TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

122 / 138
独立して再び敵対してる不幸

 ──組織はなーちゃんとすーちゃんのことを血眼になって追っている。

 

 組織ってのはなーちゃんたちがいた暗殺組織で正式名称が《四の庭園(フォーガーデン)》。まあ《庭園》とか組織って呼ぶことが多いけど。なんでそんな名前を付けられたのかは知らないけど、庭園には4つの“園”がある。

剣の庭園(ソードガーデン)》、《棘の庭園(ソーンガーデン)》、《金の庭園(アウルムガーデン)》、《錆の庭園(ラストガーデン)》。この4つの園にそれぞれ構成員らを統括する《管理人》が存在していて、暗殺の命令を下す。

 そして暗殺を行う構成員はその殆どが子供。大陸各地から攫ったり買ったりした子供を養成所っていう教育場で暗殺者として育てて、教育が終わったらどこかの園に振り分けられて暗殺者として活動する。

 名前も当然隠す。構成員はタロットの小アルカナのコードネームを与えられてそれで呼び合う。必要があれば偽名も使うけど本名で呼び合うことは……まあ大体認められないかな。

 なーちゃんは“剣の9(ナイン・オブ・ソーズ)”ですーちゃんは“剣の3(スリー・オブ・ソーズ)”。構成員はペアを組んで互いに監視しながら任務をこなす。掟を破れば大抵は女神行き。それぞれの園を管理する《管理人》は化け物揃いだから逆らおうと思っても逆らえない。

 

 ──だけどなーちゃんとすーちゃんは力を合わせて何とか《剣》の管理人のエンペラーを倒した。

 

 そして組織から逃げることが今のところはできてる──けどここからがまたすごい面倒なんだよね。

《庭園》は裏の組織の中でもかなり厄介というか秘密主義なところがある。力を持ってる有名どころのマフィアや猟兵団、それと《結社》なんかは遊撃士協会とか星杯騎士団とか各国の警察とか情報を担ってる組織なんかでは知られてるだろうし警戒もされてる。

 

 だけど《庭園》はそうじゃない。徹底して組織の情報が外部に漏れないようにしてるし、組織の内情をぺらぺらと触れ回るような人がいたらすぐに始末される。まあそんな人がいたかどうかもなーちゃんたちには分からないけど、組織の掟の中でも情報に関するものは結構厳しいし、まず間違いなく消されてると思う。

 

 なのでなーちゃんたちも外部に助けを求めることはできない。少なくとも組織についての情報を教えることはできない。そんなことをしたら今は構成員が多少追ってくるだけで済んでるのに、更に本腰を入れて追ってくるだろうから。

 それこそ《管理人》が直接動くようなことになったら最悪。なーちゃんたちはエンペラーを倒せたけど、それも奇跡みたいなものだったし、もう一度倒せと言われても倒せる自信はない。他の管理人にはあんまり詳しくないけどそれでも化け物だって噂くらいは聞く。だから組織を必要以上に刺激するのは悪手なんだよね~。

 

 ……ただそうしなくても組織はすごく面倒。なんたって()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なーちゃんたちの手配書に《3と9(スリーとナイン)》っていう小説を出版したのもそう。そこまで手を伸ばせる影響力。規模の大きさが分からない。

 だけど組織の規模はかなり大きいんじゃないかとなーちゃんは睨んでる。仕事の時の移動費とか宿泊費とか地味に手厚いし、かなり儲かってそうなんだよね~。それこそ共和国最大のマフィア《黒月(ヘイユエ)》と並ぶくらいには……っていうのはもしかしたら大げさかもだけど最悪を想定しておくに越したことはないかな。

 

「? どうしたナーディア」

 

「あ、ううん。何でもない。行こ、すーちゃん」

 

 ──なにせこれからすーちゃんと一緒にカルバード共和国の国境を越えるんだから。

 

 《庭園》の主な活動地域はゼムリア大陸中央部に位置する大国、カルバード共和国。

 それ以外にもレミフェリアとか北方の自由都市とか自治州とか他の地域で活動することもあるけど仕事の多くはこの共和国だ。組織の人も大体はここにいる。

 だからこれから共和国西端のアルタイル市を抜けてクロスベル自治州に──っと、今はエレボニア帝国領だけどね。とにかく共和国から脱出する予定だ。追手を撹乱してからになるから今すぐではないけど。

 

 そしてなーちゃんの前にいる黒髪のイケメンがすーちゃん。コードネームは“剣の3(スリー・オブ・ソーズ)”で本名もスウィン・アーベルだからすーちゃん。

 ちなみになーちゃんはナーディア・レインだからなーちゃんなのです。“剣の9(ナイン・オブ・ソーズ)”でもあったけどその名前はもう黒歴史だから呼ばれたくないかなーって。

 

 夜の街道を抜き足差し足忍び足で進みながらなーちゃんたちはこれから協力してくれる人と連絡を取ることになってる。

 正直ここまで来るだけでも厳しい道のりだったけど……ここからが重要かな。

 なのでなーちゃんは感覚を研ぎ澄ます。いつどこで誰に襲われるかわからない。逃げ延びるためには油断できないし、気を緩ませることも厳禁。

 

 だからそれにはすぐに気付けた。

 

「ナーディア」

 

「うん、すーちゃん──また追手みたいだね」

 

 前方に意識を向けてたすーちゃんがなーちゃんに短く声をかけてくる。すーちゃんも気づいたみたいだ。前方に2人、後方に1人。人の気配を感じる。

 それもあえてこちらに気づかせるみたいに。自然な人の気配じゃない。隠そうと思えば隠せるけどあえてそうしない。つまりは──なーちゃんたちを連れ戻そうとする組織の追手だ。

 

「……出てきたらどうだ? そこにいるのはわかってる」

 

「しかもなーちゃんたちに敢えて気づかせるくらいの中途半端な隠密。もしかしてなーちゃんたちのこと舐めてる?」

 

「──そんなつもりは毛頭ないよ」

 

 なーちゃんたちが得物を構えながらそう言うと闇の中から3人が姿を現した。言ったように前方に2人、後方に1人。なので前方はすーちゃんに任せなーちゃんは後方に集中する。

 とはいえその姿は全員見た。前方に現れた1人、返答を返してきたのはシルバーブロンドの背の高い美人さん。男装とかが似合いそうなすらっとした体型の美人さんだった。それもなーちゃんたちよりかなりお姉さんな。

 

「……驚いたな。管理人じゃなさそうだが、組織の構成員にもアンタみたいな大人がいたのか」

 

「もちろん、僕は管理人じゃないよ、“剣の3(スリー・オブ・ソーズ)”、“剣の9(ナイン・オブ・ソーズ)”。──“杯の1(エース・オブ・カップズ)”さ」

 

「“杯”……ってことは《(ソーン)》か」

 

「《(ソーン)》の連中はねちっこくてなーちゃん苦手~……しかも3人もいるなんて面倒にも程がある」

 

「ねちっこい、か。そんな自覚はないけれど心当たりがないとは言えないし甘んじて受け入れようかな」

 

《棘の庭園》の構成員にしては冷静で表情を動かさず、話が分かりそうな雰囲気を醸し出す“杯の1”。年齢は20代前半ってところかな。庭園の構成員の中で大人は《管理人》か養成所の教育係かそれくらいで暗殺を実際に行う末端の構成員は子供が担当する。

 だけど中には例外もある。その子供が、任務を失敗せず殺されもしない。掟を破ることもなく組織に何年もいた場合だ。

 つまりなーちゃんたちの目の前にいる“杯の1”はかなりの先輩でベテラン。死んだらコードネームは新しい誰かに引き継がれるから数字は強さと関係ないけど、この場合はかなりの強者と見るべきかな。なーちゃんの見立てでも向こうの方が格上っぽいし、他にも2人……ううん。構成員がペアを組んで活動する以上、もしかしたらどこかにもう1人隠れてる可能性が高い。《棘》の連中はいやらしくてねちっこいからどんな手を使ってくるか──

 

「ああ、それと僕以外の2人は《(ソーン)》じゃないよ」

 

「何だと?」

 

「組織の構成上、嘘かと思うかもしれないけど本当の事さ。──ほら、2人とも。一応挨拶したらどうだい?」

 

「はぁ……先輩がそういうならいいですけど」

 

「了承した」

 

 そうして意外な言葉がなーちゃんたちに届く。

 前方にいる“杯の1(エース・オブ・カップズ)”と並ぶもう1人と後方のもう1人はそれぞれ別の“園”の構成員だと。それを聞いて驚き、訝しむなーちゃんたちにその2人が名乗ってきた。

 

「“杖の2(デュース・オブ・ワンズ)”です。よろしくお願いします、脱走者の2人。2人にはあんまり興味唆られないので出来るだけ早く捕まるか、芸術的に死んでくださいね」

 

「……“硬貨の7(セブン・オブ・コインズ)”。管理人の要請に従い、《(ソード)》の3と9の捕縛任務を受領した」

 

「“杖”と“硬貨”……《(ラスト)》と《(アウルム)》か」

 

「うげ~……《(ソーン)》に加えて頭のおかしい人ばっかの《(ラスト)》と無感情で融通の利かない《(アウルム)》とか組織の最悪フルコースセットだよ~……なーちゃんそんなデリバリー頼んでない~」

 

「は? 頭がおかしい? ボクよりダサいくせに何を言ってるんですか? 特にピンク髪のあなた、()()()()()()()。武器とはいえぬいぐるみを携行してる辺りとか特に」

 

「は……はぁ~!? なーちゃんのこのセンスをバカにするなんて……というかなーちゃんまだ13歳だし、ぬいぐるみ持ってても全然痛くないもん!」

 

「うわ……遅れてますね。13歳にしてはファッションが子供過ぎますし、トレンドも抑えてないなんて平凡極まりないですよ。そんなんで街を歩いてるんですか? 恥ずかしくないんですか?」

 

「恥ずかしくないもん! ──すーちゃん! こいつムカつく! どうにかして! それとなーちゃん別にダサくないよね!?」

 

「……ダサくないから落ち着け」

 

「ああ、でも男の方は悪くないセンスですね。年齢の割に大人っぽい格好でまとまってますし。それくらいならボクと一緒に街を歩いても恥ずかしくありません」

 

「なっ……!?」

 

「むしろそこの子供っぽい人とは全然釣り合ってませんね」

 

「釣り合って……! ──すーちゃん! こいつもうやっちゃっていい!? いいよね!?」

 

「落ち着けナーディア! 挑発に乗って不用意に仕掛けるのは今はマズい!」

 

「ふふ……どうやらレスバでもボクの勝ちのようですね」

 

「わかってる……わかってるけど~……ぐぬぬ……!」

 

 なーちゃんは自分の身体を必死に抑えながら目の前にいる“杖の2(デュース・オブ・ワンズ)”を歯ぎしりしながら睨みつける。かなりムカついた。確かに“杖の2”はなーちゃんと年齢は変わらなそうなのにほんの少しなーちゃんより身長が高くて顔も良い勝負だけど整ってて睫毛とか長くてアイラインもぱっちりしててブロンドの髪をおさげにしてなおかつ黒のメッシュところどころ入れてて、服装も白いチューブトップにミニスカートに黒のおしゃれなブーツやヒールが高めでリボンの付いた黒いストレッチブーツにチョーカーに浅めのバケットハットにシルバーのネックレス。ピアスも可愛いし、アウターとして淡い紫色のコートも身に付けてて確かに超おしゃれ上級者感あるけども! 顔も小顔だしスタイルも余計なお肉とか付いてない女の子が憧れる華奢な体型してるし! でも口と性格が超ムカつく! 得物は60リジュくらいの鋏でなんか特殊で油断ならないからすーちゃんの言うように迂闊に仕掛けられない! 

 

「……“杖の2(デュース・オブ・ワンズ)”。あまり刺激しないように」

 

「……沈黙は金」

 

「あっ、はい。申し訳ありませんでしたです。ダサいという言葉は撤回しませんが反省します」

 

「──どいてすーちゃん! あいつブッ飛ばすから!」

 

「だ、だから落ち着けナーディア!」

 

 すーちゃんに何とか抑えられながらなーちゃんは怒りを抑える(収まってないけど)。ぐぬぬ……よくよく見れば“杯の1(エース・オブ・カップズ)”もフォーマルなスーツだけど腕の部分の裾がフリルだったり、ラインが入ってたり随所にお洒落さがあってフォーマルなのに舞台衣装っぽさがあってかっこいいしかわいい……。

 まあ“硬貨の7(セブン・オブ・コインズ)”の方は10歳くらいの緑髪を2つのお団子に結ってて、煌都風ドレスを身に着けた煌都出身っぽいちっちゃくて無口な女の子だけど……こっちもこっちでドレスの紋様がおしゃれだし、布地が綺麗に見える。確かにこの中だったらなーちゃんはおしゃれ力が低めな気も……いやいやいや! そんなことないもん! なーちゃんもかなりおしゃれには気を使ってるし! ピンクにフリルにリボンにツインテールでぬいぐるみ! 可愛さマシマシで間違いないもん! 

 

「ふぅ……それはともかく、僕たちがこうして悠長に名乗って特殊な編成で任務にやってきたその理由、君たちなら理解できるはずだよ」

 

「……組織が本腰を入れ始めたってことか」

 

「そうだね。加えて君たちに自主的に戻ってきてもらうための配慮をさせてもらった形かな。《管理人》からはどんな手段を使っても構わないと言われているからね」

 

「……あなたの個人的な配慮ってこと?」

 

「手加減も拷問も得意だけど君たちみたいな子供を痛めつけるのは趣味じゃないんだ。だから自主的に戻ってきてもらうのが両方にとって助かると思うんだけどどうだろう」

 

「っ……」

 

「なるほどねー……」

 

 そう言って殺気をぶつけてくる“杯の1(エース・オブ・カップズ)”はやっぱり本気みたいだね。《棘》の割にねちっこさをあんまり感じなかったのはそれだけ長いこと仕事をこなしててプロだからかな。

 見たところ武装は剣……に見えるけど形が特殊でそれだけじゃない気配を感じる。注意しておかないとね。“杖の2(デュース・オブ・ワンズ)”はさっきも言ったように鋏。“硬貨の7(セブン・オブ・コインズ)”は……棍、かな。ただ見た目通りだと思うと危ない。なーちゃんたちは暗殺者。相手の意表を突く。不意を突く何かを仕込むのは暗殺の成功率を上げるための基本。

 

「必要なら多少の便宜を図ることもできる。《管理人》からの許可も得ているからね」

 

「そんなことは望んでない……! だよね! すーちゃん!」

 

「ああ……! 俺たちはもう足を洗う……! それを阻むなら誰であっても突破するだけだ……!」

 

 相手からの説得の言葉を突っぱねる。正直かなり苦戦しそうだけど……それでもなーちゃんたちは諦めるわけにはいかない。2人で決めたから。もう人を殺すのはやめようって──

 

「待遇の改善も考えるよ」

 

「くどい!」

 

「そうだよ! あんな生活……もうなーちゃんたちは……!」

 

「3食昼寝付きの寮生活だけじゃ不満かい?」

 

 ──“杯の1(エース・オブ・カップズ)”のお姉さんからそう質問され、なーちゃんはわなわなと震える。怒りが湧き上がった。その感情を言葉にしてぶつける。

 

「不満だよ! だって昼寝って……()()()()()()()()()()()()()!」

 

「休日があるじゃないか」

 

「休日? ()()()……? 普段はアルバイト。任務が入れば暗殺。どっちも休みの時は教科書渡されての自主学習なんて……全然休まらない~!」

 

 ──そう。なーちゃんたち《庭園》の末端構成員、子供たちの日常はそれだ。すーちゃんによれば以前はもっと休む暇というか表の仕事なんてしてなかったみたいだけどここ最近になって変わってしまった。暗殺業務はそのままに、普段は表で潜伏するためにバイトをしたり勉強を行わせる。学校には通えないけど、それ以外はそれぞれ割り当てられたどこかの家で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なのでなーちゃんたちには全然休まる暇がなかった。なぜか偽名を使ってカフェでアルバイトすることになって(それだけならまだいいけど)、普段はやりたくもない勉強をやらされて(宿題を管理人に提出しないと殺される)、それ以外は暗殺。ぶっちゃけると暗殺任務を行う時の移動中が一番身体は休まるというとんでもないブラック企業ならぬブラック組織。それが《庭園》だ。もちろん人を殺すのが一番嫌だけどそれ以外もかなりキツイ。だから──

 

「だからなーちゃんたちとは相容れない……!」

 

「何か微妙に齟齬があるような気がするがそういうことだ……!」

 

「もう少しグレードの高い寮に住むのはどうかな。高層マンションの最上階……とはいかないけどかなり綺麗で広い部屋を紹介するよ」

 

「…………その程度でなーちゃんたちは屈しない!」

 

「……今少し迷わなかったか?」

 

 迷ってない。なーちゃんたちは殺しが嫌で組織から抜け出した。今更そんなことで組織に戻るわけがない。最近共和国で流行りのタワーマンションなんて全然憧れてない。馬鹿なこと言わないでよすーちゃん。

 

「そうだ。休暇も兼ねて旅行に行くというのはどうかな? 最近モルジア諸島にも仕事があるらしくてね。暗殺は行ってもらうけど前乗りで向こうの水上ヴィラに連泊していくといいよ。僕も仕事でこの間行ってきたけどエメラルドグリーンの海の上に建てられたコテージはいつでも海に入ることもできるし一流シェフによる海の幸も堪能できる。少し離れた場所にある海の家なんかも風情があっていいし、かなりおすすめの旅行先だね。連泊するなら最低でも100万ミラはするけど経費で落としておくよ」

 

「……………………そ、それくらいでな、なーちゃんたちを懐柔できると思ったら大間違いだよ!」

 

「ナーディア? 明らかに動揺してるが迷ってないよな?」

 

 迷ってるわけない。なーちゃんたちはもう絶対に人を殺さない。だから組織には戻らない。モルジア諸島なんて最近セレブの間で大人気のリゾート地なんかこれっぽっちも行きたくないし、水上コテージで連泊するハネムーンなんて全く憧れてない。馬鹿なこと言わないでよすーちゃん。

 

「なんだったら2人一緒に行ってきたらどうだい? その間に引っ越しの準備は進めておくよ。2人で同じ部屋に住んでもらえば監視も楽でいいしね。脱走の前科はある以上、それは我慢してもらうけど戻って来るなら手配書として使った“3と9”は撤回できないにしろ、想定以上に売れたみたいだし、印税の何%かを君たちの口座に振り込んでも構わない」

 

「………………………………」

 

「ナーディア? 無言になったが計算してないよな?」

 

「し、してないよっ! そ、そんなの……そんなのっ……い……いらない……! いらないし……!」

 

「かなり迷ってるみたいだけど」

 

「迷ってないっ!」

 

 なーちゃんは全力で否定する。うう……! で、でも本当はそりゃほしいよ! タワーマンションもモルジア諸島でのハネムーンもすーちゃんとの同棲生活も印税も欲しいけど! なーちゃんはすーちゃんと一緒に足を洗ってぐーたらごろごろ生活するんだから~! うう……! 

 

「……なら仕方ないか。あまりやりたくはなかったけれど──強制的に連れて行かせてもらうよ」

 

「っ……! ナーディア!」

 

「! うん……! すーちゃん……!」 

 

 ──と、内心でかなり動揺しちゃったけど、向こうが仕掛けてくる気配を見せたのでなーちゃんたちも応じる構えを見せる。

 見れば“杯の1(エース・オブ・カップズ)”だけじゃなくて“杖の2(デュース・オブ・ワンズ)”も“硬貨の7(セブン・オブ・コインズ)”も全員が今にも仕掛けてきそうだった。

 

「ようやくですか。早く仕事に戻りたいんでちゃっちゃと終わらせましょう」

 

「……戦闘開始」

 

「……!」

 

 そして相手が向かってくる。なーちゃんはすーちゃんと一緒にどうにか迎撃しようとして──“プルルルル……”と。

 

「──失礼。連絡が来た」

 

「……“硬貨の7(セブン・オブ・コインズ)”。今は重要な任務の最中だよ」

 

「理解している。しかし()()()()()()()()()()

 

「っ……それは……」

 

「……?」

 

「一体何が……」

 

 ──突如連絡が、専用の導力端末にかけられたのだろう。“硬貨の7”がその相手を見ると少し距離を取って通信を取る。“杯の1(エース・オブ・カップズ)”も僅かに表情を歪めた。

 そんな中“硬貨の7(セブン・オブ・コインズ)”が通信を行って……。

 

「……はい。……問題ない。……()()()()()……了解した。即刻素材の収集から生成に移る」

 

「……布地?」

 

 短いやり取りの後、“硬貨の7(セブン・オブ・コインズ)”は通信を切る。そして“杯の1(エース・オブ・カップズ)”に向かって。

 

「謝意。申し訳ないがより上位の命令を受諾したため本任務から離脱する」

 

「……ああ。わかったよ。こっちは2人で十分だから行っていくるといい」

 

 許可を得た“硬貨の7(セブン・オブ・コインズ)”はこくりと頷いてその場から立ち去っていった。

 なーちゃんたちは当然怪しんだけど……気配はちゃんと遠ざかっていったし、こっちにとって都合がいいのは確かだった。

 

「間が悪いですね。おそらく相手が相手でしょうし、仕方ないですけど。──とはいえボクがいれば全く問題はないですね」

 

「っ……ナーディア!」

 

「うん! 行くよ、すーちゃん!」

 

 そして今度こそ2人を相手に何とか迎撃しようとして──

 

「──あ、すみません。連絡です。ちょっと抜けますね」

 

「へ?」

 

「……………………」

 

 ──今度もまた中断された。次は“杖の2(デュース・オブ・ワンズ)”の端末に連絡が来たようで抜けていく。そして遠くで通信を始めて。

 

「はい、何でしょうか? ……新しいデザイン、ですか。新製品の考案でしたらいつも通り進めてますけど──え? 合作? コレクション用? も……もちろんやります! むしろやらせてください! 嬉しいです! 足を引っ張らないよう全力で頑張ります! はい、はい……! わかりました! すぐに行きます!」

 

 何やらハイテンションで受け答えしていた。相当嬉しいことがあったのか、それとも連絡の相手に何らかの感情を抱いてるのか、物凄く興奮してた。

 だけど連絡が切れるとすごい冷静な表情で。

 

「すみませんけどボクは大事な仕事が入ったのでこれで失礼します。お疲れ様でした」

 

「……ああ、うん。お疲れ様……」

 

「はい、では」

 

 そして“杖の2(デュース・オブ・ワンズ)”はその場から立ち去っていった。

 なーちゃんたちはそれをなんとも言えない表情で見送るしかない。なんだか“杯の1(エース・オブ・カップズ)”のお姉さんから哀愁を感じる気がする。苦労人というか、ちょっと不憫というか……あんなにかっこよくて綺麗で仕事が出来そうなお姉さんなのに急に親しみを感じてきたというか……。

 

「…………まあ別に構わないさ。僕1人でも十分な仕事だ」

 

「……そうか。確かにあんたは俺たちより格上だろう。ただそれでも……何とか押し通らせてもらう!」

 

「……うん! 今度こそ行くよ、すーちゃん!」

 

 “杯の1(エース・オブ・カップズ)”がその特殊な形状の剣を構えたのでなーちゃんとすーちゃんは2人で1人を相手にする。正面から倒そうとするなら苦戦するかもだけど逃げるだけならこれなら……! 

 

「あっ」

 

 ──ぷるるるる、と音が鳴った。

 

 だけど“杯の1(エース・オブ・カップズ)”は剣を構えたまま、口を噤んで動こうとしない。何とか聞かないように耐えようとしてた。眉間に皺を寄せて不満そうにしてる。

 

「……………………」

 

「……取らないのか?」

 

「取ってもいいよ~。なーちゃんたちはここで待ってるから」

 

「……………………ちょっとだけ待っててくれ……」

 

 そうして“杯”のお姉さんはまた少しだけ距離を取って通信を始めた。ちゃんとなーちゃんたちの進行方向に陣取って視線だけはこっちを捉えたままなのが最後の抵抗って感じだね……多分逃げたら逃げたでそのまま追いかけてくるかもしれない。だから少しだけ様子を見てみたけど……。

 

「……どうしたの? 今はちょっと大事な仕事中なんだけど……え? イベントやる? いや、そういうのはちゃんと企画会議を通して……え? もう進めてる? いや、だから僕は今、大事な仕事で……え? 自分でやる? いや、そんなできるわけ……ちょ、ちょっと? ダメだからね? せめて僕が戻るまで──」

 

 ──なんか通信が途中で切られたっぽい。

 “杯”のお姉さんはそうしてしばらく切られた端末を見つめていた。嫌な予感でも感じてるのか、汗を掻いている。なーちゃんたちはそれをしばらく見守ってたけど──

 

「…………たとえ僕から逃げられても組織から逃げることはできない。それを肝に銘じておくことだね」

 

「あ、ああ……」

 

「……なんか大変そうだね?」

 

「……それほどでもないさ……それじゃ失礼するよ」

 

 ──そうして“杯の1(エース・オブ・カップズ)”こと苦労人っぽいかっこいいお姉さんはその場から急いで立ち去っていった。後に残されたのはなーちゃんとすーちゃんだけ。あの人たち何しに来たんだろう……。

 

「なんか……案外簡単に逃げられそうだね?」

 

「そんなわけない──と言いたいが俺もそんな気がしてきたな……」

 

 なーちゃんたちは顔を見合わせる。まだ追手が来ないとは限らないからすぐに離れた方がいいし、やっぱり注意は必要だけど、《庭園》ってやっぱ意味不明なルールいっぱいあるし組織としてなんかおかしい……さっきの人たち何の仕事してたんだろう……? 

 

 

 

 

 

 ──おはようございます。サイードグループ会長にしてファッションデザイナーのアーヤ・サイードです。年齢は23歳の敏腕女社長です。今はなんと──

 

「チッスー! ウルリ☆ ウルラレ★ ウロボロス~♪ ──今日はゲストに来てもらったんだよねー。それじゃあ早速どうぞ~!」

 

「ウルリ☆ ウルラレ★ ウロボロス~! どうもー! ゲストの《A》ちゃんでーす!」

 

「まあゲストってかウロワーのみんなにはもうお馴染みって感じ?」

 

「こんだけ呼ばれるってことはみんなが私を求めてるってことかな?」

 

「実際《A》ちゃんパイセンをゲストで呼ぶと結構同接伸びんだよね~。いやー、パイセンマジぱないっすわー」

 

「ほんと? それじゃ今日も外ロケ行っとく? それともチルっとく?」

 

「《A》ちゃんパイセンの外ロケはカロリーヤバすぎだからなー……この間のグルメインタビューマラソン企画とかキツすぎて色んな意味でぴえんだったし……」

 

「もはやぴえん通り越してぱおんだったよね!」

 

「いや《A》ちゃんパイセンは楽そうにしてたけど……ま、それは置いといて今日はこの間告知したあの企画、やってくからねー!」

 

「お! ということはもしかしてあの!?」

 

「そうそう! あたしと《A》ちゃんの──《切り裂き生ラジオ》! 初のラジオ企画やってくぜー!」

 

「おーっ! バイブスあっがるぅー!」

 

「ちゃんとお便りも事前に集めてっからねー! バレバレだったとは思うけどその分みんなのこと愉しませるから最後まで見届けるように!」

 

「見届けるようにー! それじゃ早速最初のお便りー! えーと、それじゃあ──」

 

「いやいやそれアタシの役目だから! パイセンは良い感じに受け答えヨロシク! ──それじゃ最初は……コレとか良いかな~。ラジオネーム《もっと出世したい》さん。『お二人ともこんばんは。僕はある組織に属している将来有望な出世頭なのですが、最近礼儀知らずの新人に地位を追い抜かされてしまいました。どうにかしてその新人をぎゃふんと言わせたいのですが、一体どうすればいいでしょうか? 良い方法を教えてください、お願いします』……自分で選んどいて何だけど最初にすっごい野心ダダ漏れってか小物感パないの選んじゃったけど……でもまーどんな組織にもあるよねーそういう悩み」

 

「なるほどなるほど。結構な難問だね。そうだなー……なら良い方法があるよ!」

 

「おお! さすがパイセン! 悩めるウロワーに是非ともご享受よろしくおなしゃっす!」

 

「ぎゃふんって言わせればいいんでしょ? ただ今どき”ぎゃふん”なんて中々言わないし、言わせるのは至難の業……だからこそ方法はただ1つ! ──闇討ちだね

 

「闇討ち!? ちょっ!? 物騒すぎない!?」

 

「だって”ぎゃふん”なんて今どき襲われでもしないと言わなくない? なんなら脅して無理やり言わせるとかしないと何をしようが言わないと思うよ?」

 

「そ、そりゃそうかもだけど……その答えはマジレスが過ぎるっていうか……」

 

「蛇の道は蛇……私の考えた言葉だよ」

 

「いやパイセンの考えた言葉じゃないでしょ!? めちゃくちゃ普通に嘘つくじゃん! しかもあんまり適してない!」

 

「井の中の蛙大海を知らず──私の考えたもう1つの言葉でもそう言ってるよ」

 

「それもパイセンの考えた言葉じゃねーからっ!!」

 

「さ、これで解決だね。次のテーマは”バーテンダーがカクテル作る時のあの謎のシャカシャカ動作は本当に必要なのか”。さ、一緒に真実を追い求めようか」

 

「なんでそーなるし!? え!? 何これ!? もしかして今回もあたしへの挑戦企画もといドッキリじゃないよね!? なんかむちゃくちゃボケ倒してきてるんですけどー!?」

 

 ──私は配信機材を前に相方と共に喋り倒す。

 

 ……と、そんなわけで──お友達のウルリカちゃんの配信にゲスト出演してみました! 

 

 そのウルリカちゃんが誰かと言うと去年頃に結社《身喰らう蛇》の執行者No.ⅩⅧとして結社入りした2番目に新人の執行者で《言霊使い(インフルエンサー)》の異名を持つ女の子だ。見ての通り私と同じ褐色肌、中東系の美少女でスタイルが良くてギャルでおしゃれで今どきでサブカルにも精通しててオタクでもあり《言霊》っていう異能持ちというとんでもない属性過多な私の後輩で友達だね。その上更にヴィータ姉さんを参考に最近流行りの配信なんて始めちゃったから更に属性が増えたし、それなのに執行者の中では比較的常識人っていうこともあって私とも共通点が多いんだよねー。その仲良くなった理由を裏の個人情報抜きで配信内で言ったら「いや~……一部ちょっぴ物申したいこともあるけど概ねそんな感じかな~。あたし、パイセンのことマジ尊敬してるし」って言ってくれた。すごい良い子なんだよねー。結社に入った時から早口オタク全開で私の見た目とかファッションとか色んなこと褒めてくれたし。おしゃれ部分で話が合うからよくチャットでやり取りしてる。ネイルとかお化粧とかすごい上手ですごい。なのでそういう話もする。ファッションデザイナーとしてそういう部分もコーディネートには必要だからね。まあ私は化粧やりすぎない方が可愛いしネイルも塗るくらいがちょうどいいのと伸ばすと荒事の時に邪魔っていう昔っからの癖があるからあんまりゴテゴテにしてないけど一応知識はあるし経験もある。学生の時は色々と挑戦してたからねー。その時と比べるともう私は落ち着いた方かもしれない。まあ私はもう23歳のお姉さんだしねー。

 

 そういうわけでゲストの《A》ちゃんとしてウルリカちゃんと仲良くトークしたり、うちの会社の導力ゲームして対戦や協力プレイしてみたり、私やウルリカちゃんのコーディネートを披露したりチョイスするファッション系の企画やってみたり、体力系の企画やってみたり、流行りの歌を歌ってみたり踊ってみたり、あえてコントを披露してみたり、顔を仮面で隠した状態のセドリックくんを出演させてわさび寿司食べさせたり落とし穴に落としてみたり電気流してみたりシャーリィちゃんやシグムントさんに協力してもらって怖がらせてみたりと色々なドッキリ企画をやってみたり(セドリックくんにはネタバラシの後でこれも修行ってことで納得させた)楽しく配信した。私も忙しいからちょっとだけだけどね。でも楽しかったー。執行者候補のセドリックくんの修行と並行して出来たからちょうどよかった。セドリックくんも私の指導のおかげもあってか結構強くなってきて無事に執行者No.ⅩⅨに任命されそうだし、この半年はほんと色々あったねー。

 

 まあそんな感じで執行者だったり配信活動のお手伝いをしてみたりと肩書はいっぱいあるんだけど今はやっぱりサイードグループ会長の肩書が私には相応しいと思う。

 何しろ今のカルバード共和国は未曾有の好景気だからだ。昨年のヨルムンガンド戦役によるエレボニア帝国からの天文学的な賠償金とそれを財源にした経済政策のおかげでね! さすがはグラムハート先生! おかげでウチの会社も更に利益を伸ばしてとんでもないことになってる。メインのファッションブランド《SAID》もめちゃくちゃ流行ってるし儲かってるし、飲食業や導力ゲーム会社も絶好調。アミューズメント部門とかも良い感じだしリゾートホテルとかもやりだしてもう何がなんだかってレベルだ。もう私には何がどこまで動いてるのかわからない。なんでこんなに上手くいってるのかが不思議すぎる。服飾関係とかはともかくそれ以外はアイデア出しとか精々ちょっとしたお手伝いくらいで経営には全然関わってないんだけどな……。

 

 ということはやっぱ私の周りの人が優秀なんだろうね。ってことでサイードグループの優秀な人たちをざっと紹介しよう! 

 

「アーヤちゃん。次はファッション誌からの取材だよ。今日の分の衣装は完成してるよね?」

 

「うん。もう出来てるから納品お願いね」

 

「わかった。それなら午後からはアデーレちゃんと商品開発の手伝いとスーニャちゃんが新作について相談したいって要請が来てるからそれだけお願いね。衣装制作についてはいつも通り任せるから。僕は商談に行ってくるね」

 

「オッケー。いつもありがとー」

 

「このくらいなんてことないよ」

 

 まずはお馴染み私の秘書のセラフィーネ・アロンことセラちゃんだ! 確か代表取締役副社長でもある! 私の代わりにサイードグループ全体を動かしてるブレーンだね! ぶっちゃけ私よりも働いてる気がするし、私より会長してる気がする。私があんまり表に出ないから商談とか会食とか視察とかそういう会長っぽい仕事も結構任せちゃってる。必要ないとはいえ私の護衛として同行することもあるし、この間なんて服の素材収集のために街道に出たらガンブレードなんてかっこいい武器使っててテンション上がった。

 その他にも私が知らない仕事とかもいっぱいやってるからほんといつもお疲れ様って感じだ。私のパタンナーとしての仕事もあるしね。とはいえ服飾関係なら他にも優秀なスタッフが揃ってる。たとえば──

 

「アーヤさん。次はボクのデザインを見てくれますか?」

 

「おお、ルーナちゃんもう出来たの? 早いねー。うーんと、どれどれ…………うん。今回もかなり良い感じだね。トレンドも取り入れてるけど独自性も結構あるし、合格かな」

 

「あ、ありがとうございます……! なら今日はアーヤさんの衣装の制作手伝ってもいいですか……!?」

 

「うん、いいよー。縫製だけになっちゃうけどね」

 

「全然それでいいです! アーヤさんの衣装に携われるなんてそれだけでも光栄ですから!」

 

「そう? ならお願いねー」

 

「はい! ボクに任せてください!」

 

 ──と、こんな感じで私の熱狂的なファンがいたりする。まだ13歳のおしゃれな女の子で名前はルーナ・ドラクロワちゃん。金髪に黒メッシュにおさげがチャームポイントだね。それでこの子は大体4年前から私に弟子入りして服飾の勉強をしてた子なんだけどものすごいセンスが良くてね。2年前から《SAID》のアパレルファッションデザイナーとして正式に採用することになったすごい子だ。あくまで私のオートクチュールとは別だけど、お店で売られてる既製服のデザインなんかを担当してる。プレタポルテとはいえ私のブランドを背負ってデザインできるだけの才能があるおしゃれな子だ。そして私の熱狂的なファンで出会った時からずっと私に憧れてるって公言して憚らない。たまにデザインだけじゃなくて戦い方まで教えてほしいって言ってくるくらいだから相当だよね。強くなってどうするんだって話だ。まあいざって時に戦えた方がいいのは確かだけども。なので鋏とか使って戦えばいいんじゃないって適当に言っといた。実際強くなったかは不明だけどねー。それよりも服飾のセンスがすごいのでこれからも私を支えてほしい。

 それと服飾のスタッフとしてもう1人、最近すっごい才能のある子も入った。

 

「会長。受諾した生地の制作が完了した。確認をお願いしたい」

 

「もう出来たんだ。さすがシャオランちゃんはいつも仕事が早いねー。いい子いい子」

 

「……確認をお願いしたい」

 

「おっとそうだった。うん……デザインも肌触りも良い感じ。うん、完璧だね。よく出来てるよ」

 

「では次の仕事は?」

 

「うーん……縫製の手は足りてるし、今は休んでていいよ。お小遣いあげるからお出かけでもしてきたら?」

 

「……了解した。これより市内の散策を行う」

 

「いってらっしゃーい」

 

 と、すっごい事務的な態度の緑髪お団子の煌都風ドレスを着たロリ。この子の名前はシャオランちゃん。まだ10歳の幼女で私が以前、ラングポートで拾ってきた。感情の起伏が薄いけどこの子もすっごいいい子かつ才能のある子でね。テキスタイルデザイナー……衣服の生地、布をデザインして作るのがすごく上手なのでそっちの仕事を任せてる。他の仕事もかなり正確で頼もしい。オランピアちゃんとタイプが近いよね。私のスタッフには地味にそういう子が多い。オランピアちゃんもたまに仕事の手伝いに来るけどよく話してるところ見かけるしね。仲が良くていいね。

 他にも縫製チーフのシーナちゃんとか彫金デザイナーのミコトちゃんとかもいて愉快な制作チームだ。

 

 ただ愉快って意味なら私の友達グループの方が上かもしれない。今日はちょっとした同窓会というか女子会があってアラミスの同級生で集まることになってる。私の家でね。

 

「──それじゃサイードグループ大決算会を始めまーす! かんぱーい!」

 

「乾杯……じゃない! こんな死ぬほど忙しい時に何かと思えばただの飲み会じゃんか!」

 

「あ、忙しかったんだ。まあまあ私も後で手伝うから今は飲もうよ」

 

「当然でしょ! 忙しいのはあんたのせいなんだから! 次から次へと変な食べ物考案しまくってあたしに丸投げして……! 今あたしがどれだけ担当してるかあんたわかってるわけ!?」

 

「あはは、ごめんごめん。でもアデーレちゃんも楽しんでたじゃん。他所の高級ホテルとかの料理長と料理バトルしたり色々とさ」

 

「そ、それはあんたが上手いこと乗せてくるから……と、とにかくもうこれ以上新しい飲食店開いてあたしに丸投げするのはやめてよね! この間のヴァリスで始めた寿司屋とかどれだけ職人育てるのに苦労したか……沿岸部だから魚の仕入れとかは上手くいったけど──」

 

「えー次はハンバーガーショップ開こうと思ってたのに」

 

「……一応聞くけどどんな感じなの?」

 

「ほら、共和国って車社会だし、ドライブスルーというか車のまま注文して商品が受け取れたりしたら儲かりそうじゃない? 長距離ドライバーとかにも人気出そうだし、ハンバーガーとフライドポテトとか若い人も食べ歩きできるしね!」

 

「…………確かに……ドライブスルー……ハンバーガーなら手軽だし、コストも工夫すればそんなに……でも味にはこだわりたいから……いつも卸してもらってる仕入先からどうにかそっちにも卸してもらえば……」

 

「良さそうだからセラちゃんに進めるよう伝えとくねー」

 

 そんなわけで私の愉快なアラミス時代からの友人を紹介するよ! まずはこの子! サイードフーズの社長にして総料理長! 商品開発部門の責任者でもあるアデーレ・ブランシェットちゃん! 純粋な共和国人だけどボブカットの髪を赤く染めてて身長は少し小柄で154リジュ! 昔っからぶっきらぼうで強気で友達は少なかったけど私とは仲が良くてね! 父親も母親も料理人だったんだけど親に反発する不良娘で将来は独立する気満々で、だけど性格的に人に上から命令されるとすぐに言い返して喧嘩になるから修行とかも長く続かなくて、そんな時に私がスカウトして飲食店を任せることになった凄腕の料理人で私の友達だ。いつも忙しくて会う度に文句言ってくるけどなんだかんだ楽しそうにやってくれて何よりだ。私のアイデアを大体形にしてくれるんだよねー。つまりすっごい有能ってこと。

 

 でも有能な子なら他にもいる。アデーレちゃんは共和国の人呼んで“料理界の風雲児”だけど私の友人には導力ゲーム業界の生みの親もいるからね。それがこの子! 

 

「スーニャちゃんの方は大丈夫? 忙しくない?」

 

「今はまだ落ち着いてきたから大丈夫かなぁ……」

 

「博士は? またなんか無茶なこと言ってきてない?」

 

「最近は忙しいみたいだからあんまり連絡取れてないけど……一応、大丈夫かな。あの人、技術はすごいんだけどすぐに無茶な仕様を追加しようとするからたまに困るけど……ゲームはユーザーにクリアできるように作るのが大事なのに……」

 

「あー……博士そういうとこあるからねー」

 

「うん……だけど蔑ろにもできないから一応最低限クリアできるようにして実装してるんだけどね。ただそれはそれでコアなゲーマーから妙に人気だからまあいいかなって……最近流行りの配信者もよく高難度クリア配信とかやってくれてるし……ほら、クロスベルの《鍵っ子ちゃん》とか……」

 

「あの子いいよねー」

 

「うん、すごく可愛いしゲームも上手いし。良いPRにもなるからこっちも公式で配信でもしてみようかなぁ……それか正式に案件として依頼してみるのも良いかも。次の新作《超絶! 騎神大戦!!》も夏頃には発売出来そうだし、先行プレイとかも良さそうかも……」

 

「おお、いいねー! なんだったら私が直接会って依頼するから決まったらいつでも言って!」

 

「わかった。考えがまとまったらアーヤちゃんに連絡するね」

 

 そんな風に静かに話すちょっと気弱そうな褐色白髮のツインテールでメガネっ子。身長は149リジュと小さいけどこの子こそ導力ゲームの生みの親として世間に認知されてるスーニャ・ハーンちゃん! この子も私のアラミス時代からの友達で同級生で私と同じ中東人でもある。そのルーツもあって虐められてたところを私が助けたんだよね。いじめっ子たちを止めようと飛び込んだら窓ガラスを突き破って3階から落ちちゃったんだけどそしたらいじめっ子たちが逃げていったし、それから近づかなくなった。そんな馴れ初めだけど昔から導力技術オタクでかなり頭が良かったから卒業して少しして一緒に導力ゲーム作ってみない? ってスカウトしたら来てくれた。そして今はサイードグループの導力ゲーム会社を任せてる。開発主任兼社長だ。ノバルティス博士とも上手いこと付き合ってるというか、博士のことをちょっと偏屈な技術オタクのお爺さんだと思ってて丁寧に対応してるみたいだから今のところ問題はない。むしろあるとすれば博士の方だ。《十三工房》に引き抜かれないように気をつけておかないとね。スーニャちゃん押しに弱いし。

 

「導力ゲームねー。最近流行ってるみたいじゃん。ウチのバンドメンバーも結構ハマってるし」

 

「ミャーちゃんはやらない? それか主題歌とか歌ってみる?」

 

「たまにならいいけどー。仕事も忙しいし。最近は歌以外にも映画とかも誘われるしさー」

 

「あーね。そういえば私も来てるよ、ゴッチ監督から。なんなら一緒に出てみる?」

 

「面白そうだけど演技したことないからダルいなぁ……アーヤちんはなんとなくできそうだけど」

 

「まあ私は演技も上手いからね! アナ先輩にも褒められたことあるし!」

 

「いや、演技というかアクション的になんだけどねー。あー……喉痛……昨日歌いすぎた」

 

 そして次はお馴染みの私の友達のミャーちゃんことミヤコ・ムジカちゃん! 1年生の時からの友達のバンギャ系の女の子だ! 卒業してからはバンドを始めて今はプロのボーカルをやってるんだよねー。イベントなんかでよく仕事を振ってるし、たまに私が鼻歌とか歌ってたりするとそこから着想を得て新曲とか出してそれが大ヒットしたりしてる。東方系のボーカルでここまで人気な人は初なんじゃないかな。友達として私も鼻が高い。

 

「あはは、みんなお疲れみたいだね」

 

「リタっちは元気だね! さすが現役Z1レーサー」

 

「アーヤちゃんには負けるよ。それとスポンサー契約してくれてありがとね。お父さんもすごい喜んでたよ」

 

「それなら全然気にしなくていいよー。友達を応援するのは当然のことだからね」

 

「あはは……そう言ってくれるのは嬉しいけどあたしも含めて最近のレノは成績がよろしくないから……会社的にはエトワスとかインゲルトとかの方が良かったんじゃない?」

 

「マクシム・ルーガンは確かに強いけどスキャンダル起こしてイメージ悪くなりそうだし、旧貴族派閥の影響力が強そうだからエトワスはちょっとねー。レッドスターも親会社が良くないから嫌だし、それならレノがいいかなって。インゲルトも中東系のアスラン選手がいて良さそうだけど私的にはリタっちも十分いけるって信じてるよ」

 

「おーアーヤちんが社長っぽいこと言ってる」

 

「こいつ、アホのくせにたまにこういうとこあるんだよなー……」

 

「あはは……そっか。なら期待に応えられるよう頑張ろうかな」

 

 そして4人目はこちらも1年生の時から同じクラスの友達のリタっちことリタ・アイバーソンちゃん! アラミス時代はバスケ部で一時期私も所属して一緒に全国優勝までいった時のメンバーだ! 現在は共和国4大ライセンシーの1つ《レノ》所属のZ1レーサーをしてる。昔っからフィジカルエリートだったからそれを活かしてるね。身長も178リジュもあって超でかいし。成績は若手としてはそこそこ。リタっちはこう言ってるけど別に悪くないんだよね。マクシム・ルーガンとかいういけ好かない人が強すぎるだけで。アスランっていう中東系の選手も強いし、Z1レースは結構魔境だ。一応レノのスポンサーになって応援してるけど結構歯がゆくもある。

 

 ──と、そういうわけで私の友達はみんなすごく頑張ってる。これがサイードグループ《BIG5》だ。私が勝手に言ってるだけで誰も呼んでないけどね。そもそも5人どころじゃないし。ここにいない友達もそれぞれ頑張ってる。

 

「そういえばセラさんとエレインちゃんは来てないんですか?」

 

「うん、セラちゃんはお仕事があってね。エレインちゃんも相変わらず誘っても仕事があるって断られちゃった」

 

「いやおかしいでしょ。なんで会長のあんたがここにいるのにセラの方が忙しいのよ」

 

「エレインちゃんはB級遊撃士だっけ。すっごい忙しそうだねー」

 

「そういえばこの間、街で見かけたけど確かに忙しそうだったかも」

 

 ……ってことでセラちゃんとエレインちゃんは欠席だ。なんならエレインちゃんは一度も来たことがない。ちょっと前に再会してからなんか距離を置かれてる気がする。うーん、やっぱ気まずいのかもしれない。エレインちゃんって理屈っぽいというか結構面倒くさいところあるからねー。

 まあそうなったのも学生時代の拗れに拗れた人間関係のせいだけどね。──そういえばそろそろかな。

 

「まあエレインちゃんは来ないけど、代わりにもう1人デリバリーとして呼んでるよ」

 

「デリバリー?」

 

「料理の出前ってこと? まだサービス始まってないでしょ」

 

「うん、だからテストも兼ねてね。──あ、来た」

 

 部屋のチャイムが鳴ったので私は受け取りに向かう。遠隔で玄関のロックを外して部屋にまで持ってくるように伝えると程なくして私の家にデリバリーがやって来た。

 

「……ほら、持ってきてやったぞ……」

 

「お疲れー、ヴァン」

 

「え? ヴァン?」

 

「ヴァンって確かあの中退したエレインさんの元彼の……?」

 

「うわ、懐かしっ。アーヤちん今も付き合いあったんだ」

 

「うん。良い取引相手だよ」

 

「誰が良い取引相手だ誰が! こんなパシリみたいな仕事頼むんじゃねぇよ!?」

 

「えー大事な仕事なのにー」

 

「こういうのはギルドとかに頼めばいいだろうが!」

 

「つまりこういうパシリ仕事は遊撃士にやらせればいいと……ギルド軽視発言は良くないよ、ヴァン。エレインちゃんが怒るよ?」

 

「そこまでは言ってねぇよ!?」

 

「まあまあそんなに怒らなくてもいいじゃん。依頼料もちゃんと払うし。幾らがいい? 10万ミラくらい?」

 

「くっ……う、ウチの依頼料は1時間1000ミラに諸経費その他だ……」

 

「えーもっと払ってあげてもいいのに。ヴァンってば謙虚だなぁ。それじゃあ……はい、2500ミラ」

 

「大企業の会長やってるお前と一緒にすんじゃねぇよ……このブルジョワめ……!」

 

「……下請け会社?」

 

「というより下僕みたいだね……」

 

「下請けでも下僕でもねぇよ! クソ……しかも誰かと思えば見たことある顔しかいねぇ……」

 

「同窓会の最中なんだけどヴァンも混ざっていく?」

 

「……女だらけの中に男1人で混ざれるわけねぇだろうが。気まずいにも程があんだろ……俺はもう行くぞ」

 

「そっか。そんじゃまたよろしくねー」

 

「頼むんならせめてまともな仕事にしてくれ……!」

 

 そうして私の頼んだデリバリーことヴァン・アークライドは不満そうにやって来ては去っていった。暇そうだったから空き時間でも出来る仕事を頼んだだけなんだけどなぁ。それにお金も毎回、多めに払ってもいいって言ってるのに頑なに基本料金しか受け取らないのがヴァンって感じだ。真面目で筋を大切にする。友達としての特別料金くらい受け取ってくれてもいいのにね。

 

 まあそれはそれとしてヴァンに頼んだ料理の出前をみんなで囲んで飲み会を再開する。私は酔わないから気分だけだけどこうして普通の日常を友だちと過ごすのは楽しい。

 ちなみにこの間は結婚式もあったし、トールズの同窓会もあったので教官として参加してきたし、分校の修学祭もあった。なので最近はこういう楽しい集まりが多い。

 

 というのもさっきも言ったけど裏の仕事があんまりないんだよね。トールズの教官業務もサイード社の仕事をするために有給取って今は数日だけとはいえ休んでるし、結社の仕事もそんなにない。なんでもオルフェウス最終計画の第3段階、《永劫回帰計画》ってのが始まるらしいけどその通達以外には何の音沙汰もないし、精々細々とした任務がたまにあるくらいだ。

 そして私がトップの《庭園》にしても最近は大人しい……気がする。いや組織運営に殆ど関わってない私から見てだから実際は忙しくやってるのかもしれないけどね。私がやったことって精々《血の庭園》でイクスやヨルダにエースくんに仕事割り振ったり、管理人たちに子どもの構成員にはちゃんと表の身分を与えて勉強はちゃんとさせるように伝えたくらいだし。それが守れてるかはわからないけど、守られてるなら多少はマシな境遇になってる筈だ。元の庭園よりはホワイトになってる筈。──それと余談だけどエースくんは普段《剣一うどん》っていううどんチェーン店の店長をやってる。うどん打つの得意だからね。不満もなく黙々とやってる。

 

 なので《庭園》も大人しい。帝国もイシュメルガがいなくなってトゥルーエンドだし、他の裏の計画といえば……この間グラムハート大統領に協力を要請された《スターテイカー計画》だか《レーヴァテイン計画》だけど……ぶっちゃけなんも分からんし何も言われてないから協力のしようがないんだよね……。

 まあ多分時期が来てないんだろうけど具体的な要望が言われないと動きようがない。というか何を協力させられるのかちょっと怖い。いざとなったらまた協力する振りして味方側の多分ヴァンたちに協力しようと思ってるけども。私の知識って黎2までしかないからもう全然わからないよね。メタ的な考察すると次も七の至宝のどれかが関係すると思うから次はなんだろ……時かなぁ……時って何するんだろ。ループとか? ゲネシスでループできるしね、確か。でもそれがどう関係して各勢力が何を考えてるかわからんから多分こうだろうって考察は無意味すぎて……。

 

 ──と、そうして色々考えてみたところで答えは結局出ないので割り切って出たとこ勝負でいこうと思ってる。まあようやく私もみんなと同じ土台でスタートするってことで良いんじゃないかな。

 

 なので未来のことは今は考えすぎないようにして、今はまだリィンくんとかロイドくんとか西側の英雄について考えてみる。この後って確か創の軌跡なんだけどその時期とかうろ覚えだし、そもそもの話──私が関わる意味ってある? 

 

 いやだって別に私がいなくても問題なくない? 普通に解決するだろうし。黒幕側の……確かエリュシオンだかイシュメルガ=リィンとかに協力する理由もないし、リィンくんたちに声をかけられたら少しくらい協力するのも吝かじゃないけど……私も忙しいしなぁ。やることと言えばすーちゃんとなーちゃんの回収くらい? サプライズでエースくんと合わせてみたいし、エンペラーは生きてるから動くかわかんないけど一応それくらいは止めに行ってもいいかもしんないってくらいかな。

 福音計画の時はレーヴェのために動いたし、幻焔計画ではリアンヌ様のために動いたけど今度は別に私がいてもいなくてもあんまり変わらないだろう。

 

 ──なのでとうとうそういう裏側の勢力にがっつり協力するムーブは卒業だ! 少なくとも創の間は! ばんざーい! しばらくは表の仕事を頑張るぞー! おー! まずはこの有給の間に納品を済ませて──……ん? メールが来た。相手は…………うわ、オジサンじゃん……嫌な予感しかしない……無視したいー……でもさすがに無視できないし……はぁ、仕方ない。見よう。えーと、内容は………………………………は? 

 

 私はオジサンから来たメールの内容を見て「何これ?」という感想を抱く。いや……どういうこと? つまりこれって……()()()()()()()()()()()()()()()()()……? いやでも確かに私的にもこれを放置は……! 

 

「どうしたのアーヤちゃん?」

 

「誰から仕事の連絡でも来たのかな?」

 

「こいつの知り合いって濃い奴ばっかりだからそっちの誘いなんじゃないの? なんか甲冑被ったままステーキ食べに来ていつも一番良いシャトーブリアンしか頼まない金持ちの変態とか」

 

「そんな人いるんだ……そこまでじゃないけどたまに来るオランピアさんとかすごく個性的なファッションだよね」

 

「甲冑といえばたまにレース見に来てるお客さんにすごくごつい甲冑の人が関係者席にいてびっくりしちゃったことあったなぁ」

 

「それで言うとなんかイケメンもいるよね。ミント髪の。もしかしてそっちからのお誘いー?」

 

「い、いや……そういうわけじゃないけど……みんなごめん! ちょっと私出かけてくるね!」

 

「あ、ちょっと……!」

 

「──ただいま……うわ、面倒くさ……また誰かお客さん来て……──!? あ、アーヤ?」

 

「うおっ!? ちょっ、おい! どこに行くんだよ!? ボクたち仕事を終えてこれから──」

 

「あ、おかえり! イクス、ヨルダ! 今度は私が出かけてくるねー! いってきまーす!」

 

 なので私はそれを見るとすぐに友達やセラちゃんに声をかけて、ちょうど帰ってきたヨルダにイクスも置いて飛び出すように向かうことにした。いつも通り内心で叫びながら──クロスベルの地に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──七耀暦1207年。3月15日。

 

 エレボニア帝国領。クロスベル市において、アルテリア法国からの承認を得たクロスベル自治州の再独立調印式が行われる運びとなった。

 

 ──だがマクダエル議長によるその調印の直前……突如として黒の衛士隊による襲撃が行われる。

 

「フッ……君は間違いなく“英雄”だよ。だが、もはやクロスベルには必要ない──舞台から降りたまえ」

 

「ッ──うおおおおおおっ!」

 

 そしてその襲撃者の中には帝国にて拘留されているはずのルーファス・アルバレアがいた。

 彼はその異様な力を以ってクロスベルの希望たる特務支援課を、ロイド・バニングスを一蹴する。

 

「──ご安心あれ、クロスベルの諸君! 最早この地に支援課も、警察も、警備隊すらも必要ない! これからは《黒の衛士》と──彼らがクロスベルを守る剣となろう!」

 

「え────」

 

「なん……だと……!?」

 

「お──おじさま!?」

 

 壇上に上がったルーファスが市民たちに向けてそう宣言すると、どこからともなく只者ではない者達が現れる。

 

 1人は謎の仮面と衣装を纏った謎の舞姫。

 1人は拘留されている筈の元猟兵にしてルバーチェの若頭、なぜか蜂蜜瓶を持っているガルシア・ロッシ。

 1人は元IBC総裁。クロスベル市長にしてクロスベル独立国の騒動を巻き起こしたディーター・クロイス。

 彼らの登場にリーシャが、ランディが、エリィが、それぞれ驚愕の反応を返す。

 そしてもう1人にしてもティオが言及した。

 

「な……なんで貴女がそちらに……」

 

 もう1人。謎の舞姫の隣に音も気配もなく現れた人物はフードと仮面で口元以外を隠し、中東風のゆったりとした衣装を、特務支援課も一度は見たことのある格好をしていて。

 そしてこの場にそぐわない朗らかな様子で特務支援課に挨拶を行った。

 

「やっほー。ティオちゃんにロイドくん。特務支援課のみんなも久し振りー。なんかまた大変な事態になっちゃったみたいだね?」

 

「──アーヤ、さん……?」

 

 ──その人物の名をティオが訝しみながら口にする。

 

 そう……ルーファス・アルバレアに協力する者の中には、伝説の暗殺者《切り裂き魔(ザ・リッパー)》が存在した。

 

「聡明なるクロスベルの民たちに感謝を──」

 

 そしてルーファスは舞姫によって市民たちを扇動し、《クロスベル統一国》独立の宣言を行う。

 英雄たちは再び、新たな壁によって道を阻まれることになる──。

 

「なれば今こそ、寿がせていただこう!! クロスベ『木綿豆腐統一国』──ふざけた国名を被せるのはやめたまえ!?」

 

「えー。そっちの方がお似合いなのにー」

 

「くっ……とにかくだ。《クロスベル統一国》! 大陸統一の第一歩を踏み出す、記念すべき独立の日を!」

 

「よーし木綿豆腐で麻婆豆腐作るぞー!」

 

「木綿豆腐に栄光あれ!」

 

「絹ごし豆腐反対!」

 

「木綿豆腐! 木綿豆腐!」

 

「だからやめたまえ! 衛士隊も何を影響されている!?」

 

「な、なんだこれは……」

 

「このノリ……まさか本当にアーヤ教官が……!?」

 

 ──突如として始まったふざけたノリを見たⅦ組関係者もまたその《クロスベル統一国》の独立を見届けることになり、彼らは皆慄いた。如何なる理由かは分からないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 




創の軌跡編の始まりということで今回はここまで。サブキャラはいつも通り軌跡シリーズ特有の感じでだいぶ変わりそうな黎の軌跡シリーズに備えてアーヤちゃん周りの解像度を高めるために出しました。なのでそんなに出番はない。
次回からは本格的に創の軌跡です。主に新生帝国ピクニック隊がメインです。お楽しみに。

感想、評価、良ければよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。