──私と彼女の関係性は友達ではなく、むしろ“敵”という方が近いでしょうか。
いえ、私はとても好ましく思っているのですがね? 不幸なことに仕事上対立してしまうことが多いのですよ。
そもそも最初に彼女と関わりを持った一件からして不幸な事故でして。
あれは5年程前のこと。当時の煌都ラングポートの東方人街でかの《赤い星座》と我ら《
《黒月》側の構成員がその暗殺者2名に傷を負わせてしまい、更にその潜伏していたとある店を少なからず破壊してしまった……と、それだけならば大したことにはならなかったのですがね。《黒月》にとっては不幸なことに、その暗殺者はかの《切り裂き魔》……当時ですら《
そしてそのことに《切り裂き魔》……アーヤさんは怒りを覚えましてね。報復としてその場にいた《黒月》の構成員を始末し、更には《赤い星座》との抗争で少なからず動乱の最中にあるラングポートで陰ながら大いに暴れ回りました。
我々《黒月》も構成員がやられてしまった以上は黙っていられません。目には目をということで構成員だけでなく抱えている凶手も動員して《切り裂き魔》を仕留めようと動き出しました。
──ですがその結果は酷いものでしてねぇ。《黒月》がせっかく駆り出した凶手は全員呆気なくお亡くなりになりました。公式には、他の勢力向けに提供した情報では5名の凶手が殺害されたとさせていただきましたが、実際には18人も殺られてしまいましてね。いやはや、実に鮮やかで非情な手並みだったと聞きましたよ。我々が抱える凶手も隠形を得意としていますが、アーヤさんのそれは凶手のそれを大きく上回ります。おまけに殺すと決めた相手に対してアーヤさんは容赦がない。仮に直接的な戦闘で不利を取ったとしても彼女は絶対に相手を殺します。それこそ何でもやるようですし。凶手で随一の腕を持つ筆頭拳士ですら重傷を負ったと聞きました。
そしてそれだけの数の凶手がやられたとなっては《黒月》としても外聞が悪い。弱ったところを外部勢力に突かれないとも限りませんしね。特に当時は《赤い星座》との抗争の最中でもありましたし、その情報を外へ知られるわけにはいきませんでした。
なので長老会の決定で我々は《切り裂き魔》にこれ以上手を出さないことに致しました。事実上の手打ち──いえ、言葉を選ばずに言えば降伏したのも同然ですね。これ以上暴れられると困るので許してくれとそう謝罪させていただきました。
というのも手打ちに関しては私も関わりましてね。その翌年にクロスベルで関わったアーヤさんとその部下と思われる暗殺者に支社が襲われたのですが、その際にお詫びを申し上げて彼らと正式に和解させていただきました。あのままだと更に手痛い被害を受けかねなかったので。そのことは私が仕える主家のルウ家の長老にも承諾を頂きました。
なので《黒月》とアーヤさんにはもうわだかまりはない筈なのですが、友人を先に傷つけられたこともあってアーヤさんは《黒月》を嫌っているようでしてね。できれば良い関係を築いていきたかったのですが関わる度に露骨にそっぽを向かれたり避けられてしまって。残念極まりないです。
まあとはいえこれでアーヤさんが我々《黒月》に危害を加えることはもうないと思っていたのですが……いやはや、その兆候はあったとはいえまさかここまで成長してしまうとは全く彼女は油断なりませんねぇ。
私は煌都ラングポートにて支社を持つサイード社のビルを見上げて感嘆します。そう──成長というのはアーヤさん自身ではなく、アーヤさんの会社のこと。
《サイードグループ》──アーヤさんが学生時代に立ち上げた《SAID》というオートクチュールブランドを中心とした中東系で最大のグループ企業で、導力ゲームや飲食業。アミューズメント施設やリゾートホテルの経営など様々な分野に進出して莫大な利益を生み出しています。
その総資産は現在、共和国で第三位──そう、つまり我々《黒月》が経営する《九龍グループ》を上回ったことになります。
おかげさまで《黒月》も移民系最大のグループ企業という看板を下ろすことになってしまいましてねぇ。その権威に誇りを持っていた一部の長老方や上役は大層ご立腹で。
しかもそのトップがあのアーヤ・サイードということもあって渋面を隠しきれないご様子。こちらから和解した手前、あまり手荒なことはできませんし、仮にできたとしても5年前の抗争のことを思えば未だに夢見の悪い方も多くいらっしゃいます。あの時に殺されてもおかしくなかった方々は特に。
そもそも《黒月》は共和国で、そしてこのラングポートでも排他的ではない。どこの国の資本が入ってきたとしても基本的に歓迎しています。経済的に煌都や共和国が賑わえば、それは我ら《黒月》にも利益が生じるものですからね。
ただそれにしても《サイードグループ》の台頭は常軌を逸していましてね。《九龍グループ》のシェアもそれなりに奪われてしまっているのが現状です。
たとえば飲食業。共和国や煌都で開かれる煌都料理の店舗は軒並み《黒月》が経営しているか、少なくとも関わりがあるものばかりで煌都料理店のシェアはほぼ《黒月》が数年前までは独占していたのですが、最近になって《サイードグループ》は煌都料理も含めた大陸東部の料理店を幾つも開業しました。しかもそれは本格的な煌都料理を出す料理店だけでなく、大衆でも気軽に楽しめるリーズナブルかつ目新しい店も多く開かれましてね。共和国で今一番流行っているラーメン店で本格的なラーメンだけでなく創作料理も多い《亜麺屋》。見た目に凄まじいインパクトがあり、一部の大食漢の方々からはカルト的人気を誇る《ラーメンリース》。最近では餃子を看板メニューとした大衆レストラン《餃子の皇帝》などが流行しているようでして。私も一通り通ってみましたが、確かにどれもよく出来たものでした。サイードホテルに入っているような本格的な煌都料理の店ではしっかりとした煌都料理を。ラーメン屋《亜麺屋》ではハイレベルなラーメンを。そして大衆向けの《餃子の皇帝》などはあえて煌都料理特有のクセを少し抑えて食べやすい味付けで食べやすいものを揃えてあり、お持ち帰りやデリバリーにも対応しているなど幅広い客層にウケる店作りを徹底しているようでした。煌都料理を食べ慣れている煌都の人からもこれはこれで美味しいと受け入れられる……むしろ今までとは違う味に嵌まってしまう者もいるようですね。《黒月》に所属している者の中にも大っぴらには行けないので隠れて通う者もそれなりにいるようです。
そして煌都料理だけでなく、こういった目新しい飲食店は《サイードグループ》の独壇場でしてね。煌都においてもかなりの数の系列店が開かれています。この成功はアーヤさんのアイデアだけではないでしょうね。ここ数年で有名になってきている新進気鋭の料理人で料理界では若きカリスマとして知られるアデーレ・ブランシェットの力も大きいでしょう。アーヤさんの御学友には優秀な方が多いようですね。羨ましいことです。
……とまあ飲食業だけでもこの有り様ですので総資産を抜かれてしまうのは致し方ないでしょう。幸いにも《九龍グループ》の中核は貿易と銀行業になりますからそこは盤石。ホテル業などは最近《サイードグループ》のリゾートホテルが話題で後塵を拝する可能性が高いですがね。
これでまた一部の長老方の機嫌が悪くなることは予想に難くないですが……それはそれとして《黒月》としてはやはり敵対はせず、それなりに付き合っていく方向に舵を取るべきだと判断しました。
そして私が少し遅れてこのサイード社の支社ビルにやって来たのもそれが関係しています。何しろ今このビルでは──そのアーヤさんと《黒月》の長老の一人であるギエン・ルウ様が秘密の会合を行っているのですから。
ですので私はその理由を考察しながらも呼び出しに応じてこの場にやって来た次第です。さて……一体どのような用件なのか。あるいはどういった企みがあるのか。アーヤさんはいつも私の予想を超えることをしてきますから楽しみですね。そういうところが私的に最も好ましい部分です。
そうして私は期待しながらも支社ビルの最上階にある応接室にて、扉の前で見張っていたギエン様側近の凶手の方々とアーヤさんの秘書であるセラさんという女性の方に通してもらい、久方振りにアーヤさんと対面──
「──躱せ! ビガジュウ! そして庇う!」
「む……もう一体を庇うとはやりおる。じゃがダメージは受けてもらうぞ! ゴウリュウ! しねしねこうせん!」
「ふっ! 甘いね! ビガジュウには根性のハンカチを持たせてるよ! なので1耐える! おまけに特殊能力でスピードとパワーがアップ!」
「ほう……なるほどな。さすがは四天王が一人。簡単には行かぬか……」
──部屋の中ではそのアーヤさんとギエン様が導力ゲームで対戦を行っていました。ふむ……てっきりもう少し剣呑とした話し合いになっているかと想いましたが……とはいえアーヤさんですからこのぐらいは珍しくもない。動揺することは何もありませんね。
ちなみに今遊んでいるのはおそらく最近流行りの導力ゲーム《ファントムモンスターズ》でしょう。縮めて《ファンモン》。導力ゲームは共和国を中心に今ではゼムリア大陸各地で流行していますが、その中でも《コトワリファイターズ》と《ファンモン》は対戦ゲームとして大人気で、《ファンモン》の方は若者だけでなくギエン様のようなご高齢の方もプレイしている人は多いようです。
更に補足するとその中でもアーヤさんは《ファンモンリーグ四天王》──昨年のサイード社主催のゲームショーで行われた導力ゲームの世界大会にてファンモンの大会が開かれ、そこの上位だった4人のプレイヤーの1人です。対戦でポイントを稼ぎ、一定のポイントまで集めると四天王に挑戦できるそうですね。確か現在の四天王は、アーヤさんにシメオンさん(アーヤさんと同じ結社の執行者でNo.Ⅶですね)。そしてキーアさん(かつては零の御子で現在は導力ゲーム配信者《鍵っ子ちゃん》としてアイドル的な人気を誇るゲーマーですね)にオズボンさん(もはや言うこともありません。たださすがに大会では直接登場せず導力ネットを経由しての対戦でした)でしたね。そして昨年はキーアさんが優勝したそうです。再独立を果たしたクロスベルのチャリティーイベントとしてクロスベルで開かれたので私も拝見させて頂きましたが特に準決勝のキーアさん対オズボンさんの戦いは見ものでしたね。後はティオさんとヨナさんは準々決勝でそれぞれキーアさんとシメオンさんに負けてしまっていて惜しかったですね。シン様も参加していましたが一回戦で運悪く負けてしまったのでお慰めしました。
──とまあ補足情報はこのくらいでいいしょう。重要なのは、もう既に導力ゲームに興じる余裕があるほどに、2人の話し合いがあっさりと終わってしまったことです。
それにこの和やかな空気。おそらくは合意に至ったと見ていいでしょう。アーヤさんのことですから誰が相手でもそうなりやすいと思いがちですが、こと《黒月》に関していえばアーヤさんは嫌っているはず。こんな風にリラックスしているということは彼女にとっても良い結果が得られた可能性が高い。裏表があるようであまりない人ですからね。隠し事の内容は喋らずとも隠し事があるかどうかの判別は分かりやすいものです。
さて……となればどのような手を打つかですが……《アルマータ》関連であることは予想できますが、そこにギエン様にアーヤさんが関わるものとなると……。
「──ふむ、負けてしまったか。そして良いタイミングで来たな、ツァオよ」
「対戦ありがとうございました! げっ……ツァオ・リー……」
「ええ。ちょうどアシェン様の見送りが終わったもので参上致しました。アーヤさんもお久しぶりですね」
「あー……うん。久し振りー…………」
「? どうかしましたか?」
ふむ……? 何やらアーヤさんが何かを考えるように顎に手を当てていますね。最初私を見た時は明らかに嫌な顔をしていましたが、この反応は一体……。
「んー……ま、
おや……今度は何かを納得したようですね。
一体何に納得されたのか、私には知りえませんが、それでも納得されたのであれば良いことでしょう。おそらくは、ですが。
となると私の取るべき対応は……。
「──ええ、何についてなのかはよく分かりませんがよろしくお願いします。それではお近づきの印に……1つ手合わせ願えませんか?」
そうして私は懐からあるものを取り出した。アーヤさんと戦うために──
「手合わせって……あ! ツァオも導力ゲームやってるんだ! 手合わせってそういうこと?」
「ええ。最新の導力ゲームとはどういうものなのか、戯れに試してみたのですがこれが中々、奥が深い。シン様や他の方に付き合わされることもありますのでそれなりに嗜ませてもらっていますよ」
「へぇ~そうだったんだ。ならいいよ、勝負を受けても! なんでもかかってこーい!」
「よろしいですか? ギエン様」
「……ああ。アーヤ殿も望んでおるようだ。楽しませてやるといい、ツァオ。──その後で仕事を命じるとしよう」
「ええ、心得ています」
──さて……これで多少の時間は作れましたが、ギエン様は元より、アーヤさんからも情報を得るのは難しいでしょうねぇ。
ただこうしているだけでも分かることはあります。とりあえず
──ザオシャンハオ! アーヤ・サイードです! 最近はアルマータをあの世に送るために拳法をちょっとだけ習ってます! 結社にいる拳法使いからね! 主にNo.ⅧとNo.Ⅻから。子どもの時に習った時と比べたらちょっとだけ筋が良くなったのでちょっとした秘孔の場所とか自分の肉体を強化する術くらいは覚えられた! 他はなんちゃってなので素人とか半グレ相手とかワンポイントでは使えるけど本格的な戦闘には使えないくらいかな。おかげで身のこなしの効率はちょっとだけ良くなった気がする。単に稽古と称してヴァルターたちと手合わせしたからレベルが上がっただけかもしれないけどね!
そして習った拳法をどんな風に使ってるかと言うと……。
「──とうとう追い詰めたわよ!」
「ふっ……来たか。あの時より強くなったんだろうな?」
「当然よ……! 貴女に会うために地獄の底から舞い戻ってきたわ……!! もうあの時の私だと思わないことね!」
「さて、それはどうかな? 次は私も本気を出す。私の本気の拳を受けて立って生きていた者はいない……お前が成長したかどうか……試させてもらおうか!!」
「望むところよ!!」
「“鬼躯斗破断拳”!!」
「“月斗仁龍拳“!!」
と、煌都風の道着に仮面を被った私の拳と艶やかなチャイナドレスに髪を煌都風のお団子に結った赤毛の美女の拳が交差する。
互いの拳法の腕を競い合う。実力は私の方が僅かに優勢。やはり拳法に必要なのは“闇“。人を殺す技術であり、愛と人を活かし助ける仁義の拳であるこの女には私を倒すことなど不可能なのだ。
「ふっ……やはり甘いな。その程度ではこの私を倒すことなどできん!」
「はぁ……はぁ……まだよ……! 私の拳は……この程度じゃない……! 人を殺し続ける貴女の拳に、私は負けるわけにはいかないのよ!」
「ならば口ではなく拳で証明してみるがいい!!」
「言われずとも……次が、私にとって最後の一撃……! 師匠……私に力を……!」
「うおおおおおおお──!!」
「おおおおおおおお──っ!」
そして互いの秘奥。最後の拳。全身全霊の一撃が獣の如き咆哮と共に放たれる。
そしてその結果は、やはり──
「──カーット!!」
「!」
「!」
──最後の殴り合いが終わった時点で、監督のその一声によって差し止められるのだった。なので私も演技をやめて仮面を外した上でゴッチ監督に今のシーンの出来栄えを尋ねる。
「どうでした? 多分良い感じでしたよね!」
「うむ……………………素晴らしい!! なんと迫力のある……それでいて艶やかなアクションシーン!! ジュディス君にアーヤ君も素晴らしい身のこなしじゃあっ!!」
「ありがとうございまーす。やったね、ジュディスちゃん」
「やったね──じゃないわよっ! アンタの拳、付いていくだけでも大変なのに結構痛いんですけど!?」
「あーごめんごめん。ジュディスちゃんなら大丈夫かなーって思ってさ。ほら、アクションって手加減難しいし。迫力あるシーンにするなら手加減もギリギリにした方が見栄えが良くなるかなーってね」
「ぐっ……アンタねぇ……」
「それとも本当に怪我しちゃった? 回復魔法いる?」
「いらないわよ! ああもう……もういいわ。とりあえず、今日の撮影はこれで終了ですよね? 監督?」
「うむ! これでアクションシーンは全て撮り終えた。アーヤくんも衣装だけでなくアクションシーンも手伝ってくれて助かったぞ」
「私も楽しかったので全然いいですよー」
「あたしはもう勘弁してほしいけど……とにかく、お疲れ様でした。次の仕事があるのでこれで失礼しますね!」
「ああっ、待ってくれジュディス君! 来月の映画祭について──」
「あら、行っちゃいましたね?」
「ううむ……ついでに映画祭のことについて話したかったのじゃが……ジュディス君も売れっ子じゃからな。仕方あるまい」
「“ゴールデンブラッド”公開されましたもんねー。私も後で見に行く予定です!」
「うむ! 是非見てくれたまえ! ──それとアーヤ君、来月の映画祭について君にも協力を頼みたいのじゃが……」
「全然いいですけどちょっとこの後仕事あるんで秘書に伝えといてもらいます? それじゃお疲れ様でしたー! またお願いしまーす!」
──と、いうことでゴッチ監督の映画のスタッフとしての仕事を終えた私は一瞬で元の格好に着替えると現場にいる人たちに向けて元気良く挨拶をしてその場を後にする。いやー楽しかった。ちょっと前にゴッチ監督が東方の武術にインスピレーションを受けて、なおかつ同じく東方が舞台の“狼たちの鎮魂歌”に対抗するべく舞台が煌都の映画を作ることになった訳だけど私も参加できて良かった。
なので今私は煌都ラングポートにいる。共和国南部の海沿いにある首都に次ぐ大きな街だね。都会っぽさと東方風の街並みが合わさった風情のある場所だ。
まあ《黒月》の本拠地でもあるので私は微妙な気分にもなるんだけどね……ただ表の仕事だけでなく裏の仕事もここであるのでちょうど良かった。撮影を終えた私はすぐにラングポートの新市街にあるサイード社の支社ビルに向かい、そこの応接室で客を待つ。
「セラちゃん、先方何時頃に来るって?」
「ああ、もうすぐ──っと。来たみたいだね」
秘書のセラちゃんにいつ来るか聞きながら裁縫をしているとセラちゃんのXiphaが鳴ったのでおそらく受付からの連絡だろう。「お通しして」とセラちゃんが返事をして少し。応接室に待っていた客がようやく現れた。
「──待たせたな」
「ほんとにまあまあ待ったよー。セラちゃんお茶出してあげてー」
「ええ」
「いや、必要ない。出されても飲むことは出来ないのでな」
と、私からの気遣いをそんな風に意味深に断ってきたのは貫禄のある白髪のお爺ちゃんだ。明らかに只者じゃないけどそれもその筈。この人の名前はギエン・ルウ。あの《黒月》を取り仕切る長老会の1つ、ルウ家の長老でありその中でも首席に位置する人。
まあ早い話が黒月のボスだ。なので周りには凶手が4人も姿を見せているし、姿を見せていない凶手も8人もいる。いや、12人って連れてきすぎでしょ……なにこれ。私の方が怖いんですけど……なのでとりあえず指摘しておこう。
「そっか。それはいいんだけど、話し合いをするならそんなに護衛はいらないんじゃない? 怖いから部屋の外に出ててもらえるかな?」
「ふむ、確かにそうだな。ならばお前たちは部屋の外に──」
「いや、どっちかっていうと4人の方じゃなくて隠れてる8人の方が出てってほしいんですけど……」
「……やはり気づいてしまうか」
私がそう指摘するとギエンのお爺ちゃんは片手をあげてみせる。すると他の8人も隠形を解いて姿を現した。うわぁ……相変わらず陰気だなぁ……嫌な思い出しかないから良い気はしない。
「失礼した。だがかつて我々を翻弄した《切り裂き魔》の下に出向くとなれば備えは必要でな。すまぬがこちらの4人は控えさせてもらおう」
「なら態々来なくても良かったと思うんですけど……」
「……それはそれで都合が悪い。故にこうして出向かせてもらった」
「……まあいいけどさぁ。それじゃセラちゃんは外で待機しててくれる?」
「大丈夫かい? 万が一彼らがまた襲ってきたら──」
「それは怖いけど……その時はその時で割り切るから大丈夫だよ」
なんて私が言ったら凶手たちがなんか警戒を強めた気がする。いや、だからなんでそっちがそんな感じなの? 怖いのは私の方だし警戒したいのはこっちなんですけど……凶手が12人もいるとか死んじゃうかもしれないじゃん……この人たちやっぱおかしいよね……。
ただそうなったらもうしょうがない。割り切って何でも使ってこの場を切り抜けよう。多分そんなことはしないと信じたいけど相手は《黒月》だからなぁ。信用ならない。とりあえずいつでも《ゾルフシャマール》とかBC兵器取り出せるように準備はしとかなきゃ。なのでセラちゃんには外に出ててもらおう。ばいばーい。また後でね。
「……あの者も暗殺者か?」
「えっ……な、なんでそう思ったんですか?」
「振る舞いが少しな。我らの用いる凶手と少し似ている。それにあの面影……5年前にも似た者を見たことがあるのでな」
セラちゃんや凶手の内8名が外に出たところでギエン・ルウがそんなことを言ってきたのでびっくりする。わかるんだ……私はずっと分からなかったんだけどなぁ……やっぱ黒月の人って頭良いし腹黒いしで何考えてるか分からなくて苦手だ。さっさと話を終えて帰ってもらおう。
「……それで、何の用ですか?」
「……むしろそちらが我らに話すことがあるのではないか?」
「え? 別にないですけど……」
「惚ける気か? そちらが我らの保管していたとある装置を盗んでいったのは調べがついているのだがな」
あ……ば、バレてるー……!! ゲネシス取って行っちゃったことバレてるー……!! いや、そりゃそうか。あれって黒月が管理してたんだもんね……《大君》絡みがどうのこうので……う、どうしよう……確かにそれは事実だけど……。
「いやー……あれはそのぉ……なんと言いますか、部下が勝手に……」
「…………まあそのことについては遺憾だが、今は置いておくとしよう。本題はその先──《アルマータ》の対処についてだ」
「……アルマータの対処?」
──んん? なんかまだ意外な……でもないか。黒月からすればアルマータって裏社会の秩序を乱す邪魔者だもんね。最近はアルマータの息がかかった半グレがこのラングポートでも暴れてるらしいし。半グレじゃなければ私もやっちゃうんだけど半グレなのがなぁ……やってることは確かにアレだけど利用されてるだけでもあるし扱いがちょっとね。でもなんでそのことを私に……?
「アーヤ殿。そちらが……いや、そちらの組織、と言うべきか。かのアルマータを殲滅しようと裏で動いているのであろう?」
「…………えーっと……何の話ですか? 確かに私って裏じゃそこそこ有名な暗殺者ですけどわざわざアルマータなんて──」
「……下で動いている者がいることはツァオや他の者の報告。そして5年前の件で調べがついている。無論、詳細を全て把握しているわけではないが──《庭園》なる暗殺組織があることは知っている」
う……うわああああん!!? それもバレてるー!? なんで知ってるの怖っ!! さすがに動きすぎた!? こ、これだから黒月はもー! いやまあ確かに前にクロスベルで色々あったから察しはつくだろうけど《庭園》って名前まで知ってて私のところに来たってことは結構知ってるってことじゃん!! もうダメだおしまいだー!! うわーん!!
「……あくまで己の口からは語らぬか。ならばそのまま聞くがいい。──《庭園》のことを触れ回るつもりはない」
「えっ、ほんと?」
「…………そこで返事をしてしまえば認めるのと同義だと思うが」
「あっ」
わーん!? 私の馬鹿! 嬉しくて普通の返事しちゃったじゃん!
「ぐぬぬ……これが黒月の誘導尋問……! さすがは黒月……」
「……ふっ……モンドより聞いた通りだな」
「ん? 誰? アーモンド?」
「豆の話ではない。──先代《銀》のことだ。奴より《切り裂き魔》……《血染の裁縫師》が子供であることやその人格や実力については聞き及んでいた」
あー、なるほど。誰かと思ったらリーシャちゃんのお父さんか。そういえばあったなぁ……そんなことも。懐かしい。あの時は確か……。
「あの時は《銀》に私の護衛対象が殺されちゃって散々でしたよ……」
「…………儂が伝え聞いた話とは違うが……まあよい。そんな先代の《銀》にすら認められ、当代すら超える《切り裂き魔》の実力を見込んで頼みがある」
「頼み……ですか?」
「ああ──煌都に潜伏する《アルマータ》の排除を頼みたい」
えっ? 何その依頼? なんでそんなことを私の頼むんだろう? いやまあ言われずともやるんだけどさ。逆に言うと言われずともやるんだからわざわざ頼む必要はないような……こっちがアルマータを殺し回ってること、向こうは勘づいてるっぽいし……。
「……なんでそんなことを?」
「裏社会の秩序のためだ。我ら《黒月》がこのカルバードでどのような役割を担っているか知らない訳ではないだろう」
「それはまあ……でも一々私に頼む必要はないような……そちらで勝手にやればいいのでは?」
「幾つか事情がある。1つは──我ら《黒月》の内部に《アルマータ》と繋がりがある者がいるであろうことだ」
「えっ、そうなんですか?」
「確たる証拠がある訳ではない。しかしこのところ違和感のある動きを見せる家が幾つかあってな。《アルマータ》の対処に消極的になっている。連中を利用して甘い蜜を吸おうとしている者がいるやもしれぬ」
えぇ……そうなんだ……って、なんかその話も覚えがある気がする。なんだっけ……黎Ⅱでそんな感じの話があった気がするけどあんまり覚えてない。黎Ⅱって全然覚えてないんだよね。結構前だし一回しかプレイしたことないから思い出が少なくて……でも確かそんな話があったと思う。なので裏切り者がいるのは本当なんだろうね。
「なるほど? 《黒月》も一枚岩じゃないから腰が重いってことですか?」
「その認識でよい。加えてもう1つ──こちらの事情でな。ある存在を見極めるために協力してもらいたいのだ」
「ある存在? 《アルマータ》じゃなくてですか?」
「うむ──その名を《大君》という。その生まれ変わりと思わしき青年がこの煌都にいるのだ」
あ~~~~……なるほどなるほど。そこまで聞いて合点がいった。《大君》の話ね。そこまで突っ込んだ話は知らないけど知ってる。つまり……アーロンくんのことだ!!
そして私はギエンのお爺ちゃんに《大君》についての詳しい話を教えてもらいながら思い出しながら頭の中でまとめる。《大君》というのはかつてラングポートにいたとんでもないカリスマを持つ1人の男のことだ。《黒月》や《銀》すらもその下についていたし、当時のラングポートはその《大君》に支配されていたらしい。
それでも最初は良かったが、次第に《大君》は暴走を始めて人々を力と恐怖で従わせるようになる冷酷な君主になっちゃったとかで、それを危険視したので《黒月》と《銀》が《大君》を打倒。《黒龍城塞》って場所に幽閉して孤独死させたらしい。ええ……それは普通に可哀想じゃない? いやまあそれだけ酷い人物だったのかもしれないからなんとも言えないけどね。
で、それが40年前の話でギエンお爺ちゃんはその《大君》事件の経験者。なので《大君》が怖くてしょうがないんだけど、その《大君》にめちゃくちゃ似た少年がいるってことでギエンお爺ちゃんは戦々恐々としてるらしい。
それがアーロン・ウェイっていう後にアークライド解決事務所の一員になる赤毛のイケメンくんなわけだ。
「故に確かめてほしいのだ──《大君》をあえて復活させることで」
ってことらしい。もし《大君》が復活しないのならそれはそれでよし。復活したらその危険性を見極める。自分たち《黒月》でやるにはちょっと具合が悪いから外部勢力にこうして秘密裏に頼むってことだね。
そしてその外部勢力とは《アルマータ》……って、あれ? なんかおかしくない? なんで私がそれを頼まれてるの? ギエンお爺ちゃんが《大君》の件で手を結ぶ相手ってアルマータなんじゃ……って、まさかとは思うけど……え、私? 《庭園》? もしかしてそれをやるのって……。
「…………え、えーっと……ちょっと話を整理させてください。要するに……私たちが《大君》を復活させるために暗躍する……ってことで合ってますか?」
「ああ。その通りだ」
「……………………あー……その、どういった理由で……? 私たちは、こう言ってはなんですけど《黒月》と積極的に敵対する気はないんですが……」
「無論、建前は作るべきだろう。我々《黒月》としても《アルマータ》殲滅のためにそちらと契約を結ぶに足る理由……建前が必要になる」
「……ぐ、具体的には?」
「連中の動きを見るに近い内にこのラングポートで事を起こすであろうことは想像に難くない。それに合わせ、そちらもまたラングポートに潜伏する。そしてアルマータの襲撃に合わせてそちらから契約を持ちかけてほしい。《アルマータ》による被害を被った《黒月》に対して、
「な、なるほど……で、そこからアルマータを殲滅……あれ? でもどうやってそこから《大君》に繋げれば……?」
「それこそ《アルマータ》の殲滅のためだ。《大君》を復活させ、《アルマータ》を皆殺しにさせる──そういった目的があれば《庭園》側の建前としても十分なものとなるであろう」
「あー……なるほどなるほど。先んじてアルマータを排除したらダメなんですね?」
「《黒月》が管理する煌都でアルマータ殲滅のためとはいえそちらが勝手に殲滅を成し遂げてしまえば我らの顔も潰れることになる。だからこそ《庭園》には我らと契約を結んだという建前を成立させてから動いてほしいのだ」
「な、なるほど……理解しました……」
私はギエンお爺ちゃんの話を聞いて戸惑いながら頷きを連続させる。はえー……さすがは《黒月》の長老の1人であのツァオの上司なだけある。頭
でもそれってなんというか……なんかアーロンくん可哀想じゃない? いやまあ原作からしてそうなんだけどさ……それにこれだと私がまたすごい黒幕みたいでイメージ悪い……暗殺者が何言ってんだって話だけど……。
私はギエンさんの企みを聞いて考え込む。う~ん……でも確かに都合が良いっちゃ良いのは確かなんだよね……《アルマータ》を殲滅するのに一々《黒月》と敵対するのも面倒だし、協力できるならその方がそりゃあいい。
それにアーロンくんは確かに可哀想だけど、アーロンくんの問題を解決するために結局はそこに触れないといけない上、アークライド解決事務所の一員になるのも結局は《大君》を一度は復活させて乗り越えさせないとダメだろうしなぁ……割と色んな面で都合がいい……。
「無論、受けてくれるのであれば報酬は払う。我々が保管していた装置を盗み出した件についても水に流そう」
う……そう来たか。確かに盗んだ件もあるんだよね……だったら尚更私たちでどうにかするしかないわけだし……ん? 待てよ? そうなってくると私が自分で考えてゲネシスをどうするかより言い訳が聞くような気が……だってこれってギエンお爺ちゃんに依頼されたことだし……私が自分で考えてやったことじゃない。あくまで頼まれごとだ。
「《大君》を復活させた後はそちらの好きにして構わぬ。自らの手で《アルマータ》を皆殺しにするも、本当に《大君》を使うのでも我らは目を瞑らせてもらおう」
そう、つまり悪いのは全部この目の前のギエンお爺ちゃんなんだ! だから私の罪は軽いと思う! いやだからってダメなものはダメなんだけどただよりマシではある。私が自分で画策してもこれより上手い方法を思いつくとは思えないし……アークライド解決事務所とアーロン君のため。そして《アルマータ》殲滅に繋がると思えば……。
「…………わかりました。お受けします」
「──取引成立だ」
私とギエンお爺ちゃんは握手を交わす。──うん、ま~~~~……色々呑み込んだけど割り切ってみれば結構ありだよね! どっちみちやらなきゃならないんならこっちの方がマシ! ってことで《黒月》と契約を結んだ!
そしてその後はお帰り──と思ったらギエンお爺ちゃんが「実はもう1つ頼みがあってな。四天王であるアーヤ殿に手合わせを願いたい」と言って導力ゲームで対戦を挑んできたので私は受けて立つことに。《ファンモン》だね! ギエンお爺ちゃんもやってたんだ。まあ老若男女みんな大好きだからそういうこともある。私は世界大会でベスト4の四天王だからね! 挑まれた勝負は受けて立つよ! レッツファンモンバトル!
ちなみにギエンお爺ちゃんは龍使いで結構強かった……って、ランク見たらラングポートエリアのトップ! 《バトルマスター》じゃん! つまり煌都で1番強い人ってことだ。かなりやり込んでるね……! ちょっと親しみを感じたかもしれない。ゲーム友達になれそう。
そしてその後にやってきたツァオも……まあ《黒月》とは契約を結んだし、割り切って表面上は仲良くしてもいいよねってことで対戦したけどこっちも中々強かった。煌都は導力ゲーム好きな人が多いなー。せっかくだしちょっとだけこっちのお店食べ歩きしたりカジノ行ったりして楽しもっと。《黒月》はもう実質味方みたいなもんだから気にする必要全くないしね!
──その日の午後。煌都ラングポート、東方弐番街。
「クク……この時を待ちわびたぞ」
「いやあのぉ……人違いじゃないですか? 私はこの通り、ただのお洒落な褐色美少女で……」
「惚けるつもりか? それとも俺の気を忘れたか? ならば思い出させてやろう──」
そうして右腕に入れ墨を入れた東方風の武侠者は、その上着を脱ぎ捨てて私にそれを見せつけた。
「俺は忘れてはいない……! 5年前……
「い、いやだから私は知らなくてぇ……傷跡のことは気の毒だけど……」
「勘違いするな。傷のことを責めている訳でも恨みを抱いている訳でもない」
「え? そうなの?」
「ああ。むしろ俺が貴様に抱く感情は歓びだ……!! この俺の渇きを……!! 飢えを……!! 満たすことの出来る貴様との戦いを俺はずっと欲してきた!!」
「そういう感じ!? と、とにかくもう喋ってる暇もないのでそろそろ──」
「これ以上の問答は不要か。良かろう。ライ家暗部が筆頭にして《月華流》奥義皆伝者、ガウラン──さあ、存分に死合うとしようか……!!」
「戦う暇もないって言ってるんですけどー!? 危なっ!?」
──観光を楽しんでいる最中にいきなり絡んできたチンピラ……ではなく《月華》最強の拳士ガウランに殴りかかられたことで私はそれを《ゾルフシャマール》で咄嗟に受け止めながら内心で叫んだ。いやその……なんでガウラン!!? 私初見なんですけど!! なのになんか傷を付けられたとか言って因縁付けられたんですけど!! 怖い!! マジで身に覚えない!! 5年前……? 《黒月》と争った時にいたっけ? 戦った覚え全くないんだけど!! モブの凶手とかはそれなりに殺したし追っ払ったけどガウランなんていなかったって!! 絶対勘違い勘違い!! というかお前、ぶっちゃけると原作的にも影薄いというか私の知ってる範囲だと掘り下げ少なくてあんまり知らないから微妙に乗り切れないよ!! だから程々に相手して逃げる!! じゃあね!!
──ってなわけで私はなぜか《月華》最強で《黒月》でも最強かもしれないガウランと程々に戦うことになった……はぁ……疲れた……普通にめっちゃ強かった……もうラングポートはしばらく行きたくない……でもすぐにもう一回行く羽目になるんだよなぁ……次は気をつけないと……。
──数日後。
「見つけたぞ!! アーヤ・サイード!! さあ、この俺と死合うがいい──!!」
──うわあああああああ!!? また来た!!? すごい勢いで追いかけてきてる!! 怖い!! す、ストーカーです!! 助けてお巡りさん!! ロイドくん!! 遊撃士!! エレインちゃん!! ここにストーカーがいます!! これで今日もう5回目なんです!! 最初は街中で偶然鉢合わせて2回目は歌劇を見てたら隣の席から声をかけられて3回目は買い物中に出てきて4回目は海の中から飛び出て5回目はめちゃくちゃでかいツボの中に隠れ潜んでた!! ど、どこでもガウランだー!! 嫌ー!!? 何回も挑まれるー!! 誰でもいいから助けてー!!
今回はここまで。ラングポートの街ではランダムでガウランが出没するのでアーヤちゃんは気をつけましょう。
次回はラングポートで裏解決屋とアルマータと庭園と黒月とアーヤちゃんとガウランが大暴れします。お楽しみに。
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