TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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地精に囚われる不幸

 ──突然だが僕は今、身の危険を感じている。

 

 僕の名前は《銅》のゲオルグ。大地の至宝《ロストゼウム》を管理していた《地精》の一員だ。

 ジョルジュ・ノームという仮初の名前も持っていたが、それはもう捨て去ってしまった。僕は元から《黒の工房》の技術者で工房長である《黒》のアルベリヒの手下……偉大なる《黒》の下僕でしかない。

 つまりトールズOBとしてトワやアン……そしてクロウと一緒に過ごしたジョルジュ・ノームという人物は“死んだ”。いや、最初からいなかったということ。結社の《白面》から盗んだ暗示技術によって僕自身が演じていた仮初の人格に過ぎないのだと。

 

 だからそれは構わない。僕はそれを覚悟していた。トワやリィンくんたちから……いや、誰に何を言われて何をされようが文句を言う資格などないだろう。

 

「──ゲオルグ! すぐに返事をしたまえゲオルグ!」

 

 ……と、考えているところに上司の声が届く。

 その相手は工房長である《黒》のアルベリヒ。かつては僕も師事したシュミット博士の一番弟子であるフランツ・ラインフォルトであったが、既にその人格は存在せず《地精》の長としての人格が取り憑き表面化した存在。数々の技術を用いて《黒》が《巨イナル一》に成るための働きを行う邪悪な技術者である。……もっとも、僕がそれを言う権利はないけれど。

 ただ1つ文句を言わせてもらうとすれば……今のこの状況だろう。

 僕は苛立ちを強く滲ませた声の工房長にげんなりとしながら反応する。

 

「…………はい。何でしょう、アルベリヒ工房長」

 

「何でしょうではない……! 進捗はどうなっているのかね……!? 物資搬出経路のことだ……!」

 

「……はい。もちろん無駄でしたよ工房長。隠していた物資搬出経路の方にも手が回っていました。僕らがそこから出ていくようなことがあれば途端にお陀仏です。そのため物資の方も手出しできません。未発見の毒物、劇薬、細菌やウイルスの類が仕込まれている可能性がありますから」

 

「ならアーヤ・サイード本人の方は! まだ見つからないのかね!?」

 

「そちらについても特に報告は上がっていません……」

 

「くっ……《切り裂き魔》め……! どこまでこの私の手を煩わせれば気が済むのだ……!」

 

 工房長が苛立ちを顔に出す。非常に珍しいことだ。この工房長は、これまで《黄昏》を始めるためにあらゆることを計算し、計画通りに事を進めてきた。

 その手腕は相当なものだろう。良し悪しはさておき、この人の悪辣さと人を嵌める上手さはまさに《黒》の下僕に相応しいもの。それは現在、帝国全土に撒き散らされた《呪い》がそれを証明している。

 

 ──だが、その計算を狂わせる存在が唯一あるとすれば……それはあのアーヤ・サイードの存在に他ならない。

 

 結社の執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》や《切り裂き魔》、《砂漠の死神》などの異名で知られ、同時に《緋》の起動者でもある彼女がなぜこのような行動を取っているかは定かではない。

 ただ事実なのはあの伝説の暗殺者が、アルベリヒ工房長の命を狙っているということである。

 

 ──と、その事実に工房長も僕たちも、()()()()()()()()()()()気付いたのだ。

 

《黄昏》が始まって2日後。所用で訪れた帝都で唐突に、彼女は工房長に襲いかかった。

 その場にオズボーン宰相や結社最強の使い手であるリアンヌ・サンドロットにマクバーンがいなければその場で工房長は死ぬか、身動きの取れない状態で拘束されてしまっていただろう。正直僕には何がなんだか分からなかったが、気付いた時には辺りが《地精》の人間にのみ反応する無臭かつ無色の毒ガスが充満していた。その手の毒物に詳しいシャロンさん──いや、結社の執行者No.Ⅸ《告死線域》がその兆候に僅かでも気づいていなければ、結社最強の執行者である《劫炎》のマクバーンがアーヤが近くに潜んでいることに気づいていなければ、工房長や僕はあの場で死んでいたかもしれない。

 工房長と僕はその場から咄嗟に転移することで難を逃れた。当然工房長は憤慨し、結社の使徒である《鋼の聖女》に抗議を行ったが「執行者にはあらゆる自由が認められています。私の方からアーヤに自制を求めるよう要請はできても彼女がそれを聞くかどうかは定かではありません」と暗に命令してやめさせることはできないと言われてしまった。

 ならばとアーヤ自身に直接接触して交渉を行いやめさせるように言おうとしたが、その肝心の彼女が見つからない。全く、捕捉ができない。

 既に帝国全土は《黒》の影響下にある。その《黒》の起動者であるオズボーン宰相の側近である《鉄血の子供たち》……情報局や鉄道憲兵隊の手を借りても彼女の姿は発見できない。痕跡の1つも見つからない。その筆頭である《翡翠の城将》も隠された《金の騎神》を探そうと今は外海にて漁を……じゃなかった、サルベージを行おうとしたり、それを行おうとしたところで再び《金の騎神》を先に持ち去られていて今度は共和国のサイード社の方に手を回そうとしたが妨害を受けまくっていて大変らしい。

 そして結社についても同じだ。結社《身喰らう蛇》には達人や異能の使い手、優れた能力を持つ人材が数多く存在するが、その結社においても彼女を見つけ出せる人物は存在しないという。

 正確には位置の特定や痕跡を探し出すだけならばできる人物もいなくはないのだが、そういった者たちでも本気で隠れたアーヤとの追いかけっこを制することは出来ないらしい。痕跡を見つけても追いつけなければ意味はないし、姿を一時的に発見できてもすぐにまた消えてしまう。魔術的な探知もアーヤには効果がないらしく術での発見は望むべくはない。

 彼女のことをよく知る結社の《破戒》という人物であればあるいは彼女の思考パターンを全て熟知し、取りうる手段も把握しているため見つけ出せるだろうという話も出たが、生憎とその《破戒》は現在、アルテリア法国方面で聖杯騎士団や高位遊撃士の相手をしていて忙しく、こちらまで手は回らないとのこと。

 後はマクバーン。彼はどうやら異能の力に敏感らしく、アーヤの持つ特殊な力を感じ取ることでアーヤの居場所をある程度予想することができるらしいが、それは近場にいる時に限るとのこと。あくまで戦闘中にアーヤの不意打ちに対抗するための手段でしかないと言われたため、彼も当てにすることはできなかった。

 更に他の結社の人員も《破戒》と同じ。そもそも結社は今回の《巨イナル黄昏》の中で《幻焔計画》を完遂するために人員を最大限に動員していて動いていない人員はほぼ存在しない。帝国外でも何らかの形で《幻焔計画》のために動いている。その持ち場から外すことはひいては《黄昏》を妨害することと同じ。力を借りることは難しかった。

 

 そして猟兵も変わらない。《西風の旅団》だろうが《赤い星座》だろうが彼女を見つけ捕らえることは難しい。以前《猟兵王》は彼女を捕らえることに成功したらしいが「そりゃお前、あの時はこっちも多勢に無勢な上に嬢ちゃんの方も手段を選んでいやがったからなぁ。あの時よりも嬢ちゃんも成長しちまってるし、今あの時と同じことをやれっつったってできねえよ」と楽しそうに捕らえるのは無理だと言われてしまった。一応努力はするとも言っていたが、やはり最強クラスの猟兵であっても彼女を索敵することは難しいらしい。

 

 ……と、そこまで話を聞けば彼女を捕捉することがどれだけ難しいことかは技術畑の僕であってもよく理解できる。機械によるセンサーの類であれば一応引っかかるし誤魔化すことはできないらしいが、それがあるならあるで普通にセンサーに引っかからないように行動してくるらしい。化け物にも程がある……彼女がなぜ伝説の暗殺者と呼ばれるか、その理由がよくわかった。わかりたくはなかったけれど。

 

 そしてそうなった時点で僕と工房長が取れる手段は限られていた。──《黒の工房》の本拠地に引きこもる。これしかない。

 

 ただそれでも油断はできなかった。彼女は言うまでもなく結社の人間であり《黒の工房》の場所も極めて大まかな位置ではあるが知っている。転移こそ出来ずとも普通に侵入してくる可能性があった。

 なので転移以外での工房への移動を禁じたがそれはそれで困ったことが幾つもある。まず、物資の搬入が難しい。《黒の工房》の技術は僕が言うのもなんだけれど驚異的だ。表の技術の先を行っていることは言うに及ばず。三高弟であっても僕たちの技術を解析するのにはそれなりの時間を要するだろう。

 

 ただそれでも技術は技術。僕たちは研究者であり開発者だ。何かを作り出すには当然だけどその元となる物資がいる。

 そのほとんどはこのアイゼンガルド連峰の地下資源によって賄えるけれど、それ以外に必要な素材は外にも多くある。まずその物資の搬入ができない。言うまでもなく、物理的な物資搬入口の方は既に特定されていてその場所には彼女がばらまいたと思われる化学兵器で侵されていた。

 ゆえに物資搬入口の方は厳重にロックした。何十にもある分厚い鋼鉄の扉を閉じ、人形兵器を何百体と設置している。センサー類に関しても抜かりはない。どんな相手だろうとこの物資搬入口から工房に出入りするこはできないだろうと──

 

「開けんかこらー!! いるのは分かってんだぞ! ここにあるもの全部破壊するぞー!! おらー!」

 

「誰だか知らんが止まれ!」

 

「現在ここは帝国軍の管轄であり──」

 

「知るかー! ウルトラバックドロップ! 地獄の断頭台! オク斗有情断迅剣! スーパーウルトラグレートデリシャス大車輪アーヤスペシャル!! ついでに列車砲を抱えてドーン!!」

 

「ぐわああああああっ!!?」

 

「わ、我々では止められん……!」

 

「だ、誰か応援を……!」

 

「おらー! 出てこいアルベリヒのカスー! 今ならこの魔怒殺暴刺死呪恨怒憎罪塵絶殺剣デスガイアーで一思いにやってやるぞー!!」

 

「なんかすごい殺意高そうな武器出てきたー!!?」

 

 ──なんか急に緋の騎神テスタ=ロッサで唐突に現れたかと思えばめちゃくちゃに暴れていて被害がとんでもないことになってしまっているが(魔煌騎兵が30機、人形兵器が約500体、その他各種兵器群が全て破壊されたが意外にも死人は0だった)、それでも何とか侵入は防げたのでいいだろう。ちなみに他の騎神の起動者が帰ってきたらすぐに逃げ去って再び居場所が掴めなくなってしまった。外に出たら確実に殺されるな……。

 

 ……しかし物理的な入口が使えないとなると色々と支障が出てしまう。転移で全て賄えるかと言えばそういうわけでもない。荷物を転移で毎回運び込むのは効率が悪いのだ。そもそも一度に多くの荷物を転移できるわけでもない。

 おかげで工房の稼働率はかなり落ち込んでしまっている。それも悩みのタネだが、それ以上に僕や工房長が一切外に出れないのだが問題だ。

 当然だけど外に出ればいつだって暗殺の危険が孕む。常にオズボーン宰相や《鋼の聖女》、《劫炎》の近くに控えられるわけもないし、彼らがいたところで絶対ではない。彼女の暗殺はそれほど非情かつ逃れることが難しい。

 

 なんだったら工房内にいても安心はできない。このところ僕たちは常に特殊なガスマスクにあらゆる化学物質を防ぐための全身を覆う特殊なスーツを着て行動している。そうしないと彼女の振りまく毒物にやられてしまう危険性があるからだ。

 

 彼女が国際的にも禁じられているBC兵器を扱うという情報は既に工房長が探り当てていたが、わかったところで対策は難しい。ある程度のものであれば感知し、無効化することもできるだろうが裏社会で出回るAS系薬品の大元である彼女の使う兵器がそんな生易しいものばかりであるはずがない。工房の技術でも感知できないものがあることは先の襲撃にて身を以って理解している。

 

 だから例えばだけど食べ物なんかも安々と摂取できない。僕は作業中に甘いものを食べることが唯一の趣味と言っていいのだが、当然だけどこんな場所にお菓子なんて置いてないしその原料も外から調達しなければならない。食べ物に関してはこの間、結社が外から調達してきたものが運ばれてきたけれどこの中に発見不可能な毒物が仕込まれていないとも限らないのだ。

 だからここ最近の食事は工房内で作られた栄養調達食品だ。生きるために必要な栄養素は摂取できるが、味気なくパサパサしていて非常に喉が乾く。というかあんまり美味しくない。工房長は不死者だから食べなくても死なないし食べることに特別楽しみを見出したりすることはないから我慢できるのかもしれないけれど僕としてはかなりストレスだった。

 

 もうなんだったら工房長はさっさと死んでくれないかな……なんて思いもするけど工房長が死んだところで僕も許されるなんて甘い考えは持ってない。彼女とはトールズ本校時代に導力バイク開発や技術方面でそれなりに仲良くしていたけれどそれを捨ててしまった今のゲオルグには温情など望むべくもないし。

 というか僕だけが死ぬ結果になりそうなのがまた嫌だ。工房長は不死者だから僕だけが割りを食うというのは……覚悟はしていてもあまり許容したくはないものだし。

 

 まあ工房長の方も死ぬことは嫌がっている。正確には、面倒くさがってると言うべきだけど。

 何しろ今のアルベリヒ工房長の身体はフランツ・ラインフォルトである。仮にその肉体がバラバラに切り裂かれたところでアルベリヒ工房長の精神が死ぬことはない。

 ただそれでも精神を宿す肉体がなくなってしまう。そうなれば大幅に行動は制限されてしまうし、新たな肉体を見つけるには色々と制限もあれば手間も時間もかかる。

 それと肉体が殺されず、身動きの取れない状態で拘束されてしまうことも恐れている。工房長は精神の方が本体だが、簡単に身体を入れ替えることはできない。だから身体ごと持ち去られてしまった場合も工房長にとっては非常にマズいことになる。四肢を切断して身動きの取れない状態で監禁する……彼女がそこまでやるかはさておき、どちらにせよ工房長はこの《黄昏》の中で自分の動きが縛られてしまうことを非常に嫌がっているのだった。《黄昏》の中で工房長が肉体を失うことは殺されるのと同じ──《黒》の忠実な下僕であるからこそ、ここにきて工房長は肉体を失うことへの強い忌避感を覚えてしまっていた。

 

「ゲオルグ! 聞いているのかね!?」

 

「……はい。聞いています工房長。例の件に関してですが──」

 

 そして僕は《地精》の一員として彼女の暗殺対象となってしまっているけれど……そこに文句など言えるはずはない。工房長への不満はあっても彼女には言う事などできない。

 何しろ《地精》は彼女の親族に──

 

「…………あれ……?」

 

 ──と、僕が内心で彼女への罪を思い浮かべようとしたその時だった。

 

 僕は身体に力が入らないことを自覚し、疑問に思う。いつの間にか……本当にいつの間にか、()()()()()()()()()

 

「……! これは……!?」

 

 工房長が驚く声を耳にする。どうやら工房長もまた少し遅れてそれに気づいたのか。

 ただ僕のように倒れてはいない。それでも苦しそうにはしているが、この違いは何なのか。不死者だから効き目が薄いのか。あるいは──

 

「──どうも、こんにちはー。お元気ですかー?」

 

「っっ……!!? が……っ、は……!?」

 

 ──そして気がつけば、そこに緋い死神が立っていた。

 

 声を掛けてきた時には既に工房長は背後から奇襲を受けて地面に倒されていた。戦術殻の原型である《ゾア=バロール》を出す暇もなく。

 

「アーヤ……教官……」

 

「あれ? ジョルジュくん? うわっ……失敗した……そういえば《地精》ってジョルジュくんも当てはまるんじゃん……うわー……後で解呪しないと……」

 

「っ……貴様……どうやってここに……! それにこの身体の異常は……」

 

「あれ、そっちはそっちで思ったより余裕ありそう。んー……あ、もしかして呪いだからかな。《黒》の呪いの影響を受けまくってるだろうし()()()()()()()()じゃ効き目薄かったのかも。これも失敗したなぁ」

 

「呪詛式の、ウイルスだと……!?」

 

「原理聞かれても発明者はオジサンだから答えられないよ。ってことであんまり無駄話をしてると誰か帰ってきそうだし、一応聞くね。──私の親族を実験して殺したらしいけど誰か憶えてる? できれば名前を知っておきたいんだけど」

 

 そして彼女は、アーヤ・サイードは僕と工房長を無力化しながらその罪について問いかけてきた。

 気付いた時には既に手遅れだった。やられてしまっていた。

 こうして改めて自分が襲撃される側になってみてよくわかる。普段はおちゃらけていても彼女は正真正銘……伝説の暗殺者だったんだなと。

 一応聞いている限り僕を狙うつもりはなかったみたいだけど……かといって安心はできないし、それでも抵抗することもできない。

 僕はただこのまま事の推移を見守るだけだ。彼女が工房長を暗殺する。それを見ようと僕は視線だけはそちらに向け続けた。

 

「っ……なるほど……君の親族のことを聞いたか。どうやらよっぽどお怒りのようだね。名前を知りたい、か……であれば1つ提案なのだが──」

 

「──そういう小賢しい交渉してくるならもういいや。名前はジョルジュくんに聞けばわかるだろうし。じゃあね」

 

「なっ──」

 

 ──そして彼女は、驚くほど、あの工房長ですら驚愕するほどにあっさりと工房長の発言をばっさりと切り捨ててしまった。そこに付け入る隙は全くない。いっそ非情なほどに話が通じない。自ら質問をしながらも、無駄なやり取りが行われた瞬間に即座に翻して話を放棄してしまう。

 なるほど、と思う。結社の人間から話には聞いていた。彼女が本気で暗殺をする時は、どんな抵抗も無意味だと。

 つまりそれは言葉での説得や交渉、命乞いは効かないということでもある。普段は殺すことを忌避する《切り裂き魔》は、しかし殺すと自分自身で決めた時は何があってもやってしまう。だからこそ都市伝説になるほどの人数をやってこれたのだろう。

 気づかれることはない。

 痕跡を残すことはない。

 抵抗させることもない。

 説得することは出来ない。

 どこまでも無情だった。それこそ本当の死神のように。

 その刃は狙った相手を絶対に逃さず、煉獄へと送ってしまう。

 

「待て!! 私は──」

 

 ゆえに《黒》のアルベリヒはここで肉体を失うことになるのだろう。

 狙われてしまった時点でいつかはこうなる運命にあったんだろうと僕は思った。……そして僕も……いずれそうなってしまうのかもしれないと。

 そう思いながらも覚悟した。これが僕たちの罪なんだと──

 

「──ようやく見つけたぜ、アーヤ」

 

「っ!?」

 

 ──そうして工房長がアーヤの持っていた《ゾルフシャマール》で無慈悲に刺し貫かれようという瞬間……そこに聞き憶えのある声と異常な刃が通った。

 その相手を見てアーヤは驚いていた。直ぐ様その攻撃を躱して戦闘態勢を取っていたが、相手に気づいてこちらも軽いノリで驚く。

 

「って、マクバーン!? うわっ、道理で無意識に避けちゃったじゃん! どうでもいい攻撃なら無視してそのままアルベリヒ殺してたのに!」

 

「だと思ったからこっちも本気で攻撃したぜ。一応そいつを殺されちゃ困るらしいんでな」

 

「……邪魔しないでくれる? というかここまでの通路には誰も助けに入ってこれないように意識を失わせる毒を撒いておいたのに……」

 

「ま、俺以外の奴は確かに困ってたぜ。俺の場合は燃やしながら来たから問題なかったが。さすがにちょいと息苦しかったけどな」

 

「忘れてた……マクバーンにはその手があったか……うわめんどくさー……あの、一応聞くんだけど本当に邪魔しないでくれない? 私マクバーンとやり合いたくないからさ」

 

 そして言葉の上ではいつもの調子のまま、アーヤからは一瞬、とてつもない殺気……と呼ぶべきものであってるだろうか。とにかく凄まじい気配を感じて僕は倒れながらも恐怖を感じる。先ほどまでは一切こちらには気配を探らせることはなかった。

 正面から対峙し、殺す気であることがわかって初めて僅かに漏れたその修羅の気に彼女の強さを感じ取ってしまう。そしてだからこそ……マクバーンは笑った。

 

「クク……そいつは無理な相談だな。俺個人としちゃあお前さんが誰を殺そうが興味はねぇが……本気のお前さんと戦える絶好の機会だ。態々逃す手はねえだろ?」

 

 どうやらマクバーンの方はアーヤと戦うため。それも本気の彼女と戦うために待ち構えていたらしい。

 その証拠に彼の身体からは黒い焔が、そして、既に《火焔魔人》と化している。魔剣《アングバール》という外の理で造られた武器も取り出していた。

 

「いやいや、いつも言ってるじゃん。レーヴェじゃあるまいし私なんかじゃ相手にならないって」

 

「正面から戦うならそうかもな。だが何でもありで本気のお前さんが相手なら面白ぇ勝負になるんじゃねぇか? レーヴェの野郎も唆りはするが……代わりに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………じゃあ後で一応戦うだけ戦うから今は見逃してくれない? 殺した後なら受けてもいいよ。本当はすっごい嫌だけどね」

 

「それも無理だな。普段のお前さんじゃ意味がねぇ。──相手を絶対に殺す……そのためならどんな障害すら乗り越えてやっちまう。そのお前さんとやり合わなきゃなあ……!!」

 

「……勘弁してほしいんだけどなぁ」

 

 本気でやり合うつもりのマクバーンを前にアーヤは困ったようにため息を吐くが、それでも引き下がるつもりはないのか意識はこっちに向いているような気がした。少しでも隙があれば真っ先に工房長に襲いかかるのだろう。

 

 と、そう僕が予想していると工房長が立ち上がる。そしてアーヤの方に向き直った。

 

「──だったら私が戦わずに済む理由を作ってあげよう。先程は言葉を紡ぐことなく襲われてしまったが……こういうのはどうかね? ──私を害することを諦めないのであれば……君の周囲の人間が犠牲になることも我々は辞さない」

 

「!」

 

 そこでようやく工房長はおそらく本命であったアーヤへの対策、人質を取っての脅迫を実行した。

 彼女は裏にも表にも多くの関係を築いている。その中から適当な誰かを人質にするのは難しくないし、なんだったら既にこちらには彼女が大事に思っている《剣帝》を駒として手中に収めていた。

 

「フフ、本当はこんな手を使いたくはなかったんだがね。とはいえ安心してくれたまえ。協力を求めるのはあくまで私や《黒》の邪魔をしないこと。それとささやかな実験の手伝いをしてくれるだけで構わない」

 

「…………実験の手伝い?」

 

「ああ。先程の君の質問にも関係することなのだが……以前、私は君の身体を調べ、偉大なる主の崇高なる目的に役立てないかと研究を行っていた」

 

 そう、それは事実。工房長は以前、あの教団に幹部司祭として潜り込んでいたことがある。

 その時に工房長は彼女を発見し、その特異な力に目をつけたらしいが……。

 

「だが教団の目を盗んでの研究には限界があってね。その上、君は脱走し、行方が掴めなくなってしまった。結社の執行者となってしまったこともあり実験をすることを難しい。君のその力を再現するためにはまだまだ材料が足りなかった」

 

「それで?」

 

「フフ、もう理解しているのだろう? そのために私は、教団の情報網を駆使して君と同じ血を持つ者を拉致し、研究させてもらうことにしたのだ

 

 ──工房長の言う通り……それこそが彼女に狙われる理由だ。

 僕たち《地精》は、彼女の兄や姉を教団経由で拉致し、その身体で研究と実験を行った。

 僕が関わったことではないけれど、そんな言い訳がましいことを言うつもりはない。

 

「残念ながら収穫は少なかったがね。力の理解は深まったが、それでも彼らが君のような異常な力を発現することはなかった」

 

「……………………」

 

「代わりに君自身の遺伝子情報をOzシリーズへのフィードバックを行い、その結果として多少戦闘用としては優れたOzが生まれたもののそれでも本来求めていた結果とは程遠いものでね。だが《黄昏》の先……《黒》によって人が隷属した世界においてその力は有用なものとなりえるのだよ」

 

「…………はぁ」

 

「ああ。さっきも言ったように求めるのはあくまで実験の手伝いと不必要な対立を留めることに限定させてもらおう。閣下からも極力自由にやらせるよう言付けられているし……結社の方も執行者の扱いにはうるさいからね。こちらに被害を及ぼさないのであれば《相克》に関しても、君の普段の行動にも関知しない──そういった契約であればどうかね?」

 

「……………………」

 

 そんな条件を出され、アーヤは黙り込む。明らかに不条理な──いや、人道に反した契約だった。

 工房長は再び、彼女の身体を調べるつもりでいる。その上で実験を行うことも躊躇わないだろう。工房長の目的は《黒》の役に立つこと。そのためならばどれだけ非道なことだろうと即座に実行してしまう。

 そしてそれを……彼女は理解していたに違いない。彼女はそれを聞いて、にっこりと笑い──

 

「──はい、わかりました。よろこんで。どうぞお好きになさってください」

 

「フフ……結構。では早速だ。ついてきたまえ」

 

「了解でーす。──あ、ごめんマクバーン。戦えなくなっちゃった。ジョルジュくんもごめんねー。これ解呪用の薬だから飲んでね」

 

「……白けちまったな。別に構わねぇよ、俺はな」

 

「うん、ありがと。それじゃ」

 

 そうして……彼女はなんてこともなくその契約を了承し、僕やマクバーンに謝りながら工房長の後についていく。

 僕は口の中にその解呪用の薬とやらを入れられ、その去っていく姿を見た。

 ……親族を実験の果てに殺され、周囲の人間を人質に取られ、挙句の果てに再び実験体として扱われる契約を許容してしまう。その姿を見たせいか、先ほどまでは戦闘態勢を取っていたマクバーンも元に戻り、本当に白けた様子で背を向ける。その際に呟かれた言葉も僕は聞いた。

 

「……他の連中がなんて言うかは知らねぇがな。こんだけ胸糞悪い状況に追い込まれたあいつを見て黙ってるかどうか……」

 

 鼻を鳴らし、どこかバツが悪そうに部屋から出ていくマクバーンを、徐々に力が戻った身体を起こしながら見送る。

 それでもまだ僕の胸には言いようのない不快感が残っていたが、それを表に出すような資格は僕にはなかった。

 

 

 

 

 

 ──あばばばば! あ、どうもー! アーヤ・サイードです! 今まさに人体実験を受けています! 約15年振りに! この感覚久し振りぃぃぃ!! 

 

「ふむ……やはり……現時点で扱うことは不可能でも取り込んでしまいさえすれば……」

 

 そしてその実験してる相手は変態怨霊教授の《黒》のアルベリヒ! とんでもない変態カス野郎だ。今も私の身体を調べてなんか不穏なことを口にしてる。くそう。せっかくぶっ殺してやろうと思ったのに人質を取られて捕まってしまうとは……無念。結構頑張ったんだけどなぁ。他の人に気づかれないように忍び込むの大変だったのに。普段は使わないBC兵器も大盤振る舞いしたし、途中までは良かったんだけどね。まさかあそこでマクバーンが気づくとは……マクバーンがいなければ今頃終わってたんだけどなー。

 まあでも、いい。今はね。人体実験は不快ではあってもそんなに苦しみは昔ほど感じないし、ぶっちゃけこういう扱いには慣れてる。なんなら懐かしさを感じるくらいだ。元々アルベリヒを殺したら相克のために良い感じに頑張ろうと思ってたし、そこに関しては割と自由だから問題ない。そのうち殺れればいいからね。黄昏を乗り越えるルートなら自動的にそれは成されるわけだし。

 ただ方法をどうしようか……そこが結構悩ましい。とりあえずアルベリヒがいなくなれば多少はやりやすくなると思ったんだけどそれは出来なくなっちゃったしなぁ。

 

「なるほど──ああ、もう行って構わないよ。また何かあれば呼ばせてもらう」

 

「あ、はーい。お疲れ様でしたー」

 

 あ、実験終わった。ふー、今日のバイトも疲れたなー。帰りに甘いものでも食べて帰りたい。──ま、黒の工房の本拠地にはそんな甘いものとかないしご飯も全然充実してないんですけどね! でもルーファスと鉢合わせする前に離れたい。ルーファスとは《金の騎神》を隠して見つけられては移動させてまた隠してまた見つけられて……ってしてる不倶戴天の仲だから鉢合わせしたら気まずいし。向こうも忙しいだろうから早々こっちには来ないだろうからね。

 ただそれ以外にも解決しないといけない問題が……あ、噂をすれば。

 

「レーヴェ!」

 

「──アーヤか」

 

 黒の工房内を適当に歩いてるとレーヴェに出くわす──が、それはいつものレーヴェじゃない。服装は一緒だが、目元には工房製の仮面を身に着けている。

 そう──レーヴェはなんと呪いの強制力に囚われてしまったのだ。許せぬ。すぐにでもアルベリヒを市中引き回しの上はりつけ獄門の刑に処したいけどそれは禁止されてるし、どうにもできない。ぐぬぬ。まさかレーヴェほどの人物まで囚われてしまうなんて……原作じゃ確かヴィクターさんほどの人まで囚われるぐらいだから仕方ないっちゃ仕方ないかもだけど。

 

「……どうやら実験の後のようだな。大丈夫か?」

 

「あはは……わかっちゃった? うん、まあこっちは全然問題ないよ」

 

「…………そうか」

 

「レーヴェの方は大丈夫?」

 

「俺のことなら心配するな。呪いの強制力に囚われてしまったとはいえ、他の者のように記憶を奪われたり自我を封じられるようなことにはなっていない」

 

「そっか。それならいいんだけど……」

 

「ああ。それよりも問題は……」

 

 と、そんな感じで歩きながら互いの近況を話す。そんなレーヴェの様子におかしなところはない。いつも通り顔も言動もイケメンだ。仮面をつけているのが残念だけど仮面も見慣れてる。なんならレーヴェも付け慣れてるだろう。リベールじゃロランス少尉に変装したり、私は見てないけど影の国じゃ黒騎士になってたりしただろうしね。

 この仮面もぶっ壊したいのは山々だけどそれはやっぱり禁じられてるし、そもそも壊したところで呪いの強制力から逃れられるかどうかは分からない。レーヴェも阻止してくるだろうし簡単にはいかないよね。ぐぬぬ。ぶち許せぬ。今すぐにアルベリヒをファラリスの雄牛の刑に処したいけどそれはできない。

 なので結局今は受け入れるしかないのだ。幸いにもレーヴェにはしっかりとした自我もあるし、鉄血側に与する以外の行動に制限はないからマシではある。私も似たようなもので人質に取られてるのがだるいけど《緋》の起動者として《相克》に挑むこと。それに関する行動にはあまり制限はかかってない。なので敵対は実はできるんだけどそれでも最終局面になるまでは計画を邪魔するなとは言われてるので大っぴらにⅦ組に加勢したり工房内をめちゃくちゃにしてリィンくんを解放してアルベリヒを殺す……なんて真似もできないわけだ。敵対していいのか駄目なのかはっきりしてほしいけど要は《黒》が勝つ出来レースにしたいのだろう。そもそもそんな真似しなくともイシュメルガとオズボーン閣下の力は圧倒的なので勝率はめっちゃ高いし、それもあるからこそ相克に関しては各起動者の自由なんだろうね。

 ちなみに相克についても説明しておくと……まあ要は騎神同士のバトルロイヤルだね。霊力に満ちた場所で事前に争いで盛り上げてから騎神同士で戦って勝った方が負けた方の力を得る。そうして最後の一騎になるまで戦って勝ち残った騎神が《巨イナル一》になります! 以上! 

 一応細かい部分も色々あるんだけど流れとしては概ねこんな感じだ。なので《緋》の騎神の起動者である私も相克に挑まないといけない。めんどいようなテスタ=ロッサで堂々と戦えるのは地味にワクワクするような複雑な心境だけど総じて立ち回りが難しい中々厄介な行事ではある。大半の騎神は私も含めて(最後は結局敵対するとはいえ)鉄血側な上に起動者は強者揃いだからね。一度勝ち抜くだけでも多分めっちゃ苦労する。

 

 でもまあ私よりも大変なのが──

 

「グウウ……オオオオオオオオ……!!!」

 

「うわー。今日も唸ってるねー」

 

「……依然として暴走状態のようだな」

 

 そんなこんなでレーヴェと一緒のその場所にたどり着く。そこには壁に《灰》の騎神ヴァリマールと根源たる虚無の剣になったミリアムちゃんが囚われていて、更に奥の部屋には灰の起動者であるリィン・シュバルツァーが囚われているのだ。しかもミリアムちゃんが亡くなった時に鬼の力に呑まれてしまって暴走状態のまま。鎖で縛り、中ではエマちゃんの使い魔であるセリーヌちゃんが呼びかけながら力を抑えようと頑張っている。全然元に戻る気配はないけどね。せっかくだし私も声をかけておこうかな。

 

「リィンくんおはよー!」

 

「ぐうう……!」

 

「え、後5分? ──だめだめ! 早く起きて! 起きないとご機嫌なBGM流しちゃうよ!」

 

「おおおおおっ……!」

 

「……アルファベットの15番目はー?」

 

「ォ……オオ……!」

 

「正解! Oだね! じゃあ酸素の化学式はー?」

 

「オオ……オオ……!」

 

「そうだね、O2だね! これも正解。じゃあ次の問題。大陸中東部の伝承で語られる死体を食べる怪物の名前は?」

 

「ぐうう……っ」

 

「そうだね、グールだね! 正解! すごいよレーヴェ! ちょっと発音が怪しいけど全問正解してるし思ったよりも正気かも!」

 

「……………………そうだな」

 

「──んな訳ないでしょーがー……!」

 

 うんうん、リィンくんは今日も元気だね。なんか室内から誰かの声が聞こえた気もするけどきっとクイズに正解できなくて悔しがってるんだろう。セリーヌちゃんも精神が削られてるみたいだ。後でキャットフードを差し入れてあげよう。

 

「アンタら……何やってんだ?」

 

「正気を疑うのはあなたの方ですわ……」

 

「あ、クロウくん。デュバリィちゃん。やほやほー」

 

「お前たちも来たのか」

 

 おっと、リィンくんとコミュニケーションを取ってると背後から声をかけられた。その相手は正気に戻った《蒼》のジークフリード──ではなく、クロウくん。それとデュバリィちゃんだ。2人ともリィンくんの様子を見に来たみたい。2人とも面倒見がいいよね。そして地味にもう1人もやって来たので挨拶しておく。

 

「マクバーンもさっき振りー」

 

「さっき振りだ? おいおい……俺とお前さんと会ったのは1週間前だろう」

 

「あ、そっか。ずっと実験受けてたから感覚狂ってたかも。もう1週間も経ってたんだね。精々1日か2日くらいかと」

 

「……っ…………」

 

 少し遅れてやってきたマクバーンにもう1週間も経ってると言われてそこで初めてそれだけ時間が経ってることに気づく。ってことは暗殺しようと潜伏してた期間が1週間だから……《黄昏》が始まってから大体2週間が経ってるのか。道理で結構長いし暇だと思った。アルベリヒも気が利かないなぁ。それだけ長いこと拘束するなら雑誌の1つや2つでも置いてほしい。私をモルモットにする人たちはそういう気配りが足りないよね、全く。

 まあ気配りどころか倫理観とか終わってるような人たちばかりだからそんなの望むべくもないんだけど……それはそれとしてデュバリィちゃんがなんかすっごい苦虫を噛み潰した顔をしてた。ちょっと悲しそうにも見える。どうしたんだろう。もしかして──

 

「デュバリィちゃん大丈夫?」

 

「! 何がですの?」

 

「いや、普段より元気がないからどうしたのかなって。やっぱりリアンヌ様のこと?」

 

「っ……確かにそれも気にはしていますが今は違います。それよりも貴方は……貴方は大丈夫なんですの?」

 

「? ……ああ、実験のこと? あはは、まあ大変ではあるけどね。でも慣れてるから大丈夫だよ」

 

「ですが……!」

 

 あらら、何かと思えば私のこと心配してくれてるのか。別に平気なのにデュバリィちゃんは優しいね。私なら大丈夫だよって伝えるけどなんかあんまり元気でた感じがしない。むぅ……こういう時っていつもなんか変な空気になるから苦手なんだよね。とりあえず元気なところを見せてどうにか話を逸らそう。

 

「……やはり貴方の扱いには納得できません……! 貴方の立場はあくまでわたくしたちと同じ《地精》の協力者であって下僕ではありません。幾ら敵対していたとはいえ脅迫し、あまつさえ貴方に非道な実験に付き合わせるなど……!」

 

「まあねー。確かにヤバいけど私なら大丈夫だからいいよ」

 

「あのような下衆の所業を見逃せと……!? あれでは教団となんら変わりないじゃありませんの……!」

 

「どうどう。落ち着いてよデュバリィちゃん。私は納得してるからさ。元はと言えば私が暗殺しようとしたのが原因だし、失敗した以上こういう扱いもやむ無しじゃない?」

 

「それは……! そもそも貴方の方が……!」

 

 と、そこまで言ったところでデュバリィちゃんは言葉を止める。およ? やっぱ私の家族が殺されたことって知ってるんだ。共通認識っぽいね、この感じ。うわー……ちょっとやだなぁ。心配してくれるのは嬉しいけど毎回そんな感じだと皆も()()()()()()()()()()()()。皆それぞれ抱えてる問題があるってのに私のことを気にさせるのはやっぱ悪い。やっぱ私の問題はさっさと私が解決しないとね。どうにかして早めにアルベリヒ殺せないかなぁ。

 

「……ま、気持ちは分かるがちったあ落ち着けよ。実験とやらも事が動き出せば収まるだろ。──こいつは俺と同じ……騎神の起動者なんだからよ」

 

「それは……」

 

 デュバリィちゃんの様子を見かねてかクロウくんが取りなしてくれる。うーん、こういうとこ気が利くよね。記憶もすっかり取り戻したみたいだしちょっと安心。私としてもこうやって話せて嬉しいし。

 

「……いえ、そうですわね。取り乱してしまって申し訳ありませんわ」

 

「あはは、ほんと私のことなら気にしないで! ──そんなことよりもクロウくんは記憶が戻ったみたいだし良かったね!」

 

「ハッ……良かったって言っていいのか分かんねぇけどな。俺としては好都合なのは確かだが」

 

「……《鉄血宰相》への復讐か」

 

「ああ。そういやアンタともあの時は敵対してたが……まさか今になってあの話に聞いてた《剣帝》が結社側に与するなんて夢にも思わなかったぜ。弟さん、だったか? 遊撃士をやってるとは聞いてるがそっちはまた随分と驚くんじゃねぇか?」

 

「《漆黒》の小僧か。リベールじゃお仲間と一緒に結構なご活躍だったと聞いちゃあいるが……確かに兄貴分がこうなってちゃ再会すんのも時間の問題かもな」

 

「……ヨシュアたちのことなら心配はしていない。あいつらはそれほど弱くはないからな」

 

「へぇ……?」

 

「随分と信頼してるみたいだな」

 

 おお……なんかレーヴェがいることでなんか楽しい会話が繰り広げられてる。良い感じに話題を逸らせてヨシ! 私も混ざって盛り上げていこっと。

 

「私はクロスベルで会ったけど結構成長してたし、あれから時間も経ってるからまた強くなってるんじゃないかな」

 

「そいつは愉しみだな。期待しとくとするか。……とはいえ俺としちゃあお前さんらの方に期待が向いちまうが」

 

 うわ、またマクバーンが戦闘狂発揮してる。レーヴェとクロウくんにかな? ──って、地味に私にも気が向いてる気がする! やだ! 怖い! そういうのはそっちだけでどうぞ! 私は人間なので魔神の相手は務まりません! 

 

「買いかぶり過ぎだろ。アンタの相手なんて出来る気がしねぇし、そういうのはアンタら3人だけでやってくれ」

 

「ちょっとクロウくん!? そこに私を入れないでくれない!? マクバーンとレーヴェは最強&最強だけど私なんて精々暗殺が得意なだけのただの美少女だよ!」

 

「いや、訳分かんねぇ異能もあるしそもそもその暗殺がヤバいんだろうが……前々から思ってたが、俺から見りゃアンタも立派な人外だぜ」

 

「じ、人外じゃないもん! 私じゃマクバーンとレーヴェの相手は出来ないよ! 私はしがない暗殺者で……」

 

「──貴方の実力は既に名だたる達人たちに比肩しうるでしょう。相手をするのに何ら不足はないはずですわ」

 

「ちょっとデュバリィちゃん!?」

 

「ふん……相変わらず自己評価が低いですわね。わたくしのライバルなのですから過度な謙遜はやめなさいと何度も言いましたわよね?」

 

「うっ……だけどそれはぁ……」

 

「……俺にしてもアーヤにしても行動を制限されている。お前の相手になることは難しいだろう、マクバーン」

 

「クク、そりゃ残念だ。ま、気が向いたら是非とも相手をしてくれよ」

 

 私がデュバリィちゃんやクロウくんの発言にまごまごしているとマクバーンがそんな台詞を残して背を向けて行ってしまう。本当に相手したくないなぁ……アルベリヒを暗殺する時に対峙した時もめちゃくちゃ身の危険を感じたし……ほんとやる気がある時のマクバーンは危ない。私相手だと火力に容赦がないから困る。

 

 ──そしてその後はデュバリィちゃんがチョロインなところを見せてたので私も可愛いって言ってからかったりした。真面目な話として今のリィンくんにクロウくんは相手をする気にもなれないって厳しいことを言ってたけどほんと厳しいよね。私はまあしょうがないかなって思っちゃう。割り切った方が楽だけど誰もが割り切れるわけじゃないのは分かってるからね。

 

 ただ……確かにリィンくんが復活しない場合はすごい困ったことになってしまう。

 まあ復活するんだろうけどね。でも色々と差異があるからちょっと読めない。

 たとえばレーヴェは今回は呪いのせいでこっち側だし、私が雇ったシグムントさんも私がこうなったせいで鉄血側の兵として活用されることになるしで色々とヤバい。単純に戦力が増えてる。

 そして……幾らどの道そうなってからとはいえこの状況って普通に私のせいだし、どうせ何とかなるだろうと楽観視するのはさすがに違うよね。リィンくんたちのことは信じてるけどどうなるかは分からないし、アルベリヒのこともどうにかしないといけない。

 そのためにどうすればいいか。この1週間、2週間ずっと考えてたけど……やっぱ試してみるしかないのかもね。

 

「ほんと私ってば……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、やっぱりそんな感じ。

 だからまあ……今回も割り切ってやるしかないよね。

 

「ねえテスタ=ロッサ」

 

「どうした? 身体の方は大丈夫なのか?」

 

「うん、問題ないよ。ちょっと良い方法を思いついたんで聞いてくれる?」

 

「……ああ、無論聞こう。我が起動者よ。この先──どのように動くつもりだ?」

 

 私は1人、テスタ=ロッサの元へ行き彼に話しかける。

 さすがと言うべきかテスタ=ロッサは分かってるっぽいし覚悟してるみたいだ。さすがは私の相棒。頼もしいね。マキナの方が喋らなくなったから今は更に頼もしく感じる。

 なので私は告げた。やりたくはないけど割り切ってやってみるしかない。

 

「──私たちが《黒》を倒してみるってのはどうかな?」

 

 なーんて。軽い口調で私は提案する。

 それが意味するところは簡単だ。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 できるかどうかはさておき、何の犠牲もなくイシュメルガとアルベリヒを殺すにはきっとそれが1番良いって私は思った。だからちょっとやってみよう。怖いし痛いのは嫌だしすごい苦労するだろうけどそれくらいはいつものことだし割り切れば問題ない。

 

 ──テスタ=ロッサも了承してくれたし……それじゃ早速行動しよっかな。

 

 きっと帝国中が今は《巨イナル一》の呪いによって闘争へと掻き立てられてるだろうし──

 

 

 

 

 

 ──皇帝陛下暗殺未遂事件が起き、オリヴァルト殿下並びにアルゼイド子爵の国葬が行われた翌日から帝国各地では“呪い”による影響が随所に見られた。

 

「お前たち……どうしたと言うのだ……!?」

 

「許せねぇ……! 陛下だけじゃなく殿下まで……!」

 

「これも全部共和国のせいだってんなら……!」

 

「ああ! ここで立ち上がらなきゃ帝国人じゃねえ!」

 

 それは人を闘争へと駆り立てるものだ。

《巨イナル一》の力。これまでは大地の聖獣が抑え込んでいた呪いが大地の聖獣が滅んだことによって完全な呪いの力が帝国の全ての領地に拡散した。

 すべての人々が影響がそうなるわけではないが、それでも少しの火種があれば。あるいは状況によって。運命によっては彼らは容易に闘争へと駆り立てられる。

 ゆえにこのエレボニア帝国が東の大国、カルバード共和国との戦争へと向かうのは当然であった──

 

「よっしゃー! 俺たち“きのこ暴走連合”も戦争に参加するぜ!」

 

「な、なにそれ!?」

 

「知らねえのか? 最近出たきのこの森って菓子が美味くて……それこそたけのこなんかより──」

 

「聞き捨てならねぇな! きのこの方が美味いだと? そんなの──俺たち“たけのこ爆走団“が見逃すと思うなよ!?」

 

「また変なのが出てきた……!?」

 

「んだとてめぇ! 舌おかしいんじゃねぇのか!? きのこランチャー!」

 

「おかしいのはてめぇらだろう! たけのこブレード!」

 

「なんか変な争いが始まった……」

 

 ──そう。争いは帝国各地で繰り広げられていた。

 

「な、なんだあいつらは……!」

 

「グヘヘ……!」

 

「ひぃ……怖いよう……」

 

「なんなんだお前たちは!?」

 

「俺たちか? 俺たちは──」

 

 ──明らかに猟兵かチンピラ。それにしても異常なファッション。モヒカン頭に棘付き肩パッドを身に付けた連中がとある村にやってくる。

 そんな彼らは怖がっている子供の前で高らかに宣言した。

 

「俺たちは“終末バスケ部”だ!! ヒャッハー!」

 

「しゅ、終末バスケ部!? 何だそれは!?」

 

「このトンチキがー! バスケを知らねぇのかー!? 共和国で流行ってるとはいえ帝国でもそこそこ認知はされてる筈だろうがー!」

 

「許せねぇなぁ……! ──おっと、お嬢ちゃん大丈夫か? ドーナツでも食うか?」

 

「え? あ、うん……ありがとう……」

 

「グヘヘ……子供はお腹いっぱい食べて外で元気よく遊ぶのが1番だぜ! ってことで諦めて俺たちと一緒にバスケで戦うんだなぁ!!」

 

「抵抗しても無駄だぜ! 俺たちはバスケに飢えてるからよォー!!」

 

「おっと、とはいえ不公平は許さねぇぜ! きっちりルールと基本的な動きを学んでもらうからな!」

 

「子供用の柔らかいボールも用意してあるぜ! 怪我でもしちゃあバスケができねぇからなぁー!!」

 

「もちろん大人も参加してもらうぜ! 余裕がある時にな!」

 

「だ、だが俺には徴兵が……」

 

「あぁん!? 何が徴兵だこのダボ! そんなの俺たちが追っ払ってやるぜ!」

 

「俺たちからバスケを取り上げる奴はバスケでKOしてやらぁー!」

 

「ヒャッハー!」

 

「な、なんなんだこの人たちは……」

 

「分からないけど……害はなさそうね……少し変ではあるけど……」

 

 ──ある村ではそんな闘争が繰り広げられ……。

 

「通行人はどいてた方がいいぜ! 今日この広場は戦場と化すんだからよ!」

 

「や、やめろ! まさか喧嘩を──」

 

「参加したけりゃあ《VM》のデッキを持ってくるんだな!」

 

「今日は大規模大会だ!」

 

「この間、帝都で行われた公式大会で《VMキング》と戦って惜しくも負けたカースさんが主催の大会なんだぜ!」

 

「クク……俺は《VMキング》に負け、あまつさえそいつが連れてたポムにすら負けちまった……! 奴らにリベンジするために自分の強さを磨く必要がある……! そのためには……もっと《VM》を普及させて競技人口を増やしてプレイヤーを育てねぇとなぁ!!」

 

「さすがカースさん!」

 

「クク……初心者には俺が持ってきたスターターデッキに余ってるカードもくれてやる。だからやったことねぇ奴も気軽に楽しんでくれ……!」

 

「ちなみに広場の使用許可は事前に町長に取ってあるぜ!」

 

「わーい!」

 

「パパー! 私も参加してきていい?」

 

「私たちも参加してみるか……」

 

「クク……分からねぇことがあったらなんでも聞いてくれ……!」

 

 ──ある町ではとてつもない規模のバトルロイヤルが行われ……。

 

「この間共和国で出た《スカイストーリー》やったか?」

 

「ああ、面白かったな、特にヒロインのアレーヌちゃんが……」

 

「あ? ヒロインは幼馴染のシャルロットちゃんだろうが」

 

「は? あんなのぽっと出だし普通にアレーヌちゃんの方が可愛いだろ。ステータスもアレーヌちゃんの方が──」

 

「こ、この人でなし!! 幼馴染を捨てるなんて人の心はないのか!? ストーリー的にもそっちを選ぶ方が自然だろう!」

 

「だったら勝負して決めるか!?」

 

「上等だ! なら《コトワリファイターズ》で勝負だ!」

 

「最近導力ゲーム流行ってるなぁ……」

 

 ──クロスベルでは女のことで互いに武の競い合いが行われたり……。

 

「唐揚げにレモンを勝手にかけるなーっ!!」

 

「みっしぃに変な要素を足すなーっ! クロスベル総督府ー!」

 

「なんだと!? この“ところてんルーファスみっしぃ”が気に入らないと言うつもりか!?」

 

「これは我らが総督の要素を取り入れた素晴らしいマスコットなのだぞ!」

 

「どれくらい素晴らしいかと言うと我々の名前も衛士隊からところてん衛士隊に変えようと思っているくらいだ!」

 

「そして居酒屋のお通しはところてん以外認めない!」

 

「──あんたら馬鹿じゃないの?」

 

 ──クロスベル総督府などは新たなマスコットを作り、謎にところてんを推すなど、そして民衆も反発したりして特に呪いの影響が強く、そこにいた女性記者に冷静にツッコミを入れられたりしているなど。

 

「これも……さっき入手した情報によると全部……」

 

「ああ……呪いの力ってことになるんだろう。……だがこれはなんというか……」

 

「ちょっと……おかしいわよね」

 

「いや、というかこれは……」

 

「来た時から思ってましたけど……()()()()()()()()

 

「うん、多分そうだと思う。キーアも何か覚えのある違和感を感じるし……」

 

「まあおかげで多少は被害が抑えられそうだけど……」

 

「さすがは先輩ですね」

 

「いや、そこは感心するところじゃないでしょ……多分……」

 

 ──そしてオルキスタワーの魔導区画の攻略を終え、帝都で起きた異変の顛末を知った高位遊撃士2人に特務支援課のメンバーが2人。零の御子に、リベールから訪れた()()()()()()()()のパーティは呪いの影響と思われる市内の様子を改めて見て事態の深刻さを思い知る。

 

 ──全ての元凶である《黒》の呪いは帝国全土のみならず間接的に大陸中に混沌をもたらしていた。

 

 

 

 

 

「きっと大陸中で今は争いが起きてるだろうし……多くの血が流れる前になんとか止めないとね」

 

「……うむ。そうだな」

 

 ──よーし! 頑張ろう! 世界を終わらせないために! まずは《黒》の騎神対策と《金》の騎神問題から考えよっと。とりあえず……共和国からオランピアちゃんでも呼ぼっかな。




閃の軌跡Ⅳ編の始まりです。シリアスとギャグの差が激しいので読む時は必ずAS栄養剤を飲んでください。それと活動報告にアーヤちゃんのプロフィールとかあれこれを置いておくので良かったらどうぞ→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=325299&uid=206423
次回は皇太子殿下がはしゃぎます。お楽しみに。

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