──最初の出会いは本当に唐突でした。
あれは私がまだアストライア女学院に通っていた頃。帝国では貴族派と革新派の対立の影響が様々なところで表面化していました。
ですがまだ互いに血を流し合うような内戦には発展してはいなかった頃。私はある時、叔父からの紹介でやってきたというファッションデザイナーと会うことになりました。
「あなたがミュゼ──じゃなかった。ミルディーヌちゃん? 私はアーヤ・サイード。ファッションデザイナーだよ! よろしくね!」
それがアーヤ・サイード。共和国発祥の高級ブランド《SAID》代表にしてサイード社社長。同ファッションデザイナー。
帝国においても海都オルディスを始めとした帝国の五大都市で支店を開き、貴族の間でも広まっている今が旬のファッションブランドの代表の勢いがありすぎる登場に私は面食らってしまったのを覚えています。
ですがすぐに気づきました。叔父が私へのご機嫌取りとしてオートクチュールのドレスを仕立てるよう彼女に依頼を出したことだけではなく……叔父が密かに進めている内戦の準備。貴族連合とも言うべき組織の協力者なのだと。
もっとも彼女の正体に気づいたのはもうほんの少しだけ後でしたが……初対面ですら私の将来名乗ろうとしている名前を間違って呼んだ時点で何らかの特殊な力を持っていることも裏の顔についてもある程度は読み取れました。
なんだったらその日の内には外に連れ出されたのでそこで気づいてしまいました。何しろ彼女は空間から巨大な鋏を取り出して鋭い太刀筋で魔獣を絶命させていたので。……正直隠す気あるんですか? と問いかけたいところでしたけど普通はそれだけ見ても気付けないのは確か。それに加えて本当に隠したい時は隠すであろうことを読み取れば、私相手にはある程度バレてしまっても構わない──そう思っていることはわかりました。
おそらく彼女は彼女で何らかの目的がある。そしてそのために私に接触してきた。そう私は読みました。
その時点で私は彼女を将来、この帝国に降りかかる困難を乗り越えるための駒の1つとして使うことを考慮することにしました。彼女の正体を考えると味方に引き入れればより大きな楔を打つことができると。
……とはいえ敵だけでなく味方の陣地すら無茶苦茶にしてしまうようなとんでもない駒でもあります。私ですら読みきれないほどに彼女の言動は突拍子もないと言いますか……アクシデントも含めた些細なことで取りうる行動が変わってしまいかねない。
だからこそ現状を打破するためには有用ではあるのですが……そうして打破した後に相手に有利かこっちに有利なのかは選べない。
もっともそうであるとわかっていれば打てる手も格段に広がりますが……おそらくオズボーン宰相や結社もそれを理解した上で運用しているのでしょうね。叔父の方は分かっていないでしょうが。
そして私はその日から彼女と親交を深めることになりました。アーヤさんは私の衣装を作るために私の元にしばらく通い詰めることになったので。
そうして分かったのは……アーヤさんの人間性です。
「ミルディーヌちゃん! ここの刺繍で使う糸ないから一緒に買いに行こうよ!」
「ミルディーヌちゃん! せっかくだしお昼一緒に食べよ! キッチン借りるねー。オムライスでいいかな?」
「ミルディーヌちゃん! 今度の休日に海行こうよ海! 私水着仕立てるしお弁当も作っていくし移動手段も提供するからさ!」
……とまあアーヤさんは会う度に明るく騒がしく、それでいていつも楽しそうで……なおかつ私のことを気にかけていました。何かと付けて私を外出に誘い、食事を一緒に摂り、時には強引に遠方へ連れ出すこともあって。
正直なところかなり戸惑ったのを覚えています。彼女はただ叔父に頼まれて私の衣装を仕立てに来ただけのはず。
であれば最初に採寸を行い、私の希望を聞いた時点で私の元を直接尋ねる必要はありません。衣装が出来た時にそれを私に届ければそれで私とアーヤさんの関係は終わりです。
そうなると私は思っていただけに衣装をゆっくりじっくりと仕立てて何かと理由を付けて一緒の時間を過ごそうとするアーヤさんに私は訝しんでしまいました。あるいは彼女自身、何らかの目的のために私に近づいたのではないかと。
なのである日、本人に直接尋ねました──「なぜ私のことをそんなに気にかけているのですか?」と。
それを聞いたアーヤさんはきょとんとした後に笑顔を浮かべて。
「え? これくらい普通じゃない? もしかして嫌だった?」
「……嫌というわけではありませんが……」
「なら良かった。それで、今日はどこ行きたい? 私も言うからどっちも行こっか。──私は帝都歌劇場! まだ行ったことないから行ってみたい!」
「私は特に行きたいところはありませんよ。それよりも、そろそろ衣装を──」
「そんなのダメダメ! 行きたいことがないとしてもやりたいこととかあるでしょ? そういうのもっとやっていかなきゃ!」
「いえ、ですから特別そういうのは……私は現状で満足──」
「
「……! それは……」
「ミルディーヌちゃんは何がしたい? せっかくだから一緒にやろうよ! お姉さんの私が付き合ってあげるからさ!」
そしてその答えは……私にとって青天の霹靂でした。
私はその言葉に二の句を告げなくなります。答えに窮してしまいます。その言葉になんて返すべきか。適切な言葉を選択できずに悩んで戸惑いました。
そんな私に更にアーヤさんは自然体で私のことを。
「えいっ」
「……え……」
──両手で持ち上げて、膝に乗せてしまいました。
ベッドの脇に座ったアーヤさんの膝の上に私は腰を落ち着けてしまいます。それこそまるで幼い子供のように。
「あの、アーヤさん……何を……?」
「ほら、私よりまだ全然小さいし子供だね!」
「いえ、言うほど差はないような……」
「細かいこと気にしなーい。はい頭なでなでー。子供子供ー」
「……………………」
「あれ? 反応悪い……私の撫で方良くなかった? これでも結構慣れてる筈なんだけど……」
アーヤさんに自然に頭を撫でられながら、私はついに黙ってしまいました。
その温かい感覚に懐かしいものを思い出したからです。
それは、久しく忘れていた親愛の温かさ。
今はもういなくなってしまった両親から受けていた無償の愛情。
もちろんアーヤさんのそれは親愛というほど重いものではないでしょう。アーヤさんは大人として、あるいはアーヤさん個人としてごく自然な価値観として子供を可愛がってるに過ぎない。私だけが特別……というわけでもないはずです。
しかしその何気ない触れ合いからは確かに私が久しく感じることのなかったものを与えてくれる……そんなアーヤさんの性根が表れたものでした。
まるで姉のように……そう。もし姉がいたらこんな感じなのかもしれないと思わせるような……。
「……ふふ……」
「? ミルディーヌちゃん? やっぱ嫌だった?」
「いえ……別に嫌じゃありませんよ。少し恥ずかしくはありますが……人の目がないのであればこういうのも悪くありませんね」
「そう? ならもっと可愛がって──」
「いえ、それは遠慮します」
「なんで!?」
「時間が勿体ないですから。私も行きたいところを思い出しましたし、せっかくですから連れて行ってください」
「あ、そういうことね。それなら全然オッケー! それじゃおめかしして行こっか! 今日のコーディネートはせっかくだから──」
「はい。それと私のことはミュゼと呼んでください。
そうして私はアーヤさんに撫でられるのを拒否して立ち上がります。
その本当の理由はその時は口にしませんでしたが……あれ以上子供のように撫でられると私としてもどうにかなりそうでしたしね。
それからでしょうか。私がアーヤさんを信頼し始めたのは。
かつて両親が呼んでいた愛称であり、いずれ名乗るミュゼという名前のことも正式にアーヤさんに教えましたし、そう呼んでくれるようにお願いしました。……まあアーヤさんは予め知っていたのか、ミルディーヌと呼んだりミュゼと呼んだりごっちゃになっていたようですが。
私はほんの少しだけ。人目のあまりない場所やアーヤさんの前だけではほんの少しだけ……甘えられるようになりました。
いずれその甘えは許されなくなるとしても、それくらいなら影響は出ないと見越してのことです。
ですからアーヤさんは私にとって……唯一の姉のようなものです。
実際にはそうじゃなくてもそう感じてしまうような傷を私はアーヤさんに付けられてしまいました。ですのでアーヤさんには責任を取ってもらいたいところですが……生憎とまだそれは許されません。
今はまだ私は《指し手》として備える必要がある。
なので甘えるのは最小限で。それも時が来ればそれすらも捨てる必要がある。
全てを乗り越えた後であればあるいはそれもありかもしれませんが、その未来が来る可能性は限りなく低いことはわかっています。
……それに《呪い》のことがなくてもアーヤさんは私でも見通すことが出来ないほど複雑な事情を抱えているようですしね。
加えて私のように傷を付けられた人は多いみたいです。トールズ第Ⅱに入学してから出会ったレンさんなどはその筆頭で私以上に深い傷を付けられたのでしょう。互いにすぐに気づきました。どうやら私以上に苦労しているようでしたね。
トールズに入学した後はやはりアーヤさんは別け隔てなく生徒達に接していて……その様子を見ていると私の感じていたアーヤさんが改めて補強されました。
アーヤさんは優しい。基本誰にでも分け隔てないですが、子供には特に。
ですがそれで親交を深めたとしても……
他の人と親しくしているアーヤさんを見て私はほんの少し羨ましく、心に小さな痛みを覚えていたというのに。アーヤさんの方はきっとこの感情を直接伝えたところで応えてはくれても、その心に刻みつけることはできないのでしょう。
もっとも、アーヤさんの全てを理解できたわけではありませんし、確証があるわけじゃありませんが……ただ危ういものを感じた気がしました。
ある日突然、ふらっと目の前からいなくなってしまう……そんなことが起こっても不思議ではないような、そんな未来の局面がありうると思ってしまう。
ただそこに至る局面は見えない。ゆえにそんな未来はないと安心する一方で、それでも危うさを感じてしまうのはアーヤさんは私でも予想のつかない動きをしてしまうからでしょう。
それこそ最初に出会ってからの日々も、トールズ第Ⅱ分校に入学してからの日々も予想外の動きの連続でした。
例えるならこっちが真面目に盤面を見て何十手先の局面を見据えて動いている横から急に現れて「ここがいいんじゃない?」と知った顔で《VM》のカードを召喚してくるような……あるいは盤面上にどの《指し手》にも制御できない暴走列車が適当に線路を組み替えて色んな駒をなぎ倒したり奪ったり場所を変えたりしながら動きまくっているような……そんな感覚でしょうか。
そういう意味では《鉄血宰相》はアーヤさんをよく操っている方でしょうね。おそらくはどう転んでも対処できるように回り道して手を打っているのでしょう。私もそれに気づいてからはアーヤさんを制御しようとするよりも方向性を示しながらもそれに囚われず何が起こっても盤面を有利に運ぶように動くことで多少はマシになりましたが……それでも《緋の騎神》の起動者になったと聞いた時は驚きましたし、それを使って各地で動きまくるので更に悩みました。
──とはいえ結果、《黄昏》という呪いは発動し、世界は終わりへと向かっています。
なので私はⅦ組の皆さんに別れを告げ、ヴァイスラント決起軍の主宰として動き始めました。
宰相による《大地の竜》作戦を食い止めるために、大勢の人を──いえ、世界中を巻き込んで止める最悪の一手。
私はそれを動かす覚悟を決め……そうして改めてⅦ組の皆さんと対峙しました。
本来なら《剣帝》……レーヴェさんと共に雇っていたアーヤさんが宰相陣営に取り込まれてしまったことを気にかけながらも、私はユウナさんたちに私の心の隙を容赦なく突かれました。
「まあ、それはホントなんでしょ──でもそれ以外は後付けね」
「確かに──それは“駒”の役目だ。“指し手”である君にとって危険を冒して見届ける必要は無いはず……今、この場でこうして僕たちと話していることも含めて」
「……《星杯》で皆さんと繋がった時、ミュゼさんのことも確かに感じました。あの時の貴女の“温かさ”が偽りだったとは到底思えません。囚われのわたしや、捕まったアッシュさん、ユウナさんにクルトさん、教官への想いが。……それだけは断言できるんです」
「テメエは確かに凄ェ。ひょっとしたら鉄血と張るくらいに。帝国っていう化物を封じ込めるのにテメエの計画以外ねぇのも確かなんだろ。だが──テメエ自身はテメエの考えついた計画に納得してんのか?」
「ねえミュゼ──あんた、自分が思ってるよりちゃんと普通の“女の子”だから」
「…………え…………」
Ⅶ組の皆さんに掛けられた言葉は……私でも無意識に封じていたそれを呼び起こしました。
かつてアーヤ教官に……アーヤさんに。そしてリィン教官にも言われた私自身の心のこと。
「……世界の命運を左右できるほどの凄い計画を考えられる天才だからってそれとこれは話が別じゃない。──そんな普通の子が何百万人も死んじゃうような一手を平気で打てるわけないでしょ?」
「……!!!」
「ふふ、そっか……君はどこかで期待したかったんじゃないかしら? どんなに考えても避けられない莫大な犠牲を伴うしかない“結末”……リィンやみんなとなら──《Ⅶ組》なら別の道を見出だせるんじゃないかって」
「……私、は…………」
「質問の仕方を変えるわよ。──“ミュゼ”はどうしたい? ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエン次期公爵じゃなくて──トールズ第Ⅱ分校《Ⅶ組》のミュゼ・イーグレットはどうしたいの?」
『ミルディーヌちゃんは何がしたい? せっかくだから一緒にやろうよ! お姉さんの私が付き合ってあげるからさ!』
それは奇しくも私がかつてかけられた心を動かされた言葉と同じものでした。
だからきっと……私はそれを待っていたのでしょう。
思えばあの《黒キ星杯》の後。アーヤ教官と連絡が取れなくなる前までは、僅かな希望がありました。
もしかしたらアーヤさんであれば私の計画を聞いて……そんなのはよくないと強引に私をⅦ組の下に連れ出してくれるのではないかと。
私でも予想のつかない動きで私の考えた最悪の一手を否定してくれるのではないかと。
ですがそんな淡い希望が打ち砕かれ……やはりこの手しかないと私は昔の私に戻ってしまったのでしょう。
だからユウナさんに、クルトさんに、アルティナさんに、アッシュさんに。皆さんに指摘され、手を差し伸べられた時に思い出してしまいました。
「……私は……わたしは──」
──わたしはこんな手を望んでいない。
それを思い出し、心で認めて……ユウナさんたちの手を取ろうと決めた……そんな時に。
「──フフ……素晴らしいじゃないか」
──私たちを取り囲むように……トールズ本校の生徒が……ミハイル教官や制服を着た結社の執行者《紅の戦鬼》が現れました。
そしてその中心にはセドリック殿下の姿が──
「フフ……星杯以来かな? また会えて嬉しいよ、クル──」
「こらー!! 空気読みなさーい!! 今じゃなーい!!」
「あたっ!?」
「で、殿下ー!!?」
──突如として後ろから現れたアーヤ教官に頭を叩かれて痛そうな声をあげました。
その突然の出来事に私を含めて全員が面食らいます。決め顔で現れたセドリック殿下は頭を抑えて痛がっていましたが……少しして叩いたアーヤ教官を憎しみの籠もった目で睨みます。
「っ……なぜあなたがここにいる……!!」
「そ、その通りだアーヤ教官! ここで何をしている!? 殿下の頭を……いや、そもそも君には待機を言い渡したはずだ!」
「そう言われてもなぁ。私も本校の実戦技術兼機甲兵教練の教官だし、生徒のことはちゃんと見てないとだし、特にセドリックくんのことはオズボーン宰相直々に見てあげるように言われてるし。命令的にはそっちの方が優先度高いかなーって」
「くっ……だとしても特別演習指揮官の私の指揮には従うべきだろう……!? だというのに君はいつもいつも──」
「ごめんなさーい。反省してまーす。──あ、ユウナちゃんたち久しぶりー。元気だった?」
「絶対反省していないだろう!!」
敵側に回った本校生徒に本校教官になったミハイル教官に相変わらず精神的ダメージを与えている様子のアーヤ教官を見て私たちは驚きつつも気が抜けるような感覚を得ます。もちろん気を抜くわけにはいきませんし、アーヤ教官もまた本校の教官になったと聞いて更に驚きを得ました。
「アーヤ教官……!」
「……敵に回ったと話には聞いていましたが……本校の教官になっているなんて……」
「つってもどう見ても手綱を握れてねぇみたいだが……」
「まさか殿下の頭を叩くとは……」
「アーヤ教官ならでは、ですかね」
「まあアーヤは子供相手の忖度とかは無縁だろうしね……」
「フッ……さすがはサイードだ。先程の不意打ちもギリギリまで気付けなかったぞ」
「いや、そこじゃないでしょ……」
全員でなんとも言えない空気になりながらもなんとか気を引き締めます。私もその間にウィッグを外して導力銃を構えることにしました。
「あー結局アーヤ姉も来たんだ」
「教官だからね。それにシャーリィちゃんだけだとなんか不安だし……」
「えーそんなことないって。ちゃんと弁えてるしお坊ちゃん殿下のことも見てたしさ」
「僕のことを子供扱いするな! ──アーヤ・サイード!! またしても僕の頭を叩くなんて……雇われの教師風情が許されると思っているのか……!」
「皇子とかの前に生徒だし子供だからね。それにセドリックくんヤバいもん使おうとしてたでしょ? それは本当によくないから止めてあげないとと思ってさ」
「ッ……余計なお世話だ!! 僕から力を奪ったあなたなんかに……! あなたなんかに言われる筋合いはないッ!!」
「……!?」
「この気配は……!」
「殿下……!」
そうして戦闘態勢を整える私たちでしたが……向こうもまた複雑な状況のようでセドリック殿下は突如として身体から黒い気配を漂わせ、激情に支配されているようでした。
「殿下! お気を確かに!」
「うるさい!! 僕に指図するな! 僕は……誰よりも強い……! 力を得たはずなんだ!」
「セドリック殿下……」
「あーあーまた始まっちゃったよ。これどうすんの、アーヤ姉」
「あ、あれ? 前までは私が叩いたら直ったのに……どうしよ。次はシャーリィちゃんが叩いてみる?」
「気絶させて怪我させてもいいなら殴るけどいいの? というかシャーリィが叩いても意味ないんじゃない?」
「それもそっか……あー……それじゃやらせた方がいいのかな。皆なら簡単にやられないだろうしある程度戦えば満足するだろうし」
「それでいいんじゃない? そっちの苦労性の教官もそれでいいでしょ?」
「誰が苦労性の教官だ! くっ……不確定要素を持ち込むのは遺憾だが致し方あるまい……」
そして何やら様子のおかしいセドリック殿下が剣を抜いたのに合わせてミハイル教官や《紅の戦鬼》。本校生徒たちも揃って戦闘態勢を取って私たちに狙いをつけました。
更に周囲には《赤い星座》の部隊や機甲兵が控え、更にTMPの部隊や高射砲も展開しています。
この状況では《黄金の羅刹》がいるとしても突破は容易ではない。
ですがようやく見えた可能性をここで潰えさせるわけにはいきません。
「あ、私は戦わないから皆頑張ってねー」
「ったくあんたは……相変わらずマイペースすぎでしょ……!」
サラ教官に全面的に同意ですが、今この状況でアーヤ教官が出てこないことは好都合です。
なので私たちは全力でこの場を脱するために戦闘を行い──
「アハハ、結構腕を上げたじゃん!」
「おー! すごいすごい! 皆すっごく成長してる! 特にシャーリィちゃん相手になんとかやれてるのめっちゃすごいよ! 本校生徒も分校だからって見下さないで見習って切磋琢磨しないとね!」
「どっちの味方なんですか……!?」
──そうしてなんとか耐え凌ぐことに成功しましたが……それでもまだ盤面は相手の優勢です。
「殿下……! 一体何があったのかは知りませんが……僕たちは絶対に負けるわけにはいきません──かつての“護る剣”として道を違えた今の貴方にだけは!!」
「っ……クルト……! クルトにも……! くっ……!」
「落ち着いた? それじゃ負けたし撤収しない?」
「黙れ……! 君に意見をする資格なんてない……! 僕は負けない……これなら勝てるんだ!」
「!? それは……!?」
「機甲兵……!?」
「にしては形状が禍々しいな……!」
私たちに食い下がられて更に苛立ちを募らせた様子のセドリック殿下は突如として機甲兵に似た兵器を召喚し、それに乗り込みます。その黒と赤が混じったかのような禍々しい機体は通常の機甲兵でないことが見るからに分かります。
「ハハハ……! これが僕専用の魔煌騎兵《ダーインスレイヴ》……! 今の僕の力だ……!!」
「……あーあ、また出しちゃったよ。しかもこのタイミングで。どうすんのさ、アーヤ姉」
「どうすんのも何もどうしようもないし……はぁ、もうこれはタイミングを見て私が止めるしかないかな……」
「──アル、お願い!」
「ノワールシェイド、解除します!」
セドリック殿下が乗り込んだ魔煌騎兵……おそらくは《黒の工房》が製作した機甲兵と魔煌兵のハイブリッド機体のようなものでしょう。その機体から禍々しいものを感じます。帝国軍でも同様の機体が配備されているという情報も入っていますが、殿下の発言や感じる力から察するにその中でも特別に性能の高い機体でしょうね。
そして今度はそれを乗り越えるべくミュゼさんとアッシュさんとクルトさんが機甲兵に乗り込んで対処することになりました。
「おおおおおおおおっ!!」
「や、やった!?」
「くっ……馬鹿な……ただの機甲兵如きに……!!」
──しかしそれも私たちはなんとか跳ね除けることに成功しますが……セドリック殿下はまだ諦めてはおらず。
「くそ……こうなったら──エイダ、フリッツ! 全員、機甲兵に乗るんだ!! 所詮は3機ごとき、数でひねり潰してやれ!!」
「で、殿下……!?」
「それはさすがに……!」
「僕の命令が聞けないのか!? 赤い星座も何をしている!? 公女と反逆者どもを捕らえろ!」
セドリック殿下は本校生徒や《赤い星座》に命令を下し、何がなんでも私たちを捕える構えを見せました。
正直なところそれをされると辛いものがありますが──ですが私たちにはまだ仲間がいます。
「──そうはさせないわ!」
「旧Ⅶ組の皆さん……!」
──TMPの包囲網を突破して《赤い星座》に奇襲を仕掛けたのは旧Ⅶ組。
「──皇太子殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう。《不撓》の少佐、《戦鬼》に《裁縫師》もいかがかしら? こちらはいつでも始められそうですが」
──更に空からはヴァイスラント決起軍の旗艦《パンタグリュエル》が。《蒼の深淵》に《黒旋風》。こちらが所有する機甲兵も増援に駆けつけます。
それを見たミハイル教官は武器を納めた上でセドリック殿下の方へ向き直り。
「……皇太子殿下。恐れながら現戦力で決起軍の主力を相手にするのは不可能です。戦域からの撤退を具申します」
そしてそれは当然の判断だった。
私から見てもここで戦うのは愚策。これで盤面はこちらに傾いた。如何にセドリック殿下の駆る魔煌騎兵が大きな力を持っていたとしても──
「うるさいっ!!」
「っ……! 皇太子殿下……!」
「黙れ黙れ! 僕は……こんなところで負けない……僕には力があるんだ……! だからこんなところで引き下がるなんてありえない……! 僕は……僕は強いんだ!!」
「殿下……!?」
「本当に一体何が……!」
「あの機体から禍々しい力を感じます……!」
──ですがセドリック殿下はそれでも引き下がることを良しとせず、魔煌騎兵を動かします。その瞬間にまたしても黒い何かが湧き上がり、エマさんがそれに反応しました。やはりあれは呪いの力だと確信する中、しかしセドリック殿下を止めるためにこちらもまた対処を迫られて──
「見てらんないなぁ。本当にそろそろ止めた方がいいんじゃない? アーヤ姉」
「だから駄目だって言ったのに。しょうがないなぁ……。来て──テスタ=ロッサ」
「……!?」
「あれは……《緋の騎神》……!」
「やはりアーヤ教官が……!」
──ですがその前に、私たちの目の前で動き出した人物がいました。
それがアーヤ教官。アーヤ教官は腕を上げて《緋の騎神》テスタ=ロッサを呼び出し、即座に乗り込みます。
そして空間からアーヤ教官が扱う《ゾルフシャマール》という大鋏に酷似した武器が現れ、騎神の手に収まりました。
「っ……! 《緋》の……僕の……《緋》の騎神……!」
そしてそれに気づいたセドリック殿下が私たちではなくアーヤ教官のテスタ=ロッサの方に体勢を変えます。その上で、アーヤ教官に斬りかかろうと剣を振り上げてみせて──
「──だからやめなって」
「!!? なっ──うわああああああ!!」
──気付いた時にはアーヤ教官の駆るテスタ=ロッサは殿下の駆る魔煌騎兵の背後に移動していて、その駆動系を切り裂いていました。
「皇太子殿下! くっ……アーヤ少佐! 止めるにしてもやり方を……!」
「へーきへーき。生きてるよ。気絶はしちゃったみたいだけどね」
「っ……なら、いいが……」
殿下の身を心配してミハイル教官が苦い顔をしています。
驚くべきはアーヤ教官の腕前。《緋の騎神》の性能が幾ら高かったとしても今の動きは……。
「今の動きは……アーヤの……!」
「速すぎんだろ……!」
「騎神であんな動きができるものなの……!?」
「普通の機甲兵なら難しいでしょうね。だけど騎神は起動者の動きを機甲兵以上に再現してしまう──あのアーヤの暗殺術ですらね」
「……オーレリア閣下」
「ああ……少々不味いな。サイードが戦う気であれば……この戦力でも覆しかねん」
「なっ……!?」
「それほどのもんだってのかよ……」
「アーヤ教官……」
今しがた見せた《緋の騎神》を駆るアーヤ教官の強さに戦力比を少し見誤っていたことを誰もが思い知る。千の武器を持つ魔人……《紅蓮の魔王》の力の一片を持つテスタ=ロッサを操るアーヤ教官であれば新旧Ⅶ組を丸ごと蹴散らし、オーレリア将軍やウォレス将軍ですら勝てるかどうかは未知数の戦いになってしまうことを。
そのため私たちはアーヤ教官が本当に《緋》の起動者であることも含めて苦い表情になってしまうが……。
「え? ──いやいやいや、そんな大したことないない! これだけいたら勝てないしそもそもやる気もないし。私はもう帰るから後はなんか良い感じにまとめといて! ──あ、これ今度出そうと思ってる私特性のカレー弁当ね。置いとくから良かったら後で皆で食べて! 感想はサイード社までよろしくね!」
──1つ救いがあるとすればそれだけの強さを持っているのがアーヤ教官なので相変わらず気の抜けるやり取りを行ってくれることですが……空間から取り出した弁当が沢山入った風呂敷を地面に置いて差し出してくるその騎神の動きは紛れもないアーヤ教官です。
しかもそそくさと帰ろうとしています。おそらく色々と追求されたくないのでしょうが、そうはさせません。
「……アーヤ教官。貴女は……なぜ宰相側についたのですか? 元々教官はレーヴェさん共々私たちヴァイスラント決起軍側で戦うはずでしたよね?」
「そうだったのか……!?」
「じゃあなんで今は宰相に味方して……?」
「あー……それについては色々と事情がありまして……」
「それに何故……いえ、どうやって《緋の騎神》の起動者になっているのかしら。それは本来、アルノール家の者しか起動することはできないはず」
「そ、それは私も知らないよ! なんかアルベリヒのアホが調整したって言ってたからそっちに聞いて! 一応言っとくと実はアルノール家の血を引いてるとかそんなことはないから悪しからず!」
「ならやっぱりアーヤ教官は敵側に……」
「……うん。だけど安心していいよ。
「! それはどういう……?」
「それじゃまたねみんな! ちなみにリィンくんは無事だけど呪いの贄としてヤバいから早めに助けに来てね!」
──そうして言いたいことだけを言ってアーヤ教官はテスタ=ロッサで空を飛んで去っていきました。
残された私たちは撤退していくトールズ本校や《赤い星座》を見送り、その事実を改めて重く受け止めます──アーヤ教官が敵側に回ってしまったと。
──グーテンモルゲン! トールズ本校教官兼《緋》の起動者アーヤ・サイードです! 最近はカレー屋さんを始めようと思ってよくカレーを作ってます! ちなみに何がとは言わないけど私が1番好きなのはほうれん草トンカツカレーです。
それはさておき。色々あった結果、私はトールズ士官学院本校の教官になりました。まさかの再就職。出戻りで私も正直困惑してるし私が出向してきた時の本校の教官陣も困惑してた。なんならミハイル教官が1番口をあんぐりとさせてたし、セドリックくんなんかは私を見るなり声を荒げて斬りかかってきたからびっくりした。とりあえず教室で剣を振り回すのは危ないから剣を取り上げてちゃんと駄目だよってお小言をあげたけど聞いている様子がなかったし、やっぱり重症だなって思った。なぜか本校に一時的に参加してる制服姿のシャーリィちゃんは「あ、そういうのありなんだ。シャーリィも斬りかかっていい?」とか聞いてきたけど駄目です。教師相手に暴力は不良すぎるって。
でまあなんでそうなったかっていうと単純にオズボーン閣下に頼まれたからだね。いつもの。特に今の私の立場じゃ頼まれたら断れないし、生徒を鍛えてあげるってのはどんな目的だろうと別に構わないしでやる以外の選択肢がなかった。
それになんかセドリックくんが呪いに蝕まれた上に《黒の工房》から専用の魔煌騎兵なんていう危ないオモチャを渡されたせいで更に精神的に不安定だから気にかけておいてくれとか言われたんだよね。いや、私が行くのは逆効果なんじゃ……向こうは《緋の騎神》が奪われたと思って私のこと嫌ってるっぽいし?
ただそれはそれとして放っておくとなんかやらかしちゃいそうな雰囲気はあったので私としても子供が道を踏み外しすぎるのも忍びない。まあ《庭園の主》が何を言ってんだって話だけどできることはやりたいし、引き受けることにした。
そしてまあトールズ本校の教官になったわけだけど……まあ荒れること荒れること。教官になったといっても引率みたいなことばかりで授業時間は殆どない。今は戦争が控えてるからね。生徒たちですら軍務に駆り出されるわけだ。
そんな中で私は暇を見つけては生徒たちにちょっとした戦い方や生き残り方のコツを教えたり、サバイバルの授業ってことで野外炊飯でカレーを作ったり川遊びを提案してみたりと色々なことを生徒とやってみた。ミハイル教官も眉間に皺は寄せてたけど駄目とは言わなかったしね。生徒のことをちゃんと考えてくれてるんだろう。
だけどそんな中でも本校随一の不良生徒のセドリックくんは全然先生の言う事を聞いてくれなくってね。私の授業では私なんかには教わることはないってプチボイコット(それでも育ちが良いから授業はサボらないのが可愛いね)したり、機甲兵教練では私のことを魔煌騎兵でぶちのめそうとしてきたり(その時に私がセドリックくんを叩くと若干呪いが緩和される気がしたので何かある度には愛の拳で目を覚まさせている。効果時間短いけど)、野外炊飯でも私が作ったカレーには手を付けなかったり(ちなみにセドリックくんは料理はへたっぴで包丁も全然使えてなかったから可愛かった)、川遊びには参加してくれなかったのでシャーリィちゃんと一緒に無理やり脱がせて川に放り込んだら顔を真っ赤にしてキレてた。うんうん、青春だねー。私も教官になって短いとはいえ不良を受け持ったことはなかったから新鮮だった。まさかこれほどまでにギザギザハートの不良が本校にいるなんてね。これはやりがいがある。
ただ生徒たちとの青春にかまけてばかりじゃいられない。私には本業というか、役目があるからね。《緋》の起動者としての役目が。
なので《相克》を勝ち抜くために動かなきゃならなかった。私は一先ずどうやったら《相克》に勝てるかをテスタ=ロッサと相談しながらまとめることにしたんだけど……そうやって出た結論は結局、力を付けて《黒》を倒すという普通のことしか思い浮かばなかった。
というのもこの騎神同士の《相克》ってのは場が整ってないとできないんだよね。闘争で場を温めてからじゃないと騎神同士で戦っても意味がない。あるいは不完全なものになってしまう。
なので各地にある霊場とはそれに匹敵する場所で然るべき手順を行ってからじゃないと《相克》によって相手の騎神を下すことはできないし、起動者も死ぬことはない……というなんとも厄介な仕様になっているのだ。
つまり私がこっそりとテスタ=ロッサでイシュメルガを背後からところがぎっちょんしても多分あんまり意味がない。やるとしてもルーファスみたいに相克中に奇襲を仕掛けないといけないのだ。
つまりイシュメルガを暗殺するには私が最後の最後まで《相克》まで生き残っていて、なおかつ存在を気づかれないようにしないといけないわけで……さすがにそれは無茶すぎるから却下した。どうやっても私はイシュメルガの前には配置されてリィンくんたちか誰かと戦う羽目になるわけだし、仮にそこから下されて味方になったとしても存在を気づかれないなんてことはありえない。つまり暗殺はできない。
そういうわけで正攻法で倒すしかないんだけど……そうなると結局は私自身が他の騎神を《相克》で討ち取ってテスタ=ロッサの機体性能を上げてから挑まないと厳しい。イシュメルガの強さはそれこそ《黒》以外の全ての騎神の力を結集してようやく勝ち目があるかどうかってレベルだからね。めっちゃきつい。難易度が死にゲーすぎる。
しかしそれでもやるとなるとやっぱり力を付けないといけないので……なら次に考えることは他の騎神をどういう風に倒すか。または誰を倒すか。その順番はどうするのか──と、考えてみたところこんな感じになる。
・《黒》のイシュメルガ→無理。死ぬ。ラスボス。なので力を結集してから。
・《銀》のアルグレオン→黒の次にキツイ。そもそもリアンヌママとは戦いたくない。戦ってる最中に暗殺されたら困る。そういう意味じゃ絶対に戦うわけにはいかない。
・《紫》のゼクトール→消去法だけど色んな意味で1番やりやすい。機体性能もこっちが勝ってる。油断はできないけど。ただフィーちゃんが……。
・《蒼》のオルディーネ→倒しやすいって意味じゃ1番かもだけどクロウくんはリィンくんに倒してほしい。そして仲間に引き入れてほしい。というかそうしないと復活できない可能性がある。あるいは私が眷属化を試すか……?
・《灰》のヴァリマール→そりゃ力は1番下かもだけど主人公のリィンくんはさすがに……。戦うとしてもできれば最終局面にしたい。一応私が勝つ気でやるにしてもどっちが勝ったとしてもイシュメルガを倒せるような感じにしたい。
・《金》のエル=プラドー→機体性能は銀と同じくらい強いらしいけど今は起動者がいない。というか私が持ってる。起動者がルーファスになったら即やりにいくけどそうじゃないなら色々と使える。
──と、改めて列記してみたけど多分間違ってはないと思う。ちなみにテスタ=ロッサの機体性能は実のところ《金》や《銀》よりも強くなってるみたいなので起動者の腕前を考慮しても実は結構勝ち目はあるらしい。誰にも教えてない奥の手もあるしね。
なので《黒》以外の誰でも《相克》で下そうと思えば出来なくもないくらいなんだけど誰を倒すかは本当に悩ましい。候補としては《紫》か《蒼》だけど……うーん……やっぱ全部リィンくんの《灰》にやらせて最後に戦った方がいいんだろうか。でもそれだと私は負けてリィンくんに重荷を背負わせることに……ただミリアムちゃんにクロウくんを救うにはある程度は協力というかルートを一致させないといけないし……。
とそこまで考えたところで私の頭はパンク寸前になるけどちゃんとしないと取り返しのつかないことになりかねないからやるしかない。
なのでまず考えた方法が──『《金の騎神》の起動者を適当な誰かに任せて私にやられてもらおう作戦』だ。
「──そういうことでオランピアちゃんよろしく!」
「なにがよろしくですか。命令だとしても意味がわかりません。急にこんな巨大な人形を動かせなど……」
「まあまあ! 一回だけ! 一回だけ試してみてよ! そしたら後は適当なタイミングで私に負けてくれるだけでいいからさ! さきっちょだけさきっちょ!」
「さきっちょ……? はぁ、了解しました」
──そうしてその作戦のために態々共和国から呼び寄せたのが《庭園》の管理人の1人! 《金》のオランピアちゃんだ! わー! ぱちぱちぱちー! 渾名も《金》なのでぴったり! 普段からイシュタンティを動かしてるからアルティナちゃん理論で操縦が難しい可能性はあるけど別に弱くていいからね! 何の問題はない!
なので私はルーファスに見つからないようにこっそりとエル=プラドーを隠しているとある森の中でオランピアちゃんにお願いした。そんなオランピアちゃんはゆっくりとエル=プラドーに近づいて──
「……それで、どのようにして乗り込むのですか?」
「え?」
「いや、え、ではないでしょう。貴方もそちらの緋い騎神とやらの起動者なのでしたら乗り込み方は知っているのでは?」
「えーとそれは……こう……念じれば自然に?」
「念じても何も起きませんが」
「えーと、それじゃあ……あ、合言葉とか? 来い! エル=プラドー! みたいな!」
「来てください、エル=プラドー。……言いましたが何も起きません」
「……………………」
「……………………」
「……教えてテスタ=ロッサ!」
「……起動者がまだ決まっていないからだろう。正式に起動者と契約を結ばねばどのような方法を用いても乗り込むことは叶わない。私たちはそのように造られている」
「あ、そっか。それじゃどうやって起動者って決めればいいの?」
「個々の騎神によるが……大抵は騎神の思考フレームが起動者候補を試練を通じて見定める。《試しの場》と呼ばれる異空間を用いて行うものだが……」
「それじゃそこを攻略すればいいってことか」
「それはそうだが……その肝心の《試しの場》はアーヤが破壊してしまったであろう?」
「え」
「いや、え、ではないのだが……あの《黒キ星杯》に忍び込む際に無茶苦茶に異空間を切り裂いて迷い込んだあの場所がおそらく《金》の試しの場だ。それが破壊され、そこから運び出してしまった以上、あの場所はもう使い物にならなくなってしまっているだろう」
「……………………」
私は一通りテスタ=ロッサから話を聞いて無言となる。
私に突然呼び出されて《金》の起動者になるように言われたオランピアちゃんも同じだった。どことなく呆れるようなジト目で私のことを見つめてる気がする。
なので私は少しして頭を抱えた。その上でいつものように。
「うわーん!! それじゃどうすればいいのー!!? 《金》の起動者作れないじゃん! よくよく考えたら導き手もいないし! どうしようもないじゃん! 私の完璧な計画が台無しだー! うわああああん!!」
「完璧な計画……? そんなものを立てられる能力があなたにあるのですか?」
「オランピアちゃん酷い! これでも私は頭良いんだよ! ヴァンとかよりずっと頭良いし!」
「そのヴァンというのが誰かはわかりませんがあなたより頭脳面で劣るということはよっぽどの人物なのでしょう。ヴァンという人物のことを大陸一の馬鹿と記憶しておきます」
「私は世界で二番目に馬鹿ってこと!? それは本当に酷い!」
「……そうですね。さすがにそこまでは思いません。知能面は並といったところでしょう。──狂人さと身体の硬さ。それと暗殺の腕前の方は大陸一だと思いますが……」
「聞こえてるよ! 全部嬉しくない! というか狂ってないし!」
「……………………そうですね」
「間が長い! 今絶対適当に頷いとこうって思ったでしょ!?」
「そんなことはありませんよ」
「今度は速すぎ! 追求が面倒くさいからとりあえず即否定すればいいと思ったでしょ!?」
「──わかっているなら聞かずともよいのでは?」
「開き直って認めた! うわーん! オランピアちゃんが冷たいー! 完全に冷めた彼氏みたいになってるよー! うわーん!」
「よくわかりませんが、つまりあなたが面倒くさい彼女みたいな振る舞いをするからではないか……そうイシュタンティが言っている気がします」
『!?』
「ええ!? イシュタンティが!? いや、そんなわけないでしょ! 古代遺物に責任転嫁するなんてオランピアちゃん実は感情あるんじゃないの!?」
「ないです。……ちょっと面倒くさくなってきただけで」
「あるじゃん! ね、ジオンにマキナにポム次郎もそう思うよね!」
『キー!』
『ポムポム!』
『私までペット枠に入れられてる!? え!? 私ってペット枠だったんですか!?』
「ほら! 皆もそうだって言ってるよ! 良かったねオランピアちゃん!」
「イヌワシやポム相手に同意を求める方がどうかしてると思いますが……」
「種族が違ってもみんな友達だよ!」
「そうですか……」
「貴殿ら仲がよいな……」
『私ってペット枠なんですか!? マキナちゃんショック!』
──と、そうして色々話し合って友情を深めた(?)私たちは皆でカレー鍋を囲む。ペットたちも和気あいあいとして仲が良さそうで微笑ましい。
「それはそうと……起動者を決めるのであれば相応しい場を用意するのが良いだろう」
「相応しい場?」
「うむ。霊力の集まる地にエル=プラドーを運び、その地で試しの場による試練さえ行われれば……おそらくエル=プラドーもそれを乗り越えた人間を起動者と認めるはずだ」
「なるほど……」
そしてテスタ=ロッサが助言をくれたので私はほむほむと頷く。つまり私が試験会場を整えてやればいいわけだ。そうすればオランピアちゃんか誰かしらが起動者になる可能性があると……。
「──閃いた!」
「あなたがそう言うと急に帰りたくなるから不思議ですね」
「……何か思いついたのか?」
「うん! これなら公平だしね!」
私は天才的な閃きでエル=プラドーの起動者問題を解決する方法を思いつく。オランピアちゃん以外にもチャンスを与えることにはなるけど実のところオランピアちゃん以外にも候補は考えてたのでその中の誰かであればいい。
──あ、もちろんルーファス以外でね。そうと決まれば手紙を書いて準備しよーっと。忙しくなるぞー!
──その日。私の元に一通の手紙が届いた。
手紙などこの忙しい時期なだけに無視しようと思っていたのだが……それが無視できなかったのはその差出人が『アーヤ・サイード』であったからだ。私は嫌な予感を感じつつもカミソリや何か毒薬などが仕込まれていないかと慎重に確認してから中身を確認する。その手紙にはこう書いてあった。
『アホのルーファスへ。金の騎神は隠しました。ざまーみろ~。うぇーい。でもチャンスをあげるよー。起動者になりたければところてん☆ルーファス仮面の格好をした上で参加費に一千万ミラを下記の口座に振り込んでからお土産を持って指定の場所へやって来い。良いお土産を持ってこーい。ばーかばーか。
アーヤ・サイード P.S.授業でやる野球でインフィールドフライを適用されてアウトにされるとちょっとモヤる』
「………………………………」
私はその一部意味不明だったりイラッとしてしまう手紙の内容を見て……頭を抱えて内心で呟いた。
(最悪だー……!!)
私はとてつもなく嫌な予感を感じたが……それでもそれに従わずにいることはできず、覚悟を決めて手紙の内容通りに1000万ミラを振り込んでから指定の格好で指定の場所へ向かうことにした……。
今回はこんなところで。今回はマイルドでしたね。
次回はアーヤ・サイードの楽しい《試しの場》建築です。金の騎神の起動者が決まります。お楽しみに。
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