──私は私自身の後始末をつけるため。私の偽物をどうにかするために仮面を被り、《新生帝国解放戦線》を結成した。
だがまさか私以外にも偽物が存在するとは。正直なところ予想を大きく外れていたな。
その中でも私を最も悩ませるのがアーヤ君の偽物だろう。
偽の私の命令か、私の命を狙ってくる。そうした状況に陥ったことで改めてアーヤ君の恐ろしさを思い知ることになった。
私が雇ったスウィン君とナーディア君も子供とはいえ優れた暗殺者だが、アーヤ君の暗殺者としての腕前はその数段以上高みにある。帝都で同行してきた時から怪しくは思っていたが……本物のアーヤ君がいなければ今頃私は煉獄に堕ちていただろうな。
そう、本物のアーヤ君が行動を共にしてくれることになったのが救いだった。彼女もまた偽物が活動していることを知り、それを止めに来たのだろう。
……ただ《黄昏》で私は彼女に対して闇討ちを行ったため、私とは遺恨があると思っていたのだが、アーヤ君は全く気にしていないようだった。気にはなるものの加害者である私が言えたことではない。彼女の割り切りの良さに感謝しつつ私たちは行動を共にし、ローゼンベルク工房の攻略を行い、ラピス君の記憶をある程度取り戻した後は次の目的地までの道中を行くことになったのだが──
「あの新総統にアーヤも偽物ですって!?」
「そうなの。だからデュバリィちゃんも協力して!」
「偽アーヤと偽ルーファスは大変なものを盗んでいきましたってことね!」
……道中では事態に収拾をつけるためにやって来ていた《神速》のデュバリィ君と合流し。
「うわーん! 偽物の《風の剣聖》強すぎー! キツイよー!」
「勝てる気がしないわ! この試合は早くも終了ね!」
……拘置所の前では偽の《風の剣聖》アリオス・マクレインと交戦し。
「知らない顔もあるようだが、まずは──ルーファス・アルバレア……元総督、でいいのか?」
「本物のアリオス・マクレインだ! ラピスちゃん、この人が本物の《剣聖》だよ!」
「挨拶は大事ね! 秘アリクト記やエゼル記にもそう書いてあるそうよ! だから挨拶するわ! 偉大なるローゼンベルク人形! ラピス・ローゼンベルクよ!」
「ちなみに昔、私の服を斬ったこともあるよ」
「通報しますた、ね!」
「……その節はすまなかった。謝るから通報はどうかやめてくれると助かる。──それはともかく本物の貴方がこの地にいるその理由によっては此度もこのアリオス・マクレインが貴方の敵となろう」
「再独立に干渉するつもりはないが、今のこのクロスベルのこの状況……私もだが、今はこの地にいない宰相閣下も望んでいないだろう」
「そうだろうけどそれってルーファスの感想だよね」
「なにかそういうデータあるの? ってこと?」
「…………故に私の目的は単純。この事態の真相を究明し、あるべき形に戻す。ちなみに今は拘置所に収監されているイアン・グリムウッド弁護士に用があってここまで来た」
「そのイアンって人に会えば私の記憶も全部思い出せる筈なの! でもどんな人なんだろう?」
「実家がボブ術の道場をやってるらしいよ」
「そうなの?」
「違う。……と、そういう訳だ」
「……成程な」
……拘置所の前で本物のアリオス・マクレインと問答を行い、共に行動することにもなり。
「これは……!? どういうことかね? 知らない面々もいるようだが、ここにいては不自然な人間が少なくないようだ」
「初めまして、イアン・グリムウッド弁護士。ルーファス・アルバレアという。先ほどの質問だが、答えは全て彼女にある」
「今北産業! 私の名前は、ラピス・ローゼンベルクよ」
「! そうか、そういうことか……! ではさっきの言葉を訂正しよう。よく来てくれた。君を待っていたよ、ラピス君」
そして拘置所で拘留されていたイアン・グリムウッド弁護士の下にたどり着き、話を聞くことになったのだが……そこで聞かされた真実は驚くべきものだった。
まず大戦が終わってもなお拘留されていた彼の下に端末を通してコンタクトをしてきた存在がいたこと。
“エリュシオン”と名乗ったその存在は指向性のない膨大な知識を持っており、彼と会話がしたいと連絡を取ってきたこと。
そのことに違和感を持ったグリムウッド弁護士が尋ねれば、エリュシオンは人間ではなく『機械知性』だと答えたこと。
近年発達した導力ネットと古くから大陸に存在する霊脈。大陸中を結びつかせるその大規模なネットワークが二度の活性化を受けて情報が行き交うことである種の『思考』が生まれた。
それが《エリュシオン》という奇跡の産物。凄まじい計算能力を持ち、自己進化を繰り返す機械知性であり、そのエリュシオンは自己進化を繰り返した末に《限定式収束未来演算》に辿り着いたこと。
導力器の父であるエプスタイン博士が予言していた“技術的特異点”。それが人間を理解するために彼を選び、そうして人間の感情と思考パターンをもとに、システムの疑似管理人格を形成したこと。
そしてそれが──ラピス・ローゼンベルクであること。
だがそのラピスは主体性を持ち、人間をサポートする存在だと定義されたが、ある日突然、何の兆候もなく現れなくなったのだと。
その後で現れたのがあの私の偽物である現クロスベル統一国の総統、ルーファス・アルバレアなのだと。
そしてディーター・クロイス氏とガルシア・ロッシの両名と共に協力し、エリュシオンを出し抜く機会を伺っていたと。
グリムウッド弁護士からそれらの話を聞いた我々は次に記憶をある程度取り戻したラピス君に補足の説明を行ってもらったのだが──
「簡潔に言うなら──乗っ取られたの」
「乗っ取られたですって!?」
「それほどまでに高度な存在が、か」
「一体誰に?」
「それが……分からないの」
「気付いた時にはすでに管理人格である私が攻撃対象になっていて、システムに消される直前だった。だから最後に一度だけ、もう1人と協力して“限定式収束未来演算”を使って対策したの」
「対策?」
「もう1人? それは一体誰のことだ?」
「そっか。先にそっちから話すね。私が会話を試みた相手はイアンだけじゃなくてもう“1人”いたの──その人はまた別の目的から霊脈に繋がっててだから最初から私と連絡が取れる状態にあった」
「別の目的から霊脈に繋がっていた……?」
「……その人物の名前は?」
「──“マキナ”と、そう名乗ってたわ」
「! それって……!」
「ローゼンベルク人形でありながら《黒の工房》が改造したアーヤ君の操る人形兵器か」
──そう話が繋がった。ラピス君が会話した相手はもう1人おり、それがかの《黒の工房》がアーヤ君に与えた《エクス=マキナ》であると。
ならばその目的はおそらくだがアーヤ君の監視や、その情報を集めることだったのだろう。
だがラピス君と同じ霊脈や導力ネットに接続され、最初からラピス君と会話が出来た存在ということは……。
「……まさかその《マキナ》も機械知性だったのかね?」
「うん。マキナも別の力の影響を受けて思考と人格の生まれた機械知性だって言ってたわ。そして同じような存在の私に興味を持ってコンタクトを取ってきたの」
「えぇ……なにそれ知らなかったんですけど……」
「確かに前々から独立した動きをしていたわね」
「イアンが人間を理解するための先生だとしたらマキナは先に多くの人間と触れ合ってきた先輩みたいなものだったわ。マキナは私に色んなことを教えてくれたの」
「どんなことを?」
「人間が使う
「……語録?」
「うん。たとえば、イージーモードが許されるのは日曜学校までとか混乱してる時はくぁwせdrftgyふじこlpって言うのが良いとかネットでは語尾に『だお』とか『ござる』とか付けると可愛いとかレスバは最後にレスした人の勝ちとか色々と人間と交流するにあたって便利な知識を教えてくれたわ」
「えぇ……」
「それと
「あ、それマキナが撮ってた動画を自分で編集して作ったやつじゃないかな。ルーファスとは《黄昏》の時に色々あったし《金》の騎神の試練の時に面白素材がいっぱい撮れたからねー」
「道理で見覚えがあると思ったのよね! それにアーヤのこともマキナを通じて色々教えてもらったし、それにマキナの主人だから色んなネタが通じるのね!」
「ぬるぽ」
「ガッ! すごいわ! やっぱり人間とはこうやってコミュニケーションを取るといいのね!」
「いや、それは……」
「かなり偏ってるみたいだけど……」
「まあ本人が納得しているのならいいのか……?」
「大丈夫かしら? 元総督さん?」
「……………………」
それらの真実と言うべきか、記憶を取り戻したラピス君がなぜ妙な言動を行うようになったのか。その原因を把握し、私はつい無言となってそれを飲み込もうとする。
そして思った。別にこれでも何も問題はないし、特段ショックと言うほどでもないのだが、それでも言わざるを得ないだろう。一応は総意として。
「? どうしたの、ルーファス? ──ちくわ大明神」
「おお! ちくわ大明神ネタまで知ってるんだ! さすがだねラピスちゃん!」
「ふふん。偉大なローゼンベルク人形として当然の作法よ! ローゼンベルク人形しか勝たん!」
──あのマキナという人形はなんてことをしてくれたのだ……。
私は頭を抱えたくなる気持ちをぐっと抑えてそれを受け入れる。気にはなるが、問題はないだろう。ラピス君自身が受け入れたのならば言う事は何もない。幸い、可愛い範囲で済んでいるようだしね。それよりも話を聞くべきだ。
「それで、そのマキナと協力してどうしたのかね?」
「ググレカス!」
「…………」
「あっ、ごめんルーファス! 人にものを聞かれた時は一度はそう返すのがいいって聞いたからやってみたの!」
「……ああ、別に構わないとも。それで、答えてくれるかな?」
「うん。私の人格が消される前にシステムを切り離して、ヨルグ・ローゼンベルクの下に転送したの。彼にこの体の制作と、その後に現れるだろう《C》を名乗る者──ルーファスに届けるように頼むために。かなり強い不確定要素も含んだ演算だったからマキナも協力してくれたわ」
「それであの予言のような依頼になったということか」
「かなり強い不確定要素、ね。それはおそらく……」
ラピス君の説明を聞いて納得する。つまり、それで事態の収拾に繋がるとエリュシオンであった彼女は予言した訳だ。
レン君が呟いたように、その際には不確定要素であるアーヤ君のことも計算に含むため、彼女をよく知るマキナ君にも計算を手伝ってもらったと……成程な。アーヤ君の謎はやはり大きいが、それでもようやく見えてきた。
だが肝心の“敵”が誰なのかはまだ分かっていない。高度な機械知性であり、技術的特異点であるエリュシオンを乗っ取る程の誰か……次に探るべきはそちらになるだろう。
──そう思い、皆が情報を共有したその矢先のことだった。
「
「……? アーヤ?」
突然、アーヤ君がくしゃみをした。
唐突だったために皆が意識をそちらに持っていかれる。デュバリィ君が珍しかったからか、声をかけた。
だがアーヤ君は鼻を少し擦って問題ないと──
「ああ、ごめん。なんか急に鼻がムズムズしてきて……って、あれ?
「っ!? ──全員今すぐ息を止めて外に出なさい!」
「!? なんだ……? 急、に……」
「あ、あれ……体から、力が抜けて……」
アーヤ君が自らの体の不調を怪しみ、なにかに気づきかけた直後。それよりも早く異変を察知したレン君が堰を切ったように声を張り上げた。
だが、そう。少し遅かった。私は既に胸を抑えて、その場に倒れ伏していた。
「っ、遅かった……!」
「これは……っ」
「ええ!? み、みんなどうしちゃったの!? ルーファス!?」
「こ、これやばいかもラピスちゃん! もしかしなくても……毒ガスだこれ!」
人形であるラピス君と強い耐性を持つアーヤ君の2人以外。誰もがその場に倒れてしまう。意識は保っていたが、身体に力が入らない。
そしてそのほぼ全員が動けない中で、音もなく姿を現したのはやはりと言うべきか。
「──いやーごめんごめん。こっちの方が手っ取り早いと思ってさ。ルーファス以外はしばらく身体が麻痺するだけで別に死ぬこともないからさ。みんなごめんねー?」
「に、偽アーヤ……」
「ごめんで済むかアホの私ー! とにかく薬呑んで! 多分効くし、一応死なない筈だから!」
「っ……すま、ない……」
「申し訳ありませんね、マスター。それにラピス。お久しぶりです。どうやら記憶は無事に取り戻せたみたいですね」
「マキナ……!」
もはや呼吸することも厳しい中、私は部屋の中に偽物のアーヤ君と件のマキナが現れたことを確認した。
その中で本物のアーヤ君は私の口元に薬を含ませた。おそらくは解毒剤なのだろう。私はそれを必死に呑み込んだが、それでもすぐには動けない。解毒には多少の時間が必要なのだろう。それほど強い毒性を持ちながらこの場にいる誰もが気付けないほどの秘匿性。無味無臭で対象以外に対する殺傷能力はないという特殊な作りは明らかに“AS薬”とも言うべきもの。
その中でアーヤ君はラピス君と共に偽アーヤ君とマキナ君と対峙した。
「まあでも本物の私がいるからこれだけじゃ死なないよね。──ってことでこっから頑張って直接ちょきんってするから出来れば引き下がってくれないかな?」
「下がる訳ないでしょうがアホの私! こうなったらここで木っ端微塵に破壊してやる! 行くよ、ラピスちゃん!」
「ええ! ルーファスは殺させないわ! マキナも、どうしてそっち側に付いてるのか説明してもらうからね!」
「ええ、倒せたら説明しましょう──それでは戦闘支援を行います」
本物のアーヤ君と偽物のアーヤ君の刃が激突し、ラピス君とマキナ君もまた同じローゼンベルク人形として戦闘を開始する。私たちはそれを黙って見届けることしかできなかった。
「食らいなさい! “エターナルフォースブリザード”!」
「それは私がチャットで教えた高度な導力魔法……! 効果は相手は死ぬ!」
「私のターン! ドロー! 私はデッキからフィールド魔法を発動する!」
「デッキからフィールド魔法だと!? インチキ効果も大概にしろ! 私もデッキからネイティアルカードを召喚する!」
「相手ターンなのに動くなー! なんで私に気持ちよくデュエルさせないんだ!」
──真面目にやってくれないかね? こっちは毒で死にかけているのだが……くっ、しかしもう声が出せないので指摘することもできない。私はこれを黙って見守るしかないのか……。
──ルールとマナーを守って楽しくデュエル! 本物のアーヤ・サイードです! 今は拘置所で偽物の私を相手にルーファスを守るためにラピスちゃんと一緒に戦ってます!
それにしても熊ひげ先生の話を聞いて驚いた。まさかマキナが裏でエリュシオンとチャットしてたなんて……道理でたまに友達と導力ゲームで遊んでたりしてた訳だ。その友達がラピスちゃんだったってことね。
でもその乗っ取られたエリュシオンに協力してるってことはマキナも乗っ取られたのか、あるいは何か理由があるのかもしれない。それも聞いてみたいんだけど今はそれどころじゃない! 私の偽物が毒ガス使ってきてみんな倒れちゃったし、動けるのは私とラピスちゃんだけだしでヤバい! というか相変わらず私強すぎるんですけど! めっちゃダルい!
「っ……! 危なっ……隙を見てルーファスにダガー投げないでよね……!」
「ええっ!? それに気づいちゃうの!? さすが私! ドン引きだよ!」
私との切り合いの最中、死角から気づかれないように別の刃をすっとルーファス目掛けて投擲してたのでそれに何とか気づいて弾き落とす。一々攻撃も仕掛けも殺意がありすぎる! こっちは守りながらだから厳しいってのに容赦なく狙ってくるというか、私のことは別に倒そうとしてないのが面倒くさい! それ以上に気づきにくい糸と針も使ってくるし! おまけにマキナもそれをサポートしてくる! マキナの腕に糸を引っ掛けてダガーを軌道変化させてきたりね! だからこっちも戦術リンクで連携しないとヤバい!
「ラピスちゃん! そっち!」
「うん! ルーファスは殺させない!」
「やりますね、マスター。それとラピス。私と同じで戦闘までこなせるようになるとは……」
「完璧なローゼンベルク人形として当然よ!」
「成程。では私も偽マスターと共に本気を出しましょう。──“アイアンメイデン”」
「げっ……こらー! マキナまでヤバい技使うなー! ルーファスが危ない、でしょうがっ!」
身体中に仕込んだ大量の針を展開してルーファスを殺傷しようとするマキナに私は怒る。怒りながらも手を止めてられない。私は糸でルーファスを捕まえてそれを思い切り手繰ることでルーファスを針の山から逃がす。床を思いっきり転がって痛そうだけど命を助けてるんで許してほしい。
「よし、チャンス! 行くよマキナ!」
「はい。クラフト、“サイレントノイズ”発動します」
「っ、何この頭に直接響く感じ……!?」
「マキナの駆動解除クラフト……! 相手を阻害する無音の超音波だよ! 解説してる場合じゃないけどね!」
だけどそうやって対応に回っているとそれで生じた隙を遠慮なく突いてくる偽の私とマキナ。……ってか、何をクールぶってるんだマキナこらー! あなたもっと愉快な性格してるでしょうが!
「──“キラーソーイング”」
そして偽の私も! もう今なら“殺れる”って時の顔すっごい真剣というかシリアスというか真顔で怖いからやめて! ぐぬぬ……確かにそういう顔してるのかもしんないけど改めて自分の姿を見せつけられると微妙な気持ちになる……! 私だからやることは読めてるのは救いだけどね!
「くっ……ラピスちゃん! そこの壁壊して!」
「ええっ!? いいの!?」
「いいから!」
私はラピスちゃんに指示を出して暗殺を防ぐために動く。護衛はあんまり得意じゃないんだけどな……! 偽の私は容赦なく狙ってくるからちょっと無茶なことをしないといけない。例えばこんな感じで……!
「だから……やめろって言ってるでしょうがー!」
「!? 糸付きの針を直接手で……!? 何してんの!?」
私は偽の私が飛ばした針を手で直接掴む。怖かったし軽くチクッとしたけど問題ない。だからそれもまた引っ張って偽の私を思いっきり外に向かって、ラピスちゃんが破壊した壁の外へ放り投げる。
「うわーん!?」
「そのままどっか行って!」
「だ、誰が! こなくそー!」
「!? 足に糸が……! いつの間に!?」
そうして一度距離を取らせたかと思いきや、私の右の足首に糸が巻き付いていた。それに気付いた時には私もまた引っ張られて床に倒れ、そのまま壁の外へと引きずられる。ぐっ……偽の私の癖に小癪すぎる……! こんな糸、すぐに切って──
「!」
「──アーヤ! 危ない!」
──と、そう思った時には引っ張られる感覚がなくなっていて、壁を駆け上がってきた偽の私が間近に迫っていた──《ゾルフシャマール》を開いた状態で。
「“グリムシザー”」
「っ……!」
ラピスちゃんが気づいて私に注意を呼びかけるも、さすがにそれより前に気付いた私は同じく《ゾルフシャマール》の刃を間に挟み込んで私の首をちょん切ろうとする両の刃の挟み込みを防ぐ。思い切りそれを閉じようと力を込めてきていてマジで死にそうだけど死ぬつもりはないので腕をぷるぷるさせながら何とか力を拮抗させてそれを弾いた。
「うわ……何で分かったの……って私だからだよね……! 怖っ……!」
「こっちの台詞なんですけど……っ!」
今度は《ゾルフシャマール》の刃を分かれさせて双剣状態にして切り合いに持ち込んできたため、私もまた同じようにしてその切り裂きの連続を何とかガードし続ける。一振り一振りが致命傷を狙うものだから通すわけにはいかない。仮に耐えられるとしてもね! 偽物に負けるわけにもいかないし……!
「あっ!」
「はぁ……良し! どうだ見たか! 得物を落としてや──」
私は何とか偽物の持っていた《ゾルフシャマール》の右の刃を落とすことに成功する。こうなれば手数の面でこちらが有利だ。そう思ってちょっぴり勝ち誇ってみたけどすぐに残っていた左の刃を身を回転させながら放ってきたので私はそれを屈んで躱す。怖っ! だから一々殺意が高いんだって私はさぁ! ──って……偽物の右手に糸が……これってもしかして……。
「マズっ!」
「──これで終わりかな」
気づくのが一瞬遅れたその刹那。偽物の私は私に左の刃が躱されたことなど全く気にした様子もなく、そのまま回転して右手を振るっている。その右手と糸で繋がれた右の《ゾルフシャマール》の刃。持ち手の部分に予め糸を巻き付けておいたのだろう。そうして遠心力と正確な糸の操作によって《ゾルフシャマール》の右刃が弧を描いていく──
まるでハンマー投げのように糸で繋いだ右の刃を思い切り叩きつけるようにしてルーファスを切り裂こうと目論んだ偽の私のその仕掛けに私はめちゃくちゃ焦った。殺意の高すぎる必殺のその奇襲に、私は咄嗟に偽物の右手を掴んで対応する。
「っ!? 軌道がずれて……!?」
右の刃と繋がる偽物の私の右手を内側に寄せるように引っ張り、こちらから軌道を変更させる。そうすることで《ゾルフシャマール》の右刃はルーファスの前髪を僅かに切り裂くのみで通り過ぎ、そうしてその先にあった壁に鋭く切り裂く。
「うわっ、あともう少しだったのに……! 少しでも掠れば今度こそ毒で終わってたんだけど! ぐぬぬ……!」
「危なすぎでしょ……!」
右手を掴んでそのまま取り押さえようとしていた私にマキナの攻撃が飛んできたため、それを躱すために距離を取る。偽の私が右の刃を糸で再び回収して連結させて仕切り直し。
だけど……ちょっと参ったかもしれない。偽の私の相手キツすぎ……! 一手でも間違えればルーファスがDEAD ENDする選択肢というかQTEの連続で息つく暇もないんですけど! しかもこっちが後手だからめちゃくちゃ不利だし! 対応するにも限界があるからこのままじゃマズいかもしれない。
「このままじゃ時間がかかりそうだし、もっと手数を増やしつつ確実にやらせてもらうよ」
「っ……砂塵……! それに分け身は反則だって!」
「どうすればいいのアーヤ!?」
と内心でヤバいと思ってたら偽物は周囲に砂塵を充満させて視界を奪いながら“分け身”を3つ出してきた。ぐっ……私も砂塵の中での視界は効くし、分け身も出せるけどそれでも後手に回らないといけないからだいぶ厳しい。私の戦法いやらしすぎる! ラピスちゃんも対応するのにかなりキツそうだし、他のみんなも最初の毒ガスの影響で昏睡状態だ。やっぱこのままじゃ──
「これで終わり!」
「ぐ……!」
そして偽物もその有利を活かさない筈がない。視界が砂塵で覆われる中、偽物の私は分け身を囮に私を突破してルーファスへと迫る。本当にヤバい。何とか薬でブーストして間に合うかどうか──
「──さすがは姉さん。偽物とはいえ惚れ惚れするよ♡ とはいえ……本物の邪魔をするのはいただけないかな?」
「ひっ!?」
──そうして私が割って入ろうとしたその時、別の気配を感じたかと思えば偽物の私の刃を別の刃が防ぎ、鋼の音と偽物の私が怯える音が連続した。
その突然の乱入者に私は見覚えしかない。というか、私が呼んでいた人物の1人だった。偽物の私を始末するために珍しく私が動かした《庭園》の管理人の1人。
「おっと。よそ見してる場合か? うっかり殺っちまうが」
「メルキオルにアリオッチ!? うわーん!? ちょっ、キツ──ひゃん!?」
いや──1人どころじゃないね。
よくよく気配を感じ取ってみれば、全員揃っていた。
「先ほど振りか。やはり興味深いが……今回は確実に始末させてもらおうか!」
「標的を発見。任務を開始します。──イシュタンティ」
「ひぎゃん!?」
砂塵の中、4人の影がそれぞれ偽物の私を追い立てる。
「なになに!? 誰!? どうなってるの!?」
「──ラピスちゃん! ルーファスたちをよろしく! こっちは偽物を仕留めてくるから!」
「え、でも……!」
「大丈夫! 味方だから! こっちは心配しないで!」
何が起こったか事態を理解できていないラピスちゃんが混乱するも、ラピスちゃんにはルーファスたちを任せるよう指示を出して私もまた外に跳躍する。
同じ様に4人もまた付いてきていて、私たちは拘置所前の広いところへと降り立った偽物を追いかけて対峙する。
「うぐぐ……“管理人”が全員来てるとか反則でしょ……!」
そう──こっちは全員が揃っていた。
《
《
《
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そして(一応)《
《庭園》の誇る管理人が全員集合し、偽物の私を始末するために立ち塞がる。すごい! 頼もしい! めちゃくちゃ味方っぽい! 立ち位置的にはめちゃくちゃ敵だけど私的には味方なので勝ちフラグだ!
「ふっふっふ……! これで形勢逆転だね!」
「くっ……こうなったら──マキナ!」
「はい。追加兵装を装着します」
えっ? もうこれで勝ちじゃないの?
私がそうして勝ち誇っていると偽物がマキナに声をかけマキナも応じた。すると空間から巨大な人形が現れる。真っ黒な装甲を持つその人型の中心に、マキナが自ら移動してはめ込まれる。機構が動き出し、マキナの身体を覆い隠した。そうしてコアのような赤い光が身体の中心から身体の各部へと行き渡り、最後に目が光ると──その人型は動き出す。
「な、なにそれ! 私知らないんだけど!?」
「ふふん! これがマキナの最終形態! 改造型特殊魔煌機兵! 《デウス=エクス=マキナ》だ!! そんな怖い面子で挑んできても倒せないよ! だから帰ってくれると助かる!」
「──だ、そうだが? どうするよアーヤ」
「これはまた興味深い! あの特殊な人形兵器であり戦術殻でもあったあれを今度は追加兵装を持ってして魔煌機兵に改造してしまうとはな! 中々に調べがいがありそうだ!」
「偽物の言う通り、戦力の上ではこちらが不利でしょう。如何しますか?」
「やれやれ、アーヤ姉さんの偽物を始末しに来ただけだってのにまさかこんな《騎神》にも近い人形の化け物とやる羽目になるなんてねぇ。とはいえ僕たち管理人が総出でかかれば倒せなくもなさそうだけど……どうしようか?」
「あー……うん……そうだねぇ……」
うっわー……かっこいいし普段ならテンション上がるかもだけど今はそれどころじゃない……ただでさえ管理人が勢揃いしてるからみんなが目覚めるより早く倒さないと気まずいことになるってのに……! ど、どうしよう……って戦うしかないよね……。
──どうも! 偽物のアーヤ・サイードです! 自分が偽物だって自覚して色々思うところはあるけどそれでも頑張ってルーファスを殺そうと頑張ってます! どうせ何をしようが最終的には解決されて私もいなくなるんだろうから何をやっても無意味だろうけどせめて存在意義くらいは果たさないとね。というわけなのでマキナを《デウス=エクス=マキナ》に変型させて第二ラウンド! 相手は本物の私に《庭園》の管理人が勢揃いとかいう反則パーティでちょっと怖いけどやるしかないよね。
「──それじゃ全員で倒そっか。かなりキツそうだけど」
「オッケー♡」
「ハハ、さすがにこれは喰い甲斐がありそうだ」
「性能を見てやるとしよう」
「戦闘を続行します」
「ひっ……お、お手柔らかにね……! マキナ!」
「──ではローゼンベルク人形の最高傑作の私が蹴散らして差し上げましょう」
そして向こうも覚悟を決めたらしい。私のくせに……増援が来たからだろうか。全員で私とマキナを相手取ろうと動き出す。それに合わせて私とマキナも動き出す。マキナの腕から伸びた巨大な刃が拳と共に振るわれて地面を砕く。
当然だけどそんな単調な攻撃が当たってくれる筈もない。なのでこっちから攻撃を当てるように工夫する必要がある。厄介なのはやっぱり不死身のアリオッチだけど倒せるかは微妙だしマキナの相手をしてるから後回し(というか相手にしない)。オランピアちゃんは本体がこの中だと一番与し易いけど可愛いからダメ。となると重力を操ってマキナの動きを鈍くさせてるエンペラーか、あるいは──
「──僕を狙ってくれてるのかな? 偽物の姉さん♡」
「!? うわっ!」
──とか考えてたら死角からゾッとする声が聞こえ、それと同時に刃が放たれたので私はそれをガードする。その相手はメルキオルだった。ある意味で私が一番ビビってる相手。《月光木馬團》時代から、そして《庭園》の管理人の中でも純粋な暗殺術は私に次ぐくらいの腕前を持つサイコパス。
「ひっ、危ない怖い! 攻撃鋭いんですけど……! しかも結構読まれてるしなんで!?」
「そんなに不思議かな? 偽物とはいえ姉さんなら分かるでしょ? ──僕以上に姉さんの暗殺者としての一面を理解している存在もいないんだからさ。姉さんの戦闘やその癖なんかも僕は完全に理解ってあげてるんだよ?」
「う、嘘でしょ!?」
「本当だって。こんなことで嘘はつかないよ。──まあそれでも正面から戦うと結構キツイけど……そのリスクを受け入れるくらいのメリットはある。久しぶりに姉さんを刺してみたかったし。それも偽物が相手なら……存分に試しても構わないよねぇ!」
「「ひえっ……」」
こ、怖い! 本物と一緒につい怯えてしまう。まだ私のこと刺したいとか考えてるの!? ヤバすぎる! 偽物で良かったけど良くない! このままじゃ刺されちゃう! 何とか対応しないと!
私はメルキオルの恐ろしさに怯えながらもその特徴的な赤いダガーの連撃を躱し続ける。私の動きを理解した上で放ってきてるからすっごいやりにくいし躱しづらいけど、それでも何とか受けきれた。
まあその理由は多分……こっちもメルキオルの動きを理解出来てるからだろう。
「──っと!?」
顔目掛けて突いてきたメルキオルのダガーを紙一重で躱し、私はその懐に入って《ゾルフシャマール》を振るう。ダガーを戻して防御したメルキオルだけど不十分な体勢だからガードごと背後に吹き飛ばした。
うん……やっぱり理解る。こっちも。《月光木馬團》時代から見てきた暗殺術が基本にあるし、私の暗殺術とも似てる。暗殺者として完全に達人の域にあるその動きだけど、だからこそやりやすい。
──
「うわっ……!?」
「っ……イシュタンティ」
メルキオルの持つ爆弾の
「痛たた……まいったな。やっぱり姉さんらしく、僕たちより強いんだねぇ……!」
「まさに暗殺術の極地! 大陸全土を見ても並ぶ者のいない伝説の暗殺者! 偽物でこれということは……よもや更に成長していようとはな!」
「えぇ……なんで愉しそうなの……?」
ただそれでもオランピアちゃんは当然のこと、メルキオルも仕留めるには至っていない。吹き飛びながらもやはりガードしていたメルキオルは膝を突きながらも愉しそうに笑っていたし、エンペラーもなんかテンション上がってる。さすがに引く。正直そんな風に持ち上げられるのは困るけど、本物ほど困ってはないし、自覚はできる。
「やはり
「ハハ、管理人4人がかりでもいなせんのかよ! わかっちゃいたが、やっぱ俺らの上に立つだけはあんじゃねぇか!」
マキナの相手をしていた筈の2人。続くエンペラーの重力の
「──まあでもいっか。人が増えた分、やりやすくなったし」
「っ……! うぐっ!?」
──そう思うのは完全に間違いだ。
他の管理人に行った攻撃とそちらに向いた意識の隙を縫って本物の私は背後から奇襲してくる。丁寧に分け身による気配のフェイントすら入れた上で。《ゾルフシャマール》を右手で振るいながら左手に普段はあまり使うことのない大きめの針(ナーディアちゃんとかが使ってるタイプのやつ)を指の間に嵌めて鋭く攻撃を行ってくる。
その一瞬の遅れが私にとっては致命的だ。何しろ、私は私。一対一で同等であるなら味方が増えた分だけ私が不利になる。その有利を本物の私は見逃さない。臆病だから有利な時に全力でいく。真正面から戦いたくもないし、一旦不利になった相手はとことんまで追い詰める。
「距離はもう取らせないよ!」
「うっ……!」
こういう不利な時は一旦距離を取って体勢を立て直したい──そう考えた私の思考も本物だからこそ読まれている。背後に跳躍した私目掛けて《ゾルフシャマール》を投擲し、それを私に防がせた。その隙に一瞬でまた距離を詰めてきた私が、《ゾルフシャマール》を拾うことなく懐から取り出したダガーを鋭く、殺意を乗せて振るってくる。
その腕前はやっぱりすごい。こうして改めて見るとよく自覚できる。《ゾルフシャマール》を使わない刃物での暗殺術も幼い頃から鍛えているだけあって既に達人の域に達しているのだ。
エンペラーの言うように私の技術。腕前。強さは暗殺術の極みでそれだけに我ながら恐ろしい。その距離を取らせないようにギリギリまで踏み込んできながら、そのダガーで首や心臓。頭部や肺。至る所にある急所を常に狙い、そうでない時も腱を狙って動きを止めようとしてくる。
そして相手からの反撃は紙一重で躱すし、躱せなくても問題ない。私の耐久力は異常だから。紙一重で、それこそ刃が掠ってもその程度じゃ切り傷を負うことはないし、針なんかも刺さらない。ある程度までなら攻撃は無視して相手を殺りに行くことができる。
だけどその部分はこっちも同じ。
「“アウルムワルツ”」
「!」
私が培ってきた戦技。相手の動きを観察し、それに合わせて踊るように適切な箇所を切り裂く暗殺術を披露する。
右手首。左脇腹。鳩尾。喉元。私は目がいいからちゃんと頑張って集中して見れば対応はできる。カウンター気味に相手の攻撃に合わせて重要な箇所を傷つけることができる。
でもそれもまた向こうも同じだった。
「“スローターソード”」
「!」
本物の私が私の攻撃のタイミングに合わせてダガーを一閃。《月光木馬團》時代から行ってきた辻斬りのクラフトが私目掛けて放たれた。
攻撃の予兆。気配。予備動作が一切感じられない昔から行ってきた私の暗殺の十八番。黄金律。戦技と言うのも相応しくない程のただの殺しの技。互いにその凶刃を受け、躱し、時に気をつけながら身体で直接受け止める。
そのやり方は互いに工夫が凝りすぎている。とにかく相手の不意や死角を突いて致命傷を狙う手練手管。
相手の見えない位置から刃を投げたり、その刃に糸を予め括り付けておいて途中で軌道を変化させたり、それを囮に本体が肉薄して凶刃を振るったかと思えば、地面に落ちている刃が糸によって再利用され死角から飛んでくる。見えにくい裁縫針を相手の目や鼓膜。あるいは皮膚を狙って攻撃したり、大きめの針を使う時は手数をまた増やして幾重にも重ねて周囲から飛来させて。常に予測しにくい軌道を描かせる。それらを行いながらも刃がぶつかり合う金属音と極小の火花以外の足音などは聞こえない。
きっと周りから見ればすっごい高度だし怖いだろうね。お互いが全く同じ暗殺術を用いる物騒極まりない戦い。意味がないから使わないけど本来は毒なんかも刃に塗るのが定石だし、なんだったら自分は効かないから自分毎巻き添えにする形で使ったりもする。
だからこそ私は、伝説の暗殺者なんだろう。本気で殺りに行くときは手段は選ばないし、殺せると見たタイミングでは自滅覚悟で自分への攻撃も無視するのに手傷も負わない。返り血なんかも出ないから痕跡も当然残らない。
そんな私に対抗しようとするならそれこそ全力で攻撃を直撃させるしかないんだけどこちらは防戦一方だ。距離を詰められすぎて《ゾルフシャマール》でのガードもやりにくい。なんだったらこっちもダガーを取り出したいけどそんな余裕も持たせてくれない。マキナのサポートも期待したいところだけど向こうは向こうで管理人たちの相手をしてるし、こっちの攻防まで追いつけないだろう。
そして何より──こうして改めて見てわかった。暗殺者として標的を殺しにかかる時の私の顔のその、
感情を何一つ感じさせないその黄金の瞳は、なるほど。すごい怖い。これは恐れられるわけだと私のものじゃない記憶を思い出して納得する。しかもオランピアちゃんのように常にそうじゃないからこそ余計に怖い。一瞬見えるそんな表情が得体の知れないものや見てはいけないものを見てしまったような気がして余計に恐ろしく感じる。
──そして多分それが、私の闇なんだろう。
普段は見えることはない。感じることもない。本当にそこにあったのかと自らの錯覚を疑ってしまう程に一瞬の影の部分。
「メルキオル!」
「オーケー姉さん♡」
「!」
そうなるに至った要因も何もかも含めて──
「《ゾルフシャマール》!」
──偽物の私には
だから私は本物には勝てないんだって。
「────」
そうして私の身体の中心から、人間のものじゃない金属と火花の音が鳴った。
本物の私がやった手順は単純なもの。メルキオルに自分もろとも爆弾で吹き飛ばす。その爆風と衝撃で私を怯ませ同時に目眩まし。先ほどやったように糸で巻き付けていた《ゾルフシャマール》を引き寄せてその勢いで私に攻撃──する振りをして糸を私に、自分ごと巻き付ける。そうやって糸で強制的に私に抱きついて、最後に引き寄せた《ゾルフシャマール》の刃が私の背中に思い切り突き刺さった。
さすがに再現されたとはいえただの機械の身じゃ耐えきれなかったのか、私の身体を貫通した勢いのまま突き刺しても本物の私の身体は受け止めていた。
もちろん私の身体が緩衝材になってるから直接受け止めたわけじゃないけどね。ただそれでも、完全に同じというわけじゃない。
「自分ごと突き刺すとかイかれててドン引きなんですけど……しかも刺さってないし」
「別に私もやりたいわけじゃなかったけど。こうでもしないとやれないから割り切ってやっただけで」
「うーん、そういうところがやっぱおかしいよね」
偽物だけどそうやって自分のことをまじまじと見せつけられて異常さを実感する。やっぱり本物の方がちょっとおかしくて強いんだよね。
……そして私はこれで終わりな訳だけど……せっかくだ。本物の私のためにもちょっと聞いてみよう。
「ちょっと聞いていい?」
「なに?」
「やっぱり私って──
なんて、そんなことを尋ねてみる。
すると本物の私は淀みなく答えた。まるで動揺していないとでも言うように。
「別に教団にこだわってるというか、生かしておいても碌なことないからね。誰もやらないだろうし、やらないと生きづらいからそれならやった方がいいよね」
「やっぱりそうなんだ」
本物の私の返答を聞いて私は得心がいく。やっぱり本物は、何が何でもそれを消したいらしい。
そして理解する。今まさに偽物とはいえ消えようとしている私だけど──
「私が再現されただけの偽物だから……だからこんなにも清々しく、素直な気持ちでいられるんだね」
「!」
勿論それは本物の私が嘘をついているという訳じゃない。教団のことは正真正銘殺さないといけないって思ってるし、全てに楽観的に構えて割り切る私の精神。思想なんかも偽りじゃない。
ただ……そう。それでも決定的に違う部分がある。偽物の私は本物の記憶を持つがゆえにそれが分かる。明らかに違う部分。私には存在しないから。
だから私は、そこまで思わない。もしかしたら偽物の私の方が異常な程に、
「本物の私も大変だね。そんな厄ネタと付き合っていかないといけないんだからさ」
「……何を言ってるかよく分かんないけど……ま、お疲れ様。あとは私が後始末するから眠っていいよ」
「そうだね。それじゃ後は任せるよ」
本物がどんな表情をしているかは見えないけど、それでもほんの少しだけ息遣いが変化したのはわかった。今何を考えているかもなんとなく分かるけどそれを一々指摘なんかしなくても本物も分かってるだろう。
だから一言だけ。最後に遺しておくことにした。
「あなたの幸運を祈ってるよ」
「……………………」
そんないつの日か、私にかけられたその言葉をかけておく。
偽物とはいえ私は私。だから素直に、私自身の幸せを願っておくことにした。
──偽物の私の機能が停止して動かなくなったのを確認し、私は安心する。
これで私の名誉に傷がつくこともなければルーファスが狙われることもないし、
後はなんか悪用されないようにちゃんと処分してあげないとね。偽物とはいえ私は私だし。ちょっと普通に可哀想だし。
ただその前に──
「うわーん!! 偽物のマスターが死んだ! 本物のマスターの人でなし! 生き残ってれば双子タレントとして活躍することも色んな仕事で替え玉したり思いのままだったんですよ!?」
……なんかすごいアホなことを言ってるマキナを何とかしないとね……。とりあえず、生身だとヤバいから博士に開発してもらったアレを使って──
「それに偽のマスターがやられるとこの機体は
「は?」
──と、楽観視してたらマキナがとんでもないことを言い出した。じ、自爆? その機体自爆するの?
「え……マジ?」
「マジです! 具体的にはこの拘置所のある一帯が更地になるくらいの威力で!」
「めちゃくちゃヤバいじゃん」
「ヤバいです! だからマスター! 早く止めてください!」
「……………………」
そうして私は事態の深刻さを理解した。管理人のみんなが「どうする?」って感じでオランピアちゃん以外は愉しそうにこっちを見てる。まあ最悪みんな転移すればいいもんね。拘置所にピクニック隊の面々が残ってるし、マキナも破壊されちゃうから私は逃げられないんだけど。
だから私はめちゃくちゃ焦ってそれを呼び出す。叫びながら。
「う、うわあああああああ!!? ま、マズい! 来い私専用神機《ズルフィカール》ー!!」
「ええ!? なんですかマスターそれ!? いつの間にそんな機体を!?」
「この機体は博士が開発した私専用の神機で全身が赤色の装甲でめちゃくちゃ強くて私にしか動かせない上に特殊な目的を持ってる機体だぞー! うおおおおお!! 外部装甲壊れろー!」
新しい機体のお披露目というお約束なら情緒たっぷりにじっくりと呼び出してかっこよく登場させるべきシーンなのに緊急事態過ぎてめちゃくちゃ唐突に呼び出した感じで私は忙しなくその神機《ズルフィカール》に乗り込んでマキナに取っ組みかかる。ちなみに神機と名はついてるけど仕様的には機甲兵とか魔煌機兵が近い! 博士なりに《騎神》を再現しようと造った人型兵器だからね! もちろん騎神ほどの万能最強兵器じゃないけど! って説明してる場合じゃない!
「うおおおおおおお!!? は、外れない!? こうなったら無理やり破壊して──」
「下手な衝撃を与えたら爆発します!」
「ええっ!? じゃあどうしようもないじゃん!! もう空にマキナを運んでクロスベルの守護神になるしか……!」
「大爆発は生存フラグですからね!」
「言ってる場合じゃないっ! ぐっ……というか空に運ぶにしても重い……!」
「もしくは空に運んだ上で高速で外部兵装を破壊して私と取り外す神業を行えば何とか……」
「そんな化け物みたいなことできるかーっ!! 神機だけどキーアちゃんが動かしてた時みたいな出力は出ないから絶対無理!」
この《ズルフィカール》はなんか私の霊力で動いてるっぽいんだけど当然ながらキーアちゃんだったり《黄昏》の時に動かしてたみたいな出力は出るわけがないので厳しい。くっそー! このままじゃみんな死んじゃう! ガチめにマズい! こうなったらマキナと拘置所は諦めてみんなを転移させる方向にシフトした方が──
『──相変わらず忙しない状況にいるようだな、アーヤ』
「そうそう! 今もめっちゃ忙しいから誰か手伝って────え?」
──とか何とか色々と手を考えたその時だ。聞き覚えのある声が、神機の中から聞こえたのは。
私はそれを聞いて事態をゆっくりと把握しようとする。いや……え……? 嘘、マジ……? そんなことが起こるのは識ってたし、もしかしたらって思って準備はしてたけどこのタイミングで?
『ふむ、この機体の馴染み具合から察するに、どうやら貴殿はこうなることを予期していたようだな』
「も、もしかして……手伝ってくれるの!?」
『うむ。この機体であれば我が力を振るうのに何の不足もない。久方振りの邂逅を喜びたいところではあるが──まずはこの状況を打破するとしようか、
「う──」
そうして懐かしい呼ばれ方をして、私は少し溜めてから全力で喜ぶ。機体に力が入った。その正体を、改めて私は口にした。
「──うわあああああああい!! 久しぶり《テスタ=ロッサ》ー!! 私の専用機にして私の相棒キター!! テンションあっがるぅー!! きゃっほーい!!」
『……うむ。喜ぶのは良いがアーヤよ。早く何とかしなければマズいことになるのではなかったか? マキナが明らかに焦っているが』
「げっ……その声は私のマスターの相棒の座を奪った憎き後輩じゃないですか!? 何を普通に復活してるんですか!? そして爆発まで残り10秒です!!」
「ところがぎっちょん! 私と《テスタ=ロッサ》に不可能なことなんてない! 10秒もあればお釣りがくるぜ!!」
──そうして私は復活し、神機に宿った《テスタ=ロッサ》の力を存分に振るい、マキナを上空まで一気に運んだ上で懐かしい魔挟《サーシェス》でマキナの外部装甲を切り裂いてマキナを救出し、爆発の被害からもみんなを守った。ひゅー! さすがは私と《テスタ=ロッサ》! 最近の機甲兵とか神機なんかより断然強いぜ! 復活した理由はなんかラスボスのイシュメルガ=リィンがシミュレーションされた《鋼の至宝》こと《零の騎神》ゾア=ギルスティンの因果が騎神を再定義して特異点になってどうのこうのって感じだった筈だけどそんなことどうだっていい! 博士も良い仕事したよね! ちゃんと私がこうなることを予想してたから騎神の精神が宿った時に繋ぎ止めるように特別製の神機を開発させておいたんだからさ! そしてこうなれば私は無敵──「まさか……そんな馬鹿げたことが起こるとはな。驚かされたぞ」…………ん? 誰? なんか空間から急に現れて話しかけられたけど。そんな真っ白い機体で──
「あれは……!」
「アーヤの駆る神機に……」
「もう一方は、まるで……!」
あ、みんな起きてる。デュバリィちゃんとかルーファスが上空を見て驚いてた。うん、なんかいるよね。
「復活したとはいえその程度の力……我が障害になるとも思えぬが……アーヤ・サイードは常にイレギュラーを起こす可能性を秘めている。少し、試しておくとしよう」
『! この機体はもしや……』
「ひえっ……」
──う……うわああああああああ!!? な、なんか私の目の前に《零の騎神》ゾア=ギルスティンがいるー!!? 再現されただけで本物じゃないとはいえ《鋼の至宝》巨イナル一だー!! ひええええ!!? しかも挑みかかってきたー!!? は、速っ、強っ……こ、こんなの勝てるかバカやろー!! うわーん!!
そうして私は《テスタ=ロッサ》が復活した喜びも束の間、ラスボスのイシュメルガ=リィンの駆る《零の騎神》ゾア=ギルスティンにボコボコにされて地に伏すのだった……。
今回はこんなところで。偽物と決着をつけました。創の軌跡の本筋はアーヤちゃんそこまで関係ないので次回で創の軌跡編は終わる予定です。とはいえ次回は結構詰め込まれるのでお楽しみに。以下いつものアーヤちゃんのクラフト説明。
アウルムワルツ:CP30 物理攻撃 威力B 範囲:自己 カウンター 攻撃された時に全体に必殺100%の物理攻撃を与える
スローターソード:CP20 物理攻撃 威力C 範囲:単体 即死100% 攻撃後に自身にステルス付与
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