──私にとってアーヤは初めてできた対等な友達で
まあ友人と呼べる存在がいなかったわけじゃないけども里じゃ同年代でも私のことを敬う人ばかりだったからね。立場上仕方のないこととはいえ、ほんの少しだけど寂しい青春を送ってきたのは事実かな。
それだけにアーヤと出会った時は新鮮な気持ちだった。私が《斑鳩》としての仕事で東部を回り、とある都市に立ち寄った時に出会った彼女は里にいた者達以外で初めて対等に戦える同年代だった。
かなり上手く隠してたし、私も半信半疑だったけど本人が戦えることを認めてくれたおかげでそれに気づけた。アーヤの強さは本物で、なおかつ猟兵か裏の組織か……とにかく私たちと同じ、戦うことを生業としている人だって気づくことができた。
まあアーヤの方もこっちの素性には気づいてたみたいだけど……ただ何となくお互いにそれを指摘することはなく、私たちは普通の友人のような時間を過ごした。すごく息もあったし運も良かった。私が仕事で行く先々にアーヤもいてその度に一緒に色んなところを回り、遊んだ後はその延長線上で手合わせを行った。
そうして彼女の硬さ。何らかの異能による彼女の強固な耐性に気づいたわけだけど……その時はさすがに驚いたね。なにせ私の刃が通じないんだもん。斬れたとしても軽い切り傷ができるだけで、その傷でさえ手合わせが終わる頃には治っている。
だからすごいワクワクしてね。私は彼女を斬るために全力で戦ったし、アーヤもそれに合わせて全力で戦ってくれた。
結果、決着は着かなくて私たちはいずれまた戦うことを約束したんだよね。おかげで修行の日々にも更に張り合いが出てきたし、友人との再会がすごく楽しみになった。
後にアーヤの素性や噂なんかもこっちに流れてきて、更には先生からもアーヤの話が出たりしてさ。あれからずっと強くなってるという話だったし、再会の時は近いと思ってたんだけど……思ったよりも早く出会えて私はまたすごい嬉しくなった。
「やっぱりその硬さは変わってない……いや、以前よりも硬さが増しているようだね……! その上で腕前は以前とは比べ物にならない……ふふ、良いじゃないか……!」
「いやよくないけどね! シズナちゃん強すぎだし! さっきからめちゃくちゃ本気で斬りかかってくるじゃん! 怖いし危ないんだけど!」
「そりゃ本気でやらないとダメージを与えられないだろう? それにアーヤは斬ったところで死にそうにないしね。問題ないと思うんだけど」
「問題大アリだよ!」
文句を言いながらも私の剣を時に見切り、時に捌き、時に受け止めてくれるアーヤ。前に戦った時もそうだったけどこうやって怯えているように見える割には結構冷静に対処してくるんだよね。
特に反撃。向こうの攻め手に関しては背筋が冷えてゾクゾクしてしまうほどに鋭く容赦がない。常に致命傷になる人体の急所を狙ってくるし、そうでない時も致命傷になるような場所しか狙ってこない。友人だからとこちらに遠慮するように言ってくるけど実はアーヤの方がえげつないことしてくるのが良いよね。
ただ純粋な武の腕前という意味じゃこっちの方が上手だろう。自分で言うのもなんだけど黒神一刀流を仕上げて《白銀の剣聖》なんて渾名で呼ばれるようになった私は強い。武の競い合いじゃたとえ先生が相手でも負けるつもりはないしね。
だけど実戦は武の競い合いとは違う。アーヤの使う技は師の影響か剣術の色も多少は見えるけど大元はあくまで殺人術だろうからね。私やクロガネたちが習っている《臘月流》も暗器術としては大したものだと自負してるし、隠形に関しても同じ。東で最強なんて噂されてるのは伊達じゃない。
でもアーヤの暗殺術は《臘月流》のそれを上回る。《ゾルフシャマール》って言ったっけ。あの大きな鋏を右手に持ち、左手には針が数本。それも目視が難しいほどに細い鋼糸が括り付けられたそれを振るうアーヤの戦闘スタイルはもうとっくに完成していると見ていい。
懐にも刃物を忍ばせているし糸や針の予備は一体どれだけあることやら。どれだけ放っても無くなる様子は見えない。
「くっ……もう怒った! こっちも反撃するからね! ちょっとは痛い目見てもらうよ!」
「!」
そう、今もアーヤは《ゾルフシャマール》を一度地面に突き刺した上で両手を空け、大量に糸付きの針を投げつけてくる。受けるには痛そうだから当然それに対応しようとするけど──
「躱させないよ!」
「! へえ……!? 足が縫われて……!」
アーヤの放った針はアーヤの手によって軌道を変化させ、私目掛けて襲いかかる。それと同時にアーヤは隠し針を放って私の足を地面に縫い付けてその場から動けないようにしていた。その上で更に放った大量の針がアーヤの両手を引っ張る動作に合わせて四方八方から私に襲いかかる。
「“ファントムステッチ”!!」
気づかない内に相手を縫い付けて動けないようにした上で大量の針で突き刺してしまうその技は見事と言う他ない。さすが《血染の裁縫師》と呼ばれるだけはあるね……! 暗器の扱いにも当然長けている。
──だけど私は気付いた瞬間にはその針を全て斬撃で捌き切っていた。
「っ、だから危ないって!?」
「今のに関してはこちらの台詞だと思うよ?」
「マジレス禁止!」
アーヤに向かって斬撃を飛ばし、アーヤがそれを紙一重で躱したのを見届けると私は一瞬で踏み込んでアーヤを斬撃の風に巻き込んだ。八葉で言うところの弐の型『疾風』。黒神一刀流にもそれに似た技があるからね……!
「“九十九颯”!!」
「痛ーっ!?」
アーヤを中心に円を描くように高速で移動し、斬撃の嵐をお見舞いする。周囲の小石や突き出た岩なんかは細かく両断されて吹き荒れるけど、その中心にいるアーヤは防ぎながらも後方へ吹き飛び、しかし大したダメージを負っていない。
「だから……やりすぎっ!」
「!」
しかし転んでもただで起きないのがアーヤだ。吹き飛んだ自らの身体を足で何とか食い止めたかと思えば、それと同時に再び鋏を持っていない方の左手を引っ張って縫い付けた私の周囲にある岩を引き寄せて私を攻撃しようとする。
「
「……!?」
私は飛来する岩を斬り落とすことで攻撃を防ぐも、アーヤの狙いはどうやらそこじゃないみたいだ。岩で目眩ましを行い、私の視界から──いや、知覚からアーヤが完全に消える。岩で物理的に見えなくなったその一瞬で、その場から痕跡も残さずに消え去ったアーヤは《観の眼》を以てしても一瞬見失ってしまう。どこに消えたのかと周囲を見渡し──
「“グリムシザー”」
──気付いた時には背後にアーヤがいて、技名を言い終える前にその巨大な鋏を開いた状態から閉じた状態にしようとしていた。その絶技とも言える隠形の腕前に私は感服する。そうそう、これだよこれ! アーヤの何よりもすごいところ……! 私やクロガネ以上の……! そして私たちでも見失ってしまうほどに隠形……!
それはまさしく伝説の暗殺者の神技だ。気配に鋭い自信がある私が、戦闘中にも関わらず一瞬見失ってしまったその隠形。気配の消し方から何から何まで完璧。《観の眼》がなければ私はここで殺されていたかもしれないね。
「うわっ、気づかれたし防がれた! 人外だ人外!」
「人外は傷つくなぁ……でも……いいね。あはっ、楽しくなってきたよ……!」
私は振り向かず、背を向けた状態で刃を鋏の真ん中に合わせてそれを弾く。それを防いだタイミングでアーヤに流し目を送ればアーヤは軽く驚いていた。そして中々に心外なことを言われるけどそういう言葉の応酬も嫌いじゃないし、甘んじて受け止める。
ただ攻撃の方は受けてばかりじゃいられない。刃を打ち合ってアーヤを軽く後方へと下がらせたそれを隙と見て、私は刀を鞘に納めて構える。
「零の型……“双影”!!」
「うわー!? ちょっ、反則技やめて!」
“分け身”によって自らの分身を作り出し、一気にアーヤ目掛けて踏み込んで居合を放つ。
するとアーヤもまた分け身を生み出して私の斬撃をいなした。真正面から受け止めないのは暗殺者らしい戦い方だね。そして、それだけに面白い。
「アーヤだって似たような技使えるじゃないか──おっと!?」
「お、お返しだよ!」
いつの間にか、私の衣服に縫いつけられていた糸をアーヤは引き寄せる。引き寄せながらアーヤ自身も私に向かって高速で踏み込んで得物を振り切った。
「“ラストモーメント”!!」
「っ……と! そっちも結構危ない技使ってくるじゃないか……!」
「殺す気はないからこれくらいの反撃は勘弁して!」
相手を自分の方に引き寄せながらの一閃。その踏み込みの速さや刃を振るう鋭さも良いけど糸の扱いもさすがだね……! 攻撃の度に、何気にアーヤは針付きの糸を私の身体や身に付ける衣服なんかに縫い付けてくる。下手すれば致命傷になる鋏を振るいながら、密かに針を飛ばして次の攻撃に繋げてくるのは中々にいやらしいね。鋏に針と糸と気配を巧みに操り、相手を殺すアーヤの暗殺術はその異能がなくても私を満足させるに足るものだ。
──ただ私としては
ただそれを堪能するとなると私も危ないんだよね。それこそこっちも殺さないといけなくなるし、そこまではまだ望んでない。だから悩ましいんだけど……せめてもう1つのアーヤの真骨頂の方も楽しんでみたいなと私は刀を振るいながら言う。
「だったら毒の方も使ってくれないかな?」
「え!? いやいやいや! それはちょっと……!」
「まあさすがに致死性のものを使われると私も困るけどそれ以外の毒もあるんだろう? せっかくの手合わせなんだ。私としてはそれも味わわせてくれると嬉しいかな……!」
「っ……まあ比較的安全な毒なら……!」
「じゃあそれで。ふふ……楽しみだね……!」
「そこまで言うなら……!」
私はアーヤにもっと力を出してもらうために殺意を込めて刃を振るう。別に殺す気はないんだけど殺意を出すことはできる。気配の消し方も含めてアーヤほど上手くはないけどね。
ただそうすればアーヤも迷いを見せながらも手札を切ることを決めてくれたんだろう。懐から怪しい気配の漂う液体の入った瓶を取り出して上空に投げつけると、それを刃物で壊して自分ごと私にも振りかけた。
「大丈夫! アーヤちゃんお手製の薬だから! 安心安全な毒で逃げさせてもらうよ!」
(花の香り……香料……いや、香水か!)
毒も使ってほしいと口にしたが、それはあくまでアーヤの強さを余すことなく楽しむためのものだ。だから使っても可能な限り食らわないように立ち回ろうと思っていたけどそう使われるとやっぱり躱せないね……!
アーヤは自分にもその毒を振りかけた。自分は効かないが相手には効果がある。それゆえに、自分ごと巻き込む形で毒を広範囲に散布することができる。
「今度はそっちから見えなくなってもらうよ! “パフュームプワゾン”!! またの名を“AS-CHEMICAL No.5”!」
「……! (これは……!)」
振りまかれた毒を鋭い斬撃の風圧で吹き飛ばし、息を止めて吸い込まないようにしたけれど、気付いた時にはその毒は私にも効果を現していた──目を開けているにも関わらず……何も見えないという形で。
「……なるほど。視覚が一時的に効かなくなる毒だね」
「その通り! 効果はこの濃度だとほんの数分程度だから勘弁してね!」
そう言ってアーヤはその場から逃げようとしていた。その気配を感じる。視界は全く効かないし、嗅覚や味覚も感じなくなっているけど聴覚と触覚はまだ残っている──だったら十分だ。
「──“鬼神楽”」
「えっ? ──うわあああっ!?」
アーヤがいるであろう場所の頭上に跳び上がって刀を振るえば、割とすぐの距離からアーヤの声がした。だけど残念。紙一重のところで躱された。やっぱり音や気配だけじゃ厳しいね。アーヤは元より隠れるのが上手だし。
「なんで追撃できるの!? シズナちゃん本当に人間!?」
「ちゃんと人間だよ。君が完全に隠形に徹さないならやりようもあるってだけでね」
「ええ……」
「ふふ、ならまあ化け物なのはお互い様ということでいいじゃないか」
アーヤから怯えた気配を感じるけどそれはいつものこと。アーヤはこちらから逃げるために私を気絶させようと峰打ちで鋏を振るってくるけれど、敢えてそれを防がないで受ける。
「──っと。峰打ちとは優しいね。おかげで居場所がより正確に分かったよ」
「更木◯八か!」
「私の知らない東方の強者かな。同じことができる人がいるならぜひ戦ってみたいけども」
「私の知らないとこでやって! 危なそうだから! というかもう私帰る! じゃあねシズナちゃん! 会えたのは嬉しいけど次は戦いじゃなくて普通にデートしようね!」
「なるほど。この状態じゃ逃げに徹されたら追いかけ続けることはできないし、確かにこれまでかな。なら次はデートの後に戦おうか。それならいいだろう?」
「考えとくっ! じゃあねっ!」
「うん、また会おうか。アーヤ」
そうしてアーヤの居場所を察知して再び反撃するも、アーヤはそこから更に離れてこっちに別れの言葉を送る。それに反応して更に追いかけることも出来なくもないけれど……アーヤが本気で隠れ始めたらさすがに追い続けることはできない。
なので今日のところはここまでというアーヤの言を私は受け入れることにした。勝負はつかなかったけど引き分けというにはしてやられすぎたかな? やっぱりアーヤの毒は厄介だね。そんな気はしたけれど、毒の対抗策がないと正真正銘のアーヤの本気と戦うには厳しいと言わざるを得ない。
まあないこともないんだけどね。それをするとアーヤが死んでしまいかねないし、しばらくは互いに程々の本気で戦うのが丸いかもしれない。ただその場合はこっちが有利な勝負になってしまうから程度が難しい。
うーん……やっぱり普通の毒くらいは防いだ上で本気で戦って……そうなれば良い感じの勝負になりそうかな。今度会った時にその辺りのことを教えてもらうのも良いかもしれないね。何しろ私とアーヤは友人だし、互いに好ましく思っている。今回は仕事ということもあって問答無用で戦ったけど次はまたお出かけでもして色々と話でもしようか。
それにアーヤは私のことを恋愛的な意味で結構好きみたいだしね。私も恋愛的かはともかくアーヤのことは好きだし、今回は私の我儘に付き合ってもらったから次はアーヤの我儘にも付き合うとしようか。前もそうだったけれどデートがしたいと言っていたことだし、今回の仕事が終わったらカエデかオババ辺りにデートの作法を聞いてみようかな。
──まあそれもアーヤ次第だし、今後の展開次第では叶わぬ未来となるだろうけれど。それでも友人として《大地の竜》……終末とやらを乗り越えられることを願っているよ。
──はぁ……どうも……《緋》の起動者のアーヤ・サイードです……。疲れた……まさかあんなところでシズナちゃんと出会って戦うことになるなんて……こっちも致死性じゃない毒まで使って必死に戦ったのに全然通じなかったし、やっぱシズナちゃん強すぎる……以前よりもかなり強くなってた……さすがは《白銀の剣聖》だ……でも綺麗に可愛く成長してたし元気そうなのは良かったかな……友達だしね……戦闘狂が出なければかなり気が合うんだけどなぁ……。
まあでも何とか逃げられたし仕事もある程度は終わったので切り替えていこう。久し振りに友達のシズナちゃんと会えて良かったってことで(戦闘の事は忘れる)私は共和国内で最後の仕事を済ませる。その仕事は何かと言うと──。
「ばんざーい! ばんざーい! ロイ・グラムハート大統領の誕生だー! おめでとー! わーい! わーい!」
私は皆と合わせて万歳万歳と喜ぶ。周囲には《愛国同盟》の議員とか政財界に通じる熱心な支持者たち。共和国内の大企業の重役とか旧貴族とか色んな人がいるし、そうでない普通の熱心な支持者もいっぱい集まっている。
そんな中で私は壇上の端っこの方の目立たないところで他の企業の人たちと一緒に今回の大統領選挙の結果を喜んだ──七耀暦1206年。8月21日。カルバード共和国第23代大統領が誕生したことを。
新大統領はロイ・グラムハート。私が支援……じゃなくて支持してる相手だ! 言葉には気をつけよう。政治はすぐに揚げ足を取られるからね。私もなんだかんだ共和国内で影響力はそこそこあるような気がしてるし、これからはそういう意識も持っておかないとね。
そしてグラムハート先生が大統領になったので私も共和国内の表の立場が確実に保証されることになるので一安心だ。私はともかく私の会社に所属してる人が大変な目に遭うのは良くないし可哀想だからね。これで仮に私に何があっても問題ないわけだ。
まあ何もないと思うけど共和国は情勢が不安定だからなぁ……帝国との開戦を控えて大統領選があったこの時ですら相変わらず反移民派のテロが起こってるくらいだし。ほんと困ったものだよね。犯罪結社に属しまくってる私が言えたことじゃないけども。
──それはさておき結社の仕事に戻らないといけない。《破戒》のオジサンがとうとう法国で事件を起こして星杯騎士団と全面衝突することになったんで私も呼ばれるんじゃないかと戦々恐々としたけどさすがに帝国での仕事で忙しいのは分かってる筈だし呼ばれは──
『ようアーヤ。今日と明日、割りかし暇なのは分かってるぜ。なんで久し振りにオジサンの仕事を手伝わねぇか? ちょっくら法国内で守護騎士を撹乱してくれるだけで良いんだが』
「全然“だけ”じゃない! 大事! 大事件!」
『それが大事、だったか。騎神の争奪戦とやらも含めて中々面白い映像だったぜ。オジサン、仕事中だってのに笑っちまったよ。あの調子で法国内でも刺激的なコントを作ってくれると助かるんだが』
「コントちゃうわ! ……まあ確かにちょっとはフザケちゃったかもだけど!」
『あれでちょっとか……そう言うには些か愉快すぎたと思うが』
『まあそれがアーヤの良いとこでもあるしなぁ。被害に遭った人はご愁傷さまやったけど』
『とにかく頼むぜ。報酬も普段の3倍はくれてやるからよ』
「…………まあ撹乱だけなら……」
──と、言うことで! 結局呼ばれたよ! オジサンのバカやろー! 報酬は嬉しいけどこんな忙しい時に追加の仕事頼みやがって! 守護騎士の相手大変なんだぞー! なんたって不思議異能集団なんだから! 強いし怖い! でもシメオンとレティ姉さんなんかの他の執行者もいるからちょっとだけ安心! 一応オジサンもこういう仕事だと心強くはあるし!
なので23日と24日はアルテリア法国に移動してまた守護騎士にちょっかいをかけることになった。今度の仕事はシメオンとペアだったので不謹慎だけどちょっとだけ楽しかったのは内緒。シメオンに幻獣をいっぱい呼び出してもらったからね。ポ◯モンとかデ◯モンとかたま◯っちとかサン◯オとか色々。その可愛い幻獣たちに触れたらやたらとネギが食べたくなる薬を塗りたくってあちこちを徘徊させたり、封聖省のケビンの部屋に八百屋の看板を立てて経営が苦しくて困ってる農家さんのネギを買い取ってケビン宛てに送るよう手配したり、リースちゃんの部屋にはサイードグループの飲食店で使える割引券をいっぱい贈ったり、どっかの青髪冷笑系神父の部屋にはゴッチ監督作品とのコラボレーションTシャツを贈ったり、どっかの赤髪元ヤン低身長シスターには身長を伸ばすためのサプリとか最近共和国で流行ってる大人気のコミックスをいっぱい贈ったり、とにかく知り合いには色んなものをプレゼントした。
でも隠密僧兵とかその他の偉い人は冗談が通じないのであんまり何もやってない。でもちょっと忍び込んで色々見てきてほしいってオジサンに言われたんで法王宮にも申し訳ないけどちょっとだけ忍び込んだ。法国の建物は荘厳なものばっかりで観光しがいがあるんだよね。《静謐の匣庭》って呼ばれる場所もなんかすごかったし、色んな禁書? が納められてる図書室みたいな場所にも入ってみたけどすごかった。全然よく分かんなかったけど。《エゼル記》とか《秘アリクト記》とかオジサンおすすめの書物を見ても遠大かつ難解な言い回しばっかりだし何のことを言ってるのかちんぷんかんぷんだったからすぐに読むのやめちゃった。流し読みしたけど階梯とかレーヴァテインとかレーギャルンとか言われても意味不明だよね。単語的にも全然聞き覚えのないものばっかりだったし、どうせ作中ではあんまり関係のない内容だろう。個人的にもちょっと楽しみだったけどあんまり収穫なかったなぁ。こういう場所ってセキュリティが霊的なもので封じられてて厳重で忍び込むのにも気を使うから大変なんだけどその甲斐はあんまりなかった。やっぱりオジサンのおすすめは信用ならない。ラベルとかに書かれてても絶対買わないよね。
……でまあそれ自体はバレずに無事に仕事を終えたんだけど、その後でまたシメオンと一緒にオジサンの仕掛けを手伝ってる最中に守護騎士と出くわしてしまって大変だった……。
「こんな場所で何をしているのか聞かせてもらおうか。執行者No.Ⅶ《幻想使い》にNo.ⅩⅢ《血染の裁縫師》」
「うわあああああ!!? 見つかったー!? しかもアイン・セルナートだー!? もう強い人嫌ー!! シメオン任せた! 私は他の人相手するからいいよね!?」
「やれやれ……君のそういうところは成長しても変わらないな。確かにかの女傑は強敵だが君も相手できなくはないだろうに」
「無理無理無理! お願いシメオン! 何でもするから!」
「別に構わないが、あまり過度な期待はしないでくれるかな? 私はあくまでもしがない非武闘派なのだから」
「それを言ったら私なんてこの通りお洒落なだけのただの美少女で……戦闘なんてそこそこしか……」
「いやいや、私など君に比べれば……」
「いやいやいや、私の方が……」
「──相変わらずお前たちは我々を小馬鹿にするのが上手いな。私を前にしてその振る舞いを続けるということは……全力で殴られる覚悟が出来ていると見ていいな?」
「ひっ!? なんで怒ってるの!? 怖い!」
「まあ手加減してもらえる訳もないだろうね。仕方ない──こちらも倒されないように少しは力を出すとしようか。いでよ、世界の裏に潜みし龍……ギラ◯ィナ!!」
「うわあああ!? 相変わらず生み出す幻獣が色んな意味でヤバい! 半分は私のせいだけどー!」
……と、そんなわけで……なーんでよりによって星杯の総長とかち合うかなぁ……もう大陸屈指の強者の相手はいいって……案の定めちゃくちゃ強かったし死ぬんじゃないかと思った。相手してらんないからシメオンに任せて私は他の守護騎士を相手にしつつ頃合いを見て2人でまた逃げた。……というか星杯の総長を1人で難なく相手できる辺りやっぱりシメオン強いんだなぁ……なんでそんなに強いのかはわかんないけどやっぱり最強クラスだったっぽいね。執行者そういう人多くない? 奥の手みたいなの持ってる人多いし、やっぱ私って執行者でも下の方なんじゃない? っていうとまたデュバリィちゃんに怒られちゃうかな。でもマクバーンレーヴェレティ姉さんシメオンとかの上澄み以外はみんなそんなに差がない横並びくらいだとすれば下の方って言い方も間違いじゃないと思う。
とはいえ昔に比べれば多少は自信もついてきたけど……まあそれはともかく法国での仕事は相変わらず良い感じに手伝い終わったんでオジサンから報酬とか新しい薬とか色々貰ってから帝国に戻った。そっからはまたトールズ本校生徒の面倒を見てあげた。そして私が東側や法国に行ってる間に第一相克は終わってクロウくんがオルディーネごと眷属になってⅦ組に下ったり、デュバリィちゃんも一緒に向こうの味方になったり分校生徒と本校生徒が和解して分校が解放されたりと色々あったみたいだ。ふむふむ、良いことだね! 順調にⅦ組が盛り返してきてる。この調子でどう転んでもトゥルーエンドになるように頑張りたい。
「アーヤさん。殿下の要請で明日の会議を襲撃することになったのですが……貴女も参加してくださる?」
「うぇー……マジ?」
「ウフフ。どうやら殿下はよっぽど戦果を示したいようですわね。まあ貴女の参戦は嫌がるかもしれませんが……こちらとしては貴方にも付いてきてもらった方が都合がよろしいかと思いまして」
「はぁ……それなら行こうかな」
「助かりますわ。では貴女には事前に忍び込んでもらって──」
…………なーんて思ってたらまたイベントが発生した。何でも明日、エレボニア帝国とカルバード共和国とリベール王国の緩衝地帯になる上空で西ゼムリア諸国の要人が集まって会議を行うらしい。それを第三柱のマリアベルから聞いて、あーそういえばそんなこともあったなぁって思い出した。確か鉄血側の《大地の竜》作戦に対抗するための《千の陽炎》作戦を行うための会合だっけ。作戦自体は前々からそりゃ知ってたけど会議もあったんだった。ヴァイスラント決起軍の、もといミュゼちゃんが立てた作戦だね。
で、セドリックくんはそれを邪魔して更なる開戦の口実としてそこに集まる各国首脳陣を殺すことにしたらしい。オズボーン閣下とかは“挨拶”してくるといいって命令したんだけど殿下はそれを曲解というか拡大解釈というか独断専行して過激なことをすることにして色んな人に命令したっぽい。本当に不良だなぁ……呪いの影響があるとはいえそれはちょっと洒落にならない。
そして普通なら参戦したくないんだけど……ここで私が参加しなかったところで襲撃は行われるし、成功しないとは思うけど何かがかけ違って誰かが死んじゃうのは困る。なので要請に応えて参加することにした。さすがにそれは許せないんで防げるように頑張る。すっごい裏切りだけど行くって言っただけで協力するとは言ってない。後が怖いけどまあ何とかなる! ……はず! 細かいことはその時になってから考えよう!
でも一応協力する素振りくらいは見せないとね。マリアベルとか他の人なら勘付きそうではあるけど敵を騙すにはまず味方から。この場合は味方と味方って感じだけどね。
なので私はこっそりとガイウスくんのメルカバに忍び込んでⅦ組と一緒にヴァイスラント決起軍の旗艦であるパンタグリュエルに潜り込んだ。今回の会合はⅦ組だけじゃなく特務支援課にリベール組に達人も揃いまくってて大集合なので特に気をつけて動こう。いつも以上に隠密行動でいく。
そしてスニーキングミッションだ! マリアベルから頼まれたのは《千の陽炎》作戦の概要やら布陣の情報を入手すること。なので予め議場にある導力端末をハッキングしてデータをぶっこ抜く。えーっと……専用のプログラムが入った記憶結晶を差し込んでと……これでよし。後は自動的にデータを移動させてくれるはず。
まあデータを抜いたところで戦争にはさせないというか、イシュメルガをどうにかできずに戦争が継続した時点でバッドエンドなのでこのデータが有用に働くことはないと思う。だからこの頼みも引き受けた。この手の仕事を頼まれることも珍しくないしねー。博士とかオジサンとか他の使徒からも隠れるのが得意な私はよく使われる。
最近だと新人のウルリカちゃんとか昔だとレンとか導力技術に長けてる執行者がやりがちな仕事だけど私もそれなりにはできるし、そもそもやり方は《星辰のコード》やら専用プログラムやらを使うだけだからそんなに難しくないのだ。
それと最近の導力技術と言えばオジサンがネットを使った犯罪に注目してるらしく、私にも導力ネット上で使えるウイルスを渡してきたりしたけど本当にやめてほしい。万が一流出しちゃったら大変なことになるじゃん。私の導力端末や記憶結晶には表の仕事で開発中の導力ゲームとか友達の連絡先とか思い出の写真とか動画とか最近ブライダル業界とのコラボレーションでドレスを仕立てた際におまけで撮ってみたレーヴェとの結婚式とか(レーヴェ役は人形だけど)色んなものが入ってるんだから。データの管理には注意しないとね。
さて……仕事も終わったし、後はみんなのお喋りとか会合の様子とかを観察しつつ襲撃の時まて待機かな。結構な名イベントだったと思うし私も期待して──
──七耀暦1206年。8月26日。
緩衝地帯上空。ヴァイスラント決起軍の旗艦、パンタグリュエル内にある饗応の間にて、各国首脳を含めた客人全員が集い──新たなカイエン公爵主宰によるささやかだが豪華な会食が始まり、舌鼓を打ちながら出席者同士の交流が深められ……そうしてとうとう今回の“会合”の内容である《千の陽炎》の恐るべき全貌が明かされる──
『──それでは新郎新婦のご入場です!!』
『ぱちぱちぱち~~~~!』
「…………………………………………」
──ことはなく。
《千の陽炎》の全貌が、各国の布陣が映し出される予定の大型モニターには、どういうわけか──結婚式と思われる映像が映し出されていた。
しかもそれはシミュレーションなのかおふざけなのかプロモーションなのか。デザイン性を感じるウエディングドレスを着た新婦はアーヤ・サイードであり──更に新郎の方はかの《剣帝》レオンハルトを模した人形であった。
「な……なにこれ……?」
「さあ……?」
──その謎の映像に列席者の誰もが言葉を失う。
アーヤの奇行に慣れている者でさえ、意外すぎるタイミングでのその謎映像に困惑していた。映像が差し替えられていることに動くべきなのに、すぐには誰も動けないくらいには。
ゆえにその映像はすぐに止められることはなく流れ──
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
「!?」
「あ、アーヤ!?」
「何をやってますの!?」
──突如、饗応の間に聞き覚えのある大声と共に見覚えのある者が乱入した。執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》アーヤ・サイード。
この場にいる多くの者にとって縁のある相手が、顔を真っ赤にしながら酷く焦った様子でその場に乱入し、映像の前に進み出て両手を振った。
「アーヤ教官……!」
「……なるほど。やはり結社側はこの場を掴んでいたか」
「この映像もアーヤさんが差し替えを……」
「違う違う違う!! 見ないでー!! すぐに消してー!! うわあああん!!」
「……ほ、本人はそれどころじゃないみたいだけど……」
「何か手違いでもあったんでしょうか……?」
「さあ……?」
「で、でも良いドレスですよ!」
「そ、そうですよアーヤ教官! すごく似合ってます!」
「ま、まあ結婚願望があるのは良いことだと思います」
「フォローしないでー! 余計にきついよー! うわーん!!」
「あ、裏に走っていった」
「映像を差し止める気だろうね」
「……ど、どうしましょう?」
「まあ……映像が元に戻るのであれば良いが、結社側の人員がここにいるのは些か問題ではあるな」
「捕らえてしまうのは……」
「ですがアーヤさんですし……」
そうして非公式ではあるが国際的な会合の場でとんでもない映像を映し出してしまったアーヤ・サイードは直ぐ様映像を元の物に差し替え、速攻でパンタグリュエルから跳び下りてその場から離脱していったのだが──
──その少し後に結社の戦闘空母《紅の方舟》グロリアスと結社の人員が襲撃に現れた。
それに対処するために遊撃士に特務支援課にトールズⅦ組もそれぞれ分かれて甲板に向かい、彼らと対峙することになったが。
「──フフ、皆さん。よくここまで辿り着きましたね。流石は灰色の騎士を始めとする英雄方といった所でしょうか」
「ガレスたちを突破するとはなかなかやるじゃねえか」
「ま、奴さんたちも一旦退いただけみたいだが……って、何を気にしてんだ?」
「いや……アーヤ教官が……」
「ですが、貴方がたの抵抗もここまでですわね。──と言いたいところですが貴方たちのアーヤさんに向ける視線を見るに、もしかして何か企みでもあるのでしょうか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「? 何かあったの? アーヤ姉」
「……………………」
──その襲撃者の中にアーヤがいることに誰もが気になって視線を向けてしまう。
何食わぬ顔でマリアベルとシャーリィとカンパネルラの中に混ざっていたが……何も喋ることなく無言で目を逸らしていて。
「おい……普通にいやがるぜ……あんな映像の後で……」
「やめろアッシュ。アーヤ教官もおそらく命令で仕方なくここにいるんだろう。でなければあんな恥ずかしいところを見られた後ですぐに戻ってこれるはずがない」
「お前の方が酷いじゃねえか……」
「しかし……思ったよりは普通そうにしているように見えるが……」
「いや、あれは多分だけど我慢してるだけなんじゃないかな」
「ヨシュアの言う通りだろう。よく見たら耳が真っ赤に……」
「……………………っ」
「あっ、だんだん顔が赤くなってきた!」
「身体も地味に震えているわね……」
「あんまり見たことのない表情ですね……」
「なんだったら少し泣きそうというか涙目ね……」
「大丈夫ですよ! アーヤ教官! すごく、その……可愛かったですから!」
「……っ……」
「ユウナさん。それはむしろ追い打ちなのでは……?」
「まあアーヤがレーヴェのことを好きなのは周知の事実ではあるけども……」
「大丈夫ですよアーヤ先輩。素敵でした」
「クローゼ……それもちょっと……」
「さ、さすがに同情してしまいますわね……」
──そのアーヤは恥ずかしすぎて辛うじて笑みを保ちながらも顔は真っ赤で涙目になって震えていた。ユウナやクローゼに褒められるのも効いているようで口を閉じた赤面の笑みというアーヤではあまり見られない表情こそが彼女が酷い羞恥を感じている証拠だった。
──恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい見られた見られた見られたもう駄目だ死にたい私が密かに隠し持っていたレーヴェとの理想の結婚式シミュレーション映像が見られた死ぬ死ぬ死ぬレーヴェとも顔合わせらんないし他の面々とも顔を合わせたくない今すぐこの場から逃げ出したいよー……!! うわあああああああん……!!
今回はここまで。ちなみにアーヤちゃんの最後の表情はいわゆる「褒め殺し」された感じの表情です。イメージできない方は検索してみてください。
次回は月冥鏡で更に映像を見つつ遂に相克が本格的に始まるので暗殺阻止やら生存ルートのために奔走します。お楽しみに。以下今回登場のアーヤちゃんのクラフト説明。
ファントムステッチ:CP50 物理攻撃 威力A+ 範囲:指定・範囲円L DFE・SPD・MOVダウン大
ラストモーメント:CP60 物理攻撃 威力S 範囲:単体・移動 即死150% ステルス付与
パフュームプワゾン:CP30 魔法攻撃 威力D 範囲:全体 冥闇200% ランダム能力低下
感想、評価、良ければよろしくお願いします。