──パンタグリュエルで《千の陽炎》の概要について説明され、第三の道を選び取ることを表明した後。
俺たちは結社による襲撃を、救援に現れたカレイジャスⅡ──生きていたオリヴァルト殿下やヴィクターさんにトヴァルさんらにも助けられ、辛くもそれを退けた。……それと終始恥ずかしそうにしていて動きも悪く、去り際も歯切れの悪かったアーヤ教官のおかげでもあるかもしれない。
だがとにかく何とか危機を乗り越えた俺たちは改めて今後の方針を話し合いつつ、ローゼリアさんの勧めで魔女の眷属が管理する《月霊窟》へと向かうことにした。
帝国の呪い……巨大な錬成を行うという黄昏の真実と正体を知るために。《黒の史書》本体とも繋がる“水鏡”の元へ。
それを起動するための試練としてクロチルダさんやオーレリア分校長とも戦い、最奥で待ち受けていたローゼリアさんの真の姿……《焔の至宝》を見守る女神の聖獣としての姿とも戦い、そうして遂に帝国の裏の歴史を映し出す神具《月冥鏡》が起動され、俺たちは真実を幻視することになった。
そして……そこには驚くべき真実が隠されていた。
「なあ、アンタ……──俺らを嵌めやがったな?」
──《闘神》バルデルとの決闘すら全てを《黒》のアルベリヒに嵌められて《紫の騎神》ゼクトールの起動者となった《猟兵王》ルトガー・クラウゼル。
「ヨコセ……ヨコセ……吾ノモノダ……ソノ魂ノ総テ……」
「……ハハ……毎晩毎晩、よくぞ飽きぬものだ……」
──ドライケルス帝の真実。彼に纏わりつく何か。
「さあ──話してください。先程の名状しがたき“闇”について。いつ、どうして……あんな存在に取り憑かれたのです?」
──リアンヌ・サンドロットがその彼の傍らにいたことも。
(クロウを蘇らせたのだって地精として効率を重視したからさ。工房長には嫌味を言われたけど《相克》に相応しい候補には違いない。そう──理由はただそれだけだ。……アンの扱いにしたって、カレイジャスの保険にしたってね)
──ジョルジュ先輩がクロウを蘇らせ、アンゼリカ先輩も、カレイジャスにも保険をかけて殺さずにおいてくれたことも。
「気をつけて、あなた。お役目頑張ってくださいね」
「ああ、行ってくる。カーシャ──それにリィンも」
──俺の実の母や父……そして俺との間には確かな家族としての情があったこと。
(素敵な奥方に健やかなお子……もう心配は不要のようですね。ですがかの“闇”は消えていない筈。“あの方”からの誘い──改めて考えてみるとしましょうか)
──そしてそこでもリアンヌ・サンドロットは、彼を見守り、そして闇を祓うために動いていたこと。
「目覚メルガヨイ──ふらんつ・るーぐまん」
「う……あ……」
──アリサの父親、フランツ・ラインフォルトもまたその黒い声によって地精の長としての人格に憑依されたことも。
「《身喰らう蛇》が執行者、No.Ⅸ《告死線域》と申します。ノバルティス博士と契約された研究成果の引き取りに参上しました」
──シャロンさんがラインフォルト家に迎えられる際の顛末も。
「どらいけるすヨ、二百年待ッテイタ。今度コソ《灰》デハナク我ガ乗リ手トナルノヲ受ケ容レルガヨイ──サスレバ幼子ノ命ハ助ケテヤロウ」
「いいだろう──この魂と肉体、貴様に呉れてやる! 代わりに息子を、リィンを助けろ! 《黒の騎神》──イシュメルガああああっ!!!」
──ギリアス・オズボーンがかつて母を亡くし、息子である俺を助けるために《黒の騎神》イシュメルガと契約を結んだことも。
「うわっ、ゴ◯ブリだ!? こっち来ないで!」
(ギイヤアアアアアア!!?)
(グ……何故ダ……? 別次元ノ我ニ痛ミヲ与エルダト……? 言ウコトヲ聞カヌ事ト言イ……ヤハリソノ力ガ原因カ……!)
──アーヤ教官がゴ◯ブリと一緒にどういうわけかイシュメルガと思わしき影を気づかない内に切ってダメージを与えたことも。
「君はこの帝国に何やら強い目的意識を持って何かを探っているように見えるが……一体何をしに来たのか聞いてもいいかね?」
「いやその……表の仕事と裏の仕事で……ちょっとやらないといけないことがあったので……言わないと駄目ですか?」
「…………いや、いいだろう。アーヤ・サイード。君の力であれば私にとっても有用な上、互いの目的を達成する一助となるに違いない。ゆえに──私と個人的な契約を結んではくれまいか」
「……あっ、はい。よろこんでー」
──かつてギリアス・オズボーンとアーヤ教官は帝都で契約を結んだこと。その命令もあってトールズⅦ組に関わり続け、俺たちの助けをしてくれたこと。
だがアーヤ教官に関しては他の真実と同様に更に驚くべきこともあった。
「……つまり、限定的な未来視……あるいは予言の力のようなものがお前の中に──」
(本当は未来視じゃないし未来なんて知らなくて
──あの煌魔城の一件の後、クロチルダさんやレオンハルトさんとの話し合いが行われ、そこでアーヤ教官は、如何なる方法なのか限定的な未来が分かることを告白した。
だがそれもアーヤ教官が言うには識っているだけだという。その上で、聞き取れない。靄のかかったような部分があって全ては読み取れない。
かつて俺の名前が封じられていたように、何らかの枷がかけられているような……あるいはまた全く別の何かなのか、不可思議な力を感じる。
「──だったら私が戦わずに済む理由を作ってあげよう。先程は言葉を紡ぐことなく襲われてしまったが……こういうのはどうかね? ──私を害することを諦めないのであれば……君の周囲の人間が犠牲になることも我々は辞さない」
「!」
「フフ、本当はこんな手を使いたくはなかったんだがね。とはいえ安心してくれたまえ。協力を求めるのはあくまで私や《黒》の邪魔をしないこと。それとささやかな実験の手伝いをしてくれるだけで構わない」
「だが教団の目を盗んでの研究には限界があってね。その上、君は脱走し、行方が掴めなくなってしまった。結社の執行者となってしまったこともあり実験をすることを難しい。君のその力を再現するためにはまだまだ材料が足りなかった」
「フフ、もう理解しているのだろう? そのために私は、教団の情報網を駆使して君と同じ血を持つ者を拉致し、研究させてもらうことにしたのだ」
「残念ながら収穫は少なかったがね。力の理解は深まったが、それでも彼らが君のような異常な力を発現することはなかった」
「代わりに君自身の遺伝子情報をOzシリーズへのフィードバックを行い、その結果として多少戦闘用としては優れたOzが生まれたもののそれでも本来求めていた結果とは程遠いものでね。だが《黄昏》の先……《黒》によって人が隷属した世界においてその力は有用なものとなりえるのだよ」
「ああ。さっきも言ったように求めるのはあくまで実験の手伝いと不必要な対立を留めることに限定させてもらおう。閣下からも極力自由にやらせるよう言付けられているし……結社の方も執行者の扱いにはうるさいからね。こちらに被害を及ぼさないのであれば《相克》に関しても、君の普段の行動にも関知しない──そういった契約であればどうかね?」
「──はい、わかりました。よろこんで。どうぞお好きになさってください」
──黒キ星杯の一件の後、アーヤ教官はアルベリヒを暗殺しようとし、その際に周囲の人間を人質に取られたことで彼らに従う羽目になったこと。かつて教団に所属していたという地精の長の人格。それが行っていたものと似た人体実験を受け続け、相克のための駒として使われていること。
そして更に──
「──どうして……」
「分からぬが……だがそれでもこの子は──」
──ノイズのかかったような幻視映像の中、褐色肌の男性と女性。そして赤ん坊が映る。
「──……ーヤ……それ…………は……私たちの──」
「──……本当…………れを使え──……アー……は…………のことが……」
「──……もう…………殺──……きない…………」
「──……逃げ──……」
「──
「私が──……」
「すまぬ……ーヤ……不甲斐なき──許してくれ……────―しれぬが……私は……お前の────いる──」
「願わくば──」
──その声すらも聞き取れない。何が原因なのか、真実が映し出されない。
しかもその靄は過去になればなるほど……あるいは真実に近づけば近づくほど濃くなっていき。
「──私────消──―嫌──―
「────虚ろ──────」
「────────」
──何かが一瞬だけ映った。
それを視たのを最後に、俺たちは《月冥鏡》の映し出す幻視から解放される。
「これが……残された真実の全てか……」
俺たちは帝国に関わる真実を知った。
猟兵王。ジョルジュ先輩。リアンヌ・サンドロット。ドライケルス。フランツ・ラインフォルト。帝国の忌まわしき歴史の全てに《黒の騎神》イシュメルガなる存在が関わっていたことを。
だが一方で不可思議だったことにも言及する。
「だが最後のアーヤ教官は……」
「……正直、よく分からないところもあったね」
「ええ……宰相と契約し、あのアルベリヒってのに脅されているのは確かみたいだけど……」
「アーヤ教官自身にも目的が……? いや、それよりも……」
「未来を識っている……?」
「馬鹿な……! そんなことがありえないだろう……!?」
「もしかして《黒の史書》みたいな何かを見て……?」
「それなら確かに考えられるが……」
「だがアーヤ教官のあの口ぶりは……」
「ちょっと違うみたいだったよね。肝心なところは全く聞き取れなかったし……」
「最後にも何か映ったみたいだったけど……」
「砂漠みたいなもんは見えたが……」
「それ以外は人、だったか……? それすらも確実なものではなかったが……」
「お、お祖母ちゃん。これは一体どういうこと?」
「……妾にも分からぬ。《月冥鏡》が全てを映し出さぬなど……(帝国の歴史ではないからか……? いや、そのような理由であればそもそも最初から映し出す必要はない。《月冥鏡》が映し出すならあのアーヤという者が起動者となるに至った大本に……その歴史の真実が正確に記述される筈じゃ。なぜそれが出来ぬ。原因は一体なんじゃ……? それに最後に見えたアレは……どこかで……)」
「……何にせよ、アーヤも騎神の起動者として囚われてるってこった」
「ああ……少なくともそれは間違いないだろう」
──俺たちは少なくない疑問を抱えながらもアーヤ教官もまたクロウと同じように味方に出来る筈だと希望を持つ。
ヴァリマールやミリアムとの会話も経て、《相克》に打ち克つことで他の騎神を味方につけ、あるいは力を取り込む。そうして最後に皆でオズボーン宰相と対峙すれば……僅かな可能性だが真の元凶である《黒の騎神》イシュメルガを倒すことが出来るかもしれない。
俺たちⅦ組とその協力者たちが進むべき道……その第三の道を定めた以上、もう迷いはなかった。
──もう迷いはない~♪ ……ふぅ、《緋の騎神》テスタ=ロッサの起動者、アーヤ・サイードです。ちょっとオールでカラオケしてた。めちゃくちゃ恥ずかしいことがあったんでヤケクソで。くそう……まさか別の映像に差し替わっちゃうなんて……これも同じ記憶結晶に入れてたオジサン特製のウイルスのせいに違いない……帝国でのゴタゴタが終わったら絶対文句言ってやる。そしてお金とか珍しい糸とか大量にふんだくろう。
……まあ襲撃が失敗したのは良かったけどね。セドリックくんはやっぱり癇癪起こしたんでビンタして正気を取り戻して連れ帰ったけど許しは出てるしいいだろう。そもそも皇太子である前に生徒だしね。教師として指導はちゃんとしないといけない。
そしてあの場で《大地の竜》ことヨルムンガンド作戦の開始日。開戦の日。Xデーが9月1日に決まった。ひえー。大戦争がもうすぐ始まっちゃうー。どうにかして阻止しなきゃ。
なので私たち騎神の起動者たちも《相克》にそれぞれ臨むように通達された。《紫の騎神》のルトガーさんに《銀の騎神》のリアンヌママ。《金の騎神》のルーファスのアホ。そして私と《緋の騎神》はリィンくんを迎え撃つことになる。
ただ順番にやる必要があるので最初はルトガーさんがやるみたいだね。早速《西風》の2人と一緒に現場に向かおうとしてた。
……でも正直この人も普通に味方になってほしいんだよね。なんたって《猟兵王》だし。くっそ強いし味方になったら頼もしい。その上フィーちゃんのお父さんだし相克が終わったらすぐバイバイはフィーちゃんが可哀想だ。
「なので味方になってください!」
「急にやって来たかと思えばいきなり何を言ってんだ? ──ま、大方の予想はつくがよ」
「え、わかるの?」
「このタイミングだしな。十中八九《相克》に関することだろ。察するに相克の後もフィーやⅦ組の助けになってくれってとこか。《蒼》の起動者……あの坊主と同じようによ」
「正解! 正解者には1億ミラ差し上げます! ……ってことで契約金として1億ミラあげるから味方になってくれない?」
「……ハッ……そりゃ破格の契約だな」
猟兵相手はケースに入った札束で殴りつけた方が上手くいく! そのセオリーに従ってお金を用意してみたけどルトガーさんはそれを聞いて苦笑いを浮かべる。その上で返答を返してきた。
「──だが悪いな。断らせてもらうぜ」
「え……で、でも大金だよ? それにほら……ルトガーさんもお礼参りしたくない? 騙されて相克に加わったわけなんだしさ」
「……………………」
「えっと……それに私としても戦力は沢山いてくれた方が助かるし! リィンくんたちが勝っても勝たなくても戦力は必要かなーって! フィーちゃんも喜ぶよ! 私結構フィーちゃんとは仲が良かったし色々教えたからその成長を確かめる意味でも──」
「──悪いな」
「…………あー……やっぱ駄目?」
ルトガーさんは私に真剣な顔で謝る。どうあっても意思は硬いのか。なんとなくわかってたけど……。
そして謝った上で葉巻に火を点けたルトガーさんは再び苦笑しながら言葉を続ける。
「嬢ちゃんの気持ちは嬉しいがな。だが生憎と──俺は猟兵だ。結局のところこういう生き方しか出来ねぇし、こういう向き合い方しか出来ねぇんだよ」
「そっかぁ……」
「意趣返しにしてもフィーが……あいつらが果たしてくれんだろ。本気で立ち塞がる俺を乗り越えたんならな」
なるほどなるほど……どうやらこれもルトガーさんなりの親心というか、フィーちゃんやⅦ組の成長や未来を確かめたいのかもしれない。自分を乗り越えるならそれだけ安心して死ねる。そんな心境だろうか。
「どの道、相克が終われば不死者の俺は消えちまうしな。だったら最期に……ド派手な戦いの中で死ぬのが一番良い。その相手がフィーやⅦ組の連中だってんならなお良しってな」
「……その価値観はよく分かんないかなー」
「だろうな。ま、あいつらに味方する役目はお前さんに任せるぜ」
私との話は終わったとルトガーさんが背を向ける。《西風》の2人、ゼノとレオの2人と相克の場に、霊窟に向かうんだろう。
私はそれを見送るが……最後にルトガーさんはこっちを向いてこう言った。
「ああ、それとお前さんには礼を言っておくぜ」
「? 何の?」
「フィーの面倒を見てくれたんだろ? ──ありがとよ。フィーも楽しそうだったし、何だかんだ俺も楽しかったぜ」
そんじゃあな、と最後にそれだけを私に伝えて《猟兵王》ルトガー・クラウゼルは《紫の騎神》ゼクトールと共に第二相克へと向かっていった。
私はその姿を見送った後に1人で肩を竦める。何と言うか──
「ふぅ……やっぱ無理だよね。死にたがりを説得するなんて」
フィーちゃんのために生きていてくれたほうがいいかもしれないと思ったけどルトガーさんは今更猟兵としての生き方を変えられないのか意地なのか、頷いてはくれなかった。
まあでもしょうがない。ルトガーさんがそう言う以上、その方が良いだろう。
──ま、とはいえリアンヌ様は何が何でも救うけどね! そもそもリアンヌ様は死にたがりじゃないし! 《黒》を倒すためにバリバリにやる気満々だから! なんなら全然味方にもなりそうだし!
そうと決まれば私自身の相克も含めて最後の調整をしよう。とりあえずヨルグおじいちゃんに《緋の騎神》テスタ=ロッサの整備をしてもらいながら私は私の相克に協力してくれる協力者2人を集めた。
「……なるほど。つまり俺たちは相克を盛り上げる前座として立ちはだかればいいんだな?」
「そんな感じでお願いします!」
「……それは構わないが、どこの霊場を使うつもりだ?」
「それは任せて私に考えがあるから! シグムントさんとレーヴェは中ボスの役目を良い感じによろしく!」
その相手は私が雇った《闘神》シグムント・オルランドと未だ仮面をつけて呪いの強制力に囚われてる《剣帝》レーヴェだ。うーん、強い。中ボスにするには勿体ない2人だ。
「フッ……了解した。本気でやって乗り越えられないならそれまででいいんだな?」
「大丈夫! リィンくんたちなら乗り越えられる筈だから!」
「大した信頼だな。──だが確かに《猟兵王》を打ち倒してくるなら俺も十分に愉しめそうだ」
「……アーヤ」
「ん? なにレーヴェ? 質問でもある?」
「…………いや、何でもない。俺は一度マクバーンと共に新たな第三柱の求めに応じるが……帰ってきた後には協力させてもらう。相克を盛り上げる役目、存分に果たすとしよう」
「うん、お願いね」
……? レーヴェ何だったんだろ。……ハッ! もしかしてあの恥ずかしい映像のこと……!? み、見られてないよね!? もしかして見たの!? 見てたらやばい恥ずかしいんだけど……! せっかく羞恥から立ち直ったのにまた顔が赤くなっちゃう……!
「それとマスター。黒の工房に協力していたG・シュミット博士とイリーナ・ラインフォルト。並びにジョルジュ・ノーム。そしてシャロン・クルーガーがⅦ組に降りました」
「あ、やっぱ負けたんだ。まあその方がいいよね。特にクルーガーちゃんは。こういうの本当は柄じゃないんだから」
内心でレーヴェの様子におかしさを感じて恥ずかしがってるとマキナがそんな報告をしてきたので応じる。うんうん、Ⅶ組は順調に味方を増やしてるね。そもそも帝国編はそういう敵がほとんどだからねー。こっち側のほとんどが仕方なく敵対してるだけでやりたくてやってるわけじゃない人たちだ。これもそれも帝国の呪い、つまりイシュメルガが悪いんだ!
なので降ったのは良いことでしかない。クルーガーちゃんもかなり無理してるっぽかったからね。その方が全然いい。クルーガーちゃんとアリサちゃん。そしてイリーナ会長は家族で仲良ししてもらおう。
あ、そうだ。今度渡そうと思ってたクルーガーちゃんへのプレゼントも今のうちに用意しとこうかな。執行者として動いている時はそんな場合じゃなかったけど今ならいいだろうしね。
そしてそんなことを考えながら準備している内にレーヴェはクロスベル市内に向かってしまった。マクバーンと一緒にって言ってたし、2人で迎え撃つんだろうけど……改めてちょっと心配になってくるね。幾らⅦ組のみんながいるとはいえ結社でも屈指の戦闘力を持つNo.ⅠとNo.Ⅱがペアで待ち構えてるとか……見方を変えれば激アツだし夢のタッグだけど敵対する方からしてみればたまったものじゃない。かつて《月光木馬團》が壊滅させられた時を思い出す。私が相手にしたのは手加減状態のマクバーンだけとはいえあの時も中々にやばかった……そもそもあの時の私まだ10歳だったのになんで結社最強を相手にしてるんだ……頭おかしい……これもそれも全部オジサンって奴が悪いんだ!
……まあそれはともかくとしてそろそろリアンヌ様を暗殺から守ろう大作戦をどうするかを考えよう。ほぼ決まってるし簡単なんだけどね。よくよく考えたらそんなに難しいことじゃない。凶器となる騎神を奪うことには失敗したけど、ようはルーファスの不意打ちを防げばいいだけだ。つまり事前にめちゃくちゃ邪魔してもいいし、リアンヌ様の間近で張っておいて不意打ちを許さないようにしておけばいい。向こうはエル=プラドーを使ってくるだろうけどこっちはこっちでテスタ=ロッサに乗っておけばいいしね。仮に真正面からの戦闘になっても大丈夫だ。実のところ騎神戦に関してはかなり自信がある。生身戦闘より全然自信を持てるし、隠れるのと同じくらいにはね。この間最後に頼まれたからルトガーさんのゼクトールとも模擬戦してみたけど全力じゃなくてもこっちが押してたし。騎神の性能だけで見ると私のテスタ=ロッサは最強なんだ! ただしイシュメルガを除く! そういう意味でも相克を勝ち抜ける自信もあるんだよね! めっちゃきついだろうけど! だからリィンくんたちが勝っても負けても問題はない! ……筈!
なので最初に私は思った。普通にリアンヌ様に着いていこうと。
だけど私は起動者の1人だし、戦いもせずにただついていくだけなら怪しいことこの上ない。隠れ潜むにしてもテスタ=ロッサも一緒だからやるならこっちも戦闘後に転移してくる羽目になる。そうなると結構ギリギリのタイミングだ。ルーファスが転移してリアンヌ様を不意打ちするのが先か、私が転移して守るのが先か。微妙にタイミングが難しいし何より確実じゃない。
ならルーファスを先にどうにかすればいいって思うけど向こうは向こうで警戒してるしわざわざ相克を受けてくれる筈もない。
じゃあどうするか。答えは簡単だ。
「私が先にリィンくんたちと相克を行えばいいよね」
そう──それだけでいい。
そうして勝つか負けるか。勝てば私が相克に挑むことになるから正々堂々とリアンヌ様の元に向かえる。
負ければ私はリィンくんたちに降るからⅦ組と合流してリアンヌ様との相克に向かい、その場に立ち会える。
つまりどっちに転んでも自然にリアンヌ様の元に迎えて暗殺阻止に備えることが出来るって寸法だ。完璧な作戦だね! よっ、アーヤちゃん天才! 智将! 頭脳派!
なので私は今のうちに相克に備える。どっちかって言えば勝ちたいからね。勝てば逆にリィンくんたちを従わせられるというか、こっちが主導権を握れてアルベリヒを殺しやすそうだし。犠牲もきっと少なくなる。負担もこっちで担えるしね。
まあ何故かオズボーン宰相は私を最終相克直前に配置しようとしてたみたいだけどそこはこっちの都合で今回は反対させてもらおう。リアンヌママにお伺いを立てて先に陣を張らせてもらう。
この間の金の騎神争奪戦みたいに良い感じの異空間を──
「話は聞きましたわ。せっかくですし、わたくしにも手伝わせてくださらない?」
──って、なんでマリアベルくるねーん。いらんわーい。はぁ……でも仕方ない……今回我儘言ったのはこっちだし、これくらいは許容しよう。結社側の相克に食い込む駒として結社の使徒が関わってくるのも自然っちゃ自然だし。それじゃ場所は……え、ミシュラム? そこが相性が良くて一番規模の大きい霊場を構築できる? あ、なるほど……そういえばクロスベルって元々錬金術の数式に都合よくなるように都市計画を考えたからミシュラムも霊脈がすごいんだっけ……キーアちゃんの時もすごかったもんなぁ……。
……ま、いっか。よーし、行くよテスタ=ロッサ! いでよ──《煌魔城》!! ここを私の相克会場とする!
……でもよくよく考えたら私1人でⅦ組全員相手にするのキツイような……もし相手する時はシグムントさんやレーヴェも超えてきたⅦ組と戦うってことだし……。
うーん……でもメインは騎神戦だしちょっとキツイくらいでいいのかな。いざとなったら薬で強化してボスらしくするとかも出来なくもないしね。Ⅶ組だけなら勝負にならないこともない筈! かかってこいトールズⅦ組!
──そうして8月31日。ミシュラムに突如現れた《煌魔城》に相克に挑むための英雄たちがやってきた。
「ここにアーヤ教官が……」
「まさかあの煌魔城をまた見ることになるとはな」
「以前とは少し様相も違っているようだ」
「アーヤ教官の駆る騎神は《紅蓮の魔王》の力に侵されていた緋の騎神です。おそらく何らかの方法でその再現を行ったのかと思いますが……すいません。その理屈までは……」
「でもアーヤとの相克を制すれば煌魔城は消える筈よ」
──エリオットくんが。ユーシスくんが。ガイウスくんが。エマちゃんが。セリーヌちゃんが。煌魔城を見上げてその再現性に驚く。
私はそれを協力してくれたマリアベルの術なのか映像を映し出して覗き見る。
「ならば全力で臨むのみだろう」
「ん、アーヤには色々と助けてもらったし、今度はこっちの番だね」
「私もシャロンのことで礼を言わないといけないし……父様……黒のアルベリヒのことについても話し合う必要があるわ」
「あたしもそろそろ同じ教官として一泡吹かせてやらないとね。もう一度同僚に戻るためにも」
「ハッ……だったら倒すだけだろ。そうすりゃ俺みたいに味方になるだろうぜ」
──ラウラちゃんが。フィーちゃんが。アリサちゃんが。サラちゃんが。クロウくんが。それぞれ決意を口にする。
「だったらさっさと連れ戻さねぇとな。散々お節介焼いてくれた借りを返すためにもよ」
「そうですね。ここまで散々苦労させられましたし。戦力としても十分に働いて貰わないと収まりが付きません」
「あの人を倒せば工房の支配から解放することにも繋がりますね」
「仮にもし何か理由があるのなら……それを聞いた上で証明する必要もある。僕たちなら力になれると」
「どんな理由があったとしても私たちなら受け止められるし、向き合うことができる。そうですよね、リィン教官!」
──アッシュくんが。ミュゼちゃんが。アルティナちゃんが。クルトくんが。ユウナちゃんが。戦う意思を顕わにする。
「ああ、その通りだ。俺たちはまだアーヤ教官を乗り越えられていない。だからこそ……この相克は恩返しをする絶好の好機でもある。そうしてアーヤ教官に戻ってきてもらうためにも……! ──トールズ士官学院新旧Ⅶ組! これより協力者と共に煌魔城の攻略を開始する!」
──そして重心たるリィンくんが、締めるように言葉を口にする。おお……なんかラストダンジョン前みたいな雰囲気だね。ミリアムちゃんはいないけどヴァリマールの剣となってるから実質いるみたいなもんだし……えーと16人かぁ……ま、まあちょっと多いけど何とかなる……かな? 本気で行けば何とか相手を──「わたくしも微力ながら手助けさせて頂きます。わたくし自身……あの子には世話になりましたので」──あ、クルーガーちゃんもいるの? それじゃあ17人──「レンも同じね。そろそろ言わなきゃならないこともあるし、ちゃんと説明してもらうためにも力になるわ」──れ、レンも? そ、そっか……まあそりゃいるよね……これで18人──「ええ。ライバルとしてアーヤを倒すのはわたくしの役目でもありますわ!」──デュバリィちゃんもかぁ……キッツぅ……まあでも付いて来ないわけもないししょうがないか……これで19人──「そういう意味じゃ俺たちも2年前に乗り越えられなかった“壁”を乗り越える必要がある」──えっ。
「だな。叔父貴もいるみたいだし、改めて俺たちの力を見せてやろうぜ」
「それにベルもいる筈よね……」
「対してこちらはワジさんやノエルさん、リーシャさんもいませんが……代わりに十分すぎるほど戦力が揃ってます。もっとも、それでも油断は出来ませんが……」
「うん。アーヤはかなり強い力を秘めてるだろうからロイドたちも気をつけてね」
「ああ。全員で力を合わせよう。リィンたちが見出した第三の道を切り拓くためにも!」
──あ、あれ……? 私の気の所為かな……城の前にランディ兄にエリィちゃんにティオちゃんキーアちゃん。それにロイドくんと特務支援課が全員ではないけど集まってるように見えるんだけど……お……多すぎない? え? もしかしてリィンくんたちと一緒に煌魔城に挑むの? それはさすがに──「あたしたちも同じね」──は?
「アーヤか……空中都市で戦った時もかなり苦労させられたわね」
「向こうもあの時よりかなり成長してるって話だ。一筋縄じゃいかねぇだろうな」
「でも私たちだって成長してます……!」
「フッ、そうだね。ならば少しメンバーは足りないが、あの時の再現と行かせてもらおうか」
「今回もレーヴェが待ち構えてるだろうけど……もうそれくらいで足止めされる僕たちじゃない」
「ええ……! 先輩、待っていてください……!」
「今度もまた遊撃士として……何よりも友人としてアーヤに向き合ってみせる!」
──あっれー……? り、リベール組もいるー? なんでー? どうしてー? シェラザードさんにロリコンアガットにティータちゃんオリヴァルト殿下にヨシュアくんにクローゼちゃんにエステルちゃんまで……え、全部で31人もいるんですけど。戦闘要員じゃないキーアちゃんを除いても30人なんですけど。これどういうこと?
「アハハ! さすがに壮観だね!」
「ちょ、ちょっとカンパネルラ? 向こう人多すぎない?」
「そりゃあね。これだけの大舞台だし。明後日の開戦前の前夜祭として君の相克を最大限に盛り上げさせてもらうよ」
「ウフフ、そのためにマクバーンさんやレオンハルトさん。シャーリィさんにあなたが雇ったシグムントさんも全員配置させてもらいましたわ。まるで2年前を思い出しますわね」
「あ、あー……そういう……?」
ええ……そんなのもうラストダンジョンじゃん……ラストじゃないのに……その面子に加えてカンパネルラにマリアベルも中ボスで……もう結社の城じゃん……まだ第三相克なんですけど……私なんて中ボスも良いところなのにこんな頂上で待ち受けてるなんてほんとラスボスみたいで……少なくとも章ボス確定みたいじゃん……そもそもなんでたかが私1人の相克のためにこんなに人が……。
「それじゃボクたちも配置につくから頑張ってね」
「えっ」
「結果を愉しみにしていますわ。もっとも、貴女の元まで辿り着ければの話ですが」
「は?」
──そしてカンパネルラとマリアベルもいなくなって屋上には私とテスタ=ロッサだけが取り残される。
ってことは……。
「……我が起動者よ。最終的にはあの面々を全て待ち構えて相手にすることになろうが……準備は万全か?」
「……………………」
そう……テスタ=ロッサの言う通り、そういうことだ。
なので私はまたしても内心で叫ぶ。いや、むしろ誰にも聞こえないことを良いことに、息を一度吸ってから声にも出して──
「──閃の軌跡Ⅳプレイアブルキャラ多すぎ──────!!!」
──この世界じゃ私以外には理解できない言葉を、メタいツッコミを、全力で吐き出した。いや、ここに来てるだけでも30人って! しかもそれを私が最終的に1人で全部相手にするなんて出来るわけないだろー! ファルコムのバカやろー! 翼の女神のあほんだらー! うわああああああああああああん!!!
今回はここまで。次回はシリーズ恒例のアーヤ戦も含めて色々ありまして相克です。お楽しみに。
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