──俺にはどうしても精算しなければならない過ちがある。
それは9年前。俺が肩入れしたことで《アルマータ》のボスの地位を得てしまった男……ジェラール・ダンテスとの因縁だ。
今現在、カルバード共和国における裏社会の勢力図は混沌としている。
数年前まで共和国の裏社会は煌都ラングポートを本拠とする東方系シンジケート《黒月》の一強であり、かつての《アルマータ》や以前は共和国No.2の勢力を誇っていた《ドゥールファミリー》ですら共和国の秩序の1つに組み込まれる《黒月》と比べれば吹けば飛ぶような組織だった。
しかしこの数年で《アルマータ》は《
共和国の裏社会においてもタブーとされる薬物の取引を行い、民間人を巻き込むことすら何の躊躇もなく行う危険な組織へと変貌を遂げた《アルマータ》は今や警察だけでなく遊撃士協会やCID。《黒月》や他の裏の勢力もマークする裏社会のトレンドとも言うべき組織だ。
そしてそうなった理由の一端に俺の責任がある。
俺がジェラールに肩入れし、先代のボスであったエンリケを追い落とす手伝いなどしなければこうはならなかったかもしれない。
だからこそ俺は《アルマータ》の情報を追い続けていた。ジェラールの情報。奴らの組織図。幹部の情報。構成員の情報。資金源や奴らに使われる半グレまで徹底的に洗い出そうとしている。必要であれば非合法な手段を使ってでも情報を探った。
そうして《アルマータ》のことを調べる過程で幾つかわかったことがある。
どうやら連中は現在、とある裏の組織と激しい抗争を繰り広げている最中だということである。
それもどうやら《黒月》や《結社》、猟兵団やマフィアではない。暗殺を生業とする裏社会においても存在があまり知られていない謎の組織。
その組織との抗争が行われているからこそ、《アルマータ》の幹部や構成員の多くは地下に潜りながら活動を続けているらしい。
なるほど。道理で《アルマータ》の構成員についての情報があまり掴めなかったわけだ。ここ1年ほどで何度も起きている構成員の殺害事件についても辻褄が合う。おそらく暗殺組織とやらの仕業だろう。先日も首都で情報屋として活動しているジャコモが殺されたばかりだ。その現場には《アルマータ》の構成員と思わしき2人の死体も確認されている。
その上、警察の捜査でも犯人の特定には繋がっていない。他の暗殺事件と同じく、異様に痕跡が少なく犯人を絞り込むことすらできていないとのことだ。
それらの情報を耳にして俺は一旦、新たに別の方面から《アルマータ》の情報を追うことにした。
──それは共和国の裏社会において最もタブーとされる存在だ。
だが事が暗殺となれば避けて通ることはできない。正体だけならここ5年程で裏に通じる人間ならば知っている者も多いが、様々な理由からあまり触れたくはない──いや、
かつて共和国を中心に大陸中で非道の限りを尽くした《D∴G教団》。その関係者の尽くを証拠を一切残さず暗殺したという凄腕の暗殺者。あまりにも証拠がなく、被害者が教団関係者だけだと知られていなかったことから、一時は都市伝説として噂されたほどの存在。
そしてその存在はかの結社《身喰らう蛇》に属する執行者でもある。その事実ですら、6年前にリベールの事件で判明するまでは誰も知らなかった──彼女が《切り裂き魔》であることは。
その正体には彼女を知る誰もが驚いたそうだが無理もないだろう。彼女の性格や表での活動を知っていればまさか彼女が暗殺者をやっているとは思わない。
俺も知り合ったのは数年前だが、実際に接してみれば裏で行っている所業と目の前にいる彼女の振る舞いのギャップがすごすぎて困惑してしまった。話には聞いていたが、確かに善良で明るい人物であることは確かだった。各勢力が彼女の正体を知りながらもその部分を追求しないのはそういった事情もあるのだろう。元より彼女が殺してきた者達は教団の関係者ばかり。彼女がその教団の最も凄惨な扱いを受けた被害者という事情も鑑みた結果が現状なのだろう。……もっとも
しかしこうなっては避けては通れない。証拠のない殺人事件に謎の暗殺組織……そう聞いて真っ先に思い浮かぶのが彼女だからだ。
彼女がかつて《月光木馬團》なる暗殺組織に属していたことは知っている。もっともその組織は10年以上前に滅んでしまっているが、彼女であれば何かを知っているかもしれない。
もしくはやはり彼女自身が何らかの理由で殺しているか、暗殺組織と関係しているか……これはまだ推測の域を出ないが、一度調べてみた方がいいのは間違いない。
ゆえに俺は彼女と接触するため、彼女を追いかけて首都イーディスの十三区、黒芒街へと足を踏み入れた。
そこは共和国の掃き溜め。隠された街区。地下に作られた表では生きづらい人間が拠点とする街であり、ここでは表では見られないものを沢山見ることができる。非合法の物品、盗品。薬物に武器。風俗。猟兵や裏社会の人間。闘技場……表の人間が足を踏み入れるには少しばかり危険な場所ではあるが、その分情報は入手できる。
そしてこんな場所に彼女は何の用事で訪れたのか……彼女が裏社会の人間である以上、そこまで不自然なことではないが、ここに来たからには当然目的があるはず。
もしかしたら彼女もまた、《アルマータ》や裏社会の情報を求めてここに来た可能性が──
「いらっしゃいませー! ちょっと寄っていきませんかー! ミラ次第で天国にご招待! 抜きたいならやっぱりミストレル姉さんの風俗店が1番! どんな奉仕もはいよろこんで! ただいま割引中でーす! 華奢な娘から巨乳のお姉さんまでよりどりみどりだよー! 安いよ安いよー! オプションも揃ってまーす!」
──と思って歩いていたらバニーガールに扮して安っぽい看板を持って明るく風俗店の呼び込みをしているアーヤ・サイードの姿を発見した。何をやっているんだ……。
俺はさすがに訳がわからなすぎて立ち止まってしまう。彼女の過去を考えると微妙に笑えないことも含めて頭が痛くなる。彼女は意外とそういうことも好きという噂があるが、それは真実だったということか……? などと考えていると。
「あれ? ディンゴじゃーん! やほやっほー!」
「! ……アーヤ嬢……こんなところで何をしているんだ?」
「そりゃ呼び込みに決まってるじゃん! 見てわかるでしょ? ディンゴもどう? 一発抜いてく? 今なら人気No.1が空いてるよー」
「……アーヤ嬢。君も客を取っているのか?」
「え、もしかして私をご指名? でも残念ながら今は取ってないんだよね。ちょっと臨時のバイトで呼び込みやってるだけだからさ。ちなみに今の私はアーヤじゃなくて新人の《星のアーヤァ》ちゃんなのであしからず!」
「いや、君がそうしているのは色々と問題があるのではないか……?」
このアーヤ・サイード嬢は裏だけでなく表でも有名人だ。あのサイードグループの会長でファッションデザイナー。共和国のファッションや流行を牽引する存在として特に若者の間ではカリスマ的な人気を誇っている。そんな彼女が裏の風俗店で一時的にとはいえ働いているというのは記事にしたら飛ぶように売れるだろう。いや、絶対にしないが。そもそも悪質なデマとして扱われるのが目に見えている。《星のアーヤァ》という名前もどうしてそんな源氏名になったのは意味不明すぎて信じられる要素が1つもない。
「へーきへーき! ちゃんとこうして変装してるしね! それにすぐに辞めるし!」
「すぐに辞める……? 君はお金には困っていないと思うのだが……一体なぜこのようなことを?」
「それはちょっと訳ありでねー。まああんまり気にしないで! で、どうする? 抜いていく?」
「……悪いが仕事が立て込んでいてな。遠慮させてもらう」
「ふーん、そっか。それじゃお仕事頑張ってねー!」
「……ああ」
そして俺はやはりよく分からない理由で働いていたアーヤ嬢と別れる。元気良く手を振っているが……まあ確かにあの愛嬌と性格は風俗嬢に向いている気もする。
俺はその場から離れて……しかし見えなくなった辺りでまた一度立ち止まる。先ほどのアーヤ嬢の発言。訳ありという言葉がどうにも引っかかっていた。
もし彼女が《アルマータ》を殺害している犯人だと仮定するならば……ここに来たのは情報を入手するため……か?
風俗嬢はお客の様々な情報を耳にすることがある。実際、俺も風俗嬢に協力を頼んでネタを仕入れることがあった。アーヤ嬢も訳ありというのなら気まぐれではない。もしかしたら何か求めている情報があるのかもしれない。
そうなってくると……やはり引っかかる。共和国の裏社会。その抗争。そこに通じる重要な手がかりをアーヤ嬢は握っているのではないかと考えてしまう。
……もう少し張ってみるか。
元より暗殺者であるアーヤ嬢の動向を知りたかったこともある。俺は少し考えた上でアーヤ嬢のバイトの終わりを待ってもう少し追いかけてみることにした。
だが──
「──で、何で私のこと追いかけてきてるのかな?」
「!」
俺がアーヤ嬢の後を追いかけようとしてすぐに。いつの間にか俺の後ろに回っていたアーヤ嬢に冷たいものを背中に押し付けられる。
それが何であるかは言うまでもなかった。
「……やはり、気づかれてしまうか」
「かくれんぼは得意だからね! どっちかっていうと隠れる方専門だけど。で、何の用? 何かあるなら言ってほしいな」
さて……どうするべきか。
さすがに彼女の性質から考えて殺されはしないとは思うが、黙秘を行っても何も進展はない。抵抗も無意味だろう。今も彼女は俺のポケットの中を軽く調べてメモ帳を取り出し「ふむふむ……へぇ、こんなゴシップが……」と中身を見て興味深そうにしている。常に持ち歩いているメモ帳には俺が働く《メルド》の記事で使うようなゴシップなどが主で大した情報は載っていないので別に構わないのだが……。
ここは踏み込んでみるか。俺は意を決して質問することにした。
「……最近、共和国でとあるマフィアが殺される殺人事件が頻発している。そういった事件に詳しい君なら何か知っているのではないかと思ったんだが……」
さて、どんな反応が返ってくるか。
否定するにしてもその反応によってわかることもある。俺は情報を得るために敢えて直接尋ねた。
そしてそれを聞いたアーヤ嬢は──
「へ、へぇ~、そ、そうなんだ。いやー知らなかったなぁ……ちなみに私は何も知らないよ! 私の暗殺対象は主に教団関係者だけだからね!」
──明らかに何か知ってそうな反応だった……あまりにも露骨なのでむしろ演じている、本当に何も知らないのではと疑ってしまうほどに。
やはりアーヤ嬢は何かを知っている。《アルマータ》に関することか、謎の暗殺組織に関することか、具体的に何を握っているかは分からないが。できれば聞き出したいところだが……何か交換条件でも出してみるか? ただ彼女が求めるものをこちらが差し出せないのが難しいところだ。どうするか──
「──ま、ディンゴは《アルマータ》について調べてるんだろうけどさ。あんまり危険な調査はしない方がいいんじゃない?
「……っ」
──背後からの何気ない言葉に俺は背筋が凍るのを自覚する。
その唐突な台詞。殺気や冷たいものは何も感じない。日常会話に延長で告げられた言葉で本来なら底冷えするようなことは何もない──じゃないと死んじゃうかもよ、という発言以外は。
俺は額に汗が流れる感覚を感じながらゆっくりと言葉を返す。
「それは……どういう意味なんだ?」
「いや《アルマータ》って危険な組織だから危ない橋を渡りすぎるのも良くないんじゃないかって忠告しただけだよ」
「君は……」
「ちなみに私に質問しても何も答えられることはないからね! 尾行もできれば遠慮してねー! それじゃ!」
「!」
そして更に言葉を返そうとしたところで、背後にいたアーヤ嬢は即刻話を切り上げるように言いたいことだけを言うと手帳を俺のポケットに戻した上で気配を消してしまう。
振り返ればそこにアーヤ嬢の姿はなかった。神憑り的な隠形……Xiphaを使っているわけでもない。
「ふぅ……さすがに手に余るか」
気を少し緩めてそう呟く。やはりアーヤ嬢から裏の情報を辿ることは難しいか。直接尋ねれば答えてくれるのではないかという期待もあったが、やはり彼女は一見、口が軽いようで重要事項については口が硬い。表だけでなく裏の仕事もプロ意識が高い。教団の人間が尽く殺されるのも納得だ。
しかし……何かが匂う。ヴァンじゃないが、アーヤ嬢からは怪しい匂いがする。
もう一度《アルマータ》の構成員……それこそジェラールの情報から洗ってみるべきかもしれない。奴はかつては隠していたがその性根は9年前や、それ以前から変わっていないように思える。もし《アルマータ》を殺し回っているのがアーヤ嬢であるのなら、ジェラールはアーヤ嬢に何か恨まれるような──
「……! もしや……」
と、そこまで推理したところで俺ははっと気づく。
もし……そう、もしジェラール・ダンテスが教団関係者だった場合、アーヤ嬢が《アルマータ》を殺し回っているという仮説に繋がるのではないか。
少なくとも、そう──動機には繋がる。今までの事件で裏の事情を知る者達がアーヤ嬢を犯人候補として挙げない理由がそれだ。彼女はよっぽどのことがなければ動かないという信頼。
しかしそのよっぽどのことがあるのなら覆ってしまう。
そしてそうなってくると、《アルマータ》と抗争しているという謎の暗殺組織もアーヤ嬢と関係がある……その説が濃厚になってくる。
「やはりもう一度調べてみるべきか」
俺は原点に立ち返り、もう一度ジェラール・ダンテスの情報を集めることを決める。アーヤ嬢の方も気にはなるが、彼女を追いかけても成果が得られるとは限らない。謎の暗殺組織と合わせて今はまだ置いておくしかない。もう少し確とした動きがあれば別だが……少なくとも現時点ではアーヤ嬢と暗殺組織を結びつけるのは少し弱い。
ゆえに俺は動き出した。まずは奴の過去を知る人物から当たってみるか──
「ディンゴさん!! 聞きましたよ!! 何やら、あ、怪しい店に通いまくってたみたいですね!! 見損ないました!!」
──と思っていたら今度はまた思わぬ妨害にあってしまった。表で俺を見つけた《タイレル通信》の新人記者。アーヤ嬢の友人でもあるマリエル・エーメが俺を見つけてはとんでもない濡れ衣を履かせてくる。
……おそらくアーヤ嬢がちょっとした意趣返しとして風俗店に立ち寄ったことをマリエル嬢に暴露したのだろう。まったく……やってくれる。こちらも尾行しようとした手前何も言えないな。とりあえず誤解を解くとしよう。
「怪しい店と言われても何のことは分からないが……おそらく誤解か勘違いだろう。俺は君の言うところの怪しい店に立ち寄ったという事実はない」
「……本当ですか? なら手帳を見せてください」
「……手帳を? なぜだ?」
「アーヤさんが言ってましたよ。ディンゴさんの手帳にはそういった怪しいお店の名刺がいっぱい挟まってるって。なので手帳を見せてください!」
「…………もしや」
マリエルから手帳を見せてくれと要求され、その理由も耳にした俺は嫌な予感がしてこっそりとポケットの中に入れていた手帳の中身を確認する。
するとそこにはマリエルの言うように、
「……やられたな……」
「あーっ!!? み、みみ見ましたよディンゴさん!! そ、その名刺はなんですか!? イーディスきょ、きょにゅ……倶楽部とか、てぃ、てぃん……ブラッド!? な、なんて名前の……こんなの言えません!! ディンゴさん、最低です! 不潔です! へ、変態です! どういうことか説明してください!!」
──これは誤解を解くのに骨が折れそうだな……というか本当になんて名前の名刺を入れてくれたんだアーヤ嬢。《イーディス巨乳倶楽部》とかはまだしも《ティンコ・ブラッド》は完全に俺の名前をもじられているんだが本当にこんな店があるのか? あるのであれば今すぐ抗議して名前を変えてもらうか正式に名誉毀損でその店を訴えたいんだが。
俺は顔を真っ赤にして怒り散らかすマリエルを宥めながら誤解を解くための言い訳を何とか頭を捻って口にする。……やはりアーヤ嬢を迂闊に調べるのは碌なことにならないな。マリエルは異常な幸運で知られるが、アーヤ嬢は異常な不幸で知られている。それもその不幸は周りを巻き込むことがあると。
大抵は彼女に害をなそうとした者が巻き込まれるという話だが……そういう意味で文句は言い難いから困ったものだ。自業自得とも言える。今回の一件は良い教訓になったかもしれないな……。
──ハーァーイ☆ 私、《星のアーヤァ》! 黒芒街で水商売の元締めをやってるミストレル姉さんのお店で働く新人風俗嬢! エロい店の性戦士! けど本当はエロくないよ。得意技は即尺です。いやまあもう最後にやったのは10何年も前なんだけどね!
ま、実際には情報収集の一貫でお試しで遊んでみただけで何もやってない。精々客引きをしてただけだ。その成果は特になし。さすがに構成員が暗殺されまくってる時に風俗店には立ち寄らないか……ワンチャンあると思ったんだけどなー。
ただなんかそこでディンゴと出くわした。なんか私のことを怪しんで調べてるっぽい。ちょっとドキッとしたけど問題ない。証拠がないからね証拠が! なので尾行の代償としてちょっとネタを拝借しつつ爆弾を仕込んでおいた。これをきっかけにディンゴはマリエルちゃんとくっついてくれないかな。《アルマータ》とか私のことを調べてる暇があるならさっさと付き合ってほしい。友人の恋路は実ってほしいからね。なんであんまりディンゴが無茶しないように遠回しにやめといた方がいいんじゃないと言っておいた。原作だとディンゴは死んじゃうからね……それはさすがに防ぎたい。めちゃくちゃ仲が良いってほどでもないけど普通に知り合いだしヴァンとかマリエルちゃんが悲しむからね。私としても普通に死んでほしくはない。
でもディンゴはディンゴで《アルマータ》と因縁があるんだっけ? だから無理かなぁ。
そうなるとやっぱ《アルマータ》を私が殲滅するしかないね! そうすればディンゴも死なずに済むしハッピーエンド間違いなし!
ただ今のところあんまり進展はないんだよねぇ……下っ端はちょいちょいやれてるけど幹部以上のメンバーが全然見つからない……ぐぬぬ、小賢しい……見つけたら少なくともジェラール以外は速攻でやれるのに……。
でもまあ時間の問題ではあるんだよね。《アルマータ》がこれから何をするかは大体予想はついてるから。識ってるとも言う。なのでそれを待ってれば遭遇する可能性は高い。
ただ細かい日程までは覚えてないのがちょっと悩みどころではあるけどそこもしっかり解決してる。何しろ次の事件は《アイゼンシルト》がきっかけで起こるからね!
一応改めて確認しておくと《アイゼンシルト》ってのは北の《自由都市圏》を拠点に活動する高位猟兵団だ。主な仕事は自由都市圏の治安維持。なので猟兵の中でも割とマシな集団として知られてるね。猟兵に綺麗も汚いもないような気もするけど、まあ《北の猟兵》みたいに民間人がいる町や村を焼き討ちにしたりしないって意味じゃ確かに比較的綺麗かもしれない。要は汚れ仕事は比較的あんまりやらないってことだね。
ちなみに私も自由都市には何回か行ったことがあるし、街中で警備を行ってる《アイゼンシルト》の隊員も見たことがある。オジサンに連れられてワッフル食べたり観光名所周りながら《アイゼンシルト》に気づかれないように教団関係者を暗殺しに行ったのが最初の思い出かな。今はクロウくんが自由都市圏のタスレム市で働いてるからそのうち遊びに行きたいと思ってる。
そしてその《アイゼンシルト》と《クルガ戦士団》……大陸中東部を中心に活動するこっちも割とホワイトな部族単位でやってる(といってもアイゼンシルトと比べたらやることやってる。これが中東クオリティ)高位猟兵団が代理戦争をするんだけどそこから帰還する時に事件が起きたんだよね確か。
しかも《アルマータ》に巻き込まれるのは現在は《アイゼンシルト》で中隊長を務めている元《西風の旅団》の連隊長《火喰鳥》アイーダさんなんだよねー。私は面識があるからその名前は結構懐かしい。昔《西風》と戦って捕虜になった時に割と喋った。どちらかというと団のストッパーでツッコミ気質な人だったね。面倒見も良かったように感じた。
で、そのアイーダさんと《クルガ戦士団》に所属している後に裏解決屋に属することになるフェリーダ・アルファイドちゃんが割と仲が良くて、アイーダさんの中隊が行方不明になったのをきっかけに裏解決屋にフェリちゃんが依頼しに来る……という流れなわけだ。
つまり逆説的に《アイゼンシルト》をマークしておけば次に《アルマータ》がどこに来るかわかるってことだね! 仮に原作と違ってもこれが万事解決だ!
なので《アイゼンシルト》をマークする仕事は手が空いていたメルキオルに頼んでおいた。若干不安だけどなんだかんだメルキオルは今までずっと私の言う事聞いてくれてるし、セラちゃんのことも改めて教えてくれたから大丈夫だとは思う。
ただそれはそれとして焦れったくはある。というかほんとなんで見つからないのかと。焦れったすぎてオジサンにも聞いてみたけど「上手いこと地下に潜ってるみたいだな。クク……どうやらよっぽどお前たちのことを警戒してるみたいだぜ」と楽しそうに葉巻蒸してた。ぐぬぬ……オジサンが見つけられないならしょうがないけどさぁ……。
ただちゃんと捜索は手伝ってくれてるのはありがたい。オジサンも《アルマータ》にすごい興味を持ってるみたいなんだよね。私だけじゃなく他の執行者も動かして調べてくれてる。
だから私も《庭園》だけじゃなく結社と協力して動くことにした。やっと幹部の情報を1人ゲットしたみたいだしね。なので今回は──
「──ヴァルター! こっちこっち!」
「…………お前、何やってんだ?」
「ん? そりゃ呼び込みだよ呼び込み。今の私は星のアーヤァだからね。ヴァルターも出発前にちょっと抜いてく? ヴァルターの好みってどんな感じ? やっぱり綺麗なストレートロングの黒髪で切れ目でちょっと強気な感じの美人がいい?」
「オイコラ。明らかに誰かを連想させるようなこと言ってんじゃねぇよ!」
「あはは、ごめんごめん。それより殴ると言えば今度また泰斗流の技ちょろっとだけ教えてよ。暇な時にさ」
「あ? 戦いが嫌いなお前がどういう風の吹き回しだ?」
「まーちょっとねー。東方の気功術とか拳法っていざという時に使いやすいし。最近他の人にもちょっとだけ習ったんだけど前よりは筋がいい気がしてるんだよね! だからヴァルターからも泰斗流とか殺人拳を教えてもらおうと思って!」
「……! チッ……てめえ、また強くなってやがんのか」
「えー? いやいやそんな強くなってないって。あくまで身のこなしをちょっと向上させれるかなーってくらいで拳法メインで戦えるほどじゃないしメインで戦おうとも思ってないしさ。どっちかっていうと気功で身体能力を上げる方がメインで……」
「そういうことじゃねぇよ。…………構わねえが今度俺との手合わせに付き合えや。そうすりゃ俺も修行になるしお前も俺の技を盗めんだろ」
「うっ、手合わせ形式かー。まあでもしょうがないね。それでいいよ」
と、そんな風に黒芒街で待ち合わせをしていた相手。結社の執行者No.Ⅷ《痩せ狼》ヴァルターがやって来る。もうお馴染みだね。共和国の仕事だとよく一緒になりがち。というかヴァルターの方が結構積極的に色んな件に関わるからそりゃそうだよね。多分また強くなってるんだろうなー。ライバルのジンさんに負けないように切磋琢磨してることだろう。闇の暗殺拳の使い手なのに強くなることには真面目だし、リベールの一件からちょっと丸くなったのもあって昔よりは険がとれた気がする。武闘派でやんちゃなところは変わってないけどそれくらいは執行者としては普通なので問題ないね。
ちなみに拳法とか気功術に関しては本当になんちゃってだけど私も以前よりは覚えがいいのでたまーに便利に使えたらいいなってことで友達の執行者とかに教えてもらった。自己強化の技を中心に後は基本だけね。初伝くらいかな。拳法鍛錬って健康にも良いし、ヴァンにもマウントが取れるし良いことしかないね。いやまあさすがに素手の勝負だと勝てないだろうけどヴァンの方は《崑崙流》を習ってても正式な弟子じゃないから奥伝どころか中伝にも初伝にもなってない筈なのでそういう意味じゃ同じだけど。ふふん、私もさすがに以前よりは成長してると思う。まだまだ中堅くらいだろうけどね。これでジェラールをやれる可能性が少しあがったかな。
「さて、それじゃ行こっか! クレイユ村へレッツゴー! 私の愛車の出番だ!」
「俺は自前ので向かう。お前の車には乗らねぇ。色んな意味で危なそうだからな」
「えー危なくないって。レノ社で私も関わってる最新のスポーツカーだよ? スピードもかなり出るのに静粛性や燃費効率に安全性。小回りも効くし何よりデザインが良い! 機能性とデザインを両立してるのが最高だよね! 4~5人乗りだから家族や友達もそれなりに乗せて遊びに行けるし!」
「スピードならレッドスター一択なんじゃねぇのか?」
「最高速度は確かに速いよねー。親会社はアレだけど……まあ車とそこで働いてる人に罪はないからね! 私も何台か持ってるよ! ──お! これがヴァルターの相棒だね! ほうほう……確かにバイクも良いよね! 私もこれ買おうかなー。ちょっと待ってねー。ネットで注文するから。……これで良しと。それじゃ出発しよう!」
「おいおい……自販機感覚でバイク買ってんじゃねぇよ。まさか同じので行く気か?」
「いやーさすがに今すぐには届かないだろうし、このまま行くよ」
そして私は着替えていつものおしゃれな格好に戻ると表に出てヴァルターと一緒にクレイユ村に向かうことに。ヴァルターはレッドスターの大型導力バイクをちょっと前に購入したみたいで結構気に入ってるみたいだった。確かに見てて良さそうだったので私もXiphaで導力ネットに接続して注文しておいた。私のガレージにはいっぱい車があるからねー。気分で乗るものを変えてるけどなんかちょっとしたコレクションみたいになってる。若干もったいない気もするけどお金はもう使い切れないくらいあるせいで若干金銭感覚は麻痺してる。でもお金は使った方が経済的に良いはずだよね! 金は天下の回り物! お金持ちになったからにはいっぱいお金を使って還元しないと!
と、それはそれとしてそろそろ出発! クレイユ村は共和国でも北西部の田舎。ノルド高原と近いんだよねー。ってことで私とヴァルターはそれぞれ愛車でクレイユ村へ向かう。
そしてその途中のサービスエリアで──
「お腹空いたしちょっと遅めの昼ご飯食べない?」
「構わねぇが……じゃあ適当な店に入るかよ」
「この辺りまで来たらやっぱり……蕎麦だよね!」
「なんで蕎麦なんだよ」
「ヴァルター知らないの? クレイユ村は蕎麦の名産地なんだよ」
「そうかよ。だが蕎麦の店なんかあんのか?」
「ふふん。その辺りは抜かりないよ! このサービスエリアにも私の会社がやってるお店があるからね! 蕎麦処《彩庵》はクレイユ村産の蕎麦を仕入れて手打ちで作る本格蕎麦切りが楽しめるお店だよ! 薬味も完璧で東方から輸入したワサビもあるんだから! こっちもクレイユ村産だけど!」
「ほう……蕎麦切りか。昔はよく食べたもんだが……確かに悪くねえな」
「でしょ! 天ぷらに丼物や定食もあっておすすめ! 本店はイーディスにあるからみんなも一度行ってみてね! 私のおすすめやっぱ盛り蕎麦に天ぷらセットかな!」
「……誰に言ってんだ?」
「誰にも? 休憩がてらプロモーションも必要かと思って」
「相変わらずイカれてやがんな……」
ってことで私とヴァルターはウチの会社でやってる蕎麦処に入ってお蕎麦を食べた。私は盛り蕎麦天ぷらセットでヴァルターは盛り蕎麦にカツ丼セット。ん~お蕎麦美味し~。やっぱお蕎麦は十割蕎麦でざる蕎麦に限るよね。ワサビもいい味してる。わざわざ大陸東部でわさびを収穫して共和国内で栽培させた甲斐があった。クレイユ村でも育ててるんだよね。昔ワサビを持っていって育ててくれないかって交渉したら畑をちゃんと作ってくれたので今では良い仕入先としてビジネス的な繋がりがある。ワサビ以外の作物も美味しいしクレイユ村は良いところなんだよねほんと。ご馳走様でした!
そうして腹ごしらえを済ませたあとは再び車に乗って移動。そうして夕方頃にはクレイユ村に到着した! 風光明媚で良い村! 村人もいい人ばっかりだし空気が美味しい! ピクニックにはもってこいだね!
……ただここに来たのは《アルマータ》をあの世に送るためなんだけどね。はぁーあ。本当はそういう物騒な用事無しで来たいところなんだけどまあしょうがない。割り切って頑張っていこう。
さて、そうと決まればとりあえずメルキオルと合流したいけど……ヴァルターとメルキオルを会わせるのは……なんとなく相性が悪そうだからやめた方がいいかな? 一度適当な理由でヴァルターと離れてから話を聞きに行くのがいいかもね。
それとヴァンのピックアップトラックもあるしヴァンたちも来てるんだろうけどどうしようか。挨拶してもいいけど今は《アルマータ》が最優先。なので村の中を適当に散策してから……あ、そうだ。ワサビも持って帰ろっと。家にある分がなくなっちゃったしね。数本あればいいかな。
「ちょっとワサビ収穫してくる」
「……なんでそうなったのかマジで理解できねえが……まあいい。それじゃ俺は宿で待機しとくとするか。
「うん。後で合流しようねー」
これでよし。それじゃ本当にワサビを収穫ついでにメルキオルと合流しよう。移動しながらXiphaで連絡して、と。
「──来たよ、姉さん。……何をやってるの?」
「ああ、メルキオル。ワサビを収穫中だよ。やっぱ蕎麦切りの薬味はネギとワサビと大根おろしに限るよねー!」
「うん、そうだね。ちなみに僕はとろろが好きかな♡」
「あーとろろもいいよねー。ちなみに温かい蕎麦の時は鴨せいろがおすすめだよ」
「うんうん、姉さんの店はどこも美味しいからね。僕もワサビの収穫手伝うよ」
「ありがと! この籠に入れてね」
そうして私はメルキオルと合流した。村外れの丘にわさび畑があるんだよね。やってきたメルキオルも収穫を手伝ってくれた。こういう気遣いは出来るんだよねー。サイコなのに。いや、サイコだからこそかな? その趣味さえなければなぁ。
「ところで姉さん。アルマータについてだけど」
「あーうん。どうなった? 幹部いた? 1人くらい殺せた?」
「そうしたかったんだけどね。ちょっと失敗しちゃったみたいでさ」
「そうなんだ。どんな風に失敗したの?」
「それがどうやらゲネシスを使って実験をしてたみたいでね。アイゼンシルトの中隊を使ってすごいことになっちゃったんだ」
「……なるほど? 実験って? 結局アイゼンシルトの中隊はどうなっちゃったの?」
「グォ……」
「あ、どうもワサビ農家さん。いつもお世話になってます。……で、どうなったの?」
「うん。それがね、なんて言えばいいかな……
「……へ?」
メルキオルからの何気ない報告。何も問題はないとでも言うようないつもの笑顔を見て、その視線の先。私の後ろから先ほどワサビを手渡してくれた相手のことを見る。
「……………………えーっと……もしかして…………あなたはゾンビですか?」
「いいえ、ゾンビ化したワサビ農家です」
「あ……普通に喋れるんだ……」
「……………………」
「……………………」
──時が止まったかのような、間が生じた。
私の目の前には目が赤い、ところどころ腐ったかのような青白い肌をしたワサビ農家さんがいて。私と目を合わせていた。なんか普通に喋ってるけどそこに意思はないように感じる。
そしてようやく事態を咀嚼し終えたところで時が動き出す。私は叫んだ。いつもよりほんの少しホラーテイストで。
「うわぁぁぁぁあああああ!!? ゾンビだ────!!?」
「ポ──────ゥ!!!」
「しかもなんか叫んだー!?」
「特徴的な叫びだね」
「うわああああ!!? ワサビを食らえー!!」
「ポ────!!?」
──そう、ゾンビだった。いや怖い!! なにこれ!? 今はハロウィンじゃないよ!? ハロウィンなんて行事ないけど!! でも収穫祭はあるんだよね!! その時期でもない!! なんで!? アイゼンシルトの人だけじゃないの!? ……って、あれ……?
「うっ……あっ……あぁぁぁぁ!! んごおおおおおお!!?」
「あれ? なんか……ゾンビ化治ってる?」
「! へえ……! アハハ、面白いね! 姉さん、またおかしな現象起こしちゃってるんだ!」
「いやなに笑てんねん。え……なんで?」
「僕に聞かれてもわからないよ。ただ……そうだね。もしかしたらまた姉さんが関係してるのかもね? 実験に姉さんの血とか何かが使われた……とかさ」
「んひいいいいい……!」
「……またそういう感じ? ……でもなんかすごいこの人苦しんでるんだけど……」
「それは姉さんが鼻にワサビを突っ込んだからじゃないかな」
「あ、なるほど……って、なるほどじゃなーい!!」
私はメルキオルとの会話の中でノリツッコミを行いながら事態を更に把握する。まーた私のこと勝手に利用するとかアルマータってやっぱ最悪なんですけど!! というかこのままじゃマズい!!
「村に行ってくる!!」
「あれ? そっちが優先なんだ。《アルマータ》の幹部の方はいいの? どうやら北の丘陵に向かったみたいだけど」
「そっちは任せた! 私はゾンビを無力化してくるね! ──はいこれワサビ!! これで治るかもしれないし、摩り下ろしたのもチューブに入れて渡しとくよ!」
「……なんでもう摩り下ろしてあるのかはわからないけど……そっか。なら頑張ってね、姉さん♡」
と、メルキオルからのいつもの愉快そうな笑みで送り出されたので私はすぐに村へと戻る。既に日も落ちてるし結構ヤバい。このままじゃバイ◯ハザードになっちゃう! 村人にこれ以上被害が出てないといいけど──
「──今月号!!」
「ポーウ!!」
「うわーん!? 駄目だった! なんか意味不明なこと喋ってる!! なんか踊ってる人もいる!!」
「おいアーヤ……! これはどうなってんだ……!?」
「ヴァルター! あ、そんな殴っちゃ駄目だって! 元は村の人なんだから!」
「つってもこいつらもうどうにもなんねえだろうが。多分だが死んでんだろ?」
「まだ治るよ! ……多分!!」
私は村外れでゾンビ相手に大立ち回りをしていたヴァルターと合流する。一応村の入口で食い止めてはいるみたいだけどさすがにヤバい。早く治さないと! なので私はヴァルターに持っていたワサビと蕎麦粉を渡す。
「はい! これ使って!」
「あ? なんだこれ──って蕎麦粉とワサビじゃねーか!? こんなのどう使えってんだ!?」
「──オッ◯イのペラペラソース!!」
「ヨコヤマだ!!」
「でも野菜ばっかりよ!!」
「ポーゥ!!」
「うおー!! 悪霊退散悪霊退散! ゾンビは蕎麦でも食ってろー!!」
「何イカれた戦い方してんだテメーはよ!!?」
「こうやって使うんだよ!!」
「んひいいいいいい!!?」
「っ……確かに生気が戻りやがった……チッ……意味不明な上に面倒だが……仕方ねえな……! だが鼻にワサビを突っ込む必要はねえんじゃねえか?」
「口はタイミングが難しいし鼻に挿れても治ることがわかったから鼻でいいかなって!」
「……(だとしても蕎麦粉の方にしてやれよって言うのは野暮か?)……ま、治ってんならそいつらも文句は言わねぇだろ」
「だよね!」
ヴァルターと背中合わせになり、私はワサビと蕎麦粉(蕎麦粉はすぐに使い切っちゃったけど)をゾンビ化している村人に次々と摂取させてそれを治していった。《アルマータ》の幹部とかゲネシスの方は気になるけど先にこっちを何とかしないとね!
──私は現在、アークライド解決事務所でバイトをさせてもらっています。
その理由は私が曽祖父の手記に書かれていた《オクト=ゲネシス》……C・エプスタインが作った8つのオーブメントを取り戻してほしいとヴァンさん……《裏解決屋》に依頼したことが始まりです。
先週、私は依頼人としてアークライド解決事務所の所長のヴァンさんに付いて1つ目のゲネシスを取り戻しました。
その際にヴァンさんは《グレンデル》という魔装鬼に変身してしまって……その際にはゲネシスが光ったり、ヴァンさんの支援AIであるメアちゃんが意思を持って喋りだしたり、幾つも不思議な現象に遭遇しました。
殺人現場にも出くわしたり、只者じゃない異能を使う謎の子供たちにも遭遇して……危険な目にも遭いました。
だけどそれでもゲネシスを取り戻すことができて……その上、ヴァンさんは他のゲネシスも取り戻す手伝いをしてくれることを約束してくれました。
だからそのお返しも兼ねて私はアークライド解決事務所の助手として私自身の問題を解決するためにバイトをすることになったんですけど……バイト初日である昨日と2日目の今日も、今まで普通の日常を送ってきた私にとっては刺激的な出来事がたくさん起こりました。
遊撃士とも違う裏解決屋の仕事に感心しつつもやりがいを感じたり──
「えと、《クルガ戦士団》副頭目が長女、フェリーダ・アルファイドっていいます」
──大陸中東部からやってきた13歳の女の子。その歳で猟兵をやってるというフェリちゃんとも出会いました。
なんでもフェリちゃんは同じ猟兵でお世話になっている《アイゼンシルト》の中隊……それを指揮しているアイーダさんという方の行方を突き止めるためにヴァンさんを頼りに来たとのことで。
ヴァンさんはそれを聞いて中隊の行方を予想し、次の日──今日の朝にはヴァンさんのピックアップトラック(こだわりがあるみたいですけど……申し訳ないですが正直どうでもいいかも……)で行き先だと思われるクレイユ村にフェリちゃんと一緒に向かうことに。
ヴァンさんは私が付いてくるのは意外だと仰ってましたけど私が通ってるアラミス高等学校──学校もちょうど三連休でお休みでしたし、私だけは仲間外れはさみしいです。それに行き先をクレイユ村に決めたところでゲネシスが光ったこともあります。だから私でも役に立てることはある筈です。
──と、そう決意して私は今、クレイユ村にやって来ました。とても長閑で綺麗な、人の温かさも感じる良い場所で初めて来た私もすぐにその村のことが好きになりました。
私たちはそこで猟兵団のことを聞き込みしたり、裏解決屋として依頼──4SPGを行うなどして日中を過ごしました。ちなみに印象的だったのは蕎麦切りのレシピを考案する依頼で、依頼者の方は今度の収穫祭で蕎麦切りを振る舞いたいとのことだったんですが、あまり上手くいってないみたいで住民から聞き込みをしながらレシピにどう工夫を加えるかを調べることになりました。
「ソバキリ、というと……?」
「蕎麦粉を練り合わせて作る極東の麺料理ですよね」
「ああ。さすがに首都っ子は詳しいな。ちょっと前は首都でも屋台があるくらいだったが……今では首都でも有名なお店があるしな」
「はい。私もそこで初めて味わって……すごく味わい深い料理ですよね」
「そうだな。……あの店があいつの店じゃなけりゃあなぁ……」
「……? ヴァンさん?」
「っと、悪い。とにかく蕎麦切りは共和国で流行ってる極東料理の中でも中々におすすめの料理だぜ」
「それは美味しそうですね……! わたしも気になっちゃいますっ!」
──そんな会話を依頼を受ける前に行いました。蕎麦切りは首都でも流行りですよね。そもそも極東料理や中東料理がちょっと前からブームになっていて首都には結構な数の店があります。数々の流行を作り出してる《サイードグループ》……主要なのは《SAID》という高級ファッションブランドですけど飲食店とか導力ゲームとか色んな流行を作り出してる企業の系列ですね。洋服のことは学校でもよく話題になりますし、導力ゲームも私はそこまで明るくないですが友達には好きな人もいますし私もプレイしたことはあります。それと放課後には屋内型アミューズメント施設《シャングリラ》が人気ですよね。各種スポーツが楽しめて、曲に合わせて歌を歌うことができるカラオケボックスもありますし。総じて色んな文化を生み出したとして学校の経済学の授業でも少し話が出るくらい話題の企業です。共和国では《ヴェルヌグループ》と《バンク・オブ・イーディス》に続く第三位の企業ですね。何でも創始者はアラミスのOGみたいで前にパウエル先生がそう話していたことを覚えています。その際に
──と、少し話しが脱線してしまいましたが、とにかく日中は2件の依頼をこなし、私たちは宿で一度情報を整理することになりました。ただその際に……。
「よう、嬢ちゃんたち。俺はヴァルターってモンだ」
──ヴァルターと名乗った男の人が私たちの部屋を訪れました。
その人はどこか普通じゃない雰囲気を漂わせていて、フェリちゃんは一目見た時から──いいえ、一目見る前からすごく警戒していました。私は凄まれるまでわかりませんでしたが……。
「そのくらいにしとけや、《痩せ狼》。人の部屋に無断で入ってオラつくのは止めてもらおうか。繰り返すが……一体、何をしに現れやがった?」
「クク、ちょっとした野暮用でさっき村に着いたばかりなんだが。入口に見覚えのある車があったからあの時の詫びがてら挨拶に来ただけだ。──ついでと言っちゃなんだが”依頼”でも頼もうと思ってなァ」
「……アンタの依頼は二度と受けねえよ。野暮用ってのも興味はねえ。とっとと出て行ってもらおうか」
「やれやれ、嫌われたモンだ。他のナンバーにはたまに融通してるって聞いたんだがなァ? 特にNo.ⅩⅢとは仲が良いって聞いてるぜ?」
「っ……別に仲良くねぇよ。ただの腐れ縁ってやつだ」
「ま、それに関しちゃちょっとばかし同情するけどな」
「余計なお世話だ。……とにかく、依頼を受ける相手は選ばせてもらうぜ。一応、代わりも受け取ってるからあの時の詫びも必要ねえ」
……どうやらそのヴァルターさんとヴァンさんは以前からのお知り合いのようでした。それにヴァルターさんの同僚? の方ともヴァンさんは懇意にしてるみたいです。あくまでヴァルターさんが言うには、ですけど。
そしてヴァンさんが依頼を聞く前から断ったその後、そのヴァルターさんから気になる質問をされました。
「ところで野暮用の話だが──女を見なかったか? 褐色で色気のある紫髪のヤツだ」
──それを聞いて私とフェリちゃんは思わず顔を見合わせてしまいます。
今日の夕方頃──この宿に来る前に私たちはその特徴の女の人と出くわしていました。
『どうしたんだい? お嬢ちゃんたち』
『あ……すみません。少し気になる香りがしたもので』
『くんくん……これは……香水ですか?』
『ああ、そうさね。アタシはヴィオーラ。調香師をやっていてね。旅をしながら気が向いたらこうして香水を売っているのさ』
『へぇ……見たところ大陸中東部の香料を使ってるみたいだな』
『よくわかったね? ま、その通りさ。私は大陸中東部の出身だからね。そっちのお嬢ちゃんも私と同じ中東から来た娘だろう?』
『はいっ。確かに街に寄った時にたまに嗅ぐ感じの香りです! その、私はまだちょっと慣れませんけど……』
『お嬢ちゃんにはまだ早いかもねぇ。……さ、そろそろアタシは行くとするかね』
『もう行くんですか?』
『この村を出るわけじゃないさ。ちょっとこの先の丘陵地帯に興味があってね。香水の材料も集めておきたいし』
『え……でも魔獣とか危なくないですか?』
『そうですね。行くにしてもそろそろ日が沈みますし、明日にした方が……』
『そうしたいのは山々なんだけどねぇ。夜じゃないと意味がないのさ。夜じゃないと手に入らない香水の材料……夜にしか咲かない花なんかもあるからねぇ』
『……? そうか。だがやっぱ危ないんじゃねえか?』
『なあに、心配せずとも危険な場所には慣れてるんでね。逃げるだけならどうにでもなるさ』
『そうですか……』
『……ま、それなら何かあったら言ってくれ。俺たちも明日まではこの村に滞在する予定だからな』
『ああ。なら何かあれば頼りにさせてもらおうかね』
──私は先ほど行ったそのやり取りを思い出します。紫色の髪に褐色の肌……色気がある人でもありましたし、このヴァルターさんが言ってる特徴と一致します。
そしてそのヴィオーラさんという人は村の先にある丘陵の方に向かったみたいでしたが……何となくそれを教えるのも憚られて、私たちは部屋から出ていくヴァルターさんを見送りました。
ヴァンさんが言うにはあのヴァルターさんは裏の住人の中でも特にヤバい人らしいです。そんな人に追いかけられるヴィオーラさんは一体……と疑問に思いながらも私たちは気を取り直して下の階で夕食を取ることにしました。そこにはヴァルターさんもいましたが……。
──そして夕食を美味しく頂いた後は夜の見回りを行うことになり……その際に村の入口にある自転車にも似た大型導力バイクというものが停まっているのを見てヴァンさんがその解説と、これをヴァルターさんの物であること。そしてヴァルターさんとの因縁を聞かせてくれました。
その話は要約すると、以前の仕事で相手をすることになった機甲兵をあのヴァルターさんが投げて破壊してしまったので、そのことをヴァンさんが根に持っている、というものです。……正直なところ、ちょっとだけ拍子抜けと言いますか……いえ、確かにされたことは結構なことなんですけど、ヴァンさんがあんな感じで嫌厭していた割には……と言いますか、ギャップがあってなんとも……一応弁償はしてもらったそうですし……私が導力車にこだわりがないからそう思ってしまうだけなんでしょうか……?
「あ、こっちの車もかっこいいですね!」
「!? こ、こいつは……!」
「……? どうかしたんですか? ヴァンさん」
──そして更にその後、フェリちゃんがバスの隣にあった別の車を見かけたところでヴァンさんの目の色が変わります。今度は何なんでしょうか……?
「ああ……初めて現物を見たぜ……こいつは先日販売されたばかりのレノ社のスポーツカー……その特注モデルだ……!!」
「……えっと、確かにかっこいい車ですが特注というのはどう違うんですか?」
「ぜんぶだ。ステアリングやシートなんかの内装。ホイールやエンジンから何から何まで特別製……! そしてこのモデルの最大の特徴は現役のファッションデザイナーが手掛けるデザイン性……!!」
「は、はぁ……」
「市販モデルもかなり唆るデザインだが……確かこの特注モデルは13台しか作られない完全オーダーメイド製だったはずだ。全て細部に至るまで注文した人間の好みに合わせてカスタマイズされ、その上デザインも客の要望を聞いた上でプロが完璧に仕立てあげる……!! その特別製から値段は数億ミラを下らない……!」
「す、数億ミラ!? そ、それはすごいですねっ!」
「な、なるほど……(そう言われると確かにすごい気も……でも車にそこまでお金をかけなくてもいいような……)」
「くっ……こんな車を乗り回してるとはどこのブルジョワだ……!? 《痩せ狼》の野郎ではねえようだが……あのヴィオーラってヤツか? 身につけてるアクセサリーを見ても金は持ってそうだったし、大陸中東部は最近金回りがいいからな……インゲルトじゃねえとはいえ、この特注モデルはさすがに羨ましさを禁じ得ない……!」
……とりあえずヴァンさんが車に並々ならぬこだわりを持っていることが昨日と今日で分かりました。趣味は人それぞれですし、否定はしませんけど……やっぱりちょっと私には理解が難しい世界かもしれません……メーカーや車種くらいならいいですけどカスタマイズとかまでこだわる理由がちょっと……。
なのでその後にやってきた遊撃士のアルヴィスさんという方もヴァンさんと同じように車やらバイクやらに目を輝かせていたのを見てやっぱり男の人はこういうのが好きなんですねと一応理解しました。ヴァンさんが裏解決屋だと気づいてからはすごい目の敵にしてましたけど。
──ただその後、もう一度村を見回って話を聞いて回り、集まった情報を改めて整理していると……宿に手紙が届けられたことを私たちは知らされました。
しかもその手紙を届けてほしいと頼んだ相手はフェリちゃんが探しているアイーダさんの特徴と一致していました。
なので私たちは急いで村の出口に向かいました。そして遂に──
「アイーダさん……!!」
「フェリ……!?」
──フェリちゃんが探していた《アイゼンシルト》の中隊長、アイーダさんを村の出口で発見しました。
私たちはそこでアイーダさんに事情を聞こうとして……しかしどこか顔色が悪く、苦しそうな彼女に「近づくんじゃないよ!」と一喝されてしまって──
「!? この音は……!」
──そして私たちは丘から謎の光と音を見聞きしました。
それからすぐのことです。村に向かって軍用魔獣と……正気を失った村の住人が襲いかかってきたのは。
「グ、オオ……!!」
「ア……ア……ワ、サ……」
「一体何が起きて……!?」
「考えるのは後だ! 今はとりあえず軍用魔獣と住人を抑えるぞ!」
「っ……はい! 今は切り替えます!」
彼らが襲いかかってきてすぐにアイーダさんはこの窮地を乗り越えてみせろと発破をかけた上で丘の方に向かってしまいましたが……今はとにかくこの人たちを何とかするのが先です。
私たちは互いにフォローし合いながら何とか村人と魔獣を退けましたが……彼らは程なくしてすぐに立ち上がってしまいます。
「また立ち上がりました!」
「っ……まるで屍鬼……いわゆるゾンビみたいになってやがんな……!」
「ど、どうすれば……!」
「2人は下がってろ! ここは一旦俺が──」
「クク……苦労してるみたいだな。アークライド先生よ」
「!」
──しかしそこで思わぬ助け舟が入りました。
軍用魔獣に屍鬼と化した村人を勢いよく、私では見えないほど素早く蹴り飛ばして道を作ってみせたのはヴァンさんのお知り合いのヴァルターさんでした。
「ハッ……助かったぜ、《痩せ狼》! (だが今何か……)」
「クク……こいつらは俺が無力化しといてやるよ。代わりに車の件はチャラにしろや」
「チッ……考えといてやる。任せたぜ《痩せ狼》、遊撃士もな!」
どんな方法を使ったのか、彼らを一瞬で倒してしまったヴァルターさんに後を任せ、私たちは丘陵へと急ぎます。その道中で私の持っていたゲネシスも光っていて、どういう風に関係しているかはまだ分かりませんけど……とにかく今はアイーダさんを追いかけます。
──そして丘陵にある石柱群に辿り着いて……そこでは屍鬼と化したアイゼンシルトの中隊を縛り付けているアイーダさんの姿があって。
「負けちまったのさ──完膚なきまでに、徹底的にね」
私たちはアイーダさんの口から何があったのかを聞きました。
この場所に野営地を築いてその時に、謎の集団に襲撃されてしまったこと。
その集団にはリーダー格が3名いて、全員が凄まじい使い手だったこと。
気がついたら石柱の上に赤い光を放つ装置──ゲネシスが嵌まっていて、アイーダさんを含むアイゼンシルトの人たちは屍鬼になってしまったこと。
先ほど抑えられなくなった隊員の1人が村人の1人を噛んだことでそれが感染してしまったこと。
そしてそれらの事態を、アイーダさんは自分で解決しようとしていたこと。……そんな話を私たちは耳にしました。
──でも諦めちゃ、ダメです。貴女はまだちゃんと生きているんですから。
私はアイーダさんにフェリちゃんの想いを含めて説得します。何か解決方法がないか、それを探るためにちゃんと話をしてほしいと。
その手伝いを私たち、アークライド解決事務所はお手伝いしますと私たちの想いも伝えました。
それにヴァンさんも頷いてくれて、私たちの話を聞いたアイーダさんはそこでようやく前を向いて意思を定めたように思えました。
だけどそこで──
「ハッ! つまらない茶番だねえ。あの《猟兵王》の右腕とも言われた奴だってのに、現実が見えてないにも程がある」
「! お前は……」
「アタシたちを壊滅させた3人の一人だ……! 《アルマータ》の幹部、ヴィオーラ……!」
「そう繋がりやがるかよ……」
石柱の上から失笑を漏らしたのは夕方に村であった女の人で……その彼女の肩書をアイーダさんが口にしました──《アルマータ》の幹部の1人だということを。
「せっかくボスが指示した実験だってのに、冷めちまうようなことするんじゃないよ。アンタたちはもう死者なんだ。いわばアタシたちの慰み者。復活したことに感謝して実験に協力しな」
「やっぱりあの装置を仕掛けたのはアンタらか……他の連中はどうしたんだい? 特に
「ハッ……アイツは外様みたいなもんさ。だから知ったことじゃないね。そんなつまらないことを聞いてくる前に──とっとと屍鬼としての役目を果たしな!」
「……! 針を撃ち出す銃……!」
そしてその《アルマータ》の幹部であった彼女は先ほどとは違って悪い言動で一通り話終えると、懐から取り出した針を撃ち出す銃……ニードルガンとも言うべき武器でアイゼンシルトの人たちの拘束を外してしまいました。
「アンタたち……ここから逃げナアアアアアアアア!!」
──アイーダさんの苦しみに満ちた叫びを聞いて、それと共に襲いかかってくるアイーダさんとアイゼンシルトの人たち。
私たちはそれを何とか制しようと武装を取り出して戦います。……途中で何やら踊りだしたり「ポゥ!」と奇声をあげたりする変な敵でしたが一度は倒して……。
「案外やるじゃないか。だけど本番はまだまだここからだよ!」
しかし何とか彼らを倒しても、またしても彼らは起き上がってしまいます。
このままじゃ私たちの体力が先に尽きる。どうにかしないと……!
「オイオイ──またこっちも随分とお愉しみじゃねえか?」
「っ……!?」
「《痩せ狼》……! 良いタイミングだぜ……!」
「クク、村にいた連中はあらかた片付けたんでなァ。“加勢”も駆けつけたし、一応こういう事態に頼れる奴もいる。だからあっちは任せてきたぜ」
「“加勢”……それに頼れる“奴”だと……?」
「チッ……まさか《結社》のNo.Ⅷが味方してるなんてね……! 一体どういう風の吹き回しだい?」
「お前らを探して喰い殺すのが《破戒》のオッサンやアイツのリクエストなんでな。クク……存分に俺の拳を味わってもらうぜ?」
「両方の筋ってことかい。さすがに面倒だね……! アンタみたいな脳筋男は趣味じゃないし、分が悪いから逃げさせてもらうよ!」
「逃がすかよォ!! テメエはここでくたばれやアアアアア!!」
──私たちにとってはベストなタイミングで、再び加勢して来てくれたヴァルターさんは色々と気になることを口にしながらも石柱を破壊してあのヴィオーラという人を追いかけていきました。
ただ問題は、完全に屍鬼と化して異形の姿になってしまったアイーダさんの対処です。
ヴァンさんはそんなアイーダさんから私やフェリちゃんを庇って怪我をしてしまって……私たちはそれに抵抗することができなくて──
「あーあ、またボロボロねぇ」
──ただその絶体絶命の窮地に、再び私の持っているそれと、地面に落ちたもう1つの、2つのゲネシスが光輝き、時が止まりました。
またあの時のように、ヴァンさんのホロウコアからメアちゃんが現れてヴァンさんに問いかけます。
そしてヴァンさんはそれを選択して。
「やれ──!!」
「りょーかい、アタシに任せて! ──シャード解放!
「ヴァンさん……こ、これって……」
「フェリちゃんと共鳴して……力がヴァンさんの元へ……?」
「ヲヲヲヲヲヲヲヲンンンッ!!!」
──ヴァンさんはあの時と同じように黎い魔装鬼《グレンデル》に変身します。
ただあの時は少し違って……フェリちゃんと共鳴して力が増幅しているように感じました。
そしてその力もあってか、なんとかアイーダさんを無力化することができて。
「アイーダさん、よかった! いま手当をしますからっ──」
「ハハ……ありがとよ……だがその必要はないさ……」
「え──」
──だけど……その助けはほんの少しだけ遅かったみたいで……アイゼンシルトの人たちは身体が光り輝いて、女神の下へ召されようとしていました。
「
「ア、
「……連隊長たち……クルガも来てくれたのかい……」
その場所には、先程言っていた加勢……アイゼンシルトの人たちやフェリちゃんのお父さんも駆けつけてきていて。
ただその誰もがもう悲しみを受け入れたような表情をしていました。
「まったく馬鹿娘が……心配を掛けおって」
「……道すがら話は聞かせてもらった。アイーダ、災難だったな」
「ハハ……面目ない……分かった情報だけまとめた……もし連中とやり合うことがあれば参考にしておくれよ……」
「ああ──もちろん無駄にはすまい」
そしてアイーダさんもまた、それを受け入れてしまったように、後のことをアイゼンシルトの連隊長さんや他の人に託そうとしていました。
他の隊員たちも、一足先に女神の下に──
「──だがアイーダ。その仕事は
「…………? 一体何を言って……アタシは、もう…………って、何をやってるんだい……?」
「他の隊員たちの鼻にワサビを突っ込んでいる。うむ……さすがにまだ苦しそうだが本当に治ってしまったな……意味不明だが、やはりあの若者の話に間違いはないようだ。よし、その調子でワサビを鼻に詰め込んでいけ」
「
「っ……!?」
「……あー……どういうことだ?」
「──僕が教えたんだよ。ワサビを鼻に詰め込めば屍鬼と化した人たちも復活するってさ」
──と思っていたら何やらアイゼンシルトの人たちは屍鬼と化した隊員たちに、なぜか鼻にホースラディッシュ……ではなくて、本物のワサビを突っ込んでいました。
そしてそれを教えたという謎の青年も現れて。
「やあはじめまして。僕の名はメルキオル。ちょっと用事があってこの村に立ち寄った
「……ヴァン・アークライドだ。マジでよくわからねえが……一体どういうことだ? なんでワサビが特効薬に……それになんでそれをお前が知ってる?」
「僕も他の人に教えてもらってね。ほら、あのサングラスのオジサンもそうやって化け物になった村人たちを治してたからさ」
「! そういやぁ……」
「確かに何かをしていたような……」
メルキオルさんという方から話を聞いた私たちは少し得心がいきます。確かに先ほどのヴァルターという方は高速で何かを突っ込んでいたような……いえ、だとしてもよくわかりませんけど……。
ただそれで治るのは本当のようで、屍鬼化していたアイゼンシルトの人たちの顔に生気が戻っていきました。
「わかったかな? だから原理は分からないけどこの人たちにも説明してついでにワサビをあげたんだよ」
「なるほどな……話はわかった。確かに意味不明ではあるが……」
「もっともあんまり時間が経つと難しいらしいし、結構大量のワサビを入れないとダメみたいだけどね。──そっちの女の人も早くしないとマズいんじゃないかな?」
「っ……! 確かに……アイーダさん……!」
メルキオルさんに指摘されて、私たちは視線をアイーダさんに戻します。フェリちゃんもすごく必死で今にも泣きそうで……しかし希望を見つけてアイーダさんに語りかけました。だけどアイーダさんの顔は引き攣っていて。
「ちょ……ちょっと待ってくれ……! ほ、本当にそんなものを鼻の中に挿れなきゃならないのかい……?」
「その通りだ、アイーダ。見ろ、他の隊員達も症状が治まってきている」
「んひいいいいいいいいいいいいい!!?」
「んぎゃああああああああああああ!!?」
「んほおおおおおおおおおおおおお!!?」
「…………い、いや、その…………フッ……アタシはもう手遅れさ……こうやって可愛い妹分と最後に話ができるだけ十分で……」
「ダメだよ……アイーダさん……! 昔のことを教えてくれるって……!」
「そ、それは他のヤツから聞けるだろうし……アタシのもう一人の妹分から聞けば……」
「そんなの知らないっ……! アイーダさんから聞きたいんだよっ!」
「フェリ……いや、でも……」
フェリちゃんは必死にアイーダさんを説得します。でも何でしょう……フェリちゃんとアイーダさんの間にすごい温度差があるような……深刻な事態なので一応フェリちゃんの方が正しい筈ですけど……。
「よく言ったフェリーダ。ならばせめてお前がやってやるといい」
「
「摩り下ろした方が効くらしいぞ」
「我々は念の為追加のワサビを摩り下ろしてこのチューブに入れておこう。幾らでも使うといい」
「アイーダさんにこれを……でも……」
「そうだ、フェリ……あ、アタシはもう手遅れだし、こんな必要は……」
「相手が苦しむとわかっていてもやらねばならない時もある。フェリーダよ。お前がこの先も戦士であり続けるならこれも必要なことだ」
「必要かな!? アタシは必要じゃないと思うよ……!」
アイーダさんも必死でした。よっぽど嫌なんですね……。
「……わかった……!」
「フェリちゃん……」
「見ていられないのなら目を背けるのもいいだろう」
「あー……まあ、そうだな……」
私とヴァンさんはなんとも言えない空気で頷きます。でもフェリちゃんも頑張ってますし、一応目を逸らさずに見届けることにして。
「行きます……アイーダさん……!」
「ちょ、ちょっと待ってくれフェリ……! わ、ワサビはアタシも食べたことあるけどあんな辛くてツーンとするものをそんなに鼻の中に入れたらどうなるか……! 他の隊員の醜態を見ただろう……!」
「我慢してください……!」
「や、やめろ……! アタシはもうさよならでいい……! 後のことは連隊長やアタシの昔の仲間……ゼノにレオ……フィーに団長に、よろしく伝えて──」
「アイーダさんが何と言おうとわたしは認めません……! ──えいっ!」
そして遂に……フェリちゃんがアイーダさんの鼻にワサビを注入しました。しかも思いっきり、全力を込めて。
「んほおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
「あ……アイーダさん! これで治りましたか!?」
「まだ治っていないようだ。フェリーダよ。右だけでなく左にも詰め込むといい」
「はい、
「んほおおおおっ!! おおっ゛! おほォ゛っ! ああああああ゛……! ふぇ、フェリイイイイイイイ……!」
「アイーダさん……! わたし……アイーダさんが復活するまで頑張りますっ!」
──夜の丘陵にアイーダさんの慟哭が、なんとも言えない苦しそうな声が響き渡ります。
私たちはフェリちゃんがアイゼンシルトの人たちから大量のワサビを受け取ってそれをアイーダさんの鼻に詰め込んでいく作業を見守りました。
「……………………」
「ヴァンさん……? どうかしました?」
「いや……なんつーか
「……?」
そしてそれを見守ったヴァンさんは何やら頭を抱えていました。少し気になりますけど……とにかく、ワサビを鼻に敷き詰めた甲斐もあってアイーダさんを救えた私たちは2つ目のゲネシスを回収するなどして後始末を終えると翌日には首都へと帰りました。
──翌日には新たな裏解決屋のバイト……フェリちゃんも加わったことで私の日常は更に賑やかになりそうです。とりあえず、余ったので頂いたワサビは今度料理に使いましょう。
──えーっと……はい。アーヤ・サイードです。なんか私が村の外れで村人を正気に戻している間に一通りのイベントが終わってアイーダさんとかアイゼンシルトの人たちが救われてました。途中から隠れて見てたけど…………まあとりあえず人命は救われたからいっか! ヴァンたちも2つ目のゲネシスを手に入れたし、フェリちゃんも裏解決屋に加わったみたいだし! ヴィオーラを逃がしちゃったのは痛いけど次会った時にやればいいよね! よし、第一章完! ミッションコンプリートだ!!
今回はここまで。アーヤちゃんはヴァンたちと遭遇せず。まだまだ序盤だからね。次はラングポートであちょーあちょーします。そろそろ空の軌跡リメイクも発売だねってことで次回もお楽しみに。
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