──サルバッドで出会ったアーヤさんはすごく賑やかな人でした。
共和国ではサイードグループやファッションブランド《SAID》の名前はすごく有名ですし、その創始者であるアーヤさんのことは学校の授業でも時折取り上げられるほどです。
アラミスのOGでもあるそうで学校の先生方も時折アーヤさんの話を誇らしげに話してくれます。……まあたまに苦笑いしたり遠い目をしたりする理由は分かりませんでしたが……出会ってからは何となくわかるような気がします。ヴァンさんも当時からの知り合いのようですごく振り回されていて……しかもそれが慣れているような気がして当時からそんな関係性だったんでしょうね。アルジュメイラホテルで依頼者のニナさんやジュディスさんに挨拶に伺った際も──
「あ、ごめーん! この後は映画祭のスポンサーのお客さんがいて服を納品しなきゃいけないからちょっと別れるね! また後で合流しようよ!」
「いや合流しねぇよ!」
「え、なんで? 私いた方が頼りになるよ? それにほら、助手の経験もあるし! 砂漠にも詳しいよ! ヴァンの女性遍歴にも詳しいし!」
「最後のは余計すぎんだろ! それに別に何も──」
「え? いやいやいや、ヴァンって意外とアレじゃない? まあ私の元教え子とかどっかの警察官とかに比べたらまだマシだけどさ。それに性癖の方も──」
「ヴァンさん……」
「教え子に警察官?」
「クク、まあオッサンの性癖なんざ聞きたかねぇがもしかして何か恥ずかしいものでもあんのか?」
「まあ基本的にまず同年代か歳上が──」
「おいこらやめろ馬鹿!! お前らも興味持ってんじゃねぇ!! さっさと行くぞ!!」
「またねー! 後で追いつくから!」
(歳上……)
……と、別れ際にヴァンさんを疲れさせていました。まあ少しだけ女性遍歴は気になりましたし、確かに興味深かったのは間違いないですけど……歳上好きという情報は少し残念に──。
「アニエス? どうかしたのか?」
「あ、い、いえ、何でもありません」
コホン。ま、まあとにかく、アーヤさんは私たちの知らないヴァンさんを知っているようでした。反対にヴァンさんもアーヤさんのことは色々と知っているみたいでしたが、さっきも口ごもっていたところを見るに何かあるんでしょうか? そういえば煌都では色々と気になることもありましたが……。
「さて、見回りを再開すんぞ」
ともあれヴァンさんの言う通り、私たちは仕事を再開することにしました。
サルバッドの街を改めて見回り、カジノでは仕事で来ていたディンゴさんやベルモッティさんとも再会したり、伝統地区でサァラさんとシャヒーナさんにジュディスさんとニナさん──それとアーヤさんもついでに書いてくれました──のサインを渡しそびれてしまい、その後に私たちが宿泊している《三日月亭》から連絡が来たので女将さんから伝えられた公衆浴場に向かうことになりました。
そして浴場の支配人であるジャハムさんから地下の水路を通じてオアシスから水が汲み上げていることと、今朝から水が届かなくなったことを説明され、私たちに地下水路の調査を依頼してきました。オアシスの方はかつて三高弟のL・ハミルトン博士が行った治水工事のおかげで問題はないそうですし、問題は地下水路の方だということで。
しかもヴァンさん曰く、20年近く何もなかった地下水路がこのタイミングで異常が起きるのは何かが匂うとのこと。
私の持っていたゲネシスも反応しましたし、何かある可能性は高いということで私たちは慎重に地下水路に足を踏み入れ、調査を開始しました。
魔獣が徘徊する地下水路の攻略はそれなりに危険でしたが、問題なく進んでやがて最奥に辿り着きます。ですがそこには──
「ゲネシス!? あんなところに──」
最奥には巨大な植物型の魔獣。そしてその身体に張り付いているゲネシスを発見しました。
そして直後に巨大な魔獣は私たちに襲いかかってきて、私たちは対応します。オアシスの水のせいか、かなり成長していて手強かったですが……それでも私たちは協力して何とかその魔獣を倒すことに成功しました。
「ハッ、とっとと逝けや……!」
「はあはあ……皆さん、大丈夫ですか?」
「はいっ、けっこう手強かったですけど……」
私は息を整えながら戦闘が終了したことにほっとします。
ですが──
「──ふふ、中々やるものだ」
「……!? ──下がれ!!」
「えっ……きゃあ!?」
その直後でした。私たちの耳に女性の声が届き、それとほぼ同時にヴァンさんが注意を叫び……そして魔獣が一瞬にして切り裂かれたのは。
「見事な戦いだったが……悪いが宝は回収させてもらおう。これにはまだまだ使い道があるのでね」
「ゲネシスが……!?」
「てめえっ……! 何モンだ!?」
「暗殺者……! 返してください! それはアニエスさんのものですっ!」
魔獣を一瞬で切り伏せ、その手にゲネシスを握ったのは──目元を隠し、
その右手には大陸中東様式と思われる巨大な剣が握られていて、腰には同じような形のダガーが幾つも括り付けられています。フェリちゃんが突然現れたその方を見て暗殺者と口にしたようにもしかしたらそうなのかもしれません。
「クルガの幼き戦士……挨拶の最中だというのに無粋だな。いきなり撃ってくるとは」
「っ……!」
「剣で切られやがった……!?」
そしてその方はフェリちゃんの銃弾をあっさりと剣で切って弾いてみせると、即座に私たちに向かって肉薄してきたのが私には一瞬だけ見えました──何とか反応したヴァンさんがそれを防ごうと剣を構えたのも含めて。
「──うおおおおおおっ!!」
「首都の裏解決屋だったかな。面白い存在ではあるが……君では力不足だ」
「がはッ──」
「ヴァンさんっ!?」
「だ、だめですっ……!」
「クソが──庇ってんじゃねえぞ!!」
その一瞬の斬撃と思われる一撃は、私たちの身を危うくするものだとヴァンさんは判断したのか、ヴァンさんは私たちを庇います。私みたいな学生でも相手の実力は私たちよりかなり上であることが分かりました。それだけにどうしたら、と思ったその時。
「──フフン、出番みたいね?」
「……! あの時の!」
そう──ゲネシスが光り輝いて、メアちゃんが現れました。
それはヴァンさんがあの姿……グレンデルに変身する合図です。
周囲の時が止まり、ヴァンさんはすぐにそうなるようにメアちゃんに伝えます。未だ謎の多い現象ではありますけど、確かにその力は今までも窮地を乗り越えるために──
「……ヲオオオオオオオッ……!! ガアアアアアアアアア…………!!」
「なんだありゃ……!?」
「す、すごく苦しそうです!!」
「止めてください! こ、このままじゃ……!」
「し、知らないわよこんなの!? ……ッ……まさかひょっとして──」
──ですがそうして変身したヴァンさんはいつもと違って……かなり苦しそうにしながら床に倒れ込んでしまいます。私はすぐにヴァンさんに駆け寄りました。
「ほう……それが枷の魔装。何やら面白い現象が起きているようだ。興味深い」
「チッ……余裕振ってんじゃねえッ!!」
「ヴァンさんたちには近づけさせませんっ……!」
その間、アーロンさんとフェリちゃんは謎の暗殺者の相手をしてくれました。
「ググ……ガアアア……!!」
「ヴァンさんっ、しっかりしてください……! どうか心を落ち着けて……! 私たちがついていますからっ……!」
「ッ…………アニエ…………」
私は必死にヴァンさんに呼びかけます。暴走したように見えるヴァンさんを何とか正常に戻すために。
「フ……もう少し眺めていたい心境だが、生憎とそれには用はない。ここで新たなる夜明けのための礎となってもらおう」
「──!!?」
「あぁっ!?」
「チィッ!!」
ですがそこで……謎の暗殺者が無慈悲な宣告と共にフェリちゃんとアーロンさんをくぐり抜けて私たちに迫ります。
私はヴァンさんを支えて、どうにかしようとして、それでもどうにも出来ないと思いながら反射的に目を閉じてしまいます。暗殺者の刃が目の前にまで迫ってきて──
「! ……そちらは……」
「──間に合いましたね」
──直後、銃声が聞こえ、暗殺者は背後に退きました。
何が起こったのか私には分かりません。ですが、私たちの後ろから水色の髪をした綺麗な女性の方が現れて、私たちを守るように前に出ます。周囲にシャード領域を展開し、それだけではなくシャードで作った足場を幾つも出現させながら。
「!!」
「っ……ほう……!」
そうして拳銃とダガーを巧みに使い、シャードを利用した高速機動で暗殺者と戦うその姿に私たちは驚愕します。その声は確か、以前にもヴァンさんが──
「あ、貴女は……!」
「──どなたかは存じませんが、こちらは我が社の《契約顧客》様となります。危害を加えるつもりなら、弊社規程に従って相応に対処させていただきますが?」
「……成程。MK社……そちらも関わりに、いや、見届けにきたか」
MK社。その社名を暗殺者が口にして、私にも助けてくれた彼女がどこの所属なのか思い至ります。そして私たちを助けに来てくれたのだと。
この方とアーロンさんとフェリちゃんがいれば、何とかこの場は凌げると私は希望を感じました。相手の方もこの場は引き下がってくれるかもしれないと。
「さて、どうしたものか。確かに私1人なら少々処理に手間取りそうだが……」
「まだ続けるつもりであれば容赦は致しません」
「そうか。それならば致し方ない──」
謎の暗殺者は私たちを見て愉快そうというか余裕の笑みを浮かべていて……その手に持っていた剣を一度納めます。
その上で、パチン、と。指を1つ鳴らしました。瞬間──
「──更なる絶望と恐怖を与えてあげよう」
『──殲滅対象を確認。アークライド解決事務所』
「!? これは……!?」
「いつの間に!?」
──
その数はざっと見ても10人以上。私には分かりませんが直前まで気配がなかったことにその女の人やアーロンさんも驚いています。
「さて、この舞台どう切り抜けるつもりかな?」
「くっ……この数は……」
「新手……! しかもこの息吹は……うっ!?」
「フェリちゃん!」
「クソが……! 何とかならねぇのかよ……!」
そうして子供たちが中東様式のダガーを手に一斉に襲いかかってきました。その鋭い斬撃。子供たちは1人1人がかなりの強さを誇っていて、一斉攻撃を受けてフェリちゃんが膝を突きます。アーロンさんや女の人も凌いではいますが苦しそうで、ヴァンさんも動けません。
「フフ……思ったよりも呆気なかったな。ならばそろそろこの恐怖劇から解放してあげよう」
「ヴァンさん……!」
「グ……グヲヲヲヲヲヲッッッ……!!」
暗殺者からの絶望の宣告を受けて、今度こそ私たちは終わりだと。空の女神に祈りながらその時を待つしかありませんでした。走馬灯のように凶刃が迫りくる。ゆっくりと、私たちはそれを受け入れるしか──
「──なんかすごいことになってるね。大丈夫?」
「…………へ?」
「!? お前……」
──ですがその時、私とヴァンさんを覗き込むように声をかけてきたのは見覚えのある人物でした。
いつの間にか現れたのか、最初からずっとそこにいたかのように一瞬で私たちの前に現れたのは──ヴァンさんのお知り合いで有名なファッションデザイナーであるアーヤさん。
「あんた、いつの間に……」
「貴女は……」
「アーヤさん! 危ないです!」
「ああうん、大丈夫だよ。今からやるから」
アーロンさんにMK社の人にフェリちゃんも反応します。そうです。今この場は一般人にはとても危険で…………『機能、停止……』──……え……?
虚を突かれて声を漏らしてしまいます。たった今、目の前で起きた現象に、私は脳の理解が追いつきませんでした。
ですが端的に起きたことを話すとするなら──私たちに襲いかかろうとしていた2人の子供が、いつの間にか首と身体が分かたれて床に崩れ落ちました。
「あ……!」
「! アーヤ、お前……!」
「──なるほどね。情報通り、《黒の工房》から流れた《Oz》ってこれのことかぁ」
「何……?」
こちらを殺そうと襲いかかってきた相手とはいえ、一瞬で2人の子供が死んだことにショックを受けた私ですが……よく見れば血は一滴も流れていませんでした。
ヴァンさんもそれに気づいたようです。そしてその発言からもしかしてアーヤさんが……? と私は思いました。《黒の工房》に《Oz》という言葉の意味は私にはまだ理解が出来ないものでしたけど……1つ分かったのは、その子供たちが人間じゃないということ。血の一滴も流さず、機械の断面図がそこに見て取れたからです。
「《Oz-AS》。ミリアムちゃんやアルティナちゃんみたいな人造人間と違ってこっちは戦闘用の人形兵器みたいなものだけど……確か血を使って強化してるんだっけ。さっき聞いた時は驚いたけど……本当にあったんだね。まあ言われてみれば帝国ではアルベリヒがそう言ってた割に出てこなかったから変だったけどさ」
そしてアーヤさんは独り言のようにその兵器だという子供たちのことを説明していました。その様子はこの場にはそぐわないいつものアーヤさんで、落ち着いた様子で、軽いため息を吐いて肩を竦めていました。
ですがその手には長大な鋏のような得物が握られています。
その上で、アーヤさんは振り返り……おそらくその黄金の瞳を前方にいる暗殺者に向けました。
「──よくも色々やってくれたね」
「ひっ……」
「っ!!?」
「っ……なんだ、このやべぇ気配は……!?」
「こ、この息吹……」
「殺気……ですがそれも一瞬で消えて……!」
その瞬間、この場にとてつもなく濃密な気配が広がりました。
それは……言うなれば殺気何でしょうか。心臓が跳ね、背筋に寒いものが走り、全身を強張らせ、汗が吹き出るような感覚。
感じたのはほんの一瞬。それも多分、向けられたのはあちらの暗殺者でしょうか……それでもその一瞬だけで私たちは底知れない恐怖を感じます。そして、その場には嫌な空気だけが残り続けていて。
「──
「──え……」
小さく呟かれた17という数字。
私は最初、その数字の意味を理解できませんでした。
ただ目の前で起きたことを目撃して……そして気づきます。
──その数字は仕留める相手の数だと。
「16と……」
『!』
一瞬にしてまた1人、1人と子供が真っ二つにされていきます。
起きている出来事に反してあまりにも平常な。フラットな空気感がむしろ恐怖を生み出していて。
私たちが見守る中、遂に子供たちが一斉にアーヤさんに襲いかかります。同じような暗殺者の動き。背後から狙いを定める2人の子供。
「手癖悪いなぁ」
『!?』
その手首が切り落とされます。
手に持っていたダガーを失った子供は戦闘手段を失い、その隙を突かれてアーヤさんに首を落とされます。
「15、14で──」
数字が呟かれ、その間にも他の子供たちがダガーを鋭く振り回します。1人目の首を狙ったものを首を引いて躱し、2人目の心臓を狙ったそれも身体を横にずらして躱します。
「ああもう数多くて面倒くさいって」
『──』
アーヤさんが心底億劫そうに呟いた直後、攻撃を仕掛けていた2人の子供と、今まさにアーヤさんを狙おうとしていた2人の子供が何かに絡め取られたように動きを止め、そのまま引っ張られます。
「1列に並んでねー」
床の上に叩きつけられ、4人が縦に並んだところでアーヤさんはその手に持った巨大な鋏をフォークを突き立てるように縦に一気に串刺しにします。
「これで残り10っと」
『っ……』
更に数を4減らし、感情のない虚ろな視線が周囲にいる他の子供たちを捉えます。
機械だと判明した子供の暗殺者たちですけど……その僅かな表情の機微は、まるで恐怖を覚えているように見えて。
「それで──」
『!!』
それでも命令かプログラムされた指令に従ってか、残った子供たちが全員でアーヤさんに襲いかかりましたが……アーヤさんは無慈悲に子供たちを1人1人、鮮やかすぎる手並みで切り裂いていきます。
音もなく、いつの間にか消えては奇襲を──いえ、暗殺を繰り返すようなその戦い方に私は息を呑むしかありませんでした。
そしてすぐに残りの子供たちも気づけば全てが屠られて。
「フフ……ハハハ……! さすがだな。アーヤ・サイード。紛い物とはいえかの工房の暗殺人形をこうも容易く──」
「──1」
──子供たちがいなくなれば後は最後の1人……謎の暗殺者の背後に回り、アーヤさんはその鋏を開いていて。
「“グリムシザー”」
「っ……!」
死神の刃は閉じられ、しかしその暗殺者もまたギリギリのところで回避を行います。
そしてすぐに導力魔法を発動させました。
「この身体を相手にそうも無慈悲に殺意を向けられるとは怖いものだ」
「変態相手にお喋りする気はないから。早くあの世に行ってくれない?」
「私にはやらなければならないことがあるのでね。遠慮させてもらおう」
「聞いたけど聞いてないから。どっちにしろ殺るし」
対話する必要なんてないと容赦なく迫ろうとするアーヤさんに、その暗殺者は大きく飛び退いてから転移と思われる術を使います。
「さすがに分が悪い。今日のところはここで退散させてもらうが──いずれまた、夜明けの時に会うとしよう」
「会わないよ。会ったとそっちが認識する前に意識はなくなるからね」
そうして謎の暗殺者は転移によってその場から消えていきます。
残ったのは多くのバラバラになった人造と思われる子供たちだけ。
そしてその中心には、消えていった暗殺者の方に視線を向けるアーヤさんだけが残っていて。
「い、一瞬であの暗殺者以外を全員仕留めるなんて……」
「とんでもねぇ腕前だな……」
フェリちゃんにアーロンさんも戦慄したように呟きます。もう1人の水色の綺麗な髪をした女の人も同様に。
「……脅威度SSS? は伊達ではありませんね」
「ああ……」
ヴァンさんが変身を解いて立ち上がり、女の人に静かに同意したところで私は思わず疑問を口にしました。
「ヴァンさん……アーヤさんは、その……一体何者なんですか……?」
「……あいつは──結社《身食らう蛇》の執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》」
私の疑問にヴァンさんは静かに答えます。
表ではファッションデザイナーで大企業のトップとして有名で明るいアーヤさんの裏の顔。
それは大陸で暗躍する秘密結社の最高位エージェントの1人であり──
「そして……あの《
「あーあ。逃げられちゃった。ま、いっか。ここにいるのは分かったから次
──都市伝説としても有名な連続殺人鬼《
ですが振り返ったアーヤさんの顔は先程出会った時と同様、明るい天真爛漫な笑顔をこちらに向けていて。朗らかな態度で接してきたことに、私は強いショックを覚えました。
ですがその後、最初に助けに来たマルドゥック社のSCのリゼットさんと共にこのサルバッドで怪しい兆候が見えることや新しく出向としてリゼットさんが同行することになり、同じ場で何か知っていそうなアーヤさんにもヴァンさんが話を聞こうとしたのですが──
「──それで、アーヤ。さっきの褐色で目元を隠した暗殺者のことだが……お前、何か知ってるのか?」
「──う、ウウン。ナニモシラナイヨー。だだだ、誰なんだろうねーアレ……~~♪」
「……ならお前らはどこまで噛んでんだ?」
「け、結社のことは知らないなぁ。私はほら……下っ端だし! 命令を聞くだけしか脳がない戦闘員Aくらいの立ち位置だから!」
「執行者は下っ端じゃねぇだろ。……だったらこの映画祭に来た理由は──」
「ゴッチ監督に頼まれて衣装提供とかしてるのと観光に来ただけだよ! あ、そういえば約束があるんだった! また何か困ったことがあったら手伝ってあげるからその時はよろしくね! ばいばーい!」
「あ、おい!」
──アーヤさんはヴァンさんの質問を明らかにはぐらかしながら風のように去っていきました……。
「どう見ても何か知ってそうです……」
「あの腕前を見てなきゃ《切り裂き魔》だって到底信じられねぇな……」
「えっと……どうしましょう、ヴァンさん」
「……まあアーヤは裏の世界じゃやべー奴とはいえ、あの性格だ。表の人間に害を為すようなことはしねぇし、一旦は放置して他を調べに行くぞ。……つーか一旦逃げられたり隠れられると捕まえらんねぇしな」
深いため息を吐きながらもヴァンさんはアーヤさんのことを信頼している様子でした。
だから私もヴァンさんと、最初に出会った時の明るい顔を信じて別のことに頭を回します。もう一度サルバッドを見て回る必要がありますし、4spgも──
「──はぁぁぁぁ!!? ねぇおかしい!! これでもう100回連続外してるんだけど!! 二分の一に賭け続けてるだけなのに当たらないなんて絶対おかしい!! スロットも当たらないしブラックジャックもポーカーも何も揃わない!! 絶対イカサマしてる!! 店ぐるみの罠だ!!」
「お、落ち着いてくださいませお客様……そ、その……イカサマなど決してしておりません。スロットも一応壊れてないか確かめましたが不具合などはありませんでしたし……その……」
「こんなに当たらないなんて絶対おかしい!! もう怒った!! こうなったらこのカジノを買収してイカサマがないか確かめてあったら是正してやる!! そして私にも当たりを……!!」
「それはそれでイカサマじゃねーか!! やめろこの馬鹿!!」
──その最中に偶然カジノの中で見つけたアーヤさんがカジノ側に物凄くクレームを入れていたのを見てヴァンさんが止めに入りました。カジノ側も気まずそうにしてる当たり、本当に全く、一度も当たらなかったみたいで……どうやらアーヤさんマリエルさんとは反対で物凄く運が悪い人らしいです。この短時間で数千万ミラはすったと言っていましたが、ヴァンさんに止められた後はすぐに切り替えて笑顔で偽遊撃士の情報を教えてくれました。どうやら割り切りというか切り替えもすごく早い方みたいですね……。
──マサアルハイール! どうも、アーヤ・サイードです! はぁ……せっかくオーギュストとかいう人の姉の姿で私の血を使った人形で悪さしてるド級の変態怨霊を発見したのに殺せなかった……おまけにその後の気分転換でいったカジノでは全く勝てなかったし……。
しかも《アルマータ》の首領、ジェラールもいなかった。うろ覚えだけどカジノのディーラーに変装してた気がしたんだけどなぁ……もしかしたら別のカジノだったりするんだろうか。正直どういう店にいるかは覚えてないし、覚えてたとしてもゲームと現実の街並みは広さも中身も結構違うから当てられる気がしない。店の名前くらい覚えてたら別かもしれないけどそんなシリーズにある店の名前1つ1つ覚えてるわけないよね。《モンマルト》くらい有名なら別だけどさ。
ってことなのでカジノで2千万ミラくらいすったけどまあ別にいいや。私の口座の数字は全く減ってなかったし。気にしないで《アルジュメイラホテル》のプールでジュディスちゃんやニナちゃんと一緒にあーそぼっと。
私は別のホテルに部屋を取ってるけどアルジュメイラには仕事の関係でフリーパスだし、お金を払えばプールくらいは利用できるんだよね。だから何の問題もないと、私はウッキウキで自分でデザインした水着を身に付けてプールに繰り出そうとした。赤いショーパン型に流行りの腰の紐。見せパンに、上はビキニ型の赤い水着を中に着て、上から更に《SAID》のロゴがデザインされた白いオフショルダーシャツ。ちゃんとお腹が見えるように裾が短いものを着た。そして更にその裾を結んで活発さと可愛さを演出したカジュアルな水着コーデだ! 腕にはスポーツブレスレットも付けたし、ビーチサンダルもちゃんとデザインして手を抜いてない。水着だってお洒落なものが良いに決まってるよねー。これはちなみに売ってない私専用の水着だ。
「よーし、プールに繰り出せ──」
「可愛いですね。その水着」
「えへへ、そうでしょ? 私がデザインした私専用の新作だよ」
「流石ですね。今度は私の水着もデザインしてくれませんか?」
「いいよー。オートクチュールの依頼は来年まで埋まってるし、一着につき数百万ミラくらいするから高いけど……まあでも水着は数十万ミラくらいで済みそうかな? ほんとはもっと安くしてあげたいんだけどね」
「先輩は優しいですからね」
「いやいやそんなことないって。私なんかよりクローゼちゃんの方がー……………………」
今まさに、ナイトプールへと繰り出そうとしていた私の足が止まる。
声も止まった。目の前にいる相手を認識して脳みそが一瞬だけ停止する。
だけどずっと止まってるわけにはいかないため、私は笑顔のまま問いかけた。若干ぎこちないままで。
「えーっと……く、クローゼちゃん?」
「はい。どうかしましたか?」
「い、いや、どうかしたというか何と言うか……何でいるの?」
そう──私の目の前にいたのはクローゼちゃんことクローディア・フォン・アウスレーゼ。
リベール王国の皇太女。次期女王様で、私の留学時代の後輩で友達で……今は共和国に用事で来てるけどここには来ないと思っていた相手だった。
「非公式にですがエルザイムのシェリド殿下からも誘われましたのでお邪魔することにしたんです。護衛のユリアさん達も一緒に。私も映画祭を拝見したかったですし……いては駄目でしたか?」
「そ、そんなことないよ! う、うん。問題ない、問題ない……映画祭あるんならそりゃ来るよね」
と、クローゼちゃんは少し困り眉でそんなことを聞いてきたので私は慌てて否定する。なるほど……まあ、そりゃ映画祭があったら来てもおかしくないよね。せっかく共和国に来てるんだから映画は見たいだろうし。今のサルバッドが危ないとかも知らないだろうし。
そういう意味じゃちょっと怖いけど……でも護衛でユリアさんとか他の人もいるだろうし、別に問題ないかな? 私も気をつけておけばいいしね。最近のクローゼちゃんはちょっと強引で圧を感じる時があるけど私も慣れてきた。
ま、来てるものは仕方ないし一緒に楽しめばいっか!
「──なら一緒に遊ぼう!」
「構いませんよ。ですがその前に……
「ん? どれって何が? あ、ユリアさんお久しぶりですー」
「──先輩を閉じ込める用の手錠です」
「……………………!?」
──じゃら、と。クローゼちゃんは良い笑顔でユリアさんから受け取った幾つかの手錠を私に見せつけてきた。
それを見て私は固まる。言葉を発せない。私も笑顔のまま汗を掻いてその意味を理解しようと試みる。
だけどどう解釈してもヤバい意味にしか感じなくて……私は思わずクローゼちゃんの圧に気圧されて一歩後ずさった。
「先輩。冗談ですよ」
「……へ」
あ……と。今まさに逃げるかどうかのアライメント選択肢が頭の中に浮かび上がったところでクローゼちゃんからの救いの言葉が聞こえてきて私はその瞬間にめちゃくちゃに安心する。
「あ……あはは! な、なーんだ冗談かぁ! もう、クローゼちゃんってばお茶目さんだね! いつの間にそんな冗談覚えちゃったの? おかげですっごいびっくりしちゃったよ!」
「すみません。先輩を驚かせようと思って。最近あまりにも先輩が先輩すぎるので、
「なるほどなるほど。私を見張る方法…………ん?」
以前考えた? え? ってことは……。
「先輩に私と同じ場所に住んでもらえば解決するんじゃないかと……そう思ったんですが……それでは根本的な解決にはならないかと思って断念しました。いえ、あの、それってペットみたいで良くないなって……先輩は当たり前ですけど人間ですし、大切な相手を飼うなんて良くないなと。それでも先輩が相手ならノリ良く受け入れてくれそうですし、先輩と一緒にお泊りをした時みたいに楽しそうだとは思ったんですがやはり良くはありませんよね。なので想像だけで我慢したんですけど……気づけば手錠を眺めてしまっていて。いけないとは思ったんですが、せっかく作らせたものですし、遊びで一度くらい使用してもいいかと……ということなので先輩。今日は私が取った部屋でお泊り会しませんか?」
「──……………………な、なるほどね。あ、あー……でも私、他のホテルに泊まってて……」
「1日くらい大丈夫ですよね?」
「そ、そうだね。でも今日は夜、どうしても外せない用事があるんだよね。だから帰りが遅くなっちゃうかも……」
「平気です。先輩の帰りを待ってますよ。なんなら明日でもいいですし」
「ゆ、ユリアさん的に良くないんじゃないかな? ほら、私って暗殺者だし……」
「先輩は私を暗殺するんですか?」
「い、いや、絶対しないけど……」
「ですよね。先輩はそんなことをする人じゃありません。私は先輩を信頼していますから。ユリアさんも同じ気持ちです」
「……エエ。私モ信頼シテイマス」
「(ユリアさんの目が死んでる……)え、えーと……」
「先輩は私がイーディスに来てから一緒に過ごすって約束しましたよね? お互いに忙しくてスケジュールが合わなかったのは仕方ありませんけど……今は問題ないはずです。先輩は約束を守ってくれないんですか?」
「ま、守るよ。うん守る……わ、わかった。ならいいけど……て、手錠はちょっと遊びで使うには良くないんじゃないかなーって思ったり思わなかったり……あはは……」
「──手錠が駄目なら首輪もありますよ?」
「──手錠でお願いします」
──私は両腕をすっとクローゼちゃんに向けて差し出した。そして綺麗な笑顔を向けてくるクローゼちゃんに内心で叫ぶこともなく思う──な、なんかまた重くなってるー……! 嬉しいけど怖いー……!
ということで私は今日の夜はクローゼちゃんの部屋に泊まって手錠で遊ぶことになりそうです……ま、まあちょっと遊ぶだけだよね? まさかそのまま閉じ込めるなんてことしてこないよね? いや、仮にそうなっても抜け出そうと思えば別に抜け出せるんだけどさ。物理的なことよりも精神的な部分で心配で……ま、まさかとは思うけどそういうプレイはしないよね? いや、それはそれで嬉しいような複雑な気分だし、クローゼちゃんなら全然いいけどできればそういうことはもっと普通のシチュエーションがよくて……「先輩。それとは無関係ですが先輩にプレゼントを用意したんです。受け取って貰えますか?」──ん? 何、クローゼちゃん……チョーカー? あ、あー……なるほど。可愛いし私にも似合いそうだし嬉しいよ。ありがとう! ……首輪を連想してちょっとアレだけど、せっかくのプレゼントだしね。首に付けてあげよう。チョーカーはあんまり付けないけど映画祭の間くらいはこれ付けてたっていいよね。オシャレだし!
ってことで私は一度プールで遊んで、ジュディスちゃんとニナちゃんとも鉢合わせて──なんか2人ともすごいびっくりしてた。私じゃなくてクローゼちゃんに──それで途中からヴァンたちが来たし、おまけにシェリド殿下も来たからその挨拶にも混ぜてもらった。ダイジェストするとこんな感じで。
「リベール王国皇太女。クローディア・フォン・アウスレーゼです。今は旅行中の資産家クローゼ・リンツということでお願いします。こちらは護衛のユリア・シュバルツ少佐」
「よろしくお願い致します。アークライド解決事務所の方々」
「り、リベール王国の……!?」
「次期女王サマってやつかよ……!」
「共和国を非公式に来訪しているのは掴んでいましたが、サルバッドにもいらっしゃるとは……」
「ま、確かに驚きだが……それはともかく、お久しぶりですね。殿下」
「え? クローゼちゃんとヴァンって知り合いなの?」
「以前少しだけ依頼させていただきまして。色々とお話させていただきました。先輩とヴァンさんの昔のことも」
「あー……出来れば今はその話は遠慮してもらうと助かる」
「はい。内緒にしておきます」
「え? なになに? 何の話したの? 教えておーしーえーてー!」
「うるせぇな……」
「フフ、それも気にはなるが……今は置いておこう。せっかくだ。話の内容が内容なだけに、クローディア姫にも同席してもらおう。──相談したい内容というのは……脅迫状のことだ」
「やはり脅迫状か……いつ暗殺する? 私も同行する」
「先輩」
「はい。黙ります」
……と、こんな感じでシェリド殿下にも脅迫状が届いてたとか何とか。ヴァンたちが調べた怪しい兆候も含めてやっぱり映画祭では何かが起こりそうってことでヴァンたちに調査を引き続き依頼してた。
それと途中、またチンピラが声を掛けてきたけどそっちはシェリド殿下の護衛のナージェさんとクローゼちゃんの護衛のユリアさんが服をバラバラに引き裂いて追い払ったから問題ないね。その後でナージェさんとユリアさんが互いの腕前を褒め合っててお互い王族の護衛同士で意気投合というか相性が良さそうで微笑ましかった。
それとクローゼちゃんとユリアさんがアニエスちゃんをちょっとだけ見てる時間があったけど……もしかしなくてもグラムハート先生の娘さんだって知ってるっぽい? まあ他の国の情報収集とかやってるから知っててもおかしくないよね。口にするつもりはなさそうだから私もスルーしとこっと。
そしてその後はまた着替えてからクローゼちゃんにお別れして夜の街へ。
「やはり風俗か……いつ同衾する? 私も同行する」
「──ってしれっとお前まで付いてきてんじゃねーよ!?」
「そういうのもイケる口かよ」
「ふふん。夜の店は得意だよ。色んな意味でね!」
「ハン……?」
「……で、本当になんで付いてくんだ?」
「ちょっと知り合いと待ち合わせがあるからそれまで時間を潰そうと思ってね」
「ったく……ならいいが変なことするんじゃねぇぞ」
「りょうかーい。それじゃナイトクラブへレッツゴー!」
そしてヴァンとアーロンくんもナイトクラブへ行こうとしてたので私も同行した。いやー懐かしいよねナイトクラブ。ちょっとだけ働いたこともあるし感慨深い。
でも私も大人なんで落ち着いたところも見せて──
「うっひょー! いいぞいいぞー! めちゃくちゃエロいよー! セクシーだねー! お持ち帰りしたーい! お捻りどうぞー!」
「俺も大概だがはしゃぎすぎだろ……」
「こいつはいつもこんなもんだ」
「2人は誰がいい? 私はみんな好きだけど特に右の娘が好みかなぁ」
「俺は断然真ん中だな。オッサンはどうなんだよ?」
「って、普通に生々しい話してんじゃねぇよ」
「アーロンくん。ヴァンは髪はロング。胸は大きい娘が好みで……」
「ハッ。なるほどな。普段は澄ましてやがるが良い趣味してんじゃねぇかオッサン」
「勝手に人の性癖を捏造すんじゃねぇ!?」
「え? でも学生時代もそういう娘ばっかり目で追いかけて──」
「くっ……普段はアホのくせになんでそういうところはしっかり覚えてやがんだ……!」
「ふふん。記憶力には自信あるよ。それとヴァンよりは全然賢いし。ぷはー! 美味い! もう一杯!」
「そんでボトルを水みたいに飲むじゃねぇ!」
「チェイサーもちゃんとあるよ?」
「普通カクテルはチェイサーにならねぇんだよ!」
「へーきへーき。私酔わないしお金ならあるから」
「知ってるっつーの! もういいから普通にしてろ!」
「どうでもいいがツッコミ慣れてやがんな……」
落ち着いたところをって思ったけどこういう場ではむしろ盛り上がってこそだよね! なので私はカクテルやお酒のボトルを頼みつつもポールダンスをしてる女の子たちに黄色い歓声をあげつつ金をばら撒いてナイトクラブを楽しみ尽くす。
ちなみにオランピアちゃんはいない。いや、来てるんだけどね。別に潜入する必要もないからそりゃ踊らないよね。見たかったけどなぁ……仕方ないから私が飛び入りで踊ってもいいけどさすがに意味が分からないし、そろそろ待ち合わせ相手がやって来そうだから帰る準備しよっと。お会計でお金を置いといてと。
「クク──なかなかイカすのを揃えてるじゃねえか」
あ、噂をすれば来た。カウンターに《破戒》のオジサンとレティ姉さん! オジサンはどうでもいいけどレティ姉さんは久し振りだー! なんかヴァンたちに意味深に絡んでるけどほんとオジサンはそういうムーブ好きだよね。まあ結社がそういう立ち回り大好き人間の集まりだから仕方ないんだけどさ。私も人のこと言えない部分はあるし……と、それじゃさっと消えて店を出ますか。
私はお会計だけしっかり済ませてからヴァンたちの意識がこっちに来てない瞬間を見計らってすっと消える。ステージ上ではサァラちゃんが出てきてて気にはなったけど今度でいっか。借金あるんだっけ? モデルとして採用してお給金あげようかな。まあそれは後で考えるとして……店を出てまたサルバッドの歓楽街の裏路地で私は同じく店をしれっと出てきた2人と合流した。
「レティ姉さん久し振りー!」
「久し振りやねぇ。また隠密に磨きがかかってるんと違う? 店を出た瞬間はウチも気づけんかったくらいやし」
「えへへ、それほどでもー」
「おいおい、オジサンもいるんだぜ? こっちには感動のハグはねえのか?」
「葉巻と毒臭いからヤダ」
「葉巻はともかく後者は無臭なんだがなぁ」
「そういう問題じゃないけどね。というかそういうのガラじゃないでしょ」
レティ姉さんに抱きついて再会を喜びながらオジサンは適当に相手をする。リアルな話をするとオジサンは別に臭くはないんだけどそれが逆にヤバいんだよね。第六感部分で危険な臭いを感じるヤバさというか。
ちなみにレティ姉さんは香水の良い匂いがする。あと第六感部分で血の匂いはするけどそれは私に似たりよったりというか慣れてるから別にいい。更に言うと私は血の匂いすらしない。
「それでどうするの? 街中に毒でもばら撒く?」
「そんなことしちゃ連中のやり方が楽しめねぇだろ? 言った通り、まずは様子見だ。映画祭よろしく、こっちも特等席で見物、観光と洒落込もうぜ」
「楽しまなくていいんだけどなぁ……」
「まあ確かめた後はアーヤの好きにさせるって旦さんも言うとるし、少しだけ我慢して後で鬱憤を晴らせばええんとちゃう?」
「レティ姉さんがそういうならそれでいっかぁ……」
そしてダメ元でオジサンに早速《アルマータ》を皆殺しにする作戦を提案してみるけど却下されてしまう。つまりは事件が起きてからじゃないと殺しちゃ駄目ってことだ。私としてはさっさとやりたかったところだけどオジサンはこの件で結構手伝ってくれてるし、一応言うことは聞く。レティ姉さんも慰めてくれてるしね。それまではヴァンたちを手伝ったりギャスパー社長をやったりと別のことに精を出すしかないかな。
「そういやアーヤ。そのチョーカーはどういう風の吹き回しだ? オジサンの記憶違いじゃなけりゃあ苦手だった筈だが」
「え? ああ、これは友達から貰って……」
話の途中でオジサンが私の首元のチョーカーを指摘してくる。というか私がチョーカーがちょっとだけ苦手ってよく覚えてたね。締め付けられてる感があるからちょっとね。まあお洒落のためなら我慢できるし、クローゼちゃんから貰ったものだから付けてるけど確かに普段はあんまり付けない。
「なるほどな。だから
「え? ──あ」
「……すみません先輩」
オジサンがいつも通り悪い笑みを浮かべながらそんなことを告げてきたので私も気配を辿ってみると確かに見知った気配を感じた。ちょっと気を抜いてたかも。それと害意がないから気づけなかった。気を張ってたらそれでも気づけたんだけどね。
「確かアーヤの言ってたリベールのお姫様? 護衛を付けてるとはいえこの場を掴んでやってくるなんて中々ええ度胸やねぇ」
「発信機か。クク、中々に面白い贈り物じゃねえか」
「……ZCFに頼んで作って貰いました。どうにか先輩の居場所を探って、先輩が何をするかを確かめるために」
「それに加えてアーヤとつるんでる奴を暴いて命令でやらされてるんならやめさせようってところか。いやぁ、アーヤもそうだが若者の成長は目覚ましいねぇ」
チョーカーを外して確かめてみると言ったように発信機っぽいのが付いてた。マジか……気づかなかった。クローゼちゃんからの贈り物だから安心してたのと普段はそういうのに気づいてくれるマキナはホテルで缶詰になって作業してるからね。いやまあいいんだけど……オジサンと一緒にいる時に出会うのは良くないと思う。
「それで? 久し振りの再会。大体5年ぶりってところか。あの時の宣言通り、アーヤを利用するのをやめさせに来たのか?」
「……あなたが利用しているならそれもありますが……それよりも、あなた達は何の目的でこの映画祭に集まっているのか、聞かせてください。もしかしてあの脅迫状もあなた達が……?」
「クク、それならそれで面白い展開だったんだが、残念ながらあの脅迫状はオジサンでもなければ結社の関係者が出したものでもないぜ。それと、今回はアーヤを利用してどうこうって訳でもない。むしろこっちが利用されてるくらいでな」
「先輩が……?」
えっ。あ、ちょっ、オジサン何を言ってるの!? クローゼちゃんが不安そうにこっちを見てるじゃん! やめてよね匂わせは! い、言い訳しないと!
「えーっと……べ、別に大したことしようとしてる訳じゃないから……ただちょっとある連中を追ってるだけで……」
「……もしかして《A》ですか?」
「あー……まあ、そうかな。あはは……」
私は気まずくて苦笑いしながら頭を掻く。で、でも連中は本当にヤバいから! 放っといたら何をしでかすか分からないし! 駆除しないといけないんだよ! 言わないけどね! でも本当にヤバいからやった方がいいし、その立場の人は私たち以外にも七耀教会の勢力だったり色々いるから今回はそこまでやばくないよ!
「そういうことだ。オジサンたちは結社の計画でも何でもないただの観光と見物に訪れただけ。その後にどうするかは……連中の出方次第ってところだ」
「まあ場合によっては結社としても殲滅する可能性もあるってことやね。だから安心してええよ。この人、年中悪巧みはしてはるけど今回はそういうことでもないみたいやし」
「……分かりました。今回は一先ずのところ信用しておきます」
「今回は一先ず、か。相変わらず信用ないねぇ。それはそうと、もう用がないならアーヤを拾って帰っていいぜ。別にオジサンたちをとっちめようって訳じゃねぇんだろ?」
「そうですね。それが出来れば手っ取り早くはありそうですけど……」
クローゼちゃんはそこでオジサンに鋭い視線を向ける。腰には八葉一刀流の太刀があるし、戦うことも出来なくはないだろうけどさすがに危険だって!
「い、いやいやいや! ちょっとオジサン! そういうのはやめてよね! 私絶対手伝わないし、なんだったらクローゼちゃん側につくよ!」
「ウチもアーヤのお友達に手を出すのはちょっとなぁ。しかもリベールの次期女王様なんやろ? 興味本位で手を出すには肩書が大きすぎひん?」
「悲しいねぇ。か弱いオジサンが詰められてるってのに誰も味方してくれねぇとはな。──ってことだ。今ならオジサンを捕まえられるかもな」
嘘つきすぎる! 全然捕まるつもりないし、捕まえられないんだよね! 絶対BC兵器隠してるし! というか別に全然強いしね! オジサンは! だからやめとこうクローゼちゃん!
「いいえ、やめておきます。あなたからは
「へぇ……?」
「え、すごい! クローゼちゃん分かるんだ!?」
「八葉一刀流の《観の目》って奴か。クク……別に何かする気は最初からないんだがな。それが分かってるなら互いに不干渉。ここは見なかったことにしようぜ。ちょうど協定もあることだし、共和国に非公式に訪れてる身としてはあんまり羽目を外しすぎない方がいいだろ?」
「……ええ。なので遺憾ながら手は出しません」
「そうしときな。──さて、それじゃオジサンたちは退散するか。アーヤはお姫様を送ってやったらどうだ?」
「言われなくてもそうするよ! この辺りは不審者多そうだしね! レティ姉さんばいばい! 時間あったら一緒に観光しようね!」
「ウチは暇しとるしいつでもええよ。ほな、また」
ちょっと一触即発になりかけたけどクローゼちゃんは敵わないと見たのかヤバい気配を感じたのかさすがに手を出さない。まあ出してたら私が全力で守ってたけど……とりあえず何もなくて良かった……オジサンは夜の街に消えていったし、レティ姉さんとも約束をして別れたし、これで大丈夫っぽいね。喧嘩されると私的にも困っちゃうし。
「今の2人が先輩の昔からのお知り合いですか?」
「そうだね。オジサンとレティ姉さん。それとクルーガーちゃんと私で昔は同じ組織にいて……まあ色々あってさ」
「あの男もそうですが黒装束の女性……レティと呼ばれた彼女も相当の腕前のようでしたね」
「そりゃレティ姉さんは結社でも最強候補に数えられるくらいだからね。さすがにマクバーンの方がヤバいと思うけど昔はレーヴェと良い勝負してたし」
ユリアさんがレティ姉さんの強さを警戒してたのでもっと警戒してもらうために説明しとく。レティ姉さんは優しい方だし気は使ってくれるけど殺し合いってなるとさすがに容赦なくなる可能性もあるしね。多分大丈夫だとは思うけどさ。でもこう言っとけば簡単に手を出したりはしないはず!
「ところで先輩? 《A》を追ってる理由というのは……」
「そ、それは企業秘密だよ! でもかなり危険な組織だから仕方ないっていうか……」
「…………そうですか。分かりました。今は深くは聞かないことにします」
お、クローゼちゃんが苦笑いだけど笑ってくれた。セーフ……! 深く追求されたら困るところだった。教団関連とか家族関連はちょっと人に話さない方がいいって学んだからね。私は話してもいいけど他の人が困っちゃうから。
でも《アルマータ》に関しては暗殺されて然るべしヤバい連中だって話はクローゼちゃんや他の人も理解してるだろうし、だからそこまで深刻じゃないんだろうね。極悪でありがとう《アルマータ》。感謝の証に確実に煉獄送りにしてあげるね。
「それと
「ああ、うん。さっきはすごく楽しい店に…………あっ」
あっ。そういえば発信機を付けてたってことは……私が今までどこにいたのか知ってるってことで……。
い、いやでも別に何も問題はないはず。それなのに何だか気まずい感じがするのはクローゼちゃんの圧のせいなのか私がそれを自覚して後ろめたさを覚えてるかのどっちなのか。分からないけどここは何とか切り抜けよう!
「私と遊ぶ約束を放って先輩は夜のお店で楽しんでいたんですね」
「い、いやそれは待ち合わせのためであって別にそこに目的があったわけでは……!」
「ふふ、冗談です。でもせっかくですし、先輩がそういうお店に詳しいなら案内してもらうのも面白いかもしれませんね」
「うぇっ!? そ、それはちょっと……いいの?」
「で、殿下。それはお戯れが過ぎるかと……」
「残念です。社会勉強に良いと思ったんですが。ならもう少し健全なお店を案内してくれますか?」
「それならいいけど……」
ユリアさんの様子をチラッと確かめてみるけど額を抑えてやれやれと言った感じだった。最近のクローゼちゃん強そうだもんね。こうなったら行くしかないか。
まあクローゼちゃんもとっくに大人だし、そういうのも悪くないよね。
「それから重ねてすみませんでした。そのチョーカーは外してもらって大丈夫です」
「ああ、うん。それは全然いいよ。発信機だけ取り外せば……うん。普通にお洒落として使えるね。私に似合うものを選んでくれたことは本当だろうしありがとね!」
「…………ふふ、先輩はやっぱり先輩ですね」
「? それじゃ早速夜のサルバッド観光に行くぞー! まずは普通のクラブにゴーゴー!」
なのでクローゼちゃんと護衛のユリアさんも連れて夜のサルバッドを楽しむことに。ジェニスに留学してた時はこういう遊びも出来なかったからね。お互いに大人になってお酒も楽しめるし(私は酔わないけど)、映画も一緒に見よう。帰った後どうなるかは不安だし、明日以降も若干危なそうだけど多分原典通りで何も都合の悪いことは──
──次の日。
「っ……これは……」
「……クソが……」
「……遅かったか」
ベガスフィルム地下の脱出路にて、私は隠れながらそれを先んじて見ていた。
違法薬物が含まれた導力シーシャを《アルマータ》に協力してサルバッド中に流通させていたベガスフィルムのギャスパー・ディロン社長。
その切り裂かれた死体と血のメッセージ。その内容はこんな感じだ。
──《アルマータ》に血の制裁を。 《切り裂き魔》
「これをアーヤが……?」
「分からねぇが……可能性としてはありえなくもない。あいつも《アルマータ》を追っていたようだったからな」
「だけど……アーヤがただ利用されただけの社長を殺すなんて考えにくい」
……………………う、うん。そ、そうだよね、フィーちゃんの言う通りだよ。私がギャスパー社長を殺すわけないじゃん。ただ利用されただけ……にしてはまあまあ甘い蜜も吸ってたし、グダグダと言い訳してたし、なんか国外に逃げようとはしてたけどさ。ヴァンたちにフィーちゃんもいるし、クローゼちゃんにも悪いから本当に特別に見逃そうとしてた。してたんだよ? 実際ここに来たのはギャスパー社長を適当に脅しつけて捕まえるだけのつもりだったし。
だったのにさぁ……。
「どうかな姉さん。姉さんが喜ぶように凄惨に、苦しむように殺したよ♡ ちゃんと《アルマータ》に対してのメッセージも姉さんの通り名で送っておいたし、これで連中も自分たちが誰に喧嘩を売ったのか思い知ってくれるよね♡」
「う、うん。そうだね。ありがとう…………」
──先んじてメルキオルが私のためにギャスパー社長をぶっ殺してるんだもんなぁ……。
一仕事終えてにっこにこで私に報告してくるメルキオルに私は乾いた笑いで応じ、内心では叫んでいた。──んもおおおおおおおお!! なんっっっ……も上手くいかない!! 確かに抗争中だし殺そうとしてたけど!! 宣戦布告もしようとしてたけど!! でもこんな風になると思わないじゃん!! ギャスパー社長なんてよくよく考えたら別に生きてようが死んでようがどっちでもいいし!! なんか私の評判だけ悪くなっちゃったじゃん!! いや、ヴァンたちやフィーちゃんは普通に信じてくれてるっぽいけどさぁ!! 実際殺したの私じゃないし!! でも全く責任がないかと言われると違うんだよね!! 先走ったとはいえメルキオルは一応は私の部下になるわけだし!! 《庭園》と《アルマータ》は抗争してるわけだからこうなるのも裏の世界の理屈では全然あるんだけどすっごいショッキングなんだよ!!
はぁぁぁ……これだから教団とかアルマータの相手は嫌なんだよね……ヴァンたちにはこの後すぐに説明するし、もう割り切るしかないんだけどさ。
でもその前に──
「……先輩、事情を説明してくれますか?」
「まず最初に確認しておくが……おまえが犯人じゃないってことは間違いないんだな?」
「は、はいぃ……私はやってません……本当に……」
ちゃんと私はやってないってことをメルキオルのことは隠しながらクローゼちゃんやヴァンたちに説明しないとね……後ろめたさがすごいよぉ……ふぇぇ……。
──でも《アルマータ》は死ななきゃいけないからギャスパー社長は少し気の毒だけど、それも仕方ないよね。
ということでお久しぶりの怖かったり面白かったり思考がヤバかったりするアーヤちゃんでした。今回はここまで。次回はサルバッドで本格的にぶつかります。アーヤちゃんもまた本気です。お楽しみに。
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