TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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零の騎神と創星とその先の不幸

 ──彼女は私の知る限り、この世で最も不可思議な奇蹟を宿した存在だ。

 

 その名はアーヤ・サイード。私が使徒を務める結社の執行者No.ⅩⅢであり、かつてあのハーウッドが結社に取り込まれる際にイスレやクルーガーと共に連れてきた秘蔵っ子だ。

 その最初の扱いはただの執行者候補であったが、それでも最初から彼女には興味深い事例が幾つも報告されていた。それゆえ結社の中でも彼女に興味を持つ者は多くいてね。当時の第三柱だった教授も彼女に対して実験を行っていたようだし、私もまた興味深い研究対象として彼女の身体や力の性能を調べさせてもらった。

 

 確か最初は《劫炎》にすら耐えたという彼女の耐久力や強さを測る実験だったか……その最初の実験を行ってから10年以上経つ今日ですら、アーヤの存在の全貌を解き明かせてはいない。

 

 無論、多くの謎は氷解している。彼女は生まれからして特殊であり、暗殺者であった父と、本家が最初は気づかなかった程度には傍流も傍流であるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、実際は不妊症であった母親の胎内に、神の声を聞いたその日に突然顕れたという。

 いわゆる受胎告知。性交を行わずに生まれた神の奇蹟から誕生した子供であるという確認は既に取れている。

 また教団の実験データから血の繋がりに関しても確認は取れている。きっちり、父親の遺伝子情報とだけ一致しないというデータが。

 

 かの教団も最初は《グノーシス》や各種実験に異常な耐久性を見せるアーヤに興味を見せて研究を行ったのだろうが、家族に手を伸ばしてその事実に気付いた一派があるとすれば……あれほどアーヤに執着しても不思議ではない。教団から《奇蹟の御子》と呼ばれていることからも、アーヤに何らかの意義を見出した一派があったことを証明している。

 

 自らを傷つけるあらゆるものに耐性を持ち、その血は生物を強化し、草木を繁殖させ、薬に加えればあらゆる病魔や外傷も瞬く間に治してしまう。

 もっとも効果が大きければ大きいほど副作用も大きく、最悪の場合は死に至ってしまうが、そのリスクも回避することができる。

 また異能や古代遺物。更には《至宝》にも干渉して変化を与えてしまう。

 総じて彼女の力はこの世のあらゆる現象に作用する劇薬やウイルスのような性質を持っていると言えるだろう。少しでも触れれば予測不可能な変化をもたらし、それでいながら外部からの干渉を受けても自身は変異することはない。

 

 もっとも多くの場合は良い変化であるが、自身を傷つける意図や悪意を受けた場合はその限りではない。むしろ相手に不幸をもたらすかのような変化を与えてしまうのだ。……まあ彼女自身が善良な性質を持つがゆえ、そうしようと奔走している節はあるのだが。ただそれでも結果的に良い方向に転ぶことが多いのは間違いないだろう。

 

 ただアーヤが自覚的にその力を振るっているかは疑わしい。そもそも自覚しているのかどうかも怪しく、他者に触れられたくない隠し事があるだろうことは推測できるが、そういった一面も含めてアーヤが自らの力をどう定義しているのかは興味深いところだ。彼女自身は自分の力を「よく分からない」と言っているが、果たしてそれが真実なのか嘘なのかは結局のところ分からないため、推測するしかないのが残念だが。

 

 ただアーヤ自身よりも彼女のことについて知っている者もいる。結社でもアーヤのことを深く知っている者は少なく、使徒である我々ですら深く知っている訳ではない。マクバーンやシメオン、カンパネルラといった者らも何かあると勘付きはしてもそれが何であるかの言語化は難しいようだった。

 

 ただ盟主──そしてハーウッドだけはその全てか、あるいはそれに限りなく近いところまで理解しているだろう。

 

 盟主はともかく、ハーウッドが何故そこまで知ることができたのか。その理由は分からないが彼はアーヤが幼い頃に彼女を拾い、育ててきた。そうして幼い頃から見てきたことで、あるいは何かの調査や実験をして気づくことがあったのだろう。間違いなく結社において最もアーヤを面白がり、アーヤの血を素材に使ったBC兵器の作成や企みも含め、利用しているのは彼だろうからねえ。

 

 ああ、それと戦闘力に関してもかなりの強さを持っているね。

 

 その耐久性も然ることながら、彼女は幼い頃からハーウッドやイスレに暗殺者として育て上げられた。その才能は結社に入ってから更に伸びたようで気づけば伝説の暗殺者として都市伝説になるほどの人数を殺してきた。

 まあそれらは全員教団の関係者だったようだが、それでもそれだけの数を何の痕跡も残さずに殺してきたことに変わりはない。専門は暗殺だが工作や諜報、直接戦闘までこなすアーヤは執行者としてもかなり便利な存在になっている。彼女は表の仕事も忙しい筈だが、それでも使徒からの頼みも殆ど断らないから非常に助かっている。研究においても神機の開発に大いに役立たせてもらっているし、結社にとってかなりの利益を生み出していると言えるだろう。

 

 ただまあオルフェウス最終計画においては……彼女が善良かつ謎の記憶を持つため、結社側に付きながらも表の人間の味方もすることも多いようだが、結社内ではあまり問題になっていない。

 元より執行者は盟主に定められた掟によりあらゆる自由が保証されている。だから彼女の突拍子もない行動も──

 

「うおおおおおお!!? すごい美味しい! 博士博士! これ見て!! ちょっと暇だったから博士の研究室をカジノみたいに改装して大量のパチスロ台を置いてみたんだけどそしたら超大当たり! めちゃくちゃメダルが出てきたからお祝いとしてみんなで手巻き寿司パーティやってるよ!」

 

「やっほー。お邪魔してるよ博士」

 

「いや~、あーしはさすがにマズいと思ったんだけど断れなくてさ。ゴメンね?」

 

「……………………………………」

 

 ──私の研究室が戻ってくると内装がカジノのように改装され、そこでは現役の執行者であるアーヤとシャーリィにウルリカの3人が仲良く手巻き寿司パーティを行っていた。

 

 …………まあ、それでも1つ言わせてもらいたい。常々思っていることではあるのだが……。

 

「──だとしても自由過ぎるっ!!!」

 

「どうしたの博士、急にそんなに大声出して。手巻き寿司食べる?」

 

「食べないっ!! そんなことより何をしているのかね!?」

 

「? だから手巻き寿司パーティだけど?」

 

「そんな当然みたいな顔で言うんじゃない! まるでこっちがおかしいみたいではないか!!」

 

「あ、握りの方が好き? 握りもできるよ。友達からちょっと習ったからね。ヘイラッシャイ! 何握りやしょう?」

 

「好みの問題でもない! 一体どこに上司である私の研究室を勝手に改装して友人を呼んで手巻き寿司パーティをする部下がいるのだ!?」

 

「でも執行者は自由だし……」

 

「その前に人としておかしいだろう!!?」

 

「すっげー……博士が人としての道理を説いてる……さすがはパイセン! そこに痺れも憧れもしないけど!」

 

「寿司って最近初めて食べたけど美味しいよね。パパにも教えてあげようかな?」

 

「それなら呼んでいいよ~。お世話になってるしね」

 

「呼ぶなっ!! 《闘神》を気軽に私の研究室に!!」

 

「──アーヤ、友達を連れてきたわよ。あら、博士もいたのね。御愁傷様」

 

「お邪魔しまーす……あ、あれ……? もしかして……ノバルティス博士?」

 

「へえー……ここが新装開店のカジノ兼寿司屋か。ウチの店には負けるけどまあまあ悪くないじゃん」

 

「あ、スーニャちゃんにアデーレちゃんこっちこっちー。レンもありがとー。知らない人もいるだろうけどみんな私の友達だから紹介するね」

 

「レン!!? それにそっちの君は導力ゲーム開発者の……!」

 

「や、やっぱり博士でしたか! えっと、直接顔を合わせるのは初めてですね。スーニャ・ハーンです。いつもお世話になっています」

 

「ああ、やっぱり君だったか。ふむ、君もアーヤに呼ばれて友達と手巻き寿司パーティに…………ではないっ!! 表の友人を普通に呼ぶな!! ……それと指摘が遅れたがここは新装開店のカジノでも寿司屋でもない!!」

 

「まあまあ。それよりも寿司出来たから食べてみてよ。ほら、あーん」

 

「や、やめたまえ! 食べないと言ってるだろう!」

 

「あれ? もしかして照れてる? へぇー……ふーん……」

 

「な、なんだねその意味深な笑みは!?」

 

「いや~博士ってそういうの普通に照れるんだと思ってね。やっぱり女の子には慣れてないの? 若い頃は灰色の青春時代だった? 可哀想……」

 

「照れてないっ! そして人を勝手に憐れむな! 早くこの乱痴気騒ぎをやめたまえ!」

 

「えー……でももう始めちゃったしなぁ。──あ、それなら導力ゲームで勝ったら出ていくってのはどう?」

 

「私に何のメリットもないではないか!」

 

「博士が勝ったらまた実験に協力してあげるよ。10回くらいでどう?」

 

「…………いいだろう。私が勝ったら即刻、この手巻き寿司パーティを解散した上で実験に協力してもらうぞ!」

 

「オッケー。それじゃ人も多いし《スーパーゼムリアカート》で勝負しよっか」

 

「望むところだ……! そのソフトなら私も開発に関わっている! この私が負ける筈がないっ!!」

 

 ──30分後。

 

「馬鹿な……何故一度も勝てない……!」

 

「イエーイ! 手巻き寿司パーティ続行ー! ほら、罰ゲームの中トロ食いねぇ!」

 

「あら、博士って導力ゲームはアーヤに勝てないのね」

 

「アハハ、反射神経とか操作精度の部分で負けてる感じだね」

 

「ぐっ……そもそもこの導力ゲームが悪いのだ! アイテムの乱数も明らかに偏っている!! なぜ最下位なのに肝心な時にゴミのようなアイテムばかり出る!」

 

「あ、あの、確率を設定したのは確か博士で……」

 

「自分が開発に関わった導力ゲームで負けるの悔ちいね!」

 

「ぐっ……とにかく! このような運が勝敗を左右するゲームはナンセンスだ! 別のタイトルで競わせてもらおうか!」

 

「あらら、しかも激おこじゃん博士。普段のマッド感とか完全になくなっちゃってるし」

 

「そして結局アーヤのペースね」

 

「よーし、次は《コトワリファイターズⅡ》で勝負だ!」

 

「今度こそ……!」

 

「──アーヤさん。言われた通り、訓練も兼ねて追加の魚を持ってきましたよ。これでいいですか?」

 

「あ、セドリックくんありがとー。アデーレちゃん……そっちの赤髪の子に渡しといて!」

 

 …………そう。そんなこともあった。黄昏が終わって半年後くらいだったか。そうして私はその後もアーヤとの導力ゲーム勝負に負け続け、研究室を手巻き寿司パーティ会場として貸し与えることになってしまった……そんな日のことを思い出す。

 

 今こうして思い返してみてもアーヤはあまりにも自由すぎるし、狂人かつ変人でマイペースで厄介な人物だ。結社や私にとっても有益ではあるが、たまに物凄く振り回されてしまう。その度に頭が非常に痛くなる。抑えようにも抑えられないので自由にさせるしかないのも相まって悩みのタネになっているのだ。

 

 ……だがおそらくそういう部分があるからこそ彼女は興味深く、知的好奇心が刺激されるのだろう。

 

 あれだけの悲惨な過去。経歴を持ちながらこの能天気な性格。そしてまるで未来の……いや、別の世界の記憶か知識か、それに準ずる何かを持っていると思わせる言動も含めて、興味を持たずにはいられない。

 

 あるいは私と同じ……歴史に否定されるしかない歪な記憶を有しているのかもしれないと。

 

 ……まあ私と同じはありえないにしても何かを識っているのは間違いないだろう。そういう意味では、私と彼女は少しだけ似ているのやも──

 

「あ、博士ー。ほら、見て見て。博士に提供してもらった研究室の1つ、完全に寿司屋にしてみたら構成員から大繁盛でさー。めちゃくちゃお客さん入るようになって大成功しちゃった! やっぱこの回転ベルトと()()()()()()()()()()()()()()()()()! 回転寿司屋として表でも流行りそうだし同じの作ってよ博士!」

 

 ──やはり似ているというのはありえないな。全く。……というか、何度も言うが一体何をしている!? そして回転ベルトはともかく私の像を表に出そうとするのは絶対にやめたまえ!! 裏でも駄目だが! 

 

 そうして何故か回転寿司屋の創始者みたいになってしまった私はそれを撤去させると気を取り直して“技術的特異点”を観測するべくクロスベルへと向かうことにし、そこで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ──ど、どうも……ラスボスにボコられました……アーヤ・サイードです……やっぱりゾア=ギルスティンには勝てなかったよ……さすがは本物じゃないとはいえ《鋼の至宝》……強さ的には二至宝が合体してるだけあって間違いなくこの世界の最上位の存在だよね……私とテスタ=ロッサでもさすがに厳しかった。

 

 まあでも幸いにもゾア=ギルスティンは途中で消えてったけどね。ズタズタにされた後はルーファスたちも昏睡状態から目覚めたみたいで私と《零の騎神》の戦いの一部始終を見届けたみたいだった。

 そしてその際に同じく私の戦いを見上げてた管理人たちと色々やり取りをしてた。

 

「それで、君たちは一体何者なのかね?」

 

「フフ、さてね。ただのアーヤ姉の知り合い……はさすがに通らなさそうかな? 僕たちのことをよく知ってそうな子もいるみたいだしね」

 

「っ……あ、あなたは……ううん、あなたたちは……」

 

「まさか全員……“管理人”なのか……?」

 

「管理人……?」

 

「それって一体……」

 

「……察するにスウィン君とナーディア君と因縁浅からぬ相手、か。それにそれぞれ目撃されていたね? 3年前の内戦やクロスベル……そして《黄昏》においてもアーヤ君に呼び出されていたのは記憶に新しい」

 

「ああ、そういやぁそんなこともあったなぁ」

 

「その節はどうも」

 

「アハハ、まあ色々と影で動かせてもらってたからねぇ。今回も色々と用事があってこの地にやって来たわけだけど……そっちの脱走者にも用があるといえばあるしね」

 

「っ……ナーディア!」

 

「うん、すーちゃん……!」

 

 ってな感じで若干一触即発気味にはなったんだけどね。ただその空気感はマズいので私もボロボロの身体にムチを打って空気を緩和させに行くことにした。

 

「い、いやいや、この人たちはただの知り合いってだけでなんでもないって!」

 

「では何者なのかね?」

 

「そ、それは……えっと、そう! 共和国で今流行りのアイドルユニット! 《教団何が何でも殺し隊》のメンバーだよ!!」

 

「何ですのそれ!? しかも名前が物騒すぎますわ!!」

 

「ファーストシングル『ヨアヒム、実は教団時代から釣りが趣味で釣った魚をたまに私に食べさせてくれた~でも殺す、その捌いた魚のように~』も買ってね!」

 

「タイトルがブラックすぎますわ!? というかあなたの教団ネタは反応し辛いからやめなさいな!!」

 

 と、そんな風に誤魔化した。その甲斐あってか、メルキオルも笑ってくれて。

 

「──まあ、そうだね。確かに細かい用事はあったけど……一番大事な用事は終わったし、今日のところは大人しく帰らせてもらおうかな」

 

「何……?」

 

「……なーちゃんたちを捕らえに来たんじゃないの?」

 

「まあそうしたいところでもあるんだけど今やってもすごい邪魔が入りそうだし、何よりアーヤ姉に怒られそうだからね」

 

「フフ、本来ならば脱走者は何が何でも捕らえて改めて支配しなおすところだが……まあ今は羽を伸ばすことを許そうではないか。──どの道、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何を……」

 

「……なーちゃんたちは戻らないよ。あなたたちがどれだけ追手を差し向けたとしてもね」

 

「ああ、期待させてもらおう。それでこそ()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!? エースに次ぐ……?」

 

「卒業候補者……? 一体、どういう意味?」

 

「フフ、それが知りたければ戻って来るがいい。我はいつでも待っているぞ」

 

「じゃあな。次会う時は互いに存分に喰い合おうぜ」

 

「それでは失礼します」

 

「オ・ルヴォワール♪ アーヤ姉もまた一区切りついたら連絡するね♡」

 

「あ、うん。みんなまたねー。あはは……」

 

 ──そうして《庭園》の管理人たちは色々意味深なことを言って去っていった。ふぅ……これでよし。明らかに私に色々と聞きたそうな視線が来てるけど今はそれどころじゃないからね! 私とか《庭園》のことよりもさっきの騎神とかエリュシオンの方が今は大事だし! みんなもそれは理解してるみたいで私の知り合いのヤバさとかすーなーの事情とかも含めて今は置いておき、通信が繋がるようになったので他の場所にいるリィンくんたちⅦ組やロイドくんたち特務支援課とか今回の事態で動いてる人たちと連絡を取り合って情報を共有することにした。

 

 いつの間にかリィンくんの片目が私に似た黄金の瞳になってたり、髪がちょっと白くなっててオシャレな感じになってたけどそれももう1人の自分と同調したせいなんだとか。そんなこともあったねと驚きもしたけど気を取り直してクロスベル市解放作戦を行うことになってね。偽物のルーファスが帝国や共和国を含めた全世界に従属を求めててとんでもなくヤバい事態だからさっさと偽ルーファスを倒して黒の衛士隊が占拠するクロスベルを解放しようってなったわけだ。

 

 その作戦会議はみんなで、もとい頭の良い人たちが頑張って考えた作戦なので何の問題もない。なので私は大人しく今日の分の服を仕立ててその日は大人しく寝た。──ああ、それとマキナはやっぱりイシュメルガ=リィンの影響を受けて命令コードを書き換えられたとか何とか。イシュメルガだからね。黒の工房の制作物でもあるマキナはそれに気付いたけどラピスを逃がすために時間稼ぎをした結果、偽アーヤに従うように書き換えられたけど偽アーヤが消えたので無事に戻ってきた。そんな話も地味にしたね。

 

 ──そして次の日。七耀暦1207年。3月22日。午前10時ちょうど……クロスベル市解放作戦が始まった。

 

 その作戦はクロスベル警備隊とかクロスベル警察が大いに頑張ってくれてね。東門と西門を同時に一気に突破して市内になだれ込んで黒の衛士隊を制圧。操られてるイリアさんも解放して偽ルーファスも倒して一件落着ちゃんちゃんって作戦だ。

 

 なので私もルーファスに付いていって全力で協力することにした。門を守ってる黒の衛士隊に奇襲を仕掛けて峰打ちでバシバシ戦闘不能にしたり、私が良い感じに殴ると洗脳が解けたりするみたいだから途中からは更に全力でやった。途中で良い物も貰ったからね──

 

「──食らえー! ライ麦パン! ベーグル! 食パン! アンパンチ! アンパンチ! ホットドッグにカツサンド! 朝食にもランチにもディナーにもベーカリー《モルジュ》のパンをどうぞお買い求めください! アニバーサリーロールもあるよ! そして最強のハードパン! バゲットを食らえ──!!」

 

「って、何をまたパンを食べさせてますの!?」

 

「3年ぶりの春のパン祭りだよ!」

 

「う……ここは一体……?」

 

「我々は何を……?」

 

「洗脳が解けてる!?」

 

「一体どうなってるんだ……?」

 

「アーヤ君にはよくあることだ」

 

「うむ、3年前もこの方法で操られた警備隊を無力化していたな」

 

「もっともあの時は《グノーシス》の解除条件だった筈だけどね。原理はよく分からないけれど気にしなくていいわ」

 

「さすがは先輩ですね」

 

「疑問に思う俺たちの方がおかしいのか……?」

 

「すごいわアーヤ!」

 

 ってな感じでよくわかんないけどパンを食べさせたらまた無力化できた。偶然貰ったパンが衛士隊の口の中に入ったことで気付いたことなんだけどこんな平和的な方法で無力化できるならそれに越したことはない。

 ただ以前のグノーシスの解除とは違って今回は私が直接食べさせないと無意味みたいだから大変だ。自分でも全然意味が分からないけどもしかしたらこの黒の衛士隊もどこかで私の影響を受けてるのかもしれない。

 

 と、そんな細かい理屈は置いといて、市内では色んな人が味方してくれた。洗脳されてない市民とか遊撃士とかディーターさんが雇ってた《赤い星座》とかね。私の嫌いな《黒月(ヘイユエ)》も動いてた。うわぁ……ツァオもいる……相変わらず胡散臭い……。

 

 ああ、それとせっかくなので途中からはピクニック隊じゃなくてⅦ組に合流させてもらうことにした。レンとかクローゼちゃんもリベール組の方に行っちゃったしね。ピクニック隊も名残惜しいけどⅦ組が揃って戦える機会はこれから先あんまりないだろうからこの時くらいは付き合おうかなって。私も一応はⅦ組の副担任だったわけだし。

 

「よーし、進みながら黒の衛士隊をハリセンでシバいていこう!」

 

「そんなの意味ないでしょ……って言いたいけどアーヤ教官だから意味があるんでしょうね……」

 

「先ほどもパンを食べさせて洗脳を解いていたようだしな……」

 

「手伝えることがあるなら手伝おう。風もその方がいいと言っている」

 

「前々から思ってたけどアーヤ教官に関してだけその風判定おかしくない?」

 

「アーヤ教官、どうせならもっと効率的に洗脳を解除しませんか?」

 

「ん? たとえばどうするの? ミュゼちゃん」

 

「そうですね……アーヤ教官の生歌でも拡散すれば舞の洗脳に対抗出来るのではないかと」

 

「ほんとぉ? ──まあでも試すだけならタダだからやってみよっか! よーし、レッツゴーフィーバーターイム!!」

 

「イエーイ! ボクも一緒に歌いたーい! ユーシスも一緒に歌おうよ!」

 

「ええい、誰が歌うか! お前たちだけでやっていろ!」

 

「えっと、それなら一応術で周囲に音を拡散しますね」

 

「頼んだエマちゃん!」

 

「さすがはミュゼね……アーヤ教官の特性を心得てるわ」

 

「相変わらずうるさいですね……」

 

「いつも通りすぎんだろ。もはやあんまり違和感を感じなくなってきた自分が恐ろしいっつーか……」

 

「とにかく先へ急ごう!」

 

 なのでみんなで力を合わせて進んだ。マキナに音楽を流させながらミリアムちゃんやミュゼちゃん、ガイウスくんの合いの手を受けながらフィーバーした。おかげで楽に進めたし、途中でガルシア・ロッシも蜂蜜瓶片手に助けてくれたりもした。

 だからまあ、無事にイリアさんの下にも辿り着けたし、そこにいた魔煌機兵の最終型も普通に倒せた。ロイドくんたちとも合流したし、これだけの戦力が揃ってると正直そりゃ倒せるし言うことも何もない。戦いは数と連携だよねってくらいだ。

 

 そして最終的にはオルキスタワー前で先に辿り着いていたピクニック隊とも合流して全員で偽ルーファスと操られたイリアさんの2人と戦うことになった。なんかすごい霊力集めてて強化状態になってたから強いは強かったけど味方が多いからあんまり怖くはなかったね。本物のルーファスやリーシャちゃんがすごい頑張ってくれてたし。

 

 だからまあそれも乗り越えられる訳なんだけど……ここで一件落着とはいかないんだよねぇ……。

 

「……残念だが……君たちに勝利はない…………時間、だ…………」

 

 既に敗れた偽ルーファスがそう言った瞬間。予め通達されていた刻限の正午に、南の方角から凄まじい霊圧が感じられた。

 

 そしてそれは……とんでもない代物だった。色んな意味で。

 

 

 

 

 

 ──エルム湖上に現れたそれと起きた現象を、多くの人々が目撃し、驚愕した。

 

「……あれが我々の目をも掻い潜り建造されていたものですか」

 

「甘かった……!! ここまでの代物だったとは!!」

 

「あ、あれがこの装置で隠していた……!?」

 

「ええ、情報操作で行方不明になった“ガルガンチュア級”に列車砲……そしてタングラム要塞を解体して完成させた“最終兵器”……!」

 

「まさしく技術的特異点の産物、か」

 

「クソ、この世に生み出していいモンじゃねえだろ……!」

 

「…………まあ、見た目はともかく……素晴らしいものであることには違いない。あれこそが超高度機械知性の、技術的特異点の産物……! 明らかに影響を受けているようだし、若干抵抗はあるが……存分にデータを取らせてもらうとしよう……!」

 

 その技術的特異点の産物はエレボニア帝国ラマール州沿岸部にある海上要塞ジュノーを超遠距離砲撃によって跡形もなく消し飛ばし、それを見ていた全ての人々に衝撃と畏怖を与えた。

 

 その上で偽装は解かれ、ルーファス総統が予定していたお披露目が行われ、予め撮影されていた映像が各街頭モニターや導力ネット上に流された──

 

『──何故あのような見た目になってしまったのだ!?』

 

『いや、それが……閣下の側近である暗殺者の方がこのフォルムの方が好みだと伝わっていたらしく……』

 

『ぐっ……まさかそんなことが……これは一体どういうことかね!?』

 

『だって見た目くらいは親しみやすい方がいいかなーって思って……』

 

『あれはクロスベル統一国の象徴になるものだぞ!?』

 

『まあまあいいじゃん。美味しそうだし』

 

『くっ……何ということだ……』

 

 ──が、その映像は放送事故もかくやというルーファス総統と顔を隠した謎の暗殺者の2人の会話から始まっていた。

 事情を知る者が見ればどちらも模倣擬態のルーファスとアーヤの会話だと分かるが……それよりも問題はその映像の内容と、現れた建造物だった。

 

『……アレで妥協する他ないか……では改めて──さて、ご覧いただけたかな?』

 

 ルーファス総統は色々と言いたいことを呑み込んだようで、不服さを滲ませながらも気を取り直して演説を行う。

 

『あれに聳え立つはクロスベル統一国の、そして大陸の恒久平和の“象徴”となるもの』

 

「しょ、象徴……?」

 

「あれが、か……?」

 

 エリィやランディはそれを聞いて訝しむ。オルキスタワー前から南に見えている者を見てルーファス総統の正気を疑った。

 

『《天の雷》によって全ての悪を滅ぼす、“世界最後の兵器”にして史上最高の抑止力』

 

「あれで……?」

 

「いや、確かにその威力は笑えねえが……」

 

 フィーやクロウは釈然としない。確かに兵器としての威力は凄まじく、深刻な事態であることは間違いないのだが、ある一点のせいで真剣味が感じられなくなってしまう。

 

 だがそれでもこの世に、現代の技術では作り出すことのできない最悪の兵器が誕生したことは確かだった。

 その名前を、予定していた名前をそのまま、ルーファス総統は高らかに宣言した。もはや有無を言わせぬ、見方によってはヤケクソ気味に。

 

『その名は──《逆しまのバベル》!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、ちくわじゃん……」

『──いや、ちくわだよね?』

 

『ちくわではないっ!!』

 

 そう、その《逆しまのバベル》の見た目はどう見ても巨大なちくわだった。私のツッコミと映像の中に偽物の私のツッコミがほぼ一致する。

 

 それに対して偽ルーファスは否定するけど……どう見てもちくわだった。エルム湖上に聳え立つそれは。クロスベル全域からも確認できるその巨大な建造物の見た目は、兵器としての威力などはともかく、ちくわでしかなかった。

 

『とにかく、かの巨塔のお披露目をもって──』

 

『《逆しまのちくわ》ね』

 

『だからちくわではないっ! バベルだ!!』

 

「いや……ちくわだろ……」

 

「うむ……ちくわだな……」

 

「ちくわでしかないわね……」

 

 もうアッシュくんもマキアスくんもアリサちゃんも他の人も揃ってそう指摘して頷く。そうするのが自然なくらい巨大なちくわだった。

 ただそれでもとんでもない兵器が誕生したことに変わりはない。私は戦慄する。

 

「なんてことを……」

 

「アーヤ教官……」

 

「アーヤ教官でもそれだけショックを受ける代物というわけか……」

 

「ちくわだから逆さまでも違いがわからない……」

 

「そこ!? いや確かにそうだけど!!」

 

「どこに戦慄してんだ!?」

 

 私がショックを受けているとユウナちゃんやクルトくんは心配してくれたけどその後私の発言を聞いてユウナちゃんとアッシュくんが揃ってツッコミを入れてきた。でも実際そうだし……しかもよく見たら真ん中の穴に黄色いのが入ってて……。

 

『しかもよく見たらチーズinちくわじゃない?』

 

「あ、ほんとだ。美味しそうだね」

 

『おでんに染み込ませたいよね』

 

「ねー」

 

「どうでもいいしそんな訳あるかっ!」

 

「というか映像の中の偽物と会話してんじゃないわよ!」

 

「ということはあれを止めないとこの先、ゼムリア大陸全土にチーズが降り注ぐことに……」

 

「だとしたら何の問題もねえよ!」

 

「いや、問題はあるような気が……」

 

 私よりも先に偽者の方が気付いたみたいだった。よく見たらチーズが入ってることに。今度はクロウくんにアリサちゃん。そしてランディ兄にトワちゃんがツッコミを入れていた。おお……人数が多いからツッコミも多くて七色のツッコミが聞けてすごい。

 

『とにかくだ! かの巨塔のお披露目をもってここにゼムリア大陸の統一を宣言する!!』

 

「私の偽物なだけあって偽のアーヤ君に苦労させられているようだな。それはともかく、僅かだが住民の恐怖が和らげられたのは一応僥倖だろうな」

 

「いや、あの見た目の巨大兵器が建ってるのも怖いが……」

 

「本当はどんな形になる予定だったんだろうね?」

 

「つーかちくわ型の兵器にゼムリア大陸が統一されるってよく聞くとじわじわ来やがるな」

 

「ある意味、本当に平和的に見えなくもないですね……」

 

 そしてヤケクソ気味の偽ルーファスの演説が終わると本物のルーファスが冷静に分析し、スウィンくんとナーディアちゃんも若干呆れ気味に言葉を返す。レクターにクレアちゃんもそれぞれ所見を述べていた。なので私も感想を口にする。

 

「これってルーファスの印象がめちゃくちゃちくわ好きのヤバい人みたいにならない?」

 

「………………………………まあ元より私は大罪人だ。甘んじて受け入れよう」

 

「あ、兄上……その……」

 

「あ、そういえばルーファスってところてんも好きなのよね!」

 

「そうだねラピスちゃん。ところてん☆ルーファス仮面ランドを作ったこともあるんだよ」

 

「ボクも行ってみたかったなー。クロスベル市民からはすごい評価が悪いというか、あれのせいですごい変態扱いされてるみたいだし」

 

「……………………」

 

「ええい、黙っていろ! 兄上の気をこれ以上落とさせるな!」

 

「私のことなら気にしなくていい……フッ……もはや何を言われようと気にならないと言うべきか……悟りのようなものを開いた心持ちだ。これ以上どんな悪評を流されようと失うものなど何もないからな……」

 

 そして私が感想を述べたらルーファスがすっごい色々な感情を呑み込んでテンションを下げていた。ラピスちゃんにミリアムちゃんの3人でところてん☆ルーファス仮面ランドの話もしたけどユーシスくんに怒られた。なんだかんだ仲良いままだよね。この2人。そして地味にルーファスがこの瞬間、無敵の人になった気もするけど気を取り直して事態の収拾と今後の動きについてどうすべきか話し合うことにした。

 

 ただそれもあんまり言うこともなくてね。マクダエル議長とかソーニャ司令とかディーターさんとか熊ヒゲ先生とか全員で集まって話し合いってなると私にやれることはあんまりない。なんか地味にグラムハート大統領が導力通信で帝国の臨時代表のマキアスパパとマクダエル議長と会談したりしてたけどそれも「刻限が来たら普通に軍事介入するよ?」っていう事だった。なんか色々言ってたけど要するにそんな感じ。標的に共和国も狙われてるからね、あの《逆しまのちくわ》の。大義名分は全然あるわけだ。

 

 ただそうなるとその時はクロスベルは二度と独立できなくなるだろうからその前に協力できる全員で頑張って解決しよう! そのための作戦はまた考えとくねってことでみんなで決意を固めたところでお開きになった。その後はみんなでクロスベル市内をみんなで散策することになってね。全員で連携とか戦力の確認も必要だってことみたいだけどそんなことよりみんなで遊べてハッピーだね! 

 

 ただ一応真面目にみんな働いてるんで私も自分の顔が効く範囲で色々と動く準備をしてみたり、デュバリィちゃんたちと煌都料理に舌鼓を打ったり、軽く手配魔獣を倒すのを手伝ったり、久し振りに会う知人と軽く話したりした。後はせっかくなんで市内にある私のお店に連絡してイベントを開いて子供たちにお菓子や服をプレゼントしたりした。ケンくんとナナちゃんとかコリンくんとか知り合いも多いしね。こんな時だけど不安になりすぎないように子供にだけは楽しい時間を提供した。

 

 ……と会話イベントやサブクエも含めてやれるだけのことをやったところでオルキスタワーの屋上に向かって待機し、刻限になると《創の翼作戦》が始まった! 

 

 警備隊や警察がみんなであのバベル(ちくわだけど)に突撃だ! そうしてあのバベルをみんなで攻略する(どう見てもちくわだけど)! 

 

「貴方とまた肩を並べられるとはな、《キリングベア》」

 

「なんか雰囲気変わったか? なんで腰に蜂蜜瓶を括り付けとるんや?」

 

「……色々あってな。蜂蜜が大好物になっちまったんだ」

 

「なんや、その色々って。聞きたいような予想がつくような……」

 

「ハハ、ま、生きてりゃ色々あんだろうさ──そんじゃまあ、久し振りに《西風》として派手にやらせてもらうとするか!」

 

「ああ、団長。俺も久し振りに……アンタの隣で暴れさせてもらうぜ!」

 

「団長……! ゼノにレオも……!」

 

 おお! なんか加勢してる人たちの中にルトガーさんたち《西風》がいる! ルトガーさんが生きてるからね! そこに《キリングベア》ことガルシアも合流した実質《西風の旅団》の再結成! これにはフィーちゃんも大喜び! 《火喰鳥》はいないけどそれでも十分頼もしいね! 

 

「因縁浅からぬ身ですが……微力を尽くさせてもらいます。行きますよ、アイネス、エンネア」

 

「はっ!」

 

「了解しました、マスター……!」

 

 おお! 更に更に! 今度はリアンヌママがデュバリィちゃん以外の鉄機隊を率いて参戦だー!! いやー、実は来るのは知ってたんだよね! デュバリィちゃんたちとご飯食べてる時にその話はしてたからさ! 結社最強の《鋼の聖女》の力を思い知れー! きゃー! 

 

 ただそれでも向こうの物量はすごくて中々に苦戦してたけどカレイジャスⅡと一緒にアルセイユⅡまで現れてそれに乗り込んだかと思いきやヴィータ姉さんやローゼリアちゃんの転移でとんでもない人たちが現れた。

 

「まさかお主のそのような姿を見ることになるとはのう」

 

「話には聞いていたが……随分と見違えたな。色んな意味で」

 

「──そちらも息災のようで、ヴァンダイク元帥閣下。オーレリア将軍殿。各方も、祖国のために骨を折り続ける猛者たちと肩を並べるにこの身は相応しいようには思えないがな」

 

「場違いというなら俺も似たようなものだが……強大な力を背景に人を従属させる。そのような欺瞞を許すわけにはいかない」

 

「フ……私は今やしがない海の家の店主でしかない。名乗る名前も持ち合わせていないが……今回の事件はある意味で私が原因でもある。その後始末のため、世の礎を築く若者たちのため──今一度、力を貸すとしよう!!」

 

 おおお!! 更に更に更に! 今度は帝国の猛者たちが登場だー!! しかもその中心に立っているのは……アロハシャツにサングラスを身に着け! すっごい日焼けしている《鉄血宰相》ギリアス・オズボーン!! 獅子心皇帝の生まれ変わりの帝国最強の傑物が参戦だー!! まあ私が数日前に許可出したんだけどね! 一応ウチの系列の従業員みたいなもんだから! 

 そして……キャー!! レーヴェー!! 相変わらずかっこいいー!! 帝国最強の剣士も参戦だー!! オーレリア分校長にヴィクターさんにヴァンダイク元帥にマテウス・ヴァンダールにウォレス少将と帝国の達人オールスターズ!! 軌跡アベンジャーズ! 大乱闘エレボニアブラザーズだ!! こうして改めて見ると帝国の武人の層厚すぎない!? 化け物しかいない! バベルからの高出力の砲撃を(見た目ちくわだけど)弾いたー!!? 強すぎる!! 

 

 ──そして弱まった霊力を見て私たちは全員バベル内部に転移した(見た目ちくわだけど)。いやー……すごい熱かったね! 欲を言えばオズボーンさんとかレーヴェとかリアンヌママたちにも一緒に来てもらいたかったけどまあしょうがない。突入直前にゾア=ギルスティンに邪魔されたから二手に分かれることになったけど何も問題ないね! 最終ダンジョン攻略開始! 

 

 ちなみに私はリィンくんチームだった。ま、最終的に合流するからどっちでもいいよね。

 

「それにしても……内装が少し、いや、かなり特殊な造りになってるみたいだな」

 

「ちくわだもんね」

 

「い、いやそれはそうなんですがそういうことではなく。アーヤ教官はどことなく見覚えがありませんか?」

 

「? 私は特に……強いていうならおでん屋で見たことがあるなってくらいで……」

 

「そりゃちくわだろ……ってだからそういうことじゃねえよ!」

 

「どことなくアスレチックのような……例えるならあの黄昏の時に見た《金》の騎神の試練とやらの空間に似てますね」

 

「あっ、言われてみればそうかも! なんでだろ、偽のルーファスも記憶が同じな訳だし……もしかして結構楽しかったから再現してみたとか!?」

 

「いや、どう考えても偽物のアーヤ教官のせいでは……?」

 

「外装もその影響なら内装も影響されてるのも自然ですね」

 

 そして攻略を始めたんだけど結構飛んだり跳ねたり避けたりなんかSA◯UKEみたいなダンジョンになってたからそれをみんなで頑張って乗り越えていった。雰囲気は禍々しいんだけどね。途中で反対側にいるもう1つのチームの様子も見たんだけどちょうどロイドくんが反り立つ壁に挑戦したりしてたんで応援した。なんだかんだ肉体派の人が多いからこのくらいはちょろいよね。ミリアムちゃんやアルティナちゃんに至っては戦術殻に乗って飛べるしキーアちゃんもそれに一緒に乗ったりしてクリアしてた。でもたまに誰かが落ちて3つのカメラで抜かれたりしてたね。まあ落ちてもただの水っぽかったから普通に復帰できるんだけどさ。一緒に魔獣というか人形兵器が襲いかかってくるのは大変だったけどそれもこれだけの面々なら楽々クリアできた。

 

 そうして遂に最奥にまで辿り着いた私たちは……そこで今回の事件の黒幕でありラスボス。リィンくんのあり得たかもしれないもう1つの可能性であるイシュメルガ=リィンに。

 

 ……ま、私は識ってたけど。ただみんなは驚いてたしそれに最初に辿り着いたのがロイドくんなことにもイシュリィンくんはびっくりしてたね。ようはエリュシオンがシミュレートしたノーマルエンドで宇宙空間に飛び立ったリィンくんって訳なんだけどリィンくんとイシュメルガの無限相克も今は終わってどちらでもない存在になったんだとか。

 まあほぼイシュメルガみたいなもんなんだけどね。その悪意がエリュシオンを乗っ取った訳だ。

 

 そしてその目的は恒久的世界平和。イシュリィンくんが言うには人間を救うためにエリュシオンが演算して本能的に英雄であるリィンくんと黄昏の元凶であるイシュメルガを求めたことでこうなったとか云々かんぬん。大陸を統一して不完全な人間を救う。これから起こるであろう災厄の芽を摘もうっていう一応は人助けのためらしい。

 

 ただそれもラピスちゃんに否定されてたね。エリュシオンの本質は観測と演算でしかないからイシュリィンくんのその結論はただのバグだって。ラピスちゃんが人間を見てきて接してきたことで得た答えなんかも聞けて成長が感じられるね! 

 

 とまあすっごい真面目なシリアスシーンだったので私は大人しくしてた。まあ後はラスボスをみんなで対峙するだけだね! ウチのマキナを誑かしたり偽物を作って色々暗躍したツケは払ってもらうよ! 

 

 ってことで生身のイシュリィンくんとの戦いが始まったんだけど……もう、めっっっっっっっっちゃくちゃ強かったね! 他にもお供を呼び出してたとはいえ普通にヤバすぎた。というか全然攻撃効かないし。私も特性の毒とか刃に塗って攻撃したんだけど

 

「アーヤ・サイード……イレギュラーの塊である貴様の対策は既にエリュシオンにより演算済みだ」

 

「え、じゃあ私特製の激辛麻婆豆腐定食も効かないの!?」

 

「当然だ。そんなもの……こうしてくれよう!!」

 

「すごい勢いで食べたー!?」

 

「アーヤ教官の突拍子もない行動にも対応できるのか……!」

 

「これは手強いね……!」

 

「クク、当然だ。エリュシオンにかかれば貴様の言動も、ゲホッ、その内に秘めた力も全て完璧に予測、ゲホゲホッ、できる……!」

 

「ちょっとむせてる!」

 

「それでも辛いものは辛いのね……」

 

「フン、それに忘れたのか? 私はあり得たかもしれぬもう1つの因果によって生まれた存在。ゆえに私は貴様の力に影響を受けた《緋》すらも取り込んでいるのだ」

 

「あ、あんですって!?」

 

「だからこそ……こうして対応するだけでなく、貴様と似たようなことすら可能なのだ。そら、受けてみるがいい……!」

 

「一体何を……!?」

 

 ──魔激辛槍セージ

 

「ええっ!?」

 

「ど、どうなってるんだ!?」

 

「奴が持ってた終焉の剣が赤いソーセージみたいな剣になりやがった!?」

 

「クク、クハハハハ!! どうだ!? ほんの一部とはいえアーヤ・サイードの力さえ取り込んだ私にはこうして別の因果でさえ自在に引き出すことができる!」

 

「ボクって別の因果だとソーセージになっちゃうってこと!?」

 

「そ、それは幾らなんでもあんまりすぎるな……」

 

「元気だしてくださいミリアムさん……」

 

「クク、確かに少々間抜けな絵面ではあるがそんなのは瑣末事だ。この絶大な力の前では!」

 

「きゃあっ!?」

 

「うっ……しかも強い……!」

 

「この程度で驚いてもらっては困る。お前たちには絶望しながら消えてもらおう──私自らの手で!」

 

 うわああああ!? イシュリィンくん強すぎるー! しかもリィンくんの方は因果が1つになろうとしてるとかで苦しそうにしてるし「降臨せよ──原初にして究極の存在。《零の騎神》ゾア=ギルスティン!!」──ってもっとヤバいのが来ちゃったー!? 最強の騎神! というか全部の騎神の力を持った存在! 《鋼の至宝》巨イナル一ことゾア=ギルスティンだー!? こんなの勝てるわけないよー!! って、思っちゃうけど相変わらず便利な魔女の術と匣さんのおかげで第Ⅱ分校の機体とかルーファスが乗る用の魔煌機兵のヘルモードとか呼び出してくれたし、私もテスタ=ロッサの宿る《ズルフィカール》を呼び出して頑張って戦うしかないね! リィンくんたちの機体にも宿る筈だし! 

 

 ……で、まあこれがまたその通りになってね。ゾア=ギルスティンは本当にバカみたいに強かったけど途中でリィンくんの機体にヴァリマールが。クロウくんの機体にオルディーネが。ルーファスの機体にエル=プラドーが一時的に復活したことで戦力比が少しだけ縮まった! 

 そのおかげで耐えることができてその隙にみんなはエリュシオンからイシュリィンくんを切断しようと奮闘してくれてね。ティオちゃんにキーアちゃんにレンとチート美少女が3人もいたしラピスちゃんもいたので何とか切断することができた。

 

 と、簡単に言ってみたけど言うほど簡単ではなかったけどね……本当にガチで強かったし。途中でゾア=ギルスティンが私のテスタ=ロッサみたいに色んな武器を取り出してきた時は叫びまくったしかなり痛かった。みんながフォローしてくれなかったらまた土ペロしてたね。

 

 …………え? ラスボス戦なのにダイジェストすぎるって? 

 

 いやそりゃしょうがないよ。だって私から改めて言うこともないし。確かにラスボス戦の最中は私も叫びまくったし気持ちは熱かったし激戦だったよ? でも原作と同じ部分は別に言う必要もないからね。私とテスタ=ロッサの熱いシーンもあったけど……終わった後は騎神の力は再び失われちゃって残念だった。博士の造った神機なら力を残すことも可能かと思ったんだけどねー。

 でもテスタ=ロッサの意思だけは残せた。ただ休眠状態というか、騎神の力と切り離したバグのせいか、会話とか意思疎通が取れないのがちょっと困った。まあどうにかできないか博士とか色んな人に相談して直そうとは思う。それまでは……あ、せっかくだから来年にも出る新しい戦術オーブメント《Xipha》のホロウコアにでもしてもらおっかな。

 

 なので《バベル事件》は一件落着。最後はラピスちゃんがエリュシオンを削除することに決めて、イシュリィンくんじゃなくてイシュメルガが《天の雷》をヒトの憎悪が最も集まる地に落ちるように委ねたことでヤバかったけどそこは今作の主人公の1人であるルーファスが自ら《クロスベル統一国》の総統を名乗り、大陸中の憎悪を一手に引き受けることで解決した。《碧の大樹》も帝国の内戦も皇帝暗殺未遂事件も《ヨルムンガンド戦役》もノーザンブリアやジュライの事件も大陸中の混乱ももちろん今回の事件も全部全部ルーファス・アルバレアってやつが悪かったんだ! うおおおおおお!! ……って感じでね。

 

 ま、その際に自己犠牲しようとしてたけどそこは英雄たちが止めに行くってことでピクニック隊やロイドくんにユーシスくんがルーファスを連れ戻しに行くことになったんで一応私も付いて行くことにした。何かないとは限らないしね。何もなかったけど。もう1人のリィンくんが最後に大体3年後に何かが起こるって言いかけてロイドくんたちが聞くのを止めてたけどそこはちょっと言いたかった。──いや、聞こうよ!!! 何が起こるか分からないの怖いじゃん! 今のうちに対策立てておいた方がよくない!? 私ですら3年後のことなんて全くわからないから困るんですけど!? 

 

「……ねえねえ、私にだけこっそり教えてくれない?」

 

「って、何をやっている……」

 

「あ、バレた。いやー聞いといた方がいいかなーって思ったんだけどね。やっぱダメ?」

 

「あんな良い感じに断ったのに……空気読めないね~《切り裂き魔》さんは」

 

「はは……アーヤ教官も変わらないですね。……………………」

 

 ん? なんかもうひとりのリィンくんがなんか意味深に無言になってる。どうしたんだろ? こっそり教えてくれるのかな? 暗号とかでもいいから教えてくれるなら大歓迎だよ。解けないけど。

 

「……アーヤ教官。そうか……だから今まで……」

 

「? どうしたの?」

 

「……いえ……色々と思い出して合点がいっただけです。ただそれでも、何故そうなったのかまでは関わることのできなかった俺には分かりませんが……」

 

「?? えっと……?」

 

「すみません。こんな要領の得ないことを言われても困りますよね。……そうですね。俺から言えることは1つだけです──()()()()()()()()()()()()

 

「! ……………………うん、ありがとね! リィンくん!」

 

「ええ。こっちの俺やみんなのこと……これからもよろしくお願いします」

 

 ……………………とまあなんか最後に良い感じのことを言って別れたけどリィンくんがすっきりしてリィンくんらしく逝けたなら良かったよね! ルーファスのこともロイドくんやピクニック隊やユーシスくんのおかげで説得もとい逮捕して強制的に連行できたので全部解決だ! 《天の雷》でこの《逆しまのバベル》ことちくわも跡形もなく消え去ったし、ルーファスも一度は入院したけど無事に回復したしクロスベルも3月末には無事に復興した上で再独立をめでたく果たしたしハッピーエンド! 西ゼムリア編完! 

 

 そして《真・夢幻回廊》は…………まあ、その後のことは言う必要もないよね。第三の、創星のデミウルゴスのことなんてさ。もう普通にリィンくんたちと協力して倒して解決しちゃったし。ちょっぴり胸がざわざわしたけどこれくらい大したことないし。

 

 それよりも……んっ……はぁ。なんか色々と解決して解放感がすごい。トールズ第Ⅱ分校の教官職も今年度で終わったし、ようやく共和国の私の家に帰っていつもの日常に戻れる。

 結社の《永劫回帰計画》とかグラムハート大統領の《レーヴァテイン計画》とかのきな臭いものに使われるのはまだ先だし、しばらくはファッションデザイナー業に集中できそうだね。さーて、久し振りに気合いれて仕立てるぞー! 

 

 ……と思ってたんだけどね。共和国に帰ってレンの引っ越しも終わってしばらくして落ち着いた頃。七耀暦1207年の末頃かな。私は暗殺者として動くことになった。《教団》関係者の情報をゲットしちゃってね。共和国内でのほほんと生活してる教団に所属していた40代くらいの男性。

 表向きは普通に会社で働いてるけど裏ではどうやら薬物を流したり半グレ相手に人体実験を行ってるみたいでね。ここ最近になってそうやって大掛かりに動いてるから網に引っかかった。最近は少なかったんだけどね。教団関係者ももうかなり殺してきたし、もしかしたらもう全員始末しちゃったかとも期待したんだけど……ま、そんな訳ないか。教団は狡猾だしまだどこかに隠れている人は多分いると思う。少なくとも関係者はね。

 まあ幹部司祭とか大っぴらに動いてた人はもう私が知ってる人以外いないかもしれないけどさ。それなら嬉しいんだけど……。

 

 そう思いながらも私は共和国南部のディジョン市に向かい、そこに住んでる標的の男を確認するとしっかりといつも通り気配を消しながら追いかけ、何か悪いことでもしようとしてたのか人気のない路地裏に入ってしばらくのところですっと近づいて背後から切り裂いた。そこに言う事は別にない。男は私にも何も気づくこともなくあっさりと事切れたから。

 

 そして私はいつも通り、その場からささっと退散しようとする。痕跡も何もない。目撃者もいない。

 だから何も問題はなく、私は今日の殺すべき相手を殺していつも通りの日常に戻ろうとした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──さすがだな。背後から一瞬の内に首を切り裂いて即死。その男は自分の身に何が起こったか分からないまま煉獄へと堕ちたことだろう」

 

 ──なんて、そんな訳がない。

 

 私は明らかに聞き覚えのある声が聞こえてきてげんなり……いつも通り内心で動揺しそうになるけど、さっきからなんか嫌な気配があることには気づいてたし、表向きには冷静に対応することにした。一応は《庭園》と良い関係を築いてる相手だしね。メルキオルだけ、だけど。

 

「えっと、どうも()()()()()()()。この度は情報提供ありがとうございます。お見苦しいところをお見せしました」

 

「何、お前のところのメルキオルには世話になっているのでな。この程度はなんてことはない」

 

「あはは……そうですか」

 

 そうして余裕たっぷりに私の前に現れたのは最近共和国内で勢力を伸ばしているマフィア《アルマータ》の首領ジェラール・ダンテス。いつしか私とも会った悪意の化け物だ。カルバードの旧王家の末裔でイクスとヨルダの実の父親でもある。

 そして……教団の元幹部司祭でもあるんだよね。はぁ……どうしよ。強い上に頭も良くて色んな意味で隙がないし忙しいから後回しにしてたけどそろそろこの人も始末しないと。黎の軌跡シリーズではこの人が結構色んなことをしでかすから大変だし。でもどうやってやろっかなぁ……やっぱりヴァンたちに協力して追いかけるのがいいかな。その方が隙が出来るだろうし確実性がある。下手に追い詰めると何しでかすかも分かんないし──「ところでその男の悪事だが……()()()()()()()()()()──は、はいっ! なんでしょうか!? ……………………え? 

 

 私は突然ジェラールからかけられたその言葉に対応しようとして、その内容に思わず固まり困惑する。なので普通に聞き返してしまう。

 

「今なんて……?」

 

「俺が指示した、と言った。そこの男は元々俺の部下でな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私はそれを聞いてちょっぴり心が冷える。普通に教団時代の話を持ち出してくるんだもんなぁ。しかもその言葉の内容も、意味合いによってはちょっと捨て置けないかもだし。

 

「……それはどういう意味ですか? 悪事を指示したというのは」

 

「そのままの意味だ。その男はかつて教団に所属していたが、末端も末端。狂信的になりきることは出来ずにいた小悪党でな。教団殲滅作戦の後も徹底的に地下へと潜り、捕まって過去の悪事を裁かれることや、お前のような復讐者に狙われることを恐怖して生きていた小心者だ。まあだからこそ、ここまで生き延びることが出来たのだろうがな」

 

「……それで?」

 

「フ、そう急くな。順を立てて説明してやる。その小悪党だが……家族を築いていたことは知っていただろう」

 

 ジェラールから当たり前のことを聞かれたので無言で肯定する。標的の下調べは暗殺前に当然行う。家族構成なんかもそりゃ調べる。その男が妻や子供もいるなんてことは別に驚くべきことではない事前に知っていた情報だ。

 だけどジェラールはその当たり前の情報を敢えて仰々しく話始める。

 

「そう、お前が事前に調べた通り。この男は過去に教団に所属していたが、それでもここ数年はある程度改心し、表で生きていた。愛する女と結婚し、子宝にも恵まれ、幸せな家庭を築いていた。まさに順風満帆の人生。足を洗い、悪事を行うこともなく全うな職で食い扶持を稼ぎ、人並みの幸せを謳歌し始めていた」

 

「……だからそれが?」

 

「そんなかつての部下を俺は見つけてな。そいつを薬や暗示で唆し、再び悪事を行わせてみた。具体的には《グノーシス》にも似た薬物を裏市場に流し、それに吸い寄せられた半グレ相手に人体実験を行わせてやった」

 

 ──そんな中々にふざけたことをジェラールは平然と語った。おそらくは私に聞かせるためだけに。

 

 ただ私は別に動じることもない。ジェラールがこういう人だってのは分かりきってること。だからそんなことを言われても、多少驚きはしても別におかしなことじゃない。

 

「そう、つまりは俺が黒幕だ。そして、お前はまんまと騙され、悪事に利用されただけの男を殺してしまったというわけだ。男の妻と子供はこの後、訳の分からないまま殺されてしまった謎の殺人事件に悲しみ、恐怖することだろう。事件の痕跡は一切出ない。恨みや憎しみといった対象をぶつけることすら出来ない、未解決事件に冠される影も形もない都市伝説の暗殺者──共和国に復活した《切り裂き魔》という謎の殺人鬼の事をな」

 

「……はぁ」

 

 私はちょっとため息。ジェラールの悪意がすごくて辟易とする。言わんとしてることも分かるけどその話にもあんまり乗る気もないし。

 

 私が今考えてるのは、どのタイミングで殺そうかなぁ、ってことだけだ。

 

「何、悪いのは俺でお前は哀れな被害者だ。だがそれでも殺してしまった以上、お前にも罪はあるだろうが──それでも気にする必要は」

 

「──あのさ。舐めないでくれるかな?」

 

「……ほう?」

 

 なんだけど聞き捨てならないことを言われそうだったから一応反論しておく。ジェラールが明らかに興味を惹かれるように眼光を鋭くしたのは掌の上で転がされてるみたいで嫌だけど言うべきことは言っておかないとね。

 

「そんなこと、()()()()()()()()()()()()

 

「自分のやってきたことの意味を理解していると?」

 

「当たり前でしょ。私が殺してきた相手に家族や愛する人がいたって? ──そんなの当然じゃん。どんな悪人だってクズだって人間なんだからさ。誰一人大切な人がいない方が珍しいよ」

 

 そう、そんなの当たり前のことだ。どんな悪人やクズやチンピラ。マフィアや猟兵や裏社会の人間にだって家族はいて大切な人もいる。少なくとも、その人が死んで悲しんだり寂しかったり、あるいは利益としていなくなることを惜しいと思う人もいるだろう。

 つまり無価値な人間なんてこの世にはいない。命の価値がない人間なんて存在しない。どんな命だって代わりにはならない。

 そしてそれは教団の人間だって同じこと。

 

「ただそれでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから今更殺した相手に大切な人がいるからってショックを受けたりはできないし、そんな資格もない。そもそもそれで動揺するくらいなら殺してないよ。──だから舐めるなって言ったの」

 

 私が殺してきた教団の人間。その関係者。あるいは襲いかかってきた裏の人間とかそういう人たちにだって家族はいたし、中にはしっかりと愛し合っていたり悲しんでくれる人はいた。それが私にとって殺さない理由にならなかった、というだけで。

 そして私なりの言い訳や理由があったとしても、それを押し出して正当化はしない。しないけど、別にそれで止めもしないし。悪いことだって理解しながらやってる。こんな私でも裏社会で生きてきてもうそろそろ20年近くになる。今更そこを履き違えたりはしないし、それでもやると決めた時はやるからこそ裏の人間は裏の人間なのだ。表とは違う。遊撃士や警察とは違う。罪だとしても自分の意思を押し通す破綻者。普段は話が通じたりする猟兵やマフィア、結社の人間。《執行者》だって外道揃いって言われるのはそういう部分をみんな持ってるからだ。犯罪だって理解してるけど法やルールや道理を犯しててもそれを自分がやると決めたならやってしまえる。

 

 そしてそれは私も同じだから。だから今更そんな分かりきってることを指摘されても意味なんてない。

 

「ハハハ……!! なるほど、悪かった。確かに舐めすぎた。子どもの頃から《破戒》の薫陶を受け、暗殺者として裏社会を渡り歩いてきたお前には猿に木登りを教えるようなものだったか」

 

「……それで結局何が言いたいの?」

 

「クク……何、今のはちょっとした戯れだ。分かってはいたがお前の精神性は()()()()()()()。それを再確認したかっただけでな。本題は別にある」

 

 本題とか言われても嫌な予感しかしないなぁ……でも一応は聞いとこう。何を企んでるか聞いとかないと後始末する時も面倒だし。

 なので私が黙って聞く姿勢を見せるとジェラールは鷹揚と語り始めた。

 

「俺が興味があるのはお前のその執着。その異様な在り方のことだ」

 

「……執着?」

 

「自覚がないか? たとえばそこに死体になって転がっている過去に教団に所属していたその男。仮に俺が何ら関与していなかったとして。拭いきれない過去の罪があるとはいえ、改心し、大事な人間がいるその男を、貴様は殺さないのか?」

 

 そんな分かりきったことをジェラールは自己完結気味に尋ねてくる。私が答えることも求めてない。もう分かりきってるから。

 

「そうだ。お前が自分自身で理解しているように、殺していただろう。今何をしているかなどは関係ない。教団というものに過去に関わっていたという時点で、お前はその凶刃を容赦なく振るうのだ。慈悲もなく、冷徹に、全てを割り切った上で! 仕方ないと殺してしまう! そうさせるほどの教団に対する異常な執着。その理由は一体なんだ?」

 

 ジェラールの語りは徐々に熱を帯びていく。こういうところがカリスマとか言われて構成員を集めるんだろうね。私には全然分からないけど。

 

「家族が教団に殺されたから? あるいは自らが非道な実験に遭ったからか? ──無論、それは復讐に足る正当な理由だろう。決して異常ではない。むしろ正常だ。教団の最も酷い被害者であるお前が教団関係者を憎み、殺そうとしても誰もその行いを異常とは思わない。逆に誰もが理解するだろう。そうしても何ら不思議ではないと」

 

 別にそこまでは思ってない。憎んでないし、ただただ生き辛くて邪魔だから殺してるだけだ。私の周りにも迷惑がかかるし。仮に私自身は大丈夫でも周りに被害が出ることは避けるべきだし。

 そう、だから別に特別昔のことを恨んだり憎んだりは全くしてない。全部割り切ってる。感情を揺さぶられることなんて何もない──

 

「ただよくよく考えてみればおかしいとも思うのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──そうしてジェラール・ダンテスは指摘する。

 

 私の内面のことを。

 

「負の感情を忌避し、怒りや憎しみ。哀しみなどまるでないように生きているお前が、そのことにだけは異常な執着を見せる。お前が自ら嘯くようにその能天気だという精神が、その屈強な精神が欺瞞でないなら、なにゆえ教団にだけは執着する?」

 

 ──……いい……。

 

「それとも実はそんなことはないか? お前の中に負の感情は確かに存在し、それを普段はひた隠しているだけか? 家族を大事に思っているから教団のことだけはさすがに例外か?」

 

 ──……もういい……。

 

「あるいは……また別の理由も存在するのか? たとえば()()()──」

 

「──それ以上喋るな」

 

 ──その刹那。私の喉から信じられない程()()()()()()()()()()()()

 

 そしてその言葉を紡ぐより前に、私はジェラールの背後に移動して《ゾルフシャマール》を振るっていた。そのタイミングは完璧なもの。殺気も敵意も気配も何も感じさせない。感知したその時には刃は標的に届いている。きっと誰だって殺せただろう。私の知る強い人たちでも防ぐのは難しい。少なくともそう思わせるほどの暗殺だった。

 

 ──が。

 

「悪いね。それは阻止させてもらうよ」

 

「っ!?」

 

 私のその全力の一撃を、割って入った誰かが防ぐ。

 しかもそれは似ていた。得物は中東風の剣だが、赤いフード付きの、巫女服にも似た衣装に褐色の肌。私より少し背が高く、大人びて朗らかで優しそうな容姿の女性。目元は仮面を着けていて分からないけど、髪色は私と同じ。その容姿は……。

 

「おっと。危ない危ない。さすがは伝説とまで謳われる暗殺者。挑発するにも命懸けだな。念の為、新たな仲間を連れてきて正解だったか」

 

「…………その人は……」

 

「ああ、紹介しよう。《アルマータ》に最近入った幹部の1人だ。中東で雇った暗殺者でな。代々()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。名前は……クク、お前の方がよく知っているな?」

 

「──フフ……久し振りね、アーヤ。私の名は……」

 

「──うるさいよ()()()()()()()()。人の姉の身体借りて気持ち悪い演技しないでくれないかな?」

 

「ッッッ……!?」

 

 そう、私の一番上の姉──サーリヤ・サイードの容姿をした、革命家オーギュスト・アルダンだった。

 なので明らかに演技をしてる気持ち悪いその革命家に指摘する。私も元男ではあるんだけど私の場合は演技じゃないし男だったという性自認はとっくの昔になくなってるからこいつとは違う。

 というかそんなことよりも人の姉の姿で、しかも姉のように振る舞って出てくるのが気持ち悪かった。だからそう指摘したんだけど。

 

「ほう……? 何故そんな突拍子もない答えがすぐに出てくる? 何か根拠でもあるのか?」

 

「どうだろうね。でもどうせ模倣擬態(シミュラクラ)でしょ? それで私の姉の姿でも再現してそこに怨霊が入り込んだか入りこませたか……そんなところかな。ずっと教団と《庭園》に寄生してたって話だし。そっか、ジェラールと手を組んだんだね」

 

「っ……何故それを……!?」

 

「フハハハハ!! 成程成程! さすがは《庭園の主》……いや、あるいは《奇蹟の御子》と言うべきか? どういう絡繰かは知らんがそこまで識っているとはな。クク……せっかくお前を動揺させてその感情を揺さぶってやろうと思ったんだが、当てが外れたな」

 

「ああ、大丈夫。成功してるよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、ジェラールの目的は達成されてる。

 どういうつもりかは分からないけど、私の前に現れて人の心に土足で踏み込もうとして挙句の果てに家族のことすら弄んでるんだから。

 しかもそんな相手が教団の元幹部司祭なんだもん。そりゃ久々にちょっとだけ苛つきもするよね。

 

「ジェラール・ダンテス。あなたのことは昔から元教団幹部司祭ってことで目を付けてたけど今回の事でより意思が固まったよ」

 

「分かりきってはいるが一応は聞こう。どうするつもりだ?」

 

「──あなたのことは、私が確実に殺すよ。逃げられるとは思わないでね」

 

 私は心の底からそう決めて、これからの行動指針を言葉にして宣告する。酷く冷たい声だったと思うけどジェラールは全く動じてなかった。むしろ嬉々として尋ねてくる。

 

「フハハ……それは恐ろしいな。たった1人でも《切り裂き魔(ザ・リッパー)》……《砂漠の死神(アズライール)》……《血染めの裁縫師(ブラッドクチュリエール)》……そして《庭園の主(ガーデンマスター)》。様々な呼び名で伝説の暗殺者として恐れられるお前に狙われればその追跡を躱し続けるのは至難を極めるだろう。それに……あるいは《庭園》も動かすつもりか?」

 

「必要なら何でもするよ。だから《庭園》も動かすかもね」

 

 敢えて動かすとは明言しない。本当に動かすとしても奇襲した方がいいし。もう何となく分かってるだろうから意味があるかは分かんないけどさ。

 

「その意味を理解しているのか? 俺の率いる《アルマータ》とお前の動かす《庭園》。その両方がぶつかればそれだけでこの共和国の地に混沌と恐怖をもたらすだろう。割を食うのは結局表の人間になるが?」

 

「それでもあなたたちを殲滅した方が今後のためなんじゃないかな?」

 

 ふざけた返答には真面目に答えない。別に正当化するつもりもないけど、ジェラールはもう放置できないし、放置したらとんでもない被害をもたらすかもしれない。

 私のためにも絶対に殺す。なんなら今ここでやったっていい。

 

「面白い……! どうやら俺の目的の最大の障害は遊撃士でも警察でも《黒月》でも他の裏の組織でもどこでもない。お前とお前が率いる《庭園》になりそうだな」

 

「私は別に障害だなんて思ってないよ。殺すと決めた相手は何が何でも殺すだけだからね」

 

「フハハ──!! いいだろう……! 貴様の持つ力や()()()()()()()()()()()、いずれは乗り越え利用してやろう。恐怖というヒトの持つ根源的な感情をいずれ与えてやる。愉しみにしているがいい」

 

「あっそう。その前に()()()()()()()()()()()()()?」

 

 私は話している最中に既に散布していたBC兵器の効果が現れるのを待ち続けていた。少しでも吸い込んだ時点で死ぬ訳だけど、中々死んでくれない。効果が出るのが遅れてるのかな……? 

 

「ああ、毒なら対策済みだ。少なくとも今はな。毒やウイルスの類は効果を現さないよう、特別製のAS薬を服用している

 

「……ああ、なるほどね。やっぱり()()()()()()()()()()()()

 

「残念だったな。俺を殺したいのなら直接、その凶刃を俺に突き立てるがいい。──愉しみに待っているぞ」

 

 そうしてジェラール・ダンテスは傍らのオーギュストと共に転移でその場から消えていった。はぁ、毒効かないか。新しいのを調合するか工夫しないとね。

 それか直接やるか、かな。

 

「他にも色々と忙しいけど……準備をして確実にやらないと」

 

 向こうも対策立ててきた上で宣戦布告みたいなことしてきた訳だし、こっちも人に声かけたり準備をしてしっかりとやろう。

 

「ヴァンには悪いけどね」

 

 私は心の中だけで学生時代からの友達であり、これから始まるであろう黎の軌跡シリーズの主人公である《裏解決屋(スプリガン)》ヴァン・アークライドに謝っておく。

 本当はもうちょっとちゃんと協力しようかとも思ってたんだけど少なくとも今の時点では方針的に協力できそうにないかもってことで。

 まあヴァンがそっちの方針を取るならその限りでもないけどね。ヴァンは表でも裏でもない黎い狭間で生きる人だからどっちを選ぶかは分からない。

 だから協力できるならするし、邪魔をするなら残念だけど対立することになっちゃうね。

 

 まあでも今日のところは一度家に帰ろうかな。途中で私のグループの飲食チェーンでカレーでもテイクアウトしよ。レンはちょうどよく今日はいないし4人分でいいかな。イクスはトンカツソーセージカレーの辛口。ヨルダはほうれん草チキンカレーの甘口。エースくんはシーフードカレーの中辛だね。そしてカレーでも食べながらちょっと相談して……《庭園》の管理人を集めて話し合いかな。オジサンにも声かけよっと。そしてその後は今日の分の服を仕立てて……あっ、ここの移動時間ちょっと予定空いてるし、居場所がわかった《アルマータ》の下っ端を()()()()()()()()()()()。うん、相手は大物だし下準備も兼ねてまずは日常を過ごしながらそこから始めよっかな。




ということで創の軌跡は終了です。色々ありましたが後は細かいエピソードでの登場はさすがに書ききれないので各自で補完をお願いします。
次回からは遂に黎の軌跡編です。創は割とあっさりめでしたけど黎からは濃いめです。アーヤちゃんが一番本格的に関わってくる話にもなるので。お楽しみに。

感想、評価、良ければよろしくお願いします。
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