TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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大切な人を失う不幸

 ──どうもおおおおお!! 《緋》の起動者、アーヤ・サイードでええええええす!! 久し振りにハイになってます!! 昔勘違いで星杯騎士団の従騎士と戦った時よりもテンションが上がった!! オジサンからここ一番で使えって言われて渡された強化薬の新作《AS-DROP EX07》すごいよおおおお!! 私にもこんなに効くとかヤバい!! さすがは《破戒》のオジサン! これなら全員倒せるかもしんない!! 

 

 ……と思ったけど。

 

「我らに光よ……“ノブレスアーク”!」「走れ! “伐折羅の陣”!」「煌めけ……! ノワールクリスタル!」「元気出してこ! “プレジャースマイル”!」

 

 オーダーはパーティ4人毎に使ってくる上にどれもめちゃくちゃ強力だし……。

 

「プロミネンスロア!」「アイシクルメテオ!」「リアノーンキス!」「グラールセラス!」

 

 アーツ組はロストアーツもバンバン使ってくるし……。

 

「“バッファローレイジ”!」「“ウォークライ”!」「“雷神功”!」「“真・洸翼陣”!」「”エリアルハイド”!」「“デスティニーブルー”!」「“神気合一“!」

 

 物理強い組は自己強化クラフト使ってから向かってくるし……。

 だからまあわかってたけど──きっつうううううううううい!!! 何これ何これ!? なんで私1人で戦ってるんだっけ!? バカだから!? みんなが遠慮しないから!? いやそりゃマキナもいるし地味にポム次郎もいつの間にかシャイニングポムに進化して戦ってくれてるけどさ! それでも多い多いって! 幾らオジサンとっておきの薬で強化したからってキツイことには変わりない! 気づいたら斬られそうになる! 危ない! “分け身”! とりあえず常に“分け身”3体くらい出しながら戦わないと間に合わないんですけど!? 

 

「四の型……! “紅葉切り”!」

 

「っと! いやもうほんと皆強いなぁ! こんな強いのにみんなで寄ってたかって私のこと叩くなんて酷くない!?」

 

「先輩なら受け止めてくれると信じて鍛え上げました!」

 

「そうね……! レンも同じ気持ちよ!」

 

「アーヤ教官なら私たち全員の全力を受け止められますよね?」

 

「私への信頼どうなってるの!?」

 

 クローゼちゃんが放った八葉一刀流の技。鋭い剣速が特徴の紅葉切りを何とか右の刃で受け止め、同時にレンの大鎌も左の刃で受け止め、遠くから飛んできたミュゼちゃんの銃弾も肌で受け止めながら私はツッコミを入れる。

 

「いやいやおかしくない!? みんな私のことなんだと思ってるの!?」

 

「最強の教官です……!」

 

「刃が刺さんねーおかしな身体をした教官だろ!」

 

「結社の執行者でも上位の強さを持つアーヤ相手に油断できるはずがないわ!」

 

「伝説の暗殺者《切り裂き魔》……! 今日こそその凶刃を防がせてもらう!」

 

「そうね……! 相手は大陸最強の暗殺者……! 念の為常にキュリアは掛けておくわ!」

 

「わたくしにとってのライバルですわ!」

 

「全体的に過大評価がすごい!」

 

 リィンくんにアッシュくん。エステルちゃんにロイドくんにエリィちゃんとみんな色々言ってくるけど評価が高すぎてビビる。デュバリィちゃんのライバル発言が癒やしになるくらいだ。特務支援課は特に警戒しすぎじゃない? いやまあ前に戦った時の経験なんだろうけどさすがに今回はヤバい毒とかそういうのは使わないから……。

 

 ただ……手加減あんまするわけにはいかないしやるわけにもいかないってのがね。薬のせいもあって地味にやれることはやれそうなのが自分でもたちが悪い気がしないでもないんだよねぇ……。

 

「!? 消えた!?」

 

「アーヤの隠形……!」

 

 前衛に出てきてたラウラちゃんやヨシュアくんが驚くけどそんなに驚かなくても……いつも見せてるのを更に速くやってるだけなのに。

 

 ってことで私は後衛に回って奇襲をしかける。防げるかな? 防げない場合は直前で峰打ちに切り替えてもいいかもしれない。今の私の反応ならそれくらいは──

 

「そこ!」

 

「甘いですわよ!」

 

「見えています……!」

 

「……!」

 

 ──と、ほんとに防がれた。リィンくんにデュバリィちゃん。クルーガーちゃんやフィーちゃんにレンとか気配に敏感だったり私の手をよく知ってる人が中心になって私の暗殺術を防ぐ。

 

「やるなぁ……! そんなに見破れる人がいっぱいいると困っちゃうよ……!」

 

「授業で散々見せてくれたおかげ……!」

 

「アーヤに教えてもらったかくれんぼのやり方……! 忘れるわけないじゃない……!」

 

 しかも向こうからも隠れて奇襲してくる。フィーちゃんにレンも上手いなー。さっきから地味にサポートに回って私の手を潰してくるヨシュアくんとかもヤバいけどこの2人も今すぐに暗殺者になれるくらいヤバい。

 

 というかさっきから普通にめちゃくちゃ劣勢だしSクラフトも食らいまくって痛いしキツイ。集中砲火されてる。周りのサポートも手厚いしこっちにマキナとかポム次郎がいるとはいえさすがに多勢に無勢だ。相克の準備の方も整いそうだし、なんかいい感じのところでそれっぽく一段落ついた感じだして騎神戦に移行した方がいい。その後は流れで適当にね──ひいっ!? 危ない! もうみんな強いって! 成長したのはわかったから少しは手加減してー! うわーん! 

 

 

 

 

 

 ──アーヤ教官の手強さは分かっていたつもりだったが……それでもここまで凌ぎきられるとは思っていなかった。

 

 この数を相手にしてもやれるように強化薬とやらで身体能力をブーストしているアーヤ教官の本気。手段はある程度選んではいても、手加減は決してしていないだろう。こちらがどれだけ攻撃を与えても難なく受けきってしまうだけでなく、その隠形は当然健在。少しでも気を抜けば見失ってしまうし、その直後に鋭い不意打ちの一撃が飛んでくる。

 それもなんとか防いで反撃を行うが、アーヤ教官の暗殺術は鋭さを増すばかりだ。今も、俺の一閃に対し──

 

「斬れてない……!?」

 

「背後ががら空きだよ! “グリムシザー“!」

 

「っ、くっ……!」

 

 ──アーヤ教官は躱し、気付いた時には俺の背後に回っていた。そうしてその鋏で挟み切ろうとしてくるのを何とか太刀で振り向きざまに放って受け流す。

 ただその一連の攻防だけでも背筋が凍る思いだった。俺の太刀がアーヤ教官に当たったと思った瞬間、アーヤ教官は消えていた。

 斬撃が直撃したと誤認させるほどに神懸かり的な隠形と分け身の使い方。その動きには虚実が入り乱れている。気配を完璧に消せるということは気配をわざと出すことも出来るということだ。つまり、偽物を本物と完璧に誤認させるような分け身をアーヤ教官は生み出すことができる。

 

 今までに分け身の使い手は何度か見てきたが、それで言うとデュバリィさんの分け身は純粋に速く数も多く見切るのが難しい。レオンハルトさんは純粋に技術が高く使い方が上手い印象だ。

 そしてアーヤ教官の場合はどれが本物なのか偽物なのか判断がつかない。相手を幻惑させる“分け身”本来の使い方を極めていると言うべきか。その入れ替えも絶妙で、本体と戦っていたと思ったらそれが偽物で本物のアーヤ教官が「そっちは偽物だよ!」と言ってきたり、逆に偽物だと思っていたら本物だと思っていた遠くの分け身が「馬鹿め! それは本体だ!」と言って本物のアーヤ教官が「うわーん!」と吹っ飛んでいったりする。……後者のパターンは少し間抜けにも感じるが……ただそうならないと気付けないのがアーヤ教官の隠形と暗殺術の凄さだ。

 

 下手をすればその場で“分け身”だけが戦っていて本物は隠れて不意打ちをしてくるなどの戦法も取られる。だからこそ俺も含めて気配に敏感な者はその兆候を決して見逃さないように戦っていた。《観の眼》で全体を俯瞰して見続けるような対応が求められる。少しでも対処を誤ればアーヤ教官の鋭い一撃が誰かを斬り裂くかもしれない。ゆえに体力も気力もかなり消耗する。緊張感が続く戦いが繰り広げられていた。

 

「いやー! もうキツイキツイ! キツイから更に隠れさせてもらうよ!」

 

「!? これは……!」

 

「え、煙幕!?」

 

「それにしては少し色が……」

 

「砂塵だ! 気をつけろ!」

 

「またこの手かよ……!」

 

「あ、今回は毒ではないから安心してね!」

 

 不意にアーヤ教官は周囲に砂塵を漂わせてこちらの視界を奪ってくる。既に経験済みなのかロイドたちが注意を呼びかけてくれた。毒ではないと告げてくる辺り、普段ならこの砂塵自体に毒を含ませているのだろう。あまりにもえげつない戦術にゾッとする一瞬、それを使わないアーヤ教官の優しさにも感謝するしかない。いざとなったらそういう手段も取るということ自体に複雑な胸中にもなるも、それを慮っている余裕はなかった。何もない平地ですら姿を隠すことのできるアーヤ教官が砂塵で更に姿を隠せばどうなるか──それが分からない俺たちではない。

 

「アーツ駆動……!」

 

「風の導力魔法を……!」

 

 ARCUSⅡの戦術リンク機能で俺たちは言葉にせずとも息のあった連携を取ることができる。だからこそすぐさま後衛はアーツを発動しようとしたが、それよりも早くアーヤ教官が来た──新たな幻を伴って。

 

「これは……蜃気楼か!?」

 

「この熱さ……火の導力魔法を使ったのね……!」

 

「理解するの早っ! いやいいけどね! 分かってもだし!」

 

 レンが即座にその正体を看破する。砂塵で一度姿を消し、その上で奇襲を仕掛けるよりも先にアーヤ教官は蜃気楼を生み出してから襲いかかってきた。

 以前にも聞いた。アーヤ教官は大陸中東部出身で、砂漠での戦いが得意だと。その一端を見せつけるように、アーヤ教官は砂塵と蜃気楼でこちらを惑わしながら一瞬で肉薄し、切り刻んでくる。周囲から一斉に、そして切り刻んだ血の痕がまるで花のような形となる──

 

「“ザフラ・アル・サラーブ”!」

 

「っ……!」

 

「チッ……! 次から次へと……! これが伝説って言われる暗殺者の本気ってわけか……!」

 

「ええ……! その頃に使っていた戦技ですわね……! とはいえあの頃とは比べ物にならない鋭さですが……!」

 

 俺たちが初めて見るアーヤ教官のクラフト。本気の暗殺者としての技を受けて俺たちは僅かに崩される。致命傷は避けたしダメージを受けたものはすぐに回復したが、それでもやられたことに対する精神的なダメージまでは完全に回復しきれない。

 毒の方も全く使わないわけではなく軽めの毒は使ってくる。そういった凶悪な技の数々は通常なら恐怖すら覚えるものだろう。

 

 ──だが俺たちはアーヤ教官に恐怖しない。それを証明するように、俺たちは一斉に合わせた。

 

「“ノワールシェイド”!」

 

「! びっくりした……! アルティナちゃんにクーちゃんじゃん……! だから防がれたんだね!」

 

「はい、ここは通しません……!」

 

 アーヤ教官が後衛を狙って再び姿を消して奇襲を仕掛けてきた──が、それを同じく消えていたアルティナが防ぐ。クラス=ソラスのステルスとガード。ここまで敢えて温存していたそれで一瞬、アーヤ教官の隙をもう少し大きくした。そこで。

 

「おらよっ!」

 

「のわっ!? ちょ、アッシュくん! 右手をぐるぐる巻きにするのやめてくんない!? 痛いんですけどー!」

 

「確かに鎖は巻き付いてるが刃は刺さってねぇじゃねぇか! 別に刺すつもりもねぇが、少しは大人しくしとけや!」

 

 今度はアッシュがその一点の隙を見逃さずにその得物であるヴァリアブルアクスの特殊機構を用い、鎖鎌をアーヤ教官の右腕に巻き付ける。それを解除しようとアーヤ教官は右腕に力を込めて力比べを行う。アッシュもパワーがある方だが、かなりキツそうに踏ん張っている辺り薬で強化したアーヤ教官と張り合うのは厳しいだろう。おそらく持って数秒か。

 

「こうなったら……!」

 

「──させませんよ」

 

「あっ!? 私のとっておきの無味無臭で空気中に漂って少しでも肌に触れたら全裸になって踊りだしたくなってたまらなくなる毒が!」

 

「なんてものを使う気ですか。毒の内容はともかく、その手はお見通しですよ……!」

 

「割れないように回収しておきます……!」

 

 左手で懐から取り出した何かの毒薬をミュゼが導力銃で狙撃し、手から溢れ落とさせる。そしてシャロンさんが糸を用いてそれを回収した。毒の内容は意味不明かつ恐ろしいものだったが……二重の意味で使われないで良かった。そして更に隙が出来た。

 

「はああああっ!!」

 

「せいっ!!」

 

「っ、ユウナちゃんにクルトくんも容赦ないなぁ……! こっち右腕が封じられてるんですけど!」

 

「だからこそチャンスですよね!」

 

「僕たちの刃も受け取ってもらいます!」

 

 そうして出来た隙にユウナとクルトが肉薄していく。アーヤ教官は両手に持っていた魔鋏《ゾルフシャマール》を一度空間に戻した後、左手でもう一度掴み直すことでその攻撃に対処した。2人の全身全霊の息のあった連撃がアーヤ教官を苦しませる。それだけで倒せはしないが──ここまでアーヤ教官の動きを止めただけでも十分だ。

 

「ああっ! 本体が危ない!」

 

「助けなきゃ! ──うわっ!?」

 

「分け身の対処はこっちで受け持つ……!」

 

「だから決めて! リィン君たち!」

 

 二体の分け身をロイドたち特務支援課とエステルたちリベール組が対処する。

 

「残った分け身と人形にポムも僕たちが!」

 

「うん……! 通さない……!」

 

 そして更に残った分け身とエクス=マキナ。そしてあのポム次郎というシャイニングポムも旧Ⅶ組の面々が受け持った。

 ゆえにアーヤ教官本体を助けに入れる存在は他にはいない。

 

「今ですわよシュバルツァー!」

 

「隙が出来ました……!」

 

「ここで決めましょう!」

 

「リィン!」

 

「ええ……! 一斉攻撃!」

 

「5人でバースト!? そんなの反則──うわああああ!?」

 

 俺たちは一斉に攻撃を行う。デュバリィさん。クローディア殿下。レン。サラ教官。そして俺の5人で戦術リンク機能を最大限に活かしたバースト攻撃──全員で一斉に得物をアーヤ教官に振り放った。なぜか5人という部分に驚いているが、それくらいは当然だろう。戦術リンク機能を活かすならこの程度は部隊の上限に入らない。

 ゆえに俺たちの攻撃は通用した。攻撃がクリーンヒットしたアーヤ教官は吹き飛び、地面をゴロゴロと転がっていく。

 そのやられ様は自分達でやっておきながら少し酷く感じないでもないが、アーヤ教官を信頼して全力でやらせてもらった。並の相手なら致命傷になる一撃でもアーヤ教官なら問題としない。薬で更に強化されてるのも相まって。

 

「やった……!」

 

「いえ……まだよ!」

 

「一本は取れたけど……! あんたはこの程度じゃ倒れないわよね……!」

 

「だから信頼されすぎだって! いてて……普通なら死んでもおかしくないのにほんと容赦ないなぁ」

 

 ダウンを取りながらも立ち上がったアーヤ教官に俺たちは警戒を緩めない。アーヤ教官を本気で倒すなら今のを何度も食らわせる必要があるだろう。もう戦えないところまで追い込むだけでも難しい。

 だが制するという条件であれば何とかなる。そして次はそこまで持っていくつもりだったが──

 

「でもようやく苦しい時間も終わりかな。準備できたみたいだし」

 

「! 広間が……!」

 

「相克の準備が整いました!」

 

「来たか……! 行くぞ、リィン!」

 

「ああ!」

 

 ──その時。煌魔城全体の霊力が高まり、可視化できるほどに勢いづく。それはこの場での闘争を以て相克の準備が整ったという証だ。

 エマからのはっきりとした言葉も受けて、俺はクロウと共に騎神を呼び出す。

 

「来い──ヴァリマール!」

 

「来な──オルディーネ!」

 

《灰》と《蒼》。俺とクロウのそれぞれの騎神が広間へと転移してやってくる。

 第一相克でクロウと蒼を眷属とし、第二相克で《猟兵王》の《紫》も乗り越えた。

 ゆえに状況はこちらの圧倒的優位のはず。それなのに──

 

「おお……こうして改めて対峙してみると壮観だなぁ」

 

『──だが勝てない相手ではなかろう』

 

「あー……そうだね。それじゃ行こっか、テスタ=ロッサ」

 

『了解した……!』

 

 ──アーヤ教官もまた背後に控えていた《緋の騎神》テスタ=ロッサへと乗り込む。

 膝を突いていた体勢から立ち上がり、それと同時に空間からアーヤ教官の《ゾルフシャマール》にも似た騎神サイズの巨大な鋏をテスタ=ロッサが掴んだ。

 

「千の武器を持つ魔神……!」

 

「前に見た時から思っちゃいたが……!」

 

「かなり強い力を感じるよ……! 気をつけて、リィンたち!」

 

「こっちもサポートするわ! だから……何とか勝ってちょうだい!」

 

「負けたら承知しませんわよ……!」

 

「お願いします……! アーヤ先輩に私たちの想いを……!」

 

「ええ……! 任せてください……!」

 

 感じる力の大きさに驚くセリーヌにアッシュ。キーアからも注意され、レンやデュバリィさん、クローディア殿下からも言葉と共に想いを受け取り、俺とクロウも得物を構えた。

 そうしてアーヤ教官とテスタ=ロッサと対峙する。

 

「そういえば騎神で本気で2人と戦ったことはなかったっけ」

 

「ああ……もっとも、その《緋》とは因縁もあるけどな」

 

「授業でも何度かやらせてもらいましたが……全力で行かせてもらいます……!」

 

「その方がいいよ。私は普通の戦闘よりこっちの方が自信あるからね」

 

「それでも……何としても乗り越えさせてもらいます!」

 

「期待はしてるよ。それじゃ第三相克開始かな──」

 

「!?」

 

 そして遂にアーヤ教官と《緋》を相手にする第三相克が始まった。

 

 ──が、その瞬間にアーヤ教官は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「“グリムシザー”!」

 

「っ……! やはり……!」

 

「ああ……騎神でこの動き……! アーヤの暗殺術も当然同じって訳か……!」

 

「まあ前にも見せたし予想はしてるよねー。でも私とテスタ=ロッサの力はこんなものじゃないよ! だから諦めるなら早めにね?」

 

 そう──起動者としての腕前も俺たちと互角以上。その上で《緋》の力は《灰》と《蒼》の力を大きく上回っていた。

 その上で更に奥の手を隠し持っている。こうして対峙してそれを強く感じられた。

 

 そしてそれが恐らく、結社がオズボーン宰相の《黒》とアーヤ教官の《緋》をぶつけることを本命とする最大の理由なのだろう。

 騎神同士の戦いが本格的に始まる中、俺とクロウはそれを本能的に理解した。見ているみんなも同じだろう。戦いは明らかにアーヤ教官と《緋》の方が優勢だからだ。

 

 ──だがそれでも。

 

「“螺旋撃”!」

 

「っ!?」

 

「今だ! “無想覇斬”!!」

 

「いっ……この! やったな……! ならこっちもとっておきで……!」

 

 アーヤ教官の《緋》の騎神の体勢を崩し、追撃を加える。それを受けてアーヤ教官もまた次の攻撃の構えを取ったが、それが放たれる前に動いたのはクロウだった。

 

「やらせるかよ……! “カオスセイバー”!」

 

「あっ! ちょっと! 次はこっちの番だったでしょ! 空気読めー!」

 

「んなの知るかよ……! こっちは余裕ないもんでな!」

 

 その攻撃を止めるようにクロウの《蒼》の攻撃がアーヤ教官の《緋》に直撃し、大技を止めることに成功する。俺とクロウの連携によって何とか戦えてはいた。

 それでも少しでも油断すれば一気にひっくり返されかねない気配は感じているが。これは《観の眼》で感じた予感だが、おそらくアーヤ教官の《緋》の騎神の見せる構え。それに対して有効的な崩しを成立させない場合、下手したら即死──間違えたら一撃で大破させられそうな気配を感じる。

 そもそも最初の一撃もかなり危なかった。騎神に乗っていてもアーヤ教官の戦闘スタイルは殆ど変わっていない。少しでも間違えれば切り裂かれてしまう。

 ゆえにこちらが出来ることはクロウと連携し、絶えず最適解を選び続け、一方的に押し続けるしかない。

 

 無論、それでもアーヤ教官と《緋》の攻撃を全て防げるわけではないが。

 

「そこだ! 見えたよ隙!」

 

「っ……!」

 

「なんつー速さだ……!」

 

「ふふん! 私と私のテスタ=ロッサが最強なんだから! この程度じゃ物足りないね!」

 

「……確かに強い……が、まだ戦える!」

 

「さすがリィンくん! 《灰色の騎士》って呼ばれるだけはあるね! ならもっと付き合ってもらうよ!」

 

 ──それでも一撃で持っていかれるような事態は防ぐことができる。

 鋏を2つの刃に分離させ、双剣のように振るったアーヤ教官の刃に俺とクロウは対応する。一撃でやられなければ回復もできる。仲間のサポートも受け取れる。

 元より粘り続けるつもりだった。勝利を勝ち取るまで、この身体が完全に動かなくなるまで諦めるつもりはない。

 

 しかしアーヤ教官も全く動きが緩まない。アーヤ教官と同じで《緋》も頑丈なのか、その体力は無尽蔵に思えた。

 更に意外すぎる手も持っていて。

 

「うーん、さすがに粘るなぁ……! だったらこういうのはどうかな!?」

 

「なっ……!? これは……!」

 

「おいおい嘘だろ……! なんで騎神の身で“分け身”なんか使えんだ……!?」

 

「分け身じゃなくて影だけどね! これもテスタ=ロッサの能力だよ! 一体しか出せないけどね! でも防ぎきれるかな!?」

 

「っ……! それでも……防ぎきってみせる!」

 

 突如、アーヤ教官の《緋》の騎神が増えたことに俺たちは驚愕を隠せなかった。もっとも、見分けがつかないようなものではなく確かに薄い影のようなものだが、それでも攻撃の鋭さは本物と殆ど遜色がない。数の上で勝っていた利をこれで覆される。俺とクロウは更に対処に悩まされたが──

 

「おらよ、リィン! 今だ!」

 

「ああ……! “閃光斬”!」

 

「ああっ!? 針と糸が!」

 

 なおも連携力で押し通すだけだ。アーヤ教官の放った針と糸をクロウが飛翔力を活かした高速軌道で巻き取って防いでる間に、こちらが刃を振るって崩す。

 

「“連ノ太刀”……“箒星”!!」

 

 そうして最大の奥義を放って《緋》の騎神に大ダメージを与えた。

 

 しかしそれでも。

 

「うぐぐ……効かん効かーん! この程度じゃ私のテスタ=ロッサはびくともしないよ!」

 

「チッ、起動者に似てタフな機体だな……!」

 

「これもアーヤ教官の力の影響なんですか……!?」

 

「そこは私にもよく分からない! だけどタフって言うならリィンくんたちもだね! 機体性能は圧倒的なのによく耐えてるじゃん! 教官としても同僚としても鼻が高いよ!」

 

 アーヤ教官の《緋》は未だ健在。倒れる気配は全くない。クロウが悪態をつくのも無理ないだろう。性能面に圧倒的に開きがある上に起動者がアーヤ教官であることがこれほどに厄介だとは。予想はしていたものの想定以上だった。

 だがだからこそ向こうも想定以上に粘る俺たちに感心したのだろう。アーヤ教官は少し距離を取って一度得物をしまってみせた。その様子に訝しむも一瞬──

 

「だけどあんまり時間かけてもしょうがないからさ。──そろそろ本気でやるよ」

 

「!?」

 

 ──アーヤ教官の少し低い声色と共に、《緋》の力が跳ね上がった。

 

 霊力が集まり、煌魔城を、大気を震わせる。

 その高まっていく力に吹き飛ばされないように足に力を込め、驚くみんな。

 そしてその反応。気配に俺たちⅦ組は覚えがあった。2年前の内戦で。それこそクロウと一緒に。

 

「2年前の内戦でも見た……!」

 

「──《紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァーミリオン)》!!」

 

「一体どうやって……! その力は消えたんじゃないのか!?」

 

「おそらくアーヤ教官の力が何らかの影響を与えたんだろう……!」

 

「おそらくそうだと思います! そうでないと考えられません!」

 

「理由はともかく……これで2年前の再現って訳かよ……!」

 

「まさかこれも見越していたんですか!?」

 

「いやいや、それはないよ。あの時は起動者になるなんて全然思ってなかったし。ただクロウくんを救えなくて申し訳ないとは思ったけど」

 

「……!」

 

「それも予め分かっていて……」

 

 2年前に帝都に現れた煌魔城。その最上層で今のように対峙した《紅き終焉の魔王》。

《緋》の騎神がそれに変貌──いや、その力を解放し、姿を変えたことに目を見開く。おそらくアーヤ教官の力の影響だとガイウスやエマが言うが、確かにその力は既に無くなったはず。未だ力が残っている理由はそれくらいしか思いつかなかった。

 

 奇しくも2年前の再現だが、アーヤ教官はそれを見越していたわけではないらしい。それでもクロウのことは予見していたという発言は気になるも、それも先程と同じで未来視とかそういう類のものではないと理解しているため必要以上に驚く必要はない。

 

 それよりも問題は──その《紅き終焉の魔王》と戦わなければいけないこと。

 それもアーヤ教官が起動者として乗り込んでいるという、明らかに2年前よりも手強くなった状態で。

 

「さて、それじゃ終わらせよっか。テスタ=ロッサの《紅き終焉の魔王》形態! 名付けて《紅蓮の魔王》テスタ=ロッサでね!」

 

『ああ──やるとしよう』

 

「……! 来るぞ!」

 

「これは俺たちも見ているだけではいられないな……!」

 

「ええ……! 微力だけど助太刀するわ!」

 

 その力の大きさにロイドやエステルたちも助力しようと得物を構える。

 だがそれでもなお勝機は限りなく薄いだろう。俺たちがこれまで以上に全力で耐え凌がなければ。

 

「行くよ! これが私とテスタ=ロッサの操る《紅蓮の魔王》の力!」

 

「……!」

 

 ──そうして第2ラウンドが始まる。俺たちが最大限に警戒する中、アーヤ教官と奥の手を解放したテスタ=ロッサはその力を最大限に発揮し……。

 

「これが……魔槍セージだー!

 

「な……なんだそれは!?」

 

 ──見覚えのあるソーセージを生み出した。その意味不明な創造にロイドたちがツッコむ。そうなるのも当然だろう……俺たち旧Ⅶ組の面々は覚えがあったので絶句していたが、初見であれが出てくるとは読めない。2度目でも読めないが。

 

「な、なんなのよあの紅蓮の魔王って! なんかすっごい大きいソーセージを取り出したんですけど!?」

 

「いや……あれはソーセージに似ているだけでソーセージではない」

 

「そうなの!?」

 

「どう見てもソーセージにしか見えませんが……」

 

「形や色艶、質感もソーセージね……」

 

「いえ、あれはれっきとした魔槍です……! 油断しないでくださいリィンさん、クロウさん!」

 

「ああ、わかってる!」

 

「アーヤのノリにも慣れてきたからな……! 見た目はそうでも効果は凶悪──」

 

 そう。俺たちは決して油断はしない。アーヤ教官の駆るテスタ=ロッサの能力。生み出される武器はふざけているようにも見えて強大な力が──

 

「もぐもぐ……え?」

 

「──って、食べてるじゃないか!!」

 

「騎神って食事取れるんですね……」

 

『初めて摂ったが……ふむ、意外と美味であるな』

 

 ──なんかテスタ=ロッサがソーセージを食べていた。いや、魔槍セージか。もはやどっちでも良い気がするが……俺たちはその光景に更に驚愕してしまう。そしてその隙にアーヤ教官は動いていた。

 

「かじりかけのソーセージを舐めるなー!」

 

「ぐおっ!?」

 

「そのまま殴ってきた……!?」

 

 その半分削れた魔槍セージに殴られ、俺とクロウは押されてしまう。意外にも硬い。そして《紅き終焉の魔王》の力を解放した新たなテスタ=ロッサのパワーは桁違いだった。

 だからこそやはり油断はできないと自分を戒める。

 

「武器を生み出す能力が更に強化されてんのか……!?」

 

「とにかく凌いで勝機を見出すしかない……!」

 

「おう……!」

 

「私も食べてみたかった……」

 

『……後で食べるといいだろう。それよりも来るぞ……!』

 

「それもそうだね。なら次はこれに決めた!」

 

「今度はちゃんとした武器が……」

 

 ──魔鉄フライパーン

 

「武器じゃないっ!」

 

「どう見てもフライパンじゃない!」

 

「意味不明です……」

 

 ──そして油断しないと気を引き締めたのも束の間。今度は特大のフライパンを取り出してきたため、クルトやユウナ、アルティナや多くの人がツッコミを入れる。入れざるを得なかった。入れた人物が多すぎて何を言ったのか聞こえないくらいには。

 

「くっ……だがあれを使って何を……!?」

 

『~♪』

 

「えっ!?」

 

「何この旋律……!?」

 

「急にどこからともなく聞こえて……!?」

 

『……………………』

 

「そしてテスタ=ロッサが無言でフライパンを見つめてるぞ!」

 

「一体何が──」

 

『~クッキング鉄血パパ~ 子供たちの休日編』

 

「なんか変なの始まったー!?」

 

「あのタイトルロゴはどういった原理で現れてるんでしょうか……」

 

『──フフ……子供たちよ。今日の食事は私が作ろうではないか』

 

『わーい』

 

「ポムポム~!」

 

「キー!」

 

「そして変なコスプレで変な寸劇が始まった!」

 

 ──言う通りだった。何か突然変なタイトルロゴが空中に現れ、ギリアス・オズボーンっぽいカツラを付けたテスタ=ロッサが、クレア少佐っぽい格好をしたマキナとミリアムっぽいカツラのポム次郎とレクターさんっぽい色になったイヌワシのジオンが集まってきている。

 そして地味にルーファスさんっぽい人形(ルーファスさんの似顔絵を貼り付けただけ)も置かれていたが──

 

「よーし! それじゃ腕に寄りを掛けて作っちゃうよ! 今日は一体何を作るのかな?」

 

『決まっていよう──ルーファスよ。貴様を料理してくれる!』

 

「え!?」

 

 そして人形をフライパンの上に乗せたかと思えば、それを熱し始め、俺たちの方に向けた。特大のフライパンは騎神すらも巻き込むほどに大きく俺たちもそのフライパンの上に気づけば乗せられていて──

 

「炒飯炒飯炒飯!!」

 

「ぐああっ!?」

 

「熱っ!?」

 

「いや、どういう技!?」

 

 ──気づけば俺たちは炒められていた。熱と油。そしてヴァリマールとオルディーネがフライパンの中で踊らされ、ぶつかりあってダメージを受けてしまう。

 

『──これが相克だ。子供たちよ』

 

「いや違うだろ!」

 

「料理するんじゃなかったの!?」

 

「──なるほど。《千の武器を持つ魔神》……武器を生み出す力だったのがアーヤの力で武器に留まらなくなったのかもしれないね」

 

「それなら納得ですね……」

 

「いやできないけど!?」

 

 ──そしてそれに対してヨシュアが冷静に説明し、クローディア殿下も納得していた。もっともそれに殆どの者は納得していなかったが……それでもアーヤ教官のやることなら納得するしかない。あのテスタ=ロッサもまたアーヤ教官の影響で凄まじいまでの機体性能となっているのだ。

 

「チッ……このペースに巻き込まれるとやべぇ……! ──リィン! 今度はこっちから仕掛けるぞ!」

 

「ああ……!」

 

「私たちも加勢に……!」

 

「うわー!? いっぱい来たー!? どうしようテスタ=ロッサ!?」

 

『次はこれなどどうだ?』

 

「どんな武器だろうと攻め手を緩めるな! それで動きを止めたら相手の思う壺──」

 

 ──魔扇ハ・リセン

 

「なんか絶妙に弱そうな武器が出てきたけど!?」

 

「あれは大陸東方に伝わるハ・リセン……! あれで叩かれると場所や時間を問わずに何処かへ落とされるという伝承が……!」

 

「そうなのかエマ君!?」

 

「思ったよりも怖い効果だった!」

 

 ──そして今度もまた紙を束ねたような謎の武器が出てきたため、俺たちは困惑してしまう。だが今度は怯まずに攻撃を行った。俺とクロウだけじゃない。新旧Ⅶ組。ロイドたちエステルたちも一緒になってテスタ=ロッサへと攻撃を開始する。

 

「痛っ、痛っ……! 地味にチクチクやられてる!」

 

「よし! 効いてるぞ!」

 

「全員で削っていけばあるいは……!」

 

「ああ……! 勝機はある……!」

 

 互いを補い合いながらテスタ=ロッサを攻め立てる。あくまでメインは俺とクロウ。ヴァリマールとオルディーネだが、騎神以外の攻撃も相手を動きづらくするのに効果的だった。

 そうしてテスタ=ロッサが崩れ、出来た隙に俺とクロウが大技を叩き込もうとする──が、そこでテスタ=ロッサはまたしても予想外な動きを行った。それは……。

 

『さあ飛翔能力が高く激しい攻撃を加えてくるのはこの騎神ー!』

 

「え?」

 

 ──笑いのニューウェーブ オルディーネ

 

「またなんか変なのが始まった!?」

 

「って、こっちかよ!? そんな変な異名付けられる覚えはねぇぞ!?」

 

『どういう意味だ……?』

 

 今度はまたしても意味不明な紹介が挟まった。しかも相手じゃなくてこちら側の、クロウの駆るオルディーネにふざけすぎてる称号が付けられ、スポットライトが当てられる。オルディーネも困惑していた。

 

「って、なんでやねーん!!」

 

『ぐっ……!?』

 

「殴られた!? 理不尽ですわ!」

 

 そしてテスタ=ロッサの持つハ・リセンでオルディーネは殴られる。いや、それどころかヴァリマールやサポートを行うみんなにも向かってその謎の武器が振るわれるが、確かにその効果は恐ろしいものだった。

 

「頭がくらくらする……」

 

「気をしっかり持て……! 今薬を……!」

 

「なんでやねん! 何してんねん! どないやっちゅーねん! んなアホなー!」

 

「ぐわああっ!?」

 

「う……」

 

「これは……! 喰らうと一定時間絶対に気絶するのか……!?」

 

「んな訳あるかー! どないやっちゅーねん! どないやっちゅーねん!」

 

「クソっ……! 騎神まで動きが阻害されちまう……!」

 

「あんなフザケた攻撃なのに……!」

 

 魔扇ハ・リセンで叩かれることで()()()()()()()()()()。大陸辺境の方言を口にしながらハ・リセンを何度もぶっ叩いてコンボを繋げているアーヤ教官のテスタ=ロッサ。そのハメとも言える連続の攻撃に俺たちは再び防戦一方になる。

 

「崩せた! これでおしまいにするよ!」

 

「っ……マズい……!」

 

 そして崩れた俺たちにアーヤ教官は再び得物を鋏へと変えて大技を放ってきた。テスタ=ロッサが多くの武器を発射し、それと共に距離を詰めて切り裂いてくる。その巨大な鋏が更に巨大化し、俺たちをまとめて挟み込むように。

 

「“ハザールアフサーナ”!!」

 

「ぐ……!」

 

 大技を食らい、衝撃が俺たちにも伝わってきた。──しかしそれでもなんとか大破を免れる。ギリギリのところで直撃は避けた。

 だがそれでも機体の損傷は無視できない。みんなもかなりのダメージを負っていた。

 

「まさかこんなに強いなんて……!」

 

「結社が《黒》にぶつけるための駒として用意されただけはありますね……」

 

「それだけの力を持っているということか……」

 

「全員で戦っても押されるなんて……!」

 

「なんとかなんねぇのか……!」

 

 新Ⅶ組の面々も肩で息をしている。今はまだなんとか立っているが、これが続けば先に倒れるのはこちらになってしまう。

 だがミュゼの言うように《緋》の力はクロウのオルディーネや猟兵王のゼクトールと隔絶していた。それこそ聖女のアルグレオンやルーファス総督のエル=プラドーすらも恐らく超えている。

《黒》のイシュメルガにも対抗しうる騎神。アーヤ教官が自信を持って臨むのも頷ける強さだった。確かにこれならあるいは、他の6騎の力を手に入れればアーヤ教官とテスタ=ロッサがイシュメルガを倒してくれるかもしれない。

 

 ……だが、結果的にそうなるとしても……それでも諦めるわけにはいかない。

 俺たちがみんなで選択した第三の道。それを叶えるためにも。アーヤ教官に俺たちの想いを理解してもらうためにも。

 

「クロウ……!」

 

「ああ……わかってるぜ、リィン……!」

 

 俺はクロウに声を掛け、第三相克最後の攻防に臨む──強すぎるアーヤ教官とテスタ=ロッサだが、無敵ではない。勝機はある。

 そしてその弱点を突くためにも俺たちは全力でテスタ=ロッサに特攻することにした。

 

 

 

 

 

 ──うおおおっ!? 奥の手初めて使ったけどテスタ=ロッサすごい! めっちゃ強い! 機体性能が頭おかしいくらいに上がったし自由度も高い! パワーもスピードも桁違いだ! テスタ=ロッサ最強! テスタ=ロッサ最強! これならヴァリマールとオルディーネも倒せるぞ! なんかイシュメルガも頑張ればいけるような気がしてこないでもない! なにせこっちは魔王の力を持ってるもんね! 

 

 ……とまあテンションは上がってるけどそれでも感慨深いというか、ちょっとシリアスな気分にもなる。あのリィンくんたちをここで倒しちゃうんだもんなぁ……みんな頑張ってるし、必死だ。何がなんでもこの戦いに勝利すると、そんな意思が顔から見える。

 

 だけどそれを無情にも私とテスタ=ロッサは叩き潰すのだ。……いやまあ別に殺すわけじゃないし勝ったら勝ったで協力してもらうだけではあるんだけどね。なのでそこまで深刻じゃないとはいえ……それでも主人公たち。英雄たちを倒してしまうことは色々と複雑ではある。

 

 それになんだかんだ関係値も深めちゃったからね。だから倒すのは忍びない。みんながどれだけこの戦いに懸けてるかわかるから。

 でも結局強い方が挑んだ方がいいし、私がやった方がみんなにも負担はかからない。だからこそ手は抜かないし、ここでヴァリマールとオルディーネを倒す。そうして3体の騎神の力を手に入れるのだ。そうすればルーファスも倒せるしリアンヌ様も多分救える。

 

「かなり粘ったけど……そろそろ終わりかな?」

 

「まだです……!」

 

「おうよ……! まだ動けるぜ……!」

 

 武器を生み出しながらヴァリマールとオルディーネを攻め立てるも中々倒れてくれないから焦れったくなる。粘らせるのも可哀想だから早めに倒したい。

 

 ──だから私は更に奥の手を使った。《紅蓮の魔王》化したテスタ=ロッサに生えてる2本の尻尾。それを地面に突き刺して、地中からヴァリマールとオルディーネを捕まえる。

 

「なっ……!?」

 

「これは……2年前にも見た……!」

 

「あの時とは別の結果になっちゃいそうだけどね。──さて、それじゃ決めるよ。後は私に任せてね」

 

 尻尾でヴァリマールとオルディーネを動けなくしてからこの魔鋏サーシェスで切り裂く。それでこの第三相克は終わりだ。

 思ったよりも楽勝だったなと思う一瞬。思ったよりも粘られたなと思う一瞬。そんな心情の中で私は遂にテスタ=ロッサを動かして──

 

「これで決着──」

 

「──とはいかねぇなぁ」

 

「…………へ?」

 

 ──唐突に。全く意識してなかったところから聞き覚えのある……しかしありえない声を聞いて私の思考は真っ白になる。

 私のテスタ=ロッサがヴァリマールとオルディーネとの距離を詰めようとしたその瞬間、どこからか転移してきたそれが頭上から得物を振り下ろしてきたからだ。い、いや……え? ど、どういうこと? は? うん? 見間違えじゃなければ……こ、これって……。

 

 私は思わずフィーちゃんの方を見る。他の面々と同じでかなりキツそうにしているフィーちゃんだが、そこでふっと薄く笑みを浮かべていた。そしてその口元が動き──

 

「良いタイミングだね──()()

 

「──おう。フィーにシュバルツァー。アームブラストに他の連中もよくここまで耐えたな。おかげでお前らの言う通り、勝機が出来たぜ……!!」

 

 ──そう。突然私に向かって不意打ちを仕掛けてきた相手は紫の騎神ゼクトールとそれを駆る《猟兵王》ルトガー・クラウゼルだった。

 

 なので私は驚く。ゼクトールに尻尾を断ち切られながらも、驚きすぎて対応が遅れ、つい叫んでしまう。

 

「ええええええ!!? なんで!? 嘘!? 生きてたの!?」

 

「ハッ……やっぱりな。嬢ちゃんたちの言う通りだぜ」

 

「ええ……! アーヤの弱点……それは突発的なアクシデントや不意打ちに弱いこと」

 

「対応力が高いように見えて初見の攻撃や出来事に対しては後手に回るのが貴女でしたからね……! そこを突かせてもらいますわ……!」

 

「その驚きようから察するにどうやらルトガー様の言葉通り、あなたはルトガー様が死ぬものだと見切っていたようですね……!」

 

「アーヤの言葉もあって団長はもう少しだけ足掻くのも悪くないって言ってくれた……! 潔く戦場で死ぬだけが猟兵じゃない。泥臭く粘るのも猟兵だって……! 私たちやアーヤのために……!」

 

「おいおい、フィー。恥ずかしいからあんま言うなっての。──だけどまあそういうことだ。お前さんにはまだ借りを返せてなかったからな。ここで返させてもらうぜ……!」

 

「っ……!」

 

 いや、ちょっ! レンもデュバリィちゃんもクルーガーちゃんもなんか私の弱点やらこの作戦の種明かしとかしてるけど聞いてる余裕ない! フィーちゃんとルトガーさんの会話も! ゼクトールが襲いかかってきてる! 対応しないと! 全力で! 手加減してる余裕ない! ──あ、でもなんとか間に合いそう! でもこれって──

 

「捨て身の攻撃……!?」

 

「っと……ハハ。さすがにこれじゃ倒せねぇか。──とはいえ作戦通りだな」

 

「行くぜ、リィン!」

 

「ああ!」

 

「!? まずっ……!」

 

 私は咄嗟にゼクトールに攻撃して一撃で大破まで持ち込むも、ゼクトールの方もそのルトガーさんらしい特徴的な武器で爆破して私とテスタ=ロッサに強い衝撃を与えてきた。動けない。ほんの少しだけど、もう一度武器を生み出して対応するのに時間がかかる。

 その隙にリィンくんとクロウくんが動いていた。ヴァリマールとオルディーネが、それぞれの得物で交差するように私に肉薄して──

 

「「“連ノ太刀”!! “蒼覇十文字斬り”!!!」」

 

「……!!」

 

 ──テスタ=ロッサを切り裂いた。

 

 その一撃は鋭く重い。《紅蓮の魔王》と化したテスタ=ロッサの装甲を破り、身動きが取れない──大破状態に陥るほどに。

 

 もっとも直撃しなければ。少しでも防御行動を取れれば別だったけど……それは言っても仕方ない。

 確かなことは……これで第三相克は終了ってことだ。

 

「あはは……参ったなぁ」

 

 さすがにゼクトール……いや、ルトガーさんの生存は考えてなかった。てっきり死んでるものだと思ってた。

 だけど生きてたんだ。誰かに聞けば良かったかな。それがなければ普通に勝ってたかも。

 

「でもま……仕方ないか」

 

 それでも勝ったのはリィンくんたち。

 

「私たちの負けだね」

 

『うむ……致し方あるまい』

 

 私はテスタ=ロッサと共に負けを認める。悔しくもありどこか清々しくも思いながら。

 

「やった……!」

 

「本当に倒すなんて……!」

 

「なんとかなりましたね……」

 

 みんなも嬉しそうだ。うんうん、良いことだね。私も鼻が高い。

 特にリィンくんとクロウくんは手強かったし、新Ⅶ組もかなり成長してた。旧Ⅶ組や特務支援課にリベール組も。

 

「アーヤ教官……」

 

「これで私とテスタ=ロッサも眷属化かな? ──ま、それはそれでオールオッケーだけどねー」

 

「……はい。ここからは味方として力を貸してもらいます」

 

「先輩……」

 

「アーヤ……」

 

「それはもちろん。──クローゼちゃんも態々手間かけさせちゃってごめんね? そしてみんなもありがと。レンも……まあなんだろう。そんなに一緒にいたいなら()()()()()()。こんな現役暗殺者の私でもいいならね」

 

「……! ええ、それでもいいわ……一緒にいられればなんだって……」

 

「ふふ……良かったわね、レン」

 

「これで僕たちもお役御免かな」

 

「雨降って地固まる、か」

 

「ああ……ようやく解決したみたいだ」

 

 あーあー、そんな泣いちゃって。ほんと仕方ないなぁ。エステルちゃんやヨシュアくん。ランディ兄やロイドくんも含めてみんな温かい目をしてるしこっちとしてもちょっと恥ずかしいんだけど。

 でも仕方ない。そこまで言うなら私も折れるしかない。まさかではあるけど私としてもレンは妹みたいに思ってたし、ブライト家よりもこっちがいいって他ならぬレンが言うならそれを尊重してあげるしかない。

 

 はぁ……やっぱ泣いてる子供って苦手だなぁ。なんだかんだ放っておけないし。

 レンを見て柄にもなくちょっとだけ感傷に浸る。やっぱり子供は笑ってる方がいい。()()()()()──

 

「──どうやら決着はついたようですね」

 

「──ああ。それもまさか君たちも同じ倒し方を企んでいたとはね」

 

「!」

 

「……え……?」

 

 ──そこで私は、反射的に1つの攻撃を防いだ。

 

 目の前に現れた魔煌騎兵。確かセドリック殿下の専用の機体であるそれが、いつも以上に黒い瘴気に呑まれているのを見て私は驚きながらも心配になる。多分呪いなんだろうけどかなり禍々しいし危ないんじゃない? また衰弱死しそうになってもいけないし、私が叩いてあげないと。殿下も子供だし、ちゃんと助けてあげよう。

 

 ──と、そう思ったのに……なぜか身体が動かない。

 

「アーヤ──!?」

 

「うおおおおっ!!」

 

「らああああっ!!」

 

 あれ……? そういえば同時にもう1人が襲いかかってきたような……そっちはどうなったんだっけ? なんか裏で声が聞こえる気もするけど……。

 

「フフ……ご苦労だったね、諸君。これにて第三相克は完了──《金》も更なる進化を果たせたよ」

 

「ハハ……ハハハハハ!! やった……やったぞ! 僕から《緋》を奪った逆賊を……! ようやく討ったんだ!」

 

「兄上……いや……ルーファス・アルバレア……貴方は──自分がたった今、何をしたのか分かっているのか!?」

 

「殿下……! 貴方も……なんてことを……!」

 

「セドリック……君はそれほどにアーヤのことを……」

 

 え? ルーファスが来てたの? うわー……マジか。空気読めないなぁ。

 でもちょうどいいかもしれない。それならそれでここで倒すのはどうだろう。私とテスタ=ロッサなら勝てるからね! よーし、行くよテスタ=ロッサ! 

 

「フフ……緋の魔王の力、要らぬようだから貰い受けたまで。《七の相克》は奪い合い──戦場での油断は命取りということさ」

 

 ……って、あれ? なんか身体動かないんですけど……テスタ=ロッサも動いてくれないし……その間になんかルーファスが色々喋ってどっか行っちゃった。ついでにセドリック殿下も。もうすぐで《大地の竜》が始まるって。

 それで……なんだっけ。幻想機動要塞とかいうラストダンジョンにみんなで挑むんだよね。若干怖いけどみんなと一緒ならちょっと楽しみかもしれない。

 それに前日にはミシュラムでみんなと最後の息抜きもあるし。私も味方になったなら久し振りにみんなと一緒に楽しく騒ごう。最後の絆イベントだ! 

 

「──先輩! アーヤ先輩っ!」

 

「アーヤ……嘘でしょ……」

 

「アーヤ教官っ!」

 

「アーヤ! 目を開けなさいっ! 開けないと許しませんわよ!」

 

 …………なーんて。そう思ってたけど……なんか無理っぽいね。

 

 薄々感じてたけど私──ルーファスの《金の騎神》に刺されたみたいだ。胸の辺りが痛い。苦しい。こんなに痛いのは久し振りだってくらいには。

 そして薄っすらと見える。みんなが泣きそうな顔で私を見下ろしてる。

 この手はクローゼちゃんかな。レンも信じられないって顔してる。新旧Ⅶ組も。デュバリィちゃんはまだ怒ってるなー。特務支援課にリベール組も。なんだかんだみんな集まってきてるね。クルーガーちゃんも私を心配するなんて珍しいよね。

 というかみんな優しいよね。私なんかほっとけばいいのにさ。

 

 ……ま、でも仕方ないか。人が死ぬって時に放置するようなみんなじゃないし。

 

 なんたって英雄だからね。世界を救う……このゼムリア大陸の英雄たちだ。

 そりゃ私のことも心配するし救おうともするだろう。

 だけどそれももう終わりかな

 

「アーヤ教官っ……!」

 

「…………私で……よかっ……た……」

 

「え……?」

 

「他の……誰か……じゃ……他の──じゃなくて……私で……」

 

「っ……こんな時まで他の人の……貴女という人は……」

 

「嫌です……こんなのって……」

 

「アーヤ、お願い……レンを置いていかないで……! やっと……やっと一緒にいれると思ったのに……!」

 

「……また……泣いて、る……」

 

 あー……さすがに気まずいなぁ。リアンヌ様じゃなくて私なのはよかったけどまたリアンヌ様を襲わないとも限らないし心配だ。

 それにレンやクローゼちゃんやデュバリィちゃん、クルーガーちゃんも泣いてるし。遠い昔の記憶を思い出す気がする。

 リィンくんたちもロイドくんたちもエステルちゃんたちも。見てるといたたまれない。

 

 というかやっぱもう死ぬんだ。助からないかー。うわー……もっと色々したいことあったんだけどなぁ。今年のコレクションで出す予定の良い衣装も思いついたし、表の仕事でやりたいこともいっぱいあるし、友達と旅行に行く予定もあるし、まだ行ってないところとかにも行ってみたいし。

 それにこの先どうなるかも気になる。みんなちゃんとやっていけるんだろうか。いやまあ皆英雄だからそりゃ何とかするんだろうけどね。私なんかいてもいなくても変わらないだろう。

 

 とはいえ死ぬのは残念だけど……。

 

「これ、は……」

 

「! レーヴェ……アーヤが……」

 

「っ……」

 

 ま……()()()()()

 

 これはこれで……()()()()()……か、ら……──。

 

 

 

 

 

 ──アーヤの脈が、鼓動が途絶えた。

 

 その時鳴り響いた慟哭は一体誰のものだったのか。

 

 胸を、心臓を突き刺されたアーヤの身体は血に染まっている。

 金の騎神の騎士剣に貫かれて身体が両断されずに済んでいるのはひとえにアーヤの頑丈さのおかげだろう。

 

 だがそれでも……命を保つことまではできなかった。

 

「……アーヤ……アーヤぁぁ……っ」

 

「私は……まだあなたに何も……っ」

 

「約束が……違うじゃありませんか……先輩っ……」

 

「っ……こんな、ことが……」

 

「これが……結末なのか。お前も……また……」

 

「…………っ………………」

 

 彼女を昔から知るレンやシャロン。デュバリィが涙を流し悲しみに暮れる。涙こそ流してはいないがレーヴェやヨシュアなども同様に。

 無論、昔から知る者だけではなかった。クローゼやミュゼ。その他の者達も、アーヤと関係の深かった者達は誰もが心に穴が空いたような感覚を得る。

 

「アーヤ教官……俺はまた守れず……」

 

「クソッタレが……なんでお前の方が先に逝っちまうんだよ……」

 

「団長のこと、で……礼がまだ……っ」

 

「ううっ……なんで、アーヤ教官がこんな目に……」

 

「こんなのあんまりです……」

 

「……………………」

 

「どうか……せめて、女神の下で安らかに……」

 

 リィンやクロウも同様に後悔を口にし、フィーやエリオット、ティオのように声を震わせる者、クルトやユーシスのように無言のまま項垂れる者もいた。ガイウスのように深い悲しみを感じながらも気丈に冥福を祈る者もいた。

 

「そう……逝ってしまったのね……貴女だけは死ぬとは思ってなかったけれど……」

 

「あーあ……君といると愉快で退屈しなかったんだけどね」

 

「……そっか……なるほどね。昔……ランディ兄が友達を死なせた時、気持ちがあんまり理解できなかったんだけど……多分、こんな気持ちだったのかなー」

 

「……惜しい奴を亡くしたな」

 

「さらばだ。おかしな同胞よ」

 

 それだけでなく、煌魔城が消えた後のミシュラムで現れた結社の面々や《赤い星座》の2人もまたその死を惜しむ。ヴィータやカンパネルラ。シャーリィにシグムント。聞きつけたブルブランも。

 

 アーヤに付いていたマキナは戦闘によって修理に出されるも何故か言葉を全く発さず、飼っていたシャイニングポムやイヌワシも悲しげに見えた。

 

 それらの周囲の反応が意味するのは──アーヤ・サイードという人物がそれだけの縁を紡いできたということ。

 

 ──明日の正午には《大地の竜》と《千の陽炎》が始まる。

 

 第三相克から程なくして帝都上空には《地精》の真なる本拠地である幻想起動要塞トゥアハ・デ・ダナーンが現れる。

 

「ほう……まさか《緋》とアーヤ・サイードが敗れるとは……これは意外な結果になりましたな」

 

「アーヤさん……」

 

「……わかっちゃいたが、やっぱもう後戻りはできねぇな」

 

「──先に逝ったか……」

 

 そしてアーヤの死の報告を聞いたアルベリヒは興味深い結果に喜びを見せ、その場にいたクレアやレクターは自分たちには悲しむ資格もないと自らを更に追い詰める。

 そしてギリアス・オズボーンは短い言葉だけを呟いた。その真剣な面持ちの中に一体どんな意味が含まれているのか……それを知る者はこの場にはいない。

 

 決戦の時は近く、誰もがアーヤの死を嘆き続けることはできなかった。否が応でも《黄昏》は極まる。終わりの日は近い。

 

 ゆえに彼らはアーヤの遺体をクロスベルの葬儀屋を手配して任せることにし、自分達は明日の決戦に備えることにした。

 誰もがその喪失感を抱えながら、それを必死に、気丈に耐えて前へと踏み出す。

 そうしなければならない。ここで立ち止まってはアーヤの犠牲も無駄になってしまう。

 

 ゆえに心の整理をつけて皆で立ち向かうしかない。

 

 だからこそ今この時だけは涙を我慢することはない。

 

 動かなくなったアーヤの前で涙を流し、1人、また1人と別れを告げてその場から立ち去っていく。

 

 そうしてその場にいた全員が居なくなり、手配していた葬儀屋がアーヤの遺体を運んでいった。

 

 かくして英雄たちは前へと進む──世界を救うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そしてアーヤの遺体は湿地帯に運ばれた。

 

 奇しくも金の騎神の試練が行われた霊力の集まるその土地。プレロマ草が群生していたその場所に、葬儀屋から遺体を受け取ったその男は懐から葉巻を取り出して火を点ける。

 

「──まさかこんな結果になっちまうとはなぁ」

 

 その男の声は愉しげだった。悲しみを微塵も感じていない様子でその男──《身喰らう蛇》の使徒第四柱、エルロイ・ハーウッドは葉巻を燻らす。

 ハーウッドの声は地面に寝かされたアーヤへと向けられていた。

 

「お前が意気込んでた相克の結果……オジサン、期待してたんだぜ? もしかしたらお前が勝ち残るんじゃないかってな。それが期待できるだけの力も持ってたしなぁ」

 

 幼き頃にアーヤを拾ってから良くも悪くも育ててきたハーウッドの様子はいつも通りだった。

 もっともハーウッドを知る者であれば旧知の誰かが死んだところで悲しみに暮れるような人物ではないとして何も不思議には思わないだろう。

 

「──が、結果はこれだ。残念だが《幻焔計画》におけるお前の役割はこれで終了ってことになるか。いやぁ、ほんと残念だ。オジサン、悲しくて泣いちゃいそうだぜ」

 

 そんな白々しい言葉を吐きながら、しかし、この《破戒》にしては本当に残念に思っているのだろう。やれやれといった様子で肩をすくめている。

 まだまだやってほしいことは幾らでもある。それだけにここでアーヤに死なれるのは正真正銘、残念な気持ちになる──それだけは確かだった。

 

「でもよかったじゃねぇか。お前にとっちゃあある意味、死は救済だろ? これでようやく安心できるじゃねぇか──」

 

 ただ死ぬならそれはそれ。

 終わったことはスパッと切り替えて次に行く。ハーウッドもまた割り切りが早く、自分が育て上げた最高傑作に別れを告げ、その場から離れていく──それが彼が次に取るべき行動だった。

 

「──ま、それはともかくだ。そろそろ起きろよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──本当にアーヤが死んでいれば、だが。

 

「もう慣れたもんだろうが。()()()()()()……いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()? そっちは俺も知りようがねぇが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──続きもしっかり頑張ってくれよ?

 

「──ん……」

 

 ──そして突然、アーヤの口から声が漏れる。

 

 それと共にアーヤの身体は徐々に傷が塞がっていた。まるで最初から傷などなかったかのように。致命傷を負ったという結果はなかったことになったかのように、アーヤの心臓も肺も。その肉も骨も肌も全てが綺麗さっぱり元通りになり。

 

「──ふわぁ……ん……あれ……?」

 

 アーヤは欠伸をして目を覚ます。まるで平時の睡眠から目覚めた時のように。

 

「よう──やっと目を覚ましたか」

 

「…………え? なんでオジサンがここに……あ! 傷治ってる!? なんで!? さすがに死んだかと思ったのに!」

 

「俺が知る訳ねぇだろ? 奇跡的に一命を取り留めたんじゃねぇか? それくらいよくあることだしな」

 

「はぁ……ま、それもそっか。それじゃあみんなのところに戻って──」

 

「どうかしたか?」

 

「…………良いこと思いついた! このまま()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「クク……良いんじゃねぇか? オジサンはいつも通り見守らせてもらうぜ──お前が何を起こすのかをな」

 

「何でもいいけど邪魔しないでね。──よーし、そうと決まれば潜伏だ!」

 

 ──そして、何事もなかったかのように復活したアーヤは再び自分の意思で動き始める。

 

《破戒》はそれを見て愉しげにまた葉巻を燻らす。アーヤの辿る軌跡もまた、彼にとって大きな関心の1つだった。

 




今回はここまで。ルーファスの暗殺計画はセドリックを焚き付けて先にセドリックで奇襲させての自身は背後から不意打ちする二段構えでした。相克で負けた直後なんでさすがにキツかった。
次回は幻想起動要塞に乗り込むぞー。閃の軌跡Ⅳも後2話で終わりかなってことで次回もお楽しみに。以下雑なクラフトと騎神説明。

分け身:CP90 本物と同じ体力の分け身を生み出す。位置もシャッフルされ各種情報も同じになるのでどれが本物でどれが分け身か分からない。敵時専用クラフト
ザフラ・アル・サラーブ:CP40 威力:A+ 範囲:全体 即死70% 名前はアラビア語で蜃気楼の花って意味。
グリムシザー(騎神版):CP80 威力:SS 即死100% 崩し成功率50%
緋の影:CP90 テスタ=ロッサの影を生み出す
魔槍セージ:CP30 威力B HP10%回復 崩し成功率30%
魔鉄フライパーン:CP40 威力B+ 火傷100% 崩し成功率50%
魔扇ハ・リセン:CP50 威力A+ 気絶100% 崩し成功率100% 遅延+4 騎神には気絶効果無し
ハザールアフサーナ:BP5消費 崩し成功時の必殺技 名前はペルシャ語で千夜一夜物語

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