──アーヤ・サイードのことは以前より情報として知り得ていました。
私の所属するマルドゥック社では危機管理業務も行っています。そのためゼムリア大陸各地で活動する非合法な組織や人員。猟兵団やマフィアは当然のこと、彼女の所属する結社《身食らう蛇》についても情報を収集、脅威度を危機管理AIによって評価し、いざという時は対処できるようにしています。
そして執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》アーヤ・サイードの脅威度はSSS?
かつて教団関係者を尽く暗殺したその腕前に最大級の脅威度を与えられながらも、正確な脅威度を測ることが出来ないためそうなっているとのこと。
何しろアーヤ・サイードは暗殺者という裏稼業を行いながらもその心根は善性だと多くの者の証言を得ています。
彼女に関わった人の多くがそう告げていて、裏の顔を知る者ですら彼女に信頼を預けています。その評判を無視することは出来ませんし、実際にここ数年で起きた数々の事件においてもアーヤ・サイードは事件を解決出来るような方向性で動いていることが確認されています。
ただそういった評判だけを聞いてもどういう人物なのかは想像がつきません。
なので私は以前、興味本位でマルドゥック社で彼女を知る人物に彼女のことを聞いてみたことがありますが……その評判はなんと言いますか……色々と判断が難しいものでした。
『アーヤ・サイードか……一度だけ矛を合わせたのみだが、優秀な暗殺者だ。何よりあの隠形と迷いのなさ……そして意外性は脅威と言える。かつては俺も未熟だったがゆえ不覚を取ってしまった』
マルドゥック社の警備部門を取りまとめるカシム警備主任に聞いてみるとそういった評価が返ってきました。あのカシム主任すら不覚を取るほどの腕前は確かに脅威と言わざるを得ませんね……その際に浮かべていたカシム主任の
他にも──
『何を聞くかと思えばアーヤのことか……まあ結社の中では悪い人物ではなくむしろ善良だったのは確かだが……結社でも随一の頭のネジが外れとる人間ではある。わしも結社で十三工房の一角を担っていた時は散々振り回されたものだ。……というか今でも時折わしの新しい工房を訪ねては厄介事を頼んできおって……! この間なぞわしの人形にカバディという謎のスポーツを覚えさせ……! そのせいでわしの屋敷にいる人形たちは暇な時間さえあれば集まってカバディをするシュールな存在になってしまった……! 終いにはあのラピスにもマキナと共に変な造語を学習させて──』
……と、新たにマルドゥック社と契約を結んだヨルグ・ローゼンベルク氏はそのように仰っていました。相当苦労させられてきたご様子でしたね……。
ただそれでも善良であることには違いないということでしたのでやはりアーヤ・サイードは裏の人間としては善性を持つ人物なのでしょう。話が通じる人物かどうかはまだ定かではありませんが……。
他にもソーンダイクGMなどは出資元のヴァリス市国の関係で知っているそうですが出資元の話を詳しく聞くことは憚られたので聞いたことはありません。
それと当社とテスター契約を結んでいるヴァン様とはアラミス高等学校時代からの友人であるらしいですが……それも聞くことは憚られたので今回、サルバッドに出向業務を行ったことでようやくその関係性と彼女の人柄について知ることが出来ました。
「本当にやってないんだな?」
「や、やってないない!! そもそも私ならあんなメッセージ残さないよっ! やる時は証拠とか痕跡は全て消すのが私のやり方だし!」
「……まあそれはそれで問題だが今はいいだろう。それと……確かに、あれを本物の《切り裂き魔》の犯行だとするには疑問が残る」
「うん。もしかしたらアーヤになすりつけたい誰かの仕業かも」
「あっ……それって……」
「ああ。あの地下水路で出会ったアーヤに似た暗殺者が怪しいな。おそらくはアルマータの口封じとして殺されたんだろ」
「そ、そうだよね! ふぅー……これで私の疑いは晴れたね。安心安心……」
(それはそれとしてこいつからは匂いやがるが……実際ギャスパー社長の殺害を行ったとは思えねえし今はいいだろ)
……と、先日はベガスフィルムの社長であるギャスパー・ギャロン氏の暗殺についてアーヤ様に事情聴取をヴァン様たちとリベール王国皇太女であるクローディア殿下に遊撃士であるフィー様と共に行いましたが、やはりあれはアーヤ様の犯行とは思えないということで意見は一致しました。
それはそれとしてアーヤ様は何やら知っていそうでしたが一先ずそれは後回しにして映画祭のための警戒を行うということで解散。一度は連れらされたサァラ様とその妹のシャヒーナ様はギルドの二階に泊まることになり、アーヤ様はクローディア様に手錠をかけられてホテルまで連れて行かれました。……全員が心の中で「何故手錠を……?」と思いましたがあまりにも当然のように手錠をかけられたため誰も指摘することは出来ませんでした……。
そして次の日。サルバッドの映画祭が始まり、私たちアークライド解決事務所は危機管理を行うべく市内を見回りながら4spgを確認し、こなしていきました。伝統地区でハマムに入った際には元教え子であるフィー様や後輩であるというクローディア殿下と仲睦まじく話していましたし、私も幾つか言葉は交わしましたが確かに悪い人物ではないようです。
──やめて! サルバッド映画祭の特殊能力で、孤児院の子供たちのミルフィーユ・ザ・ライトニングを焼き払われたら、甘い物大好きで繋がっているヴァンの精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでヴァン!
あんたが今ここで倒れたら、エレインちゃんや私との約束はどうなっちゃうの?
ライフはまだ残ってる。ここで依頼を受けて広場に来てくれれば、アルマータに勝てるんだから!
・依頼「ヴァン死す」 デュエルスタンバイ!
──A.S.より
「──火元はねぇか? ライターでもいい」
「ヴァ、ヴァンさん! 燃やすのはさすがに……」
「内容が意味不明すぎんな……」
「依頼者の名前はA.S.……おそらくアーヤ様の依頼でしょうね……」
「ですが孤児院の子供たちというのはどういうことでしょう?」
「……わからん。だが確かにそこだけは気にかかるな。アルマータの名前を出したのは冗談だと思うが……万が一もある。果てしなく気はすすまねえが一応話を聞きにいくか」
──何やらよく分からない内容の4spgを伝統地区の掲示板から見つけた私たちは伝統地区にある広場に向かうことにしました。
するとそこでは大勢の子供たちと伝統地区に住んでいると思われる大人たち。それに幾人かのスタッフと共にアーヤ様がいて。
「おめでとー! 優勝はカヒムくんとザイナちゃんのペアでしたー! 2人には優勝商品としてサイード系列のお店で使える商品券をあげるから先生と相談して良い感じに使ってね!」
「これは……何かのイベントか?」
「子供たちが沢山集まっていますね」
「活気がありやがるな」
「あ、こっちに気づいたみたいです」
「ヴァンたちおはよー!! 昨日ぶり! 依頼見て来てくれたんだよね?」
「……ああ。それはその通りなんだが……その前に言いたいことがある」
「? 何か気になることでもあるの?」
「気になることあるの? ──じゃねーよ!! 気になることしかねーわ!! 何だこの依頼内容!? 内容が全然分かんねぇしツッコミどころ満載なんだよ!! どういう意図でこんなふざけた4spg送ってきやがったんだ!?」
「気になる次回予告風にすればヴァンも居ても立っても居られず来てくれるかと思ったから」
「ああ! めちゃくちゃ気になったわ!! 同時に燃やしたくなったけどな!」
「え……ヴァンってば自ら燃え尽きちゃうの? 冗談だったのに……なんか悩み事でもあるなら聞いてあげるから話してもいいよ」
「燃やしたくなったのは依頼書の方で俺じゃねーよ!!」
「アーヤお姉ちゃんこの人だれー?」
「この人はヴァンおじさんだよ。ちょっとクセがある人だけど仲良くしてあげてね」
「お前にクセが強いとか言われたくねーわ!!」
ヴァン様が怒涛のツッコミをアーヤ様に入れていますね……そしてアーヤ様が声を掛けてきたところで注目が集まりそうだったので少し離れた場所で依頼内容について聞くことになりました。
「ちょっと前に伝統地区にある孤児院を見つけてね。そこの子供たちと仲良くなったから軽く寄付しつつ映画祭に合わせてイベントでも開催してみたんだよ。軽いゲーム大会とか屋台を開いてみたり一緒に作ったアクセサリーとか衣服を売ってみたりしてね。映画祭といっても伝統地区に住んでる人が楽しめてないのは悲しいし、こういうイベントがあってもいいよねー」
「へえ……」
「とても良いことだと思います!」
「確かに祭りなんざ地元の人間が楽しんでナンボだからな」
「なるほどな。お前が会社の人間を使ってまでイベントを開いてるのはわかった。なら依頼はそれに関係することか?」
「うん。人手が足りてなくてさ。イベントの手伝いをしてほしいんだよね」
「……裏解決屋に頼むことじゃねぇってツッコミたいところだがまず聞いてやる。具体的には何の手伝いをすりゃいいんだ?」
「うーんと、まずお菓子作りに必要な砂漠にある珍しい材料を採ってくるのと料理する子供たちの監督。軽く子供たちとカバディで遊んでもらった後、ヴァンはブルマリーナの躍り食い。その次はゲーム大会決勝のゲストとして参加。最後にはヴァンお得意の漫才を披露してもらって大団円。……って感じでどうかな?」
「…………」
「ん? どうしたの?」
「どうしたの? ──じゃねーよ!!」
「わっ、びっくりした。え、何? 何か気に入らないことでもあった?」
「あるに決まってんだろ……!」
「え……そんな……せっかく子供たちが必死に考えて作ろうとしてる特製のお菓子なのに……その材料を採ってくるのが嫌なんて……みんな一生懸命この日のために頑張ったのに……」
「おじさん酷い……」
「あのオッサン! 大人のくせにさいてーだな!」
「違うわ! そっちじゃねーよ!! 俺の評判めちゃくちゃ悪くなったじゃねぇか!!?」
「じゃあ何が嫌なの?」
「この際前半はいい! 危険な砂漠だからな……ベルモッティからも頼まれてるし材料を採りに行くくらいは構わねぇ……料理する子供の監督もまあ百歩譲って理解できる……が他は意味分かんねぇよ!」
「え?」
「え、じゃねぇわ! まずカバディで遊ぶって何なんだよ!」
「中東で大人気のスポーツ、カバディを知らないの? 正気?」
「俺は正気だわ正気じゃねぇのはお前の方! それとブルマリーナの躍り食いって……不可能だろ! 海でしか釣れねぇ上にあんな馬鹿デカい魚躍り食いなんて出来るか!」
「あるよ。ほら」
「なんであるんだよ! いつ釣ってきた!?」
「魚釣りが得意な後輩に釣ってきてもらった。セドリックくんって言うんだけど結構器用なんだよねー。昔は不器用というかやんちゃな時期があったんだけど最近は丸くなっててさ」
「とんでもねー奴をパシリに使ってやがんな!?」
「魚を届けたらすぐに帰っちゃったけどね」
「いてもらっても困るっつーの……それと、ゲーム大会はまだいいとして、お得意の漫才って何なんだよ!?」
「え、ヴァン得意じゃん。ツッコミ」
「ツッコミも得意じゃねぇよ! お前が意味不明すぎるから無理にやってるだけなんだよ! それと1000歩譲ってツッコミが得意でも漫才は相方がいねぇと成立しねぇ! まかさとは思うが相方は……」
「ピン芸人のバリアブル斎藤さんが協力してくれるよ」
「誰だよ!? つーかお前じゃねぇのかよ!」
「あはは、私なわけないじゃん。私、ボケに自信ないし」
「めちゃくちゃ得意だろ! むしろ日常がボケじゃねぇか! 今のこのやり取りも限りなく漫才に近いだろ!」
「それじゃ依頼を受けてくれるってことでいい?」
──どうする?
・依頼を受ける(LAW+)
・ノリノリで依頼を受ける(GRAY+)
・依頼を受けれることが嬉しすぎてヴァンは子供たちに秘伝のこじらせセクシーナイトメア神拳を披露する(CHAOS++++)←超オススメ!
「って、変な看板掲げて意味不明に選択肢出してきてんじゃねぇよ!」
「しかも受けない選択肢がありませんね……」
「じゃあ珍しい材料だけ採りに行こっか!」
「最初っからそれだけにしろ!」
……そういうわけでアーヤ様から受けた4spg。依頼を開始しました。
内容としてはベルモッティ様から受けたものと同じで珍しい材料の収集となりましたが、それ自体は特に苦も無く終わりました。依頼が終わった後は子供たちにイベント報酬と称してプレゼントを一人一人に手渡すアーヤ様を見てその様を微笑ましく見ると共にアーヤ様の人格に一定の信頼を得ました。ヴァン様もやれやれと言ったように笑っていたのでそういう部分も扱いが難しい、依頼を断りきれない部分に繋がっているのでしょう。
ただ問題があるとすればその後のこと──
『──アークライド解決事務所の諸君、アルジュメイラホテルにようこそ。映像越しかつ少しばかり早い挨拶をさせてもらおう。アルマータ首領、ジェラール・ダンテスだ』
──映画祭の目玉の1つであるフォクシーパレード。そこからシャヒーナ様を介して広がった狂乱。その解決のためにサァラ様に協力を頼み、何とか結界を突破してアルジュメイラホテルに足を踏み入れた直後。宙に浮かんだ映像越しに《アルマータ》首領のジェラール・ダンテスが姿を現しました。
「お前が……」
「脅威度SSクラスの危険人物ですか」
「ハッ……まさかボス直々に現地入りしてるとは──」
──デデーン。ヴァン、アウトー。
「は? ──うおぉ!?」
「!? ヴァンさん!?」
「な、なんですか今の獣は!?」
「雷が走りやがったぞ!?」
「しかも一瞬で消えた……」
──ヴァン様が不敵な笑みを浮かべた直後、あまりにも唐突に黄金の獅子にも似た獣人が現れ、ヴァン様に雷を走らせ……そしてすぐにまた一瞬で消えていきました。
その謎現象に私たちは驚き困惑します。それを見てジェラール・ダンテスが続きを口にします。
『おっと、説明が遅れたな。今この空間はちょっとしたルールが布かれている。実験を行った俺としてもこうなるとは思わなかったが……奇蹟の御子の血。利用したものがものがだけにこれもまた一興だろう。簡単に説明すればこの空間は──絶対に笑ってはいけないアルジュメイラホテル──といったところだ』
「な、何だと……!?」
『そのルールを破ればどうなるかは今体験した通り、エルザイムの護衛官が変身した獣がお前たちを襲うことになるだろう──最上階で待っているぞ。フハハハハ──』
──デデーン。ジェラール、アウトー。
「フハハ──ウボォォォォ!?」
「お前も食らうのかよ!!」
「ハッ──」
──デデーン。アーロン、アウトー。
「げっ、しまっ──痛え!? おいオッサン! その的確なツッコミやめろっての! 笑っちまったじゃねぇか!」
「……悪い。ついツッコミを入れちまったが……ルールが分かってりゃなんてことはねぇ。そもそも笑える状況じゃねぇからな。ここからは気を引き締め直していくぞ」
「は、はい」
「とにかく笑わなければいいんですよねっ」
「そのようですね」
そう、それを理解していれば何も問題はない筈でしたが──。
「むぅゥン……当ホテルへようこそお客様……!」
「ハァぁん……足止めさせてもらうぞ……!」
「ムキムキのホテルマンか……しかもパンツ一丁……だがこれくらいは何てこと──」
「──当ホテルの警備責任者を務めるルネ・キンケイドだ」
「!? ルネ──って、全然似てねぇ! 眼鏡かけて髪型整えただけのマッチョじゃねえか!」
「声だけはそっくりですね……」
「お前達、怪しい人物を見かけたそうだな。今ここに連れてこい。ムゥン!」
「あ、ああ。本当に声だけは似てやがるな……」
「ヴァン様、堪えてください」
「ちょっ……アンタたち、放しなさいよ~!?」
「グリムキャッツさん……!?」
「……いかがわしい絵面だな」
「な、なんだかドキドキします」
「そんなこと言ってないで早く助けなさいよ~!」
「──確かに怪しいな。こんな全身タイツの不審人物が堂々とホテル内を闊歩しているとは……」
「怪しい……は否定できないけど不審人物言うな! 私はあの怪盗グリムキャッ──」
「嘘をつくな! お前のような痴女がグリムキャッツな筈ないだろう!」
「痴女じゃない! 痴女言うな!」
(確かにあの格好は……)
──デデーン、アニエス、アウトー。
「ええっ!? きゃっ!?」
「アニエスさん!?」
「おい、あんなので笑ってんじゃねぇよ。笑いたくなる気持ちは分かるが」
「す、すみません。笑ったというより少し苦笑しただけなんですけど……」
「見ろ、あんな小娘に苦笑いされているぞ」
「うっ……し、仕方ないでしょ! これがグリムキャッツのスタイルなの! それに普通にイケてんでしょーが!」
「えっと……どうします?」
「……さっさと助けんぞ。あのままにしてるとよくねぇ。笑いの仕掛け的に」
「誰がお笑い要員よ!」
──そんなわけで私たちは怪盗グリムキャッツを助け、操られたホテルマンを倒しつつ、最上階を目指して様々な笑いの刺客を打ち倒すことになりました……。
──おはようございます! 勝訴! アーヤ・サイードです! はぁぁぁ~~~……危ない危ない。危うくギャスパー社長殺害犯として捕まって訴えられるところだったよ……。
でも何とか私じゃないって釈明してみんなに信じてもらえた。いや本当に私じゃないし私があんなメッセージ送るはずないもんね。うんうん。
まあで問題があるとすれば本当の犯人を知ってるってのと、その犯人のメルキオルは私が一応ボスやってる《庭園》の管理人ってことなんだよね……はぁ……良心の呵責が……気まずい……でもアルマータを殲滅するためにはメルキオルの力も必要だから今は許して……後で謝るから……。
ま、それはともかく疑いも晴れたので今日は待ちに待った映画祭だ! わーい! 私お祭りって大好きなんだよね! なのでサルバッドにある《SAID》のお店も割引セールを開催! そしてこの間知り合った伝統地区の孤児院では子供たちを中心にしたイベントも開催しちゃうよ! 社員に指示を出して働いてもらってるけど手が足りないからヴァンたちにも4spgで手伝ってもらってね!
なので材料探しの時は後から私もついていったよ! こんな感じで。
「みんなー! こっちこっちー!」
「お前……砂漠なのに元気過ぎんだろ。いや、砂漠だからか?」
「砂漠は私の故郷! 庭みたいなものだからね! 迷わないようにちゃんと目印の砂丘を作ることを忘れないで! あ、サソリだ! 懐かしい~。久し振りに見た! 昔はよく吊るして遊んだんだよねー。なんだったら食べることも──」
「あんなに動き回って……すごいですね」
「流石の身のこなしです……!」
「砂漠を歩いてるってのに足跡が全くねぇのはどういう理屈だ?」
「おそらく特殊な歩法によるものかと」
「あいつがおかしいだけだから気にしない方がいいぞ」
「フッ、癖になってるんだ。足跡消して歩くの」
「そのドヤるの鬱陶しいからやめろ」
──という賑やかで楽しい道中だった! 砂漠は慣れ親しんだものだし、昔はこの辺りでよく仕事してたからね。最近はもう導力車だったり導力飛行船で移動するからあんまり砂漠を行き来することはなかった。なので久し振りに砂漠を歩けて良かったね。
そして帰った後はまた孤児院でイベント参加。子供たちと一緒にお菓子を作ったり、ヴァンたちに出し物の手伝いをさせたり、クローゼちゃんとユリアさんもやってきて子供たちと触れ合ってくれたし、最後には頑張った子供たちに私からお手製の衣服をプレゼント! みんな笑ってくれたし開催してよかった!
まあ本当は映画祭の終わりまでいたかったけど私はこの後忙しいからね。何が起こるか分かってるので予め指示を出しつつ、私もまた指示に従ってちゃんと事が起こるまで待機だ。
「はあー……憂鬱だなぁ……」
「溜息とはお前さんにしちゃ珍しいじゃねえか」
「そりゃ旦さんが待機、言うからやろ? アーヤは開演する前にさっさとアルマータ殺りたいようやしなぁ」
「レティ姉さんの言う通りだよ。場所が分かってるのにやれないなんて……もどかしい……んぐんぐ……ん! このケバブ美味しい! オジサン! もう1つ奢って!」
「はいはい、っと。暗殺を我慢してる割には祭りを楽しんでるじゃねぇか」
「ふーんだ。オジサンの財布に少しでもダメージを与えたいだけだよ。こうなったら屋台は全部制覇するんだから。次はあっちのバクラヴァ食べよっと」
私はオジサンとレティ姉さんと合流してパレードまでの時間を潰す。それまでは屋台の料理を食べて食べて食べまくることにした。中東料理が盛り沢山で最高だね! 一応は共和国内ということもあって共和国料理なんかもちょいちょい見かけるしそれらも食べる。食べ歩きをして食欲を満たしつつオジサンの財布に経済的打撃を与えなきゃ。うまうま。
「そろそろ始まるようだぜ」
「お」
と、なんやかんややってる間に遂にフォクシーパレードが始まるようでシャヒーナちゃんがお客さんに向けて手を振っていた。サァラちゃんの代わりってことだけどシャヒーナちゃんも十分魅力的だよね!
とはいえ純粋にパレードを楽しむことは出来ないんだけどさ。シャヒーナちゃんが仮面を取り出して……うわぁ、始まっちゃった。なんか踊りと共鳴して他のダンサーとか導力シーシャを吸ったことのある人たちが暴走しちゃってる。クロスベル再事変で起きた現象と一緒だね。あの仮面は《黒の工房》製だろうし。
そして元凶はアルジュメイラホテルにいる。多分ジェラールやらオーギュストやらがいるんだろうね。第4のゲネシスを使ったはずで、ヴァンたちもそれを察してサァラちゃんや他の人に協力してもらって結界を突破してホテルに向かうみたいだ。
「ハハハハハッ……! 気が利いたショウじゃねえか! 一年半前の再現──仮面も“工房”のリサイクル品ってトコか?」
「うふふ、こないに愉しい見世物、“蛇”に取り込まれた時みたいやねぇ」
「私的にはどっちも苦しかったけどね」
「そやったそやった。懐かしなぁ……あの子は今頃何しとるんやろか?」
「最近は普通に楽しく過ごしてるみたいだよ。──ま、それはともかく……民間人を巻き込むなんてやっぱり最低だね。
「ああ。後は好きにしな。オジサンたちはここで応援してるぜ」
「頑張ってなぁ」
「うん。じゃあまた後で」
刺激的な事件が起こって笑ってるオジサンやレティ姉さんと軽くやり取りをしつつ、遂に許可をもらったので私はすぐに動き出す。まずはメルキオルとオランピアちゃんと合流だ。
「お待たせ」
「やあ姉さん。遅かったね」
「裏解決屋は先に入っていきました」
「うん。それは分かってるよ。私たちも追いかけよっか」
「それはいいけどどうやって入るの?」
「レティ姉さん直伝の技を使うだけだよ」
ということで私は合流して早速《ゾルフシャマール》を取り出す。そしてオープン・セサミ。空間を切り裂いて結界に一時的に隙間を作り、そこから結界内に侵入する。メルキオルとオランピアちゃんもついてきてくれた。
「さすが姉さん♡ 惚れ惚れする太刀筋だね」
「無事侵入できましたね。どうします? 早速、最上階に向かい暗殺を実行しますか?」
「うーん、ちょっとだけタイミングを見よっか。やってくることは読まれてるだろうし侵入には気づかれてるかもしれないけどやりやすい時に仕掛けたいかな」
「それはそうだね。ならこっそり侵入して中の様子でも確認しようか」
「了解しました。隠密行動と索敵を実行します」
よしよし、2人共頼もしいね。これで幹部とか構成員が邪魔してきても大丈夫そう。ヴァンたちもいるしね。出来ればヴァンたちが仕掛けるタイミングで私たちも仕掛けたいなぁ……それでサクッとジェラールの首を刎ねれればそれでよし。出来なくても逃がしたくはない。このままここで殺す。毒が効かないっぽいのが面倒だけど試して損はないし、とっておきのを刃とか針には塗っておこう。お客さんと従業員がいなければホテルに爆弾でも仕掛けるんだけどね。それが出来ないのも惜しかった。予めアルジュメイラホテルを買収するってのも考えたけどそれやっちゃうとバレちゃうからなぁ……結局乗り込んで直接やるしかないんだよねっと。
さて、それはともかく中の様子は──『デデーン、ヴァン、アウトー』──え?
「さあお食事替え歌ゲーム! 次のお題は──カツ丼!」
「こ、衣を纏う! 豚肉を解き放って、たま、卵の何かを綴じたまえ~♫」
「豚肉を解き放つんですか?」
「くっ──」
──デデーン、ヴァン、アーロン、アウトー。
「ぐおっ!? ──おい痴女! 意味不明な歌詞やめろや! フェリもマジレスかますんじゃねぇ!」
「だ、だって仕方ないでしょ! こんなの即興で出来るわけないじゃない!」
「す、すみません。つい……」
「俺が言えたことじゃねえがいいから笑うなお前ら! 笑わせる行動も気をつけろ!」
「じゃないと先に進めませんからね……!」
……………………え?
「何やら狂ったことになってるみたいですね」
「あらら、随分と踊らされてるね。どうするんだい姉さん?」
「…………2人はまだ隠れてて」
──私はメルキオルとオランピアちゃんに指示を出してから進行役をやってるアルマータ構成員を気絶させて告げる。
「ヴァンたち……何やってんの?」
「なっ……!?」
「アーヤか……!」
「…………はぁぁぁぁ……あのさぁ……」
私が出ていくとヴァンたちは驚いた表情でこちらを見てくる。
だけど私は深く溜息を吐いた。
何しろ今は事態が事態だ。だからこそヴァンたちにこう思う。
「ヴァンってばこんな事態なのに──なんでフザケてるの?」
「いや半分はお前のせいなんだよ!!!」
「え?」
……? 半分は私のせいってどういうこと? そんなわけなくない? って思ったけど指摘されたので考えてみると……。
「…………あ! もしかしてアルマータが私の血とか利用してた感じ?」
「アルマータの首領はそう言ってたし、そうじゃねぇとこんなフザケた事態になんねえよ」
「あー……そっかそっか。ならしょうがないね。
「っ、冷たい息吹が……」
「修羅の気配ってやつね……」
なんかフェリちゃんとかジュディ──じゃなかった。今はグリムキャッツとか他の面々も含めてちょっと怖がってる感じがする。でもしょうがない。始末なんて物騒なこと言っちゃってるしね。譲れないから許してほしい。
だけどヴァンはそれを受け入れた感じで一度呑み込むと冷静にこちらに言葉を投げかけてくる。
「……ま、あの人形も含めて利用されたお前がそうしようとすんのも無理はねえが……アルマータの連中からは聞きたいことが山程ある。ここは少し譲歩してくれねぇか?」
「譲歩? そんなのいらなくない? サクッとやるだけで解決するんだからさ」
「だから聞けっての。ここまで用意周到に準備して仕掛けてきた連中だ。どんな手札を隠し持ってるのかも分からねぇ上、連中がいると思われる最上階にはニナ・フェンリィやゴッチ監督。エルザイムの皇太子にその護衛官──
ヴァンからの話を聞いて私は予め認識していたその事実を改めて思う──そう、そうなんだよね。
映画祭が行われてシェリド殿下と共に飛行船に乗っていたクローゼちゃんたちは事が起こってからすぐに事態の解決に動いている。だからこそ、どこかに囚われてる可能性は高いし助け出そうとは思っていた。
そのためにもさっさとジェラールや幹部連中を煉獄に送ろうと思ってたんだけどね。ただどういう風にやろうかはまだ考え中ではあった。
「…………それで?」
「俺たちが先に最上階に行って連中に仕掛ける。その隙にお前には殿下たちや人質の救出を頼みたい。お前の隠密能力ならそれが出来んだろ」
「確かに……地下でも見たあの息吹の薄さなら……!」
「ええ、人質を救出できる可能性は高いでしょうね」
「始末すんのは後からでもできんだろ。まずは巻き込まれた連中を救い出すのが先じゃねぇか?」
「そうよ! だから今は私たちに協力しなさいよね!」
「ニナさんや殿下たちのためにもお願いします……!」
ヴァンに具体的な方策を聞かされ、それからフェリちゃんとリゼットちゃんが頷きを入れ、アーロンくんにジュディスちゃん、アニエスちゃんまで私を説得してきた。
なんでそんなに必死になって説得してきてるんだろって疑問には思ったけど……まあ言われてみればそれはそれで都合は良いかもしれない。クローゼちゃんたちは助け出したいし、ヴァンたちが先に突っ込んでいってくれるならその隙を突くこともどっちみち出来る。そもそも敵対する気なんて全くないんだからそんな焦らなくてもいいと思うんだけど……ここは話の流れ的にこのまま乗っかっておこうかな。
「──わかった。いいよ」
「アーヤさん……!」
「まあ私もクローゼちゃんたちは助け出したかったし、どうしようか悩んでたところだったしね」
アニエスちゃんや他の人も
「あっ──痛っ!?」
「しまっ──うおおお!?」
「ひゃぁん!?」
「痛え!?」
「思わず気を緩ませてしまいました……!」
「迂闊でしたね……!」
「……えっと……なんかごめん」
「いや……これは俺たちが悪いから気にすんな……それより人質の件、頼んだぜ……」
「う、うん。じゃあ隙を見て救出するね」
「ああ……」
解決事務所の面々が笑ってしまったことで金色の獅子獣人みたいな奴に雷を当てられる。それを見て私は何とも言えない気持ちになりつつもヴァンたちを見送った。うーん……なんかすごい空間だね。これから笑いの刺客たちがヴァンたちを襲うんだろうなぁ……普通に気になるから見てみたいけど今はそんな場合じゃないんだよね。
「どうやら《アルマータ》はすごく可笑しな実験を行ってるみたいだね、姉さん」
「笑いという事象を感知すると刺客が現れ不可避の攻撃を行ってくる……ですか。何故このような実験を行うか理解不能ですね。私には感情はないので問題ありませんが」
「キチガイの考えることなんて考えても無駄だよ。それじゃタイミング見て人質を救出するからお願いね」
「了解です」
「わかった。それはいいけど姉さん、さっきの殺気、惚れ惚れするぐらいすごかったよ♡ 常にああなら僕も怖くて何も出来ないくらいにはさ」
「そんなのどうでもいいから行くよー」
ということでヴァンたちを見送った後はメルキオルとオランピアちゃんを連れて再び隠密行動。人質救出のために動く。なんかメルキオルが殺気がどうのとか言ってるけど割とどうでもいい。今はちゃんと消してるしね。
なので笑わないようにだけ注意しつつ最上階に向かう。
するとどうやらヴァンたちはさっきの雷獣王……ナージェさんが変身したっぽい存在と戦ってるみたいだった。ニナちゃんにゴッチ監督。それとクローゼちゃんとユリアさんは操られたナージェさんたちに負けたのか、あるいはジェラールとオーギュストに負けたのかは分からないけど捕まってしまっている。シェリド殿下も苦しそうに倒れてるし、なんかスキップされたっぽい? あんまり覚えてないけど先に2人と戦ってなかったっけ?
まあでもそれも関係ないので私はアイコンタクトをメルキオルとオランピアちゃんに向けて行った──アルマータの連中の意識がヴァンたちに向いたタイミングで仕掛けるって。
「来たか“メア公”! やっと仕込みを活かせるぜ──頼んだ! 担当SC!」
そうしてまたしても止まった時の中でメアちゃんが現れ、ヴァンがリゼットちゃんの助けを借りてグレンデルに変身する。相変わらず私はこの中でも意識を保って動けてるけどいつものことなので気にしない。
……ん? 待てよ。今この間に移動しちゃえばいいんじゃないかな? ささっと移動して時間が動き出したタイミングでクローゼちゃんたちを助け出せばいい。そうすればそのまま暗殺に移行できる──よし、そうしよう。
「ははは……! それが黎き枷の魔装……! 面白い……!」
「…………クク、まさかな…………」
オーギュストとジェラールがヴァンの魔装鬼に反応している間に、私は全員を糸で縛り付けて入口側へと引っ張る。
「あれが──きゃあっ!?」
「なんじゃあああああ!!?」
「引っ張られて……!?」
「これは……糸……!」
ごめんねー。糸で引っ張るのはちょっと強引だけど安全のためだから許してね。
「──呑気に見物してないでさっさとあの世に行きなよ」
「!? ──っぐ……」
結界を切り裂いて、そのままジェラールに向けて私は《ゾルフシャマール》を振るう。……惜しいね。結界があるせいでギリギリで反応が間に合ってしまった。
「お前は──」
「対象を始末します」
「アハッ♡ それじゃ君はこっちで遊ぼうか」
「っ……! フッ……なるほど。《庭園》の管理人2人がかりとは……どうやらよほど私たちのことがお気に召さないらしい──アーヤ・サイード」
そして変態オーギュストの方もオランピアちゃんとメルキオルの奇襲を受けて迎撃する。さすがにすぐには殺せないか。まあ2対1ならいけそうだけどね。こっちもタイマンなら頑張ればいけなくはないだろうし。
「アーヤ先輩……!」
「このタイミングで来やがったか……! だがあの連中は……」
「どういうことでしょう……!?」
「よく分からないけど……これでニナたち……人質は何とか助け出せたわね……!」
「アーヤさんがあの2人に協力を頼んだんでしょうか……?」
「お前ら、考えるのは後だ! まずはこいつを倒すぞ!」
背後でヴァンたちが《庭園》の管理人2人が現れたことに驚いて盛り上がってるけどヴァンが号令をかけてそのまま雷獣王と相対していく。
それを感じ取りながらも、私はジェラールに刃を振るった。他のことはどうでもいい。無駄口も叩かない。ただ目の前の標的をやるために動くだけ。
「フッ……! 問答も容赦もなしか! それも当然だろう! フハハ、以前見た時より更に《修羅》の気が強くなっているぞ!」
「うるさいなぁ……いいから早く死んでくれない?」
笑うとお仕置きをしてくる雷獣王はグレンデル化したヴァンとかにかかりきりになってるからか、そのルールは適応されてない。残念。笑った瞬間に感電したジェラールの首を落とすとかも考えてたんだけどね。
しかし……これは手強いなぁ。
ジェラールの得物は空間から取り出した《聖魔剣アペイロン》で古代遺物の1つだ。効果はよく分かんないけど剣としてはすごいし、ジェラール自身の実力も並の達人を超えてるっぽい。
それらの実力を改めて戦いながら確認していく。奇襲が失敗し、こうして真正面からの戦闘になった時点ですぐに殺れるとは思ってない。だからこそ丁寧にやっていく。
普段だったらこんな強い相手と戦いたくないしすぐに逃げるし勝てるとも思わないけどね。どうしても殺らないといけない相手だからどんな手を使ってでもやらないと。
「はあはあ……
「ヴァンさん……!」
「……お見事でした」
「これで後は……!」
──おっと。思ったより時間が経ってた。ジェラール・ダンテスの戦い方。癖や技術。使う導力魔法や強さを確認しながら戦ってたらいつの間にかヴァンたちが変身してたナージェさんを倒してる。
「やるではないか裏解決屋……! それでこそ夜明けをもたらす舞台の役者に相応しい……!」
「僕も興味津々だけど今は指示をこなすのに必死だから見れなくて残念だなぁ……!」
ついでに確認するけどオーギュストもまだ仕留めてないみたいだね。んー……2人ならいけると思ったけどオーギュストが粘ってるのかな?
「はあはあ……観念なさい! 悪趣味な趣向はここまでよ!」
「ああ──名残惜しいがそのようだ」
そしてパレードの方もサァラちゃんがシャヒーナちゃんを正気に戻したことで全員が正気を取り戻したみたいだね。それは良かった良かった。
さ──後は目の前の元凶をやるだけだね。
「クク……成果としては十分だろう。だが──やはり《切り裂き魔》はこの程度で終わらせるつもりは毛頭ないか……!」
「当然でしょ。ジェラール・ダンテス。それと──オーギュスト。あんたもちゃんと殺すから。絶対に逃さない」
「フ……怖い怖い。そのように虚ろな目を向けられてはな」
「! それがあの暗殺者の名前……?」
「!? そいつは……(偶然か……? だが──)」
ジェラールと鍔迫り合いを行いながらオーギュストにも狙いをつける。やれるならいつでもやる。何やら背後でヴァンたちがどよめいてるみたいだけどそれも今はどうでもいい。
「クク……以前にも思ったが、やはり貴様は面白いな、アーヤ・サイード。それも《奇蹟の御子》足る所以か? 改めて聞かせてもらいたいところだが」
「うるさい喋るな。すぐにその口ごと葬ってあげる」
互いに相手を弾き返して距離を取ったところで私は懐から取り出した薬を服用する。薬の名前は《AS-DROP09》。私専用強化薬の最新Ver。オジサンの新作だ。
「!? 姿が消えやがった!?」
私は外野の声も無視してジェラールの背後に移動すると上がった身体能力を駆使してジェラールを切り裂こうと試みる。
だけどギリギリガード。そして背後に下がられたので私は《ゾルフシャマール》を投げて攻撃。回転しながら迫る刃をジェラールは弾く。
だけどその弾かれた《ゾルフシャマール》をすぐにキャッチして縦に振り下ろし。前にレーヴェが見せていた連携だけど虚を突くには実際使えるんだよね。
後は身体能力も上がってるし、斬撃も出せる──その前に
「ぬおおお!? また引っ張られとる!?」
「注意しろお前ら!!」
ん、ヴァンが注意を呼びかけてくれた。ありがたい。一応監督とかの非戦闘員とかアニエスちゃんみたいな当たりかねない相手は糸で引っ張って当たらないようにしたけどヴァンのおかげで若干手間が省けた。
「“グリムシザー”」
「!?」
なので《ゾルフシャマール》でジェラールを挟み切ろうとして──躱される。惜しい。ホテルの最上階の壁……というか建物に一線が走っちゃったけどちゃんと真横に放ったので最上階が切れてずり落ちる心配はないね。セーフ。
「無茶苦茶な……!」
「ハハハ……! 腕前は分かっていたつもりだが更に手強くなっているな!」
「このままでは些か分が悪いが……どうする? ジェラール」
「相手をするだけ無駄だ。何しろ
「だから逃さないって」
「! いけない──皆さん……!!」
「! 下がれっ……!」
まだまだお喋りする気満々かつ逃げようとしてるジェラールやオーギュストを殺すために私はそれに気づきながらも
ホテルの外に現れた小型の導力飛空艇。その機銃掃射。それに気づいたリゼットちゃんやヴァンは注意を呼びかけてるし、皆はシャードで防御してるけどね。私は一応弾きながらも軽く当たる分は無視して追いかける準備をする。
「っ……化け物め……! 機銃が直撃してるってのに何ともないのかい!?」
「ああ、ヴィオーラにアレクサンドルだね。幹部全員そこにいるんだ。なら手間が省けるね」
「……まさに最強の暗殺者、か」
導力飛空艇の甲板に《アルマータ》の幹部2人も確認した。なら追いかければ全員殺せるね。
「ではまた。《庭園》に裏解決屋も次の舞台で」
「つくづく縁があるようだ──また、会うこともあるだろう」
「待て……! 最後に一つだけ聞かせろ!! お前ら──どこまでやるつもりだ?」
「決まっているだろう、裏解決屋。──
ヴァンからの質問に答えてどこまでもやると言ってるジェラール。最新鋭のステルス艇だけどこっちも最新鋭の機械で追いかけよう。
「来て──《ズルフィカール》」
「!? これは……!?」
「クロスベルや帝国で使われたという……!」
「結社の神機ってやつかよ……!」
当然、予めこういったことを想定してたので追いかける準備はしてる。追いついて撃墜出来る可能性は半々くらいだけどやれる可能性があるならやった方がいい。
「メルキオル、オランピアちゃん」
「ええ。追跡を続行します」
「はいはーい。それじゃこっちは仕事があるんでチャオ。中々刺激的だったよ♪」
「っ、待てアーヤ!」
「先輩!」
私に続いてメルキオルとオランピアちゃんも神機の背中に乗ってもらって直ぐに起動。背中にヴァンやクローゼちゃんの声が届くけど……今はそれに応えてる場合じゃないんだよね。でも一応簡単に答えておこう。
「ごめん。
「っ……」
去り際に流し目で皆のことを確認してみたけどなんか息を呑んでた。
そこにどんな感情が浮かんでいるかは私にも何となく分かったけど……だからといってやめることはしないし、割り切るしかないよね。相手がアルマータなのもあって分かってくれるだろうし。
ちょっとバツが悪い気もするけどそれも割り切れば気にならなくなる。なので私はそのまま《アルマータ》の幹部連中をそのまま神機で追いかけ続けたが……途中で神機が原因不明の不具合を起こしたため、それ以上追いかけることは出来ずに私はアルマータを今回も逃がしてしまう羽目になったのだった。
──ただサルバッド映画祭の事件はこれで一応解決し、ギャスパー社長以外の死傷者が出ることもなく終わった。
ヴァンたちも4つ目のゲネシスを無事に回収し、新たにマルドゥック社からの出向という形でリゼットちゃんが解決事務所に加わったことを後で確認した。
だからアルマータを逃がしたこと以外は一応順調とも言える。
ま、それが問題なんだけどね。なので私は今回も飲食店を貸し切って管理人を4人集めて会議を開いた。
「ジェラール・ダンテス及び幹部3名の居所は未だ不明です。メッセルダムやオラシオンといった関係が疑われる街でも目撃情報はありません」
「ステルス挺で逃げられちゃさすがにお手上げだよね。あの神機も運悪く故障しちゃったしさ」
「今までもずっとその船で逃げ回ってたんじゃねぇか?」
「ふむ。だとしたら追跡は困難を極めるであろうな」
《金》のオランピアちゃんに《棘》のメルキオル。《鏖殺》のアリオッチに《剣》のエンペラーまで全員揃って報告と連絡を行う。組織はホウレンソウが大事だからね。お飾りのボスだけどそういうところはちゃんとしないと。
「それよりもちょっと聞きたいんだけどいいかな? メルキオル?」
「? 何かな姉さん」
だからまあ一応聞いておかないとね。
「この間のサルバッドでのことなんだけど……メルキオルってもしかしてやる気ない?」
「やる気ないって……よく分かんないんだけどどういう意味?」
「アルマータをちゃんと殺す気あるのかなって思ってさ。この間、あんまり本気出してなかったみたいだし。最初っから本気出してたらオーギュストくらい仕留められてたんじゃない?」
そう、私が気になったので聞きたかったのはそれ。メルキオルがなんだか本気の殺意を向けてなかった気がしたんだよね。それよりも愉しみを優先してる感じというか……まあメルキオルにはよくあることなんだけど、それにしても怠慢してるように見えた。
「どうなの? メルキオルはやる気ない? だったらこの仕事はやんなくてもいいんだけど。いるだけ邪魔だし」
「……………………」
私の質問に珍しく全員が静まり返る。
他の3人はメルキオルの答えを待っていて、メルキオルの方はそれを聞いて少しだけ驚いている様子だった。
だけどややってメルキオルはいつもの笑みを浮かべてみせる。若干バツが悪そうに頭を掻きながら。
「あー……それはごめんよ姉さん。僕のいつもの悪い癖が出ちゃったみたいだね。アルマータとの抗争……あのオーギュストやらジェラールとの殺し合いが楽しくてさ。つい戦いを長引かせちゃったんだ。次からはちゃんと最初から本気で殺しに行くことにするよ」
メルキオルは謝罪と釈明を行う。メルキオルならよくあることだし、それを聞いて納得は出来る。
ただ……やっぱり愉しみを優先してるのは伝わった。ならやっぱりメルキオルには任せておけないかもね。
「……わかった。なら次はちゃんと本気でお願いね?」
「了解ボス♡」
「フ……なら次の候補地──バーゼルでの行動に関しては我とメルキオルで進めても?」
「一応私も行くよ。だからちゃんと報告して見つけたら本気でやってね」
「了解した」
アルマータがどう動くかはある程度予想がつく。なので次に動くであろう学術都市バーゼルではエンペラーとメルキオルが向かう予定だ。
ただメルキオルは愉しみを優先しちゃうし、エンペラーもエンペラーでそういう節はあるからね。暗殺の実行犯としては任せられない。やっぱ人任せってよくない。私がやりたいことはやっぱ私がやるべきだしね。
ただお手伝いとしての人員ももうちょっと整理した方がいいだろう。ってことで家に帰ってから私は他の人に協力をお願いする。
「レンとエースくんは視察研修どこに行くか決めた?」
「……自分はまだ決めてない。なんなら行かないことも考えてた」
「あら、それは勿体ないんじゃない? 私はバーゼルに行こうと思ってるわ」
家庭の団らん。夕食の席で丁寧に食事に手をつける制服姿のレンと同じく制服姿にエプロンを付けておかわりのご飯を持っているエースくんに視察研修の行き先について尋ねる。
レンとエースくんはどっちもアラミス高等学校の2年生だからね。エースくんは昨年も視察研修には行ってないし、レンは今年から編入してるからどっちもどこかしらには向かうことになる。
なので直接の暗殺はやらないにしろ(というかやらせたくない)ちょっと簡単な手伝いくらいは頼もうかなってことで。
「だったらエースくんもバーゼルにしたら? 私もちょっと仕事兼小旅行で同じ時期にバーゼル行こうと思ってるからさ。イクスとヨルダも連れて」
「はぁ!? ボクたちも行くのかよ! 全然聞いてねーんだけど?」
「いつものことだけど急すぎ……急に旅行とか言われても準備とか色々あるんですけど……」
「まだ時間あるんだからいいじゃん。ってことでエースくんそれでいい? 向こうでもし時間が会えば一緒に過ごせるかも!」
「……まあ、自分は構わないが……」
「私も構わないわ。だけど……この時期に急に旅行ってちょっと気になるわね。また何か隠し事でもしてるんじゃない? アーヤ?」
うっ、レンが瞳を細めて探るように聞いてきた。鋭い……でもなんとか隠さないと! 少なくとも確定するまではね!
「そ、そんなことないない! まあ怪しい気がするからちょっと調べてみたいことがあるだけで! でも杞憂かもしれないから今は気にしないでいいよ!」
「ってことはなんかあるんじゃねーかよ」
「……別にいいけど私たちに何やらせる気?」
「……仕事は仕事でも裏の仕事のことなのか?」
「はぁ……ま、隠し事が少なくなったのは良いことだけれど……なら当日までにはちゃんと説明してくれると期待していいのかしら?」
「た、多分大丈夫! それにもし嫌だったら断ってくれていいからね!」
というか心情的にはそっちのがいいし楽でもある。暗殺に関わることなんて本来やらせない方がいいからね。もう既に手遅れではあるんだけどやらせないに越したことはない。
「……何をやるのは聞いてからじゃないと何とも言えないけれど……どんな話でも受け入れるつもりではあるわ。そもそも既に《アルマータ》関連なら関わってしまっていることだし」
「今更どうとも思わねーよ。ダルいけどあいつら邪魔だしな」
「同感……やるならさっさと済ませたい」
「自分も問題ない」
うわっ、なんかレンを筆頭に何をやるか見抜かれてる……まあ《アルマータ》を狙ってるのは知ってるからそりゃそうなるよね。
本当はあんまり手伝わせたくないんだけど、なんかきな臭さも感じるし、いざという時に手を借りれれば民間人の被害も防げるから来てくれた方が有り難い。
「──なら決まり! 来月はバーゼルに家族旅行で決定ね!」
そして行くと決めたなら表面上は楽しもう。何もなければそれで良し。何も起こらない間はどっちみち楽しめる。事件が起きたら切り替えればいい話だ。
なんだったら前々からバーゼルは警戒してるのもあって《アルマータ》も動かないし何も事件起こらない可能性も結構あるからね。その時は普通に観光を楽しんで──
──七耀暦1208年。10月25日。
「おい、アーヤ姉。モンスター倒したぜ」
「またアイテム出てきた……役に立たなそうなものばかりだけど」
「やっぱ雑魚モンスターをどんだけ倒しても意味ねーんじゃねぇの?」
「ああ。鍵はやはり
「うん、そうだね……」
その日、私たちは色々あって現実ではないけど現実に似た仮想空間──ゲームの中に閉じ込められてしまいました……。いや、なんで? そりゃ説明は聞いたけども! なんかキャラハン教授とかアルマータが作ったらしいあのフザケたAIとかウイルスのせいなのは分かるけど!! ちょっとワクワクするけど今はそんなこと言ってる場合じゃない! とりあえず次はヴァンたちを探して──いや、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないし、さっさとこのゲームをクリアしてアルマータを殺らないと! 目指せゲームクリアー! うわああああああああああん!!
あけましておめでとうございます。めちゃくちゃ遅いけど新年一発目のアーヤちゃんでした。これにでサルバッド編は終了ということで今年も頑張っていきたい。
次回はバーゼル編。学術都市なのですごいインテリジェンスな話になるんだろうなってことでお楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。