──僕はもう子供じゃない。
だからグランマがいない間、出された宿題をしっかりこなしながら留守番をしっかりと務めないといけない。
「──これだけの時間がありながらどうして進捗の1つもない!! カルバード最高の研究室に所属していながら何たる体たらくだ!!」
そう……務めないといけないんだけど……。
「──サイード系列のS-HARDが家庭用新型導力端末の発売を発表!? 幾ら何でも速すぎる!! くっ……こちらはまだソフト開発で手一杯だというのに……! このままでは家庭用導力製品のシェアがまた奪われてしまう……!! 何とか対策をせねば……!! ──サリシオン君!!」
──そう……だからこそ僕は博士の作った居場所を守るためにもこのバーゼルで案件をこなさなければならない。
理科大学の方ではデビット・キャラハン教授の怒号が毎日のように鳴り響いて少し憂鬱だし、そこに所属してる人たちが心配ではあるけれど僕が首を突っ込むことじゃない。
だから今1番の問題はヴェルヌグループのトップ。ビル・タウゼントCEOから投げられてくる諸案件の対応だ。
というのも今ヴェルヌ社──共和国最大の導力技術メーカーであるヴェルヌグループは幾つも問題を抱えているらしい。
Xipha規格の民生化をこれから行おうという途中でヤン兄やエレ姉が抜けたり、エトワスとレッドスターが特許訴訟を起こしたり、アルドラとZCFが技術提携を行ったり、AF計画が事前リークされたり、アラミス高等学校からの視察研修があるからその対応をしたり、サイードグループの系列会社のS-HARDから新たな家庭用導力端末の発売が発表されたり、バーゼル市内で導力ネットが遅延していたり、工業用導力供給網の不安定化があったり……列挙すれば切りが無いくらい対応しないといけないタスクが山積みなんだとか。
だからタウゼントCEOは僕に博士の天文台のことを脅しにかけてまでその手伝いを命じてきた。だから僕は仕方なくタウゼントCEOの秘書というかお手伝いというか……とにかくそういうことを最近こなしている。
……まあ僕に手伝いを頼んだそのやり方はともかく、実際にヴェルヌ社やバーゼルにとって対応しないといけないことが沢山あるのは確かだから僕は溜飲を下げながらも一応精一杯その諸問題を対応していくことにした。
元々僕たちハミルトン門下生にとってバーゼルは家のようなものでヴェルヌ社はグランマが最高顧問を務めていた場所。理科大学と職人組合が母体となった産学共同という性質もあるし、考えようによっては僕が手伝いを行うのも意義のあることかもしれない。博士のいない間に僕がこの場所を守るんだという想いもあるしね。
ただそれでも……さすがに体力的にも精神的にも疲労は蓄積するのは避けられない。
最近は天体観測もまともに行えていないし、どうにか息抜きがしたいけどまとまった時間が中々取れない。
だからそういう時、僕は──
『カトル。対戦ガ申シ込マレタ。受諾スル?』
「! 今は次の案件まで少し時間があるし……よし、勿論受けるよ。バトルマスターが申し込まれた勝負から逃げるわけにはいかないからね」
『BOW!』
──僕はFIOの確認を受けてから自分用の家庭用導力端末を取り出して勝負を受ける。導力ゲーム《ファンモン》の勝負を。
そう、僕の最近の息抜きはこの導力ゲームだ。ここ1、2年でかなり普及──あのサイード社の開発した幾つもの導力ゲームが発売されてから僕は何だかんだ導力ゲームに……正直なところハマっていた。
最初は一技術者として興味深いという程度の認識だったんだけど、一度それで手を出してからはその……自分でも恥ずかしいくらいのめり込んでしまった。
でも面白いんだからしょうがないと僕は言いたい。《ビートオブゼムリア》は曲に合わせてノーツを叩くという体感型のゲームシステムが面白いし、《コトワリファイターズ》は一対一でキャラを操作して対戦するというシンプルかつ奥深いゲーム性が面白いし、《スカイストーリー》は1人用でストーリーに合わせてレベルを上げて冒険するという斬新なゲーム性がいい。それとシナリオが神だった。《スーパーゼムリアカート》は複数人で遊べるレースゲームでアイテムを使いながら抜きつ抜かれつのハラハラするレースバトルが楽しめる(ヤン兄やエレ姉ともやったけど楽しかった)。
……それとこれは絶対に誰にも内緒にしてる上にデータも隠してるんだけど……最近出た恋愛シミュレーションゲーム《キズナメモリアル》もその……すごかった。恋愛シミュレーションというだけあって架空の異性のキャラクターとの恋愛をするゲームなんだけど……とにかくすごかった。男性用と女性用があるんだけど僕はどっちもプレイして全ての攻略対象をしっかりと攻略して完全クリアした。全員シナリオが良かったけどその中でもやっぱり正統派清楚系お嬢様のジャンヌとちょい悪お兄さんのダミアンが……ごほん。まあその、中々興味深いゲームだったかな……。
とまあ色々……というかこれまで出た全てのソフトを遊んでるんだけど、その中でも最もハマって今でもやってるのはやっぱり《ファントムモンスターズ》。縮めてファンモンかな。
架空のモンスターを集めて育てて戦わせるゲームなんだけど、これがまたかなりやりこみがいがあって。導力ゲームの中でもかなり人気を集めてるソフトなんだけど他人と対戦出来る上にその戦略性が奥深すぎることもあってずっと遊べるゲームなんだよね。
そして自慢じゃないけど僕はバーゼルエリアの《バトルマスター》。バトルマスターっていうのは分けられたエリア内で最も強いトレーナーだけに与えられる称号。だからこのバーゼルで1番強いファンモントレーナーは僕ということになる。いや、自慢じゃないけどね。僕が導力ゲームをやってることを知ってるのはヤン兄やエレ姉にグランマとジスカール親方を除けばFIOとXEROSくらいで他には誰もいないし。
ただそれだけに昨年クロスベルで行われたゲームショーに参加出来なかったのは悔やまれるし、そこで開かれたファンモンの世界大会もオンラインから参加したけど途中でシメオンという現四天王の1人であるトレーナーに負けてベスト16で終わってしまった。まあベスト16も十分な成績だけどそれでも悔しかったなぁ……。
なので次こそはリベンジするために息抜きとしてよく新しいファンモンを育てたり戦略を考察したりこうして申し込まれる対戦を受けたり(まあもちろん僕が勝つけどね)、サイードグループから発売される各種グッズを導力ネット上で眺めたり、たまにやるコラボグッズなんかをこっそり買ったり(バーガーエンペラーの付属のファンモングッズとか。店に行って興味ない振りして何とか手に入れた)、隙間時間を見つけては攻略に勤しんでいた。
……い、いやまあもちろん博士からの宿題を怠ってはないし、こうやってタウゼントCEOから投げられるタスクもしっかりこなしてるよ。……ただ前者はともかく後者がなければもっと時間が出来て色々と……って思わなくもないけどこれはもうしょうがない。僕は子供じゃないんだからちゃんとやるべきことはやらないと……。
『カトル。チャットガ来テル』
「あ、本当だ。しかも──」
──そうしてやるべきことをこなしている最中、再びFIOから通知が来てることを伝えられたため僕はXiphaを開いてそれを確認し、苦笑する。その文面はいつも通り明るい気軽なものだったから。
『やっほー。今暇? 良かったら一緒にゲームしよ!』
その文面を送ってきた相手のハンドルネームは《SAI》。
チャット上でも分かる朗らかな性格の持ち主で僕の唯一といっていい導力ゲーム仲間だ。お互いに導力ネット上だけで使う名前でやり取りして互いの素性は一切知らないし知る気もない。
昨年の4月くらいだったかな。導力ゲームの対戦を行ってかなり良い勝負をして、しかもかなり斬新なプレイスタイルだったから驚いていると向こうから「強いね!」とチャット上で声をかけられて、僕も相手の攻略法が気になったから少しやり取りをして……そこから何となくたまに連絡を受けては導力ゲームを遊んだりする相手になった。
そこまで頻繁に連絡を取り合っているわけじゃないけれどそれでも一緒に遊んでいて楽しい相手。互いにリアルのことは知らないこともあって何も気にする必要がないのも気楽で良かった。
だからその時も僕は気楽に返信を行う。
『少しだけなら時間があるしいいよ。何をしようか?』
『やったー。じゃあやっぱ《クリーチャーハンター》しようよ! 1回くらいなら出来るだろうし!』
『わかった。それじゃすぐ起動するね』
相手からソフトの提案が来たためそれを快く受けてソフトを起動する。ちなみに《クリーチャーハンター》というのは今月発売したばかりのS-HARDの新作導力ゲームで強大なクリーチャーをハンティングするアクションゲームだ。最大4人での協力プレイを売りにしててだからこそ僕は(ここ最近忙しいのもあって)あまりプレイ出来てなかったんだけど《SAI》が一緒にやるならその点も問題ない。ソロでも出来るし面白いけどこのゲームは協力プレイが醍醐味でもあるからね。
『少し通信が不安定だね……大丈夫かな?』
『あーたしかに。でもへーきへーき! 多分やってる内に良くなるって!』
『どこからそんな根拠が……まあいいけど。それじゃ依頼受注するね』
ゲームをやっている最中、最近問題になっている導力ネットの遅延が起きて少しだけ不安になりもしたけど運良く《SAI》の言う通り、プレイ中は特に通信状況に問題はなく普通にプレイできた。……まあプレイが終わった後はまた通信が不安定になってしまったけどね。やはりどうにかしないとな……。
『結構素材も集まったし今日も楽しかったね!』
『うん。僕も結構進んだよ。ありがとう《SAI》さん』
『気にしなくていいよー! それじゃまたゲームで遊ぼうね! 次は《クリハン》じゃなくて別のゲームで!』
『わかった。また今度ね』
……そうして《SAI》さんとのチャットを終えて端末をしまう。すごく良い息抜きになった。チャット上だけでも《SAI》さんはすごい明るくてリアクションが豊富だから一緒にやってて楽しいしこっちもつい笑ってしまう。僕と同じかそれ以上に導力ゲームに対しての造詣が深いしね。
だから《SAI》さんのような普通に導力ゲームを楽しんでる一般人のためにもバーゼル市内の問題は早めに解決しないとね。タウゼントCEOは問題を表沙汰にしないように原因究明に努めてほしいって言ってるけど……実際なんで遅延が起こっているかは調べても原因を特定出来ないでいるんだよね。
今度その問題も含めて解決するために首都から人が来るみたいだけど……何でも大株主のエルザイム公国が雇った裏解決屋って人が来るらしい。タウゼントCEOじゃないけど確かにちょっと胡乱というか肩書だけ聞いても信用し辛いな……。
ああ、それとあのサイードグループの会長もヴェルヌグループとの取引のためにやって来るみたいだ。ヴェルヌ社としては最も重要な案件かもしれないし、一応僕の方でも気にかけて失礼がないようにしないとね。単純にどういう人物なのか気になるし、もしかしたら導力ゲームについての興味深い話が聞けるかも──
「──ではまずこちらをご覧ください。今回私が紹介したいのはこの画期的な新製品『導力オ◯ホール』です。このホール内は特別な伸縮素材で作られていて密着、真空状態を作り上げて心地よさを感じることが出来ます。その上で導力によって微細に振動したり、更には回転したりします。更には導力端末に繋げて今度こっそり発売されるちょっとえっちな導力ゲームに連動して──」
──お、大真面目に何をプレゼンしているんだこの人は!!?
他の案件を終えて応接室を覗いてみたらアーヤ・サイードと思われる人がとんでもない導力製品をプレゼンしていて僕は動揺し、顔が熱くなった。最初は意味が分からなかったけど説明を聞いてみればすぐ理解出来てしまった。アレはそういう用途に使うもので……発想はすごいかもしれないけどすごく頭が痛くなる……理科大学の倫理会議に出すべきなんじゃないか……?
ただ僕の懸念虚しく、後で調べたら実は理科大学でもそういうものを研究している学生は既にいるみたいで……暗黙の了解的に認められていることが分かって僕はほんの少しだけげんなりした。そしたらヤン兄が「……技術というものは戦争と医療、そしてエロティシズムによって発展する」とカップに入れたコーヒーを僕の前に置きながらそう慰めてくれた。僕にとってはデリケートな部分だから避けてたけどそういう世界があると知って僕はちょっとだけ大人になった……芸術家とか技術者って意外とそういう変態……じゃなくて変な人が多いって多分こういうことなんだろうな……。
──ゲームスタート! どうもアーヤ・サイードです。ゲームスタートとは言ったけど最近忙しすぎてゲームあんまりやれてないんだよね。
というのもサルバッド映画祭の後から表の仕事も裏の仕事もさー……色々あるんだよね。
まあまず表の仕事の方から片付けよっと。とりあえず今一番私がやらないといけないのは年末のイーディスファッションウィークやイーディスガールズコレクションに出す衣装を作ることだね。当たり前だけど今回も出るし大注目されてるから気合い入れないと。ある程度はもう出来てるんだけどもう何着か斬新なのを考え中。共和国のファッションリーダーとして皆をあっと驚かせるようなのを見せないとね。
それに加えて最近はデザイナーの卵を見てあげたりもしてるね。やっぱ私のとこには私に憧れてとか影響されてとかでデザイナーになりたいとか服飾に携わる仕事がやりたいって面接を受けに来たり会社とかお店を訪ねてきたりとかが多いからね。そういう若い子達はまとめてリバーサイド区にある寮に住まわせてサイード系列のお店で働いてもらいながら服飾の勉強をさせてる。家賃とか生活費はいらないけど代わりに会社で働いてね! ってことだ。ミシンとか布とか糸とかボディとか服飾に必要なものは寮にあるアトリエで好きなだけ使っていいし、デザイナー志望ならたまに私がデザイン画見てあげるよって感じ。
本当は日曜学校の代わりになるような私立の学校とか作りたいんだけど教育機関は意外と手続きやら審査やらが面倒で……一応手続きはやってるけど設立は来年になりそうなんだよね。これでもグラムハート先生にお願いして認可は普通に比べてかなり早く出来てるけどさすがにすぐには出来なかった。なので働ける年齢の子は会社で雇いながら、そうでない子は孤児院で養いながら勉強させてる。そしてデザイナー志望の子は私が見てあげるね! 安心してほしい。私はウチのアパレルファッションデザイナーかつ実は“杖の2”だったルーナちゃんと違って辛口じゃないし優しいから。いつも笑顔でにこにこアドバイスしてあげてる。こんな感じで。
「わーすごい! どこにでもありそうな良い服だね!」
「トレンドを取り入れてていいね! オリジナリティは全然ないけど!」
「この袖の部分にセンスを感じる! 色合い終わってるけど!」
「うん! すごい斬新! 斬新すぎて私にはよく分かんないかな!」
「デザイン画に画力はそこまでいらないけどこれはアレだね! まず絵の練習から始めようか!」
──ふー……今日も良い感じにアドバイス出来たなぁ。皆良い子だし努力が見える。……え? 何かなセラちゃん。ちょっと厳しい? いやでもちゃんと駄目なところは駄目って言わないとその子のためにならないし……特に独立したデザイナーになるんなら厳しくしないとさ。既にあるブランドのプレタポルテだけ手掛けるなら全然良いんだけどねー。セラちゃんも良く分かってるでしょ? ってことで次の仕事へレッツゴー!
本職とも言えるデザイナー業はいつでもどこでもやりつつ次のお仕事へ。次は飲食店の視察。今度お洒落なコーヒーチェーン店を出そうと思ってるんだよねー。なのでアデーレちゃんと一緒にコーヒーやら軽食。お店の外装や内装なんかもチェックしつつ煮詰めていく。まあ私は適当に案だけ出して精々お店のデザインだけして後は試食するくらいなんだけどこういう仕事は楽しいから行くようにしてる。それ以外はセラちゃんとかアデーレちゃんにお任せするね!
そういう系で行くとサイード系列の他の会社も私は案を出してるだけで門外漢のものばかりだからそこまで口出ししないんだよねー。最近流行ってる導力ゲームなんかもそう。今月は《クリーチャーハンター》っていうゲームを出したんだけど売れ行きも評価も絶好調だね。流行りまくってる。でも導力ゲームはどんどん次を出していかないとね。なので次は今開発中のファンモンの新作のモンスターのデザインをスーニャちゃんと一緒に考えないと……シメオンにも連絡しなきゃ……。
それと導力端末だったり新しい導力製品も幾つか開発、販売しようとしててその関係でちょっとヴェルヌ社と取引したかったりするんだけどその辺は任せてる。まあ一応私もトップとして顔合わせたりしないといけないんだけどね。精々にこにこ美少女フェイスで良い印象を持ってもらおうと思ってるかな。
なのでレンとかエースくんの視察研修に合わせてバーゼルに行く用意をしつつ……ああ、そうそう。バーゼルに行く理由が裏だから裏の仕事についても調整しないとね。
まずオジサンにはあらかじめ了解を取ってて今回は自由にやらせてくれるらしい。だから見つけたらすぐにやれる。ジェラールはいない可能性が高いからそれは残念だけどね。もし幹部を見つけたら今度こそ絶対に逃さない。
そのためにも色々と準備をしてる。例えば、この間壊れた神機の修理ついでに博士のところに行って戦闘訓練プログラムを受けたりした。トールズ分校にあったアインヘル小要塞みたいなやつだね。博士特製の人形兵器と沢山戦えるんだけど……。
『──LEVEL《ⅩⅩ》CLEAR。戦闘プログラムを終了します』
「んーっ……はぁ。終わりっと。博士ー。次のレベルおねがーい」
「……現時点では今のが最高レベルだ。これ以上となると神機を出すことになってしまうが……どうするかね?」
「そっかぁ。神機はまたちょっと話が変わってくるからやめとこっかな。さすがに単独で神機の相手はキツそうだし」
「フフ、それは残念だね。君なら薬物強化も含めれば良い勝負が出来ると思うのだが」
「買いかぶりすぎじゃない? それに私が得意なのは人間相手だし、これ以上がないならもういいかな。次は人間相手に練習しないとね」
「……ふむ、そうかね……(前回の計測時より数値が大幅に向上している。黄昏やバベル事件を乗り越えた経験によるものか、あるいはこれが本来の彼女のポテンシャルか)──ああ、それと神機ズルフィカールの修理は終わっているよ。解析も含めてね」
「修理は分かるけど……解析って?」
「ああ、神機ズルフィカールの不具合の原因だが──」
私は訓練を終えてから博士からついでにとある話を聞いて……。
「…………それ、本当?」
「ああ。データに偽りはない。なんなら君自身の目で確認してみるかね? 君のXiphaに記録を送ろうじゃないか」
「……そっか。ありがとう博士。──おかげで仕事が捗りそうかも」
──それでちょっと
ただ……確かめたいんだけど肝心のその相手が見つからないし連絡が取れない。なのでなんか黒かなーと思いつつも一旦保留にして他の用事を先に進めることにした。
もうちょっと情報とか得られないかなーって思いながら私がイーディスの街を歩いていると──
「うおおお──! いいぞー! やれやれー!」
「普通の喧嘩じゃねぇぞ!?」
「な、なんかヤバいんじゃ……!」
……ん? 用事があって黒芒街に来てみるとなんか東の方にある酒場が盛り上がってた。なーんか覚えのある気配を感じるなぁとは思ってたけどちょっと覗いてみる──あ! ヴァルターにジン! それにヴァンと……げっ。鬼畜眼鏡と教会の嫌な人たちの筆頭がいる。
「クハハハハハハ……準S級か……なんで受けねぇんだ?」
「まだ足りんというだけさ…………泰斗とは関係ない……お前をここで止められれば少しは自信が付くというものだがな……!」
「カカカ……面白ぇじゃねえか……!!」
あーそういえばこんなイベントあったっけ。でもヴァルターとジンってしょっちゅう戦りあってるからなぁ。黄昏の時も戦ってたし、もうなんか慣れてきた。正直もうわだかまりは解けたみたいなもんだし、兄弟弟子同士でじゃれ合ってるみたいに見えちゃうんだよね。ヴァルターも以前と違って仮にジンに勝っても殺したりする感じはしないし、もう迷惑のかからない場所で好きなだけやりあえばいいと思う。
「ちょ、待てやオッサン共……!?」
「これは止められなさそうですねぇ」
「フム……立ち会えて光栄だ」
「……いしや~きいも~……♫」
でもヴァンとかは相変わらず苦労してるね。可哀想だけど私も止めようと思わないからなぁ。せめて甘いものでも食べて元気出してほしい。私は私で黙って見てようかな。
「オオオオオオオオオオオッ……!!」
「はああああああああああっ……!!」
「──いい加減になさい」
「ッ……!?」
あ、キリカさんだ! キリカさんがぴしゃりと凛々しい声でヴァルターとジンを止めてくれた! 懐かしいなぁ。リベールに行った時は遊撃士協会で働いてたんだけどそれから共和国のロックスミス機関で働いて今はCIDの室長をやってるんだよね。
「キリカ……!」
「……チッ、意外と早かったな。もう少しくらいは粘れると思ったが」
「男同士、積もる話でもあるだろうと気を使って見逃してあげてれば……──準S級にNo.Ⅷがいい歳して何をやっているのかしら?」
「いしや~きいも~♫」
そうだそうだー! いい歳してこんな場所で喧嘩なんて本当に男って馬鹿だよねー。キリカさんが呆れるのも分かる。オッサン同士が道端で喧嘩で熱くなるなんて見てられないよね。
「──アンタはアンタで妙な客人を連れてるみたいだが」
「ああん……? アタシらに文句あんのか? 共和国の裏解決屋──いや、《崑崙流》の落ちこぼれ伝承者が」
「! アンタら、まさか……」
「いしや~きいも~♫」
おっと、そういえばもう2人ほど新しい乱入者がいたんだった。でもこっちはなぁ……実は私、よく出くわすんだよね。なんか昔から私のこと追いかけてきてるみたいでさ。ヴァンはその発言にちょっと驚いてるし皆も興味が湧いてるみたいだけど私的にはそんなに驚きはない。
「まあまあ、セリスさん。すぐにガン付けるのは良くないですよ。いくら表と裏でフラフラしている、どこの馬の骨とも知れない人だからって」
「……ってオイ……」
「アタシはそこまで言ってねぇぞ……お前の方がヒデーじゃねえか」
「いしや~~きいも~~♫」
そして教会関係者……というよりあの人の関係者はヴァンのこと嫌いな人が地味に多いんだよね。その筆頭はこの2人かな。弟子という共通点があるからかな。あの人もヴァンも大変そうだなぁ。
「いや、それにしても案内してもらった甲斐がありますね。三大拳法の使い手と、東方武術を極めた《蛇》きっての武術使い──それにまさか貴方とこんな場所でお目に掛かるなんて」
「…………」
「ハッ……最近チョロチョロと妙な動きをしてると思ってたが。まさか《蛇》とヨロシクやってるとはいい度胸してるじゃねえか、アア?」
「いしや~~きいも~~♫」
「……何の事か分かりかねるな。自分は通りすがりの旅行者──彼らとは偶然居合わせたにすぎない。捨て置いていただこうか、オルテシア卿、バルタザール卿」
「って認めてんじゃねーか!?」
「あはは、面白い人だなぁ、“副兵長”さんは」
副兵長さんは淡々としてて相変わらずだね。前に会った時は普通に襲われて大変だったなぁ……すぐに逃げたけど方陣は自己強化とか連携を高める類の術だから若干面倒なんだよね。いつも複数人だしさ。
「クク、お前も大変だな? こんな跳ねっ返りどもの引率とは」
「まあ、一応協定を結んでいるから。貴方たちには打ってつけでしょうし」
「──コラ、誰が跳ねっ返りだって?」
「いしや~~きいも~~♫」
「ブイブイ言わせてるみてーだが、いい気になんなよ、“痩せ犬”のオッサン」
「おいしい、おいしいお芋だよ~♫」
「そこの堅物まとめて思い知らせてやってもいいんだぜ?」
「……へえ。どう思い知らせてくれんだ、小娘? 背中のデカいのに振り回されてそうだが。毛も生えそろってなさそうなガキのくせ──」
「……27だ」
「へ」
「アタシは27だ、文句あるか?」
「お爺ちゃん、お婆ちゃん、奥さん、表と裏の狭間で生きてる旦那さん、どう見てもティーンエイジャーにしか見えない合法ロリのお嬢ちゃん、これから駆けつけてくる助手たち、おいしい、おいしいやっきたてのおいもだよ~♫」
「……ああ、そう。まァ……需要はあんじゃねえのか?」
「殺す」
「あーあ、踏んじゃいましたねぇ。背と童顔だけは禁句なんですから」
「リオン、てめーも殺す。それと……」
「いしや~~~きいも~~~♫ おいしい、おいしい、おいも──」
「てめーもうるせぇんだよ!!! おいもおいもおいもって!! しかも途中、アタシのことを明らかに言ってんじゃねーか!! ──って、よく見たらてめー……アーヤじゃねぇか!!?」
「!?」
「いつの間に……!」
あ、バレちゃった。みんなに焼きたての美味しい芋でも振る舞おうと特製のリアカーでちょっとずつ近づいたんだけどね。バレないならそれで良かったけどバレたならしょうがない。元気良く挨拶しよう。
「やっほー。セリスちゃんにリオンくん。それにヴァンにヴァルター、ジンさんキリカさんも久し振りー。あ、ツァオに副兵長さんは何もしないでねー」
「言われずとも何もしませんよ」
「……………………言ったように私は通りすがりの旅行者だ。通りすがりの焼き芋屋に何かするつもりはない。現時点ではな」
「アーヤか……」
「ハッ、相変わらずフザケた隠形だな。それはともかく……てめぇはてめぇで何してやがんだ?」
「ん? 見て分からない? 焼き芋屋さんだよ! 友達の農家の子が最近困っててさ。さつまいもを沢山売る方法がないかって愚痴ってたから焼き芋屋さんを提案して今はそのテストというかプレオープン中。なので皆にもあげる! 1つ100ミラね! セリスちゃんも買いなよ。育ち盛りでしょ?」
「ああ!? だからアタシは27だ! てめーまたアタシのことをガキ扱いしやがって……!」
「してないしてない。身体を大きくするにはやっぱりいっぱい食べた方がいいかなって思っただけだよ。この間あげたぶら下がり健康器とか身長を伸ばすサプリとか使ってくれた?」
「勝手にアタシらの部屋に入って置かれたものなんか使えるか!! 特にてめーから渡されたサプリなんか怪しくて使えるわけねーだろ!!」
「あれはすごかったですねぇ……グラハム卿なんてずっとツッコんでいましたから。『なんでネギやねん! ネギが食べたくなる薬って何やねん! 何で俺の部屋が八百屋になってんねん!! しかも八百屋なのにネギしか売ってへん!! しかも売り物着払い!! おまけに経営が苦しい八百屋からのものやから微妙に返し辛い!! そもそも薬の効果を解くにはこのネギが必要で──ってだからなんでネギやねん!! 意味が分からんわ!!』……という具合に。ああ、そういえばコラボレーションTシャツ、ありがとうございます」
「いいよいいよー。リースちゃんやガイウスくんは喜んでくれてたかな?」
「ええ、一部の方々以外は概ね。不法侵入はどうかと思いますがね」
「って、リオンてめー! 何をよろしくやってやがる!!」
「ですがセリスさんもアーヤさんから送られた共和国の人気コミックス集に関してはしっかり読んで楽しんでいましたよね?」
「っ!? てめーなんでそれを!?」
「あ、読んでくれたんだ。どれが面白かった?」
「よ、読んでねーよ」
「──定番ですが《ドラゴンサバイバー》にハマっていましたね」
「だからなんでてめーは知ってんだよ!! まさか覗いてやがったのか!?」
「いえ。ですが時折その作品の名台詞の引用や明らかに影響を受けたような言動を繰り返していましたからね。なんだったら訓練場では必殺技の真似なんかもしていたと目撃情報が……」
「うっ……! そ、それは……」
「ドラサバいいよねー。あれ私の高校時代の同級生が作者なんだけど昔っからあんな感じの漫画描いてたんだよね。主人公のライバルの元ネタがその昔描いてた漫画の主人公で……」
「マジかよ……!? その昔の漫画も気になるな……──って、だからなんでお前とヨロシクやってんだよ!!」
「まあまあ。美味しい焼き芋でも食べてよ」
「食べるかっ!!」
「たく……アークライド。代わりに相手でもしてやれよ?」
「なんでだよッ!!?」
「あ、いました!」
「ヴァンさん……! ──って、ええっ!?」
「ツァオ……!? つうかなんだそのカオスな面子!?」
おーおー、すごいいっぱい人が集まってきた。気配は感じてたけどやっぱりアニエスちゃんたちだったね。エレインちゃんもいるし、裏解決屋も集合。そしてヴァンが助手たちに隠して黒芒街にやって来たことを責められてる。
そしてこうなるとヴァルターとジンも喧嘩どころじゃないし、今からドンパチしたり剣呑と睨み合いするのもなんだかなーってことでヴァルターやセリスちゃんにリオンくん、それと副兵長さんはこの辺りでお暇していった。
「立ち去る前に美味しい石焼き芋買っていかない?」
「だから買わねーよ!!」
「えー……せっかく私の友達が一生懸命育てて美味しく食べてもらおうと考えた石焼き芋なのに……」
「うっ……ぐ……てめー、そういうやり口は汚ぇぞ……」
「諦めましょうセリスさん。物自体はいいものみたいですし。──ということで2ついただきます」
「……自分も貰っておこう」
「俺は買わねぇぞ」
「あ、ヴァルターにはもうバイクの荷物入れのところに入れておいたから」
「!?」
「皆ありがと~。まいどあり~♪ それじゃヴァンたち、私も芋を売ったらこの辺りでお暇するねー」
「……そうか。まあ芋はいいが……それはともかくこっちとしちゃお前に幾つか聞きたいことがあるんだがな」
「そ、それはまた今度で。私は忙しいからね! はいこれ人数分! それじゃ皆、また今度ねー!」
そうして私もまた皆に石焼き芋を振る舞ってからその場を一瞬で立ち去る。ふぅ……危ない危ない。ヴァンのあの感じからして明らかに私にとってあんまり聞かれたくないことを聞いてきそうだった。具体的には《庭園》のこととかね。
というのもサルバッドじゃ私とオランピアちゃんたちが一緒に行動していたことはもうバレちゃってるし……何だったら振り返るとちょいちょい管理人がゼムリア大陸西部で私に近しいところで動いていたことも含めて結構情報のピースが出揃ってきてる。CIDとか遊撃士協会も結構掴んでるんだろうなぁ……一応ちょっとだけ確かめてみよ。特製リアカーをすぐに片付けてから気配消してもう一度さっきの場所に戻って聞き耳を立てて見ると……やっぱり。案の定、ヴァンたちが《庭園》についての話をしていた。
「……そのヤバい連中が今はアルマータと抗争してるわけだ。伝説の暗殺者にして結社にも所属してる《切り裂き魔》……アーヤと管理人が一緒に行動しているとこも含めてどう繋がっているかまでは分からねえが……」
うわぁぁ……やっぱり結構バレてる……《庭園》が子供を使う暗殺組織であることや《園》や《管理人》の存在までバレてる……私が《庭園の主》をやってることは殆ど誰も知らない本当のトップシークレットだからなぁ……それこそオジサンとレティ姉さんに管理人、《血の園》の構成員数名に後はアルマータの連中くらいしか知らないと思う。
だから具体的な立ち位置は分からないにしろ、何か関係があるんじゃないかとは睨まれちゃってる。そろそろ年貢の納め時かもしれない……。
……いやまあでもいっか。嫌は嫌だけど《アルマータ》さえ皆殺しに出来れば他のことは割り切れる。バレちゃったら謝ろう。そして潔く解散でも何でもすればいい。
ただその前にやるべきことだけは済ませないとねっと。
なので私は農家の友達にリアカーと売上を渡してから笑顔で別れ、今度は夜の街に。アルマータとは別口なんだけどやらないといけないことがあるんだよね。
それと一応プライベートな時間も出来たから映画でも見よっかな。地味にゴールデンブラッドの完全版まだ見てないんだよね。これ見よーっと。キャラメルポップコーンとチュロスとアイスカフェオレを頼んでと。
そうして映画を楽しんだ。通常版は1回見てるけど何度見ても面白いし完全版はえっちなお色気シーンもあっていい感じ! さすがはゴッチ監督! エンターテインメントに振り切ってるね!
「あっ、ヴァンじゃーん」
「げっ……お前も来てたのかよ」
「まあね。ヴァンも完全版見たんだ。ジュディスちゃんの追加シーンえっちで良かったよねー」
「またお前はそういうことをあけすけに言いやがって……」
「これくらい別によくない?」
「慎みの問題だ。ったく……それにしてもお前、この時期は忙しいんじゃなかったか? 年末は毎年コレクションがあんだろ」
「よく知ってるねー。もしかしてヴァンも来たことあったり?」
「情報として知ってるだけだ」
「ふぅん、そうなんだ。ま、実際忙しいけどね。でもカリスマファッションデザイナーとしてはインプットも大事にしないといけないんだよね。だから流行りの作品とかは見るようにしてるよ。インスピレーションを得られるかもしれないからね」
「自分で言うな自分で。……でも確かに昔っからお前は映画が好きだったな。最近じゃ映画会社まで設立したんだったか」
「友達が映画撮りたいって言ってたからだったら一緒に作ろう! って感じでやってみただけだよ。ヴァンはもう見た?」
「いやまだ見てねえな」
「そっかー。なら今度見てみてよ! かなりの力作だからさ! なんだったら私を誘ってもいいよ!」
「……考えといてやる。どんな奇天烈な映画か気になるからな」
──という感じで、なんかヴァンを見かけたからちょっとだけ立ち話をした。私のコネクトポイントが上がりそう。いやまあ今更ではあるけどね。イーディスで活動してるとヴァンとニアミスしたりすれ違ったりばったり会ったりすることはまあまああることだから。
ヴァンの方は夜の見回りを定期的にやってるし、今日もそんな感じだろう。他の助手は誰もいなかったしね。私もかなり忙しいけどヴァンもヴァンで結構精力的に働いてる。
あ、そうだ。せっかくだしまたヴァンに手伝ってもらおうかな。別に私1人でもいいけどヴァンがいた方がスムーズに進みそうだし。Xiphaにチャット送っとこーっと。ぽちぽち……これでよし。ヴァンは忙しいから私のお願いを聞いてくれるとは限らないからね。ヴァンは4spgにアニエスちゃんたちとのコネクトイベントやら映画鑑賞やらで忙しいし。
「! ──なんて思ってたのにこっちに来るなんて……」
「あ?」
「……もしかしてヴァンって私のこと好きなの?」
「やっぱ帰っていいか?」
「わーっ! ウソウソ! 冗談だって! ヴァンって忙しいからてっきり今回は断るもんかと思ってさ」
「……確かに暇ではないけどな。厄介そうな匂いがしたんで受けねぇにしても話くらい聞いておこうと思っただけだ」
「そっか。ならお願いの内容だけど……簡単に言えば売人を見つけ出すことかな」
「売人……か。そいつはもしかすると……お前に関係する薬のことか?」
「! へぇ、ヴァンってばやっぱり鋭いね。まあそういうことだよ。ちょっとこの辺りに
「なるほどな……」
「どう? 協力してくれる?」
「──いいだろう」
「やったー。ありがと。それじゃ久し振りに私も依頼人兼助手として頑張るね!」
「いや、お前に頑張られると大抵ロクなことにならねえからやめてほしいんだが……」
「まーまー細かいこと気にしなーい。それじゃ早速しゅっぱーつ!」
私は笑顔でヴァンを引き連れて歩き出す。てっきり断るかと思ってた私からの連絡に応じてこうしてやってくる辺りやっぱりヴァンは律儀だよねー。もっと他の助手たちとかのイベントが控えてるだろうにさ。てっきり私とコネクトイベント起こして私との関係を深めようとしてるのかと思ったけど違うっぽい。
なので私とヴァンは薬の売人を見つけるために地道な聞き込み──
「うわあああああああ!!?」
「──って、何で急に落下してんだよ!?」
「いや飛び降りた方が早いと思って。ほらヴァンも早くー」
「お前みたいな人外と一緒にすんじゃねぇ……普通は無理だっつーの」
──になるかと思ったんだけどね。結構派手かつ波乱万丈な冒険が始まった。
売人のアジトと思われる古い建物を調べた後はその建物の屋上から飛び降りて──
「HEYHEY! 俺とのダンスバトルに勝てば欲しい情報をくれてやるYO!」
「仕方ないね……行くよ、ヴァン! レッツダンス!」
「ああ! ──って誰が踊るか!! 言われるままについて来ちまったが……そもそも誰だよこいつ!?」
「え? DJマリトッツォさんだよ、知らない? このクラブでDJっぽい格好でDJっぽいブースの後ろでDJっぽく動いてるここの常連さんで情報屋だよ。日中はピザ屋さんでパスタを作ってるんだ」
「FUFU……ターンテーブルは回せねぇしピザも回せねぇがパスタを茹でるのは得意だZE」
「聞いても分かんねぇし1リジュも理解出来ねえ趣味だな……本当に情報屋か? 聞いたことねぇぞ……」
「ここに来るお客でダンスバトルに勝った人にしか情報をくれないからね。今まで私以外のお客っていた?」
「いや、嬢ちゃん1人だZE」
「情報屋でも何でもねぇじゃねぇか……」
「とにかく踊るよ! この人の情報は確かだからさ!」
「くっ……仕方ねぇな……!」
──私がたまに贔屓してるナイトクラブにいるたまーに良い情報をくれる情報屋さんとのダンスバトルにヴァンと一緒に挑んで情報を手に入れたり……。
「ここがマリトッツォさんに聞いた《地獄の窯インフェルノサンクチュアリ》……!! なんて禍々しい……!!」
「ああ……ってただの飲食店じゃねーか!! 名前が禍々しいだけで!!」
「クックック……ようこそ我が聖域へ」
「しかもなんかまたクセの強い奴が出てきやがったぞ……」
「もしかしてあなたがここの主……《鉄板》のポルナレフ……!?」
「その通り……話はマリトッツォから聞いています。例の調味料の仕入先を教えるのは構いませんが……その前に私の《ヘルデリシャスベタイユクレープ》を喰らってもらいます」
「《ヘルデリシャスベタイユクレープ》……!! あの……!!」
「ただのデカいお好み焼きじゃねぇか!」
「ここって鉄板焼き屋みたいだからね……よし、ヴァン。夕飯代わりに挑むよ!」
「ああくそ……! 食えばいいんだろ食えば!!」
「お代はいりません故、どうぞごゆっくり……」
──教えてもらった飲食店で巨大なお好み焼きを2人で何とか平らげて仕入れた相手を教えてもらい……。
それからも荒くれ者を倒したり、ダンジョン(っぽい普通の建物)に挑んだり、謎解きを行ったりして……そして遂に売人の居場所を突き止めた。
「……つまり例の薬が混ぜられた調味料が裏から流されているから、それを流してる奴をとっちめるってことか……そんでこの黒芒街に売人が潜んでると……」
「ええ……遂に辿り着きましたね。二次面接まで」
「そっかー。良かったね」
「…………で、こいつは誰だ?」
「ん? 就活の帝王ディミトリさんだよ。私が預かってる子の友達でさ。偶然出会ったから世間話してたの。ちなみに就活しながら黒芒街の飲み屋でバイトしてるんだ」
「年齢は30歳です。それでは私はこれで」
「うん、またねー」
「……………………そんじゃ踏み込むぞ。とりあえずブツと身柄を抑えて──あ、おい……!」
私はイクスの友達が見えなくなった瞬間、即座にその売人のねぐらの1つに気配も音も何もかもを消して踏み込む。
薄暗い室内。積まれた箱。そこに入ったとある液体に各種調味料。空の小瓶。
それらを確認しながら奥の部屋に進めば──そこには売人と思われる男がいた。
「よし……今月も十分稼げた。次はまたねぐらを変えて──」
「──あなたが例の調味料の調合師で売人だね」
「!? だ、誰だ!? ──がはっ!?」
私は男が振り返る前に男の身体を壁に括り付けて拘束する。発言からしてもう余裕でアウト。情報でもアウト。最後に確認して3アウトってところかな。
「しかも《D∴G教団》の関係者なんだよね? 5秒以内に答えないと煉獄に送るよ」
「だ、だからお前は……ひいっ!?」
「──質問の答え以外の言葉は遺言になるから気をつけてね」
「っ……ち、違う! 別に俺は教団に入っていたわけじゃ……! ただ昔は連中に頼まれて……薬の原材料を調達して卸してただけで……! あ、あんなイカれた奴らの仲間じゃねぇよ……!」
「でも今はそこから奪った《薬》を調味料に混ぜて売ってるんだよね? 旨味が強くなる上に若干の中毒性がある。表向きには普通の化学調味料だって言いながらさ」
「そ、それはそうだが……で、でも別に身体に有害なものじゃねぇって話だし、俺も試してみたが身体はむしろ健康そのもの──あぐっ……!?」
「そういう問題じゃないんだよね。……ま、教団と絡んでたこともあるし、効力も良く分からないまま適当に血を混ぜて売ったりしてるし、普通に良くないよねってことで。──後の言い訳は女神様に聞いてもらう感じでいいよね?」
「ぅ、ア……や、やめ──」
そうして私は《ゾルフシャマール》の刃を開き、男の首を背後から挟み切ろうとする。
だがそこで──
「──やめろ、アーヤ」
「! ああ、ヴァン。お手伝いありがとね。これで仕事は完了ってことで後で振り込んでおくからもう帰っていいよ。お疲れさまー」
「……薄々匂っちゃいたが……お前、
私を追いかけてきたんだろう。背後からヴァンが制止の声をかけてくる。挟み切ろうとしていた刃を男の首の寸前で止めて、私はヴァンの質問に頷いた。
「そんなことはないよ。半々くらいかな。教団の関係者じゃなければやってなかったかもだけど……どの道、
「…………まあお前がそこにこだわってることは知っちゃあいたし、気持ちも分からねぇでもねぇが……そいつはやめとけ」
ヴァンは小さく溜息を吐いてから平然と私の隣に立って私の肩に手を置いてくる。今にも男の首を挟み切ろうとしている私の腕を、力ではなく言葉で止めるように。
「ヴァンも知ってるでしょ? この世にはこういう解決方法が必要な奴らがいるってさ」
「……確かにな。俺も相手によっちゃあそういう手段を絶対に選ばないわけじゃねえ」
「なら──」
「だがそいつは見たところ小物だ。大した奴じゃない。ここにあるブツと一緒に警察かギルド辺りに突き出せば一生表に出てくるこたぁねえだろ」
「……………………」
「お前の普段のやり方や判断には、少なくとも
ヴァンは落ち着いて、私に対してそんな説得をする。
場合によっては腕尽くで私を止める──ってわけでもなさそうだ。この状態で私が本気で男を殺そうとすれば止められないことは分かってるんだろうね。
だからスタンキャリバーを取り出すこともないし、敵意も何もない。ただ肩に手を置いて止めるように言葉を投げかけてくる。
……正直なところ、ヴァンだったら分かってくれると思ってたし、仮にこうなっても強行するつもりだった。
私としては殺したい気持ちはまだある。
だけど殺さなければならないってほどには至ってない。だから──
「……しょうがないなぁ」
「──うっ……」
──私は峰打ちで、男を気絶させる。
そして《ゾルフシャマール》をしまってから息をついた。
「ヴァンがそこまで言うなら今回は見送ろうかな。ふぅ……ヴァンに手伝ってもらって良かったんだか悪かったんだか……難しいところだね」
「いつも思っちゃいたが……やっぱ手慣れてんな」
「そりゃこっちの仕事も大ベテランだからねー。今年でもう16年目かな。慣れるとも慣れたいとも思ってなかったけど人間なるようになるもんだね」
男を一瞬で気絶させた私の手際を見てヴァンが感想を口にする。感心したわけでもなさそうだったけどね。
「それじゃさっさと突き出そうか。どういう風にするの?」
「……ああ。それはこっちに任せてくれ」
そしてその後はヴァンの言う通りにギルドと警察に匿名で連絡して売人を突き出した。ここまで事情聴取した人や被害にあった飲食店の人たちもどういうことがあったのか事情を説明してくれるように頼んだ上でね。
その後はリバーサイド区の橋の下でちょっと休憩。それから別れることにしたんだけど……。
「お疲れ様ー。やっぱこういう手回しさせたらヴァンは一級品だね」
「警察やギルドに頼れねぇ依頼を受けるっつっても場合によっちゃそっちに頼ったりすることもあるからな。今回もそのケースだったってだけだ」
「そうなの? 明らかに裏の依頼っぽくなかった?」
「その匂いを嗅ぎ取っちゃいたが……お前からの依頼に関しちゃ裏よりも表の方法を取った方が丸く収まる。わざわざ俺に頼るような案件なら尚更そうだろ」
暗に他人に頼らない仕事だと絶対殺すような黒い案件ばっかりだろうからって言われてる気がする。
ただまあそれも間違ってない。問答無用で殺す相手なら一々ヴァンとか表の人間、他人に頼ることはあんまりない。
最近だと管理人やイクスとかヨルダ、エースくんとかレンに私の裏の仕事を軽く手伝ってもらうようにもなってしまったけど……それも教団やアルマータみたいな例外が相手だからこそ。普段は手伝わせることはないからね。
だからヴァンは何だかんだその辺りを理解してるらしい。《アルマータ》に関する動機まではまだバレてないはずだけど……ヴァンは鋭いからなぁ。取っ掛かりくらいは掴んでるのかもね。
「ま、そうかもね。私もやらなくていいならそれに越したことはないしさ」
「そうか。だったら1つ、改めて言っとく」
「? 何かな?」
「俺は裏解決屋だ。表に頼めば解決するようなことや、裏に染まりきった依頼を受けるつもりはない」
ヴァンが私に向き直った上で真剣な表情で裏解決屋の流儀を告げてくる。うん、まあヴァンはそうだよね。狭間に惑う人を助けるんだっけ。実際良いことだよね。その狭間で困ってる人は実際にいるんだしさ。
ただそういう切り口で来るということは……もしかして今後は私からの依頼は受けないってことかな? あー……まあそれならそれでしょうがないね。実際アルマータの一件で最近はちょっと気まずいし……距離を置くのもいいかな。うん、考えてみれば私としてもその方が良いかもしれない。ヴァンや他の助手たちにも悪いしね。
「……そっかそっか。オッケー。なら今後は──」
「だが限りなく裏に近い依頼だとしても……
「へ?」
「さっきも言ったようにお前の気持ちや言いたいことも分からないでもねえ。時にはそれが必要な時……その方法が限りなく正解に近い時だってあんだろうしな。──だがやらなくていいならそれに越したことはない。その言葉が本当なら相談くらいは聞いてやる。だから今後こういう依頼を出す時は……事前に全部事情とか諸々を話すようにしろ。そうじゃなきゃ協力出来るもんも出来ねぇからな」
「……………………」
「……おい、どうした?」
私はヴァンからのそんな意外な言葉を聞いてちょっとだけ面食らう。てっきり今後は依頼も受けないって言われると思っただけにね。
相談は聞けるし協力も場合によってはする。そんな以前に他の人からも聞いた言葉をかけられ、私は何とも言えない気持ちになる。クローゼちゃんとかエステルちゃんたち。ロイドくんたちやらリィンくんたち。レンたちといい皆よく私にそんなこと言うよね。
私の方は何度も
だから今回もヴァンに対して、私は苦笑を浮かべる。
「いや、何でもないよ。次からは気をつけるようにする。それでいいかな?」
「ああ。そうしろ」
「……ヴァンってそういうところあるよねー。エレインちゃんとかレンとか他の子たちもそんな風に誑かしたの?」
「誑かしてねぇよ! ったく……お前こそそうやって肝心な時に茶化すところは変わってねぇじゃねぇか」
「ふふん。“いつも明るく楽しく未来に向けて”が私のモットーだからね。ヴァンも少しは私を見習った方がいいんじゃない?」
「……ああ、そうかもな」
そして自慢気に胸を張って私を見習うように誘ってみるとヴァンは意外にもそれを認める。ヴァンもヴァンで過去は色々あるからねー。教団被害者っていう私と同じ境遇でもあることだし、それに関係するあることでかなりこじらせちゃってるから。
だから私もヴァンの気持ちは分からないんでもないんだよね。どうしようもない過去のことだから私は割り切るけどさ。もし割り切れないことだったら──
「ってことでまずは私を見習ってクラブで朝までフィーバーする?」
「しねぇよ! さっき踊ったので十分だっつーの!」
「Yes! パーリナイ! カモン! ヒア!」
「やめろこんなところで……! って、いつの間に車用意しやがったんだ!? おいやめろ! 俺を車に押し込もうとすんじゃねぇ──!!?」
──その後、私はヴァンをどうにかこうにかしてクラブでオールコースに誘おうとしたけどヴァンには逃げられた。なのでまた今後ねーって普通に別れた。でも私のコネクトポイントは多分上がってランクは★2になったよ! さすがヴァン! 今後も何かあったら誘うね! アルマータ関連は気まずいけど!
そうしてしばらくは平和かつ忙しい週末を過ごし……それから少し。七耀暦1208年、10月23日。木曜日──
「イクスー、ヨルダー、準備できたー?」
「とっくに出来てんぜ!」
「眠い……こんな朝から行く必要ある……?」
「今回は車で行くから早めに向かわないとね。途中のドライブスルーで朝ごはん買っていこっか。あ、おやつもあるよ! セラちゃん!」
「準備は出来ているよ。ヴェルヌ社との会談で使う資料もこちらの鞄。おやつは後ろの袋にまとめて入れてあるからね」
「ありがとー! それじゃ早く行くよ! 乗って乗って!」
「テンション高い……」
「運転するのがアーヤじゃねぇのが救いだな……」
私たち《血の園》! 管理人の私に構成員にイクス、ヨルダ、セラちゃんは私の車に乗ってバーゼルに出発! エースくんもアラミスの視察研修で向こうに行くし、レンも庭園じゃないけど同じく視察研修!
この布陣で《アルマータ》の幹部や構成員。そして裏切り者をぶっ殺すぞー! おー! そうじゃなくても楽しい小旅行、ピクニックになりそうだね!
──と思ってたのに……。
「なんで私だけこんな目に……」
私はバーゼル市内のホテルで意識を失っているように見えるイクスやヨルダを前にしながら憂鬱だった。導力端末に送られてきたメール。そして謎の棒状の導力機。それを前にしながら私は文面に目を通す。
『──いえーい。私見てるー? もう知っての通り、私はあのバベル事件で作られた私がメルキオルの手によってAIに変換された存在。
「…………ふぅー…………」
私は久し振りにすごい悩んだ。悩んだ結果、どうしようもないなぁ……と思い、覚悟を決める。現実で出来ることはあるかもだけど皆のことが心配だし……私はその棒状の導力端末を手に取り、差込口に──セットした。
「──プラグイン!! アーヤちゃんエグゼ! トランスミッ──」
──うわああああああああああああ!!? すごいいいいいいいいいいいいい!!? 色んな意味でやばいよー!! これログアウトした後どうなっちゃうのー!? それも心配だから早くゲームクリアしなきゃー!! くそー!! 絶対に許さないぞキャラハン教授! メルキオル! そして実はAIに変換されてた私を元にしたとは思えない変態の偽物ー!! んおおおおおおおおおおお!!
今回はここまで。アーヤちゃんのコネクトランクが(★1表でも裏でも有名な元学友)→(★2過去を気にしないビジネスパートナー)に上がりました!
次回はバーゼルで庭園所属の人たちが大暴れしたりゲームの世界のログインします。原作とは大幅に違う事件です。お楽しみに。
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