TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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ローゼンベルク工房を攻略する不幸

 ──その人はなんかおかしな人だった。

 

 その人の名前はアーヤ。誇り高きローゼンベルク人形である私の見立てだと名前の可愛さは95点ね! 格好もかなりおしゃれだし中々のセンスね。

 だけどその人は暗殺者らしい。《C》……ルーファスが雇ってスウィンやナーディアと同じく一緒に行動することになったんだけどその道中でいきなり襲われてまたいきなり2人目が現れて手助けされた。私もよくわかんないけど周りもよくわかってないみたいだった。

 しかもその戦いがなんかすごくて──

 

「ひいっ!? 急に後ろに!? 怖っ!? うわーん! 痛いんですけど! やめろこのアホー!」

 

「ひいっ!? 危なっ!? 首狙ってくるの怖すぎなんですけど! 偽物のくせに本物を殺そうとするなーっ!」

 

「に、偽物かもしんないけど生きてるんだから好きに行動させろー! 横暴だぞー! 偽物にも人権を! 自由を与えろー! ミュ◯ツーの逆襲を見なかったのかー! ──うわああああん!!? し、死ぬ!? 攻撃に殺意ありすぎて怖い! 逃がしてー!」

 

「うるさい! バーカバーカ! あの神映画と一緒にするなー! アーヤツーは語呂が悪いだろー! この世から消し去ってやる! ──って、うわあああん!!? なんで不意打ち気づけるの!? ひっ! し、死ぬ! もうこっち来るなー! 逃がしてー!」

 

「な……なんだこの戦いは……」

 

「戦いの内容は高レベルなのに口喧嘩が低レベル……」

 

 ……な、なんかすごい! お互いに消えたり分身したり罵りあったり互いに怯えながら戦って互いに逃げようとしててスウィンとナーディアの言う通り、私たちにはついていけないかも……! 

 

 それでもルーファスが予め用意してた飛空艇に乗り込んで私たちはなんとか逃げられた。その時に本物のアーヤの方も付いてきて改めて自己紹介することになった。その時にアーヤがどんな人なのかも教えてくれた。

 

「──結社の執行者!? それにあの《切り裂き魔》だって……!?」

 

「うん。執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師(ブラッドクチュリエール)》って呼ばれてるよ。後者の方はちょっぴり黒歴史だけどね」

 

「? それって何なの? なんとなくすごそうだけど……」

 

「裏社会じゃかなりヤバい組織の最高位エージェント……裏のエリートみたいなものだね~。そして《切り裂き魔》の方はとびきりヤバい伝説の暗殺者かな」

 

「で、伝説って……どれくらいすごいの?」

 

「かつて大陸中で数百人、あるいはそれ以上の数の暗殺を行いながら切り裂いた傷痕以外の痕跡を一切残さなかった逸話を持っている」

 

「狙われた人間は絶対死ぬって裏の間でも有名だしなー。ジンゴも初めて見た時は死ぬ覚悟でロケラン突きつけたけど勝てる気は全然しなかったなー」

 

「そ、そんなにヤバいんだ……」

 

「いやいやいや! そんなやばくないない! 今はもう殆ど暗殺やってないし全然大したことないから!」

 

「そうなの……? じゃあもう殺してない……?」

 

「バリバリに暗殺者やってたのはもう10年前くらいだからね。今は年に数人くらいしかやってないよ」

 

「や……やってるんだ……」

 

「じょ、冗談冗談! 一応言っとくと……やるとしても本当にヤバい人しかやらないから!」

 

「言い訳になってないんだが……」

 

「まさかあの《切り裂き魔》がこんな人だったなんてね~。(しかもまだそれだけじゃなさそうだし)」

 

「……まあ素性についてはともかく。問題は彼女と私は同じ問題を抱えているということだろう」

 

 そうしてアーヤのすごさを教えてもらった後、ルーファスとアーヤは同じ問題……偽物がいるって話を改めて説明してもらった。

 クロスベルにいるルーファスは偽物。そして本物のルーファスを暗殺しようとしてきたさっきのアーヤは偽物。

 その偽物も含めたクロスベルの問題や後始末をするためにルーファスは動いてるって話で、そのために私やスウィン、ナーディアにも協力してもらうってことで話はまとまったわ。

 

「なら私も協力するよ! あの偽物を私も始末したいからね!」

 

「……私としては君の協力を得られるなら願ったり叶ったりだが……」

 

「じゃあ決まりだね」

 

「……その前に1つだけ聞かせてもらいたい」

 

「何かな?」

 

「君はもう……いや、あれだけの事をした私に敵意は抱いていないのかね?」

 

「? 別になんとも思ってないよ。まあ色々あったけど終わり良ければ全て良しってことで互いに水に流していいんじゃないかな」

 

「! ……そう、か」

 

「ってことでよろしくね!」

 

 そしてこんな感じでアーヤも一緒に行動することになった。伝説の暗殺者だって話を聞いた時はちょっと怖かったけど話してみるとセンスのある明るいお姉さんって感じだし一緒に遊んだら楽しそうかも。

 だから解散してからアーヤも含めてみんなに話しかけに行ってみたんだけど……。

 

「──単刀直入に聞かせてもらう。あんたたちは……“組織”の関係者なのか?」

 

「え?」

 

「…………」

 

 ナーディアと一緒にいるスウィンがアーヤともう1人……あの後一緒に船に乗り込んできた、確かオランピアって人にそんな質問をしていた。

 

「えーっと、なんでそう思うのかな? 執行者って名乗った筈だけど……」

 

「確かにそう聞いたけど……あなたの戦い方、なーちゃんたちには覚えがあるんだよね。その針と糸の使い方……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「加えてそっちのあんた……オランピアと呼ばれていたな。直接会ったことはないが、オレたちがいた場所にそんな名前のヤツがいた」

 

「話で聞いた特徴も一致する。だから無関係とは思えない」

 

「い、いやーそれはどうかなー?」

 

「…………それで、仮にそうだったとしたらあなた方の用件は何でしょうか?」

 

「用件? それが聞きたいのはむしろこっちの方だよ」

 

 そう言ってナーディアはあのおっきな針を取り出してた! 嘘!? ここで喧嘩しちゃうの!? 一体どうしちゃったんだろう……? 

 

「こんな風になーちゃんたちに近づいて……一体何が目的!?」

 

「オレたちを確実に捕らえるために闇討ちでもするつもりか?」

 

「いえ、その必要性は感じません。あなたたちを捕らえるなら正面から制圧すればいいだけですから」

 

「ッ……やはり……!」

 

「なーちゃんたちは絶対に組織に戻らない! 相手が“管理人”であっても絶対に逃げきるよ!」

 

 ……管理人? 一体どういう意味だろう……? って、気になってる場合じゃないわ! と、止めないと……! 

 私がルーファスを呼ぼうか、それとも私が直接止めに入るか、そうやって判断に迷った時だった。

 

「こらこらこら、喧嘩はダメだよ」

 

「んぐ……」

 

 ──アーヤがオランピアの口元にタコさんウインナーを押し付けた。

 

 オランピアの方が口を開けないからほっぺたに押し付ける形になってるけど……もしかして食べさせようとしたのかな。そういえばなんだか良い匂いがする! 

 

「……何をしているのですか?」

 

「明日のお弁当のおかずだよ。はい、あーん」

 

「…………」

 

「あーん」

 

「……あーん」

 

 ……た、食べた! 美味しそう。私もちょっと食べたいかも……。

 

「どう? 美味しい?」

 

「……そこそこの味ですね」

 

「よしよし、これで明日の準備はばっちりだね」

 

「な、何を……」

 

「……一体どういうつもり?」

 

「まあまあいいじゃん。オランピアちゃんも喧嘩するつもりないみたいだし。──ね? オランピアちゃん」

 

「……ええ、この場であなたたちを拘束するつもりも危害を加えるつもりもありません」

 

「何だと?」

 

「そんな言葉をなーちゃんたちが信用するとでも?」

 

「どちらでも構いません。クロスベルに着いたら私は離れるつもりです。あなた方が何もしなければ何事も起こりませんよ」

 

「オレたちが何もしなければ……」

 

「大人しくしてろってこと……?」

 

「こちらから仕掛けるつもりはない、ということです。他にやることがありますから私はそちらの仕事をこなすつもりなので。──もっともそちらから仕掛けてくるならついでに片付けさせてもらいますが

 

「……!」

 

「ってことはあなたはやっぱり……」

 

 そうして嫌な間というか空気が流れる。無言で牽制しあってるような、私には分からない何かを理解し合っているような……。

 

「ま、まあまあ。これでお互い喧嘩する理由はないってことで……えっと、夜食でも食べる? トランプとか《VM》でもやりながらさ」

 

「いや、こっちとしてはあんたのことも気になるんだが……」

 

「私はなんていうか……あ、でも私の戦い方は2人と同じところで習ったわけじゃないよ!」

 

「ええ。それは事実ですね。むしろ()()()()()()()()()()()()()

 

「! 本当、なのか……?」

 

「伝説の暗殺者の戦い方を……まあ確かになーちゃんとはほんの少し違うし、嘘じゃなさそうだけど……」

 

「あはは……それじゃまあそういうことで。オランピアちゃんはすぐに帰るから2人も安心してよ。私は2人の味方だからさ!」

 

「……わかった。今はとりあえずあんたの言う通りにする」

 

「信用はできないけどね~。あの元総督さんと同じで」

 

 そんな感じで一応は話がまとまったみたい。スウィンとナーディアは警戒しながらも離れていくアーヤとオランピアを何もせずに見送った。ものすごく強いみたいな話だったし、戦ったら大変なことになっちゃいそうだからちょっと安心かも……。

 

 そしてその後はスウィンとナーディアにも話しかけ、アーヤにも話しかけたんだけど……。

 

「よく来たねラピスちゃん! さあ遊ぼう! 私はファッションデザイナーだからね! ラピスちゃんに似合う服はいくらでもあるよ! ヨルグおじいちゃんのとこで人形の服作りもしたことあるからね! 着せ替えさせてあげるね! 正統派のゴシック系も良いし、あえてカジュアルな格好もありだよね! それかマニアックにセーラースク水とかも……」

 

 ──アーヤは私に会うなり色んな服を鞄から取り出して見せてきた。アーヤはすごい有名なファッションデザイナーでマイスターヨルグとも知り合いみたい! すっごい可愛くてセンスの良い服をいっぱい着せてもらった! やっぱりすごい良い人かも! 他にも色々遊んでもらったし、アーヤとはその一晩だけですごく仲良くなった。

 

 

 

 

 

 ──巻きますか? 巻きませんか? 私は巻きたい。ごきげんよう、アーヤ・サイードです。いやー、昨日は大変だったね。私の偽物は現れるわ、スウィンくんとナーディアちゃんには疑われるわで……とはいえラピスちゃんといっぱい遊べたからオールオッケー! オランピアちゃんも情報を探るためにさよならバイバイしたし、新生帝国ピクニック隊始動だ! 

 

 ……とはいえまだスウィンくんとナーディアちゃんは地味に警戒してるっぽいけどね。表向きにはそんな感じしないけど気を張ってる感じがする。さすがにあれだけじゃ完全に警戒は解かないみたい。さすがは庭園の暗殺者。嘘は言わなかったけど本当のことも言ってないから仕方ないんだけどさ。

 でも私が《庭園の主》です、なんて言ったら色んな意味で大変なことになっちゃいそうだし、そのうちエースくんと合わせてあげるから許してほしい。許さなくても別にいいけど。

 

 まあでも行動に支障はない。なので私たちはクロスベルに降り立つなり、市内の探索を行った。ルーファスは《LAMDA》でステルスした状態だ。その機能便利だよねー。完璧ではないけどお手軽でさ。私のちっちゃい頃にそれがあったらもっと色々と楽だったかもしれない。技術がなくても隠れられるってのがいい。

 

 そして市内の探索中に偽物のルーファスも見たけどやっぱり私の偽物同様そっくりだね。おまけにディーターさんに蜂蜜瓶を携帯してるガルシアもいる。懐かしいなー。ツァオはいつも通りうさんくさい。というか気づかれてるのがなんか嫌。私1人だと気づかれないんだけどさすがに他の4人は難しいよね。仕方ないから責める気は全くない。でも……。

 

「……なんだったら今、偽ルーファスさくっと不意打ちしてこようか?」

 

「ええっ!? で、できちゃうの?」

 

「さらっとすごいこと言うな……」

 

「さすがは伝説の暗殺者って感じだね~。ステルス機能も使ってないのにこっちの本物より上手に隠れてるし。いるって知らないと見失っちゃいそうなくらいには」

 

「ふふん。まあ隠れるのはちょっと自信あるからね。それでどうする? やってみる?」

 

「いや、やめておこう。君の腕前は信用しているが気がかりなこともある。成功が確実でない以上、ここは姿を確認できただけでよしとするべきだろう」

 

「ま、そうだね。それじゃささーっと別のところ行こっか。あ、そこの麺処《オーゼル》って屋台は超おすすめだよ! せっかくだし寄っていく?」

 

「緊張感がないな……」

 

「まあこれはこれで伝説っぽいけども……」

 

「私は行ってみたい!」

 

「どこに寄っていくかは君たちに任せる。物資、装備の補給や食事も必要不可欠だからな」

 

 なんて、隠れながらそんな会話をしつつ次の通りへ。ルーファスの判断ってなんだかんだ的確なんだよね。《鉄血の子供たち》の筆頭なだけあって統率力もあるし。自分たちが気づかれた以上、私の暗殺も十全じゃないってとこにも気づいてるみたいだしさ。

 まあ私ならそれでも一応試すけど今はルーファスがリーダーみたいなもんだしルーファスに従っとこう。偽ルーファスに鬼畜腹黒眼鏡と蜂蜜大好き熊さんを一緒に相手にするのはめんどいっちゃめんどいしね。なので麺処《オーゼル》でテイクアウトしてから歓楽街に。こっちはかなり黒の衛士隊が巡回してるから全員ステルスで行こうってなったので私も自力で消えることにした。それを見てすーなーが「LAMDAも無しにその隠形か……」とか「に、人間やめすぎでしょ。すごいを通り越してドン引きなんですけど……」とか言っててすごい引かれた。ラピスちゃんとかルーファスは「アーヤすごーい!」とか「ふむ、さすがだな。これならば見つかることはないだろう」って感心してくれたけどね。そこまで引かなくてもいいのに……。

 

 で、その後は歓楽街のモニターで偽ルーファスがクロスベル市民に向けて演説してた。内容は簡単にまとめると、世界情勢が不安だから《鉄血宰相》のように武力でゼムリア大陸を統一するぞー! 資源も分配して平和にしてやるぜ! 協力しない国には裁きを与えてやるぜ! ──みたいな感じだ。うーん、末世。とんでもないこと言ってるねー。クロスベル市民もさすがに困惑してるけど、ここで操られたイリアさん登場! クロスベル市民を舞で洗脳した! ルーファス総統うおおおおお! 市民からの支持を得た! なんて楽な政治なんだ。

 

 ……と思ってたらスウィンくんにナーディアちゃん。それにルーファスまでも意識が散漫になったみたいでラピスちゃんが呼びかけても応えなかった。

 

「あ、アーヤは……」

 

「私は全然大丈夫だから安心していいよ。他の3人はヤバそうだけど」

 

「じゃあどうすればいいの!?」

 

「大丈夫! 私にまかせて! ここはアーヤちゃんハリセンで全員シバいて正気に……」

 

「何が大丈夫なのかしら? レキュリア」

 

 あ、治された。私がハリセンを取り出す前に背後から見覚えのありすぎるすみれ髪の美少女が導力魔法を使って3人の異常を治すと「こっちよ!」って案内してくれる。なので私も付いていった。行き先はイメルダさんの店だね。裏のことにも詳しい魔女みたいなおばあちゃん。一回オートクチュールの依頼を受けたことがあるから実は知り合いだ。

 そしてそこにいたのがやっぱりレンだったから抱きついて再会を喜び──

 

「お久しぶりですね、先輩」

 

「わーい、レン──と、クローゼちゃん!? なんでここにいるの!?」

 

「先輩がそちらの総統に与しているとの情報を聞きましたので一緒にこさせてもらいました。事実なら捨て置けませんから。──でもその様子だと偽物のようですし良かったです」

 

「お、おお……そっか。まあそれならしょうがないかな?」

 

 ──なぜかそこにリベール王国の皇太女のクローゼちゃんもいた。次の女王なのにフッ軽すぎる……でも会えて嬉しい! なんでもちょうど共和国に来てて家を訪ねようとしてたところに同じく引っ越しとか色んな手続きのためにトールズを休んで共和国に来てたレンと合流して一緒にクロスベル入りしたんだって。すっごい危ないし護衛のユリアさんなんかは気を揉んでると思うけどクローゼちゃんも結構強くなってるし私が守ればいいから許してあげよう。わーい、私のかわいい妹と後輩だー。

 

「お知り合い?」

 

「互いのプロフィールを把握している程度さ。知り合いというならこの通り、アーヤ君の方だろう」

 

「私の可愛い妹と後輩だよ! 信頼できる2人だから仲良くしてあげてね!」

 

「信用できないあなたに言われてもな~……」

 

「くす、信用できない人の妹の方、レン・サイードよ。仲良くしましょうね」

 

「信用を失った人の後輩、クローゼ・リンツです。よろしくお願いします」

 

「私の信用のなさがすごい! なんで!?」

 

「ちなみにレンはヨルグ・ローゼンベルクの関係者よ。昔お世話になっていてね」

 

「私は、そうですね……あなた方と共通の知人で言うとアークライドさんにお世話になりました」

 

「! あの2人と……」

 

「なるほど。なーちゃんたちと同じだね~」

 

「ええっ、それで信用されるの!? じゃあはいはい! 私もヨルグおじいちゃんとヴァンと知り合いだよ! なんならマブダチだしね!」

 

「多分そういうことではないと思うがね」

 

「うう……暗殺者をやってる自分が憎い……というかクローゼちゃん、ヴァンと知り合いだったんだ?」

 

「はい。少し()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()。ユリアさんに仲介してもらって一度依頼をさせてもらいました」

 

「へー、そうだったんだ」

 

 そして互いに自己紹介をした。レンとクローゼちゃんが普通に受け入れられてるのに私が若干怪訝な目で見られるのはやっぱり昨夜のことや私のことを暗殺者として警戒してるからだろう。何かを隠してることも察してるんだろうね。とはいえ一緒に行動できないほどじゃないだろうけど……まあ信頼回復はこれからすればいっか。

 

 と、そんなわけでレンはヨルグおじいちゃんに頼まれてラピスちゃんに会って助けに。クローゼちゃんは私に会いに来てくれたってことで目的は同じなのでみんなでローゼンベルク工房にピクニックに行くことになった。

 

「新生帝国ピクニック隊、行っくよ~~!」

 

「変な名前付けるな!」

 

「お弁当にはおにぎりと唐揚げと卵焼きとミニトマトが欠かせないよね!」

 

「美味しそうね!」

 

「出発する前にもう1つ聞かなければならないことがあるがね」

 

 あ、それとさっきの広場でのことも話したね。レンが言うにはあれはやっぱり精神制御らしい。効果も広くて重ねがけできるというとんでもない術なんだとか。完全にかかる前なら導力魔法でどうにかなるんだって。でもそうじゃない場合は……。

 

「何回も繰り返された市民は、そうもいかないわ」

 

「そのトリガーとなったのはやはり──イリア・プラティエの舞い、か」

 

「片っ端からハリセンでシバいてく? それとも私が歌った“ラジオ体操第Ⅶ”でも流す?」

 

「──ハリセンは手間がかかるし、もしやるならラジオ体操がいいかもしれないわね」

 

「──それがいいですね」

 

「──ふむ……少なくとも洗脳は解けるかもしれない、か」

 

「いや何を言ってるんだ!?」

 

「もしかして全員頭おかしい人? だとしたらなーちゃんたち勘違いしてたかも……」

 

「どういうことなの、ルーファス?」

 

「フ……何、アーヤ君のやることであれば何か埒外の結果を引き起こせるやもと思っただけだ。そして私だけがおかしいのではなくこれは彼女に一度でも関わったものにとって当然の想定だとも」

 

「とはいえ何が起こるかは全く読めないけれど」

 

「多分、悪い結果にはならないと思います。ただ……」

 

「問題はもう1人の……偽物のアーヤ君の方か。確かにそれを考慮するのであれば不用意に動くのも……」

 

「まるで意味が分からない……」

 

「謎に信頼があるのが理解不能すぎてドン引きかも~……」

 

「でもなんだか楽しそうね!」

 

 なんかすーちゃんなーちゃんが疎外感を覚えてる気がするけど仲間はずれはよくないからやっぱ道中にいっぱい喋って仲良くなろう。お弁当も多めに作ってきたし良いピクニックになりそうだね! ──ちなみに頭の良い人たちが話し合った結果、ラジオ体操第Ⅶを流す作戦は現時点ではボツになった。いや、普通に大音量で流しとけば少なくとも曲は聞かなくてすむし、イリアさんの舞いも台無しになると思っただけなんだけどやっぱダメかー。そんなことしてもすぐにバレちゃうもんね。しょうがない。ハリセンならセドリックくんを殴った時みたいに状態異常解除できるかなーと思ったんだけど。それも1人1人やるのは大変だからやらなくていいならまあいっか。

 

「さて、準備が出来たら山道へ出るとしよう」

 

「マインツ山道は住宅街の北側ね」

 

 なんて、RPGらしい会話をする。西通りや住宅街にはユウナちゃんの弟と妹のケンくんとナナちゃんがいたのでちょっと挨拶して服をプレゼントしたり、以前のクロスベル滞在時にお世話になったベーカリー《モルジュ》があるのでパンを購入したりして準備万端だ。なのでみんなでそろそろローゼンベルク工房へ……………………ん? 

 

 ピクニック隊の面々がマインツ山道方面に足を向けたその時。私の感覚にほんの僅かな違和感を感じた。なんて言えばいいかな。私にしか分からないような、なんか私が好むような空気感と言うか……若干変な感じで──

 

 ──と、その時。私の視界の端に()()()()姿()()()()()。私と同じ背格好で、何の殺気も敵意もない。強者特有の気配もなく、無害かつ存在感もあまりない。すれ違っても気に留めない。あるいは脅威と感じないようなそんな振る舞い。歩法でちょっぴり駆け足。そして間合いに入った瞬間に一気に踏み込み──

 

「──! ルーファス!」

 

「!?」

 

「えっ!?」

 

 ──私はその標的の名前を口にし、それよりも早くその凶刃を同じく《ゾルフシャマール》で防ぐ。

 

 そうして互いに距離を取りながら対峙した。冷や汗をかいて。

 

「あっっ……ぶな~~……! もう後一瞬でも気づくの遅れたら殺られてたかも……!」

 

「な、なんで気づけるの!? 私だから!? 気づけるとかおかしいでしょ! 私のバカヤロー!」

 

「アーヤの偽物か!?」

 

「なるほど……これは確かに厄介ね」

 

「はい……見た目や言動だけでなく、身のこなしや技術もそっくりそのままです」

 

「《切り裂き魔》お得意の辻斬りか……これほどとは」

 

 みんなもまた私の偽物が現れたことで警戒し、いつでも仕掛けられていいようにする。スウィンくんとナーディアちゃんもすぐに動いて得物を取り出した上で偽の私の退路を防ごうと背後に陣取った。だけど──

 

「き、気づかれたし撤退するよ! じゃあね!」

 

「くっ……! 待て!」

 

「逃さない……!」

 

「いやいや逃げるから! こんなとこでやり合いたくもないし!」

 

「ぐっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「スウィン! ナーディア!」

 

 逃走を防ごうと仕掛けようとしたすーなーコンビは偽物の振るう《ゾルフシャマール》であっさりと返り討ちにあっていた。えぇ……私強すぎ……一蹴しちゃってるじゃん……奇跡的にとはいえ《庭園》の管理人のエンペラーを倒せたくらいには2人って強いのに……。

 

「ごめんねー! 近くにおすすめのパン屋があるからそこでパンでも買って回復してね! それじゃバイバイ!」

 

 そして最後にそう言い残して偽の私はマインツ山道方面に去っていった。私は地面に膝を突いたスウィンくんに尻餅をついてるナーディアちゃんの下に駆け寄る。

 

「2人とも大丈夫?」

 

「ああ……すまない。大丈夫だ。だが……」

 

「あれで手加減してくれてたっぽいね~……二つの意味で子供扱いされてたかも」

 

「アーヤ君、すまない。君が気づいてくれなければ私は女神行きとなっていただろう。感謝する」

 

「い、いやいや、むしろ私の偽物がとんだご迷惑を……」

 

 ルーファスから礼を言われるという珍しいことが起きたので私も畏まる。そうして2人に手を差し伸べたんだけど、周囲では通行人がざわついていて。

 

「騒ぎになってしまいましたね」

 

「そうね。ひとまず衛士隊が駆けつけてくる前に山道に出ましょう」

 

 とまあクローゼちゃんとレンの言葉に従って私たちは市内から出て山道に出た。

 そこでようやく落ち着きはしたんだけど、偽物の私が襲撃してきてその上でこっち側に去っていったことを考えるとまたどこかで仕掛けてくるかもしれない。

 なので互いに得物を確認し、連携を取りつつ、警戒をしながらローゼンベルク工房に向かうことにした。レンは相変わらず大鎌を使ってて魔獣を即死させまくっててヤバいし、クローゼちゃんも太刀捌きにまた磨きがかかってる。剣速がすごい。なんでもこの半年の間にまた鍛えたとか。四の型《紅葉》の中伝かぁ……さすがに奥伝に至って《剣聖》にはならないと思うけどすごいよね。…………ならないよね? いやまあなってもいいんだけどさ。また圧が高まりそうでちょっと慄くというか……。

 

 ──それはそれとして。私たちはマインツ山道から道中のクロスベル大聖堂に寄りつつ、ローゼンベルク工房に向かおうとして……そこでルーファスが懐から謎の鏡の欠片を取り出して……あっ。これってもしかして……。

 

「ここ、は……?」

 

「──兄上!?」

 

「それにアーヤ教官も……!」

 

 ──不思議な造りの謎の空間。そこにはリィンくんたちⅦ組の一部にロイドくんたち特務支援課の一部に協力者がいた。それを見て私は内心で叫ぶ。

 

 し、《真・夢幻回廊》だー! 記憶は持ち越せないけどここで鍛えると現実でも強くなるし色んなエピソードが見れたりするエンドコンテンツ謎空間だー!! つまり好き放題できるぞー! やったー! 確か《黒の史書》の因果律なんとか機関が作り上げた空間であんまり覚えてないけど現実のことに悩まなくていい! ……って、あれ? みんなは思い出せないのになんか私は現実でのことすっごい覚えてるんだけどなんで? ──ま、いっか! いつものことだし! 

 

 なので私はその始まりの円庭で好きに遊び回った。アルティナちゃんにミリアムちゃんにティータちゃんに新しい可愛いお洋服を仕立ててあげようと身体のサイズを測ったり、リィンくんとロイドくんと一緒に釣りをして《ゴルドサモーナ氷室》を釣り上げたり、ガイウスくんとワジくんのバルクホルン神父の思い出話に参加してうっかり生きてることを漏らして驚かせちゃったり、ルーファスとクロウくんとユーシスくんの真面目会話にそれっぽく混ざって呆れられたり、レンとティオちゃんのハッキングゲームに混ざったらミラクルを起こして全員の端末から情報が消去されて引き分けになったのでそれを近くにいたレクターのせいに(中佐と少佐で私の方が偉いから)してみたり、幸いにもそれを見越してたレンがすぐにバックアップから復元してたけど。その後にアッシュくんとエマちゃんとキーアちゃんの読書に混ざってみんなに最近共和国で流行りの私の友達が描いてる漫画をおすすめしてみたり、エリオットくんとユウナちゃんとリーシャちゃんの和やかな会話に混ざってお弁当を振る舞ったり、ついでにまた成長してるリーシャちゃんのおっぱいを揉んだらクローゼちゃんに笑顔で怒られたり、アガットを《VM》でボコボコにしてクルトくんに感心されたり、久し振りにサラちゃんと勝負してクレアちゃんに審判を頼んだり、エリィちゃんにミュゼちゃん、エリゼちゃんとアルフィン殿下の勉強会に教師役として参加しつつ共和国の学校について教えてあげたり、新たな階層を攻略したり──とにかく色々と楽しんだ。

 

 そして楽しんだ後は頃合いを見て現実に戻ったけどやっぱり私以外は誰もそこで起きたことは憶えてなかった。それはそれとして成長してるし、これで少しは勝機が上がったねってことでようやくローゼンベルク工房に到着。既にヨルグおじいちゃんはお引越しして別のところに工房を移してるから放棄された場所だけど他の誰かが弄り回して利用してるって話だ。中には各種トラップに人形兵器も多数配置されてた。一体どこの博士の仕業なんだ……。

 

 更に道中の扉が一々ロックされてて他の場所にいる何者かと協力して解除しないといけなかったけどそれも問題なし。ロイドくんたちなら安心だよね。

 

「アーヤ君、少しいいかな?」

 

「? どうしたの? そろそろお弁当食べる? レクリエーション用にボール持ってきたけどキャッチボールもいいよね」

 

「ピクニックなら最適な持ち物だが今は遠慮しておこう。君の弱点を教えてもらいたくてね」

 

「えっ……そんなの言えないよ! ルーファスの変態!」

 

「断じて他意はない。君の偽物の対策を考えているのだが何かないかと思ってね」

 

「ああ、そういうことね」

 

 ──とかなんとか言いながらローゼンベルク工房を攻略してると道中でルーファスがそんな風に尋ねてきた。私の偽物対策の弱点……そう言われるといっぱいある気がするけど……。

 

「向こうの居場所が分からない以上、我々は必ず後手を取ることになる。何も対策無しでは如何に本物の君がいるとはいえ色んな意味で苦戦しそうなのでね」

 

「うーん、私の弱点かぁ……醤油差しに餃子のタレ入れられる事とか? 料理中に間違えて使っちゃうんだよね」

 

「料理中の嫌がらせとしては有効だろうがこの場合は使えないだろう。他には?」

 

「うーん……胡椒とか? いや、味とかじゃなくて胡椒の蓋開けるとたまにくしゃみしちゃうんだよね。毒ガスとかは平気なんだけどさ」

 

「毒ガスと胡椒の二択で胡椒の方が効果があるのは君だけだろうな。他には?」

 

「うーん……虫はあんまり得意じゃないよ。まあ砂漠のサソリくらいなら捕まえられるけど」

 

「それがいけるなら大して苦手ではないと思うがね。他には?」

 

「うーん……トイレ中にノックされる事とか?」

 

「まあ気を使う気持ちは分からなくもないが……。他には?」

 

「うーん……新しい戦術オーブメントが出る度に以前使ってたクオーツが使えなくなるの何とかならないの? 互換性があったら神なんだけど。中古クオーツもちゃんと売りに行かないとかさばっちゃうしさ」

 

「確かに少々面倒ではあるな。規格が違うそうだから仕方がないとは思うがね。他には?」

 

「うーん……良いところで終わっちゃう漫画とか?」

 

「共和国で最近流行っている絵物語か。私は読んだことはないが、大人の事情というものがあるのだろうな。仕方ないと諦めるしかないだろう。他には?」

 

「うーん……病院の待ち時間とか?」

 

「君の身体で医者が必要だとは思えないが……まあそういうこともあるのだろう。他には?」

 

「うーん……シミュラクラ現象とか?」

 

「どういうとこが苦手なのかね?」

 

「語感。何となく言いにくくない?」

 

「……そうか。他には?」

 

「うーん……親友のことを好きな人が以前に私のことをナンパしててそれがちょっと気まずいこととか?」

 

「そうなのかね?」

 

「うん、アントンって人なんだけど以前リベールに行った時にナンパされちゃって……ちょっとね」

 

「ふむ。恋愛の機微は私には何ともいい難いが確かに何とも言えない気持ちにはなるかもしれないな。理解はしよう。他には?」

 

「うーん……教団の人間とか? 見かけるとつい殺したくて仕方なくなっちゃうんだよね」

 

「先程までのノリと違ってシリアスな上に君の境遇を考えると重すぎることを唐突にぶっこまないでくれたまえ。他には?」

 

「うーん……プレロマ草のサラダとか?」

 

「それが得意な人類は存在しないだろうな。他には?」

 

「うーん……泣いてる子供に嫌な顔する人?」

 

「君の子供好きは美徳ではあるがそこを突くのは色々と問題があるな。他には?」

 

「あ、わかった! 性格が悪くて頭が良い眼鏡の変態!」

 

「……一応眼鏡でもかけてみるかね? 変態ではないが」

 

「多分あんまり意味ないんじゃないかな。ここまでの全部弱点ってほどではないし」

 

「……………………ふむ、そうか……」

 

「すごいな……盛大に時間を無駄にされたのにそれを指摘しないなんて……」

 

「というか地味にツッコミ上手くてなーちゃんびっくりなんですけど……」

 

「前に色々あった時に慣れたんだと思います」

 

「よく分からないけどすごいわね!」

 

「ふふん、そうでしょ?」

 

「褒められたのは総統さんの方でアーヤじゃないでしょう。……でも確かにアーヤの弱点か……難しいわね。大抵の事には耐性があるし」

 

 なんかそう言われると人外みたいでやだな……私だって立派な人間なのに……。

 

 でも弱点と言われてもすぐには思いつかない。苦手なこともあるけど対策になるかと言うと……うーん……あんまりないような……あれ? もしかして私ってかなり厄介? どうやって倒せばいいんだろう……斬ったり燃やしたりすれば普通に倒せる筈。今までも結構危ない場面はあったし。

 ただ問題はどこまで持ち込むかだろうね。普通にやっても直撃だけは避けてくるだろうからなぁ……痛手を与えて撤退させるにしても何かがないとっていうルーファスの懸念も分からなくもない。でも私って基本ビビリだからものすごい攻撃でもすれば勝手に逃げていくと思うよ? 我ながら情けない分析だね……でも本当のことだから仕方ない。

 

 あるいは隙を作るってなると……何か驚かせるようなことをすれば……贅沢を言うなら動きを止められる方法があればいいんだけど……。

 

「先輩の弱点ですか……」

 

 クローゼちゃんも真剣に考えてくれている。そんな凛々しい表情のクローゼちゃんもかわいいね。リベールの王女様がここまで付いてくるってのも改めておかしい気がする。私の偽物にやられないようにちゃんと守らないと。傷つけたくないからね。

 

 …………ん? そう思い返してみると……。

 

「先輩?」

 

「もしかして何か思いついたのかね?」

 

 みんなの視線がこっちに集中する。それを受けて私は思いついた作戦をしっかり考えた上で教えることにした。こうすればもしかしたら動きを止められるかもしれないし、隙もできるはずだという私の弱点を利用した作戦を伝える。みんな結構呆気に取られてたし呆れてた感はあったけどルーファスは一応了承してくれたのでそれを頭に入れながら私たちは最奥へと足を踏み入れた。

 

 ──ただそこで工房の仕掛けもあって見事に分断されちゃったんだよね。そういえばこんなこともあったかもしれないと私は純粋に驚いた。レンとクローゼちゃんと私。スウィンくんとナーディアちゃん。ルーファスとラピスちゃんの3組に分かれてしまったので、先に進んでから合流を目指す。

 

 そしてそこではレンの実の両親の本物そっくりの人形が出てきたけどそれはレンがスパッと切り裂いて解決。こんな悪趣味なことをする人なんて限られてるよねってことで呼びかけたら……。

 

「見ているんでしょう、《博士》?」

 

『おやおや、気づいたかね?』

 

 案の定、博士だった。音声だけだけど。なので私はクローゼちゃんに紹介しておく。レンの後ろでひそひそと。

 

「クローゼちゃん。この声の人が第六柱のF・ノバルティス博士だよ」

 

『フフ、リベールの皇太女もご機嫌麗しゅう。アーヤの方は先日振りだが、相変わらず──』

 

「ちなみに名前のFはふりかけって意味でね。3度の飯よりふりかけが好きで食卓にふりかけがないとキレ散らかす愉快なおじいさんだよ」

 

「なるほど……」

 

『なるほどではないっ! 適当な紹介をするな!』

 

「じゃあフリーランス・ノバルティスでいい?」

 

『自由業ではないっ! 結社に所属している!』

 

「ならフリスビー・ノバルティスだね。ピクニックの時にはこれがないといじけるし、投げてあげると喜んで取りに行って……」

 

『私は犬かっ! 勝手に変な名前を付けるんじゃないっ!』

 

「──とまあ見ての通り悪趣味だけどたまに可愛げのある愉快なおじいさんだよ」

 

「そうなんですね」

 

『だから変な紹介をするな! レン! 君も見ていないで止めたまえ!』

 

「そんな義理はないけれど、確かにそろそろ話しを進めておきたいわね。やっぱりこの人形も工房の仕掛けも博士の仕業でしょう?」

 

『ああ、わざわざ君のために用意したものでね。お気に召してくれたかな?』

 

「人形遊びはもう卒業したわ。レンはもう大人だから」

 

「大人になってからやると演技に熱が入って結構楽しいけどね!」

 

『それとも、今でもさっきのように殺したいほど、君を捨てたあの二人を憎んでいるのかな?』

 

「まさか。つい先日も食事に招待されたわ」

 

「ちなみに私は表の仕事で地味に付き合いがあるんだよね。ヘイワースさんって貿易商だからさ。先日も子供に洋服をプレゼントしてあげたし良い付き合いをしてるよ」

 

『ほうほう、それはよかった。──しかし、そうとわかっていれば、こんなオモチャではなく“本物”を用意したのだが』

 

「──あの家族に少しでも手を出してみなさい。レンは地の果てまであなたを追いかけて、肉塊の一欠片も残らないくらい殲滅してあげる」

 

『ハハッ、冗談だよ。研究の役にも立たないことをわざわざしたりしないさ』

 

「……ふう、博士は変わらないわね」

 

「冗談でも言っていいことと悪いことがあるよね。なのでペナルティとして今度博士の研究室をイカまみれにしておくから楽しみにしといてね」

 

『絶対にやめたまえっ!?』

 

「え、でも産地直送だよ?」

 

『採れたてならいいという問題ではないわっ! まったく……ところで、今更だが私のもとに帰ってくるつもりはないかね? 君ほど優秀な実験対象を手放したことは未だに惜しいと思っていてね』

 

「評価してくれてありがとう。でも帰るつもりはないわ。アーヤからも博士は最近オタクだから関わると等身大フィギュアにされるから気をつけてねって注意されてるし」

 

『オタクではない! アーヤ! レンに一体何を吹き込んだのかね!?』

 

「えー、でも博士って最近息抜きで導力ゲームやったりしてるじゃん。それと等身大フィギュアなら作ってるよね? 少なくとも関わりはあるみたいだし?」

 

『ぐっ……それは……』

 

「関わってるよね? 私的にはそっちのが許せないんだけどな」

 

『っ……こ、こちらにも客が来たようなので失礼させてもらう!』

 

 あ、逃げた。相変わらずだったね。博士らしいやり取りだった。──まあとにかく私たちの方の試練は割とあっさりクリアできたんでさっさと他と合流しよう。私の偽物も来てそうだしねっと……移動移動──他の4人はどうなってるかなーと……。

 

「なぜ……なんでお前が生きてるんだ……!?」

 

「生憎と我は一度も死んでいない。我がここにいることがその証拠だろう」

 

「ならなーちゃんたちを連れ戻しに来たってこと……?」

 

「それもある。だがあくまでそれはついでだ。君たちには是非とも我が下に戻ってきてもらいたいところだが、今は色々と都合も悪いのでね」

 

「都合だと……?」

 

「フフ、君たちが知る必要はないことだ。さて、そろそろ“試し”を終わらせるとしようか」

 

 …………あれ? なんでエンペラーがいる? しかも偽物じゃなくて本物の。いやまあすーなーを連れ戻しに来たんだろうけど……エンペラーには私の偽物を始末するための仕事を頼んだ筈なんだけど……あっ、それでクロスベルに来たからついでに2人の前にも現れたってことか。納得納得。

 

 ──って、納得じゃなーい!! 半分くらい私のせい! 何とか止めないと……。

 

「っ……スウィン君、ナーディア君! そっちは無事かね!?」

 

「2人とも助けてー! アーヤの偽物に追いかけ回されてるの!」

 

「──待て待てー! よくも私の可愛い服と可愛い顔に胡椒をかけてくれたなー! へっくしょい! ぶっ殺してやるー!」

 

 ──うわああああああ!!? しかも別の部屋からルーファスたちと偽物の私が来たー!? ってことは私の偽物の不意打ちは何とか防いだんだ。さすがはルーファス! でも状況がカオスすぎる! これは私たちも参戦しないと! というか割って入らないとマズい! 

 

「──みんな大丈夫!? 私が来たよ!」

 

「む……偽物が来たと思えばこちらは本物か」

 

「げげっ! 本物の私まで来た! これはうかうかしてられないね! とっておきで早急に仕留めるよ!」

 

「危ないっ! ルーファス!」

 

「……!」

 

 って、割って入ったけど偽物の私が止まってくれない! エンペラーは止まってくれたけど! 偽物の私は薬物強化まで使ってるし! 相克の時に使った一番ヤバいやつ! だからめっちゃ速くなった! 

 

 なので何としても止めるために私は作戦を発動する。私は近くにいたクローゼちゃんを抱き寄せて大声で言い放った。偽物の私に向けて。

 

「おらー動くなー! こっちには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「って……え……えええええええ!!? クローゼちゃんが人質に!? 何してんの!?

 

 そう、私はクローゼちゃんの首元に刃を突きつけながら偽物の私に告げた。ふふん。これが私の動きを止めるための弱点。突発的にこうやって大事な相手を人質に取ればさすがに動きを止めてくれるとそう思って──

 

「…………でも私ならクローゼちゃんとか他の人に傷つけたり、ましてや殺すなんてことしない筈! やっぱり死ねー! ルーファスー!」

 

「って、ええええええ!!? 効かない!? 見抜かれた! 危ない、ルーファス!」

 

「叫んでないで手伝ってくれないかね……! くっ……」

 

 ヤバい! 通用しなかった! ルーファスがピンチだ! 深刻さを感じないけど実際かなりヤバい! この偽物の私を倒そうとするならこっちも薬物強化を使いつつみんなで頑張って倒したいところだけどあんまり長引くともっとヤバい劇薬を使ってきそうだし、ここでどうにかしないと……! 

 

「かなり厳しいわね……!」

 

「先輩! 私たちも加勢しましょう!」

 

「……いや、もっと良い作戦を思いついたよ」

 

「! 本当ですか……!?」

 

 私は焦り、考えに考えた末に咄嗟に思いついた私の不意を突く手段を実行する。レンは既に加勢してるけどクローゼちゃんの方はまだ私の腕の中だ。なのでもう一度、ほんの一瞬でいいから私に目を向けてもらうためにもう一度だけ私は偽物に大声で呼びかけた。

 

「こっちを見ろー!!」

 

「!」

 

「え、先輩?」

 

 私はクローゼちゃんの両肩に手を置いた上で叫び、そして偽物の私が反応したタイミングで──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──()()

 

「っっ!!?」

 

「──へ…………?」

 

 ──顔を近づけ、クローゼちゃんの唇に私の唇を合わせた。

 

 その瞬間、時が止まったような気がする。周囲の唖然とした空気。全員の動きが止まった。視線が集まっている。

 そんな中で私はクローゼちゃんの唇を堪能した。瑞々しく柔らかい女の子の、お姫様の唇だ。

 

「な…………な…………」

 

 その間、一番驚いてるのが偽の私だった。他のみんなも動きは止まってるし、音すらも消えた気がする。クローゼちゃんもびっくりしていた。

 

 だけどレンと、そしてルーファスだけは先に動いていた。レンは偽物の私の獲物めがけて。そしてルーファスもまたその隙を突いて。

 

「う…………うわあああああっ!? クローゼちゃんの唇がー!? 何をやって──っ!!?

 

「──隙ありだ」

 

 偽物の私が叫び、何か動きを見せるより前に、冷静になる前に不意を突いて私に騎士剣を全力で直撃させる。

 そうして偽物の私は叫ぶこともなく吹き飛び、その肌に僅かだが傷を負わせた。やはりと言うべきか、機械の内部構造が若干だが露出している。模倣擬態らしいね。

 

「ふむ……やはり限りなく本物に近い。もっとも、()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんかエンペラーが意味深な独り言を呟いてるけど、まあそれはいい。偽物の私がレンに取り押さえられるのを確認して私は顔を離す。

 

「ふぅ……何とかなったね」

 

「……………………先輩?」

 

「いやーこれにて一件落着。後は偽物の私を完全破壊して動けないようにすればいいだけだね」

 

「先輩?」

 

「あ、それとエンペラーは……ええと、後でちょっと話そっか。こっちも色々と事情が入り組んでるから……」

 

「先輩?」

 

「す、スウィンくんにナーディアちゃんも大丈夫だった? ラピスちゃんも無事で良かったね」

 

「先 輩 ? こっちを見てくれますか?」

 

「は、はい……」

 

 ──私は凄まじいほどの圧力を、もはや覇気にすら感じるほどの圧を感じて冷や汗を流しながらゆっくりと顔をクローゼちゃんの方に向ける。

 

 するとそこにはニコニコ笑顔のクローゼちゃんがいた。うわー笑顔のクローゼちゃんかわいいなー。でもなんで恐怖を感じるんだろう。私にはわからないなー……あはは……。

 

「私、解かりました」

 

「な、何がかな?」

 

「先輩の唯一の欠点。それは人に相談しないこと、ですよね」

 

「そ、そうかもしれないね……」

 

「ですよね。なので、そこをもう少しちゃんと注意して治してもらわないといけません」

 

「ほ、本当に注意だけ?」

 

「後で時間をくださいね? ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え、えっと、それは……」

 

「返事は?」

 

「は……はいぃ……急にちゅーなんてしてすみませんでした……」

 

「それは構いませんけどせめて事前に相談するべきだと思います」

 

「えっ、いいの? だったら……」

 

「先輩? ちゃんと反省してくださいね?」

 

「はい! すみませんでした!」

 

 ……と、そんなわけでクローゼちゃんに後でお説教されることが確定した……でもちゅーしたことはそこまで怒ってない辺り優しいね。普通に許してくれたし圧もすぐに消えた。《八葉一刀流》を修め始めてからのクローゼちゃんは気の扱いも上手というか貫禄が出てきた気がする。なので中々に頼もしい。今もまずは私の偽物をどうにかするのが先だと注意を小言程度で済ませて──

 

『──偽物のマスターを倒すとはさすがは本物のマスターですね』

 

「…………へ?」

 

「! 離れたまえ!」

 

 ──そんな時だった。不意に空間から聞き覚えのある声が聞こえてきて、同時に見覚えのある人形が現れ、偽物を拘束しているレンに攻撃をお見舞いする。

 

「っ……!? あれは……!」

 

「人間……いや、人形か……?」

 

「らーちゃんよりも少し大きい……」

 

 それをレンは何とか躱したけれど……その姿を見て私は目を見開く。すーなーコンビも何となく同じような気配を感じたのか驚いていた。

 そして誰よりもラピスちゃんが反応した。大声で突然の襲撃者の正体を口にする。

 

「もしかして私と同じ──()()()()()()()()()!?」

 

「はい。《エクス=マキナ》です。本物のマスターの所有物にして、現在は《エリュシオン》の命令によって偽物のマスターの補佐を行っていますのでお見知り置きを」

 

 ──ま、マキナだー!!? うわー!! やっと見つけたー! でもなんで!? なんで偽物の私のところに行ってるの!? エリュシオンの命令って何!? なんでそんな──「では偽マスターと共に撤退させてもらいます」「うう……助かった……ありがとマキナ……」──って、逃げるなーこらー!!? あっ、くそっ! 針投げたけど間に合わなかった! ぐぬぬ……偽物の私のくせにマキナまで奪うなんて……! 許さないぞ偽物の私ー! イシュメルガ=リィンー! そしてエリュシオンー! 絶対にボコしてやるからなー!




今回はここまで。《真・無限回廊》に入ったので次回からアーヤちゃんの関係するエピソードが冒頭に挟まる予定です。お楽しみに。

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