みっしぃだ! みっしー! 衣装というか着ぐるみ! でも1回着てみたかったんだよね! みししっ! 今日はお友達のキーアちゃんに出前を届けるヨッ☆ 基本はスニーキングで邪魔者は眠らせていくからこれなら安心安全だネッ☆

 

 ……とまあそんな感じでみっしぃに扮して出前をキーアちゃんとシズクちゃんに届けておいた。ちょうどロイドくんたちがアリオスとかリーシャちゃんとか色んな人とちょっとした話し合いの最中だったんでみっしぃとしてこっそり会ってきたんだけどなぜかキーアちゃんには普通にバレた。キーアちゃんはなんか鋭いんだよね。とりあえず出前で持ってきた和食セットを渡して導力ゲーム楽しんでるか感想を聞いたんだけどシズクちゃんは普通に楽しんでるし、キーアちゃんの方は早々に最高難易度までクリアしてしまったらしく、他の遊び方を模索した結果「何周も遊んでどれだけ速くクリアできるか試してるんだけど途中で出てくる運要素が難しいよー!」って若干頬を膨らませて文句を言ってきた。めちゃくちゃ楽しんでくれてるようで何よりだね。というか最高難易度を何回もクリアしたのがそもそもすごい。隠し要素として制作者の私たちですらクリアできないレベルの難易度にしたのに。やっぱコアなゲーマーはどこにでもいるもんなんだなー。

 

 キーアちゃんの新たな一面を見つけられて満足した私は再びみっしぃの着ぐるみに扮してミシュラムからバレないように離脱する。上手くいってよかった。総督府に見つかるとうるさいからね。いや、罰されたりはしないにしても小言を言われそうだし。あのルーファスのことだからね。晩餐会で難癖つけられてもやだし、そろそろ市内に戻って──

 

「──ん?」

 

「──何?」

 

 あっ、と。ミシュラムから移動中。私は高台の上ですっごい見覚えのある人と偶然にも鉢合わせする。もしかしなくてもこの人って……。

 

「フッ……まさか見つかってしまうとはな。《身喰らう蛇》の執行者No.ⅩⅢ。伝説の暗殺者と聞いていたが……どうやら噂以上の腕前のようだ」

 

「あー……」

 

「このタイミングで遭遇してしまうのは想定外だが……まあいい。出会ってしまった以上、挨拶をしておこう──《蒼のジークフリード》。《地精》の長代理としてこの地に参上させてもらった」

 

 私は若干気まずくなりながらも内心で驚いた──う、うわああああ!? あ、《蒼のジークフリード》さん! 《蒼のジークフリード》さんじゃん! 全身ピチピチのタイツと蒼いコートの衣装に仮面で目元を隠した銀髪の《蒼のジークフリード》さん! い、一体何者なんだー!? 

 

 ……とまあ内心で騒いでみたのは良いものの……どうしよう。まさか本当に見つけちゃうなんて。一応戦って捕らえようとした方がいいよね? 今はまだ結社と《黒の工房》は敵同士で私結社側として《地精》とはやり合うように言われてるし。

 ただこの時のクロ──《蒼のジークフリード》さんって不死者だから死なないし、強くもなってるんだよね。そういう意味じゃ手強いけど殺さないように気をつける必要はないんだよね。ある意味でやりやすい。まあそれでもできれば戦いたくはなかったけども……。

 

「ほう……何か嫌なものを感じるな。これが滲み出る《修羅》の気……暗殺者としての凄みというものか。これはこちらもとっておきの手札を切る必要がありそうだ」

 

「え?」

 

 え、とっておきの手札? なにするつもり? まさかとは思うけど──

 

「来い──オルディーネ!」

 

 ──うわあああああああ!!? そのまさかだったー!? なんで私相手だとみんなこうあっさりと騎神呼んじゃうのー!? もっと隠してよー! 絶対今じゃないでしょ! 来てー! テスタ=ロッサー! 

 

「……! ……まさか貴様も騎神の起動者……それも《緋の騎神》の起動者だとはな。なるほど……()()()()──面白い」

 

 って、聞いてなかったんかい! 教えとけアルベリヒ! 根回しの鬼のくせにこういうとこでサボるな! 

 

「はぁ……騎神同士で戦えるのは安心だし楽しいけどバレたらマズいし早々に切り上げないとなぁ……」

 

「アーヤよ。どうやらこの地も七耀脈に異常があるようだ。もしかしたら影響が出るやもしれん。一応気にとどめておくのが良いだろう」

 

「まあプレロマ草が生えてるくらいだから分かってたけど……オッケー。それじゃとっとと戦うポーズだけ見せてとんずらするよ!」

 

「復活した《緋》がどの程度のものか……試させてもらおうか!」

 

 そうして私とクロ……《蒼のジークフリード》は互いに騎神を呼び出し、ミシュラム近くの湿地帯で少しの間、密かにやり合うことになった。テスタ=ロッサの話だと七耀脈に異常があるって話だけどまあ大丈夫でしょ。──あっ。あんなところにもプレロマ草が生えてる。しかも結構沢山。

 でもまあ今は戦いに集中しよう! おらー! 私とテスタ=ロッサの力を思い知れー! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──七耀暦1206年。5月20日。

 

 その日の夜。クロスベルのオルキスタワーでは予定通り晩餐会が開かれた。

 なのでオリビエ……オリヴァルト殿下にアルフィン皇女殿下やレーグニッツ帝都知事、ラインフォルトグループのイリーナ会長とか名だたる要人がクロスベルの視察も兼ねてその晩餐会に参加してた。

 

 だけど──

 

「あははははっ! あー……笑った笑った。それじゃ今後こそ幕引きかな? 一応言っておくけど()()は僕たちのせいじゃないからね? 悪いのは多分、ボクたちとは別の勢力とそこの総督閣下だろうからさ」

 

「じゃあな、クルーガー。灰の小僧どもに放蕩息子も。アーヤは後で合流は……ま、今回は一応、そっち側につくんなら無理か」

 

「《実験》が成功した暁にはもう一度だけ挨拶に伺おうかな? ──今宵はお付き合い頂き、真にありがとうございました」

 

 ──その晩餐会には結社《身喰らう蛇》が襲撃を仕掛けたことで騒然となった。

 

「……ぁ……」

 

「私たち……夢でも見ているの……?」

 

 まあ……色々あってマクバーンにカンパネルラも神機と共に去っていってしまった。

 生徒たちも動揺してる。いや、みんな動揺してる。そんな中でクロスベル州の総督であるルーファス・アルバレアは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、極めて冷静に努めた声で告げた。

 

「……さて、当面の脅威は去ったが……これは帝国の英雄に()()()()()一働きしてもらう局面となったかな」

 

「……………………」

 

「君は……」

 

 そしてそれにリィンくんは無言。オリビエも疑問を意味する呟きを口にする。

 誰もが言外に言いたいことを飲み込んでいた。もちろん、私も。なのでそこで発言するのはクロスベルを誰よりも思っている彼女だけ。

 

「どうして……?」

 

「……ユウナ……」

 

 そう、それは新Ⅶ組のユウナ・クロフォードちゃん。

 このクロスベル出身でこのクロスベルが大好きなユウナちゃんはリィンくんの胸に縋り付く。

 

「ねえ……どうしてあたしたちの誇りまで奪おうとするの……?」

 

 耐えられなかったのだろう。ここまでクロスベルの苦境を我慢してきたユウナちゃんも、この事態には抑えきれない感情を吐露してしまう。

 

「自治州を占領して、勝手に共和国と戦争して……あんな列車砲まで持ち込んで……あんなものまで生み出して……」

 

 そう言いながらユウナは一度、横を向いて視線を遠くに向けた。

 その視線の先は言うまでもなくミシュラム方面だ。ロイドくんたち特務支援課関係者が閉じ込められているその場所。

 

「あたしたちの光を……たった1つの希望を……」

 

 それが奪われたことを知って、ユウナちゃんは告げた。

 

「──返して……!」

 

 今はもうない。クロスベルという自治州の在るべき姿も。そこにいた筈の英雄も。

 ──目玉だったテーマパークも。全て()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()

 

「あたしたちのクロスベルを! あの自由で、誰もが夢を持てた街を! 元通りの悪趣味じゃないクロスベルを!」

 

 ──そしてユウナちゃんは言った。オルキスタワー屋上からでもその姿が確認できる……新たなテーマパーク。視界に映る巨大な看板と城と銅像を。

 

「返してよおおおおおおおッ──!!」

 

『クロスベル・ところてん☆ルーファス仮面ランド♡』

 

 ──ふざけすぎている新たなテーマパークが、そこには建っていた。

 

 具体的に言うのすら憚られるけど……具体的に言うと、そのふざけたテーマパークの名前が大々的に書かれた看板とマスコットと思われる『ところてん☆ルーファス』の彫像……海パンにスケスケのタキシードにマント。申し訳程度に目元を隠す仮面とシルクハット。そして、なぜかところてんを手に持っていて、なんならところてん塗れと思われる透明感とぬるつき具合が半端じゃない……そんな巨大なところてんの像と城が出来ていた。

 

 それを見たみんなは……なんとも言えないお通夜というか、変な空気感を醸し出していた。うん…………ま、まあほら……す、すぐに元に戻ると思うよ? 星見の塔でマクバーンとかカンパネルラを退けたらさ。もしくはあのテーマパークの中にいる特務支援課がなんとかしてくれると思うし……わ、私も全力で協力するからさ! 元凶が誰かも知ってるし! これも全部、そこにいるルーファスと隠れてる《地精》とか《蒼のジークフリード》とか《黒のアルベリヒ》って奴らが悪いんだ! 私は悪くない! だから絶対に許さないぞ! 変態の《黒のアルベリヒ》に変態仮面のルーファス・アルバレア……! クロスベルを返せー! ユウナちゃんと一緒にデモするぞー! …………よし、これで誤魔化そう! 私は何も知りません! いや実際なんでああなったのかはよく分かんないし! だからみんなで協力して元通りのクロスベルを取り戻そうね! あはは……。

 




返して(切実)

めっちゃ内容詰め込んだというか濃い回ですまぬ……ということで今回はここまで。没会話というか細かすぎて入れれなかった部分としてシャロンさんが過去を語る時にアーヤちゃんも《月光木馬團》の出身だと明かすシーンや、前回のハーメル村の後でレーヴェとレンとアガットとティータやらの会話とか色々あったけど入れれなくてごめんね。もしかしたらレン視点とシャロン視点を後に書く時に入れるかもしれないけど。

次回は蒼のジークフリード視点とかリアンヌママ襲来でアーヤちゃんのスーパー言い訳タイムが始まったり日常を楽しんだりとか色々です。ところてんルーファスは1日で崩れ去る運命ですがご了承ください。

感想、評価、良ければよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。