TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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新生帝国解放戦線に参加してる不幸

 ──その日、オレたちは奇妙な出会いを果たした。

 

 オレとナーディアが組織……《庭園》の追手から逃げる日々を送り始めてしばらく。

 オレたちは追手を撒くことを手伝ってくれた協力者のおかげもあってカルバード共和国からクロスベル自治州に辿り着いていた。

 

 クロスベルにやって来たのは組織の影響力の強い共和国から離れるためでもあったが、それ以上に世話になったヨルグ・ローゼンベルグの依頼を果たすためだ。

 そのためにオレたちはトランクを持ってクロスベルから夜のオーロックス渓谷道を行き、そこで今クロスベルを占領している衛士隊とかち合うことになり、それを迎撃。

 その後、突如現れた謎の戦術殻に襲撃され窮地に陥ったが……そこに現れたのが仮面を被ったあからさまに怪しい謎の男《C》であり、彼の助言と手助けもあって謎の戦術殻はオレたちを仕留めることなく逃げていった。

 

 そして直後にその《C》にトランクを奪われ、取り返そうとした矢先──彼がその《新生帝国解放戦線》の《C》だと名乗ったことでオレたちは武器を収める。

 

 何しろオレたちが受けた依頼も、このトランクを《C》と名乗る人物に届けること。

 その謎めいた依頼の情報を集めるだけでもかなり手間取ったが、こうして目的の人物と出会うことが出来たのは一応、運が良かったと言えるかもしれない。

 

 ……だがその後、トランクの中身の受け取りを確認して、オレたちは《C》の言うところの騒乱に巻き込まれ始めていることを知る。

 

「クロスベルと帝国をも巻き込む此度の騒乱──恐らくこの中に入っている“何か”はその核心に迫る“鍵”であろう」

 

 そんな風に《C》が言った直後、オレたちはトランクを開き、その中身の正体を知る。

 

「あなたたち──だれ?」

 

 それは、生きたローゼンベルク人形とでも言うべき代物だった。

 

 名前をラピス・ローゼンベルク。人形のようで人形じゃない──確かな自我と思考、そして感情表現を持つその不可思議な存在と邂逅し、困惑する。

 記憶も使命も何もかもを失くしてしまったという彼女に、《C》は自分と行動を共にするように言い、それが結果的にラピスの果たすべき使命に繋がるだろうと、己の目的を果たすためにそう唆す。利害の一致のために協力する……怪しすぎる風体ではあったが、その言葉自体に嘘はないように感じられた。

 だから信じたのか、ラピスもまたその手を取る。

 それを見届けてオレたちの依頼は達成。そのまま別れるつもりだったのだが……何の因果か、オレたちは《C》に雇われることになった。

《C》の提示してきた報酬の金額が桁違いだったこともあり、ナーディアが乗り気になったのが原因だが……それもまあいいだろう。この上なく怪しいことは確かだが、リスクに見合った報酬はある。オレたちが安全を手に入れるためには金も必要なものだ。

 

 ──ただ、オレたちは人を殺さない。その条件だけは付けさせてもらった。

 

 そして《C》もまたそれを承諾したため、オレとナーディアの2人は《C》の率いる《新生帝国解放戦線》として雇われる羽目になり、彼の導くままエレボニアの首都《緋の帝都》ヘイムダルへと向かうこととなった。

 

 そう。向かうことになったのだが……。

 

「──お次は左手をご覧ください、左に見えますは有名な百貨店《プラザ・ビフロスト》でございまーす。近くには最近流行りのカレーチェーン《ゼムイチカレー》もございますので昼食にいかがでしょうかー?」

 

「──いや、カレーは香りが服に付いてしまう。食事を摂るのであれば手軽なものの方が好ましい。そもそも近くにあのⅦ組がいるのではな」

 

「あ、了解でーす。それなら右側にある《エアウェイ》がおすすめですよー。サンドイッチチェーンで好きな具材をお好みで選べますし、食べ歩きにも適してますしー」

 

「ならそれにするとしよう。スウィン君も構わないかね?」

 

「……ああ……」

 

 ──なぜか俺と《C》の前には新たな同行者であるツアーガイドがいた。なぜかは俺にもよく分からない。成り行き上としか言う他ないからな……。

 

 というのも帝都に入ってすぐに俺たちの前に突如として現れたのだ。この褐色の女性、アーヤ・サイードという人物が。

 注意していたのに捕捉されたことに警戒する俺やナーディアだったが、向こうはかなりお気楽な様子で《C》に向かって「ちょっと協力させてもらっていいかな?」と同行を申し出てきて、《C》の方も少し考えた後にその申し出を了承したため、《新生帝国解放戦線》に加わることになった。

 

 ……そしてどう考えても怪しいのだが、雇い主が受け入れた以上、俺たちが文句を言う筋合いはない。なので早速《C》に言われるがまま仕事を共に行うことになったのだが、そこでなぜかツアーガイドの格好をして帝都を案内するという意味不明な行動に出たので俺は困惑した。ナーディアやラピスたちの方ならともかく、こっちでそんなことをされても困る。だが《C》が言うには「彼女にはこっちに来てもらった方がいいだろう」とのことだ。その上《C》は彼女の意味不明なノリに動揺せずついて行っている。もしかして知り合いなのかもしれない。彼女の素性について知っているようだしな。

 

 ただ俺たちとしても気になる。その鋏と糸と針を使った戦闘に憶えがあるからだ。そのため俺とナーディアはかなり警戒している。まさかこんなお気楽な人物が……と思いもするが、変装や演技は俺たち組織の人間であれば習得すべき技術。普段の言動がアレだからと可能性を否定することはできない。

 

 そのため俺としてもナーディアたちの方ではなくこちらに付いてきてもらって良かったとおすすめされたサンドイッチを食べながらそう思う。……確かに美味しいな。この店は共和国の大企業サイードグループの系列店だったか……サイード、か。やはり聞き覚えしかない名前だが、それがどういった意味を孕んでいるのかは分からない。

 

 ただどんな秘密が隠れているにしろ、俺はナーディアを守る。そのためにもこの任務を達成して、安全が得られるだけの金を得なければならない。

 

 ──そう決意し、俺は彼女を警戒しながら《C》と共にナーディア、ラピスと合流し、再び帝都の地下に潜り、夜になってから仕事を行おうとした。

 

 だがそこで──

 

「トールズⅦ組。よく私たちの動向を掴めたな」

 

「答えてもらおう、《C》……! お前は一体何者だ!? ──それにアーヤ教官も、何故彼らに協力しているんですか!?」

 

「あー……やっぱりそうなるよねー。あはは……」

 

 ──俺たちはトールズⅦ組。《灰色の騎士》率いる彼らと遭遇し、刃を突きつけられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ──どうもー! 私の名前はアーヤ・サイード! 執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》で《庭園の主》で《切り裂き魔》で昔は《砂漠の死神》とか《奇蹟の巫女》とか色んな名前で呼ばれてるサイードグループ会長で《SAID》のファッションデザイナー! ……改めて思うけど私って呼び名も肩書も多いなぁ……経歴濃すぎて自分でも困惑しちゃう。

 

 そんな私だけどまたしても肩書というかやることが増えちゃったんだよねー。諸事情もとい理由があって《新生帝国解放戦線》と行動を共にしてる。《C》とかいう謎の人物に用があったからね! なのでちょっとの間だけど《新生帝国ピクニック隊》に参加だ! すーちゃんとなーちゃんもいる! ラピスちゃんもいる! かわいいー! ちなみに私の名前はラピスちゃん曰く95点とのことでかなり高い。良かったー。今後も仲良く出来そうだね。スウィンくんナーディアちゃんはどっちも私のこと警戒してるし、なんだったらルーファ……《C》も警戒してないように見えてすっごい警戒してるけどそれもまあ仕方ない。色々と縁もあるしね。

 

 ただ私の目的を考えるとこの方が都合がいい。とりあえず今は一緒に行動しよう。後はタイミングを見てだね。なのでひとまずはツアーガイドになって帝都の美味しいグルメを紹介したり、帝都の地下で調べた情報を《C》に教えてあげたりした。

 

 そうしてピクニック隊との行動を楽しんで夜になったところ──

 

「トールズⅦ組。よく私たちの動向を掴めたな」

 

「答えてもらおう、《C》……! お前は一体何者だ!? ──それにアーヤ教官も、何故彼らに協力しているんですか!?」

 

「あー……やっぱりそうなるよねー。あはは……」

 

「それにあのルーファス・アルバレアにも協力しているとか……」

 

「アーヤ教官のことだ。何かしら理由があるのやもしれぬが……」

 

「一体どんな理由があんのか、聞かせて貰わねえとなぁ?」

 

「何をしようとしてるのか教えてもらうよー!」

 

「フ……名乗りが少し遅れたな。我々は──」

 

「《帝国華撃団》だ!」

 

「──違う。《新生帝国解放戦線》だ」

 

 うわ、冷静に素早くツッコまれた。──それはともかく予想通りにリィンくんたちが現れたね。やっぱいいタイミングで現れるよねー。今回のは《C》が呼びつけたようなものとはいえ《剣聖》の調査能力は伊達じゃない。私も元教官として鼻が高いね! 

 

 まあ協力してる理由とか問われて気まずいけど……うーん、どうしよう。さすがにちょっと早いかな……? 相手が相手だし、確実性を高めるためにもう少し待ってみよう。タイミングは計れるわけだしね。

 

「ごめんみんなー! まだ教えられないから逃げるねー!」

 

「っ……! 待て……!」

 

 なので戦闘が始まって少ししてからタイミングを合わせて逃げる。ピクニック隊としては逃げる感じだったからね。その通りにした。リィンくんたちにも帝都で起きてることを知ってもらいたいんだろうね。そのため完璧には痕跡を消すことはなくすたこらさっさと目的地点へ向かう。道中で黒の衛士隊を待ち伏せしたけどそれもまあ普通に制圧。みんな強いから楽だね! 

 

「さて、スウィン君にナーディア君、拷問の心得は? もしくはアーヤ君でも構わないが」

 

「……趣味じゃないが、一応のスキルはある」

 

「ん……こういうのは、むしろなーちゃんが得意だけど……なぜか拷問の心得があるっぽいあなたにやってほしさもあるかなー?」

 

「え? 私? いやいや、拷問なんて全然得意じゃないって。なんだったらすっごい下手だし苦手な方だよ?」

 

 そして制圧した衛士隊の1人から情報を聞き出すためか暗に拷問するように《C》が言ってきたけどなぜか私にまで拷問ができるかと聞いてきた。……もしかして勘違いしてる? 私は確かに裏社会歴長いけどあくまで暗殺者よ? 一思いに殺すことはできても無駄に痛めつけたり苦しませるのはそんな得意じゃない。毒とか使えばいけなくはないし基本は《月光木馬團》時代に教わってるけど好きじゃないし苦手分野だった。教団関係者相手を殺し回ってる間に情報を聞き出すためにやったこともあるけどそれも話す人間が出てくるまで1人ずつ殺していくっていう数打てば当たる運ゲー拷問しかやってなかった。ほんと出来なくはないんだけど得意じゃないんだよね……血って結構ばっちいし素材とか生地から対策してるとはいえ服が汚れちゃうから洗うの面倒だし、そもそもやってるこっちが見てて痛そうだからほんとやりたくない。

 まあやれと言われればやれなくもないけど拷問スキルは並以下だから得意な人がやったほうがいいと思う。

 ただ子供にやらせるのもちょっとなーと思うけど本気ではやらないはずだし拒否しとこう。

 

「……へぇ~、下手で苦手か~。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それならしょうがないね、今回はなーちゃんが担当するよ」

 

「うっ……い、いやーそれはなんというか……」

 

「フ……墓穴を掘ったな」

 

「うっさい! というかそっちが振るからなんだけど!」

 

「それはすまなかったね」

 

 そしてその後はナーディアちゃんによる拷問のやり方講座が始まってそれに恐怖した衛士隊が全部吐いた。うわぁ……本当にやったことあるのかな。だとしたら闇が深い。地味に私のせいでもあるから何も言えないけど……でも庭園の子供たちを教育してるのって元《月光木馬團》の人だろうから私も習ったことはある筈なんだけどそれよりもエグいね。あえてこれからやることを聞かせて心を折るやり方は私も覚えはあるけどナーディアちゃんはそういう脅しが得意みたいだ。闇が深いけど怖可愛くはある。実際にはやらないだろうから良い塩梅だね。スウィンくんの方は実直でシンプルに戦闘スキルが高いしメンタル面で強そうだからほんといいコンビだ。その後出てきた幻獣相手の戦闘でも思ったけど息が合いすぎてて後方腕組お姉さんになってしまう。庭園でまさかこんな尊いペアが出来てしまうなんて……やってることはアレだけどこの2人のカップリングが生み出されたのはまさに不幸中の幸いだ。

 

「こんな所に出るとは」

 

「これで逃げ切れたかな?」

 

「なーちゃんもう疲れた……」

 

「アヤタミンC飲む?」

 

「すっごい怪しいけど……どんな効能なの?」

 

「普通の栄養ドリンクだよ。成分は企業秘密だけど効果は高くておすすめ! 一本300ミラでCP50くらい回復するよ!」

 

「何を言ってるか分からないが確かにすごそうではあるな……」

 

「シュワシュワしてて美味しい~!」

 

「……多飲はおすすめしないが……まあ少しくらいならいいだろう。私は遠慮させてもらうが」

 

 ──と、そんなこんなしてる間に墓地に辿り着いた。以前クロウくんの墓があったところだね。今は撤去されてるけど。

 ただこんなところだからこそ待っていたのはその噂の人物で。

 

「おっと、これ以上は行かせないぜ、《C》」

 

「──クロウ・アームブラスト」

 

「さすがに俺のことは知ってるか、“先代”としては嬉しいぜ」

 

「ジュライでのいざこざで、もうしばらくはこっちには戻れないと踏んでいたが」

 

「あっちも確かにまずい状況だが、ひとまず弟分に任せておいた。頼りになる後輩がいるってのは有難いことだぜ」

 

「うんうん、スタークくんは優秀だからね。なんだったら勉強はクロウくんより全然できそうだし」

 

「お前はお前でなんで普通にそっちにいんのか理解に苦しむけどな……ま、どうせ何か理由はあるんだろうが」

 

 銃声一発と共に立ち塞がってきたのは初代《C》ことクロウくんだ。ちょっと前にあった同窓会の後、故郷のジュライ市国に戻ってた筈だけど同郷のスタークくんに任せて帰ってきてたみたいだね。

 

「オレたちの行動を読んで、ここで待ち構えていたのか」

 

「だれなの、この人? 予定になかったけど……」

 

「ラーちゃんの届け先だったかもしれない人。でも二年前の内戦以来そう名乗ったことはないから、候補から外したの」

 

「元テロリストで万年留年生で後輩から騙し取った50ミラの利子が膨れ上がってとんでもないことになってるお兄さんだよ」

 

「事実だがそう列挙されると普通に恥ずかしくなるな……」

 

「それで、肖像権でも主張するつもりかね? もしくは名誉毀損とでも?」

 

「そうしたいところだが、こっちとしてもちょっとした黒歴史でね。その仮面を見たら、思わず──ぶち壊したくなるんだよ!」

 

 おお! クロウくんが啖呵と共に得物のダブルセイバーで《C》に斬り掛かった! それを《C》が受け止める! 初代と二代目の対決! 中々かっこいいね! 鍔迫り合いが熱い! 

 

「君のあれよりはセンスのいいデザインだと思うのだが?」

 

「そういうのは本人が一番分かってないもんだ。後になって絶対に頭を抱えたくなるぜ」

 

「──いや、どっちもまあまあダサいよ? 少なくとも良い大人が着るものじゃないかな」

 

「……………………」

 

「…………ご忠告ありがとう」

 

 あれ? もしかして2人ともショック受けてる? 私なりの褒め言葉だったんだけど言葉間違えたかな。初代も二代目の衣装もダサカッコイイというか厨ニ的で悪くないよね。そりゃ流行りではないし街を普通に歩くのに適してはないけど悪役で出てくる衣装としてはワクワクするし。よく言ってるけどどんなコーディネートも衣服も似合う人、似合う時、似合う場合があるから。正体不明のテロリストのリーダーとしては良いと思う。私の会社の既製服のデザインを担当してるルーナちゃんだったらすごいダメ出ししそうではあるけどね。「は? なんですかそれ? 痛すぎでしょう。そんな服着て恥ずかしくないんですか? ボクだったら死にたくなりますけど」とか言いそう。毒舌だからなぁ、良い子なんだけどね。

 ちなみにクロウくんの黒歴史はどっちかっていうと《蒼のジークフリード》の方が私的にはアレだと思うけどそれを言ったら更に傷つきそうだから今はやめとこう。

 

 まあそれはともかくだ。スウィンくんにナーディアちゃん、ラピスちゃんも仕掛けてクロウくんを囲んでた。特に《C》は背中に剣を突きつけてたけど……気配的にこれで詰みじゃないよねって。

 

「君の負けだ」

 

「いや、時間は十分に稼いだ。俺の勝ちだぜ」

 

「──クロウ!? どうしてここに?」

 

「やっぱりあの《C》はクロウじゃないんだね!」

 

「時間を掛けすぎたか」

 

 その時、タイミングよくリィンくんたちがやってきた。うーん、これで形勢逆転だね。

 

「話は後にしてくれ、まずはこいつらを倒すぞ!」

 

 そうして始まる戦闘──って、うわああああああ!!? 当たり前だけどリィンくんもクロウくんも普通に斬りかかってくるー! キツイー! 特にリィンくんはもう《剣聖》だからヤバい強い! まあ実戦授業でやり合ったことあるからわかってたけど! 強さでも数でも負けてるし普通にキツイよー! うわーん! 

 

「そこだ!」

 

「待ってたよ!」

 

「もらった!」

 

「クッ!」

 

 おお! クロウくんが牽制し、ミリアムちゃんが追い詰め、ユーシスくんが決める! 連携が完成されてるね! さすがの《C》もこれには仮面を割られる! ついに正体が判明する! その仮面の内側にある秘密とは!? 次回、ルーファス・アルバレア死す! デュエル・スタンバイ! 

 

「──やれやれ、こうも早くバレてしまうとはね」

 

「なっ!?」

 

「……やっぱり……」

 

「また成長したな、ユーシス。リィン君たちも」

 

「兄上──!!?」

 

「ルーファスだ!!」

 

 ──そう。割れた仮面から出てきたその正体はルーファス・アルバレア。《クロスベル統一国》の総統をしてる筈の人物で、元は《鉄血の子供たち》の筆頭……その登場にみんながすごく驚く。

 

「おいおい、こりゃさすがに予想外だぜ!」

 

「クロスベルにいるはずじゃ……!?」

 

「だからアーヤ教官もこの場に……?」

 

「てっきりサイードの方だけ来てたと思ってたが……」

 

「ルーファス元総督…………いいえ、“ルーファス新総統”! どうしてあなたがここに?」

 

「残念ながらその肩書きは私のものではない」

 

「どういう意味ですか、兄上!」

 

「あとは自分たちで考えたまえ。私にも私の“宿題”があるのでね」

 

 そうしてリィンくんたちが問いかける中、《C》ことルーファス・アルバレアは逃走を図る。遠くから飛空艇の音も聞こえたしね。

 だからまあ私も──

 

「来たか。ちょうどいいタイミング──」

 

「えいっと」

 

「──っ……!!? くっ……!」

 

「え……?」

 

「アーヤ教官!?」

 

 ──その意識の切り替えの瞬間。私は()()()()()()()()、自然にルーファスの背中に一瞬で踏み込んで一閃。《ゾルフシャマール》でその身を切り裂く。

 

「っ……!? 何を……!?」

 

「やっぱり、何か企んでたんだね……!」

 

「ええっ!? そ、そうなの!?」

 

「あーうん。そんな感じかな? だから逃さないよ」

 

 リィンくんたちだけじゃなく、ピクニック隊の3人も驚く中、膝を突くルーファスを逃さないように私は得物を構える。その上で周囲のリィンくんたちに声をかけた。

 

「ってことでリィンくん! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「あ、アーヤ教官……一体何を……あなたはルーファス新総統に協力してる筈では……!」

 

「それに兄上を殺害するなど……一体どういうことですか!」

 

「うん、まあ協力も間違いないんだけどそこはなんか色々理由があってね。私はこのルーファスを殺さないといけないんだよ」

 

「どういうこと……?」

 

「確かにあんなことをしでかした奴なら狙う理由も分からないでもねえが……」

 

「ルーファス総統の暗殺のため……? いえ、ですがそれにしても……」

 

「なんかいつにもましていきなりだねー……言ってるように何か理由でもあるのかな?」

 

「まあまあ、それは後で教えられる時になったら教えるよ。だからまあ協力しなくてもいいけど……邪魔しないでね?

 

「っ……!?」

 

「この殺気……本気か……!?」

 

 ありゃ、みんな思ったより困惑してる。うーん……ま、いっか。ルーファスを逃さなきゃそれで。みんな味方ではあるし、逃がそうとはしないだろう。

 

「……っ……やはり、君の方は……」

 

「おっと。お喋りはなしね。──それじゃばいばい」

 

 なので私はさっさとルーファスに向けて刃を振り下ろす。標的を前にいつまでもだらだらとお喋りはしないし、やれる時はさっさとやる。暗殺者として昔から徹底してることを今回も徹底する。だから拷問とかも苦手なんだよね。

 

「っ……ルーファス──!」

 

 そうして私はラピスちゃんとかが手を伸ばすのも無視してルーファスを暗殺する。それこそが私の目的だから。可哀想だけど容赦はせずに、その首をちょん切ってあげようと──

 

「──待ったあああああああ!!」

 

「!!? …………え?」

 

 ──その瞬間、大声と共にその場に割って入るように刃を合わせてきた相手に私は驚き、そして思考を停止させる。

 

「なっ……!?」

 

「こ、これは……」

 

「嘘だろ……」

 

「冗談キツイぜ……」

 

「ありえません……」

 

 ──リィンくんたちも同様に驚いている。だけど私の驚きはそれ以上だった。

 私の刃を止めた人物。私の目の前に立ち塞がってる人物。私を見て何とも言えない表情をしてるその人物は、私が知っている人物だったから。

 なのでゆっくりとそれを理解しながら口を開く。毎日鏡で見るその人物に、私は声を大にして──

 

「わ……私が2人いるー!!? うわあああああああああん!!」

 

「うわあああああああん──じゃないっ!! こっちの台詞!! 本当に偽物がいるんですけど!! 最悪最悪! 絶対に許さないから! オランピアちゃん!」

 

「……はい。戦闘開始します」

 

「へ?」

 

 ──ふ、二人目の私がいる!! なんでー!? と、思ってたら今度はオランピアちゃんまで襲いかかってきたー!? うわーん!! 痛いよー! なんでー!? も……もしかして……私の模倣擬態(シミュラクラ)!? それとも私が模倣擬態(シミュラクラ)!? どっちかわかんない! 怖いんだけど! 

 

 ──いやまあそれはどっちでもいいけどね。切り替えてやるべきことを全うしないと。……でもそれはそれとして私とオランピアちゃんの相手はキツイし痛い! いやー!? イシュタンティ強いー! やめてー! うわああああああああん!! 

 

 

 

 

 

 ──どうも!! アーヤ・サイードです!! 私が本物です!! やっと見つけた!! オジサンからのメール見てクロスベル独立の調印式に現れたどう見ても私な《切り裂き魔》を見て速攻で準備してクロスベルに向かったけどそっちには私の偽物がいないのを確認してめちゃくちゃ苦労して行方を追ってここまで辿り着いたけど本っっっっ当にめんどかった! 全然痕跡残さないし隠れて行動してるだろうから目撃情報も全然なかったし! おかげで普段はやらないようなあらゆる手段を使って探す羽目になっちゃったし、その上なんか《切り裂き魔》としての姿を隠した衣装じゃなくて普通に顔出ししてるし! そんなことされたら私の印象悪くなっちゃうんですけど! なので全力でぶっ壊す! どうせ模倣擬態(シミュラクラ)でしょ! 技術的特異点(シンギュラリティ)の高度なAIエリュシオンが作り上げた本物そっくりの機械! 本来はすーなーに殺されたエンペラーの筈なのに死んでないからか私を再現したとかそんな感じなんだろうけど迷惑すぎるッピ! 

 

 そんな訳だから《庭園》を動かしつつオランピアちゃんを伴って偽の私を破壊しに来たんだけど──

 

「──今です」

 

「うわっ!?」

 

 オランピアちゃんのイシュタンティが凄まじい攻撃によって偽アーヤちゃんの動きを抑える。そのタイミングで私は《ゾルフシャマール》を首に振るった──よし、即死! 常人ならこれで……。

 

「うわああああん!!? 首切られたー!? 痛ーっ!! ちょっと! 首なくなったらどうするの!?」

 

 ──なんか普通に痛がって叫んでた。私はそれを見て思わず口にする。少し引き気味に。

 

「えぇ……なんで効いてないの……? 耐久高すぎて引くんですけど……」

 

「──そりゃお前のことだろ!!」

 

「……耐久力も本物に準拠しているようですね」

 

 なんかクロウくんにツッコまれた。オランピアちゃんも若干うんざりしてそうな雰囲気を感じる。いやいや、さすがの私も首切られたら死ぬんですけど……多分。切られたことないからわかんないけど。

 

「ど、どうなってるの!?」

 

「アーヤ教官の使う分け身……ではないようだな……」

 

「あまりにも本物に似すぎてる……ルーファス総督のそれといい、一体何が起こってるんだ……?」

 

「と、とりあえず加勢するべきでしょうか……?」

 

 いや、喋って相談してないで早く加勢してー! 気持ちはわかるけどさ! いやほんと硬すぎて引く……何このクソボス……早く削除してどうぞ。意味ないかもしんないけど確実にやるために刃に毒も塗ったのに全然効いてないし──ひっ!? 危ないっ! 咄嗟の攻撃が殺す気しか感じなくて怖い! 

 

「あーもう! そっちがそんなに寄ってたかってやってくるならヤバいことするからね! それが嫌なら私から離れるように!」

 

「ちょっ!? それ何のカプセル!? まさかオジサン特製のアレじゃないよね!?」

 

「ただの麻痺毒だよ! 教え子もいるしそんなの使うわけないじゃん! ──まあ強すぎて本当に何日も動けなくなるかもしんないけど……」

 

「こらーっ!? そんなもの使うなー!」

 

「くっ……マズい……! オレたちまで……!」

 

「毒まで持ってるなんて……! しかもあの人形使い……もしかして……」

 

「ど、どうするのルーファス!?」

 

「隙を見て撤退するしかあるまい……!」

 

「逃さないよ! ルーファス! 絶対殺──うわああああ!!? ちょっと! 人が話してるでしょうが!」

 

「だから殺そうとするのやめろこの馬鹿ー! いい加減倒れ──うわああああ!!? 危なっ!? 人を挟み殺そうとするなー! 私の偽物のくせに常識ないの!?」

 

「うるさいっ! 我は汝! 汝は我!」

 

「ぐぬぬ……! 愚かなレプリカアーヤめ……!」

 

「私は悪くない! 全部ルーファスって奴が悪いんだ!」

 

「!!?」

 

「飛空艇に戻ります! ここにいると馬鹿な発言にイライラさせられる!」

 

「変わってしまいましたのね! フルコースを失ってからのあなたはまるで別人ですわ!」

 

「私のフルコースは──

 

 前菜──アーヤちゃんお手製実家風シュクシュカ

 スープ──東方人街 《金華刀削麺》の真・金華刀削麺(辛め)

 魚料理──昔シズナちゃんと一緒に捕まえた大陸東部産穴子の穴子飯

 肉料理──《サイードホテル》総料理長アデーレちゃんの3種の特選肉ステーキ

 主菜──アーヤちゃん特製麻婆豆腐10辛

 サラダ──リベール産にがトマトと帝国東部ケルディック産トマトのWトマトサラダ

 デザート──ビストロ《モンマルト》の特製タルトタタン

 ドリンク──海の家《カーシャ》モルジア産フルーツのフレッシュミックスジュース

 

 全部揃ってるよ。お前はアーヤ?」

 

「ぐぬぬ……中々やるね。私は──

 

 前菜──ビストロ《モンマルト》のオムライス

 スープ──クロスベル湾港区の麺処《オーゼル》のさっぱりトマト麺

 魚料理──《サイードホテル》総料理長アデーレちゃんの特上寿司のおまかせ

 肉料理──フレディくんが料理コンペで披露した幻のジビエ“アヌアグマ”のしゃぶしゃぶ

 主菜──アーヤちゃん特製カレー10辛

 サラダ──トールズ第Ⅱ分校学生食堂のごろごろポテトサラダ

 デザート──中東産のラクダミルクで作るラフルドミルクパイ

 ドリンク──首都イーディスの移動式バー《SHINO's BAR》のシノズミックス

 

 こんな感じかな。私はアーヤ?」

 

「ぐぬぬ……私も選ぶか迷ったものを的確に……偽物とはいえさすが私……!」

 

「なんだか見聞きしてるだけで頭が痛くなってきました……」

 

「大丈夫アーちゃん!? でも確かにアーヤVSアーヤってめちゃくちゃヤバいよ!」

 

「まさに悪夢だな……」

 

「色んな意味でな……もっとも、言ってる場合じゃねえが……!」

 

「ああ! アーヤ教官に加勢するぞ!」

 

 ──私は偽物にすっごい殺意のある攻撃を受けまくり、なんとか回避しながら破壊するために容赦のない攻撃を何度も加える。その間にⅦ組も加勢に入ってくるが、それすらも耐えて戦い続けてるのを見て私はドン引きした。えぇー……何これ……私ってこんなに強かったの……? どうやって破壊すればいいの……? 誰か教えて!!




今回はこんなところで。本格的に創の軌跡編の始まりです。次回はピクニックでデュバリィちゃんやレンちゃんも合流します。お楽しみに。

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