TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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今回は楽曲コードをガイドライン通りに記載した上でとある名曲を使わせてもらってますのでその場面が来たらぜひ聴きながら読むとより楽しい気持ちになるかもしれません。
それではどうぞ


金の騎神の試練で大事な事を知る不幸

 

 ──七耀暦1206年。8月15日。

 

 エレボニア帝国東端。クロスベル州にてその日……裏に関わる者達にとっては今後の運命を左右する重要な出来事が執り行われようとしていた。

 

「ここが……」

 

「特異点……それにあの光の柱は──」

 

「ああ……招待状に書かれてた地点だな」

 

 囚われの身であるリィン・シュバルツァーを救い出すため、各地の特異点を探してそこから《地精》の本拠地を割り出そうとしている新旧Ⅶ組が勢揃いし。

 

「あったわ!」

 

「情報通りだね」

 

「みんな気をつけて。あそこからすごい霊力を感じるよ」

 

「ああ……わかった。キーアの言う通り、注意して入ろう」

 

「あの中に先輩が……」

 

 別方面で動いていたはずのエステル・ブライトにヨシュア・ブライト。ロイド・バニングスにエリィ・マクダエル。キーア・バニングス。レン・サイードに、とある国の皇太女も。

 

「ほう。この先が開催地というわけか」

 

「参加者も既に集まっているようですな」

 

 鉄血宰相や帝国に対抗するため密かに各方面と連携しながら動いているヴァイスラント決起軍の将軍。《黄金の羅刹》オーレリア・ルグィンも。

 

「…………」

 

「あー……旦那。一応聞いとくが……本当にその格好で会場入りするつもりか?」

 

「……致し方ないことだ。向こうの……主催者の指定なのだからな」

 

「つっても幾らなんでも……」

 

「文句を言って変わるものでもない。それに他の参加者もそれ相応の代償は支払っているはず。であれば……受け入れて資格を示すのみだ」

 

「……まあ旦那がそれで構わないんなら別にいいんだが(とはいえ俺の勘だとおそらく……)」

 

「…………」

 

 宰相直属の《鉄血の子供たち》。ルーファス・アルバレアにレクター・アランドールも。それに付いてきた《身喰らう蛇》の執行者No.Ⅸ《告死線域》のクルーガーも。

 

 ──その他にもトールズ第Ⅱ分校の生徒やクロスベルの特務支援課関係者。それ以外にも縁のある者達が続々とこのエルム湿地帯に。その奥にある白焔のプレロマ草の中心にある光の柱の中へと入っていく。

 

 事前に各方面に送られた招待状。そこがこれから行われる試練の場であり、世界の終わりに関わる《相克》に食い込むための最後の騎神──《金》の騎神エル=プラドーの……。

 

「第一回!! 金の騎神の起動者は誰だ!? チキチキ!! エル=プラドー争奪100種目レ~~~~~~~ス!!」

 

「わ~~~~!!」

 

「ぱちぱちぱち~~!!」

 

 ──起動者を決めるための試練の場、のはずなのだが、会場に全員が集まるなりあまりにも場違いと言うべきか、重大な事柄に反して気の抜けるようなタイトルコールが始まったことでその場に集まった多くの者達が困惑した──いや……何これ……と。

 

 彼らが転移した謎の異空間。そこは赤を基調にした色鮮やかな空間であり、城門とその前にある広場がある──帝都ヘイムダルのドライケルス広場に似た場所だった。

 そしてその中で少し高い位置にある長机に並んで座っていたのは、この催しを開催した張本人。結社の執行者No.ⅩⅢであり《緋》の騎神テスタ=ロッサの起動者である──アーヤ・サイードだった。そしてその隣には今回の催しに協力している結社の執行者No.0《道化師》カンパネルラもいた。2人は机に置かれた導力マイクで会場の全員に声を届ける。

 

「さあ遂に始まりました! 金の騎神の起動者を決める試練! 提供はサイード社と結社《身喰らう蛇》でお送りします!」

 

「いや~すごい豪華なセットに豪華な面子だよね~。これ全部君が用意したんだよね?」

 

「そう! いつまでも金の騎神を腐らせてるわけにもいかないからね! 早い話がこの場で起動者を決めてしまおうってこと! そのためにこの場を用意させていただきました!」

 

「アハハ! 君、いつにも増してムチャクチャすぎでしょ! 面子からしておかしいのに、その中で競わせようなんてさ!」

 

「だって(緋の)騎神がそう決めたからね! 起動者を決めるための試しの場は必要だって! だから何がなんでも競ってもらいます! その方が公平だしねー」

 

「いや、公平とかそういう問題じゃないような……」

 

「本当に何をやっているんですか……」

 

 MCを務めるアーヤとカンパネルラにクルトがやんわりとツッコミ、クルーガーが呆れた声を出す。概ね殆どの者がそんな雰囲気を醸し出していた。

 しかしそんな中で──

 

「さて! まずはみんな! 集まってくれてありが──うえええええ!!? く、クローゼちゃんがいるうううう!!? なんで!?」

 

「お久しぶりですね、アーヤ先輩」

 

 ──エステルやロイドたちと行動を共にしていたリベール王国の皇太女。クローディア・アウスレーゼの存在に気づき、アーヤは酷く驚く。その驚きはこの場にいるはずのない者がいる驚きとクローゼがいるということ、2つの意味が込められていた。

 アーヤは声を大にして驚いたあと、ややあって冷静に疑問を口にする。

 

「え……本当になんでいるの? エステルちゃんたちがいるとはいえ危なくない?」

 

「なんでいると思いますか?」

 

「な、なんで……? い、いや、ちょっとわかんない、かも……」

 

「そうですか。なら何故私が来ないと思ったんですか? 私が先輩の下を訪れないと思うその理由は?」

 

「──怖い! クローゼちゃんなんか怖いよ! しばらく見ない内になんか圧力が増してるというかなんか重さを感じる! 笑顔は相変わらず綺麗で可愛いのに!」

 

「ありがとうございます。先輩も変わりませんね。明るいところも優しいところもおしゃれなところも……どこまでも1人で動こうとするところも」

 

「あ、ありがとー……あはは、クローゼちゃんに褒められて嬉しいなー……あはは……」

 

(……完全に同意ね)

 

(リベールのクローディア姫、ですか。なるほど……話には聞いていましたがやはり彼女も……)

 

(ご愁傷さま、ですね)

 

 アーヤとクローゼのやり取りは勝手知ったるようで、どこかアーヤが押されている不思議なものだった。それを見ていたレンやミュゼ。シャロンなどは心の中でそれぞれクローゼに正しく同情する。

 一方でリベールの次期女王が来ていることにユウナたちは純粋に驚いていたし、アーヤと知り合いであることを不思議がったり、同じく先輩であるはずなのに一旦は無視されているレクターが微妙な気持ちになったりした。

 とはいえ主軸はそこではない。アーヤはクローゼからの圧を感じる笑顔から逃れるようにマイクを手に取った。

 

「そ、それはともかく! 今日は言ったように《金の騎神》の起動者を決めてもらうよ! 参加希望者はちゃんと招待状と参加条件は満たしてきてるよね!?」

 

「…………ああ」

 

「一応持ってきたけど……」

 

「無論だ」

 

「…………」

 

「……これで満足かな」

 

 アーヤの呼びかけに進み出てくる参加希望者たち。彼らは皆、それぞれ仲間内で誰が参加するかを相談して事前に決め、招待状に書かれた条件をクリアした上でこの場に集っていた。

 アーヤは全員ちゃんと集まっていることを確認して頷く。

 

「ふむふむ……みんなちゃんと来てるみたいだね! それじゃまずは参加者の紹介を──」

 

「……いや、その前に──少し聞きたいことがあるのだが構わないかね?」

 

 ──が、その前に声で割って入ったのは参加者の1人、ルーファス・アルバレアだった。

 彼は彼自身の目標、目的のために何としても《金の騎神》を我が物にしようと目論んでいる現クロスベル総督にして《鉄血の子供たち》の筆頭。

 この場に集まっている面々からも微妙な表情を向けられる因縁の相手だったが……それでも微妙な表情を向けられている理由は1つではなく……。

 

「俺からも聞かせてもらいたい。なぜ……何故に……!! 兄上はそのようなフザケた格好をしている!!?」

 

 ──そう。参加者の1人であるユーシス・アルバレアが耐えられないと言わんばかりに色んな感情をないまぜにしたツッコミを入れたように。

 ルーファス・アルバレアは下着一丁にマントにネクタイに目元を隠す仮面にシルクハット。そんな明らかに変態染みた格好──ところてん☆ルーファス仮面の格好をしていた。

 

 ゆえに参加者からはドン引きされている。ユウナなどは特に厳しい……まるでゴミを見るような目でルーファスを見ていた。袂を分かったとはいえ兄として慕っていたユーシスはそのフザケすぎている兄の格好にいたたまれなくなる。

 そしてルーファスもまたそのような視線を、一応は弟だった者やこの場にいる者達から向けられるのは遺憾極まりないが……今更何を言ったところでどうしようもなかった。

 だがせめてこれは条件であったことを伝えるべく口を開こうとして──

 

「……私はあくまで、条件を──」

 

「うわぁ……変態だ……本当に着てくるなんて……あんなの冗談に決まってるじゃん……怖っ……」

 

「……………………」

 

 ──ドン引きしている張本人の反応を見てルーファスは白目を剥いて固まった。その衝撃の発言に思わず自らに似合わない大声のツッコミを上げたい衝動に駆られたが、それは何とか耐える。これ以上、恥の上塗りをするわけにはいかないと。

 

「…………すぐに着替えさせてもらおう。それより……私からも質問させてもらいたい。私以外の参加者はどのような条件を出されたのかね? 招待状には参加費などが記されていたと記憶しているのだが」

 

「──参加費? そんなのありませんけど。お弁当持参って書かれてたくらいで。それよりもあたし達のことを心底バカにしたその格好を早くやめてください。じゃないと怒りで襲いかかっちゃいそうなんで」

 

「……その辺に生えている草を持ってきてほしいとは言われたが……」

 

「缶ジュースを9本と書かれていたな。なぜ9本なのかはわからないが」

 

「参加費は心意気だけだと通達されました。私に心意気なんてものはありませんが」

 

「……………………」

 

 ──そしてルーファスは何も言わず、物陰でいつもの格好に着替えることにした。恥の上塗りはできない。その一心だけで言葉を返さない。ただ理不尽すぎて頭を抱えたくなったが、偉大な父を超えようと願う人間はこの程度で動じてはならない。彼なら動じないはず。その心意気で何とか耐えきった。

 

「アハハハハ!! ちょっ、もう腹痛いんだけど! あのいつも澄ました顔の《翡翠の城将》があんな風に……!」

 

「ドン引きだったね! それじゃ気を取り直して参加者の紹介だよ!」

 

 ルーファスが着替えから戻ると改めて参加者の紹介に移る。カンパネルラがお腹を押さえて爆笑していたことにルーファスは厳しい目つきを向けるが、それでやめるような相手じゃなかった。ルーファスの密かな抗議は何の効果もなくアーヤは参加者を1人1人紹介していく。

 

「まずはエントリーNo.1! 早速会場をドン引きさせた《鉄血の子供たち》の筆頭! 《翡翠の城将》! ルーファス・アルバレア!」

 

「そういえばなんでルーファスにも招待状を送ったの? 君って彼のこと嫌いだったよね? もしかして《地精》に命令された?」

 

「一応公平にしないとと思ってね! まああの《黒》の怨霊に頼まれた理由が殆どだけど! じゃなかったらあの変態はすぐに失格にしてたよ!」

 

「《黒》の怨霊……?」

 

「…………」

 

 最初にスポットライトを(どこから光が発生しているのか)当てられたのはルーファス・アルバレア。

《金の騎神》をこの中で最も強く求めている大本命の1人。剣の腕前も達人級。頭脳面も優れていて策略にも長ける。実力は申し分ない。アーヤからは嫌われているが、《地精》からは推されている。そんな彼が解せない表情を浮かべている。

 そして地味にアーヤの発した《黒》の怨霊という言葉にアルティナやⅦ組の面々が訝しんだが、今はその意味を理解できない。質問するような空気でもなかったため、アーヤの紹介する声が続く。

 

「続いてエントリーNo.2! アルバレア家の当主代理! 旧Ⅶ組の頼れる金髪イケメン! 文武両道! 剣もアーツも馬術も何でもござれの万能大貴族! スープも作れるよ! 旧Ⅶ組代表、ユーシス・アルバレア!」

 

「兄上……貴方がどんな理由で騎神を求めるかは分からない。だがいずれにせよ、今の貴方に騎神を渡すわけにはいかない。リィンの負担を減らすためにも……騎神は俺たちの誰かが手に入れるのが最善だと話し合った。そのためなら俺自身が起動者になる覚悟もある」

 

「へぇー旧Ⅶ組からは彼が出てくるんだ。奇しくも兄弟対決になったね」

 

「ユーシスくんは大体なんでもできるからね! 試練をクリアするために一番最適かも! がんばれー! ルーファスなんてぶっ倒せー!」

 

「君、贔屓を隠す気ないね?」

 

 次にスポットライトを当てられたのはルーファスの弟であるユーシスだった。その紹介の通り旧Ⅶ組においても武術面でも知能面でも何でも器用にこなす万能型。それゆえに1人で様々な種目をこなす必要のある今回の試練では適任だろう。旧Ⅶ組もアーヤからの招待状を受け取ってから真剣に話し合って出した結論だ。騎神を手に入れればリィンと共に戦うこともできる。相手に渡すわけにもいかない。そのために本気で取りに来ていた。

 そしてそういう意味では次も同じ。アーヤは続いての人物を紹介する。

 

「さあどんどん行きましょう! エントリーNo.3! 開催地クロスベルからはこの子が参戦だ! 元気で可愛いおてんば娘! 機甲兵教練の成績もトップクラス! クロスベルを取り戻せ! トールズ第Ⅱ分校Ⅶ組所属、ユウナ・クロフォード!」

 

「なんか気の抜ける雰囲気だけど……うん、大丈夫。ここに来るまでに覚悟はしてきた。あの人に追いつくためにも騎神はあたしたちで手に入れる!」

 

「あ、旧Ⅶ組と新Ⅶ組で別枠なんだ」

 

「戦力的に一番か弱いからね! ユウナちゃんも頑張れー! 黄金の精神見せろー!」

 

「いやまあボクは良いんだけどさ。後で怒られても知らないよ?」

 

 その次は新Ⅶ組に所属するユウナ・クロフォード。彼女はアーヤにしてみると黄金の精神を持つということで金の騎神も案外似合うんじゃないかという選考理由だが、おすすめしただけで誰を起動者候補に推すかは新Ⅶ組に任せている。もっともアーヤの考えは正しく、機甲兵の操縦も上手で新Ⅶ組を引っ張っている彼女が出てくることになっていた。彼女もまた覚悟を持ってこの試練に臨んでいる。

 だが次は大本命だ。アーヤは更にテンションを上げて紹介する。

 

「そして次は大会大本命! 帝国人なら誰もが一生の内一度は夢見る地上最強の女! アルゼイド流とヴァンダール流を極めた帝国の武の頂点のこの人が参戦だー! エントリーNo.4! 《黄金の羅刹》オーレリア・ルグィンー!」

 

「ヴァイスラント決起軍としても1人の武人としても騎神を得ることは有用なのでな。先の海上要塞で手合わせの叶わなかった《聖女》と戦う機会も得られよう。雛鳥達も《翡翠の城将》殿も全力で懸かってくるがよい!」

 

「いや大本命というかさ……ぶっちゃけこの人に勝てなくない?」

 

「色んな種目があるから大丈夫じゃないかな。多分……」

 

 その次に紹介されたのはオーレリア・ルグィン。《黄金の羅刹》の異名を持つ帝国最強の武人。戦う際に全身から立ち昇る黄金の闘気。その異名も相まって金の騎神の起動者にある意味で一番似合っているかもしれない参加者だ。彼女自身も伝説に挑むこと。伝説を超えて自身もまた伝説になることを望んでいるため、そういう意味でも騎神という興味深い得物を得ようと気合十分だった。

 無論それはここまで紹介された参加者全員に言えることだが……次に紹介された相手にはやる気は全く感じられなかった。

 

「そしてそしてー! 最後は謎の人物の参戦! 一体この可愛い娘は誰なんだー!? 情報は一切なし! どこの組織に属しているかも謎! 実力も未知数! 今大会の台風の目になるか!? エントリーNo.5! 《(アウルム)》のオランピアちゃーん!」

 

「……………………」

 

「誰……?」

 

「何やら只者ではない雰囲気だが……」

 

「アーヤ教官の知り合いでしょうか……」

 

「全員困惑してるけど大丈夫? ボクは何となく予想がつかなくもないけど……」

 

「オランピアちゃんの正体についてはノーコメントです!」

 

 そして最後は白い包帯のような衣装を身に纏った《(アウルム)》のオランピア。その正体も何もかもが、この場にいる者達にとっては謎。唯一カンパネルラはアーヤが連れてきたということで何となく彼女の正体に勘づいていたし、シャロンなどはその身に微かに漂う懐かしい……それでいて少し違う死臭を感じ取って訝しんでいた。

 正体を知るのはアーヤのみだが、そのアーヤがやはり答える気がない。そのため参加者の紹介から試練の説明へと移る。

 

「以上5名の起動者候補によって試練は執り行われます! ルールはとっても簡単! 100種目を終えた時に最もポイントの多い者が《金の騎神》エル=プラドーの起動者になることができます!」

 

「……!」

 

「あれが……!」

 

「最後の騎神か……!」

 

 アーヤは背後にあった天幕を取っ払ってそこにあった金の騎神エル=プラドーを皆にお披露目する。

 永遠を意味する黄金の輝き。7体の騎神の中で黒に次ぐ力を持つとされる最後の騎神。

 その起動者となることができればこの先に起こるであろう世界の終わりに抗うことも叶うだろう。逆に言えば騎神がなければ《相克》に参加することはできない。──それを理解しているルーファスはその目を鋭く細め、完全に理解せずとも騎神の強さと重要さを知る他の面々も息を呑んだ。ノリはアホらしいこと極まりないが、参加して得ることのできる報酬は莫大。となれば真面目に参加するしかない。

 

「種目毎に順位によってポイントが加算される仕組みでボーナスポイントや逆転チャンスに罰ゲームもあるよ! 協力者と一緒に挑む種目もあるから起動者候補以外の皆もいつ選ばれてもいいように準備しといてね!」

 

「俺たちも参加するのか!?」

 

「起動者に対する準起動者ということでしょうね」

 

「はい。その候補者が起動者となった際に自動的に協力した人達が準起動者になると思います」

 

「うむ。……このルールじゃと協力者の数や質が勝敗を分けるじゃろうな」

 

 アーヤの説明にロイドが驚愕し、ミュゼがその意味を理解、更に詳しいエマやローゼリアが捕捉を行う。やはりフザケたノリとはいえ、仕組み自体はちゃんとしている。それを理解した参加者にそれ以外の者達もより真剣な面持ちになった。

 

「今の言葉でみんな気合いが入ったみたいだね。これは面白い勝負が見れそうだ」

 

「それじゃみんな準備はいいかな! いい? 始めるよー!」

 

「構わないとも」

 

「ああ……!」

 

「はい……! 大丈夫です……!」

 

「問題ない」

 

「さっさと始めてください」

 

 アーヤの最後の確認に起動者候補たちがそれぞれスタートラインに立つ。全員が既に準備も覚悟も終え、スタートの合図を今かと待ち望んでいた。

 それをしっかりと確認したアーヤは満足そうに頷き、腕を上げる。そして声と共にその腕を振り下ろし──

 

「オッケー! それじゃ行くよー! エル=プラドー争奪100種目レース! ──スタート!!」

 

「……!!」

 

 ──その合図を口にした瞬間。全員が一斉にスタートを切った。

 

 

 

 

 

 ──スタートを切った瞬間。見える第一種目に私は意識を集中させた。

 

 一斉に走ったが、足の速さにそこまで差はなく、同時にあまり意味はない。全員が同じ種目に挑むのならばゴール順よりも各種目でしっかりと成績を残す方がより重要と言えるだろう。

 ゆえに私はユウナ君やユーシスに注意を払いつつも最大の脅威である《黄金の羅刹》やアーヤ君が連れてきたオランピアなる人物により強い警戒を向ける。おそらく本命は彼女たちであろう。私を嫌っているアーヤ君は私以外の者に起動者となってほしいはず。そのために私を止められる人物を連れてきたというわけだ。

 だが問題はない。純粋な武の競い合いであれば《黄金の羅刹》相手には分が悪いと言わざるを得なかったが、そうでないからこそ勝ち目がある。協力者としてレクター君も連れてきている。父であるギリアス・オズボーン宰相を超えるために、私はどんな試練が待ち受けていようと乗り越えてみせると──

 

「第一種目は超危険! エビの皮早剥き選手権だー!!」

 

「いきなりめちゃくちゃ騎神関係ないんですけど!!?」

 

「危険でもないし!!」

 

 ──そうして告知される最初の種目に私はツッコミを入れそうになるのを何とか堪える。参加者のユウナ君や観戦しているアリサ嬢がツッコミを入れていたが、私もそう思う。全く関係がないし危険でもない。ただ私としては少しばかりマズかった。

 

(くっ……料理は不得意とは言わぬが得意とも言い難い……! とはいえ要領さえ掴めば……!)

 

「ぐっ……おのれ……! まさかいきなりこのような種目とは……!」

 

「終わりました!」

 

「むっ……少し遅れを取ったか。さすがはクロフォード。普段から料理に慣れている者には敵わぬか」

 

「皮剥きの全工程を終了。次の種目へ向かいます」

 

「早いですユウナさん……!」

 

「その調子だ……!」

 

 やはりか。予想通り私より早く皮剥きを終えたのはユウナ君にオーレリア将軍。そしてあのオランピアという女性の3人だった。私は辛うじてユーシスよりも早くクリアするが、それでも順位は4位。いきなり出遅れてしまった。

 

「さあ1種目目は1位がユウナちゃんとなりました! とはいえまだ始まったばかりです!」

 

(その通り……この種目は仕方がない。次で巻き返せば──)

 

「続いて第二種目!! 死んだらごめんね! 煉獄障害物競争ー!!」

 

「難易度の差がすごい!!?」

 

 ──目の前に広がる煉獄のような光景。マグマが流れ、落とし穴やギロチンやら槍衾やら火炎放射器やら様々なトラップが仕掛けられているアスレチックコースに辿り着き、私は目を見開く。今度も何とかツッコミは耐えた。マキアス君などはツッコミを入れていたが、私もそう思う。これは気をつけなければ本当に身の危険を感じる。

 だがチャンスでもあった。これならば巻き返しも可能──

 

「ん? (横から並走するようにトロッコが……)」

 

「This way」

 

「!!? (サングラスを被ったアーヤ君!? 一体何を──)」

 

「おらおらおら―!! 死に晒せー!!」

 

「うおおおおおおお!!!?」

 

「めちゃくちゃ撃ちやがったー!!?」

 

 ──と甘いことを考えていると突然現れたアーヤ君が銃をめちゃくちゃに私目掛けて乱射したことで私は叫びながら吹き飛ぶ。私の代わりに観戦してるレクター君がツッコミを入れていたが、それを気にしている余裕もない。私は手榴弾の爆風から逃れて全力で走りながら叫ぶように抗議を行う。

 

「何を……!? 主催者である君が参加者の邪魔をするなど公平性に欠けるのではないかね!?」

 

「主催者? 何を言ってるの? 私はコマンドー。伝説の猟兵だよ」

 

「何を言っている……! いや、まさか……このまま私の邪魔を続けるつもりか……!?」

 

 私はその最悪な想像に思い至る。もしやこれから100種目の間、ずっとアーヤ君が私の邪魔をしてくるのではないかと。もしそうだとしたら──最悪だ。身の危険すら感じる。公平性の欠片も感じないが、この試しの場ではおそらくそういった妨害も認められるのだろう。試練を乗り越えるのは元々早い者勝ちだ。

 

(っ……だが邪魔をしてくると分かっているのであれば「来いよベネット。怖いのか?」それに備えて動くまでの「ただのカカシですな」こと……! 騎神を手に入れるためなら「俺達に協力しろ。OK?」「OK!」──ものすごく鬱陶しいが、慣れるしかない……!)

 

「さあ第二種目も次々にゴールを決めてるよ! なんか主催者が実況席にいないけどそこは気にしない方向で!」

 

(道化師も当てにならないか……! やはりここは私の独力で……!)

 

 そうして全力で走っている内に第二種目も終了。私の順位は散々アーヤ君に追いかけ回されたため最下位だったが、まだ2種目だ。問題はない。次で挽回してみせようと次の種目に──

 

「3種目目はシンプルに裁縫勝負! アーヤの専門としてる競技だね!」

 

「マジで騎神に1ミリも掠らない競技ばっかりじゃねーか!!」

 

 いきなり針と糸と布地を渡され、指定のシャツを縫えというお題が出てきたので私は驚愕しながらもすぐに気を取り直して集中する。アッシュ君のようにツッコミを入れている場合ではない。

 だがしめた。こんなこともあろうかと裁縫は前日に多少練習しておいた。この競技であれば多少は取り返すことが──

 

「終わりました!」

 

「授業で習っておいて助かったな……」

 

「この程度は造作もない」

 

「…………(普段アーヤが指定してくる業務内容と比べれば大したことありませんね……)」

 

「!!?」

 

「おーっと! これは全員早い! アーヤの薫陶の賜物かな? ルーファス・アルバレアを1人残して全員がクリア!」

 

 ──と思っていたが意外すぎることに私が最下位だった。家庭的なユウナ君や超人染みたオーレリア将軍だけでなくあの謎の少女やユーシスまで私より上だと……!!? 

 いや、そうか……しまった……! ユーシスもユウナ君もアーヤ君の生徒……! 裁縫の技術を習得していても不思議ではない……! あの少女にしても同様だ……! 

 

 不覚。またしても最下位を取ってしまったことで私は焦りだす。まだまだ種目は残っているとはいえ、流れが悪い。そろそろ高順位を取っておきたいところだった。ゆえに次こそは得意種目が来ればと願うように次の種目の発表を待ったが──

 

「4種目目は社交ダンス対決! 参加者の中から縁のある人とペアを組んで踊ってもらうよ!」

 

「社交ダンスか……ならば私がユーシスとペアを組ませてもらおう」

 

「ラウラなら適任だな」

 

「社交ダンスなら……クルト君! お願い!」

 

「ウォレス。相手をしろ」

 

「ええ、お任せを」

 

「イシュタンティ」

 

「…………」

 

「!」

 

 来た……! これならば私の勝ち目がある。貴族として必要不可欠なスキル。自慢ではないが社交ダンスの腕前はこの中の誰よりも勝っている自信がある。ユーシスだろうとオーレリア将軍だろうと私の相手ではない。

 後はペアの相手だが、参加者の縁のある人間であればレクターになるだろう。彼であれば私に合わせることも容易に──

 

「──さあ踊るとしよう。イナフ・アルバレア」

 

「誰だそなたは!!?」

 

 ──とうとう我慢が出来ずにツッコミを入れてしまう。私の目の前には魚の尾鰭のような後ろ髪を持つ水に濡れた半裸の男がいた。しかも名前を間違えている。

 

「縁のある者がパートナーになるのではなかったのか!?」

 

「え? だから縁のある人じゃん。カサギン水田さん。ルーファスの親友だって言ってたよ」

 

「そんな人外と友人になった覚えはない!!」

 

「兄上がツッコミを……」

 

「あの人、そういうキャラじゃないっぽいけど……アーヤのペースに呑まれてるわね……」

 

「──相手がアーヤだからね。慣れてないとああなるのも仕方ないんじゃないかな」

 

「さすがは先輩ですね」

 

 くっ……観戦してる者達からの評価が落ち込んでいる……評価など呑み込むことは造作もないとは言え、さすがに屈辱的だ……評価に関しては「イナフよ。曲が流れてきたでモンスーン」──この半魚人は後で斬り捨てるとして、とにかく今は踊るしかない。

 

(少し落ち着くか。私なら相手が素人であろうとも主導権を握って上手く踊ることも──)

 

「ソーラン! ソーラン!」

 

「って、何を踊っている!!?」

 

「え? 大漁祈願の舞の時間ではないモンスーン?」

 

「そんなわけないであろう……!」

 

 会場にワルツが流れだす中、半魚人が1人で大声を上げて謎の踊りを踊り始めたので私はまたしてもツッコミを入れてしまう。語尾も何故か季節風でかなり苛立たされた。

 

「0点! 相方の金髪が足を引っ張ってる!」

 

「不憫ではあるが……0点だな」

 

「でものどごしは感じました」

 

「キー! (キレもある)」

 

「ぽむぽむ……(情熱を感じる。確かにお題に沿ってはいないが、ワルツをバックにしたあのダイナミックな動きと相方のまるで演技とは思えないほどの困惑振りが、ある種芸術的な様相を呈していて──)」

 

「おおっと! ルーファス&カサギン水田ペア! 審査員3人からそれなりの評価を得ています!」

 

「!? (意外と悪くないだと……!?)」

 

「アーヤ教官以外は騎神と人形とイヌワシとポムが審査員なのか……」

 

「つーか審査員の基準がおかしすぎんだろ!?」

 

 ──そうして4種目目も終わってしまうが、意外にも順位は悪くはなかった。釈然としないが……それはともかく切り替えるとしよう。このまま流れに乗って何とか──

 

「お次は5種目目! クイズ! 軌跡でポン! 特別企画! アーヤ・サイードの100のコト~~!!」

 

「……!?」

 

「アーヤ教官に関するクイズってこと!?」

 

「その通り! でも安心して! こっちもペアを組んで挑んでもらうよ! 私のことに詳しそうなペアを選んでね!」

 

「なるほど……そういうことであればユウナさんには私が協力させていただきます」

 

「そういえばミュゼは以前からアーヤ教官と知り合いだって言ってたわね……うん、それならいけそう!」

 

「ふぅん……ならレンは旧Ⅶ組に協力させてもらおうかしら」

 

「サイードの縁者を取られてしまったか。ならば私は──」

 

「私に協力させてください」

 

「! クローディア姫、か。どうやらかなり自信があるみたいですな」

 

「はい。先輩のことならそれなりに詳しいと自負しています」

 

 ──続く5種目目はクイズ。それもアーヤ君に関するクイズと聞いて私はすぐに頭を働かせる。アーヤ君の情報はある程度は頭に入れているとはいえ、親しい間柄の者達には負けてしまうだろう。ユウナ君にはミュゼ君が。ユーシスには元執行者である《子猫》が。オーレリア将軍にはクローディア皇太女がペアを組むことになっている。

 これに対抗するのであれば……やはりこちらはアーヤ君と昔馴染みであるシャロン君を借りるとしよう。高順位を取ることができるかは未知数だが、万全を期すに越したことは──

 

「──我に任せてもらおう。イナフ・アルバレア」

 

「だから誰だそなたは!?」

 

 ──いつの間にか私の隣には先ほどの半魚人がいた。しかもちょっと顔の色が変わってる。黄金色になっている。腹立たしい。誰かこんな者とペアを組むかと今度こそ抗議する。

 

「ペアの選択は自由ではないのか!?」

 

「自由だけどもう決まっちゃったら変えられないよー。ルーファスはゴルドサモーナ氷室さんと頑張ってね」

 

「名前が変わっている……!? いや、どう見ても同一人物であろう!?」

 

「共に頑張るモンスーン。イナフ・アルバレア」

 

「名前をいつまでも間違えている上に語尾も同じ!!」

 

「兄上……お労しい……」

 

「そもそもあの人、本当に誰なんですか……?」

 

 ──最悪だ。またしても謎の半魚人とペアを組むことになってしまった。頼みの綱だったシャロン君はあのオランピアという少女とペアを組んでしまっている。

 しかもクイズの内容は──

 

「──第39問! アーヤの好きなど──」

 

「猫とポムですね」

 

「答えるの早っ! 正解! ミュゼちゃんに1ポイント!」

 

「──第45問! アーヤが最近特に嵌まって──」

 

「……確かスケートとVM。後は導力ゲームだったかと」

 

「正解! クルーガーちゃんに1ポイント!」

 

「──第58問! アーヤの好きな食べ──」

 

「嫌いなものは特にないはずですが、特に好きなのは激辛料理全般。その中でも麻婆豆腐に担々麺と回鍋肉。東方料理も好きみたいでラーメンや蕎麦などの麺類。おでんや焼き鳥に寿司やすき焼きなども昔教えていただきました。それとトマト料理も先輩は好きですよね。後はリベールではよくオムライスにビーフシチュー。ハンバーグにフライドポテト。それとホットケーキをよく食べていました。それと後で調べたのですがアーヤ先輩の故郷の料理の中ではカレーにケバブ。ファラフェルやシュクシュカも好きみたいです。デザートだとラフルドミルクパイが好物だと調べました」

 

「よ、よく調べたね……せ、正解! クローゼちゃんに1ポイント……」

 

「──第77問! アーヤの自宅にあるアーヤ自身が着る衣服の枚数は?」

 

「常に変動するから難しいけれど現時点だと多分108着かしら。自宅に置いてあるのは主にパーティドレスなんかの一張羅やコートやジャケットなんかのアウターが多いわね。アーヤ自身は出張が多いから思ったより自宅に置いてある衣服の数は少ないのよ。簡単なシャツとかスカートやパンツはどこでもその場で仕立ててしまうしね。ちなみにアーヤの自宅にある衣服の枚数、という問題になるとコレクションで用いる衣装や制作中の衣装もあるから数え切れないわね。養っている子供までいることだし、その衣服も含めると──」

 

「せ、正解正解! レン詳しすぎ! もうそれ以上言わなくていいから! レンに1ポイント!」

 

「第82問! 今年度のサイードグループの経営成績は前年度と比べて約何%上がっ──」

 

「サイードグループの今年度の営業成績は前年度比で売上高が1789.3%増。営業利益は4158.8%増となっています。これは主軸たるファッション部門だけでなく導力ゲームなどを販売する導力技術部門や飲食店経営などを行う外食産業部門。そしてスケートリンクなどの屋内型レジャー施設を運営するアミューズメント部門など各部門が大成功を収めたことが大きく影響しています。現在のグループ全体の総資産はカルバード共和国において第4位を誇っており、来年度には総資産において更に九龍グループを超えて共和国第3位の企業になる見込みで──」

 

「ストップストップ! 答えすぎ答えすぎ! よく分かんないけど答えちゃいけないところまで答えそうだからそこまで! オランピアちゃん1ポイント!」

 

「中々やりますね」

 

「あなたも中々アーヤのことをわかってるみたいね」

 

「それほどでもありません」

 

「難易度高すぎだろ! つーかなんで全員答えられんだ!」

 

「これくらい常識の範疇ですよ。レクター先輩」

 

「んなわけあるかよ……」

 

 ──レクターがツッコんだように難易度はあまりにも高かった。回答を行っている彼女たちにアーヤ君自身も困惑している上、会場中が若干気圧されていた。

 

「第99問! アーヤの一番好きな魚は?」

 

「穴子」

 

「正解!」

 

(なんか1問だけ正解したー……!! 魚にだけ妙に詳しい)

 

 そしてこちらのペアであるゴルドサモーナ氷室だかカサギン水田だか本当の名前も分からない謎の半魚人は殆ど役に立たず結局最下位。このままではマズいと私はより一層奮起しようと次の種目に挑むが──

 

「第6種目はとにかく沢山食べろ! フードバトルだー! こちらはチームで楽しくご参加ください!」

 

「おおっと! ルーファスチームにはアーヤ特製激辛料理ばかりだー!」

 

「口の中が……! 喉が熱いいい……!!」

 

「ゲホッ! ゲホッ! こ、こんなの食えねーよ!」

 

「うわぁ……」

 

「……少々辛味は強いですが味は美味しいですね」

 

「!?」

 

 ──次の種目では大量の料理をどれだけチームで食べられるかというフードバトルだったが、何故か私のチームだけ激辛料理ばかりを出されてとんでもない目に遭った。他のチームは普通の食事ばかりだと言うのに。シャロン君だけは普通に食べていたが私やレクター君は口と喉と胃にとてつもないダメージを受けてしまった。

 

「くっ……またしても最下位か……マズい……このままでは……!」

 

「続いての第7種目はリアル脱出ゲームです! 閉じ込められた部屋の中で謎解きを行ってその部屋から脱出してください!」

 

「! (突然部屋が……! だが悪くない種目だ! 純粋な頭脳勝負であれば私に分がある! どのような問題であろうとも──)」

 

 問1 以下を証明しなさい。

 3以上の自然数 n について、xⁿ + yⁿ = zⁿとなる自然数の組 (x, y, z) は存在しない。

 

(難しすぎるー……!! 何だこの問題は考えれば考えるほど分からない!)

 

 ──部屋の出口と思われる場所に置かれていたとんでもない難易度の問題に私は白目を剥く。

 

「早く解かないと最下位は罰ゲームがあるよー!」

 

「くっ……! (だがこの難易度の問題であれば他の面々も──)」

 

「パンはパンでも食べられないパンは……フライパン?」

 

「知恵の輪というものか。フッ、この程度なら造作もない」

 

「なんか普通に出れました」

 

(難易度の差が凄まじい! 分かっていたが!)

 

 他の面々の謎解きはあまりにも簡単なものばかりで私はやはり最下位になる。罰ゲームとして顔面にパイをぶん投げられたが、それはもうこの際どうでもいい。今の私に重要なのはとにかく高順位だ。次こそ何としても──

 

「第8種目は魔獣討伐タイムアタック! それぞれ単独で魔獣を倒した数で競ってもらうよ!」

 

「ここに来てようやく試練っぽいのが来ましたね……」

 

「でも単独というのが少し厳しそうだな……」

 

「ご安心ください! 単独でも倒せる魔獣ばかりです! 具体的には主にヒツジンやドローメ、ポム系統です! なので条件は公平です!」

 

「あ、それなら楽そうね」

 

(魔獣討伐……! それもその程度の魔獣であればどんな妨害を受けようとも……!)

 

「おっと! 早速ルーファスの目の前にも魔獣が現れたー!」

 

「ヒツジンだ。悪いが依頼主の要請なんでな。相手をさせてもらうぞ」

 

「……ドローメだ」

 

「シャイニングポムだポムー!」

 

「ちょっと待ちたまえ!?」

 

 ──私はもう形振り構わずツッコミを入れる。私の目の前に現れたのはヒツジンのお面を被った《闘神》シグムント・オルランドとドローメのお面を被った《剣帝》レオンハルトとシャイニングポムのお面を被ったアーヤ・サイードだった。インチキにも程がある! 

 

「公平公平公平ー!」

 

「ぐああっっ!!? (これのどこが公平だー……!!)」

 

 公平公平と叫びながらめちゃくちゃに《ゾルフシャマール》を振り回して切り裂いてくるアーヤ君や他の達人2人に私はボコボコにされる。ただこれで死んだり力尽きたりしないのは起動者候補全員に騎神からの加護がかけられているのかもしれない。《紫》の騎神の試しではそのような事例があったと聞いている。

 そしてそんな考察をしている間に私は最下位になってしまった。本当にマズい。このままでは金の騎神が他の候補に取られてしまう。どうにか打開しなければ……。

 

「続いては第9種目! ──ですが! その前に今回のイベントを盛り上げてくれる特別バンドによる特別映像を流しますのでそれをBGMにお楽しみください!」

 

「特別バンド?」

 

「何か大きいモニターが降りてきたけど……」

 

「点きましたね」

 

『wow oh~♪』

 

「BGMが……」

 

「この雄叫び……どこかで聞いたことあるような……」

 

「シルエットが6人……? 一体誰が……」

 

 私や他の起動者候補。会場にいる者達は全員、その突然降りてきた映像に視線を向けるが、私にはそんなものを見ている余裕はないと無視しようとした。今の私にとって重要なのはそんな余興染みた賑やかしの演奏や歌唱ではなく、如何にしてこの不公平極まりない試練で他の候補者を出し抜くか──

 

『それが大事』起動者でごMAN カバーVer

 

 ・メンバー

 ギター:アーヤ・サイード

 ベース:クロウ・アームブラスト

 ドラム:ルトガー・クラウゼル

 キーボード:リアンヌ・サンドロット

 コーラス:リィン・シュバルツァー

 特別ボーカル:ギリアス・オズボーン

 

 ボーカル:全員

 

『ええええええええ!!!?』

 

「アーヤはともかく他のメンバーはどうなってるのよ!?」

 

「面子がヤバすぎんだろ!!?」

 

「全員騎神の起動者ってどういうこと……!!?」

 

「団長何やってるの……!?」

 

「暴走したリィンまでいるんだけど!?」

 

「あのリアンヌ・サンドロットが……」

 

「ぎ、ギリアスのオッサン……」

 

「────」

 

 ──無視しようにもできなかった。画面に現れた人物とメンバー紹介のテロップ。そこには現起動者である者達が全員映っていたから。どこかの……いや、これは《黒の工房》の本拠地か? そこに建てられたと思われるステージで全員が真剣な面持ちでマイクの前に立っている。そしてまずはアーヤ君が。

 

『──負けないこと 投げ出さない事 逃げ出さない事 信じ抜く事♫』

 

「本当に歌ったー!?」

 

「先輩って歌も上手いですよね」

 

「クローゼそこじゃない!」

 

『──駄目になりそうな時 それが1番大事~♪』

 

「というかさっきの“Oh~♪ ”ってやっぱリィンだったのね……」

 

「どうやってこれだけの面子を茶番に巻き込んだのやら……」

 

 皆の疑問はもっともだった。私としても気にはなる。気にはなるが……考えられるとすれば《金の騎神》の起動者を決めるために必要なことだとアーヤ君が説得したのかもしれない。こんな茶番に閣下が付き合うとは思えないが……閣下はどういう訳かアーヤ君に少し甘い。閣下が決めれば他の面々も付き合うだろう。にしてもおかしいが……。

 

「さあどんどんPVが流れている間にも種目を進めていくよ!」

 

「……! (だがそっちに意識を割いている場合ではない。私は目の前の試練に集中せねば……!)」

 

 ──そうしてそのとんでもない豪華(?)なメンバーの歌唱や演奏をバックに試練は進められる。

 とはいえやはり一筋縄ではいかなかった。

 

「第11種目は男女ペアでのデート対決! 審査員は《紅》のロスヴァイセだー!」

 

「──やあ。よろしく頼むよ子猫ちゃんたち」

 

「アンちゃんー!?」

 

『──高価な墓石を建てるより 安くても生きてる方がすばらしい♪』

 

「……一応僕もいるよ」

 

「ジョルジュ君!? 何してるの!? 色んな意味で!」

 

『──ここにいるだけで 傷ついてる人はいるけど♪』

 

 ──デート対決では死んだはずのアンゼリカ君が工房製の仮面を付けてジョルジュ君と共に現れてトワ君にツッコミを入れられ……。

 

「12種目目はギャンブル対決! 対戦相手は《西風の旅団》のこの2人!」

 

「ディーラーは俺が務めさせてもらうでー」

 

「イカサマをした者には《ディザスターアーム》を食らってもらう」

 

「ゼノにレオも!?」

 

『──さんざん我儘言った後 あなたへの想いは変わらないけど♪』

 

「ちなみに他の参加者は仮想の通貨でええけどルーファスの旦那だけはリアルミラでやってもらうで」

 

「!?」

 

『──見えてる優しさに 時折負けそうになる~♪』

 

 ──ギャンブル対決では《西風》の連隊長に地味に金を奪われ、旧Ⅶ組には明らかに贔屓を行っていたり……。

 

「13種目目は父兄参加の二人三脚だよ!」

 

「やるわよ、アリサ。足を出しなさい」

 

「母様!?」

 

「イリーナ会長!?」

 

「まさかこのようなことのために駆り出されるとは……」

 

「レーグニッツ閣下!?」

 

「父さんまで!?」

 

『──ここにあなたが~♪ いないのが淋しいのじゃなくて♪』

 

「なお参加できない者もいるのでその場合は父兄じゃなくてもオーケーでーす」

 

「イナフ・アルバレア。共に走るでモンスーン」

 

「…………(まあ、父上に来られるよりはマシか……)」

 

『──ここにあなたが~♪ いないと思うことが~寂しい~♪』

 

『wow~♪』

 

 ──父兄参加の二人三脚ではなぜかイリーナ会長やレーグニッツ帝都知事が現れて参加者をビビらせていた。私はその種目に微妙な気持ちになりながらもやはり最下位だった。だが諦めるわけには……。

 

『──でも♪ 負けないこと 投げ出さない事 逃げ出さない事 信じ抜く事♫』

 

「続いては導力ゲーム対決! 最高難易度でクリアしてください!」

 

「導力ゲームはあまりやったことはないが……!」

 

「ころしてでも うばいとる! しね! るーふぁす!」

 

「ぐおおっ……! 明らかに私のだけゲームが改造されている……!!」

 

「今のところは普通にジャンプしてもどうやっても敵に当たっちゃうから体力満タンじゃないとダメかな。ノーダメで行くなら先に左下にある隠しアイテムをデリシャススライディングで潜り抜けてゲットしてその後に爆弾バグを利用して壁の後ろからデンジャラスワープボムジャンプで一気に駆け抜けるのがいいかな。ここでダメージを食らっちゃうと後のボスの《ベリーベリーゴージャスダークエンペラー》をクリアするのがまた難しくて──」

 

「キーアちゃん!?」

 

『──駄目になりそうな時 それが1番大事~♪』

 

『Oh~♪』

 

 ──導力ゲーム対決では私は制作者による理不尽な改造ゲームをやらされ、なぜかそれを詳しく解説するキーア・バニングスに驚いたり(もしかして改造じゃなくてこれが通常版なのか……?)……。

 

「続いてはファッションセンス対決! それぞれ私服をアーヤに採点してもらうよ! ではどうぞ!」

 

『──高価なニットをあげるより♪ 下手でも手で編んだ方が美しい♪』

 

「これでもセンスには自信が……」

 

「服は悪くないけど着てる人がムカつくし全体的に値段が高すぎだから0点」

 

「理不尽すぎる! それでもファッションデザイナーなのかね!?」

 

「チッ……82点」

 

(そこはちゃんと採点するのか……)

 

『──ここに無いものを♪ 信じれるかどうかにある♪』

 

 ──ファッションセンス対決では危うく理不尽な採点によりまたしても最下位を取るところだったが、そこはアーヤ君のデザイナーとしての矜持か、高得点を貰って初めて高順位を取った──それはそれとして次の種目でめちゃくちゃにされたが……。

 

「続いてリアル双六対決! マス目に書かれたことには実際に従ってもらうよ!」

 

「私の目は……6か。幸先が──」

 

「名前を改名するため役所に書類を提出する。1回休み。──何の名前がいい?」

 

「イナフ・アルバレア」

 

「じゃあそれで」

 

「即刻やめたまえ!!?」

 

『──今は遠くに離れてる♪ それでも生きていればいつかは逢える♪』

 

「えー……じゃあ《黒の工房》の本拠地を教える、でいいよ」

 

「っ……致し方ない。場所は──」

 

「本拠地教えられたー!!?」

 

「ここで!? いや助かるけど!」

 

『──でも傷つかぬように♪ 嘘は繰り返される~♪』

 

 ──リアル双六対決では理不尽な内容を回避するために私が自分の口で《黒の工房》の場所を教える羽目になってⅦ組とその関係者が驚いたり……。

 

「カーレース対決! それぞれマシンに乗り込んで速さを競ってもらうよ!」

 

「私のマシンは?」

 

「スーパーソニックゴールドダンボールカーだよ」

 

「導力車ですらない!」

 

『──ここにあなたが~♪ いないのがせつないのじゃなくて♪』

 

「スタート!」

 

「っ……とにかくどうにか──」

 

「おおっと! ルーファス車いきなりクラッシュしたー!!」

 

「当たり前すぎる!」

 

『──ここにあなたが~♪ いないと思う事がせつない~♪』

 

『wow~♪』

 

 ──カーレース対決では導力車ですらないものに乗せられて開始早々轢かれてリタイアしたり……。

 

『──でも♪ 負けないこと 投げ出さない事 逃げ出さない事 信じ抜く事♫』

 

「さあ続いての種目は──」

 

「くっ……」

 

 私は無情にも休憩なしで発表が行われるのを地面に倒れながら耳にする。……やはり……駄目だと言うのか? 

 

『──駄目になりそうな時 それが1番大事~♪』

 

 最初に出し抜くことが出来なかった時点でアーヤ君の手から金の騎神を奪うことは、得ることは出来ないのか? 

 

『──負けないこと 投げ出さない事 逃げ出さない事 信じ抜く事♫』

 

 ……既にポイントで大きく水を空けている。この先でも妨害を受け続ける以上、勝てる可能性は限りなく低いだろう。

 このような醜態を晒してまでこの試練に抗い続ける必要は……。

 

『──涙見せてもいいよ それを忘れなければ~♪』

 

「…………(ここまで、か。私には……偉大な父を超えることは……できな──)」

 

「──何だあの映像は!?」

 

「……! あれ、は……」

 

 ──その時。時空が歪んでいるのか未だ流れ続けている歌唱映像……その伴奏の盛り上がりと共に流れ出た映像と歌唱している人物を見て私は驚愕する。

 そこで歌い始めたのは……まさしく私が父と定めたギリアス・オズボーン。そしてバックに流れる背景は()()()()()()()()()()()()()()

 

『負けないこと♪』

 

 ──《黒》に討ち勝つため250年もの研鑽を積んできたリアンヌ・サンドロット。

 

『投げ出さない事♪』

 

 ──《黒》に嵌められ、娘が苦しむことを理解しながらも猟兵としての生き様を貫き続けるルトガー・クラウゼル。

 

『逃げ出さない事♪』

 

 ──散々工房に利用され不死者として復活させられ、運命に翻弄されながらも起動者としての使命に殉じようとするクロウ・アームブラスト。

 

『信じ抜く事♪』

 

 ──大切な人を人質に取られ、自身は拷問染みた人体実験を受けながらも《黒》を打倒する未来を疑っていないアーヤ・サイード。

 

『駄目になりそうな時 それが1番大事~♪』

 

 ──そして息子を救うために《黒》に己の心身を捧げ、それでもなお鋼の意思で誰よりも力強く進み続ける《鉄血宰相》ギリアス・オズボーン。

 

 彼ら起動者たちは誰もが自分の意志を貫いている。まるでその歌詞のように。

 

 ──そうだ。私が慕った偉大な父は……ずっとそうしている。

 

 誰にも負けず、やるべきことを投げ出さず、運命から逃げ出すこともなく、未来を信じている。

 少なくとも閣下はそうしているのだ。その閣下を超えようという私が……この程度の試練で諦めるなど。

 

「くっ……」

 

《鉄血の子供たち》の筆頭として立つこの私が……この程度で諦めていいはずがない……! 

 

「ぐ……おおおおっ……!!」

 

「おっと! もう限界かと思われてたルーファスが立ったー!?」

 

「兄上……」

 

「敵ながらすごい執念ね……」

 

 私は四肢に力を入れて立ち上がる。まだまだ種目は残っている。《金の騎神》の試練はまだ終わっていない……! 

 

「ボクシング対決! ルーファスの相手はシグムント・オルランド!」

 

「ウオオオオ!!」

 

「ぐっ……!?」

 

『──負けないこと 投げ出さない事 逃げ出さない事 信じ抜く事♫』

 

 私はその歌詞の通りに諦めず抗い続ける。

 

「私のターン! ドロー! ネイティアルカード! 追加攻撃! ドロー! ネイティアルカード! 追加攻撃! ドロー! ネイティアルカード! 追加攻撃!」

 

「ぐあああああっ……!!」

 

『──駄目になりそうな時 それが1番大事~♪』

 

 試練に挑み続ける。

 

「ルーファス、アウトー! オルランドキックー!」

 

「むぅん!!」

 

「ぐあっ……!!?」

 

 勝ち目の薄い戦いを続ける。

 

「ジョインジョインレーヴェ

 デデデデザタイムオブレトビューション バトーワンデッサイダデステニー

 

 ナギッキンッキンナギッキンキンハァーンナギッハァーンシルバーソーンナギッギマンヲカカエテイテハカテヌナギッナギッミキレルカイデヨゲンエイイデヨゲンエイナギッオソイハァーナギッハアアアアキィーンウケテミヨケンテイノイチゲキヲキエンザンッ K.O. コトワリデモシュラデモナケレバトドクドウリハナイ

 バトートゥーデッサイダデステニー

 ミキレルカハアアアアキィーン テーレッテーレンゴクノゴウカデアロウトクダキチラスノミハアアアアメイオウケンメツッFATAL K.O. タトエレンゴクノゴウカデアロウトコノケンテイヲトメルコトハデキン

 

 ウィーンレーヴェ (パーフェクト)」

 

『──負けないこと 投げ出さない事 逃げ出さない事 信じ抜く事♫』

 

 偉大なる父のように絶望に抗う。

 

「アーヤホームラン!!」

 

「ぐああっ!?」

 

『──涙見せてもいいよ それを忘れなければ~♪』

 

 このフザケた試練を乗り越える。

 

「ところてん☆ルーファス仮面献上ゲーム! あのピラミッドの頂点にルーファスの顔面岩を運ぶのだ!」

 

「くっ……!」

 

「何だこのゲーム!?」

 

「他の人は休憩タイムね」

 

『──負けないこと 投げ出さない事 逃げ出さない事 信じ抜く事♫』

 

 そうして……。

 

「射撃対決! 的はお前だー! ルーファス・アルバレアー!」

 

「もう対決ですらない!!」

 

『──駄目になりそうな時 それが1番大事~♪』

 

 金の騎神を……! 私の手に……! 

 

「100種目目は怒りのデスロード! ゴールに最初にたどり着いた人の勝ち! くたばれルーファスー!」

 

「2種目目でやったのと同じじゃねーか!?」

 

「ちなみに1位の得点は1億ポイントだー!」

 

「ここまでの勝負の意味!」

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 私は走る。ひたすらに走る。背後から追いかけてくるアーヤ君から必死に逃げながら。

 

「しぶとい……! こうなったら──来て! テスタ=ロッサ!」

 

「応!」

 

「魔爆バーニングファイアーボム! ボンバーシュート!」

 

「なんか馬鹿でかい爆弾取り出して投げてきたー!?」

 

「さすがにやべぇぞ! 避けろルーファスの旦那!」

 

「フッ……」

 

 そうして背後からアーヤ君の駆る《緋の騎神》テスタ=ロッサの取り出した爆弾を確認し、私は笑みを浮かべる。その爆弾がどれだけの威力を持つか。そんなことは関係ない。

 私は爆発するであろう瞬間を予測し──宙へ跳び上がった。

 

「!?」

 

「な……!?」

 

「おっとルーファス・アルバレア! 爆風を利用して前方へ一気に吹き飛ぶ! そして吹き飛んだ先は──ゴール地点だー!!」

 

『──負けないこと 投げ出さない事 逃げ出さない事 信じ抜く事♫』

 

 計算通り──私の身体はとてつもない規模の爆風を受けて吹き飛ぶ。

 その先は実況の道化師が言うように、まだ誰も辿り着いていないゴール地点だ。

 私はその場所に、転げ落ちる。誰よりも早く。

 

「なんと! 1位は……ルーファス・アルバレアだー!!」

 

「ま、まさかの大逆転!?」

 

「ほう……最後に執念を見せたか。口惜しくはあるが……敵ながら天晴だ」

 

「兄上……」

 

「これにより総得点数1位はルーファス! なので《金の騎神》エル=プラドーはルーファス・アルバレアに送られます!」

 

「マジか……」

 

「アーヤ教官があれだけズル……いえ、協力してくれたのに……」

 

「認めたくはないけれど……少なくとも騎神に対する想いは本物みたいだな……」

 

「フ……その通りだ……私には、何としても騎神が必要な理由があるのでね……」

 

『──涙見せてもいいよ それを忘れなければ~♪』

 

 そうして……私は何とか1位をもぎ取ることに成功する。

 ここまで諦めずに父を見習った鋼の意思で突き進んだ。強いて勝因を上げるとすれば執念と言う事になるだろうか。

 

「さあ……約束通り《金の騎神》を私に……よもやここまでして約束を破るなんてことはないだろうね……?」

 

「…………くっ……勝ったなら、しょうがないね……契約していいよ。……こうなったらどうにかして契約した後で──

 

「フッ……ああ、そうさせてもらおう」

 

『──Oh~♪ yeah~♪』

 

 私は試練を乗り越えた証として、足を引きずりながらゆっくりと最後の騎神──《金》のエル=プラドーの前に進み出る。

 膝を突いて起動者を待ち続けるその姿はまさしく私が求めていた騎神そのもの。これで……これで父に挑む資格を得られる。

 

「《金の騎神》エル=プラドー……私は、試練を乗り越えた……! 契約を果たすとしよう……!」

 

 私はそう告げる。

 そうして遂に……遂に、私は騎神の起動者に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そなた……何を言っておるのだ……?」

 

「……………………は…………?」

 

 ──エル=プラドーからの困惑した返答が私の耳に届き……私は思考を完全に停止させる。

 何を言っている? 意味を理解していない? 

 それはつまり……。

 

「これが我が契約の試しの場など……そんな訳がないであろう? 起動者を選別するための試しの場はこれから相応しい場所を作らせてもらう。我が同胞とその起動者のおかげで霊力は充填できたのでな」

 

「あ……う、うん。よ、良かったねー……」

 

「うむ。霊力の集まる地に私を運んでくれたこと、感謝する。──それと()()()()()()()そなたも私の起動者になりたいなら私の定める試練を乗り越えてくるがいい。ではな」

 

 ──そうしていとも呆気なく……《金の騎神》エル=プラドーは空間を転移し、その場から消えていってしまった。

 

 後に残されるのは呆然とした我々のみ。程なくして正式な試しの場へと繋がる光の柱が現れたが、すぐにそこに飛び込むには思考がまとまらなかった。

 

「あはは……そ、それじゃあこれにて余興は終了~。ってことでみんなお疲れ様! 私はもう帰るねー……ば、ばいばーい」

 

「アハハハハ! ま、まさかこんな結末だなんて……いや~笑った笑った♪ 面白かったね。それじゃルーファス総督、試練頑張ってね」

 

 ──そしてアーヤ君は《緋の騎神》と共に逃げるように空間転移を。カンパネルラもひとしきり笑った後に転移でいなくなってしまう。

 それから続々と協力した者達も帰っていった。もはや私の契約を阻止するという空気でもなくなったのだろう。Ⅶ組とその関係者は気を取り直してアーヤ君から……いや、私から得た《黒の工房》の本拠地の情報を精査するために帰っていった。

 

 だが私はそこで帰るわけにもいかず……。

 

「……あー……ルーファスの旦那? とりあえず、試練は一旦帰って明日にしても──」

 

「う──うおおおおおおおおっ……!!

 

「ちょっ、ルーファスの旦那ー!? 試しの場に飛び込みやがった!?」

 

「……もはやヤケクソですね」

 

 ──私は雄叫びを上げて試しの場へと飛び込む。心身共にボロボロだが、もはやここまで来たらどうでもいい! 

 

 そうして私は生まれて初めて……ほんの少しだが泣きそうな気持ちになりながら試しの場を夜通しかけて踏破し、《金の騎神》エル=プラドーと契約を果たした……その際にエル=プラドーが先ほどの茶番を薄っすらと記憶していたのか「それが“1番大事"──今の世にはこのような名曲があるのだな……」とサビを歌うほどに気に入っていたが、頼むから私の醜態だけは忘れてほしいと心の底から思った……。




ということで使用楽曲は大事MANブラザーズバンドで『それが大事』でした。名曲ですね。
今回は金の騎神の起動者を決めたところで終了。次回は黒の工房でリィン救出です。お楽しみに。

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