──わたくしが最も敬愛し、忠誠を誓う相手は言うまでもなくリアンヌ様……ただ1人です。
……ですが最も仲が良い相手……と聞かれたならあまり口に出したくはありませんがアーヤになるでしょうね。
アイネスとエンネアも同じ主に仕える鉄機隊の同士であり、志を同じくする仲間ではあることに間違いはありません。
ですが“友人”という関係性が当てはまる相手は2人よりアーヤの方が近いでしょう。
彼女とはわたくしがリアンヌ様に救われ、結社《身喰らう蛇》に所属することになった時からの付き合いです。
まだ鉄機隊という部隊がなかった時。わたくしはまだリアンヌ様の部下……と言えば聞こえはいいですがあの頃のわたくしは実力もなく執行者でもない。執行者候補ですらない小娘でしたわ。
『初めまして! あなたがデュバリィちゃんだね! 私はアーヤ! 一応執行者のNo.ⅩⅢで《血染の裁縫師》って呼ばれてるよ! よろしくね!』
そんなわたくしにどこから噂を聞きつけたのか、真っ先に声を掛けてきたのがアーヤでしたわ。
わたくしと同じ年頃の少女でありながら既に執行者の座についている相手。それを聞いてわたくしは同い年ではあっても相手の方が目上であると判断し、礼節を損なわぬよう敬語で相対しました。
……まあそれも良く言えばの話で実際はそっけない態度であったと記憶していますが……そんなわたくしに対してもアーヤはあの底抜けに明るい笑顔でわたくしに接してきました。
裏の住人とは思えない空気感を持つ相手。とても執行者で優秀な暗殺者だとは信じられませんでした。
ですが一度、リアンヌ様と共に稽古を行ってみれば一目瞭然。些か騒がしかったのはありますが、それでもかなりの達人であることはすぐにわかりましたわ。
同い年でもこれほどの差がある。わたくしはそれを思い知り、より一層奮起しなければと自らを高めることにしました。
そしてその同い年でわたくし以上の実力を持つアーヤをライバルと定めたのですが……そう思った矢先にわたくしはアーヤを同士だと認めてしまったのです。
最初の稽古の後、アーヤはリアンヌ様のことを褒め称えました。その言葉はとても嘘とは思えず、心の底からリアンヌ様を敬愛している様子であり、わたくしもついその言葉に同調してしまったことを覚えています。
そしてあれよあれよと互いにリアンヌ様の良いところを口にしあい、気づけば食事を一緒に囲み、気づけば夜通し語り明かし、気づけばよく一緒に稽古をするようになり、気づけばアーヤと一緒にいる時間が長くなっていました。
わたくしも稽古をつけてくれたリアンヌ様や半ば強引に勝負を挑んだ《剣帝》……レーヴェのおかげもあって徐々に強くなり、アーヤとの仕合でも互角に立ち回れるようになりました。
その頃には同じくリアンヌ様に救われたアイネスやエンネアも結社に加わり、程なくして鉄機隊という第七柱直属の戦闘部隊が創設され、わたくしは光栄にもその筆頭に選ばれることになりましたわ。
その時のことは今でも覚えています。忘れられるわけありませんし、未来永劫わたくしにとっての誇りとなる──わたくしはリアンヌ様に忠誠を尽くし、あの方の剣となり盾となることをこの身に誓いました。
そしてより一層実力を高めるべく邁進し、結社の任務にも多く従事し、実戦を幾度と経験して修羅場を乗り越えてきました。
執行者の方々とも共に任務をこなすことも増えて、その身勝手というか癖のある方ばかりの彼らに苦労させられることも少なくありませんでしたが……とはいえこれもリアンヌ様のためと思えば苦ではありません。その日々は充実していたと言えるでしょう。今もなお、わたくしはわたくしの進むべき道に疑いを持っていません。
──そしてアーヤのことも……わたくしは超えるべきライバルとしての想いを募らせてきました。
アーヤはかつて教団にその身を汚され、非道な実験の数々を受けてきた。その後に第四柱《破戒》や同じく執行者となった《黄金蝶》や《死線》といった方々と共に結社入りしたと聞いています。その経歴の凄惨さも相まって、彼女が暗殺術を扱うことや教団の関係者を今なお狙って暗殺していることも理解できます。
ですがわたくしはアーヤを哀れみませんし、同情も致しません。
アーヤは過去を乗り越え、強くなっている。力をつけ、表でも裏でも自らの能力を発揮し、いっそ呆れるほどに明るく今を生きています。少なくともわたくしはそう思っています。
とんでもない常識外れな行動……ふざけた言動の数々も馬鹿じゃありませんのと思わず苦言を呈してしまうことも多々ありますし、それに不甲斐なくも巻き込まれてしまうことは遺憾と言わざるを得ませんが……まあ、それもアーヤがアーヤらしく生きている証拠だとわたくしは思っていますわ。
ですからわたくしはアーヤに哀れみもしませんし、同情もしない。……ただ困っていれば力を貸すことはやぶさかではありませんが……それは仲間……いえ、友人として当然のことでしょう。
そしてそんな尊敬すべき友人だからこそ、わたくしはライバルとしてアーヤを超えたいとそう思っていますわ。
──そう……ゆえに今日のこの日。この時は絶好の機会でした。
「……! デュバリィちゃんまた速くなった!? 結構キツイんだけど!」
「いつまでも同じ速度で留まるわたくしじゃありませんわっ!」
リアンヌ様に付いて訪れた帝国西部。ラマール州の海上要塞。その屋上でわたくしはアーヤと本気の戦いを繰り広げている。
普段の訓練における仕合とは違う。敵同士であるからこそ実現する実戦。相手を害し、排除するために刃を振るう。わたくしはアーヤのライバルとして、本気のアーヤと戦うことを望んでいたからこそ。稽古では見ることのできないアーヤの姿……相手に気の一切を気取られず、一瞬で相手の命を奪ってしまうその絶技を知っているからこそ、わたくしはただの稽古で互角になった程度では満足できませんでした。
アーヤが強いのは実戦。その実戦で一本を取らなければ本当の意味でアーヤを上回ったことにはなりえません。
ですからわたくしはいつかこの時が来ることを願い、それを見据えて自らを高めてきました。対策も何もなくアーヤと戦えば、遅れを取ることは想像に難くない。正面からアーヤを打倒できるのはそれこそ《理》に至った者やそれに比肩する達人とならねばなりません。
それこそ全く同じ時、同じ場所で刃をぶつけ合っているリアンヌ様とレーヴェ……お二人の域にはまだまだ到底遠い──何段も下にいるという自覚はあります。
対するアーヤは、その暗殺術だけで言えば既に右に並ぶものはいない伝説の暗殺者。アーヤの師でもある《黄金蝶》ですら、正面からの戦いはともかく、隠密能力や奇襲に関してアーヤに超えられてしまっていると本人が口にしていました。
それに対応するのであれば……わたくしにはやはり、速さしかありません。
マスターに授けられた《神速》という異名。それに恥じぬように、わたくしは自らの長所でもある速さを更に高め、アーヤに対応することにしました。
「な……何あれー!?」
「ほう……裏に名高い伝説と《剣帝》の決闘か。口惜しいが先を越されてしまったようだな」
「そしてもう一方はアーヤ教官と……」
「先ほどのあの騎士……《神速》のデュバリィと言ったか。まさかこれほどだとは……!」
「凄まじい戦いだな……」
「フフ……これは見るべき場所に困ってしまうな。伝説にかの《剣帝》が挑む……その戦いも捨てがたいが……こちらもこちらで達人同士の技のぶつかり合い……それも僅かでも目を離せば見逃しかねない高速の──いや、神速の応酬だ」
意識の外から声が届き、屋上にリィン・シュバルツァーが率いる旧Ⅶ組……《黄金の羅刹》も含んだ彼らが屋上に到達したことをわたくしに知らせてきます。
しかしそちらに意識を割いている余裕はありません。わたくしは、今なおアーヤとの本気の戦いに臨んでいるのだから。
アーヤの神がかり的な気の扱い。殺気や敵意を感じることはできず、僅かに周囲に浸透する《修羅》の気ですらアーヤの姿と共に消えてしまう。
一度でもアーヤを見逃せばアーヤは奇襲を仕掛けてくる。その刃は無機質かつ冷酷無比。相手の急所を鋭く正確に狙ってくる。
それを防ぐためにも、あるいは奇襲されても対応するためにも、わたくしには速さが必要だった──それこそ、今までの倍以上……
「いや速い速い! デュバリィちゃん速さが足りすぎてるよ!」
「本気の貴方と戦う時のために速さをひたすら追求しました……! 貴方が奇襲を仕掛ける瞬間さえ見逃さなければ奇襲されることはありません……! これで逃がしませんわよ……!」
「対策が脳筋すぎるって! むしろ頭脳が足りないっ!」
「なんとでも言うがいいですわ……!」
そう、もはやアーヤからの煽り文句なんて耳に入らない。わたくしはアーヤに肉薄し、剣を振り下ろす。それをアーヤが防ぎ、幾度と鋼の音が連続し、そうしてアーヤは消える。
だけどわたくしはアーヤが消えた瞬間、アーヤを撹乱するために動き続けた。如何に不意打ちが上手くとも、本体がどれか見極められなければ不意打ちは機能しない。
アーヤの方も7体程の分け身を生み出すほどの速さで対応していますけど速さにおいてはこちらが勝っていますわ。アーヤの奇襲を防ぎ、そのタイミングで反撃を行う。おそらく外部からは、それこそ達人でなければ理解しがたい光景の勝負となっているでしょう。トールズ新Ⅶ組の雛鳥から見れば、残像が常に行き交い、アーヤは時折消え失せ、刹那の後に現れ、わたくしもまた速さで消える──そんな光景となっているでしょうね。
ただ速さにおいて勝っていてもアーヤは容易く打ち崩せる相手ではない。それでこそわたくしのライバルと思う一方、アーヤはまだまだこんなものではないと思う気持ちがわたくしの口を動かした。
「その程度ですのアーヤ!? もっと本気を出しなさい!」
「出してるってば! 他に手がないんだよ! それにあんまり卑怯な手使うとデュバリィちゃん怒っちゃいそうだし!」
「わたくしも見くびられたものですわね……! いいから何でも使って本気を出しなさい! 何をされようとわたくしが怒ることはありませんわ!」
「っ……なら本当に怒らないでね!」
この期に及んで出し惜しみをするアーヤにわたくしは本気を出せと剣と共に迫る。アーヤはそれを受け止め、ようやく何かをする構えを見せた。そう、それでいいのですわ。わたくしはアーヤのライバル。何をしてくるかおおよその予想はつきますし、何をしてこようとわたくしは対応してみせますわ……! だから本気で──
「喰らえ! 7分の1スケールリアンヌ様フィギュア! 兜に鎧もキャストオフバージョン!」
「っっっ!!? なっ──」
──アーヤが懐から取り出して投げつけてきたそれを見た瞬間、わたくしの思考は一瞬真っ白になり、意識がそれに持っていかれました。
それは精巧な、本当に精巧な、リアンヌ様の人形。ローゼンベルク人形もかくやというとんでもない出来の、リアンヌ様の美しさを見事に現した人形。
し、しししかも……鎧と兜を脱いだ私服姿にも近いリアンヌ様の御姿で……!!
「な、な、な……何を作っていますのー!!?」
「あ、隙あり。ていっ」
「ふぐっ!!?」
わたくしは投げつけられたそれを思わずキャッチして手にとってしまい、叫びかけ──その瞬間、背後からアーヤが《ゾルフシャマール》の面の部分でわたくしの頭をぶっ叩き、鈍く重い痛みを受けてわたくしはその場に倒れました。
「お、勝っちゃった。わーい。これで一本だね!」
「い、一本だね……じゃ……あ……ありませんわーっ!!!」
ですが気絶するほどではなかったため、わたくしはすぐに起き上がる。鈍い痛みと共に怒りが湧き上がったがため、アーヤに直ぐ様詰め寄った。
「ちょっとアーヤ! 貴方、何をしていますのっ!? こ、こんなものをいつの間に作って……! しかも投げつけてくるなんて……! 卑怯にも程がありますわよ!?」
「い、いやまあちょっと趣味で作ったら結構良い感じのが出来たから……と、というか怒らないって言ったじゃん! デュバリィちゃんが何でもしていいって言うからやったんだけど!」
「だからと言ってリアンヌ様を使うのは反則ですわ!」
「ぶー! 反則じゃありませんー! アイテムで気を引くのはレギュレーションに反してないですー!」
「だから限度というものがあるでしょう!? そもそも以前似たような手を使ってきた時にリアンヌ様を扱ったものは禁止だと言ったはずですわ!」
「……そんなこと言ってたっけ?」
「言いましたわ! 大体貴方という人はいつもいつも……!」
わたくしは勝負において禁止にしていたものを持ち出されたことから熱くなってアーヤに不満を浴びせまくる。
──その間にリアンヌ様とレーヴェの戦いも終わっていましたが……。
「……フフ、さすがですね。レオンハルト……今の貴方は、人であった頃の私を既に超えています」
「だったら最初からこれは禁止って言うべきでしょ! そもそも本気でやってほしいって言ったのはデュバリィちゃんじゃん!」
「貴方に認められるのは光栄だが……今の貴方に届いていないのも事実だろう」
「そ、それはそうですが……だからといってリアンヌ様を持ち出されてはわたくしが放っておける筈がないことは貴方もお分かりでしょう! こんなものを使われては勝負どころじゃありませんわ!」
「それでも人としての高みに達していることに変わりはありません。そちらの《黄金の羅刹》と同様に」
「それはデュバリィちゃんが気にしないようにすればいいだけじゃん!」
「良い勝負を見せてもらった。──が、見るだけでは収まりが効かん。できれば手合わせを願いたいところだったが……機を逃してしまったか」
「そもそもこんなものを無許可で作るなんて……み、認められませんわ!」
「ええ。条件は整いました。そして──ここから先は《巨イナル一》に関わりし者の領域」
「確かに本人の前で出すのはちょっとアレだけど一次創作はリアンヌ様も認めてくれてたもんね!」
「なに……!?」
「その言葉は……!」
「あの《夢幻回廊》の果てで耳にした……!?」
「だとしても慎むべきでしょう!?」
「《灰》の起動者、リィン・シュバルツァー。そして準起動者たちよ。──覚悟はいいですね?」
「望むところ──ここからが本番だ……! ユウナにクルト、アルティナ、アッシュにミュゼ! ユーシスにミリアム、ガイウス、サラ教官も! どうか──力を貸してくれ!」
「デュバリィちゃんのバーカ!」
「い、いやそれは勿論貸しますけど……」
「貴方にだけは言われたくありませんわ!」
「ああ……」
「……よくあのどうしようもない喧嘩を無視できんな……」
「話があまり頭に入ってこないのですが……」
「おそらくリィン教官たちも結社の方々も慣れているのでしょうね……」
「……アーヤ。それにデュバリィも。そろそろ気を静めなさい」
「……! も、申し訳ありませんマスター!」
「ご、ごめんなさいリアンヌ様……」
──そうしてわたくしがアーヤと言い合っている間に、実験は佳境を迎えました。わたくしとアーヤはマスターに注意されて喧嘩を止めましたが、見苦しいところを見せてしまいましたわね……。
その後はリィン・シュバルツァー率いるⅦ組が神機を打倒し、リアンヌ様がわたくしたちも知らない何かを見せて神機を破壊しましたが……撤収命令が出たため、わたくしたちは最後に見た何かが気になってしまいながらもこの地から撤退するために動くことに致しました。
そしてわたくしはどさくさに紛れてアーヤから受け取ったリアンヌ様の人形を受け取ったまま帰路についてしまいましたが……こ、これはどうすればいいんですの……? アーヤに返すか、それとも処分するか……い、いえ、人形とはいえこれもリアンヌ様。処分するわけには……。
と、とりあえずそのまま置いておくのも埃が被ってよくありませんし、ガラスケースなどに入れて保存しておくしかありませんわね……それにしてもこんなものを作ってしまうとは……くっ……やはりアーヤはわたくしのライバルですわ……! 今回は不覚を取りましたが、次こそは決着をつけてやりますわよ……!
──どうも。《庭園の主》アーヤ・サイードです。なんでこの名乗りを使うかって言うと久し振りに《庭園》の管理人を集めての会議を共和国で行ったからだね。
いやーメルキオルから連絡を受けた時はめちゃくちゃ焦ったけどなんとか話がまとまって良かった。エンペラーは死にかけたけどなんだかんだ生きてたし、逃げ出したらしいすーなー。剣の園に所属していたスウィン・アーベルとナーディア・レインの2人も殺すつもりはなく連れ戻す方向になった。一応追手は出すけどね。そして《3と9》っていう小説を出版してそれを構成員への指令とすることになった。それ聞いて誰が書いてるのか気になったけどなんでも《庭園》の構成員の中には小説家もいるらしい。はえー、色んなところに手が回ってるんだね。
まあスウィンくんとナーディアちゃんには気の毒だけど、これも2人を保護するためだ。捕まえたら私の《血の園》に所属させる形をなんとか取ってエースくんに会わせてあげよう。スウィンくんにとっては兄貴分だし、ナーディアちゃんにとっては実の兄だからね。これは喜ぶぞー。なので全構成員に2人を何としても捕まえるように珍しく《庭園の園》として管理人たちに指示を出した。これで良し。ちゃんと保護してあげるって伝えてね。悪いようにはしないってことも。危害もあんまり加えないでね。
本当は私が行けたらいいんだけど生憎と忙しすぎてね……そしてエースくんにはサプライズしてあげたいから黙っておいた。エンペラーはちょっと心配だけど、最近はどういうわけかエンペラーもメルキオルも私の言う事ちゃんと聞いてくれるんだよね。だから多分大丈夫だと思う。そもそもエンペラーも今は直接動ける状態じゃないしね。アリオッチとオランピアちゃんもいるしきっと大丈夫。《庭園》も原作よりはマイルドになったと思う。組織の運営状況も聞いたけどそんな感じだった。
なのでスウィンくんとナーディアちゃんについては一旦保護のために追手を出す感じで保留にしたんだけど……その後がちょっとビビったというか、びっくりなことがあった。
共和国に1日戻ったのでその時にアナ先輩──私のブランドの専属モデルを務めてくれているアナスタシア先輩にパーティに誘われてね。アナ先輩はカルバード王国時代に伯爵家だった結構な名家なので政財界のお偉いさんと付き合いがある。学生時代は私のブランドを立ち上げるためにそういったパーティに参加して私の仕立てた衣装を宣伝してくれたんだよね。そこから噂が広がって依頼が舞い込むようになったという、私にとって自分の仕立てた服が色んな人に行き渡るようになった恩人の1人でもある。
そんな恩があるアナ先輩たっての頼みということなので、私はパーティに参加することにした。そんなに大々的なものじゃないし、マスコミもいない。単なる社交パーティだ。
……ただまあその目的は色々あるって教えてもらった。というのも共和国じゃ大規模な選挙が──4年に1度の大統領選挙が控えてるからね。8月に行われるんだけど結果によっては与党と野党が入れ替わることになるし、共和国にとっては結構大きなイベントだ。
なので政治家もそれを後援する企業とか旧名家もみんなめっちゃ忙しく動き回ってるのだとか。まあ十中八九与党側が勝つとは言われてるんだけどね。
ちなみに現在の与党は《共和党》。その代表は現職の大統領サミュエル・ロックスミスだ。2期連続で大統領に当選してるし、納得の候補だろう。庶民派の人の良いおじさんっていうのが世間からの評判だ。
そして野党からも当然何人か候補者が出てるわけだけど……まあ私にはあまり関係ないよね? 一応選挙権はあるし投票もしようとは思ってるけどただの一票でしかないし。なのでパーティで政治家に話しかけられたとしてもそれとなく躱そうかなーって思ってたんだけどさ。
「では改めて──お初にお目にかかる。《愛国同盟》に所属している。ロイ・グラムハートだ」
「あ、あはは……初めましてー……ファッションデザイナーのアーヤ・サイードです……」
「一度お会いして話がしてみたかったところだ。引き合わせてくれたアナスタシア嬢には感謝しないとね」
──で、なーんかいつの間にか私の目の前には最大野党《愛国同盟》に所属する議員で大統領候補でもあるロイ・グラムハートさんが私に向かって手を差し出してきて、しっかりと握手をすることになってしまったわけだけど……。
……いや、なんでいるの!? というかなんで私に会いに来たの!? 怖い! 何が怖いって何を考えてるか分からないのが怖い! だって知らないからね! 黎の軌跡シリーズは最終的にどうなるか私知らないし! その頃には共和国の大統領になってるんだけど裏で何か計画を進めてるみたいだし、結社とも協定を結ぶくらいは裏のある人だし! 見た目はイケオジだし声もカッコいいけど怖いよ! マジで何考えてるんだろうね! 黎のヒロインのアニエスちゃんの父親なのは知ってるけどこの人も親バカなんだろうか? いやでも帝国編に続いてまたラスボス候補が親バカなんてことある? ……いやあるかも知れないけどさ……でもないかもしれないじゃん! ものすごく悪い人かもしれないからね! 信用できない! 会場じゃなくてなぜか個室で話をしようって個室に連れ込んだのも怪しいし!
「あはは……それはそれは。でも大統領候補が私に一体どんな用件で……?」
「私が君に会いに来ることがそんなにおかしいかな? 君はたった5年で驚異的な成長を遂げた共和国有数の大企業、サイードグループの創始者にして会長だ。共和国の政治家であれば一度は会って話がしてみたいと思うのは自然なことだと思うがね。──それとも私に会いたくない理由があるのかな? あまり表の政治家に会いたくないような裏の理由が」
「ど、どうなんでしょうねー。別にそんなことはありませんけどー。あははー……」
──もうやだ! 怖い! なんか含みがある! いやまあ絶対知ってるんだろうけど! 私が結社の執行者だってことくらい! でもそんな匂わせないでいいじゃん! 終いには帰るぞ!
「フッ……腹の探り合いは苦手かな? まあそう警戒しなくてもいい。確かに私は君の裏の顔を把握しているが、それを追求したり殊更問題にするつもりはないよ」
「そうなんですか……?」
「ああ。教団のことについても私はむしろ政治的に働きかけ、被害者のプライバシーを守るために隠蔽工作を主導させてもらったのだが……知らなかったかね?」
え? そうなの? それは知らなかった……でも知らないって言うとなんかカードを握られた感じがあるから黙ってよう! 何も答えないぞ! 楽園仕込みの営業スマイルを喰らえ!
「──ええ、それは勿論。その節はどうもありがとうございます」
「……いや、礼を言う必要はないさ。むしろこの国の政治家の1人として、教団の悪行を止めることをできなかったことを申し訳なく思っている。教団の残党狩りについても、本来であれば共和国が率先して行うべきものだった」
「グラムハート先生が気に病むべきことではないと思いますよ? 悪いのは教団ですしね」
「だとしてもだ。共和国内の問題は我々共和国の政治家が率先して解決すべき事柄だからね。心遣いは有り難いが、勝手ながら責任を感じさせてもらっているよ」
「は、はぁ。それはなんというか……えっと、ありがとうございます?」
なんか……独特なオーラのある人だなぁ……オズボーンさんとはまた違ったやりにくさがある。頭の良い人はこれだから怖い。こっちも営業スマイルで対応してるけどなんか全部見抜かれてそう。とりあえず政治家だし、先生って呼んでおだてておけばなんとかなるかなって思った私の浅はかさがすごいよね。バカっぽくて。
「フッ……では過去についての話はここまでにしておこう。私の用件は
「はぁ、未来というと?」
「この時期だ。君も私に話しかけられた時点で予想していただろうが……8月に行われる大統領選挙の協力を頼みたい」
「大統領選挙の?」
「ああ。頼めるかね?」
なんか選挙の協力頼まれた。えぇ……なんで私? いらなくない? 私が何かしなくてもグラムハートさんなら選挙に勝てるんじゃ……それ聞いてみよ。
「えっと、なんで私に協力を?」
「選挙での勝利を確実なものとしたい。それだけだよ」
「? それで私に? もしかして何か裏工作とかを頼みたいってことですか?」
「フッ……」
なんか笑われた。は? 何わろてんねん。私をバカにしてんのか! こらー! あんまりバカにすると紅茶にヤバいもんぶち込むぞ! 具体的には身体が熱くなる薬をサーッとね!
「いや、すまない。予想外の答えが来たものでね。裏工作か……確かにその類も有用ではあるだろうがこれはもっと単純な話だ」
「単純な話、ですか?」
「ああ。君の会社は共和国で第4位の総資産を誇る巨大なグループ企業だ。成長率も考えれば共和国内での影響力はヴェルヌグループや九龍グループに勝るとも劣らない。味方につけることができれば選挙でもかなり有利になる」
「…………そういうことですか」
は、はーん……な、なるほど。そういうことね、完全に理解した(してない)。つまり私の会社を味方につければ選挙が有利になるってことね。なるほどなるほど。
……なんで企業を味方につけたら選挙で有利になるんだろ? 不思議だなぁ……お金でも融資すればいいんだろうか? それとも社員に投票するよう告知すればいいの? でもそれって選挙法的に禁止じゃなかったっけ? あれ? どんな仕組みで有利になるんだろ? 不思議だなぁ……でもわかってなかったらすごいバカって思われそうだから分かった振りしとこ……。
「えっと……その見返りは何かあるんですか?」
「そうだな……勝利した暁には大統領の権限をもって君の会社に不必要に干渉しないことを約束しよう」
「はぁ……干渉しない?」
「ああ。要するに今まで暗黙の了解と化していた君への配慮を大統領の権限で正式に約束しよう。君の表の立場を保証させてもらう。君が裏でどのような活動を行おうが、それは君の表の顔とは切り離して取り扱う。仮に君が国際的な犯罪組織の一員として何かを行ったとしても、それで君の会社に問い合わせたり、裏の顔を明らかにしたりするようなことはしない。──そんな報酬であればどうかな」
「──乗った! よろしくお願いしますグラムハート先生! いや閣下! いや次期大統領! 私はグラムハート閣下を支持します! 《愛国同盟》ばんざーい! ばんざーい!」
──私は即座にグラムハートさんの手を取って力強く握手を交わし、両手を上げて万歳をした。頭の中ではミニアーヤちゃんたちが紙吹雪を撒き散らしながら拍手喝采。全員で万歳してる。テスタ=ロッサは「安請け合いしても良いのか?」と疑問を呈してたけどへーきへーき! 私が協力しようがしまいがどっちにしろグラムハートさんが勝つことには変わりないしね!
「あ、ああ。即決だな……だがまあ受けてくれるのであれば有り難い。これからも同じ共和国人として良き付き合いをしようじゃないか」
「はいもちろんです! 政治資金に困ったらいつでも言ってくださいね! ちょっとした裏工作もお任せを! ネガティブキャンペーンでも選挙妨害でも何でもしますから!」
「フ……それは頼もしい。もし困った時は相談させてもらうとしよう。──共和国の輝かしい未来のために」
「はい! 頑張りましょう!」
私はそうしてグラムハートさんと契約を結んだ──ということで私は《愛国同盟》支持者です。それも熱心な。え? 《共和党》? サミュエル・ロックスミス? 誰それ、外人? 歌? 共和党とか時代遅れでしょ。あんなのただの小太りおじさんじゃん。《黒月》とも繋がりあるしあんなマフィアと繋がってるような人は大統領に相応しくないと思うなー。やっぱ時代はイケオジのロイ・グラムハートさんよ。愛国同盟しか勝たん! 最初からグラムハートさんは信頼できる人だなって思ってたんだよね。多分共和国の未来はグラムハートさんにかかってると思うし、多分悪い人じゃないよ。ただの親バカだと思う。なんで分かるのかって? そんなことすぐわかるに決まってるでしょ? なぜなら私はロイ・グラムハートを信じている! グラムハートさんは(多分)良い人! なんか世界にとって良いことをしようとしてるだけの善良なゼムリア人だ! うおおおおおお!!
……いやまあほんとは悪い人かもしれんけどその時はその時だ。契約は選挙の協力だけだし、それ以外でなんかやべーことしようとした時は普通に掌返しする。良い人であれば良いとは思うけどね。オズボーンさんパターンで悪いことしてても実はってこともあるし。とりあえず私は帝国に戻らないといけないし、細かいことは秘書のセラちゃんに任せることにした。がんばってねー。適度に休みは取ってねー。
──さ、そういうわけで私はウキウキで帝国に帰って教官生活に戻った。
ラマール州での特別演習も無事に終わって7月。トールズでは定期試験が行われることになって生徒たちは頑張って勉強してたし、私も教官の1人として勉強を教えた。えーっと……帝国史? し、獅子戦役ならなんとか……そもそも帝国史って実はめちゃくちゃややこしいんだよ。ゲーム内じゃ獅子戦役とか主要な部分しかクローズアップされてなかったから割と簡単に見えるかもしれないけどよく考えてほしい。エレボニア帝国ってのはゼムリア大陸で1番歴史ある大国で大崩壊後から1200年近い歴史があるわけだ。そして呪いのせいで戦乱が絶えない血と焔に塗れた歴史でもある。
つまり1200年分の戦乱の歴史があるわけで……どこどこの領地の貴族がどの王についてどういう風に戦ってどういう風に戦況が変化してどういう風に王が代わっていったかって馬鹿みたいな量の歴史があるんだよ! これがややこしくてしょうがない! もちろんずっと常に戦争してたわけじゃないとはいえ1200年分の戦国時代の歴史があるみたいなもんなんだから! そりゃ獅子戦役とかドライケルス周りくらいはわかるけどそんなの戦国三英傑だけ知ってるとか桶狭間の戦いと関ケ原の戦いだけしってるとかそういうレベルだから! そんなの基本なんだよ! だから実は授業とか試験になるともっと細かい部分も出るんだよね! 範囲はそりゃ決まってるし資料の少ない昔ほど内容は薄いけどさ! それでも多い! よくみんな出来るよね……リィンくんもよく教官なれたよね。優秀なんだな、リィンくん……。
そもそも私の得意教科は芸術全般と実戦技術と薬学とかなんで……他はまあリィンくんとかトワちゃんとはミハイル教官に任せたい。導力技術も分かるほうではあるけど……正直そこまで自信はないなぁ……。
まあでもテストを受けるのは生徒だし、うちの生徒たちは優秀だからあんまり心配していない。私は本校の芸術科の教官であるメアリー教官と久し振りに再会してテスト内容を決めたりした。今回の試験は本校と分校同じテストを受けることになってて、順位も本校分校合わせての順位となる。
普通に楽しみだなーっと思って私はテストの日はカンニングしないように教官として見張ってた。ふふん、どんなカンニングも見逃さないぜ。
でも誰もカンニングしてなかった。皆良い子たちだ。そんな良い子たちだからか分校長もテスト後に特別授業って名目でプールを解放して皆で水遊びをすることになった。もちろん私も競泳水着を着て参加だ! 赤色の旧スクでいいよね。私がデザインした。競泳水着ってさぁ……エッチだよね。だって肌にピッチリ張り付くから身体のラインがはっきり出ちゃうし。私も我ながら結構いい身体してるし、ユウナちゃんとかミュゼちゃんとか、というかほぼ皆スタイル良い子ばっかりだから男の子からしたら結構目の毒だと思う。トワちゃんとかアルティナちゃんみたいなロリもこれはこれで全然エッチだしね。ちなみにレンもそれなりに成長してた。ティータちゃんと同じくらいかな。まだまだ成長の余地がありそうでいいね。
そしてその後はアインヘル小要塞のテストをレンと一緒に観戦したり、次の特別演習先が帝都ヘイムダルに決まったりした。その時にサラちゃんにフィーちゃん、ラウラちゃんにヴィクターさんまで来てたからびっくりしたけどそういえばこんな展開だったっけ。なので久し振りにサラちゃんをからかっておいた。まあ先月のラマール州でも結構色々と楽しくお喋りしたんだけどね。お酒飲みすぎて贅肉ついたりしてない? ウエスト0.36リジュ増えた? って言ったら笑顔で「殺すわよ?」って言われて怖かったけどこれでこそサラちゃんだよね。他にもアーヤちゃん流煽り術でやる気を引き出してあげたけどそれも成功した。
で、ブリーフィングが終わった後はなんか分校長とヴィクターさんが手合わせすることになったので皆でそれを観戦した。私もなんか「そなたもまた腕をあげたようだな」とかヴィクターさんに言われたけど買いかぶりです。別に最後にヴィクターさんと戦った時からそこまで成長はしてないと思います。──だから手合わせはしたくありません! ……え? 出来れば頼む? 分校長との手合わせが終わった後に是非? ひーん! 断れないよー! この武人共ー! 会う度に腕を上げたとか手合わせがどうのとか野蛮人めー! これだから帝国人はもおおお!
──なのでその手合わせをなんとか乗り越えて私は駅でヴィクターさんたちをお見送りした……し、死ぬかと思った……なんでオーレリア分校長まで参戦してくるの……この前戦ったし今もヴィクターさんと戦ったじゃん……幾らリアンヌママと戦えずに終わった上に演習の帰り際にレーヴェに手合わせを断られて不完全燃焼だからって私を巻き込まないでほしい……。フィーちゃんラウラちゃんに助けて……ってしたけどラウラちゃんは「三者三様の戦い……見ものだな……!」って武人モードに入ってたし、フィーちゃんは「……アーヤならなんとかなるんじゃない?」って他人事だった。ぐぬぬ……元生徒たちが薄情だった……。
そして夜はリィンくんとトワちゃん主催の天体観測があったけど私は辞退した。私天体観測ってちょっと苦手なんだよね。前に1回だけやったことあるんだけどさ。その時は夜空に向けた望遠鏡を覗いただけですっごい気分悪くなった。
──ま、そんなことがありつつも7月12日にはテスト結果が張り出された。本校分校合わせて120名全員の準備がね。
そして割と皆順位は悪くない感じ。20位以内で言うとアッシュくんは19位だったし、ティータちゃんは15位。ヴァレリーちゃんが13位。アルティナちゃんが11位。スタークくんは9位でミュゼちゃんは8位。
後は本校のフリッツくんが7位で同じく本校のエイダちゃんが4位。3位がクルトくんで2位がセドリック殿下。そして1位は……はい、レンでしたー! うん……知ってた。そりゃそうだよね。レンって天才だし。そもそも学生レベルじゃない。毎年何枚もあらゆる分野で論文を匿名で送って匿名で博士号を貰ってるレベルの頭脳だから。そりゃ名門とはいえ学生レベルのテストでつまづくわけないし1番を取れないわけがないのだ。
ちなみに2位のセドリック殿下と3位のクルトくんは1点差だね。惜しい~。原作だとどうだったっけ? 覚えてないけど本校生徒は芸術科目でちょっとだけ点数落としてるのは私の作った問題が意外と難しかったりしたんだろうか? うーん……でも基礎的な裁縫技術に関しての問題だったからなぁ……それが原因じゃないよね。簡単だったと思うし。多分元々こんな感じだったんだろう。レンがいるから順位が変動してるだけでさ。
そしてクラス毎の平均点だと1位がⅦ組で2位がⅠ組。3位がⅨ組って感じだった。第Ⅱ分校すごい! よくがんばったね! Ⅷ組も6位だし悪くないよ!
でもあれだ。ミュゼちゃんとかアッシュくんは絶対もっと上狙えたと思うよ! 次は全力で頑張ろうね!
私は教官の1人としてテスト結果にうんうんと頷いてから午後の機甲兵教練に臨んだ。今回はゴライアス=ノアっていう巨大機甲兵の適性を確かめつつの訓練だね。クセがありすぎる機体なだけに皆苦戦してたけどその中でもアルティナちゃんだけが上手に操縦してたんでアルティナちゃんを相手に模擬戦が行われることになった。
だけど途中で暴走しちゃって大変だった。あ、そういえば《地精》が細工してるんだっけ……? 完全に忘れてたけどこんなイベントもあった気がする。思わず咄嗟に
そしてテスタ=ロッサから教えて貰ったんだけどなんか遠くで隠れてた球体が「ぐおおおおっ……!? なんだこの侵食は……! 妙な歌と映像が頭に流れ込んでくる……! ポイポイ……!」とか言って苦しんでたらしい。あ……もしかしてアルベリヒだった? まあアルベリヒなら別にいっか……私何も言われてないし……そもそもアルティナちゃんを暴走させるとか許すまじだし……。
ということで悪は滅びた(滅びてないけど)。なんか後からアルベリヒから「言い忘れていたが我々の邪魔はくれぐれもしないようお願いするよ?」とか言ってきたんで「もちろんだ。普通の理解力があれば確認は不要だと思うが?」って返したらすっごい何か言いたそうだったけど「…………ならばいい」って納得してくれた。もしかして怒っちゃったかな……? まあ大丈夫だよね。あの地精の長である精神体がこれくらいの煽りでキレたりはしないと思う。なので気にしないで大丈夫そうだ。
私たちは安心して7月15日を迎え──そして帝都ヘイムダルの特別演習の日を迎えた。
そして今回は私も教官として同行だ。結社からの指令はなにも来てないし、《黒の工房》からも邪魔するなって言われただけで特に何も言われてない。
だから今回は普通に教官としてトールズ第Ⅱ分校の生徒たちのために働ける! すっごい気楽! いや気楽なのは良くないけど! でも裏の仕事じゃないから楽なのは間違いない!
なので私はリィンくんやトワちゃん。そしてⅦ組と共に演習地から帝都ヘイムダルに。そして帝都中央駅に向かった。
そこではトールズ本校の選抜メンバーのセドリック殿下やエイダちゃんにフリッツくん他数名とそれを引率するナイトハルト教官がいた。うわ、久し振り! お元気でした? そんな感じで挨拶したら「アーヤ・サイード特務大尉……いや、アーヤ教官も来ていたか。聞くまでもなくそちらは息災のようだな」って言われた。聞くまでもなくってどういう意味なんだろう。まあ確かに私はいつも元気だけどね。ナイトハルト教官もそんな難しそうな顔しないで笑顔笑顔! ……あ、レーグニッツ帝都知事の方はその節はどうも……以前にちゃんと謝ったからかちゃんと許してくれてるよね? あ、気にしないでいい。──それじゃ気にしないでいっか! よろしくねー! マキアスくんパッパ!
と全員と挨拶したところでブリーフィングが始まった。クレアちゃんとは先月も会ったばかりだし軽く。セドリック殿下は挨拶したけど無視された。あれ? どうしたんだろ……あっ、もしかしてⅦ組に定期試験の成績で負けたこと気にしてる? それかレンにテストで負けたこと? もーそんなの気にしないでいいのに。レンは規格外の天才だし勝てるわけないんだからさ。2番だっていいじゃん。2番も十分だと思うよ? だから元気出しなって!
そう言えばセドリック殿下は機嫌を直してくれる──はずもなく。普通に無視されて話が始まった。うーん……ま、いいか。子供だしそういうこともあるよね。うちのイクスやヨルダも機嫌悪い時は取り付く島もなかったりするし、こういう時は見守ってあげるのがいいかな。とりあえず今回の演習内容はっと……。
「要警戒項目……現在、帝都内に潜伏中の共和国特殊部隊《ハーキュリーズ》の調査・捕捉・情報収集など……」
「クク、来やがったか……!」
「……やっぱりカルバード共和国なんだ……」
「《ハーキュリーズ》……データベースで見たことがあります」
「──補足しますとカルバード共和国軍の特殊部隊です。諜報・破壊工作のスペシャリストでその実力は共和国軍最精鋭だとか」
本校と分校に配らせた要請書にはそんな風に書かれていて皆驚いてる。クレア少佐も補足してくれた。へー、そういえばそんな感じだったっけ。全然覚えてない……って、あれ? なんか皆こっちに視線を向けて……。
「共和国軍の特殊部隊……」
「諜報・破壊工作のスペシャリスト……」
「そうそう共和国だからね。当然私が怪しい──って、私は違うから! 共和国軍とは一切関係ないない! 翼の女神に誓って!」
「本当かよ……」
「本当だよアッシュくん! 私はむしろ追われる側だからね! 共和国軍と通じる余裕なんてないから!」
「……それはそれでどうかと思いますが……」
「それは言わない約束だよアルティナちゃん! 私もちょっと思ったけど!」
ぐっ……なぜか私が怪しまれてしまった……酷い。私は共和国軍と何の関わりもないのに……今は帝国軍人なんだから信じてくれてもいいじゃん!
「あはは……それはともかく、そんな部隊が帝都に潜伏してるなんて……」
「しかも最精鋭となると恐ろしいほどの練度でしょうか?」
「ええ、高位ランクの猟兵団を上回っていると見るべきでしょう」
「本校としては、かの《赤い星座》に匹敵する戦闘力だと判断している」
「あれ? ハーキュリーズってそんな強かったっけ?」
「アーヤ教官……」
「それは……」
私がその分析に思わず声を出すとまた皆は私に視線を向けてきた。そ、そんなおかしなこと言った? ハーキュリーズが強かったイメージ全くないんだけど……実際にちょっとだけ現場がかすった時も練度は高くても戦闘力はそこそこだったような……。
「……話の腰を折らないでもらえるかな? そもそもこれは、一時的とはいえ君の所属している情報局から回ってきた情報を元に僕たちで分析した情報なんだけどね。それとも君のような正規の訓練も受けていない者が僕たちの分析よりも正確だとでも?」
「え? あはは、やだなぁ殿下。何もそこまでは言ってませんって。ただ疑問というか、多分帝都に来てるのって白の部隊じゃないですよね?」
「……色がどうしたと言うんだ。下らない質問なら後で──」
「──橙色の軍服の部隊であったと情報には記載があった。それが何か? アーヤ教官」
「っ……」
「あ、そうなんですねナイトハルト教官。じゃあハーキュリーズ最精鋭のα部隊じゃないんで練度はあるとは思いますけどそこそこの強さだと思いますよ? 割と余裕でやれます!」
「…………」
「…………」
私がそう言えばまたなんか空気が冷えたというか、部屋に静寂が訪れた。え……また私なんかやっちゃいました? そんなおかしなこと言ったつもりないんだけど……解せぬ。
「……アーヤ教官。君のような正規軍の上澄みが相手をするのならいざ知らず、彼らを相手取るのは未だ訓練中の学生だ。そのことを失念しないで貰いたい」
「私は上澄みじゃないと思いますけど……でもそっか。相手をするのは生徒でしたね。そうなるか確かに本校生とはいえ子供に特殊部隊の荷が重いし……Ⅶ組であっても油断は出来ないかぁ」
「っ……僕たちを愚弄しているんですか?」
「えっ? ……いやいやいや! そんなつもりないですって! ただ普通に戦力の分析をしただけでして……気を悪くしたなら申し訳ないです」
やっば。なんか自然と喋ってたらナチュラル煽りになってたことに今気付いた。危ない危ない。一応謝っとこう。幾ら本校生徒より分校の、特にⅦ組の方が強いのが事実だからといってそれをはっきり口にされるのは面白くないだろう。教官としてあるまじき言葉だった。反省反省。セドリックくんたちも優秀だからちゃんと信じて導いて上げないとね。
……ただそうなると《ハーキュリーズ》の相手かぁ……うーん。一応アドバイスはするけど……。
「うーん、油断しなければ生徒たちでも対応可能ですかね? 多分《ハーキュリーズ》の戦術とか潜伏方法って《LAMDA》を使ってるんでしょうし、そこだけ気をつければまあ……見抜くのにはちょっとコツがいりますけど……」
「《LAMDA》……ですか?」
「リィンくん知らない? 共和国ヴェルヌ社製の第5世代の戦術オーブメントなんだけどさ。ステルス機能とか空間投影機能とかあって結構便利でね。それこそ私は使ってないけど潜入工作とかには便利な作りになってるんだよねー」
「共和国の第5世代の戦術オーブメント……」
「そんなものを装備した部隊が潜伏していると……」
なんか生徒たちが唸っている。あれ……? 《LAMDA》の情報ってまだ現場に降りてないの? あ、いや、ナイトハルト教官たちは知ってるみたいだ。本校の生徒も。となると……分校の生徒には伏せられた情報だったの? それは子供たちを現場に向かわせる以上、どうかと思うけど……。
それに《赤い星座》に匹敵するかはともかく、一応正規の軍人の中の最精鋭部隊であることには変わりないし、資料には100名近い数が帝都に潜伏してるらしい。原作ってどうやって捕まえたんだっけ? 覚えてないけど結構危なくて生徒たちが心配だ。
となると、今回は別に敢えて手を出さない理由もないし……。
「……なんだったら
「! アーヤ大尉、それは……」
「ああ心配なさらずとも私なら大丈夫ですよレーグニッツ閣下! ハーキュリーズの戦術なら分かってますし、《LAMDA》のステルス機能も空間投影機能も見破るのは得意です! ふふん。……まあさすがに数が多いので2日……いや、3日ほどお時間を頂いてしまいますけどよろしいですか?」
「……………………」
「マジかよ……つーか共和国側の内情に詳しすぎんだろ」
「フフ……まあそれが出来るから言っているのでしょうけど……」
「なんというか……なんとも言えませんね」
「ああ……もっとも治安維持の観点で言えばアーヤ教官が動いてくれた方が助かるのは確かだろうが……」
「ほんとアーヤ教官って感じね……」
あ、あれ? 私的には良いこと言ったつもりなのにレーグニッツ閣下も無言だしⅦ組もなんかちょっと引いてるというか呆れてる!? なんで!? せっかく今回は完全に味方できると思って珍しくやる気出して親切で言ったのに! 私やれるよ! ハーキュリーズくらいなら本当に3日……いや、2日か、なんなら1日で全員捕縛できる! 手段を選ばなければ最短1日! どうせ大半は地下水路に潜伏してるんだろうし、
「フフ、その辺にしておくといい。アーヤ・サイード特務大尉」
「あっ……オズボーン宰相!」
とかなんとか考えてたらブリーフィングルームにラスボスが現れた! 帝国政府代表ギリアス・オズボーン宰相閣下! リィンくんパッパが電撃訪問! 背後に《黒》のイシュメルガが見えるような気がする! 皆も、特に本校生徒は立ち上がって敬礼するくらいにはオーラがあるぞ! 反対に分校生徒は誰も敬礼しないけど、別に強制じゃないからヨシ! 私は……まあ今は分校の教官だし、別にする必要ないかなってことで普通にしておいた。
「それで閣下。その辺にしておくというのは一体どういう……?」
「君の生徒の安全を最優先し、外敵の排除は自らが請け負うという姿勢は結構な事だが、全てを君が片付けてしまうのは些か頼り過ぎということだ。加えて早急に事態を解決してほしいという事情もある。本校の生徒と分校の生徒にも手伝って貰った方が速く共和国のスパイを駆逐できるだろう。──そうではないか?」
「う……た、確かに! それはそうですね! うん、他国の工作員が潜入してるなんて一大事だし、私だけじゃなく皆で頑張ろー! おー!」
──私は一瞬でオズボーン宰相の波に乗ることにした。いや、だってこの人相手に自分の意見とか通す気にならないというか……この人がそう言うってことは多分そうした方が良いんだろうし……私が1人で片付けすぎるのは良くないんだろう。多分、成長の機会を奪ってしまうとか色んな都合の問題で。
なので私はオズボーン宰相の意向に従うことにし、そこからはⅠ組もⅦ組も共に要請を了承し、それぞれ西側と東側に別れることになった。私もまた分校のお手伝い……というか出しゃばりすぎない程度に共和国の軍人を捕まえるために動くことになった。
まあそれならそれでいいよね。原作的にはこの程度、リィンくんたちも乗り越えるだろうし。私が敵対しなきゃいけなくなるわけでもないし。後はもう悠々自適にお仕事をこなし、万が一の事態に備えてリィンくんたちと、ついでに本校生徒たちも見守りつつ影に隠れておけばいい。《LAMDA》なんて使わなくても私は消えることができるからね! これで陰ながら応援だ!
(ってことでテスタ=ロッサ。ここからは一緒にリィンくんたちを応援しよ!)
(ふむ……東の大国、カルバード共和国の軍人との戦い。そしてこの後は貴殿の言う通りであれば──あの暗黒竜が本当に復活すると?)
(多分だけどね!)
(……ううむ……確かにこの帝都の地下を中心に異様な霊力……それも暗黒竜の気配が漂っているのを感じる。だが、もしそうであれば──)
(でも大丈夫! リィンくんたちがやっつけてくれるだろうから!)
(それも貴殿が見た予言のようなものか?)
(そんな感じ! だからきっと大丈夫だよ!)
(……他ならぬ貴殿がそう言うのであれば信じよう。些か歯痒くもあるが……)
と、そんな感じでテスタ=ロッサと念話を行いながらリィンくんたちを2日にかけてストーカーすることにした。何かあってもフォローに入れるようにね。
でもまあ多分フォローは必要ないと思う。なんだかんだハーキュリーズの隊員も問題なく捕まえてたし。プレロマ草の影響か出てくる魔煌兵もなんのその。成長したリィンくん率いるⅦ組の敵ではない。
なんだったら暗黒竜の寝所に突入する際には新旧Ⅶ組が勢揃いしてるしね。クロウくんと私以外は。私はこっそり後をつけてるけどね。でもフルメンバーのⅦ組に勝てない敵はいない! きっと私がいなくても暗黒竜を倒して──
「こ、これが暗黒竜……!」
「馬鹿な……! 以前に見た骨の姿とはまるで違うぞ!」
「お、おばあちゃん! どうなってるの!?」
「わ、妾にも分からぬ……! どういう訳かこうなっておった……! だが1つだけ確かなのは……この暗黒竜は、ヘクトル帝の時よりも強くなっているということじゃ……!」
私は新旧Ⅶ組や《緋》のローゼリアが驚愕しているのを、同じく後ろから見て呆然とする。
だけど少しして思考が復活した。そして内心だけでツッコミを入れる。最奥で眠っていた暗黒竜ゾロ=アグルーガは……。
「まさか三つ首の竜と化しているとは……!」
あ、暗黒竜が究極竜化してるー!? 3体融合した感じになってるー! かっこいいけどやべー! え、なにこれ……(困惑)。なんでこうなった? 暗黒の究極竜ってこと? 攻撃力4500くらいありそうなんですけど……。
(ど、どういうことなの……?)
(アーヤよ……本当に大丈夫なのか……? 私の記憶で見た暗黒竜より遥かに強化されてしまっているが……)
うん、テスタ=ロッサが心配するのもわかる。さすがにこれは予想外だった。本当にどうなってるの……?
でもリィンくんたちはそんな究極化した暗黒竜にも怯むことなく覚悟を決めていた。それぞれが意思を言葉に乗せた上でⅦ組の重心であるリィンくんが士気をあげる。
「トールズ士官学院、新旧Ⅶ組──これより暗黒時代の“災厄”を阻止する。戦闘開始──最大限に連携し、全身全霊をもって目標を撃破せよ!」
「おおおおおおっ!!」
ま、まあいいか。──うおおおおお!! 本物の(ちょっと違うけど)暗黒竜ゾロ=アグルーガだー! 新旧Ⅶ組頑張れー! モンスターをハントしろー! 《紅蓮の魔王》よりも強いらしいけどリィンくんたちなら行ける!
「こ、これでも倒れない!?」
「クッ……化け物すぎるだろう!」
大丈夫大丈夫! いけるいける! 攻撃は効いてるよ! あと少しあと少し! 確かにこんなに強かったんだって思うくらい強く見えるけどⅦ組ならいけ──
「やはり800年前よりも更に力をつけている……!? このままでは……!」
……ま、まあいけるよね? うん、大丈夫大丈夫……リィンくんたちならこのまま弱らせてとどめを刺すことが──
「傷が徐々に再生していく……!? これはどういうことおばあちゃん!」
「妾にも分からぬ……だがまさかこのような力を得ていようとは……! おそらく、なお傷の再生を上回る火力で攻撃せねば奴は倒せぬぞ!」
い、いけ……いけるはず──
「ヴァリマール! ユウナ! クルト! ミュゼ! アッシュ! 全員の機体で一気にかかるぞ!」
「了解!」
あ、ヴァリマール呼んだ。アルティナちゃんを除いた新Ⅶ組の機甲兵も一緒に。これなら勝てる! 頑張れ頑張れ諦めるな! これなら絶対に──
「グオオオオオオ!!」
「やったか!?」
「──いいや、まだだ!」
た、倒せ……倒したと思ったんだけど──
「これでもまだ足りないのか……!?」
「教官! どうしたら!?」
「っ……このままでは……!」
あ、あれ……?
(アーヤよ……! このままではマズいぞ……! 暗黒竜の力が更に増大している……!)
(……………………)
えーっと……その、うん……それじゃあまあ──
「!?」
「なっ……!?」
「あれは……以前にも見た赤の機影……!?」
「馬鹿な!? 《緋》の騎神じゃと!?」
「…………」
──私はテスタ=ロッサを呼び出し、究極の暗黒竜に斬りかかった。
なんか背後で皆が驚愕してる感じがするけど……あー、その、なんかごめんねー……? 皆なら倒せると思ったんだけど……なぜか暗黒竜が強化されてるみたいだし……わ、私のせいじゃないよね?
「まさか……加勢してくれるのか……?」
『(やっば。リィンくんに話しかけられた。テスタ=ロッサ、代わりに喋って)……新旧Ⅶ組よ。今この時だけは暗黒竜の打倒のため力を貸そう』
「……貴方が何者なのか。疑問に思うことは沢山ある……だけど今はその力をありがたく貸してもらう!」
──ヨシ! 良い感じに加勢できた! これでなんとかリィンくんのヴァリマールと一緒に暗黒竜を倒すぞ! 本当は嫌だけど! 戦わないとマズそうだしね!
でもまあリィンくんをメインにこっちは火力を出す感じのサポートに回ればなんとか──「グオオオオオオオオオオオオッッ!!!」──って、なんでこっちに向かってくるのー!? アルティメットバーストやめてー! イヤーッ!? すっごい狙ってくるー!! 目の敵にされてるレベルで私しか狙って来ないんですけど!! どういうこと!!? こんなの私がメインじゃん!! くそー! テスタ=ロッサー!! とにかく火力高い武器出してー! 正体バレたらヤバいから鋏以外でー!! 強靭! 無敵! 最強おおおおお!! うわああああああああん!!
今回はこんなところで。ハーキュリーズって作中で良いところあんまりないよね……。
次回は庭園会議の一部始終とかリィンくん視点で絆イベントとか夏至祭イベントがあったり究極の暗黒竜をハントしたりパーティで色々あったり黒の史書が乱れたりと色々あります。閃の軌跡Ⅲ編も後2話くらいで終わりかなって。なのでお楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。