TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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混沌とする煌都の不幸

 ──俺は幼き頃からずっと飢えに苛まれてきた。

 

 俺に親や家族はいない。無論、人間である以上血縁上の親はどこかにいたのだろうが俺が物心ついた時には側にその影も形もなかった。浮浪児であった俺は物心がついた時からどこか満たされぬ感覚を持っていた。

 煌都を実質的に支配する《黒月(ヘイユエ)》の長老家が1つ、ライ家に拾われ、武人として育てられた俺はその役目を果たすためにただひたすらに拳だけを鍛え続けてきた。

 東方三大拳法の1つ《月華流》の宗家で学び、そこにいる軟弱な修行者共をその心諸共、木っ端微塵に打ち砕いてきた。本流の血筋などやはり大したことなかった。

 同じライ家に属する暗部、凶手共を同じく鍛えた拳で叩き潰し、その力を認められた俺はライ家の中でも頭角を現し、いつしかライ家の《筆頭拳士》の座を与えられた。

 弱き者共の評価なぞどうでもいいが……それでも他者から見れば俺は大した人物に見えたことだろう。俺も俺の強さには自信を持っている。もはや《黒月》や《月華》にも俺を超える強さを持つ者はいない。誰であろうと容易く屠ることができるだろうと。

 

 ──だがそれでも俺は空虚だった。

 

 どれだけ武を極めても満たされることはない。凶手としてどれだけ人を屠ろうとも乾いたまま。ライ家の筆頭拳士という地位を得て、他者から一目置かれようと居場所がないと感じてしまう。

 

 その空虚さを埋めるように更に力を求める。拳を振るう。強者と戦うその時のみはほんの少しだけ満たされるような気はしたが、運の悪いことに俺を上回る者は俺の前に現れてくれなかった。

 

 ──そんな時だった。俺の前に“強者”が現れたのは。

 

 5年前。《黒月》の縄張りである東方人街を侵す者達が現れた。

 その名は《赤い星座》──数ある猟兵団の中でも双璧。最強と謳われる団の1つであり、狂戦士の血を継ぐオルランドという一族が団を率いているという。

 その《赤い星座》と《黒月》が抗争に発展したことで、俺は僅かながら興味を抱いた。《赤い星座》の連中であればこの俺の飢えを僅かでも満たすことができるのではないかと。

 そうでなくてもこの俺の糧になる。故に俺はライ家の命令を心待ちにした。命令さえあれば今すぐにでも連中に俺の武を試すことができる。連中の鬼神の如き強さを味わうことができる。

 

 ……だが俺が味わったのは《赤い星座》の牙ではなかった。

 

 俺の目の前に現れたのは──謂わば《死神》。俺のような凶手に近い無慈悲の刃だった。

 

『一体どこから──ッ……』

 

『まさ、か……これほど……と、は──』

 

 あの時のことを一言で形容するなら──“悪夢”と言うのが正しいだろう。

 《黒月》にとってそれは悪夢だった。抱えている構成員どころか凶手が、その気配を全く感じ取れないまま次々とあの世へ送られていく。

 多くの者はその姿すら視認することは出来ない。数で囲んでようやく、辛うじてその死神の影を捕捉することに成功するが──それでも奴の殺しの技に凶手は倒れていく。

 

 そして俺は……その奴に食い下がった哀れな敗北者だった。

 

『──うわっ、この人ちょっと強っ!? 怖っ! なんでこれで死なないの!? 早く死んで!』

 

『ッ……これしきで……!』

 

 暗部として、凶手として活動するために黒子に徹していた俺は身体に多くの切り傷を、致命傷にも等しい傷を負いながら何とか奴の前に立ち続ける。

 最初は不意打ちで、左の脇腹を切り裂かれた。次に左胸を切り裂かれたが心臓には届かせていない。次に右腹部を。その次に右手の筋を──。

 

 そうして幾つもの傷を負わされながら俺は力を込め続ける。何とか臓物が身体から飛び出さないように肉体を操作し、生命活動を終わらせないように耐え続けた。

 

 なぜそうなったのか。そもそも最初に奴の不意打ちに気付けなかったのが致命的だった。奴の刃は殺意も敵意も、気配すら感じない。強者特有の覇気というものが皆無だ。その隠形は凶手すら凌ぐほど神がかっている。

 

 それでいて殺しの技も達人そのもの──奴の刃は鋭く、見えない糸と針に身体を縫われ、標的の逃走を決して許さない。

 その上で奴は刃に毒を塗っていた。容赦はない。何が切っ掛けか、俺達を殺すと決めた以上、何があっても殺す。気の抜けた言動を繰り返す奴はその表面上の態度とは裏腹に無慈悲にそれを決定付けていた。

 

 そして俺は……その無情な殺しの技の数々に。この俺を傷つけることのできる奴に、歓びを感じた。

 

 こんなにも徹底的に、無様な目に遭ったことはない。この煌都で俺に敵う者は1人もいなかった。どれだけの強者であってもできるのは多少食い下がることのみ。俺の飢えを満たすことの出来るものは皆無だった。

 

『ッ……オオオオオオ……!!』

 

『凶手なのにこの人うるさいんですけど……! うるさいから針で喉潰し!』

 

『ゴ、ホッ……ぐ……あ……』

 

 ──だが、この様は何だ? 俺はまるでゴミのように。どこにでもいる凡夫のように、奴は俺を殺そうとする。相手にしない。目にかける価値もないと言わんばかりに、奴の黄金の瞳は俺を映してはいなかった。

 

『あ、ようやく倒れた。死んだかな?』

 

 俺が叩き潰してきた連中と同じように、俺は扱われている。この女によって。

 俺はようやく……そう、ようやく飢えを満たすだけの存在が現れたと歓喜し、その存在に挑むべく身体に力を込めようとした。

 

 ……だがとうに俺の肉体は限界を迎えていた。血を流しすぎた。筋肉や骨の多くが断ち切られた。毒にも侵されている。どうにか命を保っているが、戦う力はもう残っていない。

 

『っと、まだ生きてるじゃん。それじゃとどめっと』

 

『……っ……』

 

 奴は俺を見ない。何の感情も抱いていない。

 それだけならまだしも、この俺に力が残っていない。それが何よりも口惜しかった。せっかくこの俺に傷を付ける存在が現れたというのに、俺の命はここまでなのかと。

 

『──アーヤ姉、《赤い星座》が近くにいる。もう離れた方がいいかも』

 

『え!? ほんと!? ならすぐに逃げないと!! 《赤い星座》はヤバいからね!』

 

『まあこの惨状を作り上げたアーヤ姉の方がヤバいと思うけどね……』

 

 ──俺の命の終わりを感じたその刹那……奴は突如現れた小娘の言葉を受けて焦ったようにその場から即座に逃走を決める。

 そうして謎の影に消えていった奴は、俺のことなど既に忘れていた。もう放置しても死ぬと思ったのだろう。わざわざトドメを刺す価値もないと断じたか。事実、毒が回ってやがて俺は死んでいた。

 

『ガウラン殿……!』

 

『っ……』

 

 ──だが俺は、奇跡的に助かった。直後、ライ家の凶手。俺の部下がやってきて辛うじて生きている俺を見つけ出して治療を施した。

 それから更に《黒月》お抱えの医者に治療され……何日も生死の境を彷徨いながらも……俺は何とか生き延びた。西から流れてきたとっておきの秘薬が効いたらしい。

 

『フフ……ハハハ……! これで、また……!』

 

 そうして生き延びた俺には、1つの目的ができた。

 いつかあの女を──《切り裂き魔》アーヤ・サイードを“糧”とする。

 俺の飢えを満たす可能性を持つあの女を喰らう。

 そのために俺は力をまた得る。拳を鍛える。

 俺は生き延びたのだ。ならばまだ戦える。何度でも、何度でもだ──次は殺されない。無様は晒さない。奴を超えるその時まで俺は牙を研ぎ続ける。あの日俺は、そう誓ったのだ。

 

「はぁ~肉まん美味しかった~! 次は何食べよっかな~!」

 

「……!! 貴様、は……!」

 

「へ? どちら様…………って……」

 

 ──それから5年後。俺は偶然、奴と鉢合わせることになる。

 

「え、えーっと……」

 

「──この俺をかつてゴミのように蹂躙した女……アーヤ・サイード」

 

「えっ?」

 

 久し振りに見たアーヤ・サイードは以前よりもおそらく強くなっている。気配を隠していて正確な強さは見抜けないが、その俺の目すら曇らせる隠形こそ奴の強さ。その何よりの証拠だ。

 

「クク……この時を待ちわびたぞ」

 

「いやあのぉ……人違いじゃないですか? 私はこの通り、ただのお洒落な褐色美少女で……」

 

「惚けるつもりか? それとも俺の気を忘れたか? ならば思い出させてやろう──」

 

 そうして右腕に入れ墨を入れた東方風の武侠者は、その上着を脱ぎ捨てて私にそれを見せつけた。

 

「俺は忘れてはいない……! 5年前……この俺の身体に7つの傷を刻んだ貴様のことを……!!」

 

「い、いやだから私は知らなくてぇ……傷跡のことは気の毒だけど……」

 

「勘違いするな。傷のことを責めている訳でも恨みを抱いている訳でもない」

 

「え? そうなの?」

 

「ああ。むしろ俺が貴様に抱く感情は歓びだ……!! この俺の渇きを……!! 飢えを……!! 満たすことの出来る貴様との戦いを俺はずっと欲してきた!!」

 

「そういう感じ!? と、とにかくもう喋ってる暇もないのでそろそろ──」

 

「これ以上の問答は不要か。良かろう。ライ家暗部が筆頭にして《月華流》奥義皆伝者、ガウラン──さあ、存分に死合うとしようか……!!」

 

「戦う暇もないって言ってるんですけどー!? 危なっ!?」

 

 故に俺は挑むことにした。全ての事柄を無視して奴を狙う。もはや《アルマータ》など全く目にも入らなかった。逃げても無駄だ……! この煌都にいる限り、俺は何度でも貴様を挑み続けるぞ……! 

 

 

 

 

 

 ──はぁぁぁぁぁ……どうも……アーヤ・サイードです……今は七耀暦1208年9月20日……煌都ラングポートに出張に来てます……表の仕事じゃなくて裏の仕事で……《アルマータ》を殲滅するために《黒月》と契約したので……。

 

 それなのに……。

 

「クク……ハハハ──!! そう、これだ!! この不気味な程の気配の読めなさ!! 非情なる殺しの技!! 俺の拳を受けても砕けぬ肉体!! 全てがあの時感じた……この俺の飢えを満たすに相応しいものだ!!」

 

「うるさいうるさいうるさ────い!! もう追いかけてくるなー!! 《黒月》とは話がついてるって言ってるでしょうがー!!」

 

「そんなものは関係ない!! この俺と死合え!! 俺が満足したら解放してやろう!!」

 

「私は忙しいのっ!! だからもう帰れー!! “グリムシザー”!!」

 

 ──なぁーんで私はガウランと戦ってるんですかね……。

 

 私はガウランの拳を何とか避けて反撃しながら思う。しかもこれ5回目なんですけど……何回逃げても追いかけてくる……ストーカーすぎるって……運が悪いことに私が街を歩いてると偶然鉢合わせちゃって……周囲にバレないように戦うのも気を使うんだからやめてほしい……。

 もういっそのことやっちゃおうかと思いもするけどこんなストーカーでも一応《黒月》に筆頭拳士だし……ぐぬぬ……ダルすぎる……いい加減疲れた……これがシズナちゃんみたいな美少女なら百歩譲って耐えるけど大して縁のない戦闘狂に絡まれても全然嬉しくない……。

 

 というかこいつ!! 今思い出したけどよくよく考えたらあのツァオの実の弟じゃん!! 本当の名前は忘れたけど!! さすがは鬼畜眼鏡の弟なだけはあって私を悩ませてくれる……!! こうなったら──。

 

「アリオッチー!! 代わりにこいつの相手してー!!」

 

「──仕方ねぇな」

 

「む……! 貴様は……」

 

 私は高層ビルの屋上に着地したところで近くに待機していたステルス状態の頼れる部下──《庭園》の管理人の1人、《鏖殺》のアリオッチを呼ぶ。

 するとちゃんとガウランの攻撃を弾いてくれた。さすがはアリオッチ! 強い! 硬い! 庭園の管理人の中でも純粋な強さは随一だし、おまけに不死身だから死ぬ心配もない! やっぱ管理人を2人も連れて来といて良かった! 

 

「悪いがボスの命令なんでな。退かねえなら死んでもらうが構わねえよな?」

 

「……誰かは知らんが俺の邪魔をするなら貴様こそ塵になってもらうぞ」

 

「ハハ、活きがいいじゃねぇか。そんじゃあまあ、軽く殺し合いといくか」

 

「フン……いいだろう。《切り裂き魔》程じゃないが……貴様も中々喰いがいがありそうだ──!」

 

 おお! 戦いが始まった! いいね! やっぱ戦闘狂の相手は戦闘狂に任せるに限るよね! 私に今まで足りないのは仲間だった……? 代わりに相手にしてくれる人がいたらそりゃ回避できるよね。よしよし、任せたよアリオッチ! 今のうちに私は隠れるよ! はぁ……さすがに疲れた……一旦私のお店に戻ろっと……そしてもう1人の仲間と合流しよう。

 

「ただいまー」

 

「……予定していた時刻より48分55秒の遅れです。何かありましたか?」

 

「いやーちょっとたちの悪いストーカーに絡まれちゃって……とりあえずアリオッチに任せて逃げ出してきたんだよねー」

 

「──なるほど。あなたがそれだけ手こずる相手、というわけですか。それも逃げ出してきたということは《アルマータ》でもない別の勢力の強者のようですね」

 

「あはは……さすがオランピアちゃん。よく分かったね」

 

「この程度の推理は当然だと思いますが」

 

 ……と、そんなわけで私が煌都の新市街にある自分のお店の裏で合流したのはこちらも庭園の管理人の1人《(アウルム)》のオランピアちゃんだ。今回、煌都でアルマータをボコボコにしつつ《黒月》との契約を果たすにあたって動くのがアリオッチとオランピアちゃんの2人ってことだね。私はあんまり表に出たくないし、アーロンくんをどうこうするのはさすがに気まずいから2人に任せようと思ってる。押し付けてごめん……でも私が出てくとよりややこしいことになりそうなのとアルマータを殺すのは私の役目だからそっちよりはマシかなと思って……。

 

 なので割り切ってやっていこう。朝からガウランと戦いまくって疲れたけど頑張ろう。

 

「ま、それはともかく……何か進展あった?」

 

「《アルマータ》の幹部、構成員の姿は未だ見えません。ですがその息がかかった半グレが市内で活動しているようです」

 

「また半グレかー。好きだねー半グレ使うの。確かに対処が難しいけどさ」

 

「どうしますか? 始末するならいつでも可能ですが」

 

「いやぁさすがに半グレ相手はちょっとねー。まあ半殺しならいいかもしれないけど……半グレだけにね!」

 

「……それは半殺しにして情報を聞き出せという意味で?」

 

「…………うーん……気は進まないなぁ。それにそれで聞き出せるならいいけど聞き出せないならやっても意味ないし……」

 

「なら意味があると判断したなら実行しても構わないと」

 

「意味ないんじゃない? 半グレが何か知ってそうだと思ったら聞きに行く感じで。今は動きも少ないし放置かなー」

 

「了解しました。アリオッチが戻ってきたら彼にも伝えておきます」

 

「お願いねー。それじゃ私は初めて行く飲食店で常連っぽく注文して店員に困惑されたら『あっ、ごめんなさい……そうですよね……この店は、もう以前とは……』って意味深に呟く遊びしてくる」

 

「……なぜそんな意味のない遊びをするのですか?」

 

「こうするとちょっと店員が優しくなるかもしれない」

 

「頭のおかしい人を見る目で見られるだけでは?」

 

「そうなんだよね。だから逆パターンの常連の店で初見っぽく振る舞う遊びだけにしといた方がいいよ」

 

「いいよ、と言われても私はやりません。それと既にその無駄な遊びを実行していることに驚きました」

 

「前にモンマルトでそれやったらおやっさんに記憶喪失疑われて一瞬すごい心配されたけどすぐに冗談だとわかったから怒られたよ」

 

「モンマルトのおやっさんという人物はゼムリア屈指の優しさを持つ人間だと記憶しておきます。それで結局このあとの予定は? できれば正確にお願いします」

 

「とりあえず昼食食べたら例の件について依頼を出して美術家やってる友達の個展に顔出しておめでとうついでにインスピレーションを得たら軽くデザイン描きながら海で釣りして満足したら病院で闘病生活してる私のファンの子供から手紙を貰ってたからその子に会いに行ってとっておきの私服を退院したら着てねってプレゼントしてそれが終わったら銀行に行ってこの間見かけた経営が上手くいってない孤児院にお金振り込んでそれも終わったらこっちに住んでる最近失恋して心細くなってる友達と待ち合わせしてカラオケとかクラブかカジノで適当に遊んで元気付ける予定だよ」

 

「──そうですか。では何かあれば連絡致します」

 

「はーい。いってきまーす」

 

「行ってらっしゃいませ」

 

 私は今日の予定をオランピアちゃんに伝えてから自分のお店を出る。今日は裏の仕事が控えてるのもあって表の仕事はそんなにないオフ日だからね。やりたいことやっていっぱい遊ばなきゃ。昼ご飯何食べようかなー。せっかくだし煌都らしいものがいいよね。煌都は《黒月》の息がかかったお店が多いけど和解したし平気でしょ。適当な煌都料理店に入って注文しよっと。ここでいいかな──

 

「すみませーん。小籠包と麻婆豆腐に青椒肉絲。それと──」

 

「──いいだろう。その料理が喰いたくばまずはこの俺を倒してみるがいい」

 

「へ?」

 

 ──私はメニューから顔を上げて店員さんの顔を見る。するとそこには、刺青の入ったゴツい腕を組んで仁王立ちしてる店員に扮したガウランの姿があった。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 私の時が止まる。真顔になってしばらく何も言えなかった。

 だけどややあって私は口にした。ツッコミを。

 

「なんでここにいるの!?」

 

「俺の目的は貴様と戦うことだ。貴様がいる場所に俺がいることは自然なこと。何もおかしくはない」

 

「いやおかしいよ!! 何で店員なの!?」

 

「ここは《黒月》の運営している店。多少の無理は効く。店主に伝えて先回りしたまでだ」

 

「──アリオッチー! こいつなんとかしてー!」

 

 ──私は助けを呼んでその場から逃走する。すぐにガウランも追いかけてきたけど路地裏に入ったところでアリオッチも来てくれたので何とか逃走できた。もう気配消そう……そして昼ご飯は《黒月》の息がかかった店じゃなくて私の会社がやってる店に行こう。もう《餃子の皇帝》でいいかな。普通に美味しいし。よーし、到着。ランチタイムだし人も多いけど入れそうだね。とりあえず定番の皇帝定食でいいかな……って、あれ? なんか事務所の方が騒がしいような……何かあったのかな? ちょっと覗いてみよ……ん、なんか面接中──

 

「そ、それではまず自己紹介をお願いします」

 

「ライ家暗部筆頭のガウランだ」

 

「ら、ライ家の暗部……? その、なら次はあなたの長所を教えてくださいますか……?」

 

「俺の取り柄はこの拳のみ」

 

「……え、えっと……そうですか。ならあなたの志望動機は……?」

 

「──知れたこと。アーヤ・サイード……貴様らの会長を屠るためだ」

 

「────」

 

 声にならない声を発する。事務所の方には社員の人が面接をしていた。そして対面している面接希望者はガウランだった。いやなんで来てるの? なんで面接受けてるの? 店員になりたいの? 餃子焼きたいの? 馬鹿なの? 私は色んな思いを込めて叫ぶ。

 

「って、なんでやねーん!!」

 

「む……来たか、アーヤ・サイード……!! 運がいい……!」

 

「なんで面接してるの!? いや、そもそもどうやって先回りしてるの!?」

 

「今回は予想していたわけではない。店員として潜入すれば貴様の居場所もいずれは捕捉できると思ったまでだ」

 

「いやバイトくらいじゃ無理でしょ!?」

 

「クク……貴様と戦うためなら店長クラスにまで上り詰めることも一興だ。この俺の執念を舐めるなよ……!」

 

「どんだけ気の長い計画!? 馬鹿なの!? 助けてアリオッチー!」

 

 私はまたアリオッチを呼んで逃げる。ガウランってあんな天然大ボケキャラだったっけ!? この私がツッコミに回らざるを得ないなんて……! 身に覚えがないけど死にかけたって話だし、その時に頭おかしくなったの!? 

 

「アリオッチ! あの人どうなってるの!?」

 

「気合いの入った野郎だな。程々にやり合って満足したと思ったんだが……ここまで追いかけてくるなんてよ。もうボスが相手した方がいいんじゃねぇか?」

 

「やだ! 私には予定があるの!」

 

「しゃーねぇな。そんじゃ次はもう少し本気でやり合うとすっか」

 

「ありがと! 人に見つからないようにね!」

 

 アリオッチにガウランのことを再び頼んで私はその場を離れる。昼ご飯は点心買って食べた。本当に予定が色々あって忙しいんだからついてこないでほしい。

 それに人にバレないように注意してるとはいえもう煌都にはヴァンたちにアルマータの連中もいるだろうからあんまり目立ちたくないんだよね。いや本当に。《黒月》との契約がなければここでヴァンたちに協力してついでに裏解決屋にご挨拶も考えたんだけど今回はちょっときな臭いので……顔は合わせたくない。なので大人しくやることをこなそう。まずは友達の個展に──

 

「どこだ……どこにいる……?」

 

 ──なんかまた私の行き先でガウランが私を探し回ってた。勘が良すぎる! もうイヤー! うわーん!! 

 

 

 

 

 

 ──色々あってわたしは勘当されました。

 

 それはアイーダさんのためとはいえ勝手な判断で行動したことによるものです。お父さんからそう言われました。

 だけどわたしは後悔していません。アイーダさんを助けることができましたし、色んな経験を積むことができますから。

 

 そう、わたしは団を出て裏解決屋でバイトすることになりました。

 首都イーディス。共和国の首都でものすごく大きな街です。大きすぎて未だに地形や重要施設の場所がよくわかりません……ヴァンさんからは早めに覚えないと裏解決屋の業務に支障をきたすと言われてるので今は頑張って覚えようとしているところです。

 わたしはまだ未熟で勉強しなきゃいけないことが沢山あります。6区にある中東式の寺院で日曜学校にも通っていますが、座学はやっぱり難しいです。たまにアニエスさんに教えてもらってますが、アニエスさんはすごく勉強ができるので尊敬しています。なんでもアラミス高等学校という名門校に通っているんですよね。さすがです! 

 

 あっ、それとアラミスといえばそこの卒業生がたまに6区の寺院にたまにやってくるそうです。なんでも中東系の女の人で子供たちの支援をしてるすごい人なんだとか。他の子供たちに教えてもらいました。なので会うのが楽しみです! 

 

 ──それはさておき、わたしたちは今、煌都という場所に出張に来ています。

 

 ヴァンさんが以前から知り合いだという《黒月》……マフィアの方から依頼を受けたのでわたしとアニエスさんも一緒に付いていくことにしました。

 近頃煌都では《アルマータ》が動いているらしく、《黒月》とも抗争になりかねない状態。なのでそれを止めるために。そしてアニエスさんのゲネシスの手がかりもあるかもしれないみたいなのでそれもできれば回収するために。

 

 その依頼を受けたのが昨日の話で、その翌日の今日には煌都にやってきました。

 わたしたちは東方人街に宿を取ってから“4spg”をこなしていくことになったんですが、やっぱり普通の依頼はあまりありません──たとえばこんな依頼がありました。

 

 ・転売屋を懲らしめてほしい!!!! 

 謎の転売屋を詐欺罪と転売罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね? 転売屋が店員をウラ技で騙し、本当に欲しい人の気持ちを破壊したからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。裏解決屋にも頼みます。裏解決屋は《バーガーエンペラー》新市街店に来てください! 転売屋は慰謝料の準備もしておいて下さい! 転売屋は犯罪者です! 刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい! いいですね! 

 ──A.S.

 

「──よし、イタズラだな。これは捨てよう」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「確かによくわからない文章ですけど……転売屋というのは気になりませんか?」

 

「気にならねぇ。この依頼は関わると碌なことにならない。早く別の依頼を済ませるぞ」

 

「ええっ!? そんなまくし立ててバッサリと……」

 

「えっと……いいんですか……?」

 

「……マジで受けたくねぇ……」

 

「そんなに……?」

 

「何かあるんですか?」

 

「……ちょっとな。……………………」

 

「ヴァンさん?」

 

「はぁぁぁぁ~~~~~……仕方ねぇ。時間があればそっちにも寄るぞ。気は全く進まねぇが……」

 

「も、もの凄く深いため息……」

 

「ヴァンさんの息吹がすごく沈んでます……」

 

「つーかあいつこっちに来てんのかよ……いや、まだそうと決まったわけじゃねぇ……大抵は代理人……あいつの秘書か誰かが代わりに……それならまだ……」

 

 ──と、なんだか特徴的というか個性的すぎる依頼の文面を見たヴァンさんは真っ先にそれをゴミ箱に捨てようとしていました。そして少ししてから肩を落とし、深いため息を吐きながら依頼を受けることを決めていました。その後もブツブツ小声で呟いていましたが……この依頼に一体何が……アニエスさんと一緒に首を傾げます。確かに変な言い回しですし、依頼者の名前もイニシャルなのが気になりますが……。

 

 ただ困っていることは確かみたいですし、私たちはすぐに話を聞きに指定の場所へと向かいました。

 するとそこには赤い髪の女性のコックの方がいて。

 

「……あんたが依頼人か?」

 

「! ああ、そうだよ……って、あんたは……ヴァン?」

 

「お前か。……良かったぜ……あんたが依頼人で間違いねぇな?」

 

「ああ。ちょっと困っててね。忙しいから掲示板に貼るのはあいつに任せたけどちゃんと届いて良かったよ」

 

「そうか……ってことはあいつもこっちに来てるのか?」

 

「来てるけど忙しいからすぐにどっかに行くって言ってたよ。明後日には首都で仕事があるって言ってたしもう煌都からは離れるんじゃないか?」

 

「それは良いことを聞いた」

 

「ヴァンさん、お知り合いですか?」

 

「まあちょっとな」

 

「あれ……もしかして貴女は……アデーレ・ブランシェットさんですか?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「やっぱり……」

 

「? 有名な人ですか?」

 

「共和国の料理界ですごく有名な人です。雑誌にもよく載っていて……近年、流行の飲食店を幾つも開いていて、それでいて本人が料理長を務めるお店も三つ星が付けられるくらいには評判のお店なんです。私も一度だけですが家族で食べに行ったことがあって……すごく美味しかったです」

 

「……ま、あたしの料理だから当然だね」

 

「なるほど……すごい人なんですね!」

 

「ヴァンさん、お知り合いだったんですね」

 

「ああ。そこまで深い知り合いでもねぇが。……さて、それじゃ早速詳しい話を聞かせてくれ」

 

 そしてその依頼人はどうやらかなりすごい料理人でヴァンさんの知り合いみたいでした。なんだか共通の知り合いがいるみたいでちょっとわたしには分からない会話もしていましたけど、その話は深堀りしないみたいです。わたしたちはすぐに依頼の話に移りました。

 

「依頼内容だけど……これ見て」

 

「これは……全部《バーガーエンペラー》の……?」

 

「セットメニューだな。だが全部残されてるのは……」

 

「ああ。おまけだけ全部抜かれちまってるんだ。悪質な転売屋にな」

 

「転売屋……そのおまけを他所で売ってるということですか?」

 

「そ。期間限定セットで《ファンモン》とコラボしておまけを付けたんだけど、想定以上の人気があってね。おまけのオモチャだけを買い占めて導力ネットで売り捌く奴が出てきてんのよ。おかげで本当に欲しい人が買えなくなってるし……何より、このあたしが開発した料理のセットをこんなにも捨てて……! それが許せないのよ!」

 

「確かに酷いですね……」

 

「食べ物を粗末にするのはよくないですっ!」

 

「成程な……それで警察や遊撃士にも相談出来ないのか」

 

「そうよ! 死ぬほど迷惑だけど法を犯してるわけじゃないし、民間人の安全が脅かされてるわけでもない。捕まえたところで罪に問えない。それがムカつくのよ!」

 

「……話はわかった。なら……」

 

 ──と、いうことでした。依頼の概要を聞いて少し考え、その上で依頼を受けるとヴァンさんが返事をしたのでわたしたちは更に詳しい話をアデーレさんという方から聞きました。

 それによると転売屋は複数人。1人に付き3セットまでと購入制限をつけてはいるものの、忙しい上に人を変えて何度もやってくるから分からない。捕まえてやめさせてほしいとのことでした。

 

 なのでわたしたちは店員さんから順に聞き込みを行い、店舗で見張って転売屋らしき人を追いかけて捕まえることにしました。人の顔を覚えてそれを尾行する任務でしたけど……何とか転売屋らしき人を見つけて尾行を成功させ、転売屋グループの元に辿り着きました。

 

 そして逆上して襲いかかってきたのを返り討ちにしました。なんてことないただの半グレでしたけど……ただ問題はどうやって転売をやめさせるかです。

 

「どうするか……」

 

 こういう時、大体ヴァンさんはやり方を考えた上で結論を出しています。

 裏解決屋独自の落とし前の付け方と言うんでしょうか。犯罪者の扱い1つ取っても警察に突き出すだけじゃなく色んな方法を考慮してその中で1番良い方法を選択する。それが裏解決屋に必要な能力だそうです! 

 なのでわたしも考えてみました。こういう時にどうすればいいか。わたしの考えは──

 

 ・転売ではなく別の罪で訴える (LAW+)

 ・黒月に事情を話して付き出す(GRAY+)

 ・不思議な薬を飲んだ転売屋は改心してサバールダンスを踊りながらカニ漁をする名物カニ漁師になりたいと言い出す(CHAOS++++)←超オススメ! 

 

「不思議な薬を飲んだ転売屋は改心してサバールダンスを踊りながらカニ漁をする名物カニ漁師になりたいと言い出す……」

 

「は? フェリお前……急に何を意味不明なこと言い出してんだ?」

 

「えっと……どういう意味ですか、フェリちゃん?」

 

「? あ、ごめんなさい。どうしたらいいかと思って目の前に落ちてきた紙を読んだら……あれ? なんでしょうこの紙……?」

 

 気がついたらわたしは目の前に降ってきた紙に書いてあった文面を声に出して読んでいました。あ、よく見たら続きもあります。……『カニが好きで好きでたまらなくなってサバールダンスを極めたくて仕方なくなる薬は《バーガーエンペラー》で貰ってね。合言葉はシャトーブリアンバーガー、弱火でじっくり、だよ!』……? 意味がわかりません。どういうことでしょう……ってヴァンさん? 

 

「何をやってんだあいつは……」

 

「誰かが落としていった……? でもそんな気配はどこにも……」

 

「カニ漁は分かりますけど……サバールダンスってなんですか?」

 

「……確か大陸中東部南方の一部地域の伝統的な踊りで世界一難しいとされるダンスだな……腰の動きが重要でかなり激しい踊りだってことで知られてるな(あいつは肌の色的にも調べた情報でも出身は中東でも北東部の砂漠地帯出身だろうが……なんであんなマイナーなダンス知ってんだよ……いや中東出身でもねぇのに知ってる俺が言うのもなんだが……)」

 

「へぇ……」

 

「わたし知ってます! あの激しい踊りを荒れ狂う波の上で揺られる船上で漁をしながら踊るなんて……とてもじゃないですけど不可能ですっ!」

 

「な、なるほど……よくわかりませんがすごそうですね」

 

「(……中東じゃ意外と有名なのか?)くっ……とにかく無視だ無視。意味不明にもほどがあんだろ。こんなやり方、選ぶわけが──(……いや、待てよ?)」

 

「ヴァンさん?」

 

「……(こいつらは半グレだ。転売以外の罪で訴えて落とし前を付けさせるのも手だがそれでも大した罪に問われるわけじゃない。黒月に付き出したところで同じ。確実に転売をやめるとは限らないだろう。それにこれも実質依頼主からの意向だ。手段は怪しいが確実に転売をやめさせられるだろう。それにそれだけの薬なら上手くやれば……)──よし、薬を受け取りに行くぞ」

 

「え……いいんですか? さすがにちょっと怪しい気が……」

 

「俺もそう思うが……多分、大丈夫だろ。薬といっても致死性のあるものじゃねぇ……筈だ。まあ保証もねぇが……この紙の通り、一生船の上でサバールダンスを踊る名物カニ漁師になるだけで済むはずだ」

 

「い、一生サバールダンスを踊るカニ漁師!?」

 

「馬鹿な……お前ら、俺たちにどんな薬を飲ませようとしてんだ!?」

 

「や、やめろ! 頼む! 転売はすぐにやめる! その訳のわからない効果……多分噂のアレなんだろ!? そんなものを俺たちに飲ませないでくれ!」

 

「噂のアレ……?」

 

 ヴァンさんがそう言うと半グレの人たちは全員慌てふためきました。噂のアレ、というのはわかりませんけど、どうやら相当の代物みたいです。ちょっと怪しいというか気になりますけど……この息吹は確かに悪しきものを感じません。なので毒ではなく本当に薬なんでしょうけど……。

 

「つってもお前らが転売をやめるという保証はねぇしな。怪しい薬だろうが何だろうがやめさせるには手段は選んじゃいられねぇだろ」

 

「わ、わかった……! なら今すぐ自首する! 他の余罪……詐欺でも何でも自白して捕まるから許してくれ!」

 

「……本当か? それが嘘だった場合、刑務所にいようがシャバに出ようがどこでも飲ませにいくが」

 

「嘘じゃねぇよ!」

 

「なら警察まで付いてきてくれ! そこで自首するから!」

 

「……ま、そこまで言うなら見届けてやるよ。ほら、行くぞ」

 

「あ、ああ……!」

 

 ……どうやら上手くいったみたいです。怪しい薬を脅しに使って転売屋の半グレを自首させることに成功しました! 

 わたしたちは半グレが自主的に警察署まで行って罪を白状するのを見届けました。あとは依頼主に依頼達成を報告するだけですね! 

 

「……………………」

 

「……?」

 

「? どうしたフェリ?」

 

「あ、いえ、何でもないです! 行きましょう!」

 

 ただ一瞬、警察署から出ていく時に変わった息吹を感じました。誰かと……わたしと同じくらいの年頃の煌都風のドレスを身につけた少女とすれ違いましたけど、彼女の息吹でしょうか? すごく静かで冷たい息吹を感じましたけど……。

 

 でもだからといって今回の件とは関係ないでしょうし、少し変わった息吹を感じるからと毎回呼び止めたり聞いてみたりすることはないです。

 なのでわたしたちはアデーレさんに依頼完了を伝え、報酬にお金とその期間限定セットを人数分頂きました。依頼完了ですね! 

 

 ──と、その依頼も含めて煌都を見て回り、メッセルダム商事という会社の入ってる建物を調べた後、わたしたちは湾港区の露店を調べにいきました。

 

 そうして話を聞きましたがなんでもその露天商の人はアニエスさんの探してるゲネシスを少し前までは取り扱っていたそうです。

 ただそのゲネシスは半グレに強制的に買われてしまったと──そこまで聞いたところでその半グレの人たちがわたしたちに声をかけてきました。

 

 向こうもわたしたちが狙いのようで武器を取り出してきたので、わたしたちは彼らを無力化、殲滅しました。もちろん殺してはいません。ちんちくりんと言われたので少し強めに攻撃はしましたけど。

 

 ただ辛うじて力は残っていたようで、まだ抵抗を続けるつもりのようでしたが──

 

「──オイオイ、まだこの街からケツまくって逃げてなかったのかよ?」

 

 ──そんな時でした。あのアシェンさんに聞いた《羅州の小覇王》や《煌都の麒麟児》と呼ばれるアーロン・ウェイさんが建物の屋上から、そしてそこから飛び降りて半グレたちを味方と共に成敗してみせました。

 

 それで一件落着かと思われましたが……彼はわたしたちにいきなり斬り掛かってきました! 

 

 わたしはそれを何とか受け止めます。くっ……疾いし鋭い……! 悔しいですがわたしよりも少し上の実力を持ってるみたいです……! 

 

 なのでそのアーロンさんの相手はヴァンさんに任せることになりました。そのまま2人は一対一で戦いを始め……その実力は伯仲しているようで中々決着が付きません。

 ギャラリーだけでなく戦いもどんどんヒートアップしていって……そして次の一撃で決まるかもしれない。そんな気の高まりを感じたその時。

 

「いい加減にしなさい──!」

 

 ──2人の剣が宙に舞いました。

 

 それを成したのは遊撃士の中でも有名な……ヴァンさんとは昔からのお知り合いだと言う《剣の乙女》エレイン・オークレールさんでした。

 エレインさんはヴァンさんとアーロンさんに注意を行い、半グレの人たちにも牽制して場を収めました。それからわたしたちはエレインさんの行きつけの煌都料理のお店に行って、そこでご馳走してもらいながら情報交換も含めた話をしました。

 

 そして夕食後はエレインさんと別れて宿に帰り、今日はもう業務終了……の筈だったんですが。

 しばらくしてヴァンさんが1人で抜け出してることに気づき、わたしはアニエスさんと一緒にヴァンさんを探しに出かけました。

 更にエレインさんとも偶然顔を合わせたので一緒にヴァンさんを探したところ……ヴァンさんは先程戦った筈のアーロンさんと一緒にいて、しかも一緒に行動していたようでした。むむ……仲間外れは許せません。

 

 でも一先ず何事もなかったようで良かったと安心したその時──。

 

「え……」

 

 ──アニエスさんの身につけていたゲネシスが光り輝きました。

 

 それとほぼ同時に東方人街の方で霧……靄がかかったのでわたしたちは嫌な予感を感じて東方人街に走って行きました。

 

 真っ先に向かっていったアーロンさん。そして少し遅れて走っていったヴァンさんとエレインさんにアニエスさんと一緒に追いつくと、そこには人形兵器に猟兵も使う戦闘用魔獣がいて何かが起こっているのは間違いないようです。

 それらを連携して無力化して……それから霧が晴れます。

 何やら十数名の集団が戦域を離脱したようでしたけど……それよりも先に状況を把握するためにわたしたちは東方人街の表通りに足を踏み入れて、そこで──。

 

「……こ、これって……」

 

「っ……戦場でもこんな……」

 

 ──わたしたちは、凄惨な死体が散乱する現場を見ました。

 

 死体の数も1人や2人だけではなく、それでいて死体の状態も酷いものでした。死体は酷く損傷していて辺りは血塗れで肉や身体の部位が散らばっていて……普通に殺すだけじゃ絶対にこうはなりません。

 

「……ゆるさねぇゆるさねぇゆるさねぇゆるさねぇ──」

 

 そして……仲間だった彼らの死体を見たアーロンさんは強い怒りの息吹を滾らせていて。

 獣のような雄叫びをあげてその感情を剥き出しにしました。

 

「赦さねえ! 絶対に、赦さねぇぞおおおおおお!!!!」

 

 その場に《黒月》や昼間に会った情報屋のジャックさんとハルさん。エレインさん以外の遊撃士の方々もやってきて……誰もが痛ましい表情を浮かべていた──。

 

「──大変痛ましい状況ですね」

 

「っ!? 誰だ!!?」

 

 ──そんな時。屋根の上から女の人の声が聞こえ、わたしたちは揃ってそれに反応します。

 アーロンさんは特に、声を荒げて血走った目でそちらを向きました。

 

「女……だと……?」

 

「……? 見ての通りですがそれが何か?」

 

「っ……てめぇか……? テメェがやりやがったのか──!!?」

 

 この状況で突然声をかけてくる謎の人物……それが怪しくない筈がないからです。アーロンさんがそう叫ぶのも無理ありません。その白い装束を身にまとった女の人からは、とても冷たい息吹を感じたから。

 遊撃士や黒月の人たちも警戒します。当然、わたしたちも。だけど……。

 

「私ではありません。むしろ、私は彼らを微力ながら助けた方に当たります」

 

「フザけたこと言ってんじゃねぇ!! ならテメェは一体何を──」

 

「アー……ロン……」

 

「!! セイ!?」

 

 その女の人がアーロンさんの質問を否定した直後、凄惨な死体の中から掠れた声が漏れました。

 それは何とか辛うじて、まだ息がある人が出した声です。アーロンさんはすぐに駆け寄って無事を確かめようとします。その間に女の人も説明を続けて。

 

「証人は彼らです。セイとホアン。それにシドと言いましたか。彼ら3人はまだ息がありますので治療した後で確かめるとよいでしょう」

 

「アー……ロ、ン……俺、は……俺、たち……は……」

 

「ああ、わかった! わかったから喋るんじゃねえ!! 今すぐ医者のとこに連れてってやる!」

 

「残念ながら追跡を優先したため、他の方を救うことは叶いませんでしたが……失礼。どうやらそちらの方は話を聞く余裕はないようですね。では代わりに──そちらの御老人。《黒月》の長老の1人に提案します」

 

 その女の人の言う通り、辛うじて生きている3人にアーロンさん。それと遊撃士の方々は駆け寄り、すぐに応急処置をしながら慌ただしく動き始めました。今にも命の灯火が消えそうな中、早く適切な治療をしなければ手遅れになります。

 ですのでその場で動かず話を聞いていたのはヴァンさんに情報屋のジャックさんたち。それと名指しされた《黒月》と……その中心にいる下働きのお爺さんです。

 

「……ふむ、どうやら尋常ならざる使い手のようだが……答えてもらおう。貴様は何者だ? それに提案というのは……」

 

「もちろんお答えします」

 

「! あれは……!」

 

「……天使……?」

 

 そしてわたしは……闇夜に浮かぶ白い天使を目にしました。

 思わずそう呟きます。その女の人はその天使に乗って移動し、地上に降り立つと《黒月》に向かって一礼します。

 

「《庭園(ガーデン)》の1つ、《金の庭園(アウルムガーデン)》の管理人、オランピア。こちらは《イシュタンティ》」

 

 オランピアと名乗ったその人は、聞き馴染みのない所属を明らかにして無機質な表情で更に告げます。そして──

 

「どうやらかの《アルマータ》に狙われてお困りのご様子。ですので同じく()()()()()()()()()()()──彼らの暗殺を、私共にご用命くださいませんか?

 

 ──その言葉を最後に、謎の天使とオランピアという人は《黒月》の人たちと共にその場を立ち去っていってしまいました。

 

 

 

 

 

 そして翌朝には《黒月》が《庭園》という人たちを雇ったということを長老であるギエン・ルウさんに伝えられて──

 

「──悪いがこっちは正式に《黒月》から鏖にするよう頼まれててなァ。文句があんならそっちに言ってくれや」

 

「《アルマータ》()()()()()()()()()()()()()()。次に幹部2名の暗殺に移ります。裏解決屋の方々はくれぐれも巻き添えにならぬよう、どうかお引き取りください」

 

「こ、の……クソ野郎共が……!!」

 

 ──その日の午後、わたしたちは新たに半グレの死体が散乱する現場を目の当たりにすることになります……《庭園》という謎の組織──その2人の管理人を前にしながら。

 

 

 

 

 

 ──ふぅ……どうも、《庭園の主》のアーヤ・サイードです。間に合って良かったー! 日中は元々の用事やヴァンが4spgこなすのを見届けてから適当に過ごして夜になったら予め幹部が来る可能性の高い黒龍城砦で待ち構えてたけどよくよく考えたらこのまま放置してたらアーロンくんのお友達が死んじゃうじゃんと思って命令しといて良かったよ。セイとシドとホアンってなんか名前が覚えやすいせいか覚えてたんだよね! だからオランピアちゃんに「セイとシドとホアンだったかな? その名前の人たちが死にそうになってたら助けといて!」って指示を出しといた。だから多分みんな助かってるよね? 《黒月》側に犠牲が出てから動くって話だったけど命は助かってもそれなりに被害は出てるだろうし問題ないでしょ。ちょっと戻って確認しよっと。

 

 ──アーヤちゃん確認中……。

 

 うわあああああああ!!? アーロンくんごめ────ん!!? そうだよね、友人って3人だけじゃないよねそりゃそうだよね!? でも私3人しか名前覚えてなくてオランピアちゃんもその3人だけ助ければいいって勘違いしててその不幸な行き違いもあって3人以外はみんな死んじゃってたよ!! そもそも犠牲を許容した《黒月》とやりやがった《アルマータ》が悪いけど助けられなかった私たちも悪いよねほんとごめーん!! 責任取って私たちがちゃんと《アルマータ》殲滅するから!! でも《大君》は復活させないといけないんだよね!? いやもうほんとごめん!! 先に謝っとく!! 次はこうならないようもっと徹底的にやるから! 今までは放置でいいと思ってたけどこんなことになるぐらいならもう半グレもちゃんと()()()!! だって教団と変わらないぐらい罪深いし!! 放置してたらまた被害が出るかもだし!! だから《アルマータ》と少しでも繋がってる奴は例外なく皆殺し!! はい解散!! オランピアちゃん、アリオッチもやっちゃって!!




今回はここまで。アーヤちゃん、地味に本来の歴史より更に2人多く救ったの巻。
そして明日は空の軌跡リメイク発売ですね。アーヤちゃんの初登場作品だしグラフィックや演出もすごいことになってるんだろうなぁ。公式のキャラ紹介もすごかったし(存在しない記憶)
ということで次回は煌都編最後。《大君》復活祭りです。お楽しみに。

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